説明

分析用蒸留装置

【課題】液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される蒸留装置であって、装置構成を簡素化でき且つ小型化を図ることが出来、操作性にも優れた分析用蒸留装置を提供する。
【解決手段】分析用蒸留装置は、複数系統の試料処理機器と水蒸気生成/蒸留用の加熱手段(2)とを備えている。各系統の試料処理機器は、水蒸気生成容器(6)、液体試料を収容し且つ水蒸気生成容器(6)から水蒸気が供給される試料容器(3)、試料容器(3)で発生させた蒸気を冷却する冷却器(4)、留出液を収容する受器(5)とから主に構成される。加熱手段(2)は、上面が平坦な金属製ブロック(20)にヒーター(23)を埋設して成り、加熱手段(2)の上面には、水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)を装填可能な容器装填穴(21)が少なくとも試料処理機器の系統数に相当する数設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用蒸留装置に関するものであり、詳しくは、液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される分析用蒸留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場排水や環境水の汚染管理として行われるフッ素の分析においては、工場排水などから採取した試料を前処理として蒸留し、得られた留出液を吸光光度法などによって分析する。そして、蒸留操作では、試料蒸留用の蒸留フラスコと、発生させた蒸気を冷却する冷却器と、留出液を収容する受器としての全量フラスコと、試料蒸留の際に蒸留フラスコに水蒸気を供給する水蒸気発生用フラスコとから主に構成された蒸留装置が使用される。
【0003】
蒸留操作では、先ず、ビーカーに収容した試料にフェノールフタレイン溶液を加え、更に水酸化ナトリウム溶液を滴下して微アルカリ性とした後、これを加熱濃縮し、次いで、濃縮された試料を蒸留フラスコに少量の水で洗い移し、斯かる蒸留フラスコに二酸化ケイ素、リン酸および硫酸もしくは過塩素酸を添加し、沸騰石を加える。次に、受器としての全量フラスコに水を加え、冷却器を介して全量フラスコと蒸留フラスコを接続し、蒸留フラスコの試料を加熱する。蒸留フラスコ内の温度が所定温度に達したら、最適な蒸留条件を維持するため、別途加熱した水蒸気発生用フラスコから蒸留フラスコの試料に水蒸気を通す。そして、蒸留温度および留出速度を一定に調節しながら、受器である全量フラスコの液量が所定量になるまで蒸留する。
【0004】
なお、上記の蒸留装置においては、蒸留フラスコ及び水蒸気発生用フラスコを加熱するために、各々、フラスコの底部形状に倣った半球状の窪みとして断熱材で形成されたフラスコ保持穴に電熱線を埋設して成るいわゆるマントルヒーターが使用される。
【非特許文献1】JIS規格票 K0102,図34.1(日本工業規格,1998年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、工場排水や環境水などの水分析においては、通常、多数の場所で試料を採取し、多数の試料を分析するため、作業の効率化を図る観点から、前処理においては、上記の様な蒸留装置を複数組使用している。換言すれば、蒸留フラスコ、受器、水蒸気発生用フラスコ、および、各フラスコ加熱用のマントルヒーターを複数組準備し、そして、各試料の処理を略同時に行っている。従って、蒸留装置が全体として大掛かりな装置となり、また、操作も煩雑化している。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される蒸留装置であって、装置構成を簡素化でき且つ小型化を図ることが出来、操作性にも優れた分析用蒸留装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、水蒸気生成容器、試料蒸留用の試料容器、蒸気液化用の冷却器、留出液収容用の受器から成る一連の試料処理機器を複数系統設けると共に、各試料容器および各水蒸気生成容器の加熱手段として、複数個の容器装填穴が備えられて同時に複数の容器を加熱可能なブロック構造の加熱手段を各系統に対して共通に使用することにより、装置構成を簡素化し、小型化を図った。
【0008】
