説明

分析用試料の調製方法およびそのカートリッジ

分析プロセスで使用する水溶性試料の調製方法であって、試料は食品由来の水溶性分析対象物質を少なくとも1つ備え、(a)それぞれ異なる化学化合物を吸着するように配置した第1および第2の吸着材を備える固相抽出カートリッジであって、第1および第2の吸着材を内包して入口および出口を有するチャンバを備えるカートリッジを提供するステップと、(b)食品由来の水溶性分析対象物質および不純物を少なくとも1つ含む水溶性試料を入口から流し、この試料を第1および第2の吸着材の少なくとも一方に配置するステップと、(c)水溶性分析対象物質および不純物の少なくとも一方が少なくとも部分的に分離するように、入口から洗浄液を流すステップと、(d)カートリッジの出口から少なくとも1つの水溶性分析対象物質を溶出するステップとを含む調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析プロセスで使用する試料の調製方法およびそのような調製方法で使用するカートリッジに関する。特に、本発明は、食品から抽出したアクリルアミドなどの水溶性分析対象物質を含む試料の調製にも関する。
【背景技術】
【0002】
分析用に食品から化合物を抽出することが知られている。例えば、食品からの抽出液から不純物を取り除くために固相抽出(SPE)を利用すること、および精製した試料を液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC/MS/MS)の技術によって分析することが知られている。SPEは、液体に溶解または懸濁している溶質(いわゆる移動相)の固体に対する親和力を利用するものであり(この固体はいわゆる固定相であり、吸着材を含有する)、この固体に試料を通過させて混合物を所望の化合物と不要な化合物とに分離する。固定相は、吸着材を充填したシリンジ状のカートリッジの形で用意する。吸着材は、不要な分析対象物質か不要な不純物のどちらかを吸着することによって保持するように選択することができる。特定の分析対象物質および特定の溶媒を用いるSPEシステムがいくつか開発されており、このシステムでは特殊なSPE吸着剤を使用する。例えば、(米国ペンシルバニア州ベルフォンテ所在のシグマアルドリッチ社から入手可能なSPEチューブ、Supelclean ENVI−Carb−II/PSEとして知られている)多層吸着剤を利用し、アセトニトリルなどの有機溶媒を用いて農産物から殺虫剤を抽出するSPEカートリッジを利用することが知られている。
【0003】
ここ数年、特定の食品中に化学物質のアクリルアミドが存在することに関して健康および安全に対する懸念が高まっており、この物質は特定の調理過程の副産物として形成されると考えられている。米国食品医薬品庁(FDA)は、食品中のアクリルアミドを定量するための分析方法を開発した(「Detection and Quantification of Acrylamide in Foods(食品中のアクリルアミドの検出および定量化)」:米国保健社会福祉省、米国食品医薬品庁、食品安全・応用栄養センター、植物・乳製品・飲料課が2002年6月20日Draftで公表し、2002年7月23日および2003年2月24日に更新)。
【0004】
FDAが開発した方法では、関連器具も含めて特殊な固相抽出(SPE)方法を利用し、クリーンアッププロセスで食品から抽出したアクリルアミドを含む抽出液から不純物を取り除き、のちの液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC/MS/MS)で分析するための試料を調製する。
【0005】
特に、FDAが開発したアクリルアミドのLC/MS/MSによる試料クリーンアッププロセスでは、連続する別々のクリーンアップ法を2回利用し、各方法でSPEカートリッジをそれぞれ用い、各カートリッジはそれぞれ固定相を含んでいる。第1のSPEステップで使用する第1のSPEカートリッジにはポリマー吸着剤(米国マイアミ州Milford所在のWaters Corporation社が販売するOasis HLBを入手可能)を固定相として使用し、第2のSPEステップで使用する第2のSPEカートリッジには、強カチオン交換および強アニオン交換を呈しC活性基を含む混合モードの吸着剤(米国カリフォルニア州ハーバーシティ所在のVarian社が販売するBond Elut Accucatを入手可能)を固定相として使用する。
