説明

分析装置および方法

【課題】検体の量および粘性を検査開始前に把握して追加処理を行う。
【解決手段】試験チップ10、検体容器CBおよびノズルチップNCが分析装置1に装填される。すると、検体処理手段20において検体と試薬とが混合されて検体溶液が生成される。その後、検体溶液がノズルチップNCから試験チップ10に注入される。このとき、重量計測手段60により注入前のノズルチップNCの重量と注入後のノズルチップNCの重量とが計測され重量変化ΔWが検出される。そして、判定手段70において重量変化ΔWが規定範囲ΔWrefよりも小さいか否かが判定される。重量変化ΔWが規定範囲ΔWrefよりも小さい場合、検体処理手段20により試験チップ10への希釈液の追加注入や検体溶液の追加注入等の追加処理が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の被験物質について定量的または定性的な測定を行う分析装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、検査対象である血液、血漿、尿等の検体を試験チップに注入し、試験チップを用いて簡易的に測定するPOCT(Point of Care Testing)診療向けの分析装置が提案されており、このうち抗原抗体反応を利用して検査を行う分析装置が知られている。たとえば不溶性担体が設けられた試験チップ内に検体を点着し被検物質による呈色を分析するイムノクロマトグラフ技術を用いた分析装置や、マイクロ流路が設けられた試験チップ内に検体を流入し被検物質に結合した蛍光標識からの蛍光を観察するなど、多岐の分析装置が知られている。
【0003】
上述したイムノクロマトグラフおよび蛍光観察のいずれにおいても、所定量の検体が所定の流速で流れることを前提に行われるものであり、種々の方法により検体の流速および検体の量を測定することが提案されている(特許文献1−3参照)。たとえば特許文献1にはイムノクロマトグラフにおいて検体の展開速度もしくは展開時間を光学的に測定することが開示されている。特許文献2には検体の展開速度に基づいて試験チップに注入された検体の量を検出することが開示されている。また、特許文献3には重量に基づいて試験チップに注入された検体の量を測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/007849号公報
【特許文献2】特開2009−85695号公報
【特許文献3】特開2006−333783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2において、既に検体を展開させた後に検体の展開速度を計測するものであるため、検体の展開速度が所定の速度になっていない場合、すでに展開している検体では正常な検査を行うことできず再検査を行うことになる。結果として、検体が無駄になってしまうという問題がある。また、検体の流速は検体の量のみならず粘性にも依存するものであるため、特許文献2、3のように検体の量を検出したとしても粘性を検出できなければ精度の良い分析ができないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、検体の重量に基づいて適正な流速が得られる検体であることを把握することができる分析装置および方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による分析装置は、試験チップ内に検体を流しながら検体内の被検物質を検査するための分析装置において、試験チップに注入される検体の重量を計測する重量計測手段と、重量計測手段により計測された重量に基づいて検体の量および粘性が予め設定された規定範囲内のものであるか否かを判定する判定手段と、判定手段において検体の粘性が規定範囲外のものであると判定された場合、試験チップ内の検体に対し検体の粘性が規定範囲内になるように追加処理を行う検体処理手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の分析方法は、試験チップ内に検体を流しながら検体内の被検物質を検査するための分析方法において、試験チップに注入される検体の重量を計測し、計測した重量に基づいて検体の粘性が予め設定された規定範囲内のものであるか否かを判定し、検体の粘性が規定範囲外のものであると判定された場合、試験チップ内の検体に対し検体の量または粘性が規定範囲内になるように追加処理を行うことを特徴とするものである。
【0009】