また、本発明では、試料蒸留用の試料容器、蒸気液化用の冷却器、留出液収容用の受器から成る一連の試料処理機器を複数系統設けると共に、各試料容器の加熱手段として、複数個の容器装填穴が備えられて同時に複数の容器を加熱可能なブロック構造の加熱手段を各系統に対して共通に使用し、しかも、各系統の試料容器に対する水蒸気の供給に代え、各系統の試料容器に対して加圧空気と共に水を水供給手段によって一括供給することにより、装置構成を簡素化し、小型化を図った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の要旨は、液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される分析用蒸留装置であって、複数系統の試料処理機器と水蒸気生成/蒸留用の加熱手段とを備え、前記各系統の試料処理機器は、水を収容して前記加熱手段により加熱され且つ加圧空気が供給される水蒸気生成容器と、液体試料を収容して前記加熱手段により加熱され且つ前記水蒸気生成容器から水蒸気が供給される試料容器と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器とから主に構成され、前記加熱手段は、上面が平坦に形成された金属製ブロックにヒーターを埋設して成り、前記加熱手段の上面には、前記水蒸気生成容器および前記試料容器を装填可能な容器装填穴が少なくとも前記試料処理機器の系統数に相当する数設けられていることを特徴とする分析用蒸留装置に存する。
【0010】
また、本発明の第2の要旨は、液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される分析用蒸留装置であって、複数系統の試料処理機器と蒸留用の加熱手段と水蒸気生成用の水供給手段とを備え、前記各系統の試料処理機器は、液体試料を収容して前記加熱手段により加熱される試料容器と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器とから主に構成され、前記水供給手段は、各系統の前記試料容器に対して加圧空気と共に水を供給可能に構成され、前記加熱手段は、上面が平坦に形成された金属製ブロックにヒーターを埋設して成り、前記加熱手段の上面には、前記試料容器を装填可能な容器装填穴が少なくとも前記試料処理機器の系統数に相当する数設けられていることを特徴とする分析用蒸留装置に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の要旨に係る分析用蒸留装置によれば、水蒸気生成容器、試料容器、冷却器および受器から成る一連の試料処理機器が複数系統設けられ、金属製ブロックにヒーターを埋設して成る共通の加熱手段を備えており、加熱手段の上面に各系統の水蒸気生成容器および試料容器を整然と配置してこれらを同時に加熱できるため、装置構成を簡素化することが出来かつ小型化を図ることが出来、操作性を向上させることが出来る。
【0012】
また、本発明の第2の要旨に係る分析用蒸留装置によれば、試料容器、冷却器および受器から成る一連の試料処理機器が複数系統設けられ、金属製ブロックにヒーターを埋設して成る共通の加熱手段を備えており、加熱手段の上面に各系統の試料容器を整然と配置してこれらを同時に加熱でき、しかも、各系統の試料容器に対して加圧空気と共に水を供給可能な水供給手段を備えており、各試料容器に対して水蒸気源である水を一括して供給できるため、装置構成を一層簡素化することが出来かつ小型化を図ることが出来、操作性を向上させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明係る分析用蒸留装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1の態様に係る分析用蒸留装置の主要部の構造を一部破断して示す側面図であり、図2は、図1の分析用蒸留装置における試料処理機器の配置および加熱手段の容器装填穴の配置を示す平面図である。図3は、本発明の第2の態様に係る分析用蒸留装置の主要部の構造を一部破断して示す側面図であり、図4は、図3の分析用蒸留装置における試料処理機器の配置および加熱手段の容器装填穴の配置を示す平面図である。また、図5は、図3の分析用蒸留装置に使用される水蒸気源としての水供給手段の一例を示すフロー図である。なお、以下の説明においては、分析用蒸留装置を「蒸留装置」と略記する。
【0014】
本発明の第1の態様に係る蒸留装置について図1及び図2を参照して説明する。図1及び図2に示す本発明の蒸留装置は、液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される装置であり、工場排水や環境水の分析において複数の試料を同時に処理し得る様に、複数系統の試料処理機器と、水蒸気生成および蒸留用の加熱手段(2)とを備えている。
【0015】
