説明

分析装置及び分析方法

【課題】分析に要する労力や時間が少なくて済み、試料における変化をリアルタイムで検出することができる分析装置及び分析方法を提供すること。
【解決手段】溶離液を持続的に流す経路である溶離液経路5と、前記溶離液経路5の途中にて、試料を前記溶離液に接触するように保持する保持手段13と、前記溶離液経路5のうち、前記保持手段13よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加する添加手段19と、前記溶離液経路5のうち、前記保持手段13よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出する検出手段15と、を備えることを特徴とする分析装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、毛髪を分析する分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪化粧料等を開発する場合、毛髪化粧料に含まれる有効成分と毛髪成分との化学反応や、有効成分の毛髪表面への物理化学的吸着等について評価する必要がある。
従来における毛髪の評価方法としては、まず、毛髪自体を溶解、または粉砕し、ターゲットとなる成分を取り出し、次に、取り出した成分を分析するという方法があった。また、別の評価方法としては、まず、毛髪を処理液に浸漬してターゲットとなる成分を溶出させ、次に処理液を乾固させてターゲットとなる成分を得て、その成分に対し分析を行うという方法があった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−264323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の評価方法は、上述した手順で試料を作成しなければならないため、多大な労力と時間を要するという問題があった。また、毛髪化粧料の有効成分と毛髪との反応を評価する場合、上記のように、長時間かけて試料を作成してからでないと分析を行えないため、反応が起こってから長時間経過した後でないと、その反応の内容を知ることができないという問題があった。
【0004】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、分析に要する労力や時間が少なくて済み、試料における変化をリアルタイムで検出することができる分析装置及び分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明は、
溶離液を持続的に流す経路である溶離液経路と、前記溶離液経路の途中にて、試料を前記溶離液に接触するように保持する保持手段と、前記溶離液経路のうち、前記保持手段よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加する添加手段と、前記溶離液経路のうち、前記保持手段よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする分析装置を要旨とする。
【0006】
本発明の分析装置において、添加手段により添加された試薬は、溶離液とともに溶離液経路を下流に流れ、保持手段により保持された試料に達する。試薬と試料との相互作用により生じた成分は、溶離液とともに、さらに溶離液経路を下流に流れ、検出手段に達する。そして、検出手段は上記成分を検出する。
【0007】
このように、本発明の分析装置において、試薬添加手段により試薬を添加すると、試薬と試料との相互作用により生じた物質が、直ぐに、検出手段において検出される。すなわち、試薬と試料との相互作用をリアルタイムで検出することができる。
【0008】
本発明の分析装置は、保持手段に試料を取り付けるだけで、簡便に試料の分析を行うことができる。すなわち、従来の分析方法のように、多大な労力と時間をかけて試料を作成する必要がない。また、複数の試料を順番に分析する場合でも、保持手段に取り付ける試料を入れ替えるだけでよい。
【0009】
本発明の分析装置は、検出データの再現性において優れている。
