説明

分析装置及び分析システム

【課題】ユーザによる誤操作の発生を回避しつつ、検量線の最適化を図り得る、分析装置、及び分析システムを提供する。
【解決手段】分析システム100は、試料11含むセンサ10と、センサ10に対応する記憶媒体30と、分析装置20とを備える。センサ10は、当該センサを識別するための識別子を有する。記憶媒体30は、対応するセンサ10の識別子と、対応するセンサ10に適合した検量線を特定する検量線情報とを記憶する。分析装置20は、センサ10の識別子と、記憶媒体30が記憶する識別子とを比較し、2つの識別子が一致するかどうかを判定する判定部22と、判定部22によって2つの識別子が一致すると判定されたことを条件に、記憶媒体30が記憶する検量線情報を用いて、試料11の分析を実行する、分析処理部23とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を含むセンサを用いて分析処理を行う分析装置、及びそれを用いた分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療を対象とした分析の分野では、取り扱い性の点から、試料がセンサを介して供給されるタイプの分析装置の利用が増加している。例えば、携帯型の小型の血糖値計では、試料となる血液は、短冊状のセンサに滴下される。そして、センサが血糖値計に挿入されると、血糖値計は、センサに滴下されている血液を流れる電流の値を測定し、測定した値を検量線に当てはめて血糖値を算出する。また、血糖値計は、算出した血糖値を画面に表示する。
【0003】
ところで、このようなセンサには、製造上のバラツキが存在するため、使用されるセンサに応じて検量線を最適化する必要がある。そのため、例えば、特許文献1は、予め登録されている検量線の中から、ユーザが適応する検量線を操作ボタン又はコード入力によって選択することができる、分析装置を開示している。
【0004】
また、特許文献2は、識別コードを無線送信するトランスポンダが備えられたセンサと、無線送信された識別コードを受信し、受信した識別コードに基づいて、最適な検量線を選択する分析装置とを開示している。更に、特許文献3は、検量線の補正情報を示すパターンが設けられたセンサと、センサのパターンに基づいて、検量線を自動的に補正する分析装置とを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−30983号公報
【特許文献2】特表2009−532768号公報
【特許文献3】特表2010−534340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された分析装置では、ユーザが入力を行う必要があるため、誤った検量線が選択されてしまう可能性が高いという問題と、ユーザにとって操作が煩わしいという問題とがある。特に前者の問題は、測定結果を誤らせるため、利用者である患者の生命を危険に晒す可能性もある。
【0007】
これに対して、特許文献2及び特許文献3に開示されたセンサと分析装置とを用いれば、ユーザは入力を行う必要がなく、分析装置は自動的に最適な検量線を選択する。従って、これらを用いれば、上述のユーザの入力に起因する問題は解決できると考えられる。
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示されたセンサと分析装置とには、コストが高いという問題がある。このため、利用者に大きな経済的負担を強いてしまう。また、特許文献3においては、検量線の補正についての情報は、センサに設けられた接点パターンからしか得られないため、分析装置が補正できる範囲は限定的となってしまう。つまり、特許文献3では、検量線を特定する切片及び傾きは設定パターンによって表現されるが、表現できる精度を高くすることが難しいため、検量線の最適化が難しく、測定精度の向上が十分に図れないという問題がある。
【0009】
本発明の目的の一例は、上記問題を解消し、ユーザによる誤操作の発生を回避しつつ、コストの増加の抑制と検量線の最適化とを図り得る、分析装置、及び分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明における分析装置は、複数種類のセンサそれぞれに対応した識別子を含む識別子群と、前記複数種類のセンサそれぞれに適合する検量線を含む検量線情報と、が記憶された記憶媒体が接続される、記憶媒体接続部と、対応する識別子を有するセンサが接続されるセンサ接続部と、前記センサ接続部に、試料を含むセンサが接続された場合に、接続されたセンサが有する識別子が、前記記憶媒体が記憶する前記識別子群に含まれるいずれかの識別子と一致するかどうかを判定する、判定部と、前記判定部によって一致すると判定されたことを条件に、前記記憶媒体に記憶されている前記検量線情報から、前記接続されたセンサに適合する検量線を特定し、特定した検量線を用いて、前記試料の分析を実行する、分析処理部と、を備えている、ことを特徴とする。
