説明

分析用試料の電解研磨装置

【課題】使用する電解液が極めて少量であり、環境への負荷が劇的に減少すると共に、透過型電子顕微鏡による試料の観察視野も広く且つ安価な電解研磨装置を提供する。
【解決手段】試料及び又は棒状電極の先端の位置を観察する観察鏡と、試料セル保持台に着脱可能に取り付けられ、上下方向に開口部を有し、開口部において試料を均一に保持すると共に少量の電解液を保持する試料セルと、試料セルの対極として試料に近接して設けられた棒状電極と、棒状電極と試料との間隔を調整する位置調整手段と試料と棒状電極とに電圧を印加する電圧印加手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用試料、特に透過型電子顕微鏡用の薄膜試料を作製するための電解研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の透過型電子顕微鏡用の薄膜試料は、電解研磨法やイオンミリング又は集束イオンビーム法等によって作製されている。
金属材料のミクロ組織などを観察するための薄膜試料を電解研磨法により作製するものとして、ツインジェット電解研磨装置(テヌポール 透過電子顕微鏡検査用試料の自動電解薄化装置)が広く用いられている。
また、このツインジェット電解研磨装置を改良するものとして特許文献1が提案されている。この装置によれば、試料の開孔と同時に、電圧の印加と研磨液の供給とを停止し、直ちに試料及び電極にバイアス電圧を印加すると共に試料に洗浄液を供給して洗浄する方式であるから、即座に研磨液が洗い流され、試料周辺に残留した研磨液による試料への無電解めっきを防止でき、良好な薄膜試料を作製することができるものである。
【0003】
特許文献2には、エレクトロ分野において走査トンネル顕微鏡と、その深針を使用し被加工物表面に少量の電解液を滴下し、微細な凸部や凹部を形成するに好適な方法及び装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−337012号公報(特許第3688553号)
【特許文献2】特開平06−297252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
テヌポール透過電子顕微鏡検査用試料の自動電解薄化装置及び特許文献1記載の発明は、電解浴槽に金属性の直径3mm程度の円板状の試料を鉛直に支持して、試料の両側面に電極を向かい合わせて配置し、試料と電極との間に電解研磨液を噴出すると同時に試料と電極との間で電圧を印加して、試料の両面を同時に電解研磨するものであるから、透過型電子顕微鏡用の開孔試料をわずか数分で作製できるものである。
しかしながら、この装置においては、電解液は試料の両側から噴出し続ける必要があり、電解液を大量(例えば200ml〜1.0l)に消費するのみならず、電解液を回収するためのタンクや電解液循環用のポンプを必要とするなど装置が複雑、高価であるという問題の他に、使用後の電解研磨廃液の廃棄等が環境に多大な負担を与え解決が望まれていた。
【0006】
特許文献2記載の発明は、走査トンネル顕微鏡を使用し、その深針を被加工物に近接させ、載置した容器(オーリング)中に電解液を浸した状態で、深針と被加工物との間で電圧を印加し、被加工物の表面に微細なnmからμmオーダーの凹凸を作製し得るもので、電解液の使用量も少なくできるという利点があるが、この場合は、エレクトロニクスの分野において、高集積化や微細素子化に伴って、リソグラフィー用マスクの描画や素子内部の配線加工などにおいて、試料ステージ上の被加工物の表面に微細な凹凸形状を得るためのものであり、その為には走査トンネル顕微鏡を用いるものでなければならず、やはり装置が高価であるという問題がある。
また、透過型電子顕微鏡用の中央部に微細孔を有する薄膜試料作製のためには、試料の周辺部を如何に均等に電極と接触させるかが最重要点であるが、特許文献2記載の発明においては、この点について全く記載されておらず透過型電子顕微鏡用の試料のように開口を有する薄膜試料の作製は困難である。
また、イオンミリング、集束イオンビーム法によれば環境への負担は少ないが、イオンを照射してスパッタにより試料を作製するため、試料に損傷が導入されるために、格子欠陥等の解析には不向きである。従って電解研磨法が行えない場合の次善の方法として用いられる程度である。