ここで、分析装置は、検体を流しながら被検物質の分析を行うものであればよく、たとえば蛍光を検出することにより被検物質の分析を行う装置であって、試験チップが検体が流れる流路と、流路内に形成された被検物質を捕捉するためのテスト領域とを有するものであってもよい。あるいは、分析装置が呈色を検出することにより被検物質の分析を行うものであって、試験チップが毛細管現象により検体が流れる不溶性担体と、不溶性担体に形成された検体中の被験物質に反応し呈色するテスト領域とを有するものであってもよい。
【0010】
なお、重量計測手段は、試験片に注入された検体の重量を検出するものであればその方法を問わず、たとえば検体処理手段から試験チップに検体が注入する際に検体処理手段の注入前後の重量変化を検体の重量として計測するようにしてもよいし、試験チップの注入前後の重量変化を検体の重量として計測するようにしてもよい。
【0011】
また、判定手段は、重量に基づいて検体の量および粘性が予め設定された規定範囲内のものであるか否かを判定するものであればよく、たとえば重量変化と設定基準値とを比較することにより検体の量および粘性が規定範囲内のものであるか否かを判定するようにしてもよい。
【0012】
さらに、検体処理手段は、試験チップ内の検体に対し希釈液を追加注入するものであってもよいし、試験チップ内に検体を追加注入するものであってもよい。
【0013】
また、分析装置は注入される検体の温度を検出する温度センサをさらに備えたものであってもよい。このとき、判定手段は検体の温度と重量とに基づいて検体の粘性を検出するものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分析装置および方法によれば、試験チップに注入される検体の重量を計測し、計測した重量に基づいて検体の量および粘性が予め設定された規定範囲内のものであるか否かを判定し、検体の量または粘性が規定範囲外のものであると判定された場合、試験チップ内の検体に対し検体の量または粘性が規定範囲内になるように追加処理を行うことにより、試験チップ内に検体が流れる前に検体の重量から検体の粘性を検出し、異常なく検査を行うことができるか否かを判定し、異常なく検査を行うことができるようになるため、検体を無駄にすることなく精度の良い検査を行うことができる。
【0015】
なお、検体の温度を検出する温度センサをさらに備え、判定手段が、温度と重量とに基づいて検体の粘性を検出するものであるとき、検体の粘性は温度によって変化する知見に基づき、重量のみならず温度も用いて精度良く異常を判定することができる。
【0016】
また、検体処理手段が試験チップ内の検体に対し希釈液を追加注入する、もしくは検体を追加注入するものであれば、検体を所定の流速で流れるように追加処理することにより、異常が生じることなく精度の良い検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の分析装置の好ましい実施形態を示す模式図
【図2】本発明の分析装置の好ましい実施形態を示すブロック図
【図3】本発明の分析装置において用いられる試験チップの一例を示す模式図
【図4】本発明の分析装置において用いられる試験チップの一例を示す模式図
【図5】図2の検体処理手段において検体が抽出される様子を示す模式図
【図6】図2の検体処理手段において検体が試薬と混合される様子を示す模式図
【図7】重量変化と粘性との関係の一例を示すグラフ
【図8】本発明の分析方法の好ましい実施形態を示すフローチャート
【図9】本発明の分析装置において用いられる別の試験チップの一例を示す模式図
【図10】本発明の分析装置において用いられる別の試験チップの一例を示す模式図
【図11】図9および図10の試験チップに用いられる検体処理手段の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の分析装置1の概略構成図であって、分析装置1はたとえば表面プラズモン共鳴を利用した免疫解析装置である。そして、分析装置1により分析を行う際、検体が収容された検体容器CBと、検体および試薬を抽出する際に用いられるノズルチップNCと、試薬セルおよびマイクロ流路が形成された試験チップ10とが装填される。なお、検体容器CB、ノズルチップNCおよび試験チップ10はいずれも一度使用したら破棄される使い捨てのものである。
【0019】
