分析装置および方法
【課題】テスト領域の濃度ムラやテスト領域外の擬陽性を容易に判別し精度良く被検物質の分析を行う。
【解決手段】テスト領域TRの呈色状態が濃淡値として読み取られた際、パターン記憶手段23に記憶したテスト領域TRが呈色した状態を表したテンプレート情報TPと読取手段21により読み取られたテスト領域TRとの類似度が算出される。そして、判定手段24において算出した類似度に基づいて被検物質の定量的または定性的な分析が行われる。
【解決手段】テスト領域TRの呈色状態が濃淡値として読み取られた際、パターン記憶手段23に記憶したテスト領域TRが呈色した状態を表したテンプレート情報TPと読取手段21により読み取られたテスト領域TRとの類似度が算出される。そして、判定手段24において算出した類似度に基づいて被検物質の定量的または定性的な分析が行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の被験物質について定量的または定性的な分析を行う分析装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体外診断薬や毒物等の検査のために被験物質を含有する可能性のある検体を試験片に送液し、イムノクロマトグラフ法を用いて被験物質について簡便かつ迅速に検査するデバイスが数多く開発されている。具体的には、特定の領域(テストライン)に被検物質(たとえば抗原)に特異的に結合する第1抗体が固定された多孔質体からなる展開層が用意される。そして、展開層上に被検物質と特異的に結合する標識化第2抗体に被検物質が存在する可能性のある検体を混合した検体が展開される。すると、テストライン上において被検物質と第1抗体および第2抗体とによる抗原抗体反応が生じ、テストラインが着色もしくは発色し呈色状態になる。このテストラインの呈色状態を観察することにより、検体に被検物質が存在するか否か定量的または定性的(陰性/陽性)な測定が行われる。
【0003】
さらに、テストラインの呈色状態を迅速かつ高感度に検出するために、増幅剤を用いた増幅処理を行うことが提案されている(たとえば特許文献1参照)。特許文献1には、上述した検体が展開層に展開した後に、テストラインおよびコントロールラインを洗浄液を用いて洗浄し、銀イオン等の金属イオンを含む増幅剤を展開層に展開させることにより、テストライン上の第1抗体−被検物質(抗原)−第2抗体の複合体に対し金属イオンが結合し、呈色状態を増幅させることが開示されている。特に、洗浄液の展開方向を被検物質の展開方向に対し所定の角度だけ傾けることにより、洗浄効果を高めることが提案されている。
【0004】
また、特許文献1には帯状にテスト領域が試験片上に形成された場合について開示されている。またテスト領域(反応領域)の形状としてはたとえば特許文献2には丸、二重丸、星形等の所定の単一パターンにより形成されていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−216695号公報
【特許文献2】特開平6−273419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、テスト領域上に現れる呈色は領域内において均一にはならず、濃淡のムラが発生する。特に、特許文献1に示すように洗浄液による洗浄を行う場合、領域内の位置毎に洗浄効果が異なる場合や洗浄液の流れによるムラ等が発生してしまい、検出精度の低下を誘発するという問題がある。一方、特許文献2に示すようなテスト領域が丸等の特定のパターンからなる場合呈色状態の確認がしづらいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、精度良く被検物質の分析を行うことができる分析装置および方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の分析装置は、検体が展開される展開層と、展開層上に形成された検体中の被験物質に反応し呈色する所定の形状を有するテスト領域とを有する試験片を用いて被検物質の分析を行う分析装置であって、テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取る読取手段と、テスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報として記憶したパターン記憶手段と、パターン記憶手段に記憶されたテンプレート情報と読取手段により読み取られたテスト領域との類似度を算出する類似度算出手段と、類似度算出手段により算出された類似度に基づいて被検物質の分析を行う判定手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の分析方法は、検体が展開される展開層と、展開層上に形成された検体中の被験物質に反応し呈色する所定の形状を有するテスト領域とを有する試験片を用いて被検物質の検査を行う分析方法であって、テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取り、パターン記憶手段に記憶したテスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報と読取手段により読み取られたテスト領域との類似度を算出し、算出した類似度に基づいて被検物質の分析を行うことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、テスト領域は被検物質の存在により呈色状態になるものであればよく、たとえばクロマトグラフィ、特に抗原抗体反応を利用したイムノアッセイをクロマトグラフィに応用したイムノクロマトグラフィ法を用いたものであってもよい。さらに、テスト領域およびコントロール領域のパターン形状は問わず、たとえばライン状に形成されていてもよいし、所定のパターンを有するものであってもよい。
【0011】
また、呈色状態とは、被検物質によりテスト領域が発色もしくは変色する、もしくは検体によりコントロール領域が発色もしくは変色するものであればよく、濃淡値は呈色状態の発色強度もしくは変色度合いを表すものであればよい。そして、読取手段は、呈色状態を濃淡値として読み取るものであればその構成を問わず、たとえば撮像素子を用いて試験片を画像として取得するものであってもよいし、試験片に光を照射しその反射光を受光する受光素子からなるものであってもよい。また、読取手段は、呈色状態の濃度変化を濃淡値として読み取るものであってもよいし、所定の波長の光(蛍光)の強度を濃淡値として読み取るものであってもよい。
【0012】
なお、類似度算出手段は、テンプレート情報およびテスト領域の濃淡値について畳み込み演算を行うことにより得られる相関値を類似度として算出するものであってもよい。
【0013】
また、判定手段は、予め設定された設定しきい値を有し、類似度と設定しきい値とを比較することにより被検物質の分析を行うものであってもよい。
【0014】
さらに、テスト領域が基本パターンを繰り返した所定のパターンにより形成されたものであってもよい。そして、テンプレート情報が基本パターンを表したものであって、類似度算出手段は、基本パターンとテンプレート情報との類似度を各基本パターンについて算出し類似度を求めるものであってもよい。
【0015】
