説明

分析装置および分析方法

【課題】金融商品業務システムの複雑化に適応できる分析技術を提供する。
【解決手段】分析装置100は、証券業務システムの複数の機能を実現する複数のアプリケーションの処理件数と、複数のアプリケーションによって使用されるメインDBサーバのCPU使用率と、を対応付けて履歴データとして取得する履歴取得部110と、履歴取得部110によって取得された履歴データに対して、複数のアプリケーションの処理件数のそれぞれを説明変数とし、メインDBサーバのCPU使用率を目的変数とした重回帰分析を施すことにより、偏回帰係数を導出する重回帰分析部114と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析技術に関し、特に金融商品業務システムを分析するための分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザがインターネットを介して株式売買や外貨取引を行えるオンラインサービスが普及している。その手軽さや手数料の低さから、オンラインサービスのユーザ数は年々増大している。ユーザ数の増大に伴い、オンラインサービスを提供する証券業務システムへの負荷も大きくなってきている。オンラインサービスでは取引の即時性が特に重要視されることから、過負荷によるシステムダウンをできる限り回避しなければならない。
【0003】
そこで本出願人は特許文献1および特許文献2において、証券業務システムへの負荷を予測する技術を提案している。このように予測された負荷に基づき、システムのキャパシティが予測された負荷を十分上回るようにするための処理が行われることが望ましい。本出願人は特許文献3および特許文献4において、そのような処理の例を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−265244号公報
【特許文献2】特開2007−265245号公報
【特許文献3】特開2010−39763号公報
【特許文献4】特開2010−152818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オンラインサービスの多様化、高機能化に伴い、それを支える証券業務システムの構成、例えばサーバ構成やアプリケーション構成もより複雑となってきている。すなわち証券業務システムでは、多種多様なサーバが有機的に結合され、その上でやはり多種多様なアプリケーションが実装されるようになってきている。これは、証券業務システムだけでなく金融商品業務システム一般にも当てはまる。このような金融商品業務システムの複雑化により適応した分析技術の登場が望まれている。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金融商品業務システムの複雑化に適応できる分析技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は分析装置に関する。この分析装置は、金融商品業務システムの複数の機能を実現する複数のアプリケーションの使用の度合いと、複数のアプリケーションによって使用されるリソースの使用の度合いと、を対応付けて履歴データとして取得する履歴取得部と、履歴取得部によって取得された履歴データに対して、複数のアプリケーションの使用の度合いのそれぞれを説明変数とし、リソースの使用の度合いを目的変数とした重回帰分析を施すことにより、偏回帰係数を導出する重回帰分析部と、を備える。
【0008】
この態様によると、導出された偏回帰係数に基づいて、対応するアプリケーションの使用の度合いがリソースの使用の度合いに与える影響を知ることができる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を装置、方法、システム、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金融商品業務システムの複雑化に適応できる分析技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態に係る分析装置の分析対象である証券業務システムの構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態に係る分析装置およびそれに接続された部材の機能および構成を示すブロック図である。
【図3】図2の履歴保持部の一例を示すデータ構造図である。
【図4】分析パラメータ指定画面の代表画面図である。
【図5】結果表示画面の代表画面図である。
【図6】図2の予測モデル生成部によって生成される、予測対象のアプリケーションについての予測モデルを模式的に示す説明図である。
【図7】図2の制限設定部によって設定される使用制限モードを説明するための説明図である。
【図8】ボリュームランキング画面の代表画面図である。
【図9】相関表示画面の代表画面図である。
【図10】図2の分析装置における一連の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0013】