図2は本発明の分析装置の好ましい実施形態を示すブロック図である。図2の分析装置1は、検体処理手段20、光照射手段30、読取手段40、データ分析手段50等を備えている。検体処理手段20は、ノズルチップNCを用いて検体を収容した検体容器CB内から検体を抽出し、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成するものである。
【0020】
ここで、図3は試験チップ10の一例を示す模式図である。試験チップ10は、光透過性の樹脂からなる本体11に注入口12、排出口13、試料セル14a、14b、流路15が形成された構造を有している。注入口12は流路15を介して排出口13に連通しており、排出口13から負圧をかけることにより検体は注入口12から注入されて流路15内に流れ排出口13から排出される。試料セル14a、14bは検体容器CB内の検体に混合する蛍光試薬(第2抗体)を収容する容器である。なお、試料セル14a、14bの開口部はシール部材により封止されており、検体と蛍光試薬とを混合する際にシール部材が穿孔されるようになっている。
【0021】
また、流路15内には検体内の被検物質を検出するためのテスト領域TRおよびテスト領域TRの下流側に設けられたコントロール領域CRが形成されている。このテスト領域TR上には第1抗体が固定されており、いわゆるサンドイッチ方式により標識化された抗体を捕捉する。また、コントロール領域CRには参照抗体が固定されており、コントロール領域CR上に検体溶液が流れることにより第2抗体が蛍光物質を捕捉する。なお、コントロール領域CRは2つ形成されており、非特異吸着を検出するためのいわゆるネガ型のコントロール領域CRと、個体差による反応性の違いを検出するためのいわゆるポジ型のコントロール領域CRとが形成されている。
【0022】
そして、分析の開始が指示された際、検体処理手段20は図4に示すようにノズルチップNCを用いて検体容器CBから検体を吸引する。その後、検体処理手段20は図5に示すように試料セル14aのシール部材を穿孔し試料セル14a内の試薬に検体を混合・撹拌させた後、検体溶液を再びノズルチップNCを用いて吸引する。この動作を試料セル14bについても同様に行う。すると、検体内に存在する被検物質(抗原)Aに試薬内の特異的に結合する第2の結合物質である第2抗体B2が表面に修飾された検体溶液が生成される。そして、検体処理手段20は、検体溶液を収容したノズルチップNCを注入口12上に設置し、排出口13からの負圧によりノズルチップNC内の検体溶液が流路15内に流入する。
【0023】
なお、検体処理手段20が検体と試薬とを混合した検体溶液を流路15内に供給する場合について例示しているが、流路15内に予め試薬を充填させておき、検体処理手段20が注入口12から検体のみを流入させるようにしてもよい。
【0024】
図6は光照射手段30および読取手段40の一例を示す模式図である。なお、図6においてはテスト領域TRに着目して説明するが、コントロール領域CRについても同様に励起光Lが照射されるものである。図2の光照射手段30は、試験チップ10の裏面側から励起光Lを全反射条件となる入射角度でプリズムを介してテスト領域TRの誘電体プレート17と金属膜16に照射するものである。読取手段40は、たとえばフォトダイオード、CCD、CMOS等からなり、光照射手段30の励起光Lの照射によりテスト領域TRから生じる蛍光を蛍光信号FSとして検出するものである。
【0025】
そして、光照射手段30により励起光Lが誘電体プレート17と金属膜16との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜16上の試料S中にエバネッセント波Ewが滲み出し、このエバネッセント波Ewによって金属膜16中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜16表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。すると、結合した蛍光標識物質Fはエバネッセント波Ewにより励起され増強された蛍光を発生する。この蛍光を読取手段40が検出する。
【0026】
図2のデータ分析手段50は、読取手段40により検出された蛍光信号FSの経時変化に基づいて被検物質の分析を行うものである。具体的には、蛍光強度は蛍光標識物質Fの結合した量によって変化するため時間経過とともに蛍光強度は変化する。データ分析手段50は、複数の蛍光信号FSを所定期間(たとえば5分間)において所定のサンプリング周期(たとえば5秒周期)で取得し、蛍光強度の時間変化率を解析することにより検体内の被検物質について定量的な分析を行う(レート法)。そして分析結果は、モニタやプリンタ等からなる情報出力手段4から出力される。