また、パターン記憶手段は、被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数のテンプレート情報を有していてもよい。このとき、類似度算出手段はテンプレート情報毎にテスト領域との類似度を算出するものであり、判定手段が、複数のテンプレート情報毎に算出された複数の類似度のうち最も類似度の大きいテンプレート情報を検出し、検出したテンプレート情報に基づいて被検物質の分析を行うものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の分析装置および方法によれば、テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取り、パターン記憶手段に記憶したテスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報と読取手段により読み取られたテスト領域との類似度を算出し、算出した類似度に基づいて被検物質の分析を行うことにより、テスト領域の濃淡にムラが発生した場合であっても精度良く被検物質の分析を行うことができる。
【0017】
さらに、テスト領域が基本パターンを繰り返した所定のパターンにより形成されたものであり、テンプレート情報が基本パターンを表したものであり、類似度算出手段が基本パターンの配列方向にテンプレート情報を走査しながら算出した複数の相関値を用いて類似度を算出するものであるとき、効率良く精度の高い類似度の算出を行うことができる。
【0018】
また、試験片がテスト領域の下流側に検体が通過することにより呈色する、所定のパターンを有するコントロール領域を有するものであり、パターン記憶手段がコントロール領域の呈色状態を示すコントロール領域用のテンプレート情報を記憶したものであり、類似度算出手段がコントロール領域用のテンプレート情報と読取手段により読み取られたコントロール領域との類似度を算出するものであり、判定手段が類似度算出手段により算出された類似度に基づいて検体の異常を検出するものであるとき、検体の粘性が高いもしくは検体量が不足している等の分析動作の異常を類似度を用いて検出することができる。
【0019】
さらに、テスト領域が多角形もしくは円形からなる基本パターンが検体の展開方向に対し直交する方向に複数配列された形状を有するものであれば、テスト領域以外に帯状のムラが発生した際に従来のようにテスト領域が帯状に形成されている場合とは異なり、ムラとテスト領域とを容易に区別をつけることができる。
【0020】
また、パターン記憶手段が、被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数のテンプレート情報を有するものであり、類似度算出手段がテンプレート情報毎にテスト領域との類似度を算出するものであり、判定手段が、複数のテンプレート情報毎に算出された複数の類似度のうち最も類似度の大きいテンプレート情報を検出し、検出したテンプレート情報に基づいて被検物質の定量的な分析を行うものであるとき、被検物質の定量的な分析を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の分析装置の好ましい実施形態を示す概略構成図
【図2】本発明の分析装置において用いられる試験片の一例を示す模式図
【図3】本発明の分析装置において用いられる試験片の一例を示す模式図
【図4A】展開層におけるテスト領域形状の一例を示す模式図
【図4B】展開層におけるテスト領域形状の別の一例を示す模式図
【図5】図4A、図4Bの展開層が製造される様子を示す模式図
【図6】本発明の分析装置の好ましい実施形態を示すブロック図
【図7】図5のパターン記憶手段に記憶されたテンプレート情報の一例を示す模式図
【図8】図7のVIII−VIII断面における画素値を示すグラフ
【図9】図5のパターン記憶手段に記憶されたテンプレート情報の別の一例を示す模式図
【図10】本発明の呈色測定方法の好ましい実施形態を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の分析装置1の概略構成図である。分析装置1は、たとえばイムノクロマトグラフィ技術を利用して被検物質の検出を行う試験片10の読取りを行うものであって、筐体2、デバイス挿入口3、情報出力手段4等を備えている。そして、検体溶液が点着された試験片がデバイス挿入口3に挿入され、試験片10において生じる呈色反応が光学的に読み取られ、読取結果が情報入出力手段4に出力される。情報入出力手段4はたとえば液晶タッチパネルからなるオペレーションパネルであって、使用者はオペレーションパネルを介して測定のための基本的な設定を入力することができる。
【0023】
図2および図3は分析装置1により読み取られる試験片10の一例を示す模式図である。なお、試験片10として、たとえば特開2009−139256号公報、特開2007−64766号公報等公知の技術を用いることができる。また、以下にいわゆる増幅処理が可能な試験片10を用いる場合について例示するが、増幅処理を行わない試験片10を用いてもよい。
【0024】
試験片10は、イムノクロマトグラフィ法を用いて被検物質の定量的もしくは定性的(陰性/陽性)の検査を行うためのデバイスであって、被検物質(所定の抗原)を視認可能に標識化するものである。この試験片10には被検物質が存在する可能性のある検体と標識化物質(第2抗体)とを混合させた検体溶液が点着される。
【0025】
試験片10は、上ケース10A、下ケース10B、展開層12を有しており、上ケース10Aおよび下ケース10B内に展開層12が収容されている。上ケース10Aには外部から検体溶液を展開層12に点着するための貫通孔11と増幅液を展開層12に点着するための貫通孔14とが形成されている。一方、下ケース10Bには展開層12が固定されており、被検物質の定量的または定性的な測定を観察するための観察窓10Zが形成されている。さらに、下ケース10Bの表面には検体を識別情報(氏名等)や反応に必要な時間情報等を記録した文字情報、バーコード、ICタグ等の情報記憶手段15が設けられている。
【0026】
展開層12はたとえばセルロース濾紙、硝子繊維、ポリウレタン等の吸収剤からなっており、点着された検体溶液は毛細管現象により一定の方向に流れる。展開層12にはテスト領域TRとコントロール領域CRとが形成されている。テスト領域TRは、被検物質(抗体)に対して特異性を有する第1抗体が固定されたものであって、被検物質の存在により第1抗体−被検物質−第2抗体の結合体が形成されライン状に呈色する。一方、コントロール領域CRは、標識化抗体に反応する参照用抗原(もしくは抗体)が固定されており、検体溶液中の標識化抗体と反応しライン状に呈色する。したがって、コントロール領域CRの呈色状態を確認することにより、検体溶液がテスト領域TRおよびコントロール領域CR上を通過したか否かを判断することができる。
【0027】
さらに、試験片10は、テスト領域TRおよびコントロール領域CRを上下方向(検体溶液の流路に略直交する方向)に挟むように、テスト領域TRおよびコントロール領域CRを洗浄するための洗浄液の流路を形成する洗浄層13a、13bを備えている。洗浄層13a、13bは、展開層12と同様の材料からなるものであって、洗浄層13a側には洗浄液が貯蔵されている(図示せず)。そして、テスト領域TRおよびコントロール領域CRにおける反応が完了した後に、洗浄層13aが分析装置1から押圧される。すると、毛細管現象によって洗浄液が洗浄層13aから洗浄層13b側へ流れ、洗浄層13aと13bとの間に存在するテスト領域TRおよびコントロール領域CRに洗浄液が流れる。これにより、テスト領域TRおよびコントロール領域CR上の免疫複合体を形成しなかった標識化抗体が除去される。
【0028】
また、上ケース10Aには筐体2内の増幅処理手段6から金属イオン(銀コロイド等)を含有する増幅液を展開層12に展開させるための貫通孔14が形成されている。そして、洗浄液による洗浄後に増幅液が展開層12上に展開することにより、金属イオンがテスト領域TRおよびコントロール領域CR上の免疫複合体に付着し、呈色状態が増幅される。