実施の形態に係る分析装置の分析対象である証券業務システムは、証券会社の顧客などのユーザが、インターネットなどのネットワークを介して、証券の売買、外貨取引、証拠金取引、証券注文に役立つ様々な情報の取得等を行えるオンラインサービスを提供する。証券業務システムは複数のリソースすなわちサーバや通信機器を有し、それらのサーバや通信機器によって少なくとも、ユーザが自己の注文状況を照会できるようにする注文照会機能と、注文を処理する注文処理機能と、受発注を処理する受発注機能と、日計取引の明細を編集する日計取引明細編集機能と、約定計算を行う約定計算機能と、トップ画面等をユーザ端末のディスプレイに表示させる画面表示機能と、注文の確認処理を行う注文確認処理機能と、株式の時価を照会できるようにする時価照会機能と、を実現する。注文照会機能や受発注機能は、証券の取引をネットワークを介して仲介する機能である。注文照会機能、注文処理機能、受発注機能、画面表示機能、のそれぞれには、一般顧客用のものと支店用のものとが存在する。
【0014】
証券業務システムには、上記複数の機能を実現する複数のアプリケーションが実装されている。分析装置は、実装されているアプリケーションの使用の度合いすなわちアプリケーションが単位時間(例えば1分)当たりに処理するリクエストの件数(以下、処理件数と称す)の履歴を取得する。
なお、ひとつの機能に対して同等のアプリケーションが複数並列に設けられている場合も考えられるが、本実施の形態ではそれらのアプリケーション群をひとつのアプリケーションとして扱う場合がある。
【0015】
分析装置は、複数のアプリケーションによって使用されるサーバの、CPU(central processing unit)使用率や消費電力やストレージ空き容量や通信パケット量などの使用の度合いの履歴を取得する。特に分析装置は、データベースサーバのCPU使用率の履歴を取得する。
【0016】
分析装置は、データベースサーバのCPU使用率を目的変数、複数のアプリケーションの処理件数のそれぞれを説明変数とした重回帰分析を行い、各説明変数に対応する偏回帰係数を導出する。この偏回帰係数はアプリケーションの処理がデータベースサーバにどれほど負荷を与えるかを示す統計的な良い指標である。すなわち、アプリケーションごとに性能テストを行ってファクトを収集しなくてもそのような指標を得ることができる。現在、証券業務の多角化、高機能化に伴い証券業務システムには膨大な数のアプリケーションが実装されており、そのそれぞれについてそのような性能テストを行うことはコスト、時間の面で不可能に近い。そこで本実施の形態に係る分析装置を使用すると、そのような性能テストを行わなくても、データベースサーバに対するアプリケーションの影響の度合いを導くことができる。
【0017】
(証券業務システム200)
図1は、実施の形態に係る分析装置の分析対象である証券業務システム200の構成を示す模式図である。
証券業務システム200は、プレゼンテーションレイヤ210とビジネスロジックレイヤ220とデータベースレイヤ230とを含む。プレゼンテーションレイヤ210は、主にクライアント端末202、204、206から入力されるデータを受け付けてビジネスロジックレイヤ220に渡したり、またはビジネスロジックレイヤ220から提供されるデータをウェブページに加工してクライアント端末202、204、206に提供する役割を有する。ビジネスロジックレイヤ220は、証券の売買注文や情報の提供などの実際の処理を担当する役割を有する。
【0018】
プレゼンテーションレイヤ210は、複数のウェブサーバ212、214、216、218を含む。本実施の形態では、証券業務システム200に対するアクセスチャネル毎に、ウェブページの処理を実行するサーバのグループが準備されている。図1では、ウェブ経由の一般顧客、コールセンタ、支店からそれぞれのクライアント端末202、204、206を使用して証券業務システム200にアクセスする場合を想定している。したがって、プレゼンテーションレイヤ210は、一般顧客からのアクセスに対する処理を担当する一般用ウェブサーバ212と、コールセンタからのアクセスに対する処理を担当するコールセンタ用ウェブサーバ214と、支店からのアクセスに対する処理を担当する支店用ウェブサーバ216と、を備える。さらに、通常は休止している予備の予備ウェブサーバ218を準備しておいてもよい。各ウェブサーバ212、214、216、218は、複数のサーバで構成されてもよい。各ウェブサーバ212、214、216、218は、クライアント端末202、204、206からの要求に応じてプログラムを実行しその結果を送信する動的ページの生成機能やトランザクション管理機能などを有しており、そのそれぞれの機能を実現するアプリケーションを実装している。
【0019】