【0007】
本発明は、ツインジェット電解研磨のような複雑で高価な装置を用いないで、且つ走査型トンネル顕微鏡のような高価な装置を必要とせず、電解液の使用量を極端に減少させることができると共に、安価な装置で且つ確実に透過型電子顕微鏡用の薄膜試料を作製できる電解研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、棒状電極の位置及び/又は試料の電解研磨面を観察するための観察鏡と、試料を保持する試料セル保持台と該試料セル保持台に着脱可能に取り付けられ、上下方向に開口部を有し、該開口部において試料を保持すると共に電解液を保持する試料セルと、該試料セルの対極として試料に近接して設けられた棒状電極を保持し試料との間隔を調整する電極位置調整手段と、試料と棒状電極に電圧を印加するための電圧印加手段とを備え、前記棒状電極を電圧印加手段の陰極側に接続すると共に前記試料を電圧印加手段の陽極側に接続し、試料に電解液を滴下した状態で電圧を印加することにより、前記試料を電解研磨して開孔薄膜化することを特徴とする分析用試料の電解研磨装置を特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、上下方向に開孔部が設けられると共に、外周にねじ部を有する筒状の試料受け部材と、該試料の半径方向と垂直方向の位置を決めるスペーサと試料及びスペーサを押さえる導電性の中間材と該中間材に当接すると共に前記筒状の試料受け部材の内周に配設された導電性のリング材と、該リング材及び中間材を押圧する押え部材と、該押さえ部材とリング材を締め付け固定する前記試料受け部材のねじ部と嵌合する袋ナットを具備してなる請求項1記載の試料セルを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、スライドベースと、該スライドベースの上部に固着されたスライドベースガイドと、該スライドベースガイドに水平方向スライド自在に挿入され、略中央部において試料セルを保持する空間を有するスライド板と、該スライド板に取り付けられたセルチャックとを具備してなる試料セル保持台である。
【0011】
請求項4記載の発明は、電極保持台と該電極保持台との間で絶縁体を介在させて固着されたマイクロメータヘッドと該マイクロメータヘッドに保持された棒状電極とを備えてなる請求項1記載の電極位置調整手段である。
【0012】
請求項5記載の発明は、試料セルの下方にあって、試料に明けられた微小孔を確認する光検知手段を配設してなる請求項1記載の分析用試料の電解研磨装置を特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、試料セルの近傍であって、電解研磨によって発生するガスを吸引排出する電解ガス排出手段を配設したことを特徴とする請求項1記載の分析用試料の電解研磨装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、安価な実体顕微鏡の双眼鏡の光軸の一つに対応する位置にある試料セル保持台に、試料及び電解液を保持する試料セルを、着脱可能に固着すると共に、実体顕微鏡の支柱のステージ及び電極保持台に取り付けられた棒状の電極(好ましくは先端が尖った針状電極)を、試料に近接して上下自在に配置することができるものであり、電解液は試料の上面に少量滴下するのみで、分析用の薄膜試料を確実に作製することができる。前述した従来の電解研磨装置に比べ、使用する電解研磨液が劇的に減少するため環境への負荷も劇的に減少する。
また、試料に損傷が導入されないために、その後の透過型電子顕微鏡観察で得られた観察結果の信頼性も高い。また、観察視野も数十倍以上広く、得られる情報量も数十倍以上となる。
【0015】
請求項2記載の発明は、本発明に係る電解研磨装置の重要な部分を構成するものであって、試料受け部材に載荷された試料を、電極部をなす導電性の中間材とリングとを袋ナットで押圧して、試料と電極の周辺部とを均一に接触させることができるので、試料の中央部以外の点が優先的に研磨されるようなことが無く、常に試料中央部において良好な開孔部を有する薄膜試料を作製することができる。
【0016】