【0006】
さらに詳細には、FDAのクリーンアッププロセスでは、次のように第1のカートリッジを使用する第1のクリーンアップ法が必要である。メタノール3.5mlでOASIS SPEカートリッジを調整したのち、水3.5mlで調整する。使用したメタノール分および水分を廃棄してカートリッジを調製する。OASIS SPEカートリッジに試験部分の抽出液1.5mlをチャージする。抽出液を吸着材に完全に通す。水0.5mlを用いてカラムを溶出し、廃棄する。さらに水1.5mlを用いてカラムを溶出し、次のSPEカートリッジのクリーンアップ用に捕集する。
【0007】
次に第2のカートリッジを使用する第2のクリーンアップ法は次の通りである。Varian社のSPEカートリッジの外側で吸着剤層の上にある液体の高さが1mlのところに印をつける。メタノール2.5mlを用いてVarian社のSPEカートリッジを調整したのち、水2.5mlで調整する。使用したメタノールおよび水分を廃棄してカートリッジを調製する。第1のクリーンアップ法で捕集した部分1.5mlをチャージし、1mlの印まで溶出したのちに、溶出した部分の残りを捕集する。LC/MS/MS分析に用いる2mlの黄色のオートサンプラーバイアルに移送する。
【0008】
FDAの試験プロトコルでは高い試験精度を達成し、例えば50ppb弱を測定できることがわかった。しかし、このような精度は、多くの時間がかかり柔軟性のない試験プロトコルを実施した上で達成されるものである。例えば、改善した分析方法では、1人で分析用の12個分を1時間半で調製できると言われている。多くのステップを含む手動のプロセスは多くの時間と手間がかかる。また、FDAは、第1のクリーンアップ法ではこの方法の開発に多数のSPEカートリッジを試用し、分析対象物質の保持および溶出の特徴がどのカートリッジもすべて異なっていることがわかった。したがって、プロトコルは、試験せずに代わりに他のSPE吸着剤をこのステップで使用しないように規定している。さらにプロトコルは、いずれのSPEステップでも溶出プロセスを加速するのに真空を使用しないように規定している。すなわち、SPEステップでは、固体の固体相を通過して重力の作用によって滴下させるには液体の移動相が必要ということである。
【0009】
文献から、カートリッジを2つ垂直に重ね、アダプタで接続できることが知られているが、本発明者は、このように重ねると機械的に不安定で、背圧が高いために液体が流れにくくなり、自動SPEクリーンアップには不適切であることを発見した。そのため、技術としての自動SPEクリーンアップ自体は知られているものの、プロトコル自体の範囲内で操作を維持しつつアクリルアミドのクリーンアップをどのように自動化するのかという問題が依然としてあった。
【0010】
本発明者が発見したプロトコルに関するもう一つの問題が、手動の方法による多数のステップがあると、検出するアクリルアミドの量の差が大きくなるおそれがある点であり、これは固体相内の不要な不純物から不要な分析対象物質であるアクリルアミドを分離する度合いの差が原因であると思われる。この問題は、吸着材をカートリッジに充填する度合いの差に対する感度によって生じると考えられた。
【0011】
要するに、周知のアクリルアミドのクリーンアップ法は時間と手間がかかる上に間違いが起きやすい。試料および液体がカートリッジを通過する流量には著しい差があり、これは試料抽出液の性質に左右される。この差はのちの分析に影響を及ぼす可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「Detection and Quantification of Acrylamide in Foods(食品中のアクリルアミドの検出および定量化)」:米国保健社会福祉省、米国食品医薬品庁、食品安全・応用栄養センター、植物・乳製品・飲料課が2002年6月20日Draftで公表し、2002年7月23日および2003年2月24日に更新。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、アクリルアミドを含む試料に対する周知のSPEクリーンアップ方法に関するこれらの問題を少なくとも部分的に解消し、さらに広義には、食品から抽出した水溶性分析対象物質を含む試料の調製方法、およびこの方法に使用するカートリッジを提供することを狙いとするものであり、アクリルアミドは単なる一例にすぎない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、分析プロセスで使用する水溶性試料の調製方法であって、試料は食品由来の水溶性分析対象物質を少なくとも1つ含み、