【0011】
以上の特徴により、本発明における分析装置では、センサと、それに適合した検量線を記憶する記憶媒体とが揃わないと、分析処理が実行できないようになっている。このため、ユーザが間違った検量線を選択した状態で、分析処理が実行されることは回避される。また、記憶媒体は、特許文献3に開示された例に比べて、センサの感度特性に見合った検量線情報を保持できるため、本発明によれば、検量線のセンサへの適合度合いを高くでき、センサに対して高度に最適化された検量線を得ることが可能となる。更に、センサにトランスポンダ等を搭載する必要がなく、分析にかかるコストの上昇は抑制される。
【0012】
上記本発明における分析システムにおいては、前記センサが、前記識別子として、当該センサの製造時におけるロット番号を有し、前記記憶媒体が、前記識別子群として、複数のロット番号を記憶している、のが好ましい。製造ロットが同一のセンサ間では検量線は共通するため、製造ロットが同一のセンサは、同一種類のセンサとして扱うことができる。
【0013】
また、上記本発明における分析装置は、前記記憶媒体が、前記複数種類のセンサそれぞれの使用期限を更に記憶し、前記判定部が、更に、前記記憶媒体から、前記接続されたセンサの使用期限を抽出し、抽出した前記センサの使用期限が経過しているかどうかを判定し、前記分析処理部が、前記判定部によって、前記使用期限が経過していないと判定されたことも条件として、前記試料の分析を実行する、態様であるのが好ましい。この態様によれば、ユーザが、使用期限が切れたセンサを誤って使用してしまう事態を回避できるので、よりいっそう分析精度の向上が図られる。
【0014】
更に、上記本発明における分析装置は、前記判定部によって一致しないと判定された場合に、前記分析装置の外部に向けて警告を行う、警告部を更に備えている、のが好ましい。この場合、使用されるセンサに見合った記憶媒体を用意する事をユーザに促すことが出来る。
【0015】
また、上記本発明における分析装置は、前記判定部によって一致しないと判定された場合、及び前記使用期限が経過していると判定された場合の少なくとも一方において、前記分析装置の外部に向けて警告を行う、警告部を更に備えている、のも好ましい。
【0016】
更に、上記本発明における分析装置は、当該分析装置の内部の温度に応じて信号を出力する温度センサを、更に備え、前記記憶媒体が、当該分析装置の内部の温度に応じて前記検量線を補正するための第1の補正情報を更に記憶し、前記分析処理部が、前記第1の補正情報と前記温度センサからの前記信号とに基づいて、特定した前記検量線を補正する、態様であるのが好ましい。この態様によれば、温度変化へも対応でき、更なる分析精度の向上が図られる。
【0017】
更に、上記本発明における分析装置は、前記記憶媒体が、前記試料中の分析対象となる物質の測定においてそれと共存している別の物質が与える影響を補正するための第2の補正情報を記憶し、前記分析処理部が、前記センサから、前記試料中の分析対象となる物質の測定においてそれと共存している別の物質の情報を取得し、前記第2の補正情報と取得した情報とに基づいて、特定した前記検量線を補正する、態様であるのも好ましい。この態様によれば、よりいっそうの分析精度の向上が図られる。
【0018】
また、上記本発明における分析装置は、前記記憶媒体が、前記試料中の分析対象となる物質の測定において前記試料の性状が与える影響を補正するための第3の補正情報を記憶し、前記分析処理部が、前記センサから、前記試料の性状に関する情報を取得し、前記第3の補正情報と取得した情報とに基づいて、特定した前記検量線を補正する、態様であるのも好ましい。この態様によれば、試料の性状特性にも対応でき、よりいっそうの分析精度の向上が図られる。
【0019】
また、上記本発明における分析装置においては、前記識別子が、前記センサに設けられた、配線、電極、及び貫通孔のうちの少なくとも一つを用いて表現されている、のが好ましい。
【0020】