【0029】
ここで、図4Aおよび図4Bはテスト領域TRおよびコントロール領域CRの一例を示す模式図である。図4のテスト領域TRおよびコントロール領域CRは所定の基本パターンPrefを繰り返した非線形形状を有するものであって、たとえば対角に配置された2つの四角からなる基本パターンPrefが検体の展開方向(矢印X方向)に直交する方向(矢印Y方向)に複数配列されることにより形成されている。あるいは図4Bは基本パターンPrefが円形状に形成されており、この基本パターンPrefが直線状に配列されていてもよい。なお、図4Aにおいて基本パターンPrefが連続して形成されており図4Bにおいて基本パターンPrefが離散して形成されているが、図4の四角上の基本パターンPrefが離散して形成されていてもよいし、図5の円形状の基本パターンPrefが連続して形成されていてもよい。また、上述したテスト領域TRのパターンを有する展開層12は、図5に示すように長尺の吸収剤ロールに対し反応抗体をライン上にしみこませ、必要な幅で切断することにより製造される。
【0030】
図6は本発明の分析装置の好ましい実施形態を示すブロック図である。図6の分析装置1は、読取手段21、類似度算出手段22、パターン記憶手段23、判定手段24等を備えている。読取手段21は、観察窓10Zからテスト領域TRおよびコントロール領域CRの呈色状態を濃淡値として読み取るものであって、たとえばCCDやCMOS等の撮像素子からなっている。なお、読取手段21は、グレースケール値を濃淡値として読み取るものであってもよいし、RGBの各成分値を濃淡値として読み取るものであってもよいし、蛍光等の所定の色(波長成分)の強弱を濃淡値として読み取るものであってもよい。さらに、読取手段21は撮像素子からなる場合に限らず、観察窓10Zから生じる反射光や蛍光を受光する受光素子からなるものであってもよい。
【0031】
類似度算出手段22は、パターン記憶手段23に記憶されたテンプレート情報TPと読取手段21により読み取られたテスト領域TRとの類似度を算出するものである。パターン記憶手段23には、図7に示すようなテンプレート情報TPが記憶されている。特に、テンプレート情報TPはテスト領域TRの基本パターンPrefの同一の形状を有するとともに、基本領域Prefが呈色した状態の濃淡値を有している。
【0032】
たとえば、検体が展開層12上に展開した際、検体の展開方向(矢印X1方向)の上流側の方が下流側に比べて被検物質を捕捉しやすいため、展開方向の上流側の方が下流側よりも濃淡値が大きくなる。また、テスト領域TRのエッジ部分において検体の展開方向に沿ってなだらかなエンベロープを有する。つまり、テスト領域TRは検体の展開方向において均一な呈色状態にはならず、テスト領域TRの濃淡値は基本パターンPrefを構成する矩形状の領域のうち、上流側から下流側に向かって濃淡値が濃くなるような濃淡分布を有する。そこで、パターン記憶手段23には形状的特徴とともに濃淡分布を有するテンプレート情報TPが作成され記憶されている。
【0033】
図7においてテンプレート情報TPが検体の展開方向(矢印X方向)についての濃度特性を有する場合について例示しているが、図9に示すように洗浄液の展開方向(Y方向)についての濃淡分布を有していてもよい。すなわち、洗浄工程において洗浄液が洗浄層13aから13bに流れる際、洗浄液の上流側の方が下流側よりも洗浄効果が高いため、下流側に浮遊している標識抗体が残存してしまうおそれがある。その状態で増幅処理をした場合、上流側の呈色が下流側の呈色よりも濃淡値が大きくなるような濃度ムラが発生する。つまり、テスト領域TRは洗浄液の展開方向においても均一にならない場合がある。そこで、洗浄液の展開方向、すなわち基本パターンPrefの配列方向の位置が異なる毎に所定の濃淡特性を有するようなテンプレート情報TPが予め記憶するようにしてもよい。
【0034】
類似度算出手段22は、テンプレート情報TPの各濃淡値とテスト領域TRの各基本パターンPrefの画素値とを用いて2次元畳み込み演算を行うことにより類似度(相関値)を算出する。具体的には、類似度算出手段22はテスト領域TRをマッチング領域に設定し(図4A、図4B参照)、マッチング領域内の基本パターンPrefとテンプレート情報TPとの相関値の算出を基本パターンPrefの配列方向(矢印Y方向)に沿って複数回行う。そして、類似度算出手段22は複数の相関値の総和を類似度として算出する。
【0035】
判定手段24は、類似度算出手段22により算出された類似度に基づいて被検物質の定量的または定性的な分析を行うものである。具体的には、判定手段24は予め設定された設定しきい値を有しており、類似度と設定しきい値とを比較することにより被検物質の定性的な判定(陽性/陰性)を行う。
【0036】
このように、テンプレート情報TPを用いてテスト領域TRの形状的特徴のみならず濃淡特性も考慮した分析を行うことにより、被検物質の定量的または定性的な分析精度を向上させることができる。さらに、テスト領域TRが所定の基本パターンPrefが繰り返した非線形形状を有することにより、洗浄工程において発生する帯状の擬陽性パターンとテスト領域TRまたはコントロール領域CRの呈色状態とを明確に判別することができる。また、テスト領域TRおよびコントロール領域CRが基本パターンPrefの繰り返し模様により形成されているため、従来の単一の所定パターンを有するテストパターンとは異なり呈色状態を判別しやすくすることができる。
【0037】
さらに、類似度算出手段22は、テスト領域TRと同様に、コントロール領域CRについても類似度(相関値)を算出する。そして、判定手段24はコントロール領域CR用に予め設定された基準値と類似度と比較し、類似度が基準値よりも小さい場合、検体の粘性が高いもしくは検体の量が少なすぎるものとして異常を出力する。
【0038】
図10は本発明の分析方法の好ましい実施形態を示すフローチャートであり、図1から図10を参照して分析方法について説明する。まず、試験片10に検体を点着した後、試験片10が分析装置1に装填される(ステップST1)。このとき、識別情報読取手段22aにより試験片10に塗布されている検査抗体の種類、分析時間とともにテスト領域TRおよびコントロール領域CRの形状情報が読み取られる。
【0039】
装填後の所定期間経過後にコントロール領域CRの呈色状態が読み取られ、コントロール領域CRの濃淡値とテンプレート情報TPとの類似度が算出される(ステップST2)。そして、類似度が基準値よりも小さい場合、粘性が高いもしくは検体量が少ない等により正常な検査を行うことができない状態であるとして異常である旨が出力される(ステップST3)。
【0040】
一方、コントロール領域CRの呈色状態に異常がない場合、試験片10において検体の展開(たとえば10分)、洗浄処理および増幅処理(たとえば5分)が行われ、増幅処理後のテスト領域TRおよびコントロール領域CRの呈色状態が濃淡値として読み取られる(ステップST5)。そして、テスト領域TRの濃淡値とテンプレート情報TPとの相関値が類似度として算出される(ステップST6)。その後、判定手段24において、類似度および設定しきい値を用いて被検物質の定量的または定性的な分析が行われ、分析結果が情報出力手段4から出力される(ステップST7)。
【0041】
上記実施の形態によれば、テスト領域TRの呈色状態を濃淡値として読み取り、パターン記憶手段2に記憶したテスト領域TRの呈色状態をテンプレート情報TPと読取手段により読み取られたテスト領域TRとの類似度を算出し、算出した類似度に基づいて被検物質の分析を行うことにより、呈色状態に基づいて精度良く被検物質の分析を行うことができる。