請求項3記載の発明は、試料セルを所定の位置に固着すると共に、試料セルを反転させる場合にも好都合なもので、試料セルを水平方向にスライドさせ、スライドベースに設けられた切り欠き部に試料セルを挿入すると同時にセルチャックで把持する構成であるので、試料セルを所定の位置に簡単に保持することができると共に、試料を反転させる場合には、セルチャックの把持を解除し、手前に引き出して試料セルを反転させた上で、再びスライド挿入させることで、迅速に試料のセットを完了させることができ、続いて電解研磨を行うことができるので生産性が高いものである。
【0017】
試料セルと棒状電極との間隔は良好な電解研磨を行う上で重要な要素の一つである。請求項4記載の発明によれば、電極位置調整手段を作動させることで、試料に対し所望の位置に棒状電極の先端を設定することができる。また試料と棒状電極の間隔を微妙に設定する場合には、電極保持台に取り付けられているマイクロメータヘッドを操作することにより、0.5mmから1.0mm程度の微小な調整を行い得るものである。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、試料セルの下方に配設した光検知手段により、試料の開孔状態を確認することができるので、試料の開孔を確認すると同時に電圧印加手段を切断することが可能となる。また電解液も少量であるのでほぼ消費され、これ以上の余分な電解研磨が行われず良好な薄膜試料の作製を可能とする。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、電解研磨によって発生する微量のガスを、吸引排出することができるので、狭い部屋で作業を行う場合にも安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る分析用試料の電解研磨装置の実施の形態について図面を基に説明する。
図1ないし図5は本発明に係る第一の実施の形態を表わし、図1は電解研磨装置の全体構成図、図2は実体顕微鏡の2つの光軸を示す説明図、図3は実体顕微鏡の支柱に取り付けられた針状電極の部分断面図、図4は試料及び電解液を保持するための試料セルを表わす断面図、図5は実体顕微鏡の試料保持台と、この試料保持台に着脱可能に取り付けられた試料セルとの関係を示す断面図である。
【0021】
本電解研磨装置は、後述するように実体顕微鏡の2つの光軸上の1つの位置に、合金などからなる直径3mm、厚さ0.5から1.0mm程度の円板の中央部を集中的に電解研磨して、微小孔が開いた時点で研磨を終了し、微小孔の周囲に200μm以下の非常に薄い観察可能領域を持つ試料を作成するものである。
【0022】
主要な構成としては、実体顕微鏡Pの観察面Kの位置にその中心位置がくるように設置された試料セルQと、試料セルQを保持する試料セル保持台S、実体顕微鏡の支柱4に上下動自在に取り付けられ、マイクロメータヘッド12の先端に固定された棒状電極13を有する電極位置調整手段Rと、試料20と棒状電極13とに電圧を印加する電圧印加手段Tとを備えている。棒状電極は、例えば溶接棒でも良いが、微小孔を作製するものであるため、より好ましくは先端を尖らせた針状のものが良い。以下針状電極として説明する。
【0023】
実体顕微鏡Pは、顕微鏡1,2の光軸の位置にレンズ3を有し、ステージ5により支柱4に上下動自在に取り付けられている。
【0024】
針状電極13の先端の位置を決める電極位置調整手段Rはステージ6の固定用ねじ15及び上下動用ねじ16により上下動自在に支柱4に取り付けられ、ステージ6には電極保持台10が固着されると共にマイクロメータヘッド12とその先端に設けられた針状電極13を保持している。17はステージ6の下方に設けられたストッパで支柱の支え部材18に当接するまで下げると針状電極13の先端は略試料20に近接する位置に設定することができる。
【0025】
試料セルQはその中央部で試料20を保持すると共に電解液を保持し、試料セル保持台8に装着される。
針状電極13はマイクロメータヘッド12を介して電圧印加手段Tの陰極側に接続され、試料20は中間材23、リング材24、袋ナット25及び袋ナット26を介して電圧印加手段Sの陽極側に接続される。
【0026】