(a)それぞれ異なる化学化合物を吸着するように配置した第1および第2の吸着材を備える固相抽出カートリッジであって、第1および第2の吸着材を内包して入口および出口を有するチャンバを備えるカートリッジを提供するステップと、
(b)食品由来の水溶性分析対象物質および不純物を少なくとも1つ含む水溶性試料を入口から流し、この試料を第1および第2の吸着材の少なくとも一方で分散させるステップと、
(c)第1および第2の吸着材で水溶性分析対象物質および不純物の少なくとも一方が少なくとも部分的に分離するように、入口から洗浄液を流すステップと、
(d)入口に溶出液を流すことによってカートリッジの出口から少なくとも1つの水溶性分析対象物質を溶出するステップと
を含む調製方法を提供する。
【0015】
本方法はさらに、ステップ(a)と(b)との間に、少なくとも1つの調整液を入口からカートリッジに流すことによって吸着材を調整するステップを含んでもよい。
好ましくは、第1および第2の吸着材は、カートリッジ内で2層になるように重ねて配置する。
【0016】
通常、第1の吸着材は、カートリッジの入口側に上層となるように配置し、疎水性の有機分子を吸着するのに適合した高分子吸着材を含み、かつ/または第2の吸着材はカートリッジの出口側に下層となるように配置し、アニオン化合物およびカチオン化合物を吸着するのに適合した混合モードのシリカベース吸着材を含む。
【0017】
通常、カートリッジには、同量の第1および第2の吸着材を入れる。
好ましくは、ステップ(b)、(c)および(d)の各ステップでは、それぞれの液体を正の流体圧かつ制御流量でカートリッジ内に注入する。
【0018】
さらに好ましくは、制御流量は事前に設定する。
望ましくは、ステップ(b)、(c)および(d)の各ステップでは、同量の制御流量を用いる。
【0019】
選択的に、ステップ(b)、(c)および(d)の各ステップでは、同量の液体を入口から注入する。
最適な実施形態では、少なくとも1つの水溶性分析対象物質はアクリルアミドを含む。
【0020】
本方法はさらに、入口と通じるように適合した液体注入装置と、洗浄液のソースと、溶出液のソースとを有する器具にカートリッジを設置するステップであって、試料はこの器具に搭載し、液体注入装置は試料の一部を調製用に採取するように適合させ、液体注入装置は、各試料のそれぞれの一部分、洗浄液および溶出液を選択して順次適合させてカートリッジに注入するステップを含んでもよい。
【0021】
通常、ステップ(d)で生成した溶出試料は、分析プロセスを実行するために自動的に器具に移送される。
本発明はさらに、それぞれが異なる化学化合物を吸着するように配置した第1および第2の吸着材を備え、カートリッジは第1および第2の吸着材を内包して入口および出口を有するチャンバを備え、第1および第2の吸着材はカートリッジ内で2層になるように重ねて配置し、第1の吸着材は、カートリッジの入口側に上層となるように配置し、疎水性の有機分子の保持に適合した高分子吸着材を備え、第2の吸着材は、カートリッジの出口側に下層となるように配置し、カチオン化合物およびアニオン化合物の保持に適合した混合モードのシリカベース吸着材を備える固相抽出カートリッジを提供する。
【0022】
好ましくは、カートリッジには、同量の第1および第2の吸着材を入れる。
本発明はさらに、食品由来のアクリルアミドを含む水溶性試料の自動調製方法であって、試料は、試料中のアクリルアミドの量を定量する分析プロセスで使用するものであり、
(a)それぞれ異なる化学化合物を吸着するように配置した第1および第2の吸着材を備える固相抽出カートリッジであって、第1および第2の吸着材を内包して入口および出口を有するチャンバを備えるカートリッジを提供し、入口に通じるように適合した液体注入装置と、洗浄液のソースと、溶出液のソースとを有する器具にカートリッジを設置するステップと、
(b)食品由来のアクリルアミドおよび不純物を含む水溶性試料を、液体注入装置を用いて正の流体圧かつ制御流量で入口から注入し、この試料を第1および第2の吸着材の少なくとも一方で分散させるステップと、
(c)第1および第2の吸着材でアクリルアミドと不純物とが少なくとも部分的に分離するように、ソースからの洗浄液の一部を、液体注入装置を用いて正の流体圧かつ制御流量で入口から注入するステップと、