【0042】
さらに、テスト領域TRが基本パターンPrefを繰り返した所定のパターンにより形成されたものであり、テンプレート情報TPが基本パターンPrefを表したものであり、類似度算出手段22が基本パターンPrefの配列方向にテンプレート情報TPを走査しながら算出した複数の相関値を用いて類似度を算出するものであるとき、効率良く精度の高い類似度の算出を行うことができる。
【0043】
また、試験片10がテスト領域TRの下流側に検体が通過することにより呈色する、所定のパターンを有するコントロール領域を有するものであり、パターン記憶手段23がコントロール領域CRの呈色状態を示すコントロール領域CR用のテンプレート情報TPを記憶したものであり、類似度算出手段22がコントロール領域CR用のテンプレート情報TPと読取手段により読み取られたコントロール領域との類似度を算出するものであり、判定手段24が類似度算出手段により算出された類似度に基づいて検体の異常を検出するものであるとき、検体の粘性が高いもしくは検体量が不足している等の分析動作の異常を類似度を用いて検出することができる。
【0044】
さらに、テスト領域TRが多角形もしくは円形からなる基本パターンPrefが検体の展開方向に対し直交する方向に複数配列された形状を有するものであれば、従来のようにテスト領域TRが帯状に形成されている場合に比べて洗浄ムラとの区別を容易につけることができる。
【0045】
また、パターン記憶手段23が、被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数のテンプレート情報TPを有するものであり、類似度算出手段がテンプレート情報TP毎にテスト領域TRとの類似度を算出するものであり、判定手段24が、複数のテンプレート情報TP毎に算出された複数の類似度のうち最も類似度の大きいテンプレート情報TPを検出し、検出したテンプレート情報TPに基づいて被検物質の定量的な分析を行うものであるとき、被検物質の定量的な分析を精度良く行うことができる。
【0046】
本発明の実施形態は上記実施形態に限定されない。たとえば、図4および図5において、基本パターンPrefの一例として円形や矩形の場合について例示しているが、3角形、5角形、平行四辺形等多角形状を有するものであってもよい。さらに、テスト領域TRとコントロール領域CRとが同一のパターンを有する場合について例示しているが、異なるパターンにより形成されていてもよい。
【0047】
また、テンプレート情報TPが基本パターンPrefに基づいて作成される場合について例示しているが、テスト領域TR全体のパターンをテンプレート情報TPとして作成してもよい。
【0048】
さらに、パターン記憶手段23には被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数のテンプレート情報TPが記憶されていてもよい。このとき、類似度算出手段22は各呈色度のテンプレート情報TPとテスト領域TRとの類似度を算出する。そして、判定手段24は、複数のテンプレート情報TP毎に算出された複数の類似度のうち最も類似度の大きいテンプレート情報TPを検出し、検出したテンプレート情報TPに基づいて被検物質の定量的な判定を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 分析装置
10 試験片
21 読取手段
22 類似度算出手段
23 パターン記憶手段
24 判定手段
CR コントロール領域
TP テンプレート情報
TR テスト領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の被験物質について定量的または定性的な分析を行う分析装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体外診断薬や毒物等の検査のために被験物質を含有する可能性のある検体を試験片に送液し、イムノクロマトグラフ法を用いて被験物質について簡便かつ迅速に検査するデバイスが数多く開発されている。具体的には、特定の領域(テストライン)に被検物質(たとえば抗原)に特異的に結合する第1抗体が固定された多孔質体からなる展開層が用意される。そして、展開層上に被検物質と特異的に結合する標識化第2抗体に被検物質が存在する可能性のある検体を混合した検体が展開される。すると、テストライン上において被検物質と第1抗体および第2抗体とによる抗原抗体反応が生じ、テストラインが着色もしくは発色し呈色状態になる。このテストラインの呈色状態を観察することにより、検体に被検物質が存在するか否か定量的または定性的(陰性/陽性)な測定が行われる。
【0003】
さらに、テストラインの呈色状態を迅速かつ高感度に検出するために、増幅剤を用いた増幅処理を行うことが提案されている(たとえば特許文献1参照)。特許文献1には、上述した検体が展開層に展開した後に、テストラインおよびコントロールラインを洗浄液を用いて洗浄し、銀イオン等の金属イオンを含む増幅剤を展開層に展開させることにより、テストライン上の第1抗体−被検物質(抗原)−第2抗体の複合体に対し金属イオンが結合し、呈色状態を増幅させることが開示されている。特に、洗浄液の展開方向を被検物質の展開方向に対し所定の角度だけ傾けることにより、洗浄効果を高めることが提案されている。
【0004】
また、特許文献1には帯状にテスト領域が試験片上に形成された場合について開示されている。またテスト領域(反応領域)の形状としてはたとえば特許文献2には丸、二重丸、星形等の所定の単一パターンにより形成されていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−216695号公報
【特許文献2】特開平6−273419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、テスト領域上に現れる呈色は領域内において均一にはならず、濃淡のムラが発生する。特に、特許文献1に示すように洗浄液による洗浄を行う場合、領域内の位置毎に洗浄効果が異なる場合や洗浄液の流れによるムラ等が発生してしまい、検出精度の低下を誘発するという問題がある。一方、特許文献2に示すようなテスト領域が丸等の特定のパターンからなる場合呈色状態の確認がしづらいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、精度良く被検物質の分析を行うことができる分析装置および方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の分析装置は、検体が展開される展開層と、展開層上に形成された検体中の被験物質に反応し呈色する所定の形状を有するテスト領域とを有する試験片を用いて被検物質の分析を行う分析装置であって、テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取る読取手段と、テスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報として記憶したパターン記憶手段と、パターン記憶手段に記憶されたテンプレート情報と読取手段により読み取られたテスト領域との類似度を算出する類似度算出手段と、類似度算出手段により算出された類似度に基づいて被検物質の分析を行う判定手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の分析方法は、検体が展開される展開層と、展開層上に形成された検体中の被験物質に反応し呈色する所定の形状を有するテスト領域とを有する試験片を用いて被検物質の検査を行う分析方法であって、テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取り、パターン記憶手段に記憶したテスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報と読取手段により読み取られたテスト領域との類似度を算出し、算出した類似度に基づいて被検物質の分析を行うことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、テスト領域は被検物質の存在により呈色状態になるものであればよく、たとえばクロマトグラフィ、特に抗原抗体反応を利用したイムノアッセイをクロマトグラフィに応用したイムノクロマトグラフィ法を用いたものであってもよい。さらに、テスト領域およびコントロール領域のパターン形状は問わず、たとえばライン状に形成されていてもよいし、所定のパターンを有するものであってもよい。