【0027】
ここで、上述したレート法により精度良く定量的な分析を行うためには、検体溶液が所定の流速で流れることが必要である。検体の流速は検体の量および粘性に依存するため、分析装置1は適正な流速で分析を行うことができるか否かを検査前に測定すべく、重量計測手段60および判定手段70を備えている。
【0028】
重量計測手段60は、試験チップ10に注入された検体の重量を計測するものであって、たとえば検体処理手段20におけるノズル保持部21(図4、図5参照)に設けられた重量センサ(たとえば歪みゲージ)からなっている。そして、重量計測手段60は、検体溶液を吸引した後(図5参照)のノズルチップNCの重量と、ノズルチップNCから検体溶液が流路15に流入された後のノズルチップNCの重量とを計測する。そして、重量計測手段60は注入前と注入後の重量変化ΔWを検体溶液の重量として検出する。
【0029】
図2の判定手段70は、重量計測手段60により計測された検体の重量ΔWに基づいて検体の量および粘性が予め設定された規定範囲内のものであるか否かを判定するものである。ここで図7に示すように、検体処理手段20が一定期間・一定圧力で検体溶液を試験チップ10に注入した際、粘度が高ければ高いほど注入される量は少なくなり重量変化ΔWは小さくなる。そこで、判定手段70は図7に示す重量変化ΔWと粘性の関係を記憶して重量変化から粘性を検出し、検体の量および粘性が予め設定された規定範囲内のものであるか否かを判定する。特に、判定手段70には規定範囲として重量変化ΔWの下限ΔWrefが記憶されており、重量変化ΔWが下限ΔWrefよりも小さい場合には分析に支障が出るような粘性の高さであると判定する。
【0030】
なお、規定範囲として下限ΔWrefのみ設定した場合について例示しているが、上限、すなわち粘性が小さすぎる場合についても規定するようにしてもよい。また、重量計測手段60がノズル保持部21に設けられている場合について例示しているが、試験チップ10を載置する部位に取り付け、試験チップ10の重量変化ΔWを計測する。また、図7において重量と粘性とが比例関係を有している場合について例示しているが、検体の種類や試薬の種類によっては指数関数もしくは累乗関数の関係を有する場合もある。このとき、記憶テーブルに指数関数等の関係が記憶されていればよい。
【0031】
判定手段70において粘性が規定範囲外にあると判定された場合、検体処理手段20は試験チップ10内の検体が所定の流速で流れるように追加処理を行う。具体的には、検体処理手段20が試験チップ10内に生理食塩水等からなる希釈液を追加注入する。もしくは検体処理手段20は検体容器CB内の検体および試薬を試験チップ10内に追加注入する。あるいは、重量変化ΔWが規定範囲外にあるとき場合、検体が所定の流速で流れるように検体を流すための圧力を増減させるようにしてもよい。
【0032】
このように、重量に基づいて試験チップ10に注入された検体溶液の量および粘性を分析開始前に検出し、異常が生じる可能性の高い検体溶液に対し追加処理を施すことができるため、検体を無駄にすることなく異常の発生を未然に防ぐことができる。すなわち、従来のように検体を展開させた際の展開速度を計測する場合、異常が検出されたとしてもすでに展開している検体溶液が無駄になってしまう。また、検体の流速は検体の量のみならず粘性にも依存するものであり、検体の量および粘性の検出が必要である。一方、上述したように重量に基づいて検体の量および粘性を分析開始前に検出することにより、異常が生じる可能性の高い検体溶液に対して追加処理を施し、適正な流速が得られる検体にすることができる。
【0033】
さらに、図4、図5に示すように、分析装置1は検体の温度を検出する温度センサ61を有していてもよい。温度センサ61は検体処理手段20のノズル保持部21に取り付けられており、検体容器CBから検体を抽出する際に温度センサにより検体の温度を計測する。一方、判定手段70にはたとえば温度毎に重量と粘性との関係を示すテーブル(図7参照)が記憶されており、温度および重量に基づいて粘性が規定範囲内であるか否かを判定するようにしてもよい。これにより、純水や血液や血漿等の場合等の液体は温度によって粘度、動粘度、密度が異なる知見に基づき、重量のみならず温度も用いて精度良く粘性の検出を行うことができる。
【0034】
