説明

分析方法

【課題】 有機インジウム化合物などの有機金属化合物を含む原料中の不純物について分析する分析方法を提供する。
【解決手段】 有機金属化合物を含む原料中の不純物について分析するときに、前記原料を脂肪族不飽和炭化水素を含む有機溶媒によって溶解することで溶液を得た後に、得られた溶液中に存在する前記不純物について、該不純物の種類および量の少なくとも一方を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物原料中の不純物について分析する分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、アルミニウム、ガリウム、亜鉛、インジウムなどの金属原子と、メチル基やエチル基などに含まれる炭素原子とが直接結合した化合物を、有機金属化合物と呼ぶ。所定の有機金属化合物を主成分として含む原料(以下では、「有機金属化合物原料」と称する)は、気相化学蒸着法を用いて製造される化合物半導体薄膜の原料などとして使用されている。化合物半導体薄膜は、発光ダイオードやガリウムヒ素半導体素子などの電子材料に用いられている。
【0003】
電子材料は、ごく微量の不純物の存在によってその性能が著しく低下する。たとえば、有機金属化合物原料中に不純物として有機ケイ素化合物が存在する場合があり、このような場合、ケイ素原子が化合物半導体薄膜中に混入することによって半導体中のキャリアが相殺され、発光ダイオードの発光強度は低下してしまう。したがって、電子材料の原料である有機金属化合物原料は、高純度である必要がある。
【0004】
また、電子材料を製造する上で、有機金属化合物原料の純度が保証されている必要がある。そのため、製造された有機金属化合物原料について分析を行い、純度を評価する必要がある。
【0005】
特許文献1には、トルエンやヘキサンなどの有機溶媒で有機金属化合物原料を希釈し、得られた希釈液を水中または酸水溶液中に滴下し、加水分解によって有機金属化合物を安定な物質に分解した後、水相および有機相にそれぞれ溶けている成分を分析する分析方法が記載されている。このように有機金属化合物原料を有機溶媒で希釈するのは、有機金属化合物は反応性が高いので、純度の高い有機金属化合物原料をそのまま用いて分析を行うのは危険であり、分析装置に悪影響を与えるからである。加水分解処理を行うのも同様の理由からである。
【0006】
有機金属化合物原料中の金属系不純物を分析する場合には、水相について、誘導結合型プラズマ発光分析法(ICP−AES)や誘導結合型プラズマ質量分析法(ICP−MS)による分析を行う。有機金属化合物原料中の有機不純物を分析する場合には、有機相について、ガスクロマトグラフ法(GC)やガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)による分析を行う。有機金属化合物原料中の塩素不純物などの陰イオン不純物を分析する場合には、水相について、イオンクロマトグラフ法による分析を行う。有機金属化合物原料中の酸素不純物を分析する場合には、トルエンなどの有機溶媒で希釈して加水分解を行う代わりに、重水素化された溶媒(重水素化溶媒)によって有機金属化合物原料を希釈し、得られた希釈液をNMR管に封入し、核磁気共鳴法(NMR法)による分析を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−10939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機アルミニウム化合物や有機ガリウム化合物は、トルエンやヘキサンなどの有機溶媒に溶解するけれども、有機金属化合物の中には、上記の有機溶媒には溶解し難いものもある。特に、有機インジウム化合物は、ヘキサンなどの飽和炭化水素には全く溶解しないので、加水分解できず、安全に分析を行うことができない。
【0009】