また、上記目的を達成するため、本発明における分析システムは、記憶媒体と、対応する識別子を有するセンサと、分析装置とを備え、前記記憶媒体は、複数種類のセンサそれぞれに対応した識別子を含む識別子群と、前記複数種類のセンサそれぞれに適合する検量線を含む検量線情報と、を記憶し、前記分析装置は、前記記憶媒体が接続される、記憶媒体接続部と、前記センサが接続されるセンサ接続部と、前記センサ接続部にセンサが接続された場合に、接続されたセンサが有する識別子が、前記記憶媒体が記憶する前記識別子群に含まれるいずれかの識別子と一致するかどうかを判定する、判定部と、前記判定部によって一致すると判定されたことを条件に、前記記憶媒体に記憶されている前記検量線情報から、前記接続されたセンサに適合する検量線を特定し、特定した検量線を用いて、前記試料の分析を実行する、分析処理部と、を備えている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明における分析装置及び分析システムによれば、ユーザによる誤操作の発生を回避しつつ、検量線の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における分析システムの外観を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態における分析システムの構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態で用いられるセンサに設けられた識別パターンの一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態における分析システムの動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態における分析システム及び分析装置について、図1〜図4を参照しながら説明する。
【0024】
[システム構成]
最初に、本実施の形態における分析システム及び分析装置の構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態における分析システムの外観を示す図である。図2は、本発明の実施の形態における分析システムの構成を示すブロック図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態における分析システム100は、試料11を含むセンサ10と、記憶媒体30と、分析装置20とを備えている。分析装置20は、センサ10を内部に挿入するための挿入口20aと、記憶媒体30を内部に挿入するための挿入口20bとを備えている。図1において、21は表示装置である。
【0026】
また、センサ10は、それに対応する識別子、即ち、それを識別するための識別子を有している。記憶媒体30は、複数種類のセンサそれぞれに対応した識別子を含む識別子群と、複数種類のセンサそれぞれに適合する検量線を含む検量線情報とを記憶している。
【0027】
更に、図2に示すように、分析装置20は、判定部22と、分析処理部23と、センサ10が接続されるセンサ接続部24と、記憶媒体30が接続される記憶媒体接続部25とを備えている。
【0028】
判定部22は、センサ10がセンサ接続部24に接続されると、センサ10が有する識別子が、記憶媒体に記憶されている識別子群に含まれるいずれかの識別子と一致するかどうかを判定する。分析処理部23は、判定部22によって一致すると判定されたことを条件に、記憶媒体30に記憶されている検量線情報から、接続されたセンサ10に適合する検量線を特定し、特定した検量線を用いて、試料11の分析を実行する。
【0029】
このように、分析システム100では、センサ10と、それに適合した検量線を記憶する記憶媒体30とが揃わないと、分析処理が実行できないようになっている。このため、ユーザが間違った検量線を選択した状態で、分析処理が実行されることは回避される。また、記憶媒体30は、接点パターン(特許文献3参照)に比べて、センサの感度特性に見合った検量線情報を保持できるため、検量線のセンサ10への適合度合いを高くでき、分析装置20は、センサ10に対して高度に最適化された検量線を用いて分析を行うことができる。更に、センサ10にトランスポンダを搭載する必要がなく、分析システムにおけるコストの上昇は抑制されている。
【0030】
ここで、センサ10、分析装置20、記憶媒体30、それぞれの構成について、更に具体的に説明する。また、図1及び図2に加えて、更に、図3も用いる。図3は、本発明の実施の形態で用いられるセンサに設けられた識別パターンの一例を示す図である。
【0031】