図8は本発明の分析方法の好ましい実施形態を示すフローチャートであり、図1から図8を参照して分析方法について説明する。まず、試験チップ10、検体容器CBおよびノズルチップNCが分析装置1に装填される(ステップST1)。すると、検体処理手段20において検体容器CB内の検体と試薬セル14a、14b内の試薬とが混合されて検体溶液が生成される(図4、図5参照、ステップST2)。
【0035】
その後、検体溶液がノズルチップNCから試験チップ10に注入される(ステップST3)。このとき、重量計測手段60により注入前のノズルチップNCの重量と注入後のノズルチップNCの重量とが計測され重量変化ΔWが検出される(ステップST4)。判定手段70において粘性(重量変化ΔW)が設定基準値よりも小さいか否かが判定され(ステップST5)、規定範囲ΔWrefより小さい場合、検体処理手段20により試験チップ10への希釈液の追加注入や検体溶液の追加注入等の追加処理が行われる(ステップST6)。
【0036】
その後、流路15内に検体溶液を流しながらデータ分析手段50による分析が開始される(ステップST7)。試験チップ10の流路15内に検体溶液を流しながら所定期間(たとえば5分間)において複数の蛍光信号がサンプリングされ、レート法により定量的な分析が行われる(ステップST8)。このように、重量に基づいて試験チップ10に注入された検体溶液の量および粘性を検査前に検出し、検査開始前に異常が生じる可能性の高い検体溶液に対し追加処理を施すことができるため、検体を無駄にすることなく異常の発生を未然に防ぐことができる。
【0037】
図9から図11は本発明の分析装置に用いられる試験チップの別の実施形態を示す模式図であり、図9から図11を参照して試験チップ110について説明する。図9および図10の試験チップ110が図2および図3の試験チップ10と異なる点は、イムノクロマトグラフィ技術を利用して被検物質の検査を行う点である。
【0038】
なお、図9および図10のようなイムノクロマトグラフによる呈色反応を観察する場合、図2において読取手段40は蛍光検出に代えてテスト領域TLおよびコントロール領域CLの呈色状態(濃淡)を検出することになる。また、光照射手段30は励起光を照射することに代えて、呈色を観察するための白色光を試験チップ110の観察窓110Zに照射する。
【0039】
図9および図10は分析装置1により読み取られる試験チップ110の一例を示す模式図である。なお、試験チップ110として、たとえば特開2009−139256号公報、特開2007−64766号公報等公知の技術を用いることができる。試験チップ110は、イムノクロマトグラフィ法を用いて被検物質の定量的もしくは定性的(陰性/陽性)の検査を行うためのデバイスであって、被検物質(所定の抗原)を視認可能に標識化するものである。この試験チップ110には被検物質が存在する可能性のある検体と標識化物質(第2抗体)とを混合させた検体溶液が点着される。
【0040】
試験チップ110は、上ケース110A、下ケース110B、不溶性担体112を有しており、上ケース110Aおよび下ケース110B内に不溶性担体112が注入されている。上ケース110Aには外部から検体溶液を不溶性担体112に点着するための貫通孔111と増幅液を不溶性担体112に点着するための貫通孔114とが形成されている。一方、下ケース110Bには不溶性担体112が固定されており、被検物質の定量的または定性的な測定を観察するための観察窓110Zが形成されている。さらに、下ケース110Bの表面には検体を識別情報(氏名等)や反応に必要な時間情報等を記録した文字情報、バーコード、ICタグ等の情報記憶手段115が設けられている。
【0041】
不溶性担体112はたとえばセルロース濾紙、硝子繊維、ポリウレタン等の吸収剤からなっており、点着された検体溶液は毛細管現象により一定の方向に流れる。不溶性担体112にはテスト領域TLとコントロール領域CLとが形成されている。テスト領域TLは、被検物質(抗体)に対して特異性を有する第1抗体がライン状に固定されたものであって(テストライン)、被検物質の存在により第1抗体−被検物質−第2抗体の結合体が形成されライン状に呈色する。一方、コントロール領域CLは、標識化抗体に反応する参照用抗原(もしくは抗体)が固定されており、検体溶液中の標識化抗体と反応しライン状に呈色する。したがって、コントロール領域CLの呈色状態を確認することにより、検体溶液がテスト領域TLおよびコントロール領域CL上を通過したか否かを判断することができる。
【0042】