本発明の分析装置は、例えば、毛髪化粧料(またはそれに含まれる有効成分)のスクリーニングに用いることができる。
【0010】
つまり、試料としての毛髪を保持手段に取り付けておき、試薬としての毛髪化粧料を、その種類や濃度を変えながら導入し、そのときの毛髪からの流出成分を検出することで、毛髪化粧料の作用を把握することができる。
【0011】
また、本発明の分析装置を用いれば、毛髪に対する処理を評価することができる。すなわち、種々の条件で処理した毛髪を用意しておき、それぞれの毛髪を試料として取り付け、所定の試薬を導入する。毛髪から流出した成分の種類、量により、毛髪に対する処理を評価することができる。
【0012】
前記溶離液としては、例えば、超純水、pH緩衝液、有機溶剤希釈液、界面活性剤希釈液等が挙げられる。
前記試料としては、生体試料と、人工物とがある。生体試料としては、例えば、人の毛髪、動物(例えば、羊、山羊等)の毛、綿、麻等の、植物性の繊維、人や動物の皮膚、爪等が挙げられる。また、人の毛髪としては、例えば、未処理の毛髪、ヘアカラー、ブリーチ等の化学処理を施した毛髪、引張り、圧縮等の物理的処理を施した毛髪等が挙げられる。人工物としては、例えば、合成樹脂又は半合成樹脂製の繊維、フィルムないしシート、あるいは人工皮革等が挙げられる。
【0013】
前記試薬としては、例えば、前記試料と化学反応を起こすものや、前記試料に吸着するものが挙げられ、具体的には、界面活性剤、pH調整剤、酸化剤(例えば過酸化水素等)、還元剤、油剤、保湿剤などが挙げられる。また、前記試料が人の毛髪である場合の試薬としては、例えば、毛髪の成分(メラニン、キューティクル、コルテックス、各種蛋白質等)と化学反応を起こすものや、毛髪の表面に吸着するもの等が挙げられる。
【0014】
前記検出手段としては、前記試薬や、前記試薬と試料との化学反応により生じた成分を検出できるものであれば広く用いることができ、例えば、質量分析器(MS)、電子スピン共鳴分析器(ESR)、紫外線分光器(UV)、核磁気共鳴分析器(NMR)、蛍光X線分析器、光散乱分析器等が挙げられる。
【0015】
前記溶離液に含まれる成分としては、例えば、試薬と試料との化学反応により生じた物質、試薬の作用により試料から流出した物質、試薬のうち、試料に吸着されなかったもの等が挙げられる。
(2)請求項2の発明は、
溶離液を持続的に流す経路である溶離液経路と、前記溶離液経路の途中にて、試料を前記溶離液に接触するように保持する保持手段と、前記試料に対し、電磁波、熱、超音波、電気の群から選択される1以上の刺激を加える刺激印加手段と、前記溶離液経路のうち、前記保持手段よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする分析装置を要旨とする。
【0016】
本発明の分析装置において、刺激印加手段による刺激を受けた試料は、その刺激により生じた作用により、何らかの成分を生じさせる。その成分は、溶離液とともに、溶離液経路を下流に流れ、検出手段に達する。検出手段は、上記成分を検出する。
【0017】
このように、本発明の分析装置において、刺激印加手段により刺激を加えると、その刺激により生じた物質が、直ぐに、検出手段において検出される。すなわち、刺激と試料との相互作用をリアルタイムで検出することができる。
【0018】
本発明の分析装置は、保持手段に試料を取り付けるだけで、簡便に試料の分析を行うことができる。すなわち、従来の分析方法のように、多大な労力と時間をかけて試料を作成する必要がない。また、複数の試料を順番に分析する場合でも、保持手段に取り付ける試料を入れ替えるだけでよい。
【0019】
本発明の分析装置は、検出データの再現性において優れている。
前記電磁波としては、例えば、紫外線、可視光線、赤外線がある。電磁波を照射する手段としては、例えば、光照射装置(例えば、(株)三永電機製作所製のUVF−203S)が挙げられる。
【0020】
前記熱を加えたときの試料の温度は、30〜120℃の範囲が好適である。熱を加える手段としては、例えば、ドライヤー、赤外線ヒーター等が挙げられる。