電極位置調整手段Rの先端に取り付けられる針状電極13は、図2に示すように実体顕微鏡Pの下方に位置している電極保持台Rに設けられている2つの光軸A、Bのうちの1つ例えばAにその中心がくるように取り付けられる。Bについては図示しないが観察用の単眼鏡を取り付け針状電極の位置及び又は電解研磨面を観察することができる。
説明は省略するが、孔Aを利用して、試料20に予備研磨を施すこともでき、後の試料20の電解研磨作業を迅速化することもできる。
【0027】
10は実体顕微鏡の支柱4に上下動可能に取り付けられたステージ6に固定された電極保持台で絶縁材14を介してマイクロメータヘッド12とその先端に針状電極13が取り付けられ、電圧印加手段の陰極側に接続されている。
【0028】
次に試料セルQについて説明する。20は薄膜作製用の試料、21はアクリルなど透明絶縁性の材料からなる円筒体の試料受け部材で外周上方に雄ねじ切られている。22はSUS304材からなる導電性のスペーサで試料20の厚さと同等か、若干薄く製作されたものを載置する。23はSUS304材からなる導電性の若しくはNi−Ti合金の疑似弾性材料などからなる中間材である座金で、試料20及びスペーサ22を押圧し試料20の周辺に均一な電流を流すように工夫されている。24は黄銅のリング材、25はリング材24と共に座金23を押さえ込むための塩化ビニール製等の押さえ部材、25は内周に雌ねじが切られ試料受け部材21の雄ねじと嵌合し、押さえ部材25、リング材24を締め付け固定する袋ナットである。試料20は電圧印加手段の陽極側に接続される。
このような構成とすることにより、試料20を観察面Kの位置にその中心が来るように固定することができると共に試料20の周辺部に均一に電流を流すことができる。
【0029】
試料セルQは図5に示すように実体顕微鏡の架台7に固着されている試料セル保持台8の筒体部9の上面に載置される。筒体部9の外周には雄ねじ11が設けられており、下方内周に設けられている雌ねじを有する袋ナット27により試料セルQを試料セル保持台8に位置決め固定することができる。28は袋ナット及び試料セルQの要所に開けられた観察孔で、針状電極13と試料20との間隔などを監視するものである。
なお、この観察孔28は必ずしも設ける必要はない。この場合は、前述したように図2に示す光軸Bに配設した単眼鏡等からなる観察鏡により、針状電極13の先端位置などを確認する。
【0030】
針状電極13と試料20との間隔は0.3mmから2.0mm程度であれば良いが、0.5mmから1.0mm程度が好ましい。試料20に近すぎれば針電極13が試料に接触する恐れがあり、1.0mm以上であれば試料20に開孔を施すことは可能であるが、開孔部周辺に良好な薄膜部を作製することができない。電解液は1ないし数滴あれば良くスポイド等で試料20の上面に滴下する。
【0031】
29は試料セルQの下方に設置した透明ガラス、30はファイバスコープを示し、光検知手段を構成するものであり、電解研磨による孔開きの状態を観察し、試料20が開孔したら直ちに電圧印加手段Tのスイッチを切断し電解研磨を停止する。図示しないがファイバスコープからの信号を光センサでキャッチし、自動的に電圧印加手段を停止する構成とすることもできる。
なお、ここでは図示しないが電解研磨時に発生するガスを集めるカバー若しくは吸引ノズルを設け、吸引排出することにより、安全性を高めることも考慮している。
【0032】
また、電解研磨の途中で試料の孔開きの状態を観察したい場合がある。この場合はステージ6のストッパ15を緩め上下動ねじ16を作動させることによりステージ6を上方に移動し、電極保持台10及び針状電極13を上方に移動させ、支柱4を軸芯として若干スイングさせれば、上方から電解研磨の途中の状態を顕微鏡観察することができる。あるいは、図示しない単眼鏡で常時観察することも可能である。
【0033】
薄膜試料作製のための電解研磨の手順は次の通りである。前述したように試料20を試料セルQにセット後試料セルQを試料保持台Sの基部8につながる筒状部9上に載置し、袋ナット26で実体顕微鏡の架台7に固着する。次いで、電極位置決め手段用のステージ6の下方に設けられているストッパ17が支柱支持部材18に当たるまで下方に下げることにより、針状電極13は試料20の上方近接する位置に配置される。
次いで、前述の孔Bに配設された観察用レンズで針の先端を見ながらマイクロメータヘッド12を作動し、針状電極13と試料20との間隔を0.5mmから1.0mm程度になるように調整する。