本実施の形態では、分析装置20の分析方式は、特に限定されず、電気抵抗式であっても良いし、光学方式であっても良い。但し、図1及び図2に示した例では、電気抵抗方式が採用されており、以下、電気抵抗式を前提にして説明する。また、分析装置20の分析方式が電気抵抗式である場合、試料としては、血液、間質液、等が挙げられる。更に、分析対象となる物質としては、グルコース、ケトン体、コレステロール、乳酸、尿酸、及びビリルビンなどの生体中の生体物質が挙げられる。その他、分析対象となる物質としては、更に、フッ化ソーダ、アスコルビン酸、及びアセトアミノフェンなどの薬物等も挙げられる。
【0032】
本実施の形態では、分析装置20が電気抵抗式を採用するため、センサ10は、試料分析部11及び12それぞれに電流を供給するための端子13a、端子13b、及び端子13cを備えている。このため、分析装置20は、センサ接続部24において、図2に示すように、センサ10の端子13a〜13cそれぞれに接続される3つの接続端子24aを備えている。
【0033】
同一種類のセンサとは、検量線が共通となるセンサを意味しており、本実施の形態では、製造ロットが同一のセンサが同一種類のセンサとなる。このため、センサ10の識別子としては、センサの種類毎に設定された固有の識別子が用いられても良いが、本実施の形態では、センサ10の製造時におけるロット番号が用いられる。よって、記憶媒体30には、複数の製造ロットと、各製造ロットに対応する検量線とが記憶されていることなる。
【0034】
また、本実施の形態では、センサ10において、識別子は、識別パターン14によって表現される。図2において、「24b」は、分析装置20の判定部22に設けられた識別パターン用の接続端子を示している。
【0035】
具体的には、図3に示すように、本実施の形態では、識別パターン14は、配線15によって形成されている。このため、センサ10が分析装置20の内部に挿入され、識別パターン用の接続端子24bと識別パターン14とが接触すると、判定部22は、隣接する識別パターン用の接続端子24b同士が導通しているかどうかをチェックし、センサ10の識別子(ロット番号)を特定する。
【0036】
なお、識別パターンの構成は、図3に示す例に限定されず、例えば、電極、又は貫通孔によって形成されていても良い。また、図3においては、識別パターン用の接続端子24bと識別パターン14との接触を図示するため、識別パターン14に接触している状態の接続端子24bを破線で示している。
【0037】
本実施の形態では、記憶媒体30は、検量線として、検量線を表現する関数についての情報、例えば、検量線が一次関数によって表現される場合は、傾き及び切片を記憶する。更に、記憶媒体30は、分析装置20の内部の温度に応じて検量線を補正するための補正情報、及びセンサ10の使用期限(年月日)を記憶することもできる。この点については後述する。
【0038】
また、記憶媒体30は、情報を記憶可能な媒体であれば良く、その記録方式、大きさ、形状等は特に限定されるものではない。但し、本実施の形態では、取り扱い性に優れる点と小型化が容易な点とから、記憶媒体30としては、CF(Compact Flash)及びSD(Secure Digital)等のメモリチップが用いられる。以下の説明では、「メモリチップ30」と表記する場合もある。
【0039】
本実施の形態では、図2に示すように、分析装置20は、更に、警告部27と、読取部26とを備えている。警告部27は、判定部22によって一致しないと判定された場合に、分析装置20の外部に向けて警告を行う。具体的には、警告部27は、警告音を出力すると共に、表示装置21に、例えば「間違ったメモリチップが挿入されています。」といったメッセージを表示させる。
【0040】
読取部26は、メモリチップ30にアクセスし、メモリチップ30から、それに記憶されている情報、例えば、識別子群及び検量線情報等を読み出し、読み出した情報を判定部22又は分析処理部23に出力する。
【0041】
また、本実施の形態では、メモリチップ30が上述した使用期限を記憶している場合、判定部22は、読取部26を介して、メモリチップ30からセンサ10の使用期限を抽出する。そして、判定部22は、抽出した使用期限が現時点を基準として経過しているかどうかを判定する。
【0042】
判定部22が使用期限について判定を行う場合は、分析処理部23は、判定部22によって使用期限が経過していないと判定されたことも、試料11の分析を実行するための条件とする。また、警告部27は、この場合も、一致しないときと同様に、分析装置20の外部に向けて警告を行う。具体的には、警告部27は、表示装置21に、「センサの使用期限が経過しています。」といったメッセージを表示させる。このような態様とした場合は、ユーザが、使用期限が切れたセンサ10を誤って使用してしまう事態を回避できるので、よりいっそう分析精度の向上が図られる。