上記の試料処理機器は、通常は2〜4系統、例えば図2に示す様に4系統設けられる。各系統の試料処理機器は、図1に示す様に、水を収容して加熱手段(2)により加熱され且つ加圧空気が供給される水蒸気生成容器(6)と、液体試料を収容して加熱手段(2)により加熱され且つ水蒸気生成容器(6)から水蒸気が供給される試料容器(3)と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器(4)と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器(5)とから主に構成される。
【0016】
水蒸気生成容器(6)は、最適な蒸留条件を維持するための蒸留促進用の水蒸気を生成して試料容器(3)の液体試料中に供給する容器であり、後述する加熱手段(2)の容器装填穴(21)(例えば図2において右側に配列された4個の穴)に配置される。水蒸気生成容器(6)としては、有底円筒状のガラス製容器が使用され、その外径は30〜40mm、高さは130〜170mm、内容積は70〜90ml程度である。
【0017】
水蒸気生成容器(6)は、水蒸気生成用の水を収容すると共に、圧縮空気を充填した容器や図示する様なエアコンプレッサー等の空気供給手段(60)から空気供給管(91)及び吹込み管(92)を通じて水中に加圧空気が供給される様に構成される。水蒸気生成容器(6)に供給される加圧空気は、水蒸気生成容器(6)で生成した水蒸気を試料容器(3)の内圧に対抗して当該試料容器に送り込むためのものである。空気供給手段(60)から供給する空気の圧力は0.05〜0.1MPa、流量は20〜60ml/minとされる。
【0018】
また、水蒸気生成容器(6)は、その上端に水蒸気分離管(61)が取り付けられており、当該水蒸気生成容器で発生した水蒸気の一部を水蒸気分離管(61)によって捕捉、再液化することにより、水蒸気分圧の低い高温空気を試料容器(3)に供給する様になされている。そして、水蒸気分離管(61)の頂部には、水蒸気を含む空気を試料容器(3)に送気するガラス製の水蒸気供給管(93)が取り付けられる。
【0019】
試料容器(3)は、収容した液体試料を蒸留するための容器であり、後述する加熱手段(2)の容器装填穴(21)(例えば図2において左側に配列された4個の穴)に配置される。試料容器(3)としては、有底円筒状のガラス製容器が使用され、その外径は30〜40mm、高さは130〜170mm、内容積は70〜90ml程度である。試料容器(3)は、水蒸気供給管(93)及び吹込み管(94)を通じて、当該試料容器内の液中に前述の水蒸気を含む加圧空気が供給される様に構成される。
【0020】
試料容器(3)は、その上端に蒸留管(31)が取り付けられており、当該試料容器で発生した蒸気の一部を蒸留管(31)で再液化して試料容器に還流することにより、水蒸気と共に分析成分を効率良く蒸留する様になされている。そして、試料容器(3)の蒸留管(31)の頂部には、抽出された蒸気を冷却器(4)に送気するガラス製の送気管(95)が取り付けられる。
【0021】
冷却器(4)は、例えば、後述する加熱手段(2)を収容するケーシング(1)の側壁に支持金具で固定されることにより当該ケーシングの側面側に配置される。冷却器(4)は、蒸気が通過する流路としての内管が外套容器に収容されたガラス製の器具であり、別途設置された冷却水循環装置(7)から外套容器に冷却水を循環させることにより、内管を通過する蒸気を冷却する様に構成される。冷却器(4)の外套容器の内容積は、20〜30ml程度である。冷却器(4)の下端には、内管に連続して留出液採取管(41)が取り付けられ、留出液採取管(41)は、受器(5)に挿入される。すなわち、冷却器(4)は、これを通過する蒸気を液化し、その留出液を受器(5)に滴下する様になされている。
【0022】
上記の冷却水循環装置(7)は、例えば、空冷方式の冷凍機、冷却水の循環ポンプ及び水槽から主に構成され、15〜20℃に温度調節した冷却水を冷却器(4)に供給する様になされている。上記の冷凍機としては、冷凍能力が300〜1000kcal、消費電力が350〜1000W程度のものが使用される。循環ポンプとしては、7〜20L/min程度のポンプが使用される。
【0023】
蒸留装置においては、冷却水循環装置(7)の冷却水供給口と冷却水回収口をそれぞれ分岐させ、各系統の冷却器(4)に対して個別に冷却水を循環させることも出来るが、例えば図2に示す様に4系統の試料処理機器が配置された蒸留装置においては、各系統の冷却器(4)が直列的に接続され、冷却水循環装置(7)から1つの冷却器(4)に供給した冷却水を他の冷却器(4)に順次に循環させ、他の1つの冷却器(4)から排出される冷却水を冷却水循環装置(7)に回収する様に構成されてもよい。
【0024】
