説明

分析用試料の燃焼方法

【課題】試料の加熱分解により得られた分解ガスを燃焼させて燃焼ガスを分析用の試料ガスとして回収する分析用試料の燃焼方法であって、成分が未知の試料でも容易に且つ完全に分解燃焼させることが出来、より確実に目的成分を回収可能な分析用試料の燃焼方法を提供する。
【解決手段】分析用試料の燃焼方法は、加熱分解用の昇温炉と燃焼用の恒温炉とが備えられた燃焼装置を使用し、昇温炉において試料を加熱分解し、得られた分解ガスを恒温炉において酸素雰囲気下で燃焼させて燃焼ガスを分析用の試料ガスとして回収する方法である。先ず、昇温炉において少なくとも分解ガスが発生するまで予備試料を加熱処理し、恒温炉における分解ガスの燃焼を検出し且つ分解ガス燃焼時の昇温炉の温度を測定する。次いで、測定された温度を基準にしてに昇温炉の温度を制御し、昇温炉において本試料を加熱分解し、恒温炉において分解ガスを燃焼させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用試料の燃焼方法に関するものであり、詳しくは、試料の加熱分解により得られた分解ガスを燃焼させて燃焼ガスを分析用の試料ガスとして回収する分析用試料の燃焼方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば固体試料中の硫黄などの定量分析においては、加熱分解用の昇温炉と燃焼用の恒温炉とが設けられた燃焼装置を使用し、昇温炉において試料を加熱分解し、得られた分解ガスを恒温炉において燃焼させて燃焼ガスを分析用の試料ガスとして回収する。そして、例えば硫黄については、試料ガス中の二酸化イオウを吸収液に吸収させ、当該吸収液をイオンクロマトグラフに導入して分析する。
【0003】
上記の様な燃焼装置を使用した分析用試料の燃焼方法としては、加熱分解用の昇温炉(気化部)において試料をその融点から融点よりも50℃高い温度範囲に50〜180℃/minの昇温速度で加熱し、得られた分解ガスを燃焼用の恒温炉(燃焼部)において燃焼させて燃焼ガスを回収する様にした「固体試料の分解方法」が提案されている。
【0004】
上記の燃焼方法によれば、高温の加熱炉の入口に試料を近付け、試料の揮発・分解状態を観察しながら、加熱炉中に試料を移動させると言う分析者の経験に依存した従前の燃焼方法に比べ、予め設定された加熱プログラムに従って処理するだけで簡便に試料を完全燃焼させて目的成分を回収することが出来る。
【特許文献1】特許第2781013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の燃焼方法(固体試料の分解方法)では、融点を基準に昇温炉の温度調節を行うが、実際には、試料の組成に応じて試料を効率的に加熱分解し得る温度に炉温を正確に設定する必要があり、試料の組成に関する情報を予め取得している必要がある。換言すれば、成分が未知の試料については、融点および加熱許容範囲が不明であるため、直ちに分析することが出来ない。また、効率的な分析を行うには、燃焼処理において昇温炉を出来る限り迅速に目標温度まで加熱するのが望ましい。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、試料の加熱分解により得られた分解ガスを燃焼させて燃焼ガスを分析用の試料ガスとして回収する試料の燃焼方法であって、成分が未知の試料でも容易に且つ完全に分解燃焼させることが出来、より確実に目的成分を回収可能な分析用試料の燃焼方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明においては、最初に、昇温炉において予備試料を加熱処理する。その際、少なくとも分解ガスが発生するまで加熱し、恒温炉で分解ガスの燃焼を検出することにより、試料の加熱分解が始まる昇温炉の温度を測定する。次に、昇温炉において本試料を加熱分解し、得られた分解ガスを恒温炉において燃焼させる。