本発明の分析装置を用いれば、毛髪に対する処理を評価することができる。すなわち、種々の条件で処理した毛髪を用意しておき、それぞれの毛髪を試料として取り付け、所定の刺激を加える。毛髪から流出した成分の種類、量により、毛髪に対する処理を評価することができる。
(3)請求項3の発明は、
前記溶離液経路のうち、前記保持手段よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加する添加手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の分析装置を要旨とする。
【0021】
本発明の分析装置は、刺激印加手段に加えて、試薬を添加する手段も備えているので、例えば、試料に対し、試薬と刺激を同時に、あるいは、一方ずつ順番に加え、そのとき試料から流出する成分を検出することができる。
【0022】
従って、本発明によれば、例えば、試料に対する、試薬と刺激との相乗作用を評価することができる。また、試薬を導入する場合と導入しない場合のそれぞれにおいて、試料に刺激を加えたときに試料から流出する成分を検出し、この検出結果から、試料の刺激への反応性に対する、試薬の影響を評価することができる。
【0023】
具体的には、毛髪(試料)に、紫外線照射(刺激)に起因する光酸化(反応)を防止する毛髪化粧料(試薬)を導入しておき、次に、毛髪に紫外線を照射したとき、検出手段が光酸化により生じる物質を検出するか否かにより、上記毛髪化粧料の光酸化防止効果を評価することができる。同様に、ヘアカラー毛髪(試料)の、可視光照射(刺激)に起因する退色(反応)を防止する毛髪化粧料(試薬)の効果も評価することができる。
(4)請求項4の発明は、
前記試料は、人又は動植物の繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分析装置を要旨とする。
【0024】
本発明によれば、人又は動植物の繊維について、分析することができる。
前記人又は動植物の繊維としては、例えば、人や動物の毛髪、植物の繊維等がある。
(5)請求項5の発明は、
前記保持手段は、前記人又は動植物の繊維を、その長手方向が前記溶離液の流れ方向と略平行となる状態にて、前記溶離液に浸漬することを特徴とする請求項4に記載の分析装置を要旨とする。
【0025】
本発明によれば、人又は動植物の繊維と溶離液との接触面積を大きくすることができる。また、溶離液を流れやすくすることができる。
(6)請求項6の発明は、
持続的に流れる溶離液に対し、その流れの途中にて試料を接触させ、前記試料よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加し、前記試料よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出することを特徴とする分析方法を要旨とする。
【0026】
(7)請求項7の発明は、
持続的に流れる溶離液に対し、その流れの途中にて試料を接触させ、前記試料に対し、電磁波、熱、超音波、電気の群から選択される1以上の刺激を加え、前記試料よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出することを特徴とする分析方法を要旨とする。
(8)請求項8の発明は、
前記刺激を加えるとともに、前記試料よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加することを特徴とする請求項7に記載の分析方法を要旨とする。
(9)請求項9の発明は、
前記試料は、人又は動植物の繊維であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の分析方法を要旨とする。
(10)請求項10の発明は、
前記人又は動植物の繊維を、その長手方向が前記溶離液の流れ方向と略平行となる状態にて、前記溶離液に浸漬することを特徴とする請求項9に記載の分析方法を要旨とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0028】
a)分析装置1の全体構成