具体的には、冷却水循環装置(7)から先ず第1の冷却器(4)(図2の左下に示す冷却器)に冷却水供給管(96)(図1及び図2参照)によって冷却水が供給され、当該第1の冷却器から排出される冷却水が冷却水転送管(97)(図2参照)によって第2、第3の冷却器(4)(図2の左下から2,3番目に示す冷却器)に供給され、そして、第4の冷却器(4)(図2の左上に示す冷却器)から排出される冷却水が冷却水回収管(98)(図2参照)によって冷却水循環装置(7)に回収される様に構成される。なお、冷却水供給管(96)、冷却水転送管(97)及び冷却水回収管(98)としては、樹脂または合成ゴム製の可撓性チューブが使用される。
【0025】
受器(5)は、図1に示す様に、蒸留された液体試料の留出液を収容する容器であり、高さ調節可能な支持台(14)に載せられてケーシング(1)の側面側の冷却器(4)の下方に配置される。受器(5)としては、通常50又は100ml、好ましくは50mlのメスフラスコが使用される。なお、図示を省略するが、上記の様な試料処理機器においては、流路の開閉あるいは流量調節を行うためのコック(弁)が水蒸気分離管(61)、送気管(95)や冷却器(4)出口に設けられる。
【0026】
本発明の蒸留装置においては、装置構成を一層小型化するため、図1に示す様に、各系統において共通に使用する加熱手段(2)が設けられる。斯かる加熱手段(2)は、上面が平坦に形成された金属製のブロック(20)にヒーター(23)を埋設して成り、加熱手段(2)の上面には、水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)を装填可能な容器装填穴(21)が少なくとも試料処理機器の系統数に相当する数設けられる。
【0027】
上記のブロック(20)は、外形を直方体に形成されたブロックであり、砲金や鉄などで構成することも出来るが、通常は、熱伝導度が高く且つ成型性が良好なアルミニウム又はアルミニウム合金によって構成される。ブロック(20)の平面寸法は、一辺が200〜300mm程度、厚さは60〜100mm程度とされる。ブロック(20)は、外観が直方体に形成され且つ上面が開放されたケーシング(1)に収容され、ブロック(20)側壁部および底面部は、ケーシング(1)に充填されたセラミックファイバー等から成る断熱材(11)によって被覆される。
【0028】
ヒーター(23)としては、発熱線(ニクロム線)が巻き付けられた棒状のセラミックをステンレス製パイプに挿入し且つ発熱線とパイプの隙間に酸化マグネシウムを充填して成る棒状のカートリッジヒーター、あるいは、金属パイプの中心に発熱コイルを挿入し且つ金属パイプと発熱コイルの隙間に酸化マグネシウムを充填して成る直管構造のシーズヒーター等が使用される。ヒーター(23)は、上記のブロック(20)を均一に加熱するため、通常はブロック(20)に対して2〜4本埋設され、各ヒーター(23)は、ブロック(20)にその一側面から容器装填穴(21)の底部に隣接して水平に開口されたヒーター取付穴に挿入される。ヒーター(23)の総発熱量は、800〜1200W程度とされる。
【0029】
また、ブロック(20)には、当該ブロックの温度を検出するセンサー(24)が埋設される。センサー(24)としては、例えば白金と白金ロジウムを組み合わせた熱電対方式のものが使用される。斯かるセンサー(24)は、ブロック(20)にその一側面の長さ方向の中央で且つ容器装填穴(21)の高さの範囲内の位置から容器装填穴(21)及び後述する容器装填穴(22)に干渉しない様に水平に開口されたセンサー取付穴に挿入される。
【0030】
上記の容器装填穴(21)は、図1に示す様に、ブロック(20)の上面から鉛直方向に開口される。容器装填穴(21)の内径は、水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)が緩く嵌合する程度の大きさであり、具体的には30〜40mm程度である。また、容器装填穴(21)の深さは、水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)の高さの60〜70%に相当する深さとされ、具体的には80〜105mm程度である。
【0031】
本発明の蒸留装置においては、図2に示す様に、例えば4系統の試料処理機器の各水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)を同時に処理するため、少なくとも8個の容器装填穴(21)がブロック(20)に設けられる。平面視した場合のブロック(20)における容器装填穴(21)の配列は、水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)を均等に配置し得る限り特に制限はないが、前述した水蒸気生成容器(6)と試料容器(3)の取合い関係、および、冷却器(4)と受器(5)の取合い関係から、容器装填穴(21)は、ブロック(20)の平行な2辺部に沿って例えば4個づつ均等に配列される。
