説明

分析用具

【課題】従来よりも高い感度及び信頼性を備えた分析用具を提供する。
【解決手段】被検物質の分析を行うために必要な情報を、電子授受量に相関させて得るための電子検出媒体と、前記電子検出媒体上に配置され、前記被検物質と前記電子検出媒体との間で電子を伝達するための電子伝達物質を含む試薬部とを備えた分析用具であって、前記電子伝達物質が、水溶性の芳香族複素環化合物を含み、且つ、金属錯体を含まないことを特徴とする、分析用具;及び該分析用具を用いた分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用具に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料、例えば血液中に含まれる種々の物質の測定方法として、例えば酵素を用いた酵素センサが知られている。一般的な酵素を使った電気化学式反応系を利用する酵素センサでは、酵素の触媒反応に基づき発生する電子の授受を電極表面で検知することでシグナルを得ている。また、検出方法が色素の光学的特性変化に依存する比色式の反応系であっても、基本的な反応は酵素の触媒反応(酸化還元)に由来しており、電子授受を伴うものである。これらの反応系において検出感度を支配するのは反応系における電子伝達効率である。酵素センサの感度を向上させるために、電子伝達効率を向上させた種々の技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、核酸のような螺旋構造をもつ物質を導電性ポリマーとして電極上に修飾することで、ターゲットとする酵素分子との電子授受を促進させたセンサが開示されている。
また、電極と酵素の電子授受は酵素の活性中心を介して行われるため、活性中心が存在する部位が電極側に対してどのような配置であるかが重要である。酵素の活性中心の配向性に対する影響を小さくして効率よく電子授受を行うために、自身が酸化還元することで電子を運ぶ電子伝達メディエータのような分子、例えば、鉄、銅、オスミウム、ルテニウムなどの遷移金属を活性中心にもつ錯体が知られており、これらを用いたセンサが知られている(例えば、特許文献2及び3)。
【0004】
金属錯体を使わない酵素電極として、ポリピロールを用いた系が知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)。モノマーであるピロールは難水溶性物質であることから、酵素液と直接混合して電極材料の表面に酵素電極を作製することができない。このため、例えば、非特許文献1及び非特許文献2では、トラックエッチド膜内で塩化鉄とピロール溶液とを用いて重合反応させてから、酵素液にその膜を含浸させて電極としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−514305号公報
【特許文献2】特表2006−509837号公報
【特許文献3】特表2005−520172号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biosensors & Bioelectronics, Vol.7, (1992) pp.461-471
【非特許文献2】Sensors and Actuators B, Vol.106, (2005) pp.289-295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、試料中の被検物質を検出するためのセンサ等の分析用具の感度としては改善の余地がある。センサにおいては、検出感度が高いほど試料中の被検物質が微量であっても検出可能となるだけでなく、センサ自体の小型化が必要な際にも有利となる。また、電子伝達メディエータとして用いられている金属錯体は、一般に高価な材料である上に、それ自身が酸化還元されるため物質として不安定となる場合や反応電位に干渉する場合がある。
また、ポリピロールを用いた酵素電極では、作製が複雑である。更に、水系環境下でポリピロールに電圧印加を継続するとポリピロールの分解が生じることがある(非特許文献2参照)ため、ポリピロールを用いた酵素電極は、長期間での使用の点で信頼性に欠ける場合がある。
このように、安定性がある電子伝達物質を用いることによって従来よりも高い感度及び信頼性を備えた分析用具が求められている。
【0008】
従って、本発明は、従来よりも高い感度及び信頼性を備えた分析用具及びこれを用いた分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の各態様は以下の分析用具及び分析方法を提供する。
[1] 被検物質の分析を行うために必要な情報を、電子授受量に相関させて得るための電子検出媒体と、
前記電子検出媒体上に配置され、前記被検物質と前記電子検出媒体との間で電子を伝達するための電子伝達物質を含む試薬部とを備えた分析用具であって、
前記電子伝達物質が、水溶性の芳香族複素環化合物を含み、且つ、金属錯体を含まない、ことを特徴とする、分析用具。
[2] 前記水溶性の芳香族複素環化合物が、ピリジン、イミダゾール及びこれらの誘導体からなる群より選択された少なくとも1つである[1]に記載の分析用具。
[3] 前記水溶性の芳香族複素環化合物の分子量が1000以下である[1]又は[2]に記載の分析用具。
[4] 前記試薬部は、前記被検物質との間で電子を授受する電子授受化合物を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の分析用具
[5] 前記試薬部は、前記被検物質との間で電子を授受する電子授受化合物を含み、当該電子授受化合物が、酸化還元酵素である[1]〜[4]のいずれかに記載の分析用具。
[6] 前記試薬部は、前記被検物質との間で電子を授受する電子授受化合物を含み、当該電子授受化合物が酸化還元酵素であり、前記電子伝達物質の濃度が、前記電子検出媒体と前記電子授受化合物の間で電子を伝達可能な濃度である[1]〜[5]のいずれかに記載の分析用具。
[7] 前記電子伝達物質の濃度が、前記試薬部の全質量の10質量%〜60質量%である[1]〜[6]のいずれかに記載の分析用具。