有機溶媒としてトルエンなどの芳香族炭化水素を用いた場合であっても、有機インジウム化合物は充分には溶解せず、有機溶媒中に分散して白濁状態となる。GCやGC/MSなどによる分析を行う場合、有機溶媒で希釈した後に加水分解処理を行うけれども、有機インジウム化合物が溶解せずに分散した状態で加水分解処理を行うと、加水分解が不充分になり、有機相が白濁状態になる。これを回避するためには、芳香族炭化水素に対する有機金属化合物原料の添加量を極めて少量にする必要があり、その結果、有機溶媒中での不純物濃度が低くなり、定量下限が高くなってしまう。
【0010】
また、芳香族炭化水素を用いて有機金属化合物原料の希釈を行い、加水分解処理した後に有機相についてGCやGC/MSによる分析を行う場合、安全上、芳香族炭化水素としてベンゼンを用いるのは避けることが好ましく、また、充分な感度を得るために、キシレンやメシチレンを用いるのも避けることが好ましい。したがって、芳香族炭化水素としては主にトルエンを用いることになる。GCやGC/MSでは、原則的に、成分のシグナル位置と成分の沸点とが対応するので、トルエンと不純物成分とで沸点が重なる場合には感度が低下し、不純物成分を測定することができなくなってしまう。
【0011】
また、有機インジウム化合物などの加水分解を行うときは、発熱反応であるので、安全上の観点、および反応熱によって低沸点の不純物成分が揮発散逸するのを防止するという観点から、加水分解反応をゆっくりと起こすことが望ましい。そのためには、有機金属化合物原料の希釈液を酸水溶液に滴下する必要がある。しかしながら、上記のように有機インジウム化合物が有機溶媒中に分散した状態では、滴下管が詰まったり、滴下管内に有機インジウム化合物が残留したりするので、希釈液を酸水溶液に滴下することができない。したがって、希釈液を酸水溶液に滴下する代わりに、希釈液に酸水溶液を滴下することになり、その結果、加水分解反応が急激に起こってしまう。
【0012】
また、有機金属化合物原料を希釈する有機溶媒として、脂肪族飽和炭化水素や芳香族炭化水素を用いると、有機インジウム化合物などが溶解しないので、NMR法を用いることができない。
【0013】
なお、有機金属化合物原料を希釈する有機溶媒としては、脂肪族飽和炭化水素および芳香族炭化水素以外にも、アルコール系のようなヒドロキシル基を含むものや、アセトンのようにカルボニル基を有するもの、エチルエーテルのようなエーテル結合を有するもの、アミン系のようなアミノ基を有するものなどが挙げられるけれども、これらは、有機インジウム化合物と反応して多量の反応熱、たとえば、配位熱を発生するので、有機インジウム化合物について用いることができない。特に、アミン系の有機溶媒は、水中で塩基として作用するので、有機溶媒による希釈後に酸水溶液による加水分解を行うと、該アミン系の有機溶媒も加水分解されてしまい、不純物の分析を行うことができなくなってしまう。
【0014】
本発明は、上記のような課題を解決するためのものであり、有機インジウム化合物などの有機金属化合物を含む原料中の不純物について分析する分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、有機金属化合物を含む原料中の不純物について分析する分析方法において、
前記原料を脂肪族不飽和炭化水素を含む有機溶媒に溶解させて溶液を得る溶解工程と、
前記溶解工程で得られた溶液中に存在する前記不純物について、該不純物の種類および量の少なくとも一方を測定する測定工程とを含むことを特徴とする分析方法である。
【0016】
また本発明は、前記有機金属化合物が、有機インジウム化合物であることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記有機インジウム化合物が、トリメチルインジウムまたはトリエチルインジウムであることを特徴とする。