分析装置1の全体構成を図1に基づいて説明する。分析装置1は、溶離液を貯蔵する溶離液タンク3と、溶離液を持続的に流す経路である配管5と、溶離液を溶離液タンク3から配管5に送り出すポンプ7と、配管5の途中に設けられた6方切替バルブ9及び11と、配管5の途中であって、6方切替バルブ9及び11よりも溶離液の流れに関して下流に設けられた毛髪カラム13と、配管5の最下流に設けられたESR15とを備えている。
【0029】
上記溶離液は、完全脱気した超純水である。上記6方切替バルブ9において、上流側の配管5はA2に接続しており、下流側の配管5はA1に接続しており、A3は排水口に繋がっている。従って、6方切替バルブ9においてA1−A2を接続した場合、上流から送られてきた溶離液は、配管5における更に下流に流れる。また、A2−A3を接続した場合は、上流から送られてきた溶離液は排水口に流れ、配管5における下流には流れない。
【0030】
上記6方切替バルブ11において、上流側の配管5はB2に接続しており、下流側の配管5はB3に接続しており、B1及びB4は、サンプルループ17の両端とそれぞれ接続している。従って、6方切替バルブ11において、B2−B3を接続した場合、上流から送られてきた溶離液は、そのまま、配管5における更に下流に流れる。また、B1−B2を接続するとともに、B3−B4を接続した場合、上流から送られてきた溶離液は、サンプルループ17を経てから、配管5における更に下流に流れる。サンプルループ17はPEEKチューブであり、容量は500μLである。また、6方切替バルブ11は、サンプルループ17に試薬を導入するための導入口19を備えている。
【0031】
上記ESR15は、フローインジェクションESRであり、日本電子製のTE―300(型番)である。ESR15は、ESR扁平セル21を備えており、このESR扁平セル21は、日本電子製のフラットセルLC11(型番)である。
b)毛髪カラムの構成
次に、毛髪カラム13及びその周辺の構成を図2に基づいて説明する。毛髪カラム13は、両側が開放されたガラス管23と、その両端に取り付けられた内側継ぎ手25、外側継ぎ手27、及びシリコン製のo―リング29から成る。
【0032】
上記ガラス管23の寸法は、外形4mm、内径2mm、長さ11cmであり、材質は、紫外線を透過させやすい石英ガラスである。なお、ガラス管23の材質は、紫外線以外の電磁波を内部の試料に照射する場合は、それらの電磁波を透過させ易い標準ガラスとすることができる。
【0033】
上記内側継ぎ手25は、テフロン(登録商標)から成る略円筒状の部材であり、その外周面に雄ネジ部31を備えている。また、上記外側継ぎ手27は、一方が底面33により閉止された略円筒状のテフロン(登録商標)製部材であり、内面側に、雌ネジ部35を備えている。また、外側継ぎ手27は、底面33に設けられたネジ孔37において、配管5と接続している。
【0034】
外側継ぎ手27と内側継ぎ手25との間にo−リング29を取り付けておき、外側継ぎ手27の雌ネジ部35に、内側継ぎ手25の雄ネジ部31を締め込むと、o−リング29が両側から押圧されることにより、内側に張り出し、ガラス管23の外周面に密着する。このことにより、上流側の配管5から毛髪カラム13を経て、下流側の配管5に至る経路を、外界に対し密閉することができ、また、内側継ぎ手25及び外側継ぎ手27を、ガラス管23に対し固定することができる。
c)分析方法
まず、図2に示すように、毛髪カラム13に、分析試料としての毛髪39を充填した。このとき、毛髪39の長さは、ガラス管23の長手方向における長さと同じとなるように揃えておいた。そして、直線状に伸ばした複数の毛髪39を、その長手方向が、ガラス管39の長手方向と一致するように、ガラス管39に充填した。充填する毛髪39の量は、125.5mgとした。
【0035】
尚、毛髪39を毛髪カラム13に充填するときは、外側継ぎ手27と内側継ぎ手25を外した状態で、ガラス管23の内部に毛髪39を充填し、その後、再び、外側継ぎ手27と内側継ぎ手25とを取り付けた。
【0036】
次に、6方切替バルブ9を、A1−A2が接続した状態とするとともに、6方切替バルブ11を、B2−B3が接続した状態としておいて、溶離液を配管5に流す。このとき、溶離液は、順に、ポンプ7、6方切替バルブ9、6方切替バルブ11、毛髪カラム13、及びESR15という経路を流れる。このとき、溶離液の流速は、1ml/minとした。また、ESR15の測定条件は、以下のように設定した。