【0032】
図2に示す蒸留装置においては、上記の加熱手段(2)における容器装填穴(21)の配置により、例えば、図2中のブロック(20)の右下に位置する一の容器装填穴(21)に装填された水蒸気生成容器(6)と、図2中のブロック(20)の左下に位置する他の容器装填穴(21)に装填された試料容器(3)と、図2中の左下のケーシング(1)側方に位置する冷却器(4)及び受器(5)との配列により、1つの処理系統が構成され、同様に図中の各横方向の機器の配置により、他の処理系統が構成される。
【0033】
なお、図に例示した装置においては、ブロック(20)の一辺部に沿って設けられた4個の容器装填穴(21)と他方の一辺部に沿って設けられた4個の容器装填穴(21)との間に、異なる用途の容器装填穴(22)が2列、合計8個設けられているが、これら容器装填穴(22)は、他の分析、例えば酸化剤を添加して加熱分解を行う窒素やリンの分析において試料容器の加熱に使用される。上記の様に、水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)を配置する容器装填穴(21)と共に更に容器装填穴(22)を設けることにより、他の分析用途にも容易に転用できる。
【0034】
また、本発明の蒸留装置において、ケーシング(1)内の加熱手段(2)の下方には、上記のセンサー(24)で検出されたブロック(20)の温度と予め設定された温度とに基づいてヒーター(23)の通電を例えばPID制御する温度調節器(13)が収容され、また、ケーシング(1)の表側には、ヒーター(23)の通電回路および温度調節器(13)の温度設定回路を含む操作盤(12)が取り付けられる。
【0035】
上記の蒸留装置を使用した液体試料の蒸留方法は次の通りである。フッ素の分析を行う場合の蒸留操作では、従前の処理と同様に、先ず、ビーカー等に適量の液体試料を収容し、これにフェノールフタレイン溶液を2〜3滴加え、更に水酸化ナトリウム溶液を滴下して微アルカリ性とした後に加熱濃縮する。次いで、濃縮された試料を試料容器(3)に5mlの水で洗い移した後、試料容器(3)に二酸化ケイ素0.2g、リン酸0.2ml及び硫酸10ml(又は過塩素酸10ml)を添加し、更に直径2〜3mmの沸騰石を2個加える。そして、加熱手段(2)の容器装填穴(21)(例えば図2中の左側の穴)に試料容器(3)を装入し、試料容器(3)の上部に蒸留管(31)を取り付ける。
【0036】
次に、受器(5)に水を10ml加え、これを支持台(14)に載せて冷却器(4)の下方に配置する。そして、先に準備した試料容器(3)の蒸留管(31)の頂部と冷却器(4)とを送気管(95)で接続する。一方、水蒸気生成容器(6)に水を約50ml入れ、これを予め約190℃に設定された加熱手段(2)の他方の容器装填穴(21)(例えば図2中の右側の穴)に装入し、水蒸気生成容器(6)の上部に水蒸気分離管(61)を取り付ける。そして、水蒸気分離管(61)の頂部に水蒸気供給管(93)を取り付け、これを試料容器(3)の吹込み管(94)に接続する。また、空気供給手段(60)から伸長された空気供給管(91)を水蒸気生成容器(6)の吹込み管(92)に接続する。
【0037】
次いで、蒸留操作においては、水蒸気生成容器(6)で発生させた水蒸気を加圧空気と共に試料容器(3)に供給しながら、約60分間蒸留する。そして、上記の蒸留操作では、試料中のフッ化物イオンをヘキサフルオロケイ酸として水に溶解し、冷却器(4)で冷却して得られる留出液を受器(5)に捕集する。
【0038】
蒸留後は、冷却器(4)の内管およびその周辺器具を少量の水で洗い、その洗液と更に水を受器(5)に加え、受器(5)の液量を50mlに定容する。なお、受器(5)に捕集された試料については、例えば、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法を利用して試料中のフッ素を定量分析する。
【0039】
上記の様な蒸留操作においては、通常、複数の試料を処理するが、各水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)に対する加熱を操作盤(12)の操作で一括して行うことが出来る。すなわち、加熱手段(2)のブロック(20)をヒーター(23)で加熱し、各容器装填穴(21)に配置された複数の水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)をブロック(20)により同時に加熱することにより、各系統において水蒸気生成容器(6)で発生させた水蒸気を試料容器(3)に吹込みつつ、当該試料容器で液体試料を蒸留し、その留出液を受器(5)に収容する。