ビジネスロジックレイヤ220には、アクセスチャネル毎ではなく、所定のアプリケーションを専用に実行するサーバのグループが準備されている。ビジネスロジックレイヤ220は、現在および過去の株価や出来高、会社情報などの証券売買の際に必要となる情報をクライアント端末202、204、206に提供するアプリケーションを実行する情報提供アプリケーションサーバ222、株や投資信託などの売買注文を受け付けるアプリケーションを実行する注文処理アプリケーションサーバ224、ユーザのログインやログアウト、顧客情報などを管理するアプリケーションを実行する事務処理アプリケーションサーバ226を備える。これ以外にも、例えば、外部の新聞社のサイトなどと連携して経済ニュースを提供する外部連携アプリケーションサーバや、顧客毎に取引残高の報告書などを提供する報告書アプリケーションサーバなどを備えていてもよい。各アプリケーションサーバ222、224、226は、複数のサーバで構成されてもよい。各アプリケーションサーバ222、224、226は、上記の業務処理の機能の他、一般のアプリケーションサーバが有している機能、例えば、データベースレイヤ230のデータベースサーバへの接続機能、複数の処理を連結するトランザクション管理機能なども有しており、それらの機能を実現するアプリケーションを実装している。
【0020】
データベースレイヤ230には、ビジネスロジックレイヤ220から参照されたり更新されたりするデータベースサーバ(database、DB)が準備されている。データベースレイヤ230は、ビジネスロジックレイヤ220の各サーバの主たるデータベースとなるメインDBサーバ232と、主に参照目的で設けられた情報系DBサーバ234と、を備える。
【0021】
各アプリケーションサーバ222、224、226では、複数のクライアント端末に対するサービス242、244、246、248、250、252が同時に実行される。例えば、情報提供アプリケーションサーバ222では、一般顧客に対して株価情報を提供するサービスA242と、コールセンタに対して株価情報を提供するサービスB244が同時に実行されてもよい。注文処理アプリケーションサーバ224では、コールセンタからの株式売買注文を処理するサービスC246と、店舗からの投資信託売買注文を処理するサービスD248が同時に実行されてもよい。
【0022】
一般顧客、コールセンタや支店の担当員は、それぞれのクライアント端末202、204、206からウェブブラウザなどのソフトウェアを使用し、インターネット等のネットワーク208を介して証券業務システム200にアクセスする。コールセンタや支店に備えられるクライアント端末204、206は、証券業務システム200と専用線209によって接続されていてもよい。
【0023】
クライアント端末202、204、206から証券業務システム200にアクセスすると、プレゼンテーションレイヤ210のアクセスチャネルに応じたウェブサーバ212、214、216によって作成されたウェブページが、クライアント端末202、204、206に送信される。クライアント端末202、204、206は、送信されたウェブページをディスプレイに表示する。ユーザがウェブページ上でログイン、情報の閲覧、売買注文などの操作を実行すると、その情報がウェブサーバ212、214、216を介してビジネスロジックレイヤ220のアプリケーションサーバ222、224、226に渡される。各アプリケーションサーバ222、224、226による処理の結果は、ウェブサーバ212、214、216によってウェブページに加工され、そのデータがクライアント端末202、204、206に送信される。こうしてユーザは、ウェブページに表示される種々の情報を参照したり、またはウェブページを通じて証券の売買注文をすることができる。
【0024】
上述したような証券業務システムでは、アクセス数の増大によりシステム内のサーバに負荷がかかりすぎると、正常なサービスを提供できなくなる虞がある。このような事態は顧客に迷惑をかけるため、証券業務システム内のリソースの使用の度合いを予測し、その予測に基づいて計画的にシステムの構成変更、例えば予備のサーバをオンラインにする等の処理を行うことが望ましい。特に、データベースレイヤ230のメインDBサーバ232は複数のアプリケーションによって参照されるので、このメインDBサーバ232が機能不全に陥ると証券業務システムの多くのサービスに影響が出かねない。そこで本実施の形態に係る分析装置100はメインDBサーバ232のCPU使用率を予測し、管理者に提示する。これにより管理者は、メインDBサーバ232に負荷がかかりすぎないよう予め対策を取ることができる。
【0025】
また、分析装置100は、メインDBサーバ232のCPU使用率への寄与が比較的大きいアプリケーションを、個々のアプリケーションについて性能テストを行うことなしに洗い出すことを可能とする。これにより管理者は、寄与の大きなアプリケーションに対して調整や混雑時の制限などの対策を行うことにより、システムをより効率化することができる。
【0026】
図2は、本実施の形態に係る分析装置100およびそれに接続された部材の機能および構成を示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
【0027】