また本発明は、前記脂肪族不飽和炭化水素がアルケンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、脂肪族不飽和炭化水素を含む有機溶媒を用いることで、脂肪族飽和炭化水素や芳香族炭化水素に充分に溶解しない有機金属化合物を、充分に溶解させることができる。したがって、本発明では、有機金属化合物原料中の不純物の、前記有機溶媒中での濃度を高めることができ、定量下限を低くすることができる。また、不純物の分析において、有機金属化合物を有機溶媒に溶解させた後に加水分解処理を行う必要がある場合、本発明では、有機金属化合物の加水分解反応を充分に生じさせることができるので、不純物の分析を安全に行うことができる。
【0019】
また本発明によれば、前記有機金属化合物は、有機インジウム化合物であり、たとえば、トリメチルインジウムやトリエチルインジウムである。これらの有機インジウム化合物は、脂肪族飽和炭化水素や芳香族炭化水素には充分に溶解しないけれども、脂肪族不飽和炭化水素には充分に溶解する。したがって、本発明では、有機インジウム化合物を含む原料(有機インジウム化合物原料)中の不純物の分析を充分に行うことができる。
【0020】
また本発明によれば、脂肪族不飽和炭化水素としてアルケンが用いられる。アルケンは有機インジウム化合物などの溶解度がより高いので、アルケンを有機溶媒に用いることで、有機インジウム化合物原料中の不純物の分析において比較的多量の有機インジウム化合物原料を使用できる。これによって、有機インジウム化合物原料中の不純物の、該アルケン中での濃度を高めることができ、定量下限を低くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、有機金属化合物を含む原料(有機金属化合物原料)中の不純物について分析する分析方法において、前記原料を脂肪族不飽和炭化水素を含む有機溶媒(脂肪族不飽和炭化水素溶媒)に溶解させて溶液(原料溶解溶液)を得る溶解工程と、前記溶解工程で得られた原料溶解溶液中に存在する前記不純物について、該不純物の種類および量の少なくとも一方を測定する測定工程とを含む分析方法である。本発明に用いる脂肪族不飽和炭化水素は、常温(10℃〜30℃)および常圧下(通常1気圧)において、液体である。
【0022】
ここで、脂肪族不飽和炭化水素とは、芳香族化合物以外の有機化合物のうち、炭素原子および水素原子のみからなる有機化合物であって、1つ以上の不飽和結合(炭素原子間の2重結合および炭素原子間の3重結合)を有する有機化合物である。具体的には、ヘキセンやヘプテン、オクテンのような炭素原子間2重結合を有するものや、ヘキシンのような炭素原子間3重結合を有するもの、また、その構造異性体や立体異性体である。
【0023】
上記測定工程では、たとえば、ICP−AES、ICP−MS、GC、GC/MS、イオンクロマトグラフ法、NMR法などを用いて、有機金属化合物原料中の不純物の、種類および量の少なくとも一方を測定することができる。
【0024】
上記分析方法は、有機金属化合物原料全般に用いることができるけれども、従来の分析方法において希釈用の有機溶媒として用いられる、ヘキサンおよびシクロヘキサンのような脂肪族飽和炭化水素や、トルエンおよびキシレンのような芳香族炭化水素には充分に溶解しない有機金属化合物を主成分とする有機金属化合物原料について使用されることが好ましい。有機金属化合物原料の主成分である有機金属化合物としては、特に、有機インジウム化合物、たとえば、化合物半導体の製造において有機金属気相成長法(MOCVD)の原料として用いられるトリメチルインジウム、トリエチルインジウムなどが好ましい。なお、有機インジウム化合物は、常温常圧下において、固体であり、また、昇華し易いという性質を有する。また、トリメチルインジウムの融点は89℃である。
【0025】