[8] 前記電子伝達物質が、ピリジン、及びアミノメチルピリジンの少なくとも一方を含む[1]〜[7]のいずれかに記載の分析用具。
[9] 前記試薬部が、架橋化物である[1]〜[8]のいずれかに記載の分析用具。
[10] 前記試薬部が、グルタルアルデヒド、カルボジイミド化合物及びスクシンイミドエステルからなる群より選択された少なくとも1種による架橋化物である[1]〜[9]のいずれかに記載の分析用具。
[11] 前記電子検出媒体は、導体である、[1]〜[10]のいずれかに記載の分析用具。
[12] 前記被検物質は、糖類である、[1]〜[11]のいずれかに記載の分析用具。
[13] [1]〜[12]のいずれかに記載の分析用具を用いて、被検物質の電子授受量から、該被検物質の分析を行うために必要な情報を得ることを含む分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも高い感度及び信頼性を備えた分析用具及びこれを用いた分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる分析用具の概念図である。
【図2】本発明の実施例1における酵素電極のグルコース応答電流を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2における酵素電極のグルコース応答電流を示すボルタモグラム(酸化波)である。
【図4】本発明の実施例3における酵素電極のグルコース応答電流を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例4における酵素電極の連続測定における安定性を確認したグラフである。
【図6】本発明の実施例5における酵素電極のグルコース応答電流を示すグラフである。
【図7】本発明の比較例1における酵素電極のグルコース応答電流を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の分析用具は、被検物質の分析を行うために必要な情報を、電子授受量に相関させて得るための電子検出媒体と、前記電子検出媒体上に配置され、前記被検物質と前記電子検出媒体との間で電子を伝達するための電子伝達物質を含む試薬部とを備えた分析用具であって、前記電子伝達物質が、水溶性の芳香族複素環化合物を含み、且つ、金属錯体を含まない、ことを特徴とする分析用具ある。
また、本発明の分析方法は、前記分析用具を用いて、被検物質の電子授受量から、該被検物質の分析を行うために必要な情報を得ることを含むものである。
【0013】
本発明によれば、試薬部の電子伝達物質が水溶性の芳香族複素環化合物(以下、単に「芳香族複素環化合物」ということがある)を含むので、被検物質と電子検出媒体との間で効率よく電子が伝達される。前記芳香族複素環化合物は、単に電子を伝達の場として機能していればよく、金属錯体のようにそれ自身が酸化還元される必要はないため、系の反応電位に対する依存性もなく化合物として安定性がよいと考えられる。この結果、このような水溶性の芳香族複素環化合物を試薬部に含む本発明にかかる分析用具は、例えばセンサなどに適用した場合に、従来よりも高い感度及び信頼性を備えることができる。
また、このような分析用具を用いることにより、被検物質の分析を従来よりも感度よく及び信頼性高く行うことができる。
【0014】
即ち、前記水溶性の芳香族複素環化合物が試薬部内に存在する場合、前記芳香族複素環化合物が互いに近接し、該芳香族複素環化合物の面に対して直交するように存在するπ電子の電子雲が電子伝達の経路になり、電子が効率よく伝達されると推測される。また、前記水溶性の芳香族複素環化合物自身の酸化還元反応を伴わないことは、非局在化したπ電子の電子雲が前記電子伝達の経路として利用されるためと推測される。
【0015】
これを、図1を参照して、本発明における分析用具を、酵素電極として用いた場合を例に説明する。ただし、本発明は以下の理論に拘束されない。
酵素電極10における電子検出媒体としての電極12上には、試薬部としての電子授受層14が積層されており、この電子授受層14には、電子授受化合物、例えば酸化還元酵素16が、互いに独立して存在している。酸化還元酵素16の活性中心18は、多くの場合、酸化還元酵素16の一部に局在しているため、電極12に対して同一方向に配向していない。即ち、ある酸化還元酵素16の活性中心18は、電極12の近傍に配置され、また他の酸化還元酵素16の活性中心18は、電極12よりも遠いところに配置されている。このため、酸化還元酵素16の活性中心18と電極12との間の電子授受(図1中、矢印の方向)の距離にはばらつきがあると考えられる。酸化還元酵素16の活性中心18から電極12までの距離が遠い場合には、酸化還元酵素16単独では、酸化還元酵素16と電極12との間での電子の授受が困難となる。
【0016】
本発明では、芳香族複素環化合物20(図1中では含窒素芳香族複素環化合物)は、電子授受層14中で、酸化還元酵素16と電極12との間に存在すると考えられる。このため、酸化還元酵素16の活性中心18と電極12との距離が大きい場合でも、その間に、芳香族複素環化合物20が存在すると、芳香族複素環化合物20が酸化還元酵素16と電極12との隙間に入り込み、且つ、互いに重なり合って、芳香族複素環化合物20のπ電子による電子伝達経路が構築されると推測される。
このような電子伝達経路が構築されることによって、電極12に近い位置に存在する酸化還元酵素16と電極12との間のみならず、電極12からより遠い位置に存在する酸化還元酵素16と電極12との間でも、芳香族複素環化合物20による電子伝達経路を経て電子が授受可能となる。
この結果、被検物質の存在量に応じた電子が、酸化還元酵素16と電極12との間で授受され、図示しない検出系により、試料中の被検物質の存在量に換算されて、被検物質の有無及びその量が検出可能となる。
【0017】