分析装置100は証券業務システム200の内部に設けられてもよく、外部に設けられてもよい。本実施の形態では、分析装置100は証券業務システム200の外部に設けられており、分析装置100と証券業務システム200とはネットワーク208を介して接続される。分析装置100は証券業務システム200から各サーバの稼働履歴やアプリケーションの使用頻度の情報をネットワーク208を介して取得する。分析装置100はマウスやキーボードなどの入力装置102およびディスプレイ104と接続される。証券業務システム200の管理者は、分析装置100を使用して証券業務システム200のパフォーマンスを分析したり、証券業務システム200への負荷を予測したりする。
【0028】
分析装置100は、履歴取得部110と、履歴保持部112と、重回帰分析部114と、提示部116と、制限部118と、予測部120と、変数選択支援部170と、を備える。
履歴取得部110は、ネットワーク208を介して、証券業務システム200の各アプリケーションの処理件数と、メインDBサーバ232のCPU使用率と、を対応付けて履歴データとして取得する。履歴取得部110は、処理件数取得部122と、CPU使用率取得部124と、を含む。
【0029】
処理件数取得部122は、ネットワーク208を介して証券業務システム200のプレゼンテーションレイヤ210やビジネスロジックレイヤ220から、各アプリケーションの処理件数を取得する。処理件数取得部122は、プレゼンテーションレイヤ210やビジネスロジックレイヤ220おいて既に演算されたアプリケーションの処理件数を、所定の時間間隔例えば1分間隔で取得する。処理件数取得部122は、各アプリケーションの処理件数と、その処理件数が取得された取得時刻と、を対応付けて履歴保持部112に登録する。証券業務システム200では、各アプリケーションの処理件数を随時更新しているので、処理件数が取得された取得時刻は、その処理件数が発生した時刻であると言える。
【0030】
なお、処理件数取得部122は、プレゼンテーションレイヤ210やビジネスロジックレイヤ220から、各アプリケーションのリクエストの処理開始時刻および処理終了時刻に関するログデータを取得し、取得されたログデータから各アプリケーションが単位時間当たりに処理するリクエストの件数を演算してもよい。
【0031】
CPU使用率取得部124は、ネットワーク208を介してメインDBサーバ232から、メインDBサーバ232のCPU使用率を、処理件数取得部122における時間間隔と同等の時間間隔で取得する。サーバには通常現在のCPU使用率を外部に報告する機能が備わっているので、CPU使用率取得部124はその機能を使用してメインDBサーバ232のCPU使用率を取得してもよい。CPU使用率取得部124は、メインDBサーバ232のCPU使用率と、そのCPU使用率が取得された取得時刻と、を対応付けて履歴保持部112に登録する。
【0032】
図3は、履歴保持部112の一例を示すデータ構造図である。履歴保持部112は履歴取得部110によって取得された履歴データを保持する。特に履歴保持部112は、各アプリケーションの処理件数と、メインDBサーバ232のCPU使用率と、取得時刻と、を対応付けて保持する。図3において、アプリケーションは対応する機能の名称で示される。図3では履歴を取得する時間間隔は単位時間すなわち1分とされる。図3では、CPU使用率は百分率で示される。
【0033】
図2に戻り、重回帰分析部114は、履歴保持部112によって保持される履歴データに対して、管理者によって指定された複数のアプリケーションの処理件数のそれぞれを説明変数とし、メインDBサーバ232のCPU使用率を目的変数とした重回帰分析を施すことにより、偏回帰係数を導出する。重回帰分析部114は、変数指定受付部126と、期間指定受付部128と、分析対象データ抽出部130と、偏回帰係数導出部132と、重相関導出部134と、を含む。
【0034】
変数指定受付部126は、入力装置102を介して管理者から、重回帰分析で使用する説明変数および目的変数の指定を受け付ける。期間指定受付部128は、入力装置102を介して管理者から、重回帰分析の対象となる履歴データの範囲の指定を受け付ける。この範囲は期間で指定される。
【0035】
図4は、分析パラメータ指定画面300の代表画面図である。重回帰分析部114は、重回帰分析のためのパラメータの指定を受け付ける分析パラメータ指定画面300をディスプレイ104に表示させる。分析パラメータ指定画面300は、OKボタン302と、管理者がプルダウン形式により変数を選択できるよう構成された目的変数選択領域304と、管理者がプルダウン形式により複数の変数を選択できるよう構成された説明変数選択領域306と、分析の対象とする履歴データの取得時刻が入るべき分析対象期間が入力される分析対象期間指定領域308と、を有する。目的変数選択領域304で変数が選択され、説明変数選択領域306で複数の変数が選択され、分析対象期間指定領域308に分析対象期間が入力され、OKボタン302が押し下げられると、変数指定受付部126は目的変数選択領域304で選択された変数を指定された目的変数として、説明変数選択領域306で選択された複数の変数を指定された複数の説明変数として、受け付ける。期間指定受付部128は、分析対象期間指定領域308に入力された分析対象期間を指定された期間として受け付ける。