中性の電解液を試料セル20の上面に滴下し、電圧印加手段Tの陽極側に接続した試料20と陰極側に接続した針状電極13との間に電圧を印加することにより、数分間で試料セル20の中央部に微小な孔を開けることができる。電解研磨の状態は常時ファイバスコープ29で観察してあるので、試料20に孔が開けば直ちに電圧印加手段を自動停止する。これにより試料セル20の中央部孔の周辺に均一な薄膜を作製することができる。
【0034】
薄膜試料として、試料セル20について厚さ方向両面から孔を開けたい場合がある。この場合には電解研磨の処理時間をタイマーで設定するか若しくは電解研磨の状況を、前述の単眼鏡により観察し、所望のところで電圧印加手段Tを停止し、電解液を拭き取り針状電極13を上方に移動した上で試料セルQの固定用の袋ナットを緩め、次いで試料セルQを反転させた上で試料セル保持台Sに載置し袋ナット26で締め付け固定する。再び電解液を滴下し、針状電極を下げ試料セル20と針状電極13との間隔を調整した上で、電圧を印加し電解研磨を行うと微小孔が開通しその周辺に最適な薄膜試料を得ることができる。
【0035】
次に第二の実施の形態について図6ないし図8を用いて説明する。図6は第二に実施の形態に係る正面図、図7は側面図、図8は平面図を示す。
【0036】
104は第二の実施の形態における電解研磨装置の支柱、118は支柱支持台、107は架台を示す。支柱104に嵌合しているステージ105には電極保持台110が固着され絶縁材からなる取付座114を介してコレットナット131、コレットケース132に収納されているコレット133によりマイクロメータヘッド112が取り付けられ、その先端には針状電極113が固定されている。これらは針状電極の位置調整手段R1を構成する。
【0037】
101は単眼鏡で針状電極113と試料セル120との位置を調整する場合に観察すると共に、必要に応じて電解研磨の状態を観察するためのものであり、単眼鏡保持台134に固定され、支柱104に回動自在に取り付けられている。135、136はステージ105及び単眼鏡保持台134の上下方向の位置を固定するスリットカラーを示す。
【0038】
次に試料セル保持台S1及び試料セルQ1について説明する。第一の実施の形態において試料20は試料セル保持台Sに対し、上方から載置し袋ナットにより固定する方式のものであったが、本実施の形態においては試料セルQ1は試料セル保持台S1に対し、水平方向からスライドさせ固定する方式のものである。
架台107に固定されているスライドベース118の上部には、スライドベースガイド137、138が設けられ、更にスライドベースガイド137、138で形成される凹部にはスライドベース139がスライド挿入される。試料セルQ1を保持するためのスライドベース139の中央部には試料セルと略同一の切欠部が設けられると共に試料セルQ1を保持するセルチャック140、141がチャックセンターボルト142により固定される。セルチャック140、141は、ばねポスト143により引張りばね144に引張り力が働くように取り付けられている。
【0039】
試料セルQ1を水平方向に押し込むことにより、セルチャック140、141は引張りばね144に抗して左右に開き試料セルQ1を把持する。
また、試料セルQ1を反転させる場合には、スライドベース板139を水平方向に引張り出して反転後、再度挿入するか若しくは引張りばね144に抗して試料セルQ1を取り出し反転後再度スライドベースに沿って挿入しセルチャック140、141で固定する。
【0040】
145は透明ガラスなどからなる電解液の受皿、146は発光素子などからなる光検知手段、147は光検知手段のスイッチを示す。Uは試料の電解研磨によって発生する電解ガス排出手段で、148は試料セルQ1の近傍に配設され試料120の電解研磨により発生するガスを吸引するノズル、149はガス吸引タンクを示し、微量の発生ガスを吸引し処理するものである。試料セルQ1については、前述した実施の形態1における試料セルQと全く同一であるので説明は省略する。
【0041】
試料120を試料セルQ1に取り付けた状態で試料セル保持台S1のスライドベース板139に試料セルQ1をスライドさせ、セルチャック140、141にて把持し固定する。