【0011】
また、呈色状態とは、被検物質によりテスト領域が発色もしくは変色する、もしくは検体によりコントロール領域が発色もしくは変色するものであればよく、濃淡値は呈色状態の発色強度もしくは変色度合いを表すものであればよい。そして、読取手段は、呈色状態を濃淡値として読み取るものであればその構成を問わず、たとえば撮像素子を用いて試験片を画像として取得するものであってもよいし、試験片に光を照射しその反射光を受光する受光素子からなるものであってもよい。また、読取手段は、呈色状態の濃度変化を濃淡値として読み取るものであってもよいし、所定の波長の光(蛍光)の強度を濃淡値として読み取るものであってもよい。
【0012】
なお、類似度算出手段は、テンプレート情報およびテスト領域の濃淡値について畳み込み演算を行うことにより得られる相関値を類似度として算出するものであってもよい。
【0013】
また、判定手段は、予め設定された設定しきい値を有し、類似度と設定しきい値とを比較することにより被検物質の分析を行うものであってもよい。
【0014】
さらに、テスト領域が基本パターンを繰り返した所定のパターンにより形成されたものであってもよい。そして、テンプレート情報が基本パターンを表したものであって、類似度算出手段は、基本パターンとテンプレート情報との類似度を各基本パターンについて算出し類似度を求めるものであってもよい。
【0015】
また、パターン記憶手段は、被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数のテンプレート情報を有していてもよい。このとき、類似度算出手段はテンプレート情報毎にテスト領域との類似度を算出するものであり、判定手段が、複数のテンプレート情報毎に算出された複数の類似度のうち最も類似度の大きいテンプレート情報を検出し、検出したテンプレート情報に基づいて被検物質の分析を行うものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の分析装置および方法によれば、テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取り、パターン記憶手段に記憶したテスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報と読取手段により読み取られたテスト領域との類似度を算出し、算出した類似度に基づいて被検物質の分析を行うことにより、テスト領域の濃淡にムラが発生した場合であっても精度良く被検物質の分析を行うことができる。
【0017】
さらに、テスト領域が基本パターンを繰り返した所定のパターンにより形成されたものであり、テンプレート情報が基本パターンを表したものであり、類似度算出手段が基本パターンの配列方向にテンプレート情報を走査しながら算出した複数の相関値を用いて類似度を算出するものであるとき、効率良く精度の高い類似度の算出を行うことができる。
【0018】
また、試験片がテスト領域の下流側に検体が通過することにより呈色する、所定のパターンを有するコントロール領域を有するものであり、パターン記憶手段がコントロール領域の呈色状態を示すコントロール領域用のテンプレート情報を記憶したものであり、類似度算出手段がコントロール領域用のテンプレート情報と読取手段により読み取られたコントロール領域との類似度を算出するものであり、判定手段が類似度算出手段により算出された類似度に基づいて検体の異常を検出するものであるとき、検体の粘性が高いもしくは検体量が不足している等の分析動作の異常を類似度を用いて検出することができる。
【0019】
さらに、テスト領域が多角形もしくは円形からなる基本パターンが検体の展開方向に対し直交する方向に複数配列された形状を有するものであれば、テスト領域以外に帯状のムラが発生した際に従来のようにテスト領域が帯状に形成されている場合とは異なり、ムラとテスト領域とを容易に区別をつけることができる。
【0020】
また、パターン記憶手段が、被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数のテンプレート情報を有するものであり、類似度算出手段がテンプレート情報毎にテスト領域との類似度を算出するものであり、判定手段が、複数のテンプレート情報毎に算出された複数の類似度のうち最も類似度の大きいテンプレート情報を検出し、検出したテンプレート情報に基づいて被検物質の定量的な分析を行うものであるとき、被検物質の定量的な分析を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の分析装置の好ましい実施形態を示す概略構成図
【図2】本発明の分析装置において用いられる試験片の一例を示す模式図
【図3】本発明の分析装置において用いられる試験片の一例を示す模式図
【図4A】展開層におけるテスト領域形状の一例を示す模式図
【図4B】展開層におけるテスト領域形状の別の一例を示す模式図
【図5】図4A、図4Bの展開層が製造される様子を示す模式図
【図6】本発明の分析装置の好ましい実施形態を示すブロック図
【図7】図5のパターン記憶手段に記憶されたテンプレート情報の一例を示す模式図
【図8】図7のVIII−VIII断面における画素値を示すグラフ
【図9】図5のパターン記憶手段に記憶されたテンプレート情報の別の一例を示す模式図
【図10】本発明の呈色測定方法の好ましい実施形態を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の分析装置1の概略構成図である。分析装置1は、たとえばイムノクロマトグラフィ技術を利用して被検物質の検出を行う試験片10の読取りを行うものであって、筐体2、デバイス挿入口3、情報出力手段4等を備えている。そして、検体溶液が点着された試験片がデバイス挿入口3に挿入され、試験片10において生じる呈色反応が光学的に読み取られ、読取結果が情報入出力手段4に出力される。情報入出力手段4はたとえば液晶タッチパネルからなるオペレーションパネルであって、使用者はオペレーションパネルを介して測定のための基本的な設定を入力することができる。
【0023】
図2および図3は分析装置1により読み取られる試験片10の一例を示す模式図である。なお、試験片10として、たとえば特開2009−139256号公報、特開2007−64766号公報等公知の技術を用いることができる。また、以下にいわゆる増幅処理が可能な試験片10を用いる場合について例示するが、増幅処理を行わない試験片10を用いてもよい。
【0024】