その際、先の予備試料の加熱処理の際に測定した昇温炉の温度をデータとして利用し、昇温炉の温度を加熱分解に適した温度範囲に制御して処理を行う。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、加熱分解用の昇温炉と燃焼用の恒温炉とが備えられた燃焼装置を使用し、昇温炉において試料を加熱分解し、得られた分解ガスを恒温炉において燃焼させて燃焼ガスを分析用の試料ガスとして回収する分析用試料の燃焼方法であって、昇温炉において少なくとも分解ガスが発生するまで予備試料を加熱処理すると共に、恒温炉における分解ガスの燃焼を検出し且つ分解ガス燃焼時の昇温炉の温度を測定し、次いで、測定された温度を基準にして昇温炉の温度を制御しながら、昇温炉において本試料を加熱分解し、恒温炉において分解ガスを燃焼させることを特徴とする分析用試料の燃焼方法に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る分析用試料の燃焼方法によれば、予め昇温炉において予備試料を加熱処理し、恒温炉における分解ガスの燃焼を検出してその試料の分解開始の際の昇温炉の温度を測定した後、測定された温度を基準にして昇温炉の温度を制御して本試料の処理を行うため、成分が未知の試料でも容易に且つ完全に分解燃焼させることが出来、より確実に目的成分を回収することが出来る。しかも、本試料の処理の際に加熱分解に適した温度で直ちに処理できるため、一層効率的な分析が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る分析用試料の燃焼方法(以下、「燃焼方法」と略記する。)の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施に好適な燃焼装置の主な構成を一部破断して示す側面図である。また、図2は、一例としてのポリエチレンの分析において、予備試料を処理した際の昇温炉の設定温度、実測した昇温炉の温度変化および恒温炉の燃焼状態を表示したモニター画面の図であり、図3は、本試料を処理した際の昇温炉の設定温度、実測した昇温炉の温度変化および恒温炉の燃焼状態を表示したモニター画面の図である。
【0011】
本発明の燃焼方法は、例えば、有機試料に含まれる硫黄、ハロゲン等の成分の定量分析において、前記の成分を回収する際に適用される。試料は、固体試料、液体試料の何れであってもよい。本発明においては、図1に示す様な燃焼装置、すなわち、加熱分解用の昇温炉(A1)と燃焼用の恒温炉(A2)とが備えられた燃焼装置を使用し、昇温炉(A1)において試料を加熱分解し、得られた分解ガスを恒温炉(A2)において酸素雰囲気下で燃焼させて燃焼ガスを分析用の試料ガスとして回収する。
【0012】
先ず、本発明において使用される上記の燃焼装置について説明する。図1に示す燃焼装置は、キャリアガスを供給可能に構成され且つ外周部の一部にヒーター(2)が付設された内管(1)と、酸素を供給可能に構成され且つ外周部にヒーター(5)が付設された外套管(4)と、内管(1)の基端側から当該内管内部に挿通された試料供給用のボート(3)とを備え、かつ、内管(1)の先端部が外套管(4)の略中央部まで同心状に挿入され、そして、内管(1)と当該内管を外周側から加熱するヒーター(2)とにより昇温炉(A1)が構成され、外套管(4)と当該外套管を外周側から加熱するヒーター(5)とにより恒温炉(A2)が構成される。通常、内管(1)、外套管(4)及びボート(3)は石英によって作製される。
【0013】
昇温炉(A1)を構成する内管(1)は、試料の加熱分解によって生成された分解ガスを恒温炉(A2)の外套管(4)へ導くための長軸の管であり、内径が10〜20mm程度、長さが200〜300mm程度に設計される。内管(1)の開口された先端部(図において左側の端部)は、外套管(4)の長さの略中央に相当する位置に挿入される。内管(1)の基端部(図において右側の端部)には、キャリアガスの容器から流量コントローラーを介して伸長されたキャリアガス導入管(81)が接続される。キャリアガスとしては、反応に関与しない例えばアルゴン等の不活性ガス、または、不活性ガスと酸素の混合ガスが使用される。