【0040】
換言すれば、本発明の蒸留装置においては、水蒸気生成容器(6)、試料容器(3)、冷却器(4)及び受器(5)から成る一連の試料処理機器が複数系統設けられ、金属製ブロック(20)にヒーター(23)を埋設して成り且つ複数個の容器装填穴(21)を有する共通の加熱手段(2)を備えており、斯かる加熱手段(2)の上面に各系統の水蒸気生成容器(6)及び試料容器(3)を整然と配置してこれらを同時に加熱する。従って、本発明によれば、装置構成を簡素化することが出来かつ小型化を図ることが出来、しかも、1つの加熱手段(2)を操作するだけで各系統の蒸留操作が出来、操作性を向上させることが出来る。
【0041】
次に、本発明の第2の態様に係る蒸留装置について図3〜図5を参照して説明する。図3〜図5に示す本発明の蒸留装置は、前述の態様の装置と同様に、液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される装置であり、複数の試料を同時に処理し得る様に、複数系統の試料処理機器と、蒸留用の加熱手段(2)と、水蒸気生成用の水供給手段(8)とを備えている。第2の態様に係る蒸留装置は、試料処理機器の中の水蒸気生成容器(6)に代えて、上記の水供給手段(8)を設けた点が第1の態様の装置と異なる。
【0042】
上記の試料処理機器は、通常は4〜8系統、例えば図4に示す様に8系統設けられる。各系統の試料処理機器は、図3に示す様に、液体試料を収容して加熱手段(2)により加熱される試料容器(3)と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器(4)と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器(5)とから主に構成される。
【0043】
試料容器(3)及びその上部に取り付けられる蒸留管(31)の構成は、前述の態様におけるのと同様であり、試料容器(3)には、水供給手段(8)から当該試料容器内の液中に水を含む加圧空気が供給するための吹込み管(94)が設けられる。そして、試料容器(3)の蒸留管(31)の頂部には、抽出された蒸気を冷却器(4)に送気するガラス製の送気管(95)が取り付けられる。
【0044】
冷却器(4)、受器(5)、および、冷却器(4)に冷却水を循環させる冷却水循環装置(7)の構成は、前述の態様におけるのと同様である。冷却水循環装置(7)からの冷却水の循環方式も前述の態様におけるのと同様であり、各系統の冷却器(4)が直列的に接続され、冷却水循環装置(7)から1つの冷却器(4)に供給した冷却水を他の冷却器(4)に順次に循環させ、他の1つの冷却器(4)から排出される冷却水を冷却水循環装置(7)に回収する様に構成される。
【0045】
具体的には、冷却水循環装置(7)から先ず第1の冷却器(4)(図2の左下に示す冷却器)に冷却水供給管(96)(図3及び図4参照)によって冷却水が供給され、当該第1の冷却器から排出される冷却水が冷却水転送管(97)(図4参照)によって第2の冷却器(4)(図2の左下から2番目に示す冷却器)に供給され、以降、同様にして第3〜第8の各冷却器(4)に順次供給され、そして、第8の冷却器(4)(図2の右下に示す冷却器)から排出される冷却水が冷却水回収管(98)(図4参照)によって冷却水循環装置(7)に回収される様に構成される。
【0046】
本発明の蒸留装置は、装置構成を一層小型化し且つ蒸留操作をより簡単にするため、水蒸気生成用の上記の水供給手段(8)を備えており、斯かる水供給手段(8)は、各系統の試料容器(3)に対して加圧空気と共に水を供給可能に構成される。本発明においては、水供給手段(8)によって各試料容器(3)に水を直接供給することにより、前述の態様における水蒸気生成容器(6)を使用することなく、蒸留促進用の水蒸気を試料容器(3)内において生成できる。
【0047】
水供給手段(8)は、例えば、図5に示す様に、試料容器(3)内の蒸気圧以上の圧力の加圧空気を各試料容器(3)に供給するエアコンプレッサー(81)と、水を貯留する水容器(82)と、当該水容器から汲み上げた水をエアコンプレッサー(81)から各試料容器(3)に至る空気流路に添加するポンプ(83)とから構成される。
【0048】
エアコンプレッサー(81)としては、吐出空気量0.1〜0.5L/min、最高圧力0.05〜0.1MPaのダイアフラム方式のものが使用される。水容器(82)の内容積は0.5〜1L程度である。ポンプ(83)としては、吐出量0.5〜2ml/min、揚程40〜70cm程度の小型のプランジャポンプ、水封式真空ポンプ、マグネットポンプ等の各種のポンプを使用できる。また、水容器(82)に挿入する水中ポンプでもよい。