試験片10は、イムノクロマトグラフィ法を用いて被検物質の定量的もしくは定性的(陰性/陽性)の検査を行うためのデバイスであって、被検物質(所定の抗原)を視認可能に標識化するものである。この試験片10には被検物質が存在する可能性のある検体と標識化物質(第2抗体)とを混合させた検体溶液が点着される。
【0025】
試験片10は、上ケース10A、下ケース10B、展開層12を有しており、上ケース10Aおよび下ケース10B内に展開層12が収容されている。上ケース10Aには外部から検体溶液を展開層12に点着するための貫通孔11と増幅液を展開層12に点着するための貫通孔14とが形成されている。一方、下ケース10Bには展開層12が固定されており、被検物質の定量的または定性的な測定を観察するための観察窓10Zが形成されている。さらに、下ケース10Bの表面には検体を識別情報(氏名等)や反応に必要な時間情報等を記録した文字情報、バーコード、ICタグ等の情報記憶手段15が設けられている。
【0026】
展開層12はたとえばセルロース濾紙、硝子繊維、ポリウレタン等の吸収剤からなっており、点着された検体溶液は毛細管現象により一定の方向に流れる。展開層12にはテスト領域TRとコントロール領域CRとが形成されている。テスト領域TRは、被検物質(抗体)に対して特異性を有する第1抗体が固定されたものであって、被検物質の存在により第1抗体−被検物質−第2抗体の結合体が形成されライン状に呈色する。一方、コントロール領域CRは、標識化抗体に反応する参照用抗原(もしくは抗体)が固定されており、検体溶液中の標識化抗体と反応しライン状に呈色する。したがって、コントロール領域CRの呈色状態を確認することにより、検体溶液がテスト領域TRおよびコントロール領域CR上を通過したか否かを判断することができる。
【0027】
さらに、試験片10は、テスト領域TRおよびコントロール領域CRを上下方向(検体溶液の流路に略直交する方向)に挟むように、テスト領域TRおよびコントロール領域CRを洗浄するための洗浄液の流路を形成する洗浄層13a、13bを備えている。洗浄層13a、13bは、展開層12と同様の材料からなるものであって、洗浄層13a側には洗浄液が貯蔵されている(図示せず)。そして、テスト領域TRおよびコントロール領域CRにおける反応が完了した後に、洗浄層13aが分析装置1から押圧される。すると、毛細管現象によって洗浄液が洗浄層13aから洗浄層13b側へ流れ、洗浄層13aと13bとの間に存在するテスト領域TRおよびコントロール領域CRに洗浄液が流れる。これにより、テスト領域TRおよびコントロール領域CR上の免疫複合体を形成しなかった標識化抗体が除去される。
【0028】
また、上ケース10Aには筐体2内の増幅処理手段6から金属イオン(銀コロイド等)を含有する増幅液を展開層12に展開させるための貫通孔14が形成されている。そして、洗浄液による洗浄後に増幅液が展開層12上に展開することにより、金属イオンがテスト領域TRおよびコントロール領域CR上の免疫複合体に付着し、呈色状態が増幅される。
【0029】
ここで、図4Aおよび図4Bはテスト領域TRおよびコントロール領域CRの一例を示す模式図である。図4のテスト領域TRおよびコントロール領域CRは所定の基本パターンPrefを繰り返した非線形形状を有するものであって、たとえば対角に配置された2つの四角からなる基本パターンPrefが検体の展開方向(矢印X方向)に直交する方向(矢印Y方向)に複数配列されることにより形成されている。あるいは図4Bは基本パターンPrefが円形状に形成されており、この基本パターンPrefが直線状に配列されていてもよい。なお、図4Aにおいて基本パターンPrefが連続して形成されており図4Bにおいて基本パターンPrefが離散して形成されているが、図4の四角上の基本パターンPrefが離散して形成されていてもよいし、図5の円形状の基本パターンPrefが連続して形成されていてもよい。また、上述したテスト領域TRのパターンを有する展開層12は、図5に示すように長尺の吸収剤ロールに対し反応抗体をライン上にしみこませ、必要な幅で切断することにより製造される。
【0030】
図6は本発明の分析装置の好ましい実施形態を示すブロック図である。図6の分析装置1は、読取手段21、類似度算出手段22、パターン記憶手段23、判定手段24等を備えている。読取手段21は、観察窓10Zからテスト領域TRおよびコントロール領域CRの呈色状態を濃淡値として読み取るものであって、たとえばCCDやCMOS等の撮像素子からなっている。なお、読取手段21は、グレースケール値を濃淡値として読み取るものであってもよいし、RGBの各成分値を濃淡値として読み取るものであってもよいし、蛍光等の所定の色(波長成分)の強弱を濃淡値として読み取るものであってもよい。さらに、読取手段21は撮像素子からなる場合に限らず、観察窓10Zから生じる反射光や蛍光を受光する受光素子からなるものであってもよい。
【0031】
類似度算出手段22は、パターン記憶手段23に記憶されたテンプレート情報TPと読取手段21により読み取られたテスト領域TRとの類似度を算出するものである。パターン記憶手段23には、図7に示すようなテンプレート情報TPが記憶されている。特に、テンプレート情報TPはテスト領域TRの基本パターンPrefの同一の形状を有するとともに、基本領域Prefが呈色した状態の濃淡値を有している。
【0032】
たとえば、検体が展開層12上に展開した際、検体の展開方向(矢印X1方向)の上流側の方が下流側に比べて被検物質を捕捉しやすいため、展開方向の上流側の方が下流側よりも濃淡値が大きくなる。また、テスト領域TRのエッジ部分において検体の展開方向に沿ってなだらかなエンベロープを有する。つまり、テスト領域TRは検体の展開方向において均一な呈色状態にはならず、テスト領域TRの濃淡値は基本パターンPrefを構成する矩形状の領域のうち、上流側から下流側に向かって濃淡値が濃くなるような濃淡分布を有する。そこで、パターン記憶手段23には形状的特徴とともに濃淡分布を有するテンプレート情報TPが作成され記憶されている。
【0033】
図7においてテンプレート情報TPが検体の展開方向(矢印X方向)についての濃度特性を有する場合について例示しているが、図9に示すように洗浄液の展開方向(Y方向)についての濃淡分布を有していてもよい。すなわち、洗浄工程において洗浄液が洗浄層13aから13bに流れる際、洗浄液の上流側の方が下流側よりも洗浄効果が高いため、下流側に浮遊している標識抗体が残存してしまうおそれがある。その状態で増幅処理をした場合、上流側の呈色が下流側の呈色よりも濃淡値が大きくなるような濃度ムラが発生する。つまり、テスト領域TRは洗浄液の展開方向においても均一にならない場合がある。そこで、洗浄液の展開方向、すなわち基本パターンPrefの配列方向の位置が異なる毎に所定の濃淡特性を有するようなテンプレート情報TPが予め記憶するようにしてもよい。
【0034】
類似度算出手段22は、テンプレート情報TPの各濃淡値とテスト領域TRの各基本パターンPrefの画素値とを用いて2次元畳み込み演算を行うことにより類似度(相関値)を算出する。具体的には、類似度算出手段22はテスト領域TRをマッチング領域に設定し(図4A、図4B参照)、マッチング領域内の基本パターンPrefとテンプレート情報TPとの相関値の算出を基本パターンPrefの配列方向(矢印Y方向)に沿って複数回行う。そして、類似度算出手段22は複数の相関値の総和を類似度として算出する。
【0035】
判定手段24は、類似度算出手段22により算出された類似度に基づいて被検物質の定量的または定性的な分析を行うものである。具体的には、判定手段24は予め設定された設定しきい値を有しており、類似度と設定しきい値とを比較することにより被検物質の定性的な判定(陽性/陰性)を行う。
【0036】