【0043】
また、本実施の形態では、図2に示すように、分析装置20は、その内部に、温度センサ28を更に備えることができる。この場合、分析処理部23は、読取部26を介して、メモリチップ30から、分析装置20の内部の温度に応じて検量線を補正するための補正情報を抽出する。そして、温度センサ28が信号を出力すると、分析処理部23は、この信号と補正情報とを用いて、検量線を補正する。この結果、温度変化へも対応でき、更なる分析精度の向上が図られる。
【0044】
また、センサ10は、単一の試料分析部のみを備えた態様であっても良いが、分析精度の点から、上述したように複数の試料分析部(図2の例では、試料分析11及び12)を備えている態様であるのが好ましい。この点について以下に説明する。
【0045】
図2に示すセンサ10において、センサ内部に導入された試料は、試料分析部11及び12それぞれに送られる。また、試料分析部11及び12には、それぞれ異なる試薬を配置することができる。例えば、試料分析部11には、分析対象となる物質に反応する試薬が配置され、試料分析部12には、分析対象となる物質と共存している別の物質(生体物質、薬物等)に反応する試薬、又は試料の性状(粘性、塩濃度、ヘマトクリット値等)に合わせて反応が変化する試薬が配置される。
【0046】
この場合、本実施の形態では、分析処理部23は、分析対象となる物質の情報に加え、共存している別の物質の情報(量等)、試料の性状に関する情報を取得することができる。また、これに対応して、記憶媒体30は、分析対象となる物質の測定においてそれと共存している別の物質が与える影響を補正するための補正情報、及び分析対象となる物質の測定において試料の性状が与える影響を補正するための補正情報のうち少なくとも一方を記憶しているのが好ましい。
【0047】
具体的には、試料が血液であり、分析対象となる物質がグルコースであるとすると、試料分析部11にはグルコースと反応する試薬が配置され、試料分析部12には、ヘマトクリット値に応じて異なる反応を示す試薬が配置される。この場合、分析処理部23は、グルコースの濃度を特定する情報と、ヘマトクリット値を特定する情報とを取得することができる。
【0048】
そして、分析処理部23は、記憶媒体30から、ヘマトクリット値がグルコースの濃度測定に与える影響を補正する補正情報を取得し、これと、先に取得したヘマトクリットを特定する情報とを用いて検量線を補正し、その後、補正した検量線を用いてグルコースの濃度を算出する。このように、センサ10に複数の試料分析部を設けておけば、分析精度の更なる向上が図られることになる。
【0049】
[システムの動作]
次に、本発明の実施の形態における分析システム100の動作について図4を用いて説明する。図4は、本発明の実施の形態における分析システムの動作を示すフロー図である。以下の説明においては、適宜図1〜図3を参酌する。
【0050】
図4に示すように、まず、分析装置20は、センサ10が挿入口に挿入されると、それによって起動する(ステップA1)。具体的には、分析装置20の電源スイッチは、挿入口の奥に配置されている。電源スイッチは、センサ10が挿入されると、それによってON状態となる。
【0051】
次に、判定部22は、読取部26を介して、メモリチップ30が分析装置20の挿入口に挿入されているかどうかを判定する(ステップA2)。ステップA2の判定の結果、メモリチップ30が挿入されていない場合は、判定部22は、警告部27に警告を行わせる(ステップA10)。具体的には、警告部27は、警告音を出力すると共に、表示装置21に、メモリチップ30が挿入されていない旨のメッセージを表示させる。
【0052】
一方、ステップA2の判定の結果、メモリチップ30が挿入されている場合は、判定部22は、ステップA1で挿入されたセンサ10の向き(表裏)が正しいかどうかを判定する(ステップA3)。具体的には、判定部22は、センサ10の識別パターンの読み込みを実行し、それが可能であるかどうかを判定する。
【0053】
ステップA3の判定の結果、センサ10の向きが正しくない場合は、判定部22は、警告部27に警告を行わせる(ステップA11)。具体的には、警告部27は、警告音を出力すると共に、表示装置21に、センサ10の向きが正しくない旨のメッセージを表示させる。一方、ステップA3の判定の結果、センサ10の向きが正しい場合は、判定部22は、センサ10の識別パターン14からロット番号を特定する(ステップA4)。
【0054】