前記分析用具において、前記試薬部における前記電子伝達物質の濃度は、前記電子授受化合物が存在する場合、前記電子授受化合物と電子検出媒体との間で電子を伝達可能な濃度であればよく、例えば、前記試薬部の全質量の10質量%〜60質量%としてもよい。前記電子伝達物質の濃度を、このような濃度とすることにより、前記電子伝達物質中の前記芳香族複素環化合物が、前記被検物質の周囲で互いに近接して、より良好な電子伝達が可能となる厚みの電子伝達経路を構築しうる。この結果、より感度が良好な分析用具とすることができる。
【0018】
前記分析用具において前記芳香族複素環化合物は、含窒素芳香族複素環化合物としてもよく、例えばピリジン、イミダゾール及びこれらの誘導体からなる群より選択された少なくとも1つであることが好ましい。前記芳香族複素環化合物を、含窒素芳香族複素環化合物、例えばピリジン、イミダゾール及びこれらの誘導体からなる群より選択された少なくとも1つとすることにより、より感度が高い分析用具とすることができる。
【0019】
前記分析用具において前記試薬部は、被検物質との間で電子を授受する電子授受化合物を含むものであることが好ましく、該電子授受化合物は、例えば酸化還元酵素である。前記試薬部が前記電子授受化合物、例えば酸化還元酵素を含むことにより、簡便に、且つ天然由来成分又は生体由来成分をより高い感度で検出することができる。また、前記分析用具において被検物質は糖類とすることができ、これにより、糖類の検出を感度よく行うことができる。
【0020】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0021】
本発明の分析用具は、被検物質の分析を行うために必要な情報を、電子授受量に相関させて得るための電子検出媒体と、前記電子検出媒体上に配置され、前記被検物質と前記電子検出媒体との間で電子を伝達するための電子伝達物質であって、水溶性の芳香族複素環化合物を含む該電子伝達物質を含有する試薬部と含む。ただし、前記電子伝達物質は、金属錯体を含まない。
前記電子検出媒体は、被検物質の分析を行うために必要な情報を、電子授受量に相関させて得るためのものであり、電子検出媒体では、好ましくは、被検物質との間で電子を授受可能な導電層と、電子検出媒体の物理的な特性、例えば形状を画定する又は剛性を確保するための支持部材とがこの順で積層されている。
また、前記試薬部は、前記電子検出媒体上に配置され、被検物質と前記電子検出媒体との間で電子を伝達するための電子伝達物質を含んでいる。前記試薬部において電子伝達物質は、前記電子検出媒体上に配置された層に含有されていてもよい。前記試薬部に相当し、電子伝達物質を含有する層を、本明細書では「電子授受層」と称する。
【0022】
[電子検出媒体]
(1)支持部材
前記支持部材の材料としては、絶縁性を有する材料又は導電性を有する材料のいずれであってもよい。絶縁性を有する支持部材としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリスチレン、ジュラコン(ポリプラスチック社の登録商標)などの、商業的に入手可能なエンジニアプラスチックを使用することができる。
導電性を有する支持部材は、例えば導電性炭素紙や炭素繊維のウエッブ、あるいは板状や棒状や薄膜状の金属(例えば金や白金)を使用することができる。導電性を有する支持部材を使用する場合には、この支持部材を、分析用具からの出力を取り出すためのリードとして機能させてもよい。
【0023】
支持部材は、測定時に十分な剛性を有するものあればよく、可撓性を有していても有していなくてもよく、支持部材の形状にも特に制限はない。支持部材としては、例えばフィルムあるいはロッド状としてもよく、目的に応じて種々に変更可能である。
支持部材の厚みとしては、前記分析用具の用途によって異なるが、一般に、0.1mm〜1mmとすることができるが、これに限定されない。
【0024】
(2)導電層
電子検出媒体における導電層は、支持部材上に配置されて後述する電子授受層との間で電子を授受可能な導電性物質を含む。このような導電性物質を含むことにより前記電子検出媒体は導体となり、電子の検出を電気的な信号として容易に検出可能となるなどの利点がある。
前記導電性物質としては、特に制限はなく、電子の授受が可能な公知の物質を適用することができる。このような物質としては、炭素材料、金属、金属担持炭素等を挙げることができ、これらを1種又は複数種を組み合わせて使用することができる。
前記導電性物質として用いられる炭素材料は、炭素粒子又は、炭素粒子が高い稠密性にて配列または集積した構造体の形態で使用できる。炭素粒子としては、例えば、活性化炭素、グラファイト、カーボンブラック、あるいはダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブやフラーレンに代表される高次構造体を形成する粒子を挙げることができる。前記炭素粒子が高い稠密性にて配列または集積した構造体としては、グラッシーカーボンやパイロリティックグラファイトカーボン、プラスチックフォームドカーボンなどが挙げられる。このような炭素材料を用いることにより、例えば、望ましい形に成型することができるなどの利点が得られる。炭素粒子としては、例えば一次粒径が3nm〜150nmの範囲にあるものが使用され、より好ましくは3nm〜50nmのものが使用される。このような炭素粒子の粒子経の導電性物質は、電子検出媒体の比表面積を上げる、または微細構造が電子授受において立体的に相互作用しやすくなる場合がある等の利点を有する。
【0025】
前記導電性物質としての金属は、導電層中で、金属粒子として存在してもよい。金属粒子が用いられる場合、金属粒子は、炭素粒子とは独立に存在してもよく、炭素粒子に担持させてもよい。
このような金属としては、典型的には、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、又はオスミウム(Os)などの貴金属を挙げることができ、これらの貴金属は単独で使用しても、複数種を併用してもよい。好ましくは、白金を単独で、または白金と他の種類の貴金属が併用して使用される。
【0026】