【0014】
外套管(4)の基端部から露出した内管(1)の外套管(4)近傍には上記のヒーター(2)が配置され、内管(1)のヒーター(2)よりも基端側の部分(図において右側の部分)には試料投入口(11)が付設される。ヒーター(2)としては、試料を短時間で加熱するため、通常は出力0.5〜1kw程度の電気炉(円筒型ヒーター)が使用される。試料投入口(11)は、内管(1)の一部に設けられた開口の外周を蓋付きのケーシングで覆った構造を備えている。
【0015】
外套管(4)は、酸素雰囲気を形成するための長軸の管であり、内径が25〜35mm程度、長さが200〜400mm程度に設計される。外套管(4)の基端部(図において右側の端部)には、酸素容器から流量コントローラーを介して伸長された酸素導入管(82)が接続される。また、図示しないが、外套管(4)の先端部(図において左側の端部)には、通常、燃焼を安定化させるための石英綿が充填される。そして、外套管(4)の先端には、燃焼ガス(試料ガス)を分析機器の一つである例えば吸収管(図示省略)へ供給する燃焼ガス回収管(83)が設けられる。ヒーター(5)としては、分解ガスを確実に燃焼させるため、通常は出力0.7〜1.5kw程度の電気炉(円筒型ヒーター)が使用される。
【0016】
試料供給用のボート(3)は、内管(1)の内部において、試料を搭載して上記の試料投入口(11)と内管(1)のヒーター(2)に相当する部位との間を往復移動する小皿であり、例えば、浅底扁平な細長の箱状に形成される。ボート(3)は、ボートコントローラ(30)によって操作される操作ロッドの先端に設けられる。
【0017】
具体的には、操作ロッドの基端には、内管(1)の内周部に緩く嵌合する短軸円柱状の金属片が取付けられ、内管(1)の外周部には、当該内管に緩く嵌合するリング状の磁石または電磁石から成り且つボートコントローラ(30)の駆動機構(例えばサーボモータ及びラック機構などで構成された駆動機構)によって直線移動して前記の金属片を磁力で誘導する摺動駒(31)が配置される。すなわち、ボート(3)の操作ロッドは、ボートコントローラ(30)の摺動駒(31)の動きに追従して内管(1)の内部を移動可能に構成されている。
【0018】
本発明においては、後述する様に昇温炉(A1)で予備試料を加熱処理し、恒温炉(A2)で分解ガスの燃焼を検出し且つ分解ガス燃焼時の昇温炉(A1)の温度を測定するため、昇温炉(A1)には、当該昇温炉の温度、すなわち、内管(1)のヒーター(2)によって加熱される部位の温度を検出する温度センサー(6)が設けられる。そして、恒温炉(A2)には、当該恒温炉における分解ガスの燃焼を検出する燃焼検出手段としての光センサー(7)が設けられる。
【0019】
温度センサー(6)としては熱電対やサーミスタ等が使用される。温度センサー(6)は、内管(1)に近接してヒーター(2)の内周面に配置される。また、光センサー(7)としては、通常、光の強度を測定するフォトダイオードが使用される。光センサー(7)は、外套管(4)の外周面に近接する位置で且つ内管(1)先端部に略相当する位置に配置される。燃焼装置においては、光センサー(7)によって発光を検出することにより、恒温炉(A2)における分解ガスの燃焼状態を検出できる。
【0020】