次に、判定部22は、読取部26を介して、メモリチップ30から、複数のロット番号及び各ロット番号に対応する使用期限を抽出する(ステップA5)。続いて、判定部22は、ステップA4でセンサ10から特定したロット番号と、ステップA5でメモリチップ30から抽出したロット番号のいずれかが一致するかどうかを判定する(ステップA6)。
【0055】
ステップA6の判定の結果、ステップA4でセンサ10から特定したロット番号が、抽出したいずれのロット番号とも一致しない場合は、判定部22は、警告部27に警告を行わせる(ステップA12)。具体的には、警告部27は、警告音を出力すると共に、表示装置21に、メモリチップ30がセンサ10に対応していない(間違っている)旨のメッセージを表示させる。
【0056】
一方、ステップA6の判定の結果、ステップA4でセンサ10から特定したロット番号が、抽出したいずれかのロット番号と一致する場合は、判定部22は、使用期限が現時点を基準として経過していないかどうかを判定する(ステップA7)。ステップA7の判定の結果、使用期限が経過している場合は、判定部22は、警告部27に警告を行わせる(ステップA13)。具体的には、警告部27は、警告音を出力すると共に、表示装置21に、センサ10が使用期限切れである旨のメッセージを表示させる。
【0057】
一方、ステップA7の判定の結果、使用期限が経過していない場合は、判定部22は、分析処理部23にそのことを通知する。これにより、分析処理部23は、メモリチップ30から、検量線情報及び各種補正情報を抽出する(ステップA8)。
【0058】
次に、分析処理部23は、ステップA8で抽出した検量線情報と補正情報とを用いて、センサ10に対して、分析処理を実行する(ステップA9)。具体的には、分析処理部23は、センサ10の端子間に電流を供給し、電流値を測定する。そして、分析処理部23は、温度センサ28から得られた温度と補正情報とを用いて、検量線情報で特定される検量線を補正する。また、このとき、分析処理部23は、共存している別の物質が分析対象となる物質の測定に与える影響を補正する補正情報、及び試料の性状が分析対象となる物質の測定に与える影響を補正する補正情報を用いて検量線を補正することもできる。
【0059】
その後、分析処理部23は、測定した電流値を補正後の検量線に照合して、試料中の成分(例えば、グルコース)の濃度を算出する。なお、算出された濃度は、その後、表示装置21の表示画面に表示される。
【0060】
以上のように、本実施の形態によれば、間違った検量線の選択、使用期限切れのセンサの使用といった、ユーザによる誤操作の発生が回避される。また、本実施の形態では、センサに対応して検量線を変更することが容易であるため、分析対象となる試料の変更も容易に行うことができる。
【0061】
また、使用される検量線は、分析装置の製造時等から予め記憶されている幾つかの検量線の中から選択されたものではなく、分析対象となるセンサに最適化された検量線である。この結果、本実施の形態によれば、測定精度の向上が図られる。更に、本実施の形態によれば、測定精度の管理が容易となるため、今後、医療機関で行われるPOCT(Post of Care Testing)にも有効となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明によれば、センサを用いた分析処理において、ユーザによる誤操作の発生を回避しつつ、検量線の最適化を図ることができる。本発明は、分析の分野に有用である。
【符号の説明】
【0063】
10 センサ
11 試料
11、12 試料分析部
13a、13b、13c 端子
14 識別パターン
15 配線
20 分析装置
20a、20b 挿入口
21 表示装置
22 判定部
23 分析処理部
24 センサ接続部
24a 接続端子
24b 識別パターン用接続端子
25 記憶媒体接続部
26 読取部
27 警告部
28 温度センサ
30 記憶媒体(メモリチップ)
100 分析システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のセンサそれぞれに対応した識別子を含む識別子群と、前記複数種類のセンサそれぞれに適合する検量線を含む検量線情報と、が記憶された記憶媒体が接続される、記憶媒体接続部と、
対応する識別子を有するセンサが接続されるセンサ接続部と、
前記センサ接続部に、試料を含むセンサが接続された場合に、接続されたセンサが有する識別子が、前記記憶媒体が記憶する前記識別子群に含まれるいずれかの識別子と一致するかどうかを判定する、判定部と、