針状電極113は予め電極位置調整手段により試料120の上方1.5から2.0mm程度に近接して取り付けられているので、単眼鏡101で観察しながらマイクロメータヘッド112により試料120と針状電極との間の間隔を0.5から1.0mm程度に調節する。試料120の上に中性の電解液を1ないし数滴程滴下し、図示は省略しているが、前述の図1に示したものと同様に、試料120を電圧印加手段の陽極側に、針状電極を陰極側に接続して、電圧を印加することにより試料120の中央部に0.5から1.0mm程度の孔が開孔しその周辺に良好な薄膜部を形成することができる。
【実施例1】
【0042】
直径3mmのクロム、ニッケル系合金を予め板厚1mm以下に加工した試料を、第一の実施の形態における試料セルQにセット、試料セル保持台Sに固定した状態でスポイドにより中性の電解液を1ml程度滴下し、SUS304ステンレス製の針状電極を用い、試料と針状電極との間隔を0.5mmから1.0mm程度に調整し、電圧印加手段により5Vから30V程度の電圧を印加したところ、試料の中央部において、約5分で0.5mm程度の孔を開けることができ、開孔部周辺に200nm以下に薄膜化することができた。洗浄、乾燥させた上で、透過型電子顕微鏡で観察したところ、観察視野が広く十分分析、観察することができた。
【実施例2】
【0043】
実施例1と同様の試料を試料セルQにセットし、試料セル保持台Sに取り付けた後、試料と針状電極との間隔を1.0mm程度に調整した上で、電解液を滴下しタイマーにより2分間電解研磨を行ったところで、印加電圧を停止し試料セルを反転させて再セットし、針状電極と試料との間隔を1.0mm程度にした上で電解液を滴下し、電解研磨を行ったところ更に2分程度で0.5から1.0mm程度の孔を貫通させることができ、その周囲には200nm以下の非常に薄い観察可能な領域を作製することができた。
【実施例3】
【0044】
実施例1と同様の試料を準備し、上述の図2における孔Bを利用して、手動による電解研磨により予め試料中央部分に直径1.5mm程度のディンプルを施し、このディンプルのついた試料を実施例1と同様に試料セルQにセットし、試料セル保持台Sに固着した状態で、電解液を滴下して電解研磨を行ったところ4分程度で孔が開き、その周囲を良好に薄膜化することができた。
【実施例4】
【0045】
実施例1と同様の試料を試料セルQ1にセットし、第二の実施の形態における試料セル保持台S1にスライド把持した状態で、試料と針状電極との間隔を0.5から1.0mmに調整した上で、中性の電解液を1から2ml程度滴下した状態で、約20Vの電圧を印加した。数分で0.5から1.0mm程度の開孔部を設けることができた。試料に特別な損傷がなく観察視野も広く信頼性の高い薄膜試料であることが確認された。
【実施例5】
【0046】
実施例4と同様に試料をセットし、試料と針状電極との間隔を0.5から1.0mm程度に調整した上で、中性の電解液を1ml程滴下し、単眼鏡で観察しながら3分間程電解研磨を行った後、試料をスライドさせて取り出した上で、直ちに電解面を拭き取り洗浄後、試料を反転させて再度挿入セットし、電解液を1ml程度滴下し電解研磨を行ったところ、約2分で開孔した。
本実施例では前述の実施例2の場合に比べ、試料を迅速に反転セットすることができるので、試料の両側から開孔し薄膜試料を作成する場合に有利である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、分析試料の作製、特に透過電子顕微鏡を用いて材料のミクロ組織などを観察する薄膜試料作製に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明第一の実施の形態に係る電解研磨装置の正面概略説明図である。
【図2】本発明第一の実施の形態に係る実体顕微鏡の下方に取り付けられる電極保持台の二つの光軸の利用の状況を示す説明図である。
【図3】本発明第一の実施の形態に係る針状電極と電極保持台との関係を表わす断面図である。
【図4】本発明に係る試料セルの詳細断面図である。
【図5】本発明第一の実施の形態に係る試料セルを実体顕微鏡の試料セル保持台に取り付けた状態を示す詳細断面図である。
【図6】本発明第二の実施の形態に係る電解研磨装置の正面図である。