【0036】
図2に戻り、分析対象データ抽出部130は、指定された期間における、指定された目的変数および指定された複数の説明変数の履歴データを分析対象データとして履歴保持部112から抽出する。
偏回帰係数導出部132は、最小二乗法により偏回帰係数を決定する。偏回帰係数導出部132は、分析対象データに含まれる複数の説明変数の値を重回帰式に代入して得られる目的変数の予測値と分析対象データに含まれる目的変数の実測値との差の二乗和が最小となるように、各説明変数に対応する偏回帰係数を決定する。具体的には、偏回帰係数導出部132は、説明変数の偏差平方和・積和行列の逆行列を演算する。偏回帰係数導出部132は、演算された逆行列と、説明変数と目的変数との偏差積和行列と、の積を演算することにより偏回帰係数を演算する。なお、偏回帰係数導出部132は偏回帰係数として標準偏回帰係数を演算してもよい。このように導出される偏回帰係数は、対応するアプリケーションによる1つのリクエストの処理が、どの程度メインDBサーバ232に負荷を与えるかを示す。
重相関導出部134は、全変動のうちの回帰による変動の割合から重相関係数を導出する。
【0037】
提示部116は、重回帰分析部114における分析結果を管理者に提示する。特に提示部116は、各説明変数すなわち各アプリケーションに対応する偏回帰係数の大きさおよび重相関係数を示す結果表示画面310をディスプレイ104に表示させる。
図5は、結果表示画面310の代表画面図である。結果表示画面310は、アプリケーションごとに偏回帰係数の大きさを棒グラフで示している。また結果表示画面310は重相関係数を数値で示す。管理者は、結果表示画面310を参照することにより、各アプリケーションの、メインDBサーバ232のCPU使用率への寄与の度合いを知ることができる。
【0038】
図2に戻り、予測部120は、予測モデル生成部136と、処理件数予測部138と、CPU使用率予測部140と、を含む。予測モデル生成部136は、履歴保持部112によって保持されるアプリケーションの処理件数の履歴に基づいて、予測モデルを生成する。特に予測モデル生成部136は、履歴保持部112を参照し、過去数ヶ月間で、予測対象のアプリケーションが処理したリクエストの件数の一日分の総和が比較的多い日を特定する。予測モデル生成部136は、特定された日の9:00から15:00までの処理件数を履歴保持部112から抽出する。予測モデル生成部136は、抽出された処理件数から、特定された日の9:00から15:00までの時間帯に予測対象のアプリケーションが処理したリクエストの件数の総和を演算する。予測モデル生成部136は、演算された総和に占める各取得時刻の処理件数の割合を演算する。予測モデル生成部136は、取得時刻と、演算された割合と、を対応付けることで予測モデルを生成する。
【0039】
図6は、予測モデル生成部136によって生成される、予測対象のアプリケーションについての予測モデルを模式的に示す説明図である。この予測モデルでは、一日のうちの9:00から15:00までの時間帯を1分単位で分割し、分割された区間に処理件数の比率を対応付けている。この予測モデルでは、9:13頃に処理件数が最大となることが予測される。
【0040】
図2に戻り、処理件数予測部138は、予測モデル生成部136によって生成された予測モデルを使用して、予測対象のアプリケーションの将来の処理件数を予測する。特に処理件数予測部138は、予測対象のアプリケーションについて、予測対象の日の9:00から15:00までの総処理件数の予測値を、ユーザから入力装置102を介して取得する。処理件数予測部138は、予測モデルにおいて時刻に対応付けられている比率と総処理件数の予測値との積を、その時刻における処理件数の予測値として演算する。例えば、予測対象の日の総処理件数の予測値を10000、予測対象の日の9:20に対応付けられた比率を0.001とすると、予測対象の日の9:20の処理件数の予測値は10000×0.001=10となる。
【0041】
なお、上記では処理件数取得部122における処理件数取得の時間間隔と、処理件数を導出するときの単位時間と、がいずれも1分であり等しい場合について説明したが、これに限られず、それらが異なっていてもよい。その場合、予測モデルの構成や処理件数の予測の式は、処理件数取得部122における時間間隔と単位時間との比を考慮したものとなる。
【0042】
CPU使用率予測部140は、重回帰分析部114において説明変数として採用された複数のアプリケーションの処理件数の予測値を、外部または処理件数予測部138から取得する。CPU使用率予測部140は、取得された予測値を重回帰分析部114によって導出された偏回帰係数に基づく重回帰式に代入することによって、メインDBサーバ232のCPU使用率を予測する。重回帰式は、例えば以下の通りである。
メインDBサーバ232のCPU使用率(%)
= 3(%)+補正値(メインDBサーバ232のベースのCPU使用率) +