有機インジウム化合物は、脂肪族飽和炭化水素や芳香族炭化水素に充分に溶解しないのに対して、上記脂肪族不飽和炭化水素を含む有機溶媒には充分に溶解する。したがって、本発明では、有機インジウム化合物原料中の不純物の、該有機溶媒中での濃度を高めることができ、定量下限を低くすることができる。
【0026】
また、不純物の分析において、有機インジウム化合物を有機溶媒に溶解させた後に加水分解処理を行う必要がある場合、本発明では、有機インジウム化合物の加水分解反応を充分に生じさせることができるので、不純物の分析を安全に行うことができる。
【0027】
本発明で用いる脂肪族不飽和炭化水素としては、特にアルケンが好ましい。アルケンとは、上記の脂肪族不飽和炭化水素のうち、炭素原子間の2重結合を1つ有する有機化合物であり、化学式はC2n(nは2以上の自然数)で表される。アルケンは、鎖式のものであっても、環式のものであってもよい。より好ましいアルケンは、炭素原子数nが5以上12以下であり、具体的な物質名は、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、シクロヘキセンなどである。
【0028】
アルケンは有機インジウム化合物の溶解度がより高いので、アルケンを有機溶媒に用いることで、有機インジウム化合物を含む原料(有機インジウム化合物原料)中の不純物の分析において比較的多量の有機インジウム化合物原料を使用できる。これによって、有機インジウム化合物原料中の不純物の、該アルケン中での濃度を高めることができ、定量下限を低くすることができる。
【0029】
以下に、本発明の一実施形態として、有機インジウム化合物を含む原料中の不純物についての分析方法を示す。有機インジウム化合物は、酸素や水と激しく反応し、発火するので、大気中で扱うことはできず、不活性雰囲気下で扱う必要がある。そこで、有機インジウム化合物を取り扱う場合は、一般的に、グローブボックスを用い、該グローブボックス内の空気をアルゴン(Ar)などの不活性ガスで置換した上で取り扱う。
【0030】
まず、上記のようにAr置換を充分に行ったグローブボックス内で、有機インジウム化合物原料および脂肪族不飽和炭化水素溶媒を秤量、混合し、脂肪族不飽和炭化水素に有機インジウム化合物を溶解させ、溶液(原料溶解溶液)を得る。このとき、常温で液体である他の脂肪族不飽和炭化水素と混合してもよい。有機インジウム化合物原料の濃度が低過ぎると不純物の測定濃度が低下するので、有機インジウム化合物原料の濃度を1wt%以上にすることが好ましい。また、溶解後に加水分解処理を行う場合、有機インジウム化合物原料の濃度が高過ぎると危険であるので、有機インジウム化合物原料の濃度を20wt%以下にすることが好ましい。
【0031】
次に、上記原料溶解溶液に含まれる有機インジウム化合物の加水分解処理を行う。加水分解処理は、一般的に酸水溶液を用いて行う。酸水溶液としては、脂肪族不飽和炭化水素溶媒との混合が起こり難く、かつ、金属系不純物が析出し難いものを使用でき、たとえば、塩酸、硝酸、硫酸などを使用できる。加水分解処理では、上記原料溶解溶液に酸水溶液を滴下してもよいし、酸水溶液に上記原料溶解溶液を滴下してもよいけれども、急激な加水分解反応が起こらないように、酸水溶液に上記原料溶解溶液を滴下する方が好ましい。また、加水分解処理では、揮発不純物成分が流出するのを防ぐために、冷却しながら滴下することが好ましい。また、滴下によって発生する反応発生ガスの流出方向下流に、有機溶媒を張ったトラップ管を設置し、反応発生ガスとともに流出した揮発性不純物成分を捕集することが好ましい。滴下後は、加水分解反応を完結させるために30分〜4時間程度、滴下後の液体を攪拌する。
【0032】
次に、分液漏斗を用いて、滴下後の液体を、有機相(脂肪族不飽和炭化水素溶媒)と水相(酸水溶液)とに分離する。有機相に溶解する不純物である、炭化水素系不純物や有機ケイ素不純物などについては、該有機相に対して、ICP−AESや、ICP−MS、GCによる分析を行う。水相に溶解する不純物である金属系不純物などについては、該水相に対して、ICP−AESやICP−MSによる分析を行う。