(d)ソースからの溶出液の一部を、液体注入装置を用いて正の流体圧かつ制御流量で入口から注入することによって、カートリッジの出口からアクリルアミドを溶出するステップと
を含む自動調製方法を提供する。
【0023】
次に、本発明の実施形態を添付の図面を参照しながら例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態による、分析用試料の調製方法で使用するクリーンアップステップで用いる固相抽出(SPE)カートリッジの概略図である。
【図2a】〜
【図2d】クリーンアップステップの図1のカートリッジを使用する連続的段階の図である。
【図3】図2に示す方法を実施するための器具の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1では、固相抽出(SPE)カートリッジ2は、内チャンバ6を画定するハウジング4を備え、このハウジング4はチャンバ6への入口8および出口10を有し、入口8および出口10は同軸に一直線上にある。出口10は中空針12に接続してカートリッジ2用にシリンジ様の構造を形成している。チャンバ6は、フリット18で分離した2つの層、第1および第2の吸着材14、16を含む。第1および第2の吸着材14、16の各層は、それぞれ微粒子材料からなる充填体を備える。
【0026】
入口側に上層として配置する第1の吸着材14は、疎水性の有機分子を保持するのに適合した高分子吸着材を備える。特に、第1の吸着材14は、可湿性の逆相の高分子吸着材を備えてもよく、例えば米国マイアミ州Milford所在のWaters Corporation社からの販売により入手可能なOasis HLBなどがある。
【0027】
出口側に下層として配置する第2の吸着材16は、アニオン化合物およびカチオン化合物、ならびに高極性化合物の保持に適合した混合モードのシリカベース吸着材を備える。特に、第2の吸着材16は、スルホン酸およびシリカベースの4級アミンからなる可湿性の混合モードの吸着剤を備えてもよく、例えば米国カリフォルニア州ハーバーシティ所在のVarian社からの販売により入手可能なBond Elut Accucatなどがある。
【0028】
図示した実施形態では層状にしたカートリッジ2を開示したが、混合モードのカートリッジを代わりに用いて2つの微粒子吸着材からなる物理的混合物を組み入れてもよい。
通常、例えば重量で測定した第1および第2の吸着材14、16の量は同じだが、これらの量は変化することがある。
【0029】
本発明の好適な実施形態で使用する典型的なカートリッジの容積は3mlであり、第1および第2の吸着材14、16をそれぞれ100mg含む。しかし、本発明に従ってカートリッジの容積および/または吸着材の量がこれとは異なるものを使用してもよい。
【0030】
使用の際には、カートリッジ2には、共通カートリッジ2で吸着材14、16の両方を使用する単一カートリッジクリーンアップ方法による一連のステップを実行する。
カートリッジ2に以下の一連のステップを実行する。
【0031】
1.吸着材をメタノールなどの低極性溶媒または極性溶媒で平衡させたのち、水で洗浄して吸着剤の表面を湿らせる調整ステップ。溶媒およびその後用いる水は、制御流量で順次入口から注入する。
【0032】
2.分析する予定の分析対象物質を含む水溶性試料であって、分析対象物質がアクリルアミドなどの食品由来の水溶性分析対象物質である水溶性試料を制御流量で入口から注入することによって、吸着材中の試料の化合物をいくらか分離する(以下で詳細に説明)試料添加ステップ。
【0033】
3.水を事前に設定した制御流量で入口から注入し、吸着材中の試料の化合物をさらに分離する(以下で詳細に説明)洗浄ステップ。
4.水を事前に設定した制御流量で入口から注入し、出口から流れる溶出抽出液の流れを生成する溶出ステップ。この溶出抽出液は、次の分析用に捕集する。
【0034】
各ステップでは、それぞれの液体を正の流体圧かつ制御流量でカートリッジに通す。
溶出抽出液はその後、LC/MS/MSによる分析器具に通す。
水の代わりに、緩衝液の配合物を試料および/またはクリーンアップ方法の両方に用いてもよい。
【0035】