(支店注文処理アプリの処理件数 × 0.12) +
(支店注文照会アプリの処理件数 × 0.16) +
(一般顧客注文処理アプリの処理件数 × 0.02) +
(一般顧客注文照会アプリの処理件数 × 0.05) +
(一般顧客画面表示アプリの処理件数 × 0.23) +
(約定計算アプリの処理件数 × 0.01)
上記の重回帰式の「0.12」、「0.16」等の係数が、重回帰分析部114によって導出された偏回帰係数である。
CPU使用率予測部140は、予測されたCPU使用率の値をディスプレイ104に表示させる。
【0043】
制限部118は、アプリケーション特定部142と、監視部144と、判定部146と、制限設定部148と、を含む。アプリケーション特定部142は、重回帰分析部114によって導出された偏回帰係数を取得する。アプリケーション特定部142は、取得された偏回帰係数と所定の係数しきい値とを比較する。アプリケーション特定部142は、取得された偏回帰係数が係数しきい値より大きい場合、その偏回帰係数に対応するアプリケーションを特定する。
【0044】
監視部144は、アプリケーション特定部142によって特定されたアプリケーション(以下、特定アプリケーションと称す)の処理件数を、ネットワーク208を介して証券業務システム200から取得する。監視部144は、取得された処理件数と所定の件数しきい値とを比較することにより、処理件数を監視する。
【0045】
判定部146は、監視部144における監視結果に基づいて、特定アプリケーションの使用を制限すべきか否かを判定する。判定部146は、監視部144から処理件数が件数しきい値より大きくなったという監視結果を取得すると、特定アプリケーションの使用を制限すべきであると判定する。
【0046】
制限設定部148は、判定部146において制限すべきであると判定された場合、特定アプリケーションの使用が制限されるよう、ネットワーク208を介して証券業務システム200の動作を変更する。例えば制限設定部148は、証券業務システム200が提供するサービスへの新規のログインを制限してもよいし、特定アプリケーションが複数並列に設けられている場合は、その起動数を制限してもよいし、特定アプリケーションのキュー深度を再設計してもよい。
【0047】
図7は、制限設定部148によって設定される使用制限モードを説明するための説明図である。図7には、アプリケーション特定部142によって一般顧客注文処理機能を実現するアプリケーション260が特定され、判定部146においてそのアプリケーションの使用を制限すべきであると判定された場合が示される。一般顧客注文処理機能を実現するアプリケーション260は複数並列に起動されている。制限設定部148は、使用制限モードにおいて、ネットワーク208を介してこの起動数を所定の数以下に制限するよう注文処理アプリケーションサーバ224を設定する。また、一般顧客注文処理機能を実現するアプリケーション260へのキュー深度262を、キューに入ったリクエストが所定の最大待機時間以下の待機時間で処理されるよう設定する。すなわち、リクエスト集中時には、応答時間を長くするよりも比較的高い確率で直ちにエラーを返すという思想である。
このような使用制限モードを設定することにより、メインDBサーバ232への負荷を抑えることができる。
【0048】
図2に戻る。上記では変数指定受付部126が入力装置102を介して管理者から、重回帰分析で使用する説明変数および目的変数の指定を受け付ける場合について説明している。基本的に管理者は変数を任意に選択することができ、その場合は、提示部116によって提示される偏回帰係数や重相関を見ながら「良い」説明変数を試行錯誤により見出す手法が使用されてもよい。
【0049】
しかしながら、一般的に証券業務システム200には膨大な数のアプリケーションが実装されているので、管理者の経験と勘により試行錯誤を繰り返したとしても、適切な説明変数を見出すことができない可能性がある。そこで、分析装置100は、管理者による変数の選択を支援する変数選択支援部170を備えている。
【0050】
変数選択支援部170は、アプリケーションを証券業務システム200への負荷の大きさでランク付けしたボリュームランキングを生成するランキング生成部172と、ランキング生成部172によって生成されたボリュームランキングで上位に位置するアプリケーションについて処理件数とメインDBサーバ232のCPU使用率との相関を演算して提示する相関提示部174と、を含む。
【0051】
ランキング生成部172は、アプリケーションごとに、所定の演算対象期間内における総処理件数と平均レスポンスタイムとの積をボリュームとして演算する。ランキング生成部172は、演算されたボリュームの昇順または降順でアプリケーションをランク付けすることでボリュームランキングを生成する。レスポンスタイムは、アプリケーションがリクエストを受け付けてから応答を返すまでにかかる時間である。ランキング生成部172は、生成されたボリュームランキングを示すボリュームランキング画面320をディスプレイ104に表示させる。
【0052】