金属を金属粒子として炭素粒子に担持させる場合、その粒子サイズは炭素粒子に適切に担持される大きさ、例えば1nm〜20μmの範囲、好ましくは1nm〜4nmの範囲のコロイドレベルの大きさとされる。また、炭素粒子に担持させる金属粒子の量は、炭素粒子の100質量部に対して、例えば0.1質量部〜60質量部とされる。炭素粒子に担持させる金属粒子の量を0.1質量部以上とすることにより、感度がより向上させることができ、一方、60質量部以下であれば、例えば、使用する金属の量と感度の関係がより良好であり、経済的な利点を有する。好ましくは、炭素粒子に担持させる金属粒子の量は、炭素粒子の100質量部に対して0.5質量部〜40質量部とされる。
【0027】
なお、導電層に含有される金属は、炭素粒子とは別の層の構成成分として存在してもよい。この場合の導電層は、炭素粒子を有する層(炭素含有層)と金属元素を有する層(金属含有層)とで構成される。金属含有層に含まれ得る金属の種類は、上述したものをそのまま適用することができる。このような金属含有層は、好ましくは、支持部材と炭素含有層との間に配置する。
なお、前述した炭素材料及び金属の形状は、特に限定されず、粒子形状であってもよく、その他の形状、例えば、板状、棒状、薄膜状などの形状であってもよい。なお、炭素形状及び金属は互いに同一の形状であってもよく、異なる形状であってもよい。
【0028】
導電層の厚みとしては、前記分析用具の用途によって異なるが、一般に、0.01μm〜10μmとすることができるが、これに限定されない。
【0029】
[電子授受層]
電子授受層は、前記電子伝達物質を含有し、好ましくは、被検物質との間で電子を授受する電子授受化合物を更に含む。
前記電子授受層は、前記電子検出媒体との間で電子の授受が可能な位置に配置されていればよく、電子検出媒体と接触している場合に限定されず、例えば、電子伝達を妨げない他の層を、電子授受層と電子検出媒体との間に介在させていてもよい。
なお、電子授受層の厚みとしては、前記分析用具の用途によって異なるが、一般に、0.1μm〜5μmとすることができるが、これに限定されない。
【0030】
(1) 電子授受化合物
分析用具における電子授受化合物としては、前記被検物質の存在量に応じた電子を該被検物質との間で授受する化合物であればよい。このような電子授受化合物の例としては、被検物質との間での酵素反応等に関与する化合物を挙げることができる。これらの電子授受化合物の選択については、分析用具の用途に応じて適宜選択することができる。
【0031】
電子授受化合物としては、酵素であることが好ましく、酸化還元酵素であることが更に好ましい。電子授受化合物として酵素を用いた分析用具では、酵素−基質の関係に基づいて、被検物質と電子授受化合物との間で授受される電子を被検物質の存在量に応じた電子として簡便に且つ容易に把握することができる。このため、前記分析用具は、様々な物質が混在した試料の中で、酵素の特異的な反応によって特定の被検物質の濃度を定量的に測るのに適している。
【0032】
酸化還元酵素は、酸化還元反応を触媒する酵素であり、同一分析用具中に、被検物質の種類及び目的とする検出の内容に応じて、単独の酵素又は複数の異なる酵素の組合せを用いることもできる。酸化還元酵素の例としては、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ガラクトースオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、D−又はL−アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、サルコシンオキシダーゼ、L−乳酸オキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、チトクロムオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、17Bヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、エストラジオール17Bデヒドロゲナーゼ、アミノ酸デヒドロゲナーゼ、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ、3−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、チトクロムオキシドレダクターゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ等が挙げられる。
中でも、糖類の酸化還元酵素であることが好ましく、糖類の酸化還元酵素の例としては、例えば、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ガラクトースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼを挙げることができる。
これらの酵素の使用量としては、特に制限はなく、適宜設定することができる。
【0033】
(2)電子伝達物質としての芳香族複素環化合物
電子授受層に含まれる芳香族複素環化合物は、水溶性の芳香族複素環化合物である。水溶性の芳香族複素環化合物を電子授受層に含むことにより、前記電子授受化合物及び前記電子検出媒体の間で電子を伝達することが可能となる。金属錯体ではなく、このような芳香族複素環化合物を電子授受層に含有させることにより、水系環境下でも良好な安定性を有し、より信頼性高く、感度のよい分析用具を提供することができる。また、その他にも、系の反応電位に依存しない等の利点がある。
なお、本発明における水溶性とは、20℃の環境下で、20℃の純水に対して、質量比で6%以上溶解することを意味する。
【0034】
水溶性の芳香族複素環化合物は、芳香族複素環を有することにより、π電子の電子雲を形成し、電子を伝達することができる。芳香族複素環は、五員環又は六員環であってもよく、縮合又は非縮合の芳香族複素環とすることができる。また、ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子等を挙げることができる。