【0049】
図5に例示した水供給手段(8)は、エアコンプレッサー(81)から伸長された配管(84)、試料処理機器の系統数に応じて分岐された例えば8本の分岐配管(87)を通じて、各試料容器(3)に至る例えば8本の水供給管(99)にエアコンプレッサー(81)から加圧空気を供給し、かつ、水容器(82)に収容された水を吸水管(85)を通じてポンプ(83)によって吸上げ、ポンプ(83)から吐出される水を空気流路である前記の配管(84)に供給することにより、各系統の試料容器(3)に対して、逆流防止用の加圧空気と共に水蒸気原料である水を供給する様になされている。
【0050】
なお、図3及び4に例示した蒸留装置においては、水供給手段(8)から各系統の試料容器(3)に加圧空気および水を均等に供給するため、各試料容器(3)の吹込み管(94)に至る例えば8本の水供給管(99)が水供給手段(8)の各分岐配管(87)にそれぞれ接続され、水供給手段(8)の各分岐配管(87)には、流量調整弁が介装される。
【0051】
また、第2の態様に係る蒸留装置においても、前述の態様におけるのと同様に、各系統において共通に使用する加熱手段(2)が設けられる。加熱手段(2)の構成は、前述の態様におけるのと同様であり、加熱手段(2)の上面には、試料容器(3)を装填可能な容器装填穴(21)が少なくとも試料処理機器の系統数に相当する数設けられる。容器装填穴(21)の構造および配列も前述の態様におけるのと同様である。例えば8系統の試料処理機器の各試料容器(3)を同時に処理するため、図4に示す様に、少なくとも8個の容器装填穴(21)が前述の態様におけるのと同様にブロック(20)に配列される。
【0052】
図4に示す蒸留装置においては、上記の加熱手段(2)における容器装填穴(21)の配置により、例えば、図4中のブロック(20)の左右の縁部に沿って位置する各容器装填穴(21)に装填された試料容器(3)と、図4中のケーシング(1)側方に各試料容器(3)に隣接して位置する各冷却器(4)及び受器(5)とのそれぞれの配列により、各処理系統が構成される。ブロック(20)に設けられた合計8個の容器装填穴(22)は、前述の態様におけるのと同様の異なる用途に使用されるものである。また、前述の態様におけるのと同様に、ケーシング(1)内の加熱手段(2)の下方には、温度調節器(13)及び操作盤(12)が設けられる。
【0053】
上記の蒸留装置を使用した液体試料の蒸留方法は次の通りである。フッ素の分析を行う場合の蒸留操作では、前述の態様と同様に、予め、ビーカー等に適量の液体試料を収容し、フェノールフタレイン溶液を2〜3滴加え、更に水酸化ナトリウム溶液を滴下して微アルカリ性とした後に加熱濃縮する。次いで、濃縮された試料を試料容器(3)に5mlの水で洗い移した後、試料容器(3)に二酸化ケイ素0.2g、リン酸0.2ml及び硫酸10ml(又は過塩素酸10ml)を添加し、更に直径2〜3mmの沸騰石を2個加える。そして、予め約190℃に設定された加熱手段(2)の容器装填穴(21)(例えば図4中のブロック(20)の左右の縁部に沿った穴)に試料容器(3)を装入し、試料容器(3)の上部に蒸留管(31)を取り付ける。
【0054】
次に、受器(5)に水を10ml加え、これを支持台(14)に載せて冷却器(4)の下方に配置する。そして、試料容器(3)の蒸留管(31)の頂部と冷却器(4)とを送気管(95)で接続する。また、水供給手段(8)の各分岐配管(87)の先端の継手と各試料容器(3)の吹込み管(94)とをそれぞれ水供給管(99)によって接続する。
【0055】
次いで、水供給手段(8)から試料容器(3)に加圧空気と共に水を0.4〜0.6ml/minの流量で供給しながら、約60分間蒸留する。そして、前述の態様と同様に、上記の蒸留操作により、試料中のフッ化物イオンをヘキサフルオロケイ酸として水に溶解し、冷却器(4)で冷却して得られる留出液を受器(5)に捕集する。
【0056】
蒸留後は、前述の態様と同様に、冷却器(4)の内管およびその周辺器具を洗浄し、その洗液と水を受器(5)に加え、受器(5)の液量を50mlに定容する。そして、受器(5)に捕集された試料については、例えば、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法を利用して試料中のフッ素を定量分析する。
【0057】
上記の様な蒸留操作においては、各試料容器(3)に対する水の供給を一括して行うことが出来かつ各試料容器(3)に対する加熱を操作盤(12)の操作で一括して行うことが出来る。すなわち、水供給手段(8)により各系統の試料容器(3)に対して加圧空気と共に水を供給しつつ、加熱手段(2)のブロック(20)をヒーター(23)で加熱し、各容器装填穴(21)に配置された複数の試料容器(3)をブロック(20)により同時に加熱することにより、当該試料容器で液体試料を蒸留し、その留出液を受器(5)に収容する。