さらに、試験チップ110は、テスト領域TLおよびコントロール領域CLを上下方向(検体溶液の流路に略直交する方向)に挟むように、テスト領域TLおよびコントロール領域CLを洗浄するための洗浄液の流路を形成する洗浄層113a、113bを備えている。洗浄層113a、113bは、不溶性担体112と同様の材料からなるものであって、洗浄層113a側には洗浄液が貯蔵されている(図示せず)。そして、テスト領域TLおよびコントロール領域CLにおける反応が完了した後に、洗浄層113aが分析装置1から押圧される。すると、毛細管現象によって洗浄液が洗浄層113aから洗浄層113b側へ流れ、洗浄層113aと113bとの間に存在するテスト領域TLおよびコントロール領域CLに洗浄液が流れる。これにより、テスト領域TLおよびコントロール領域CL上の免疫複合体を形成しなかった標識化抗体が除去される。
【0043】
また、上ケース110Aには検体処理手段20から金属イオン(銀コロイド等)を含有する増幅液を不溶性担体112に展開させるための貫通孔114が形成されている。そして、洗浄液による洗浄後に増幅液が不溶性担体112上に展開することにより、金属イオンがテスト領域TLおよびコントロール領域CL上の免疫複合体に付着し、呈色状態が増幅される。なお、上述の増幅処理は、たとえば特願2009−226010号に記載されているように、増幅前の呈色状態に応じて行うか否かを決定するようにしてもよい。
【0044】
図11は図9、図10に示す試験チップ110に検体溶液を自動的に点着するための検体処理手段120の一例を示す模式図である。図11に示すように、分析装置1に対し試験チップ110、検体容器CB、洗浄液を収容した容器、増幅液を収容した容器が装填される。なお、検体溶液、洗浄液、増幅液をそれぞれ分注するための複数のノズルチップ(サンプラチップ)NCも同時に装填される。すると、検体処理手段120はノズルチップを用いて検体容器CBから検体溶液を試験チップ110に注入した後、洗浄工程においては洗浄液を容器から洗浄層113aに注入し、増幅工程において増幅液を容器から不溶性担体112に注入する。なお各工程間においてノズルチップNC内に残存する検体、洗浄液、増幅液は随時廃棄される。
【0045】
図9、図10のような試験チップ110を用いる場合であっても重量計測手段60および判定手段70において、試験チップ110の重量変化による検体溶液の量および粘性の判定を行う。つまり、重量計測手段60は検体容器CBに収容された検体溶液を試験チップ110に点着する前後の重量変化を計測し(図4、図5参照)、判定手段70は重量変化に基づいて追加処理を行うか否かの判定を行う(図7参照)。このようにイムノクロマトグラフを利用した分析装置であっても、重量に基づいて試験チップ110に注入された検体溶液の量および粘性を分析開始前に検出し、異常が生じる可能性の高い検体溶液に対し追加処理を施すことができるため、検体を無駄にすることなく異常の発生を未然に防ぐことができる。
【0046】
上記各実施の形態によれば、試験チップ10、110内に検体を流しながら検体内の被検物質を検査するための分析方法において、試験チップ10、110に注入される検体溶液の重量ΔWを計測し、計測した重量ΔWに基づいて検体の量および粘性が予め設定された規定範囲ΔWref内のものであるか否かを判定し、検体の量または粘性が規定範囲外のものであると判定された場合、試験チップ10、110内の検体に対し前記検体の量または粘性が規定範囲内になるように追加処理を行うことにより、試験チップ10、110内に検体が流れる前に検体の重量ΔWから検体の粘性を検出し、異常なく検査を行うことができるか否かを判定し、異常なく検査を行うことができるようになるため、検体を無駄にすることなく精度の良い検査を行うことができる。
【0047】
また、検体の温度を検出する温度センサを更に備え、判定手段70が、検体の温度と重量に基づいて検体の粘性を検出するものであるとき、検体の粘性は温度に依存することを考慮して精度良く検体の粘性を検出することができる。
【0048】
さらに、検体処理手段20が試験チップ内の検体に対し希釈液を追加注入する、もしくは検体を追加注入するものであれば、検体を所定の流速で流れるように追加処理することにより、異常が生じることなく精度の良い検査を行うことができる。
【0049】
本発明の実施形態は上記実施形態に限定されない。たとえば、図7において、所定時間に一定圧力で検体溶液を注入した場合について例示しているが、所定の体積だけ注入された際の重量に基づいて粘性を検出するようにしてもよい。すなわち、同一体積の検体溶液は密度によって重量が異なるものであり、密度が大きいほど重量は重くなり粘性は高い。この場合であっても、重量の変化に基づいて検体の粘性を検出することができる。