図2aを参照すると、調整ステップでは、第1および第2の吸着材14、16をメタノールなどの溶媒で平衡させたのち、水で洗浄して吸着剤の表面を湿らせる。こうすることによって、吸着材14、16は水で湿った状態で残り、注入した水が先にあったメタノールに取って代わり、メタノールを出口から排出する。容積が3mlのカートリッジで、第1および第2の吸着材14、16をそれぞれ100mg含む場合、このカートリッジにはメタノール0.5mlおよび水0.5mlを、それぞれ制御流量40μl/sで注入することができる。
【0036】
図2を参照すると、試料添加ステップでは、注入した試料は水の一部に取って代わり、水は出口から排出され、試料は上方の吸着材14に分散する。前述のように識別した容積が3mlのカートリッジの場合、抽出液0.5mlを制御流量20μl/sでカートリッジに注入することができる。
【0037】
図2cを参照すると、洗浄ステップでは、前述のように識別したカートリッジを使用し、水0.5mlを制御流量20μl/sでカートリッジに注入する。こうすることによって、吸着材14、16の間の抽出液中の化合物が分離する。図にベンゼンリングで概略的に示した疎水性の有機材料は、第1の高分子吸着材14中に保持される傾向にある。図2に+/−で概略的に示したイオン(アニオンおよびカチオン)化合物および任意の高極性の種は、混合モードの第2の吸着材16で薄まり、保持される傾向にある。図2にAAで概略的に示したアクリルアミドなどの水溶性分析対象物質は、第1の高分子吸着材14の下方部分と混合モードの第2の吸着材16の上方部分との間に広がる帯域として実質的に保持される傾向にある。すなわち、2重の吸着材が抽出液の添加ステップおよび洗浄ステップを用いることにより、抽出液の化合物をクロマトグラフィー様に分離することができる。
【0038】
図2を参照すると、最後の溶出ステップでは、前述のカートリッジを使用して例えば0.5mlの水を、事前に設定した例えば20μl/sの流量で入口から注入し、出口から出る水溶性の溶出抽出液の流れを生成する。この流れは水溶性分析対象物質に富み、疎水性の有機材料およびイオン(アニオンおよびカチオン)を含む高極性の種がカートリッジ内に保持されるようにする。
【0039】
図3を参照すると、本発明の好適な実施形態の方法では、カートリッジ2を、入口8に通じるように適合したシリンジ形状の液体注入装置22を有する器具20に配置する。器具20は、調整溶媒24(例えばメタノール)のソースおよび洗浄液および/または溶出液26のソースを備え、この洗浄液および溶出液は共に水でもよいし、オプションとして異なるものであってもよい。例えばバイアル30で精製する分析対象物質を含む水溶性の液体の食品抽出液の試料28を、器具20に搭載する。バイアル30は、密閉したエラストマーキャップ32を有することができ、このキャップに液体注入装置22のシリンジ針34を差し込んで試料の食品抽出液の一部を採取する。液体注入装置22は、試料28、調整溶媒、洗浄液および溶出液の各部分を選択的に順次制御、操作してそれぞれをカートリッジ2に注入する。最初の溶出用の試料は、もう一つのバイアル36に捕集されたのち、分析プロセスを実行するために自動的に器具38に移送される。
【0040】
クリーンアップ方法でこの一連のステップを使用し、2つの吸着材を有するカートリッジを用いることにより、アクリルアミドなどの食品由来の水溶性分析対象物質に対して、従来のクリーンアップ方法よりも、特に、上で考察したFDAのアクリルアミドに対する方法よりも有意な利点が提供される。
【0041】
2つの吸着材を含む単一のカートリッジを使用することにより、試料添加ステップが1つ、および溶出ステップが1つしかなく、手動での取り扱いを回避することができるため、クリーンアッププロセスを自動化することができる。サイクルの時間は、FDAの方法でかかった1時間半から10分未満に短縮することができる。
【0042】
LC/MS/MSによる分析に使用する試料を調製するための、商業的に入手可能な自動SPE試料クリーンアップ器具を使用することができ、例えばドイツのルール地方ミュールハイムD−45473所在のGerstel GmbH & Co.KG社から販売されているものが入手可能である。自動SPE試料クリーンアッ器具は、LC/MS/MS質量分析器に接続することができ、24時間無人の自動試料クリーンアップおよび分析が可能になる。
【0043】
各ステップで正の流体圧および制御流量を利用してそれぞれの液体をカートリッジに注入することにより、重力による滴下の供給に依存するのを回避し、FDAの方法でみられたカートリッジのふさがりに起因する背圧の問題が解消される。また、これらのステップにより、精度および繰り返しの適合性が向上し、カートリッジへの吸着材の充填密度に差があることで生じる分析対象物質の定量の差が軽減する。分析結果の精度を潜在的に改善することができる。