このように、テンプレート情報TPを用いてテスト領域TRの形状的特徴のみならず濃淡特性も考慮した分析を行うことにより、被検物質の定量的または定性的な分析精度を向上させることができる。さらに、テスト領域TRが所定の基本パターンPrefが繰り返した非線形形状を有することにより、洗浄工程において発生する帯状の擬陽性パターンとテスト領域TRまたはコントロール領域CRの呈色状態とを明確に判別することができる。また、テスト領域TRおよびコントロール領域CRが基本パターンPrefの繰り返し模様により形成されているため、従来の単一の所定パターンを有するテストパターンとは異なり呈色状態を判別しやすくすることができる。
【0037】
さらに、類似度算出手段22は、テスト領域TRと同様に、コントロール領域CRについても類似度(相関値)を算出する。そして、判定手段24はコントロール領域CR用に予め設定された基準値と類似度と比較し、類似度が基準値よりも小さい場合、検体の粘性が高いもしくは検体の量が少なすぎるものとして異常を出力する。
【0038】
図10は本発明の分析方法の好ましい実施形態を示すフローチャートであり、図1から図10を参照して分析方法について説明する。まず、試験片10に検体を点着した後、試験片10が分析装置1に装填される(ステップST1)。このとき、識別情報読取手段22aにより試験片10に塗布されている検査抗体の種類、分析時間とともにテスト領域TRおよびコントロール領域CRの形状情報が読み取られる。
【0039】
装填後の所定期間経過後にコントロール領域CRの呈色状態が読み取られ、コントロール領域CRの濃淡値とテンプレート情報TPとの類似度が算出される(ステップST2)。そして、類似度が基準値よりも小さい場合、粘性が高いもしくは検体量が少ない等により正常な検査を行うことができない状態であるとして異常である旨が出力される(ステップST3)。
【0040】
一方、コントロール領域CRの呈色状態に異常がない場合、試験片10において検体の展開(たとえば10分)、洗浄処理および増幅処理(たとえば5分)が行われ、増幅処理後のテスト領域TRおよびコントロール領域CRの呈色状態が濃淡値として読み取られる(ステップST5)。そして、テスト領域TRの濃淡値とテンプレート情報TPとの相関値が類似度として算出される(ステップST6)。その後、判定手段24において、類似度および設定しきい値を用いて被検物質の定量的または定性的な分析が行われ、分析結果が情報出力手段4から出力される(ステップST7)。
【0041】
上記実施の形態によれば、テスト領域TRの呈色状態を濃淡値として読み取り、パターン記憶手段2に記憶したテスト領域TRの呈色状態をテンプレート情報TPと読取手段により読み取られたテスト領域TRとの類似度を算出し、算出した類似度に基づいて被検物質の分析を行うことにより、呈色状態に基づいて精度良く被検物質の分析を行うことができる。
【0042】
さらに、テスト領域TRが基本パターンPrefを繰り返した所定のパターンにより形成されたものであり、テンプレート情報TPが基本パターンPrefを表したものであり、類似度算出手段22が基本パターンPrefの配列方向にテンプレート情報TPを走査しながら算出した複数の相関値を用いて類似度を算出するものであるとき、効率良く精度の高い類似度の算出を行うことができる。
【0043】
また、試験片10がテスト領域TRの下流側に検体が通過することにより呈色する、所定のパターンを有するコントロール領域を有するものであり、パターン記憶手段23がコントロール領域CRの呈色状態を示すコントロール領域CR用のテンプレート情報TPを記憶したものであり、類似度算出手段22がコントロール領域CR用のテンプレート情報TPと読取手段により読み取られたコントロール領域との類似度を算出するものであり、判定手段24が類似度算出手段により算出された類似度に基づいて検体の異常を検出するものであるとき、検体の粘性が高いもしくは検体量が不足している等の分析動作の異常を類似度を用いて検出することができる。
【0044】
さらに、テスト領域TRが多角形もしくは円形からなる基本パターンPrefが検体の展開方向に対し直交する方向に複数配列された形状を有するものであれば、従来のようにテスト領域TRが帯状に形成されている場合に比べて洗浄ムラとの区別を容易につけることができる。
【0045】
また、パターン記憶手段23が、被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数のテンプレート情報TPを有するものであり、類似度算出手段がテンプレート情報TP毎にテスト領域TRとの類似度を算出するものであり、判定手段24が、複数のテンプレート情報TP毎に算出された複数の類似度のうち最も類似度の大きいテンプレート情報TPを検出し、検出したテンプレート情報TPに基づいて被検物質の定量的な分析を行うものであるとき、被検物質の定量的な分析を精度良く行うことができる。
【0046】
本発明の実施形態は上記実施形態に限定されない。たとえば、図4および図5において、基本パターンPrefの一例として円形や矩形の場合について例示しているが、3角形、5角形、平行四辺形等多角形状を有するものであってもよい。さらに、テスト領域TRとコントロール領域CRとが同一のパターンを有する場合について例示しているが、異なるパターンにより形成されていてもよい。
【0047】
また、テンプレート情報TPが基本パターンPrefに基づいて作成される場合について例示しているが、テスト領域TR全体のパターンをテンプレート情報TPとして作成してもよい。
【0048】
さらに、パターン記憶手段23には被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数のテンプレート情報TPが記憶されていてもよい。このとき、類似度算出手段22は各呈色度のテンプレート情報TPとテスト領域TRとの類似度を算出する。そして、判定手段24は、複数のテンプレート情報TP毎に算出された複数の類似度のうち最も類似度の大きいテンプレート情報TPを検出し、検出したテンプレート情報TPに基づいて被検物質の定量的な判定を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 分析装置
10 試験片
21 読取手段
22 類似度算出手段
23 パターン記憶手段
24 判定手段
CR コントロール領域
TP テンプレート情報
TR テスト領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体が展開される展開層と、該展開層上に形成された前記検体中の被験物質に反応し呈色する所定の形状を有するテスト領域とを有する試験片を用いて前記被検物質の分析を行う分析装置であって、
前記テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取る読取手段と、
前記テスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報を記憶したパターン記憶手段と、
該パターン記憶手段に記憶された前記テンプレート情報と前記読取手段により読み取られた前記テスト領域との類似度を算出する類似度算出手段と、
該類似度算出手段により算出された前記類似度に基づいて前記被検物質の分析を行う判定手段と
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記類似度算出手段が前記テンプレート情報と前記テスト領域の濃淡値との畳み込み演算を行うことにより得られる相関値を前記類似度として算出するものであることを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記判定手段が、予め設定された設定しきい値を有し、前記類似度と前記設定しきい値とを比較することにより前記被検物質の定量的または定性的な判定を行うものであることを特徴とする請求項1または2記載の分析装置。