【0050】
また、上記実施の形態において、粘性が規定範囲外である場合の追加処理として希釈液や検体の追加等を行う場合について例示しているが、検体の流速を制御するために、検体注入時の圧力や引圧の変更、検体の温度制御などをしてもよい。
【0051】
さらに、粘性の検出が重量変化ΔWに基づいて行われる場合について例示しているが、たとえば図3の流路15を挟むように発光素子と受光素子からなるセンサユニットを用いて検体の注入を開始した時間から流路15において検体を検出するまでの時間を計測し、計測した時間に基づいて検体の粘性を検出してもよい。あるいは、図10の不溶性担体112を画像センサ(読取手段40)でモニタし、検体の注入を開始した時間から検体が不溶性担体112の所定位置に到達した時間を計測し、検体の粘性を検出してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 分析装置
10、110 試験チップ
20、120 検体処理手段
21 ノズル保持部
30 光照射手段
40 反応検出手段
50 データ分析手段
60 重量計測手段
70 判定手段
CR、CL コントロール領域
TR、TL テスト領域
TR テスト領域
ΔW 重量変化
ΔWref 規定範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験チップ内に検体を流しながら該検体内の被検物質を分析するための分析装置において、
前記試験チップに注入される前記検体溶液の重量を計測する重量計測手段と、
該重量計測手段により計測された前記重量に基づいて前記検体の粘性が予め設定された規定範囲内のものであるか否かを判定する判定手段と、
該判定手段において前記検体の粘性が前記規定範囲外のものであると判定された場合、前記試験チップ内の前記検体に対し前記検体の粘性が規定範囲内になるように追加処理を行う検体処理手段と
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記判定手段が前記検体の重量と予め設定された設定基準値とを比較することにより前記検体の粘性が前記規定範囲内のものであるか否かを判定するものであることを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記検体処理手段が前記試験チップ内の前記検体に対し希釈液を追加注入するものであることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項4】
前記検体処理手段が前記試験チップ内に前記検体をさらに追加注入するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項5】
前記検体の温度を検出する温度センサをさらに備え、前記判定手段が該温度と前記重量とに基づいて前記検体の粘性を検出するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項6】
前記試験チップが、前記検体が流れる流路と、該流路内に形成された前記被検物質を捕捉するためのテスト領域とを有するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項7】
前記試験チップが、毛細管現象により前記検体が流れる不溶性担体と、該不溶性担体に形成された前記検体中の被験物質に反応し呈色するテスト領域とを有するものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項8】
試験チップ内に検体を流しながら該検体内の被検物質を検査するための分析方法において、
前記試験チップに注入される前記検体の重量を計測し、
計測した前記重量に基づいて前記検体の量および粘性が予め設定された規定範囲内のものであるか否かを判定し、
前記検体の粘性が前記規定範囲外のものであると判定された場合、前記試験チップ内の前記検体に対し前記検体の粘性が規定範囲内になるように追加処理を行う
ことを特徴とする分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−214862(P2011−214862A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80682(P2010−80682)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】