(ESR15の測定条件)
共鳴周波数:9.455GHz
共鳴周波数の出力:3mW
観測する磁場領域:任意
磁場変調の振幅強度:0.2mT
観測の時定数:0.03sec
次に、分析装置1に対し、試薬注入を行った。試薬は、50mMの5、5ジメチル−1−ピロリン−N−オキシド(DMPO)水溶液と35%過酸化水素とを9:1で混合したものであり、最終濃度はDMPOが45mM、過酸化水素が3.5%である。また、試薬の1回あたりの注入量は500μLである。
【0037】
試薬の注入方法は以下のようにした。シリンジ41を用い、導入口19から、試薬をサンプルループ17に導入する。なお、このとき、6方切替バルブ11の状態はB2−B3が接続された状態であるから、サンプルループ17は、溶離液の経路からは切り離されている。次に、6方切替バルブ11の状態を、B1−B2が接続し、且つB3−B4が接続した状態に切り替える。すると、溶離液は、サンプルループ17を通るようになるので、サンプルループ17に導入しておいた試薬は、溶離液とともに、下流に流れる。下流に流れた試薬は、毛髪カラム13に達する。毛髪カラム13では、試薬と毛髪39との反応が生じ、その反応生成物は、溶離液とともに、ESR15に達する。上記の試料導入を、所定時間おきに、合計3回行った。
d)分析結果
次に、試薬導入時における、ESR15の検出データを説明する。図3は、毛髪39として黒髪を用いた場合におけるESR15の測定チャートであり、円で囲んだ部分3箇所は、それぞれ、1〜3回目の試料注入に対応する部分である。図4は、図3における、2回目の試料導入に対応する部分を拡大したものである。なお、図3及び図4における、繰り返しの大きな信号は、標準物質のマンガンの信号である。図3及び図4から明らかなとおり、試料注入に対応して、再現性良く検出ピークが現れている。
【0038】
図3及び図4のチャートに現れている検出ピークは、試薬に含まれる過酸化水素と、毛髪中のメラニンとが電子反応を起こして、OHラジカルを生成し、そのOHラジカルを試薬中のDMPOがトラップして寿命を稼ぐことにより検出されたものである。
【0039】
図5は、毛髪39として白髪を用いた場合におけるESR15のチャートである。図6は、図5における、2回目の試料導入に対応する部分を拡大したものである。図5及び図6から明らかなとおり、試料注入に対応するピークは現れていない。これは、白髪中のメラニン量が少ないため、OHラジカルがほとんど生成しなかったからである。
【0040】
すなわち、上記の分析方法により、試薬中の過酸化水素と毛髪中のメラニンとの反応により生じたOHラジカルを検出できた。この分析方法を利用すれば、リアルタイムで過酸化水素濃度に応じたOHラジカル量を定量できる。
e)比較例
まず、毛髪を粉末化し、次に、粉末化した毛髪に、35%過酸化水素水と50mMのDMPOとを混合して、粉末混合試料を作成した。ここで、毛髪の粉末、35%過酸化水素水、50mMのDMPOの量は、それぞれ、30mg、100μL、900μLとした。この粉末混合試料を、ESR15に、所定時間ごとに、3回、直接導入した。そのときのESR15のチャートを図7に示す。図7における3つのピークは、それぞれ、1〜3回目の試料導入に対応する検出ピークである。図7に示すとおり、OHラジカルの検出ピークは現れているが、ピークの大きさの再現性がとれなかった。
f)分析装置1及び分析方法が奏する効果
(i)分析装置1は、毛髪カラム13内に毛髪39を入れるだけで、簡便に毛髪39の分析を行うことができる。また、複数の試料(毛髪39)を分析する場合でも、毛髪カラム13内の毛髪を入れ替えるだけでよい。
(ii)分析装置1において、試薬を導入すると、試薬と毛髪39との反応により生じた物質が、直ぐに、ESR15において検出される。すなわち、試薬と毛髪との相互作用をリアルタイムで検出することができる。
(iii)分析装置1は、検出データの再現性において優れている。