【0058】
換言すれば、本発明の蒸留装置においては、試料容器(3)、冷却器(4)及び受器(5)から成る一連の試料処理機器が複数系統設けられ、金属製ブロック(20)にヒーター(23)を埋設して成り且つ複数個の容器装填穴(21)を有する共通の加熱手段(2)を備えており、斯かる加熱手段(2)の上面に各系統の試料容器(3)を整然と配置してこれらを同時に加熱する。更に、各系統の試料容器(3)器に対して加圧空気と共に水を供給可能な水供給手段(8)を備えており、各試料容器(3)に対して水蒸気源である水を一括して供給する。従って、本発明によれば、装置構成を一層簡素化することが出来かつ小型化を図ることが出来、しかも、1つの加熱手段(2)及び水供給手段(8)を操作するだけで各系統の蒸留操作が出来、操作性を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の態様に係る分析用蒸留装置の主要部の構造を一部破断して示す側面図である。
【図2】図1の分析用蒸留装置における試料処理機器の配置および加熱手段の容器装填穴の配置を示す平面図である。
【図3】本発明の第2の態様に係る分析用蒸留装置の主要部の構造を一部破断して示す側面図である。
【図4】図3の分析用蒸留装置における試料処理機器の配置および加熱手段の容器装填穴の配置を示す平面図である。
【図5】図3の分析用蒸留装置に使用される水蒸気源としての水供給手段の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0060】
1 :ケーシング
11:断熱材
13:温度調節器
14:支持台
2 :加熱手段
20:金属製のブロック
21:容器装填穴
22:容器装填穴
23:ヒーター
24:センサー
3 :試料容器
31:蒸留管
4 :冷却器
41:留出液採取管
5 :受器
6 :水蒸気生成容器
60:空気供給手段
61:水蒸気分離管
7 :冷却水循環装置
8 :水供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される分析用蒸留装置であって、複数系統の試料処理機器と水蒸気生成/蒸留用の加熱手段とを備え、前記各系統の試料処理機器は、水を収容して前記加熱手段により加熱され且つ加圧空気が供給される水蒸気生成容器と、液体試料を収容して前記加熱手段により加熱され且つ前記水蒸気生成容器から水蒸気が供給される試料容器と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器とから主に構成され、前記加熱手段は、上面が平坦に形成された金属製ブロックにヒーターを埋設して成り、前記加熱手段の上面には、前記水蒸気生成容器および前記試料容器を装填可能な容器装填穴が少なくとも前記試料処理機器の系統数に相当する数設けられていることを特徴とする分析用蒸留装置。
【請求項2】
液体試料中のフッ素の分析において試料の前処理に使用される分析用蒸留装置であって、複数系統の試料処理機器と蒸留用の加熱手段と水蒸気生成用の水供給手段とを備え、前記各系統の試料処理機器は、液体試料を収容して前記加熱手段により加熱される試料容器と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器とから主に構成され、前記水供給手段は、各系統の前記試料容器に対して加圧空気と共に水を供給可能に構成され、前記加熱手段は、上面が平坦に形成された金属製ブロックにヒーターを埋設して成り、前記加熱手段の上面には、前記試料容器を装填可能な容器装填穴が少なくとも前記試料処理機器の系統数に相当する数設けられていることを特徴とする分析用蒸留装置。
【請求項3】
水供給手段は、試料容器内の蒸気圧以上の圧力の加圧空気を各試料容器に供給するエアコンプレッサーと、水を貯留する水容器と、当該水容器から汲み上げた水を前記エアコンプレッサーから前記各試料容器に至る空気流路に添加するポンプとから構成されている請求項2に記載の分析用蒸留装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−53014(P2009−53014A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219530(P2007−219530)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(599084762)株式会社エッチ.エム.イー (3)
【出願人】(591061208)株式会社三菱化学アナリテック (17)
【Fターム(参考)】