【0033】
なお、GCによる分析を行う場合、成分のシグナル位置は、成分の沸点にほぼ依存する。そのため、単一の溶媒を用いて分析を行うと、溶媒成分のシグナル強度が大き過ぎるので、溶媒成分の沸点に近い沸点を有する他の成分についての分析が不可能になってしまう。そこで、一般的には沸点の異なる2種類の溶媒を用いて加水分解処理などを行い、GCによる分析を行う。本発明では、種類が豊富な脂肪族不飽和炭化水素を溶媒として用いるので、分析したい不純物成分に合わせて、該不純物成分の沸点とは異なる沸点を有するものを適宜選択できる。
【0034】
上記のような分析方法に代えてNMR法を用いて酸素不純物濃度を測定する場合は、まず、不活性ガス雰囲気下で、重水素化した上記脂肪族不飽和炭化水素溶媒と有機金属化合物原料とを混合し、有機金属化合物を重水素化した脂肪族不飽和炭化水素に溶解させ、原料溶解溶液を得る。このとき、有機金属化合物原料の濃度は、NMR法での感度を高めるために、5wt%以上60wt%以下であることが好ましい。次に、NMR管に上記原料溶解溶液を入れ、不活性ガスとともに封管した後、NMR法による分析を行う。なお、必要に応じて、封管されたものをさらにガラス管によって封管してもよい。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例と、比較のための比較例とを示す。
(実施例1)
充分にAr置換を行ったグローブボックス内で、トリメチルインジウム試料12.0gをポリプロピレン製の容器に入れ、1−ヘキセンを80ml加えて溶解させ、原料溶解溶液を得た。原料溶解溶液は外見上、透明であり、トリメチルインジウム試料は完全に溶解していた。これにより、トリメチルインジウムが1−ヘキセンに充分に溶解することが確認された。
【0036】
次に、トリメチルインジウムについて加水分解性を確認した。上記原料溶解溶液をグローブボックスから取り出し、Arにより充分に置換した滴下計量管に移した。滴下計量管の下部に、超微量分析用塩酸(和光純薬工業株式会社製)を純水によって4倍に希釈した塩酸水溶液80mlを設置した。上記原料溶解溶液を、上記塩酸水溶液に1時間半かけて滴下した。滴下中、塩酸水溶液は−10℃〜0℃に冷却したバスに浸し、マグネティックスターラーを用いて攪拌した。滴下中、加水分解反応によって発生するガスは、1−ヘキセンを30ml張り、−20℃〜0℃に冷却したバスに浸したガス吸収瓶に導き、吸収させた。滴下後は加水分解反応を完結させるために、滴下後の液体を2時間攪拌し続けた。加水分解反応時に異常反応などが起こることはなく、また、滴下後の液体を分液漏斗で分離したところ、水相と有機相との分離性は良好であった。これにより、トリメチルインジウムを1−ヘキセンに溶解させた後に加水分解処理を行うことで、充分にトリメチルインジウムを加水分解できることが確認された。
【0037】
次に、有機溶媒として1−ヘキセンを用いたときの、GC/MSにおける不純物成分の感度を調査した。1−ヘキセンに、一般的な有機ケイ素成分であるテトラメチルシラン、メチルトリエチルシラン、およびテトラエチルシランをそれぞれ0.1ppm、0.5ppm、1ppm溶解させた液を作製し、GC/MSにより分析した。その結果、各成分について感度は良好であった。したがって、テトラメチルシラン、メチルトリエチルシラン、およびテトラエチルシランについてGC/MSによって分析する場合は、1−ヘキセンを有機溶媒として使用できることが確認された。
【0038】
なお、GC/MSにおける分析条件は以下のとおりである。
カラム: 液層:ジメチルポリシロキサン
長さ:60m 内径:0.25mm 膜厚:0.25μm
オーブン:300℃(昇温速度:10℃/min.)
キャリアガス:He(1.0mL/min.)