【請求項4】
前記テスト領域が基本パターンを繰り返した所定のパターンにより形成されたものであり、
前記テンプレート情報が前記基本パターンを表したものであり、
前記類似度算出手段が、前記基本パターンと前記テンプレート情報との相関値の算出を前記各基本パターンについて算出し前記類似度を求めるものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項5】
前記テスト領域が多角形もしくは円形からなる前記基本パターンが前記検体の展開方向に対し直交する方向に複数配列された形状を有するものであることを特徴とする請求項4記載の分析装置。
【請求項6】
前記試験片が前記テスト領域の下流側に前記検体が通過することにより呈色する、所定のパターンを有するコントロール領域を有するものであり、
前記パターン記憶手段が前記コントロール領域の呈色状態を示す前記コントロール領域用のテンプレート情報を記憶したものであり、
前記類似度算出手段が前記コントロール領域用の前記テンプレート情報と前記読取手段により読み取られた前記コントロール領域との類似度を算出するものであり、
前記判定手段が該類似度算出手段により算出された前記類似度に基づいて前記検体の異常を検出するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項7】
前記パターン記憶手段が前記被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数の前記テンプレート情報を有するものであり、
前記類似度算出手段が前記テンプレート情報毎に前記テスト領域との前記類似度を算出するものであり、
前記判定手段が、前記複数のテンプレート情報毎に算出された複数の前記類似度のうち最も類似度の大きい前記テンプレート情報を検出し、検出した前記テンプレート情報に基づいて前記被検物質の定量的な分析を行うものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項8】
検体が展開される展開層と、該展開層上に形成された前記検体中の被験物質に反応し呈色する所定の形状を有するテスト領域とを有する試験片を用いて前記被検物質の検査を行う分析方法であって、
前記テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取り、
パターン記憶手段に記憶した前記テスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報と前記読取手段により読み取られた前記テスト領域との類似度を算出し、
算出した前記類似度に基づいて前記被検物質の分析を行う
ことを特徴とする分析方法。
【請求項1】
検体が展開される展開層と、該展開層上に形成された前記検体中の被験物質に反応し呈色する所定の形状を有するテスト領域とを有する試験片を用いて前記被検物質の分析を行う分析装置であって、
前記テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取る読取手段と、
前記テスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報を記憶したパターン記憶手段と、
該パターン記憶手段に記憶された前記テンプレート情報と前記読取手段により読み取られた前記テスト領域との類似度を算出する類似度算出手段と、
該類似度算出手段により算出された前記類似度に基づいて前記被検物質の分析を行う判定手段と
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記類似度算出手段が前記テンプレート情報と前記テスト領域の濃淡値との畳み込み演算を行うことにより得られる相関値を前記類似度として算出するものであることを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記判定手段が、予め設定された設定しきい値を有し、前記類似度と前記設定しきい値とを比較することにより前記被検物質の定量的または定性的な判定を行うものであることを特徴とする請求項1または2記載の分析装置。
【請求項4】
前記テスト領域が基本パターンを繰り返した所定のパターンにより形成されたものであり、
前記テンプレート情報が前記基本パターンを表したものであり、
前記類似度算出手段が、前記基本パターンと前記テンプレート情報との相関値の算出を前記各基本パターンについて算出し前記類似度を求めるものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項5】
前記テスト領域が多角形もしくは円形からなる前記基本パターンが前記検体の展開方向に対し直交する方向に複数配列された形状を有するものであることを特徴とする請求項4記載の分析装置。
【請求項6】
前記試験片が前記テスト領域の下流側に前記検体が通過することにより呈色する、所定のパターンを有するコントロール領域を有するものであり、
前記パターン記憶手段が前記コントロール領域の呈色状態を示す前記コントロール領域用のテンプレート情報を記憶したものであり、
前記類似度算出手段が前記コントロール領域用の前記テンプレート情報と前記読取手段により読み取られた前記コントロール領域との類似度を算出するものであり、
前記判定手段が該類似度算出手段により算出された前記類似度に基づいて前記検体の異常を検出するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項7】
前記パターン記憶手段が前記被検物質の量に対応した呈色度合い毎に複数の前記テンプレート情報を有するものであり、
前記類似度算出手段が前記テンプレート情報毎に前記テスト領域との前記類似度を算出するものであり、
前記判定手段が、前記複数のテンプレート情報毎に算出された複数の前記類似度のうち最も類似度の大きい前記テンプレート情報を検出し、検出した前記テンプレート情報に基づいて前記被検物質の定量的な分析を行うものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項8】
検体が展開される展開層と、該展開層上に形成された前記検体中の被験物質に反応し呈色する所定の形状を有するテスト領域とを有する試験片を用いて前記被検物質の検査を行う分析方法であって、
前記テスト領域の呈色状態を濃淡値として読み取り、
パターン記憶手段に記憶した前記テスト領域が呈色した状態を表したテンプレート情報と前記読取手段により読み取られた前記テスト領域との類似度を算出し、
算出した前記類似度に基づいて前記被検物質の分析を行う
ことを特徴とする分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図7】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図7】
【図9】
【公開番号】特開2011−214863(P2011−214863A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80683(P2010−80683)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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