前記判定部によって一致すると判定されたことを条件に、前記記憶媒体に記憶されている前記検量線情報から、前記接続されたセンサに適合する検量線を特定し、特定した検量線を用いて、前記試料の分析を実行する、分析処理部と、
を備えている、ことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記センサが、前記識別子として、当該センサの製造時におけるロット番号を有し、
前記記憶媒体が、前記識別子群として、複数のロット番号を記憶している、
請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記記憶媒体が、前記複数種類のセンサそれぞれの使用期限を更に記憶し、
前記判定部が、更に、前記記憶媒体から、前記接続されたセンサの使用期限を抽出し、抽出した使用期限が経過しているかどうかを判定し、
前記分析処理部が、前記判定部によって、前記使用期限が経過していないと判定されたことも条件として、前記試料の分析を実行する、請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記判定部によって一致しないと判定された場合に、前記分析装置の外部に向けて警告を行う、警告部を更に備えている、請求項1から3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記判定部によって一致しないと判定された場合、及び前記使用期限が経過していると判定された場合の少なくとも一方において、前記分析装置の外部に向けて警告を行う、警告部を更に備えている、請求項3に記載の分析装置。
【請求項6】
当該分析装置の内部の温度に応じて信号を出力する温度センサを、更に備え、
前記記憶媒体が、当該分析装置の内部の温度に応じて前記検量線を補正するための第1の補正情報を更に記憶し、
前記分析処理部が、前記第1の補正情報と前記温度センサからの前記信号とに基づいて、特定した前記検量線を補正する、
請求項1〜5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
前記記憶媒体が、前記試料中の分析対象となる物質の測定においてそれと共存している別の物質が与える影響を補正するための第2の補正情報を記憶し、
前記分析処理部が、前記センサから、前記試料中の分析対象となる物質の測定においてそれと共存している別の物質の情報を取得し、前記第2の補正情報と取得した情報とに基づいて、特定した前記検量線を補正する、
請求項1〜6のいずれかに記載の分析装置。
【請求項8】
前記記憶媒体が、前記試料中の分析対象となる物質の測定において前記試料の性状が与える影響を補正するための第3の補正情報を記憶し、
前記分析処理部が、前記センサから、前記試料の性状に関する情報を取得し、前記第3の補正情報と取得した情報とに基づいて、特定した前記検量線を補正する、
請求項1〜7のいずれかに記載の分析装置。
【請求項9】
前記センサにおいて、前記識別子が、前記センサに設けられた、配線、電極、及び貫通孔のうちの少なくとも一つを用いて表現されている、請求項1から8のいずれかに記載の分析装置。
【請求項10】
記憶媒体と、対応する識別子を有するセンサと、分析装置とを備え、
前記記憶媒体は、複数種類のセンサそれぞれに対応した識別子を含む識別子群と、前記複数種類のセンサそれぞれに適合する検量線を含む検量線情報と、を記憶し、
前記分析装置は、
前記記憶媒体が接続される、記憶媒体接続部と、
前記センサが接続されるセンサ接続部と、
前記センサ接続部にセンサが接続された場合に、接続されたセンサが有する識別子が、前記記憶媒体が記憶する前記識別子群に含まれるいずれかの識別子と一致するかどうかを判定する、判定部と、
前記判定部によって一致すると判定されたことを条件に、前記記憶媒体に記憶されている前記検量線情報から、前記接続されたセンサに適合する検量線を特定し、特定した検量線を用いて、前記試料の分析を実行する、分析処理部と、
を備えている、ことを特徴とする分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−173084(P2012−173084A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34341(P2011−34341)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.COMPACTFLASH
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】