注入量:1.0μL
スプリット比:20:1
【0039】
(実施例2)
1−ヘキセンの代わりに1−オクテンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、トリメチルインジウムが1−オクテンに充分に溶解することが確認された。また、トリメチルインジウムを1−オクテンに溶解させた後に加水分解処理を行うことで、充分にトリメチルインジウムを加水分解できることが確認された。このとき、水相と有機相との分離性は良好であった。さらに、テトラメチルシラン、メチルトリエチルシラン、およびテトラエチルシランについてGC/MSによって分析する場合は、1−オクテンを有機溶媒として使用でき、各成分についての感度が良好であることも確認された。
【0040】
(実施例3)
1−ヘキセンの代わりにシクロヘキセンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、トリメチルインジウムがシクロヘキセンに充分に溶解することが確認された。また、トリメチルインジウムをシクロヘキセンに溶解させた後に加水分解処理を行うことで、充分にトリメチルインジウムを加水分解できることが確認された。このとき、水相と有機相との分離性は良好であった。さらに、テトラメチルシラン、メチルトリエチルシラン、およびテトラエチルシランについてGC/MSによって分析する場合は、シクロヘキセンを有機溶媒として使用でき、各成分についての感度が良好であることも確認された。
【0041】
(比較例1)
充分にArによって置換を行ったグローブボックス内で、トリメチルインジウム試料12.0gをポリプロピレン製の容器に入れ、シクロヘキサンを80ml加えた。トリメチルインジウム試料は、シクロヘキサンに全く溶解せず、容器の底に溜まった状態となった。したがって、その後の加水分解操作は不可能であった。また、GC/MSにおける感度について調査は行わなかった。
【0042】
(比較例2)
充分にArによって置換を行ったグローブボックス内で、トリメチルインジウム試料12.0gをポリプロピレン製の容器に入れ、トルエンを80ml加えた。トルエン中には、トリメチルインジウム試料が溶解せずに分散し、白濁状態となった。
【0043】
この白濁状態の液体に対して、実施例1と同様に、塩酸水溶液の滴下を行った。これによって得られた有機相は、白濁状態であり、トリメチルインジウムの加水分解は、不充分であった。
【0044】
なお、実施例1と同様にして、有機溶媒としてトルエンを用いてGC/MSによる分析を行ったところ、テトラメチルシラン、メチルトリエチルシラン、およびテトラエチルシランの各成分について、感度が良好であることが確認された。
【0045】
(比較例3)
充分にArによって置換を行ったグローブボックス内で、トリメチルインジウム試料12.0gをポリプロピレン製の容器に入れ、キシレンを80ml加えた。キシレン中には、トリメチルインジウム試料が溶解せずに分散し、白濁状態となった。
【0046】
この白濁状態の液体に対して、実施例1と同様に、塩酸水溶液の滴下を行った。これによって得られた有機相は、白濁状態であり、トリメチルインジウムの加水分解は、不充分であった。
【0047】
なお、実施例1と同様にして、有機溶媒としてキシレンを用いてGC/MSを行ったところ、テトラメチルシランについては良好な感度が得られたが、メチルトリエチルシラン、およびテトラエチルシランについて、シグナルのすそが広がり、感度が良好ではなかった。
【0048】
このような結果などから、アルケンなどの脂肪族不飽和炭化水素は、トリメチルインジウムなどの有機インジウム化合物を充分に溶解できることがわかった。また、トリメチルインジウムなどの有機インジウム化合物を脂肪族不飽和炭化水素に溶解させた後に加水分解処理を行うことで、充分に有機インジウム化合物を加水分解できることもわかった。さらに、テトラメチルシラン、メチルトリエチルシラン、およびテトラエチルシランについてGC/MSによって分析する場合は、1−ヘキセン、1−オクテン、およびシクロヘキセンを有機溶媒として使用でき、各成分についての感度が良好であることもわかった。
【0049】
なお、脂肪族不飽和炭化水素は種類が豊富であるので、不純物成分の沸点が1−ヘキセン、1−オクテン、およびシクロヘキセンの沸点と重なる場合は、これら以外の脂肪族不飽和炭化水素を用いて、GCやGC/MSによる分析を行えばよい。
【0050】
また、上記の実施例では、GC/MSによる分析を行ったけれども、NMR法による分析を行う場合、たとえば、1−ヘキセンなどの脂肪族不飽和炭化水素を重水素化した溶媒に、有機金属化合物の試料を溶解させた後、NMR法による分析を行えばよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物を含む原料中の不純物について分析する分析方法において、
前記原料を脂肪族不飽和炭化水素を含む有機溶媒に溶解させて溶液を得る溶解工程と、
前記溶解工程で得られた溶液中に存在する前記不純物について、該不純物の種類および量の少なくとも一方を測定する測定工程とを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記有機金属化合物が、有機インジウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記有機インジウム化合物が、トリメチルインジウムまたはトリエチルインジウムであることを特徴とする請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記脂肪族不飽和炭化水素がアルケンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の分析方法。

【公開番号】特開2011−196956(P2011−196956A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67093(P2010−67093)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】