【0044】
本発明の実施形態は特に、食品からの抽出液からアクリルアミドを定量した例を参考にして説明したが、本発明は、食品中に存在することがあるフレーバー開発過程の一部として、これ以外の水溶性分析対象物質にも応用される。
【0045】
本明細書に開示した本発明の実施形態にはその他の修正は、当業者には容易に明らかになるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析プロセスで使用する水溶性試料の調製方法であって、前記試料は食品由来の水溶性分析対象物質を少なくとも1つ含む調整方法において
(a)それぞれ異なる化学化合物を吸着するように配置した第1および第2の吸着材を備える固相抽出カートリッジであって、前記第1および第2の吸着材を内包して入口および出口を有するチャンバを備えるカートリッジを提供するステップと、
(b)食品由来の水溶性分析対象物質および不純物を少なくとも1つ含む水溶性試料を前記入口から流し、この試料を前記第1および第2の吸着材の少なくとも一方で分散させるステップと、
(c)前記第1および第2の吸着材で前記水溶性分析対象物質および前記不純物の少なくとも一方が少なくとも部分的に分離するように、前記入口から洗浄液を流すステップと、
(d)前記入口に溶出液を流すことによって前記カートリッジの前記出口から前記少なくとも1つの水溶性分析対象物質を溶出するステップと
を含む調製方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)と(b)との間に、少なくとも1つの調整液を前記入口から前記カートリッジに流すことによって前記吸着材を調整するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1および第2の吸着材は、前記カートリッジ内で2層になるように重ねて配置する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の吸着材は、前記カートリッジの入口側に上層となるように配置し、疎水性の有機分子を吸着するのに適合した高分子吸着材を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の吸着材は、前記カートリッジの出口側に下層となるように配置し、アニオン化合物およびカチオン化合物を吸着するのに適合した混合モードのシリカベース吸着材を含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記カートリッジには、同量の前記第1および第2の吸着材を入れる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(b)、(c)および(d)の各ステップでは、それぞれの液体を正の流体圧かつ制御流量でカートリッジ内に注入する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記制御流量は事前に設定する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)、(c)および(d)の各ステップでは、同量の制御流量を用いる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(b)、(c)および(d)の各ステップでは、同量の液体を前記入口から注入する、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの水溶性分析対象物質はアクリルアミドを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記入口と通じるように適合した液体注入装置と、洗浄液のソースと、溶出液のソースとを有する器具に前記カートリッジを設置するステップであって、前記試料は前記器具に搭載し、前記液体注入装置は前記試料の一部を調製用に採取するように適合させ、前記液体注入装置は、前記各試料のそれぞれの一部分、前記洗浄液および前記溶出液を選択して順次適合させて前記カートリッジに注入するステップをさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(d)で生成した前記溶出試料は、前記分析プロセスを実行するために自動的に器具に移送される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