更に、図示しないが、恒温炉(A2)における分解ガスの燃焼検出手段としては、恒温炉(A2)から回収された試料ガス中の炭酸ガス濃度や酸素濃度を測定するセンサーを使用することも出来る。すなわち、炭酸ガス濃度によって燃焼を検出する場合には、恒温炉(A2)の燃焼ガス回収管(83)に炭酸ガスセンサーが設けられ、試料ガス(排気ガス)中の炭酸ガス濃度の上昇により分解ガスの燃焼を検出する様に構成される。また、酸素濃度によって燃焼を検出する場合には、恒温炉(A2)の燃焼ガス回収管(83)に酸素センサーが設けられ、試料ガス(排気ガス)中の酸素濃度の低下により分解ガスの燃焼を検出する様に構成される。
【0021】
上記の燃焼装置においては、データの解析および装置制御を行うために解析・制御装置(9)が設けられる。すなわち、燃焼装置においては、解析・制御装置(9)により、燃焼検出手段である例えば光センサー(7)によって検出される光強度の変化に基づいて分解ガスの燃焼を判別し、また、昇温炉(A1)の温度をデーターとして保持すると共に、昇温炉(A1)のヒーター(2)及び恒温炉(A2)のヒーター(5)の制御を行い、更に、ボートコントローラ(30)の作動制御やキャリアガス及び酸素の供給制御を行う様になされている。
【0022】
また、解析・制御装置(9)には、昇温炉(A1)の温度設定、昇温炉(A1)の温度、恒温炉(A2)における燃焼状態を表示するモニターが備えられている(図2及び図3参照)。なお、図中の符号(91)は、ヒーター(2)及びヒーター(5)の出力調整を行う温度調節器を示す。
【0023】
次に、上記の燃焼装置を使用した本発明の燃焼方法について、図2及び図3を参照し、ポリエチレンの成分分析における燃焼実験を一例として説明する。図2及び図3に示す例は、恒温炉(A2)に設けられた光センサー(7)を使用して予備試料の分解ガスの燃焼を検出したものであり、図2及び図3のグラフにおいて、破線は昇温炉(A1)の設定温度を示し、実線は温度センサー(6)で実測した昇温炉(A1)の温度を示し、実線の波形は光センサー(7)で検出した恒温炉(A2)における分解ガスの燃焼状態を示す。
【0024】
本発明においては、処理すべき試料を予備試料と本試料とに区別する。本試料としては、燃焼処理の後に行われる分析に足る量の試料を確保する。燃焼処理では、最初に、昇温炉(A1)において少なくとも分解ガスが発生するまで予備試料を加熱処理する。すなわち、少なくとも分解温度以上の温度で予備試料を加熱処理する。そして、恒温炉(A2)における分解ガスの燃焼を検出し且つ分解ガス燃焼時の昇温炉(A1)の温度を測定する。
【0025】
具体的には、先ず、試料投入口(11)に待機させたボート(3)に予備試料を載せ、ボートコントローラ(30)によりボート(3)を昇温炉(A1)内へ移動させる。次いで、キャリアガス導入管(81)を通じて内管(1)にキャリアガスとして例えばアルゴンを150〜500ml/minの範囲内の一定流量で供給しながら、図2の破線で示す様に、昇温炉(A1)の温度を予備試料の分解温度よりも明らかに高い温度、例えば500℃に設定してヒーター(2)を稼働させ、予備試料を加熱する。一方、恒温炉(A2)においては、ヒーター(5)を稼働させ、当該恒温炉の温度を所定の燃焼温度、例えば1000℃に制御すると共に、酸素導入管(82)を通じて外套管(4)に燃焼用の酸素を例えば300〜500ml/minの範囲内の一定流量で供給する。
【0026】
図2の実線で示す様に、昇温炉(A1)の温度を漸次高め、ボート(3)の予備試料を加熱してゆくと、分解温度である例えば300℃近辺で試料の分解が始まり、その分解ガスが内管(1)の先端から恒温炉(A2)の外套管(4)内に放出される。そして、分解ガスは、酸素が供給されている恒温炉(A2)の外套管(4)内において燃焼する。
【0027】
恒温炉(A2)においては、図2の波形で示す様に、分解ガスが内管(1)から放出されていない当初の状態では光センサー(7)からの信号出力が基底値付近にあるが、分解ガスが内管(1)から放出されると、燃焼による発光に伴い、光センサー(7)からの出力が急激に大きくなる。従って、光センサー(7)の信号を判別することにより、恒温炉(A2)における分解ガスの燃焼を検出することが出来る。そこで、分解ガスの燃焼を検出した際の昇温炉(A1)の温度を測定する。例示した予備試料では、図2に示す様に、恒温炉(A2)において燃焼を開始した際、昇温炉(A1)が約350℃に達していることが判る。