【0035】
前記芳香族複素環化合物は、化合物全体で示される水溶性が損なわれない限り、該芳香族複素環に置換基を有していてもよい。
前記芳香族複素環化合物の芳香族複素環の前記置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、等を挙げることができる。
これらの置換基は、更に置換基を有していてもよく、このような置換基としては、芳香族複素環の置換基として例示したものを挙げることができる。
【0036】
前記芳香族複素環化合物としては、感度等の観点から、含窒素芳香族複素環化合物であることが好ましく、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、プリン、又はこれらの誘導体を挙げることができる。中でも、感度等の観点から、ピリジン、イミダゾール又はそれらの誘導体であることが好ましく、ピリジン又はその誘導体であることがより好ましい。このようなピリジン又はその誘導体としては、ピリジン、アミノメチルピリジン等を例示することができ、これらを単独で又は組み合わせて用いることができる。前記芳香族複素環化合物としては、中でも、分析用具の感度の観点等の観点から、アミノメチルピリジンが更に好ましい。
【0037】
前記芳香族複素環化合物は、分子量1000以下の芳香族複素環化合物であることが好ましく、分子量800以下の芳香族複素環化合物であることがより好ましい。このため、分子量1000を超える芳香族複素環化合物、例えば重合体は、本発明における芳香族複素環化合物には含まれないことが好ましい。分子量1000以下の芳香族複素環化合物とすることにより、電子授受化合物と電子検出媒体との間での電子の伝達がより良好にすることができる。
【0038】
前記芳香族複素環化合物は、前記電子授受層において、前記電子授受化合物と電子検出媒体との間で電子を伝達可能な濃度で含まれていればよい。ここで、「電子授受化合物と電子検出媒体との間で電子を伝達可能な濃度」とは、π電子による電子雲が電子授受層の内部において、少なくとも電子授受化合物と電子検出媒体との間に非局在化して存在する濃度を意味する。従って、前記分析用具において、前記電子授受層がその一部分でのみ電子検出媒体と接触している場合には、電子検出媒体と接触している領域の電子授受層において、電子授受化合物と電子検出媒体との間で電子を伝達可能な濃度とすればよく、電子授受層全体における濃度でなくてもよい。
【0039】
前記電子授受化合物と電子検出媒体との間で電子を伝達可能な濃度は、具体的には、使用される電子授受化合物の種類又は濃度などによって変更可能であるが、一例として、電子授受層(試薬部)の全質量(電子授受層全体が電子検出媒体と接触している場合)に対して10質量%以上あればよく、10質量%〜60質量%とすることができ、好ましくは、15質量%〜50質量%とすることができる。本発明における前記芳香族複素環化合物の濃度は、電子検出媒体上に展開した、電子授受化合物及びその他の添加物と合わせて乾燥させたときの質量を電子授受層の全質量とし、当該全質量に対する質量%を意味する。
【0040】
前記芳香族複素環化合物は、架橋処理またはポリマーなどによって内包・被覆されていてもよい。このような処理を行うことにより、前記芳香族複素環化合物は、前記芳香族複素環化合物同士又は電子授受化合物との間で架橋され、電子授受層内で、長期間にわたって保持可能となる。このような架橋化物となった電子授受層(試薬部)を有する分析用具とすることにより、例えば、長期間にわたる連続的な測定の場合でも、導電層及び被検物質の周辺に前記芳香族複素環化合物が留まることが可能となり、導電層又は被検物質との相対位置をより良好に保ち、例えば、安定な出力を保持できるなどの利点が得られる。
【0041】
このような架橋処理としては、タンパク質等の架橋に通常用いられるものであればよく、架橋処理に用いられる架橋剤の例としては、例えば、グルタルアルデヒド、カルボジイミド化合物やスクシンイミドエステル等を挙げることができる。これらの架橋剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
架橋剤の添加量は、通常用いられる量であれば特に制限はなく、例えば、架橋対象物に対して10倍以上のように十分な量の範囲で適宜設定することができる。
【0042】
前記電子授受層における電子伝達物質は、前記芳香族複素環化合物を含むため、金属錯体を含まないことを要する。本発明において前記電子伝達物質に含まれない金属錯体としては、従来、いわゆる電子伝達メディエータとして使用されていた金属錯体を挙げることができる。このような金属錯体としては、例えば、オスミウム錯体等を挙げることができる。
【0043】
[その他の層]
本発明にかかる分析用具は、前記電子検出媒体と前記電子授受層との間での電子の授受可能である限り、他の層をいずれの位置に有していてもよい。このような他の層の例としては、例えば、保護層、物質透過制限層、又は電子検出媒体表面に修飾する機能性層等を挙げることができ、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0044】
前記保護層としては、電子授受層の表面、又は分析用具の表面を保護可能であれば、特に制限はない。保護層の例としては、セルロースアセテートポリマー、ポリウレア、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、脂質二重膜等を挙げることができる。
保護層の厚みには特に制限はなく、例えば、0.5μm〜5μmとしてもよい。
【0045】
前記分析用具における物質透過制限膜としては、被検物質の検出濃度域を調整するためのものであり、このような物質透過制限膜の例としては、ポリウレア、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
物質透過制限膜の厚みには特に制限はなく、例えば、0.5μm〜5μmとしてもよい。