(iv)分析装置1を用いれば、毛髪化粧料(またはそれに含まれる有効成分)のスクリーニングを簡便に行うことができる。つまり、毛髪化粧料を、その種類や濃度を変えながら、試薬として導入し、そのときの毛髪からの流出成分を検出することで、毛髪化粧料の作用を把握することができる。
【0041】
上記毛髪化粧料としては、例えば、アミノ酸を有効成分として含むものがある。アミノ酸を、その種類や濃度を変えながら試薬として導入し、そのときに毛髪カラム13を通過してくるアミノ酸の量を検出することで、そのアミノ酸が毛髪に吸着しやすいかを比較できる。つまり、検出されるアミノ酸の量が少ないほど、毛髪に吸着しやすい。
【0042】
また、上記毛髪化粧料としては、各種シャンプーがある。毛髪カラム13にカラー処理した毛髪を充填しておき、各種シャンプーを試薬として導入し、そのときに毛髪カラム13から流出してくる色素を検出することで、各シャンプーがどの色素を、どの程度流出させやすいかを判別することができる。
(v) 分析装置1を用いれば、毛髪に対する処理を評価することができる。すなわち、種々の条件で処理した毛髪を用意しておき、それぞれの毛髪を毛髪カラム13に充填し、所定の試薬を導入する。毛髪から流出した成分の種類、量により、毛髪に対する処理を評価することができる。
【0043】
例えば、一般に、ブリーチ処理後の毛髪からは、様々な内容物が流出してしまうが、ブリーチ前又は後の処理により、どの程度内容物の流出を抑制できるかを評価することができる。具体的には、前処理Aを施した毛髪A、前処理Bを施した毛髪B、前処理Cを施した毛髪C・・・それぞれを用意し、それぞれの毛髪に同一条件でブリーチ処理を施す。そして、それぞれの毛髪を毛髪カラム13に充填し、所定の試薬を導入する。毛髪から流出した内容物の種類、量により、ブリーチ前の処理による効果(内容物の流出の少なさ)を評価することができる。
【0044】
また、同一条件でブリーチ処理を施した毛髪を、毛髪D、毛髪E、毛髪F・・・と区分しておき、毛髪Dに後処理Dを施し、毛髪Eに後処理Eを施し、毛髪Fに後処理Fを施し、・・・という様に後処理を施す。そして、それぞれの毛髪を毛髪カラム13に充填し、所定の試薬を導入する。毛髪から流出した内容物の種類、量により、ブリーチ後の処理による効果(内容物の流出の少なさ)を評価することができる。
【実施例2】
【0045】
a)分析装置1の構成
本実施例2における分析装置1の構成は、基本的には前記実施例1と同様であるが、図8に示すように、ESR15の代わりに、UV検出装置43、RI検出装置45、MS検出装置47を直列に接続した。
【0046】
b)分析方法
まず、毛髪カラム13に、未処理毛髪を充填した。充填方法は前記実施例1と同様である。そして、前記実施例1と同様に、配管5に溶離液を流している状態において、試料として、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)の高濃度水溶液を導入した。ここで、SLS高濃度水溶液の濃度は25%であり、導入量は500μLである。
【0047】
このとき、UV検出装置43、RI検出装置45、及びMS検出装置47は、試薬と毛髪との反応により生じ、毛髪から流出した脂質と蛋白質を検出した。
次に、毛髪カラム13に充填する毛髪をヘアカラー毛髪に代えて、同様の分析を行った。このとき、UV検出装置43、RI検出装置45、及びMS検出装置47は、メラニン色素、ヘアカラーに含まれる染料、脂質、及び蛋白質を検出した。
【0048】
次に、毛髪カラム13に充填する毛髪をブリーチ毛髪に代えて、同様の分析を行った。このとき、UV検出装置43、RI検出装置45、及びMS検出装置47は、メラニン色素、脂質、及び蛋白質を検出した。
【実施例3】
【0049】
a)分析装置1の構成
前記実施例2と同様とした。
b)分析方法
まず、毛髪カラム13に、未処理毛髪を充填した。充填方法は前記実施例1と同様である。そして、前記実施例1と同様に、配管5に溶離液を流している状態において、毛髪カラム13に紫外線を照射した。なお、毛髪カラム13を構成するガラス管23の材質は、前述したとおり、石英ガラスであるから、紫外線はガラス管23を透過し、毛髪に到達する。
【0050】