【0028】
続いて、ボート(3)から予備試料の残渣を取り出した後、昇温炉(A1)において本試料の燃焼処理を行う。その場合、本発明では、予備試料の加熱処理おいて上記の様に測定された温度、すなわち、分解ガス発生温度(加熱分解温度)に基づいて、昇温炉(A1)の温度を測定された温度の±50℃の範囲に制御する。そして、昇温炉(A1)において本試料を加熱分解し、恒温炉(A2)において分解ガスを燃焼させる。
【0029】
具体的には、予備試料の場合と同様に、試料をボート(3)に載せて昇温炉(A1)内へ移動させる。また、予備試料の場合と同様に、内管(1)にキャリアガスとして例えばアルゴンを一定流量で供給する。そして、図3の破線で示す様に、昇温炉(A1)の温度を凡そ試料の分解温度350℃に設定してヒーター(2)を稼働させ、昇温炉(A1)を急速に加熱する。一方、恒温炉(A2)においては、予備試料の場合と同様に、ヒーター(5)を稼働させ、当該恒温炉の温度を例えば1000℃に維持し、かつ、外套管(4)に燃焼用の酸素を一定流量で供給する。
【0030】
昇温炉(A1)において試料を加熱分解する場合、過剰な加熱を防止するため、図3の破線で示す様に、予備試料の処理で得られた温度(例えば350℃)よりも幾分低い温度、例えば300℃程度に昇温炉(A1)の温度を制御し、恒温炉(A2)における分解ガスの燃焼状態を確認しながら徐々に昇温してもよい。図3に例示した処理は、最初に300〜310℃の範囲に昇温炉(A1)の温度を設定し、本試料が分解しないのを確認した後、昇温炉(A1)の温度を360℃に制御したものである。
【0031】
昇温炉(A1)に対する上記の温度設定により、図3の実線で示す様に、昇温炉(A1)の温度は急激に上昇する。そして、昇温炉(A1)の温度が分解温度(350℃)に近づくと、本試料の分解が始まり、その分解ガスが内管(1)の先端から恒温炉(A2)の外套管(4)内に放出され、そして、分解ガスが燃焼する。恒温炉(A2)における燃焼は、図3の波形で示す様に、光センサー(7)による発光を検出することにより解析・制御装置(9)のモニターで確認できる。
【0032】
本発明において、本試料の加熱分解の際、予備試料の処理で測定された温度(データとして得られた分解開始温度)の±50℃の範囲に昇温炉(A1)の温度を制御する理由は次の通りである。すなわち、昇温炉(A1)の温度が上記の分解開始温度に対して50℃よりも高い場合には、試料の急速な分解が起こり、分解ガスに対して酸素が不足して不完全燃焼が発生する。一方、昇温炉(A1)の温度が上記の分解開始温度に対して50℃よりも更に低い場合には、試料の加熱分解が速やかに進行せず、同様に目的成分を回収できない。従って、昇温炉(A1)の温度は、少なくとも上記の範囲に制御する必要があり、より確実に加熱分解を行うためには、分解開始温度より50℃低い温度から分解開始温度より50℃高い温度まで徐々に昇温するのが好ましい。
【0033】
また、本試料の燃焼が略終了したならば、図3の破線で示す様に昇温炉(A1)の温度を例えば700℃程度まで高く設定し、昇温炉(A1)の温度を更に上昇させ、ボート(3)内の本試料の残渣を完全に分解する。これにより、本試料を完全に分解でき、目的成分を全て回収することが出来る。なお、恒温炉(A2)における燃焼処理により得られた燃焼ガスは、燃焼ガス回収管(83)を通じて取り出され、イオンクロマトグラフィーや滴定法を利用した後段の分析に使用される。
【0034】