電子検出媒体表面に修飾する機能性層としては、導電性部材の反応性を向上するためのものであり、このような機能性層の例としては、チオール化合物やシランカップリング剤や脂質二重膜等を挙げることができる。
機能性層の厚みには特に制限はなく、例えば、0.001μm〜5μmとしてもよい。
【0046】
[被検物質]
分析用具の検出対象としての被検物質は、電子授受化合物に対して、その存在量に応じた電子を授受可能な物質であれば、特に制限はなく、電子授受化合物の種類に応じて適宜設定される。
例えば、分析用具を臨床的用途のために用いる場合、臨床的試料中に含まれる各種基質が、被検物質となりうる。このような臨床的試料としては、例えば、血液、血清、血漿、間質液、尿、汗、涙、および唾液を挙げることができる。基質としては、グルコースや尿酸、糖化タンパク質が代表的である。
また、例えば分析用具を、非臨床的用途、例えば、発酵の監視、工業的プロセスの制御又は環境の監視(例えば、液体及び気体の流出及び汚染の抑制)、食物の試験、獣医学に利用する場合には、発酵液、流出液、廃液、食物、乳汁等の非臨床的試料に含まれる各種基質が、被検物質となりうる。
【0047】
[分析用具の製造方法]
分析用具の製造方法としては、特に制限はなく、上述した各層又は各部材を配置することができるものであれば、いずれの方法も適用することができる。
例えば、支持部材上に、導電層を構成する各組成の混合物を成型、賦形あるいは印刷することにより導電層を積層して電極を形成させた後、電子授受層を構成する酵素及び芳香族複素環化合物を含む反応混合液を積層すればよい。
【0048】
また、電子授受層中の電子授受化合物及び芳香族複素環化合物に対して架橋処理を行う場合には、架橋剤及び芳香族複素環化合物の種類によって異なるが、反応混合物中に架橋剤を含有させて電子授受層を形成すると同時に架橋を行ってもよく、前記反応混合物とは別の処理液に架橋剤を含有させて、上述したように架橋前の分析用具を得た後に、架橋剤を含む処理液を添加、噴霧、浸漬等により電子授受層に対して適用して、架橋処理を行ってもよい。
【0049】
印刷媒体としては、例えばフィルム状や板状のものが使用され、分析用具は印刷媒体から剥離させて使用してもよく、印刷媒体に支持させたまま使用することもできる。後者の場合、印刷媒体は、支持部材としての役割を果すこととなる。印刷媒体としては、混合物の印刷箇所に凹部が形成されたものであってもよい。この場合には、マスクを省略することができる。
製造時における乾燥は、酵素の実質的な失活が起こる温度より低い温度で実施する必要があることは言うまでもない。
【0050】
本発明の分析用具は、基本的には、混合物の形成、成形、乾燥といった簡易な工程のみにより形成することができる。すなわち、高い大量生産技術を利用でき、使い捨て分析用具を製造できる程度に製造コストを低くすることが望める。
【0051】
本発明の分析方法は、前記分析用具を用いて、被検物質の電子授受量から、該被検物質の分析を行うために必要な情報を得ること(情報取得工程という)を含む。本分析方法は、前記分析用具を用いるので、感度よく且つ信頼性が高く被検物質の分析を行うための情報を得ることができる。
前記分析方法における情報取得工程では、被検物質の電子授受量から、分析を行うために必要な情報を得る。ここでの「必要な情報」には、例えば、被検物質の量、種類、酸化還元状態、及び被検物質の経時的な変化等が挙げられる。
【0052】
前記分析用具では、電子検出媒体として導電層を有する形態としたが、これに限定されない。例えば、発色剤を含んだ電子検出媒体としてもよい。
このような発色剤を含む電子検出媒体とする場合には、電子検出媒体は、試料に対して難溶性の多孔質体に、発色剤を保持させた構成とするのが好ましい。多孔質体としては、典型的には、ポリアクリルアミド又はポリビニルアルコール等のゲル状物を挙げることができる。一方、発色剤としては、例えばMTT(3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide)、INT(2-(4-lodophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-phenyl-2H-tetrazolium chloride) 、WST−4(2-(4- lodophenyl) -3-(2,4-dinitrophenyl)-5-(2,4- disulfophenyl)-2H-tetrazolium,monosodium salt)、又は4AA(4-Aminoantipyrine)等が挙げられる。
【0053】
[用途]
本発明における分析用具は、電子伝達物質により電子検出媒体へ電子を効率よく伝達することができる等の利点を有するため、種々の用途に適用が可能である。このような用途の例としては、例えば、酵素電極や、発色剤等を利用した比色式の反応系による物質の測定などをプラットフォームとしたセンサ、あるいはバイオ燃料電池の反応系において利用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0055】
[実施例1]
(1)酵素電極の作製
酵素電極は、ポリイミド(PI)フィルム上にPt(Au)をスパッタして、白金層を有する基材を得た。電極材料としては、ケッチェンブラック(ライオン(株)製)40wt%、バインダーとしてのポリエステル樹脂40wt%、および溶剤としてのイソホロン20wt%を混合した印刷用インクを用いた。印刷用インクを、ポリイミドフィルムの表面へ、厚みが10μmになるように印刷した。
次いで、野生型GDH1250U/ml溶液(0.1M MESバッファー溶液)、安定化剤として1%アドニトール、及び、水溶性の芳香族複素環化合物として1wt%の4−アミノメチルピリジンを含む酵素液を調製した。
調製した酵素液を、電極表面に精密シリンジを用いて滴下し、23℃、相対湿度<8%の環境下で4時間放置して、乾燥させて電極とした。
なお、比較用の酵素電極として、4−アミノメチルピリジンを添加しない以外は上記と同様にして作製した比較用酵素電極を得た。
【0056】
(2)酵素電極による測定