なお、ランキング生成部172は積の演算の際に履歴保持部112を参照してもよい。また、ランキング生成部172は、プレゼンテーションレイヤ210やビジネスロジックレイヤ220から、各アプリケーションのリクエストの処理開始時刻および処理終了時刻に関するログデータを取得し、取得されたログデータから総処理件数や平均レスポンスタイムを演算してもよい。
【0053】
図8は、ボリュームランキング画面320の代表画面図である。ボリュームランキング画面320は、アプリケーション名と、演算されたボリュームの値と、順位と、を対応付けて表示する。管理者は、表示されたボリュームランキング画面320を参照し、ボリュームが比較的上位となっているアプリケーションを選択する。管理者は、選択したアプリケーションを入力装置102を介して相関提示部174に通知する。
【0054】
図2に戻り、相関提示部174は、通知されたアプリケーションの処理件数とメインDBサーバ232のCPU使用率との相関を履歴保持部112を参照して演算する。相関提示部174は演算結果を示す相関表示画面322をディスプレイ104に表示させる。
【0055】
図9は、相関表示画面322の代表画面図である。相関表示画面322は横軸をメインDBサーバ232のCPU使用率、縦軸を支店注文照会の処理件数としたグラフを示す。相関表示画面322は相関係数の値を示す。管理者は、相関表示画面322に示される相関が比較的高いアプリケーションを説明変数に使用するアプリケーションとして決定してもよい。その結果、ボリュームランキングの上位に位置するアプリケーションのなかで、メインDBサーバ232のCPU使用率と処理件数との相関が高いアプリケーションが説明変数として選択されることとなる。これにより、管理者はより容易かつ正確に有効な説明変数を選択できる。
なお、変数選択支援部170において、管理者による選択の代わりに、所定のしきい値による自動的な選択を使用してもよい。
【0056】
上述の実施の形態において、保持部の例は、ハードディスクやメモリである。また、本明細書の記載に基づき、各部を、図示しないCPUや、インストールされたアプリケーションプログラムのモジュールや、システムプログラムのモジュールや、ハードディスクから読み出したデータの内容を一時的に記憶するメモリなどにより実現できることは本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
【0057】
以上の構成による分析装置100の動作を説明する。
図10は、分析装置100における一連の処理を示すフローチャートである。履歴取得部110はネットワーク208を介して履歴データを取得し(S402)、履歴保持部112に登録する。重回帰分析部114は、管理者から、重回帰分析で使用すべき目的変数、説明変数およびデータ範囲の指定を受け付ける(S404)。重回帰分析部114は、履歴保持部112から分析対象データを抽出する(S406)。重回帰分析部114は、分析対象データに重回帰分析を施すことにより、偏回帰係数を導出する(S408)。提示部116は、導出された偏回帰係数を管理者に提示する(S410)。
【0058】
本実施の形態に係る分析装置100によると、導出された偏回帰係数をアプリケーション間で比較することにより、どのアプリケーションがメインDBサーバ232により大きな影響を与えうるかを見ることができる。この場合の影響とは、処理1件ごとの影響である。例えば、偏回帰係数が大きいアプリケーションは、過剰にメインDBサーバ232の処理時間を消費している可能性があると判断できる。したがって、そのようなアプリケーションを個別に調整することで、メインDBサーバ232のCPU使用率をより効率的に抑えることが可能となる。また、リクエスト集中時にそのようなアプリケーションの起動数を制限したりキュー深度を再設定することで、より確実にメインDBサーバ232の過負荷を避けることができる。
【0059】
上述の通り、現在、証券業務システムはサーバ構成の面でもアプリケーション構成の面でも複雑化が進んでいる。本発明者は当業者としての経験から、このように複雑化した証券業務システムにおいてリソースの使用の度合いを予測するためには、アプリケーションの使用の度合いを変数とした多変量解析が適していることに想到した。そこで、本実施の形態に係る分析装置100は、導出された偏回帰係数に基づく重回帰式を使用してメインDBサーバ232のCPU使用率を予測する。これにより、複雑化した証券業務システムにおいても、より正確にメインDBサーバ232の使用の度合いを予測できる。
【0060】
また、本実施の形態では、処理件数予測部138は予測モデル生成部136によって生成された予測モデルに基づき処理件数を予測する。これにより、処理件数の予測値が外部から入手できない場合でも、過去の実績からその予測値を内的に生成することができる。
【0061】
以上、実施の形態に係る分析装置100の構成と動作について説明した。この実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0062】