【図7】本発明第二の実施の形態に係る電解研磨装置の側面図である。
【図8】本発明第二の実施の形態に係る電解研磨装置の平面図である。
【符号の説明】
【0049】
A、B 実体顕微鏡の光軸
P 実体顕微鏡
Q、Q1 試料セル
R、R1 針状電極の位置調整手段
S、S1 電圧印加手段
T 電圧印加手段
U 電解ガス排出手段
1、2 双眼鏡
3 レンズ
4、104 支柱
5、6、105 ステージ
7、107 架台
8 試料セル保持台の基部
9 試料セル保持台の筒状部
10、110 電極保持台
11 ねじ部
12、112 マイクロメータヘッド
13、113 針状電極
14、114 絶縁材からなる取付座
15 ステージ固定用ねじ
16 ステージ上下動ねじ
17 ストッパ
18 支柱支持台
20、120 試料
21 試料受け部材
22 スペーサ
23 中間材(座金)
24 リング材
25 押さえ部材
26、27 袋ナット
28 観察孔
29 透明ガラス
30 ファイバースコープ
101 単眼鏡
118 スライドベース
134 観察鏡保持台
135、136 スリットカラー
137、138 スライドベースガイド
139 スライドベース
140、141 セルチャック
142 チャックセンターボルト
143 ばねポスト
144 引張りばね
145 電解液受け皿
146 光検知手段
147 光検知手段スイッチ
148 ガス吸引ノズル
149 ガス処理タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状電極の位置及び/又は試料の電解研磨面を観察するための観察鏡と、試料を保持する試料セル保持台と該試料セル保持台に着脱可能に取り付けられ、上下方向に開口部を有し、該開口部において試料を均一に保持すると共に電解液を保持する試料セルと、該試料セルの対極として試料に近接して設けられた棒状電極を保持し試料との間隔を調整する電極位置調整手段と、試料と棒状電極に電圧を印加するための電圧印加手段とを備え、前記棒状電極を電圧印加手段の陰極側に接続すると共に前記試料を電圧印加手段の陽極側に接続し、試料に電解液を滴下した状態で電圧を印加することにより、前記試料を電解研磨して開孔薄膜化することを特徴とする分析用試料の電解研磨装置。
【請求項2】
上下方向に開孔部が設けられると共に、外周にねじ部を有する筒状の試料受け部材と、該試料の半径方向と垂直方向の位置を決めるスペーサと試料及びスペーサを押さえる導電性の中間材と該中間材に当接すると共に前記筒状の試料受け部材の内周に配接された導電性のリング材と、該リング材及び中間材を押圧する押え部材と、該押さえ部材とリング材を締め付け固定する前記試料受け部材のねじ部と嵌合する袋ナットを具備してなる試料セル。
【請求項3】
スライドベースと、該スライドベースの上部に固着されたスライドベースガイドと、該スライドベースガイドに水平方向スライド自在に挿入され、略中央部において試料セルを保持する空間を有するスライド板と、該スライド板に取り付けられたセルチャックとを具備してなる請求項1記載の試料セル保持台。
【請求項4】
電極保持台と該電極保持台との間で絶縁体を介在させて固着されたマイクロメータヘッドと該マイクロメータヘッドに保持された棒状電極とを備えてなる請求項1記載の電極位置調整手段。
【請求項5】
試料の電解研磨面において、試料セルの下方であって、試料に明けられた微小孔を確認する光検知手段を配設してなる請求項1記載の分析用試料の電解研磨装置。
【請求項6】
試料セルの近傍であって、電解研磨によって発生するガスを吸引排出する電解ガス排出手段を配設したことを特徴とする請求項1記載の分析用試料の電解研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−39017(P2011−39017A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202052(P2009−202052)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(591120837)株式会社ケミカル山本 (11)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】