上記で得た酵素電極を用いて、23℃、+0.6V(vs. Ag/AgCl)にて、0.1Mリン酸バッファー(pH7.4)中のグルコース(100mg/dL、又は600mg/dL)に対する電極応答をアンペロメトリー法により検出した。結果を図2に示す。図2において、黒丸は17%の4−アミノメチルピリジンを添加した酵素電極を用いた測定、黒三角は4−アミノメチルピリジンを添加しない比較用酵素電極を用いた測定をそれぞれ示す。
【0057】
図2に示されるように、4−アミノメチルピリジンを含む酵素電極のグルコース応答電流は、未添加の比較用の酵素電極の応答電流に比べ、約13倍もの高い電流密度が検出された。このことは、4−アミノメチルピリジンを前記芳香族複素環化合物として用いることにより、感度が高まることを示している。
【0058】
[実施例2]
(1)酵素電極の作製
酵素電極は、ポリエーテルイミド(PEI)フィルム上にAuをスパッタして、金層を有する基材を得た。電極材料としては、ケッチェンブラック(ライオン(株)製)40wt%、バインダーとしてのポリエステル樹脂40wt%、および溶剤としてのイソホロン20wt%を混合した印刷用インクを用いた。印刷用インクを、ポリエーテルイミドフィルムの表面へ、厚みが10μmになるように印刷して、作用極とした。
次いで、野生型GDH2500U/ml溶液(0.1M MESバッファー溶液)、安定化剤として2%スクロース、架橋剤として1v/v%グルタルアルデヒド、及び、前記芳香族複素環化合物として1%の4−アミノメチルピリジンを含む酵素液を調製した。
【0059】
調製した酵素液を、電極表面に精密シリンジを用いて滴下し、常温(23℃)常湿(40%RH)で10分間放置して、表面を乾燥させた。次いで、40℃で15分間熱処理を行って乾燥させ、23℃、<2%RHの環境下で2時間放置して、乾燥させて酵素電極とした。
なお、比較用の酵素電極として、4−アミノメチルピリジンを添加しない以外は上記と同様にして作製した比較用酵素電極を得た。
【0060】
(2)酵素電極による測定
上記で得た酵素電極を用いて、0.1Mリン酸バッファー(pH7.4)中のグルコースに対する電極応答をボルタンメトリーにより検出した。測定温度は37℃とし、作用電極として上記(1)で作製した酵素電極、対電極としてPt、及び参照電極としてAg/AgClをそれぞれ使用し、掃引速度を20mV/秒として、ボルタンメトリーを行った。グルコース濃度は、100mg/dL又は添加なしとした。
結果を図3に示す(3回目のスキャンを表示)。図3において、白菱形は4−アミノメチルピリジンを添加した酵素電極を用いたグルコース100mg/dLの場合の測定結果、白四角は、4−アミノメチルピリジンを添加した酵素電極を用いたグルコース0mg/dLの場合の測定結果、白丸は4−アミノメチルピリジンを添加しない比較用酵素電極を用いたグルコース100mg/dLの場合の測定結果、白三角は4−アミノメチルピリジンを添加しない比較用酵素電極を用いたグルコース0mg/dLの場合の測定結果を、それぞれ示す。
【0061】
図3に示されるように、グルコースの酸化が起こり始める電位は4−アミノメチルピリジンの添加の有無に関わらず、−0.2V付近であり、他の電位領域において特殊なピークも見られないことから、4−アミノメチルピリジン自身の酸化還元は起きていないと考えられる。
従って、4−アミノメチルピリジンを添加した酵素電極では、金属錯体のように化合物自身が酸化還元を行って電子を伝達するものではなく、金属錯体などの電子メディエータの非存在下で、安定して感度よくグルコースを検出できることが示された。
【0062】
[実施例3]
酵素溶液調製における4−アミノメチルピリジンの濃度を1%〜6%として以外は実施例2(1)と同様にして酵素電極3A〜3Fを得た。これらの酵素電極の最終形態では、1%〜6%の濃度はそれぞれ23%〜64%の乾燥質量に相当する。
この酵素電極3A〜3Fと、実施例2(1)で作製した4−アミノメチルピリジンを含まない比較用酵素電極を用いて、0.1Mリン酸バッファー(pH7.4)中の100mg/dLのグルコースに対する測定を行った。測定温度は37℃とし、作用電極として酵素電極3A〜3Fと比較用酵素電極、対電極としてPt、及び参照電極としてAg/AgClをそれぞれ使用した。結果を図4に示す。
【0063】
図4に示されるように、4−アミノメチルピリジンの酵素溶液中への添加濃度1%〜6%(最終形態における乾燥質量換算では23%〜64%)とすることによりグルコースを検出可能であることが分かる。
また、4−アミノメチルピリジンの濃度を2%〜5%(最終形態における乾燥質量換算では38〜60%)の範囲とすること、特に4%(最終形態における乾燥質量換算では55%)とすることにより、それぞれ感度が向上することがわかる。
【0064】
[実施例4]
調製した酵素液を、電極表面に精密シリンジを用いて滴下して乾燥させた後に、グルタルアルデヒドを添加して架橋化処理を行った以外は、実施例2(1)と同様にして、架橋化酵素電極4A及び4Bを得た。
架橋化処理は次のように行った。乾燥後の電極表面を軽くdHOでリンスして、1v/v%グルタルアルデヒド(GA)溶液(1%Adonitol含む)に浸漬した。45分間又は120分間浸漬した後に、各電極を引き上げて、室温低湿度環境(23℃、<2%RH)で一晩インキュベーションを行った。これにより、酵素電極4A(処理時間45分)及び4B(処理時間120分)をそれぞれ得た。
【0065】
得られた各酵素電極4A及び4Bを用いて、所定濃度のグルコースに対する連続測定を行った。連続測定は、グルコース100mg/dLに対して25℃、+0.6V(vs. Ag/AgCl)にて、リン酸バッファー中のグルコースに対する電極応答をアンペロメトリー法により検出した。評価は、測定開始直後の電流密度を初期値100%としたときの経時的な相対値の変化として行った。結果を図5に示す。図5において白四角は酵素電極4A、白三角は酵素電極4B、白菱形は架橋化しない酵素電極をそれぞれ用いた場合を示す。
【0066】