上記の様に、本発明においては、予め、昇温炉(A1)において少なくとも分解ガスが発生するまで予備試料を加熱処理し、恒温炉(A2)における分解ガスの燃焼を検出して試料の分解開始の際の昇温炉(A1)の温度を測定した後、昇温炉(A1)の温度を加熱分解に適した特定の範囲に制御しながら本試料の加熱分解および燃焼処理を行う。従って、成分が未知の試料でも容易に且つ完全に分解燃焼させることが出来、より確実に目的成分を回収することが出来る。換言すれば、熟練した分析技術を必要とすることなく、成分が未知の試料を容易に処理することが出来る。しかも、本試料の処理の際に加熱分解に適した温度で直ちに処理できるため、一層迅速な処理が可能になる
【0035】
なお、本発明においては、前述した様に、予備試料の分解ガスの燃焼を恒温炉(A2)において検出するに当たり、光に代えて、炭酸ガス又は酸素を検知する様にしてもよい。炭酸ガスによって燃焼を検出する場合は、恒温炉(A2)の燃焼ガス回収管(83)に設けられた炭酸ガスセンサー(図示省略)により、恒温炉(A2)の外套管(4)から排気されるガス中の炭酸ガス濃度の急激な増加を検知し、分解ガスの燃焼を検出することが出来る。そして、酸素によって燃焼を検出する場合は、恒温炉(A2)の燃焼ガス回収管(83)に設けられた酸素センサー(図示省略)により、恒温炉(A2)の外套管(4)から排気されるガス中の酸素の急激な減少を検知することにより、分解ガスの燃焼を検出することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施に好適な燃焼装置の主な構成を一部破断して示す側面図である。
【図2】一例としてのポリエチレンの分析において、予備試料を処理した際の昇温炉の設定温度、実測した昇温炉の温度変化および恒温炉の燃焼状態を表示したモニター画面の図である。
【図3】一例としてのポリエチレンの分析において、本試料を処理した際の昇温炉の設定温度、実測した昇温炉の温度変化および恒温炉の燃焼状態を表示したモニター画面の図である。
【符号の説明】
【0037】
1 :内管
11:試料投入口
2 :ヒーター
3 :ボート
30:ボートコントローラ
31:摺動駒
4 :外套管
5 :ヒーター
6 :温度センサー
7 :光センサー(燃焼検出手段)
81:キャリアガス導入管
82:酸素導入管
83:燃焼ガス回収管
9 :解析・制御装置(コンピュータ)
91:温度調節器
A1:昇温炉
A2:恒温炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱分解用の昇温炉と燃焼用の恒温炉とが備えられた燃焼装置を使用し、昇温炉において試料を加熱分解し、得られた分解ガスを恒温炉において燃焼させて燃焼ガスを分析用の試料ガスとして回収する分析用試料の燃焼方法であって、昇温炉において少なくとも分解ガスが発生するまで予備試料を加熱処理すると共に、恒温炉における分解ガスの燃焼を検出し且つ分解ガス燃焼時の昇温炉の温度を測定し、次いで、測定された温度を基準にして昇温炉の温度を制御しながら、昇温炉において本試料を加熱分解し、恒温炉において分解ガスを燃焼させることを特徴とする分析用試料の燃焼方法。
【請求項2】
恒温炉に設けられた光センサーにより分解ガスの燃焼を検出する請求項1に記載の燃焼方法。
【請求項3】
恒温炉の燃焼ガス回収管に設けられた炭酸ガスセンサーにより分解ガスの燃焼を検出する請求項1に記載の燃焼方法。
【請求項4】
恒温炉の燃焼ガス回収管に設けられた酸素センサーにより分解ガスの燃焼を検出する請求項1に記載の燃焼方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−298606(P2008−298606A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145453(P2007−145453)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(591061208)株式会社三菱化学アナリテック (17)
【Fターム(参考)】