それぞれが異なる化学化合物を吸着するように配置した第1および第2の吸着材を備える固相抽出カートリッジであって、
前記カートリッジは前記第1および第2の吸着材を内包して入口および出口を有するチャンバを備え、前記第1および第2の吸着材は前記カートリッジ内で2層になるように重ねて配置し、前記第1の吸着材は、前記カートリッジの入口側に上層となるように配置し、疎水性の有機分子の保持に適合した高分子吸着材を備え、前記第2の吸着材は、前記カートリッジの出口側に下層となるように配置し、カチオン化合物およびアニオン化合物の保持に適合した混合モードのシリカベース吸着材を備える
固相抽出カートリッジ。
【請求項15】
前記カートリッジには、同量の前記第1および第2の吸着材を入れる、請求項14に記載のカートリッジ。
【請求項16】
食品由来のアクリルアミドを含む水溶性試料の自動調製方法であって、前記試料は、前記試料中のアクリルアミドの量を定量する分析プロセスで使用するものである水溶性試料の自動調製方法において、
(a)それぞれ異なる化学化合物を吸着するように配置した第1および第2の吸着材を備える固相抽出カートリッジであって、前記第1および第2の吸着材を内包して入口および出口を有するチャンバを備えるカートリッジを提供し、前記入口に通じるように適合した液体注入装置と、洗浄液のソースと、溶出液のソースとを有する器具に前記カートリッジを設置するステップと、
(b)食品由来のアクリルアミドおよび不純物を含む水溶性試料を、前記液体注入装置を用いて正の流体圧かつ制御流量で入口から注入し、前記試料を前記第1および第2の吸着材の少なくとも一方で分散させるステップと、
(c)前記第1および第2の吸着材でアクリルアミドと不純物とが少なくとも部分的に分離するように、前記ソースからの洗浄液の一部を、前記液体注入装置を用いて正の流体圧かつ制御流量で入口から注入するステップと、
(d)前記ソースからの溶出液の一部を、前記液体注入装置を用いて正の流体圧かつ制御流量で入口から注入することによって、前記カートリッジの出前記口からアクリルアミドを溶出するステップと
を含む自動調製方法。
【請求項17】
前記第1および第2の吸着材は、前記カートリッジ内で2層になるように重ねて配置する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の吸着材は、前記カートリッジの入口側に上層となるように配置し、疎水性の有機分子を保持するのに適合した高分子吸着材を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の吸着材は、前記カートリッジの出口側に下層となるように配置し、アニオン化合物およびカチオン化合物を保持するのに適合した混合モードのシリカベース吸着材を含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記制御流量は事前に設定する、請求項16〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ステップ(b)、(c)および(d)の各ステップでは、同量の制御流量を用いる、請求項16〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ステップ(b)、(c)および(d)の各ステップでは、同量の液体を前記入口から注入する、請求項16〜21のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−501231(P2013−501231A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523328(P2012−523328)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061361
【国際公開番号】WO2011/015605
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(512029249)フリト−レイ トレーディング カンパニー ベーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】FRITO−LAY TRADING COMPANY GMBH