図5に示されるように、4−アミノメチルピリジンに対してグルタルアルデヒドを用いた架橋処理を行うことにより、4−アミノメチルピリジンの局在化が抑制され、また、電子授受層からの流出を防止することが可能となり、未処理の酵素電極と比較して、より安定な出力が保持されることがわかる。
【0067】
[実施例5]
4−アミノメチルピリジンの代わりに5−アミノ−4−イミダゾールカルボキシアミド/HClを、17%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、グルコースに対する電極応答を検出した。結果を図6に示す。図6において、黒四角は17%の5−アミノ−4−イミダゾールカルボキシアミドを添加した酵素電極、黒菱形は芳香族複素環化合物を添加しない比較用の酵素電極を用いた場合をそれぞれ示す。
図6に示されるように、4−アミノメチルピリジンの代わりに5−アミノ−4−イミダゾールカルボキシアミド/HClを用いることによっても、同様に、比較用の酵素電極よりも良好に電流密度が検出され、イミダゾール誘導体を用いることによって感度よくグルコースを検出できることがわかる。
【0068】
[比較例1]
4−アミノメチルピリジンの代わりに、ポリ(2−ビニルピリジン)(重量分子量約21000、Fluka社)を0.01%〜1.0%で用いた以外は実施例4と同様にして、比較例の酵素電極を得た。この比較用酵素電極を用いた以外は実施例4と同様にして、100mg/dLのグルコースに対する応答を、水溶性の芳香族複素環化合物を含まない酵素電極に対する相対値で比較した。結果を図7に示す。
図7に示すように、ポリ(2−ビニルピリジン)を用いた場合には、水溶性の芳香族複素環化合物を含まない酵素電極とほぼ同一、又は0.1%以上の濃度では、水溶性の芳香族複素環化合物を含まない酵素電極を用いた場合よりも応答性が低くなることが分かった。
【0069】
このように、4−アミノメチルピリジンを含む本実施例の酵素電極を用いることにより、酵素の配向を調整する処理を行わずに、また、金属錯体等を用いることなく、試料中のグルコースを高感度に検出することができることがわかる。また、4−アミノメチルピリジン自身が酸化還元に関与していないため安定した測定が可能であることがわかる。更に、金属錯体等と異なり反応電位の影響を受けにくく、SMBG(血糖自己測定)、持続血糖モニタリング(CGM)などに代表される臨床的におけるセンシングデバイス、またはバイオ燃料電池などの反応系、さらには非臨床では工業用、環境用のセンシングデバイスなど幅広い用途に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の分析を行うために必要な情報を、電子授受量に相関させて得るための電子検出媒体と、
前記電子検出媒体上に配置され、前記被検物質と前記電子検出媒体との間で電子を伝達するための電子伝達物質を含む試薬部とを備えた分析用具であって、
前記電子伝達物質が、水溶性の芳香族複素環化合物を含み、且つ、金属錯体を含まない、ことを特徴とする、分析用具。
【請求項2】
前記水溶性の芳香族複素環化合物が、ピリジン、イミダゾール及びこれらの誘導体からなる群より選択された少なくとも1つである請求項1記載の分析用具。
【請求項3】
前記水溶性の芳香族複素環化合物の分子量が1000以下である請求項1又は請求項2記載の分析用具。
【請求項4】
前記試薬部は、前記被検物質との間で電子を授受する電子授受化合物を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の分析用具。
【請求項5】
前記試薬部は、前記被検物質との間で電子を授受する電子授受化合物を含み、当該電子授受化合物が、酸化還元酵素である請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の分析用具。
【請求項6】
前記試薬部は、前記被検物質との間で電子を授受する電子授受化合物を含み、当該電子授受化合物が酸化還元酵素であり、前記電子伝達物質の濃度が、前記電子検出媒体と前記電子授受化合物の間で電子を伝達可能な濃度である請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の分析用具。
【請求項7】
前記電子伝達物質の濃度が、前記試薬部の全質量の10質量%〜60質量%である請求項1〜請求項6のいずれか1項の分析用具。
【請求項8】
前記電子伝達物質が、ピリジン、及びアミノメチルピリジンの少なくとも一方を含む請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の分析用具。請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の分析用具。
【請求項9】
前記試薬部が、架橋化物である請求項1〜請求項8のいずれか1項記載の分析用具。
【請求項10】
前記試薬部が、グルタルアルデヒド、カルボジイミド化合物及びスクシンイミドエステルからなる群より選択された少なくとも1種による架橋化物である請求項1〜請求項9のいずれか1項記載の分析用具。
【請求項11】
前記電子検出媒体は、導体である、請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の分析用具。
【請求項12】
前記被検物質は、糖類である、請求項1〜請求項11のいずれか1項記載の分析用具。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれか1項記載の分析用具を用いて、被検物質の電子授受量から、該被検物質の分析を行うために必要な情報を得ることを含む分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−237743(P2012−237743A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−86736(P2012−86736)
【出願日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】