実施の形態では、分析装置100は証券業務システム200を分析する場合について説明したが、これに限られず、例えば分析装置は銀行の業務システムなどの他の金融商品業務システムを分析してもよい。なお、証券業務システム200はその性質上、他の金融商品業務システムと比べて使用の度合いの振れ幅が大きい。したがって、分析装置100を使用して証券業務システム200のアプリケーションのチューニングを行ったり、使用の度合いを正確に予測したりすることのメリットは比較的大きい。
【符号の説明】
【0063】
100 分析装置、 110 履歴取得部、 114 重回帰分析部、 120 予測部、 136 予測モデル生成部、 142 アプリケーション特定部、 144 監視部、 146 判定部、 200 証券業務システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金融商品業務システムの複数の機能を実現する複数のアプリケーションの使用の度合いと、複数のアプリケーションによって使用されるリソースの使用の度合いと、を対応付けて履歴データとして取得する履歴取得部と、
前記履歴取得部によって取得された履歴データに対して、複数のアプリケーションの使用の度合いのそれぞれを説明変数とし、リソースの使用の度合いを目的変数とした重回帰分析を施すことにより、偏回帰係数を導出する重回帰分析部と、を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
複数のアプリケーションの使用の度合いの予測値を、前記重回帰分析部によって導出された偏回帰係数に基づく重回帰式に代入することによって、リソースの使用の度合いを予測するリソース予測部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記履歴取得部によって取得されたアプリケーションの使用の度合いのデータに基づいて予測モデルを生成する予測モデル生成部と、
前記予測モデル生成部によって生成された予測モデルを使用して、アプリケーションの使用の度合いを予測するアプリケーション予測部と、をさらに備え、
前記リソース予測部は、前記アプリケーション予測部によって予測された使用の度合いを前記重回帰式に代入することによって、リソースの使用の度合いを予測することを特徴とする請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
金融商品業務システムは証券業務システムであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記重回帰分析部によって導出された偏回帰係数がしきい値より大きいアプリケーションを特定するアプリケーション特定部と、
前記アプリケーション特定部によって特定されたアプリケーションの使用の度合いを監視する監視部と、
前記監視部における監視結果に基づいて、前記アプリケーション特定部によって特定されたアプリケーションの使用を制限すべきか否かを判定する判定部と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
アプリケーションを金融商品業務システムへの負荷の大きさでランク付けしたランキングを生成するランキング生成部と、
前記ランキング生成部によって生成されたランキングに基づいて抽出されたアプリケーションの使用の度合いとリソースの使用の度合いとの相関を演算してユーザに提示する相関提示部と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
金融商品業務システムの複数の機能を実現する複数のアプリケーションの使用の度合いと、複数のアプリケーションによって使用されるリソースの使用の度合いと、を対応付けて履歴データとして取得するステップと、
取得された履歴データに対して、複数のアプリケーションの使用の度合いのそれぞれを説明変数とし、リソースの使用の度合いを目的変数とした重回帰分析を施すことにより、偏回帰係数を導出するステップと、を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項8】
金融商品業務システムの複数の機能を実現する複数のアプリケーションの使用の度合いと、複数のアプリケーションによって使用されるリソースの使用の度合いと、を対応付けて履歴データとして取得する機能と、
取得された履歴データに対して、複数のアプリケーションの使用の度合いのそれぞれを説明変数とし、リソースの使用の度合いを目的変数とした重回帰分析を施すことにより、偏回帰係数を導出する機能と、をコンピュータに実現させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−114439(P2013−114439A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259718(P2011−259718)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000155469)株式会社野村総合研究所 (1,067)