このとき、UV検出装置43、RI検出装置45、及びMS検出装置47は、毛髪から流出した、脂質、蛋白質、メラニン色素を検出した。なお、上記脂質、蛋白質、メラニン色素は、紫外線によって毛髪中のケラチン共有結合が切断されたことに起因して、流出したものである。
【0051】
次に、毛髪カラム13に充填する毛髪をヘアカラー毛髪とした場合、ブリーチ毛髪とした場合についても、同様の分析を行った。これらの場合も、毛髪から流出した、脂質、蛋白質、メラニン色素を検出した。
【0052】
c)分析装置1及び分析方法が奏する効果
分析装置1を用いれば、毛髪化粧料(またはそれに含まれる有効成分)が有する、紫外線による毛髪の損傷を防止する効果を簡便に評価することができる。つまり、様々な種類の毛髪化粧料を塗布した毛髪を試料として用意しておき、それぞれの試料を用いたときの検出成分(紫外線の作用により生じるもの)の種類や量により、毛髪化粧料の効果を評価することができる。
【実施例4】
【0053】
a)分析装置1の構成
前記実施例2と同様とした。
b)分析方法
まず、毛髪カラム13に、未処理毛髪を充填した。充填方法は前記実施例1と同様である。そして、前記実施例1と同様に、配管5に溶離液を流している状態において、ドライヤーを用いて、毛髪カラム13を60〜80℃に加温した。
【0054】
このとき、UV検出装置43、RI検出装置45、及びMS検出装置47は、毛髪から流出した、脂質、蛋白質を検出した。なお、上記脂質は、熱により融解溶出したものであり、上記蛋白質は、蛋白変性により流出したものである。
【0055】
次に、毛髪カラム13に充填する毛髪をヘアカラー毛髪とした場合、ブリーチ毛髪とした場合についても、同様の分析を行った。これらの場合も、毛髪から流出した、脂質、蛋白質を検出した。さらに、毛髪がヘアカラー毛髪の場合は、染料も検出した。
【0056】
c)分析装置1及び分析方法が奏する効果
分析装置1を用いれば、毛髪化粧料(またはそれに含まれる有効成分)が有する、熱による毛髪の損傷を防止する効果を簡便に評価することができる。つまり、様々な種類の毛髪化粧料を塗布した毛髪を試料として用意しておき、それぞれの試料を用いたときの検出成分(熱の作用により生じるもの)の種類や量により、毛髪化粧料の効果を評価することができる。
【0057】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、毛髪をそのまま毛髪カラム13に充填するのではなく、キューティクル、コルテックス、メラニン等の成分に分離し、各成分を単独で、あるいはいくつかの成分を混合して毛髪カラム13に充填することができる。
【0058】
また、毛髪カラム13に充填するときの毛髪の状態は、短く切断したり、粉末状にしてもよい。粉末状にする場合は、毛髪とともに、海砂等の不活性成分を毛髪カラム13に充填し、粒子径を粗くすることが好ましい。こうすることにより、溶離液が毛髪カラム13を通りやすくなり、毛髪カラム13における差圧を小さくすることができる。
【0059】
前記実施例3、4において、紫外線照射や加熱の代わりに、あるいはそれらとともに、毛髪カラム13中の毛髪に、超音波を照射したり、電流を流した状態で、毛髪からの流出成分を検出してもよい。
【0060】
毛髪カラム13に充填する試料は、人の毛髪でなく、動物(例えば、羊、山羊等)の毛であってもよい。また、綿、麻等の、植物性の繊維であってもよい。さらに、人や動物の皮膚、爪等であってもよい。また、毛髪カラム13に充填する試料は人工物であってもよい。人工物としては、例えば、合成樹脂又は半合成樹脂製の繊維、フィルムないしシート、あるいは人工皮革等が挙げられる。
【0061】
前記実施例3〜4において、紫外線照射、加温とともに、試薬を導入しても良い。この場合、毛髪に対する、試薬と紫外線照射(又は加温)との相乗作用を評価することができる。あるいは、試薬を導入する場合と導入しない場合のそれぞれにおいて、毛髪に刺激を加えたときに毛髪から流出する成分を検出し、この検出結果から、毛髪の刺激への反応性に対する、試薬の影響を評価することができる。
【0062】
具体的には、紫外線照射に起因する光酸化を防止する毛髪化粧料を試薬として導入しておき、次に、毛髪に紫外線を照射したとき、光酸化により生じる物質をどれだけ検出するかにより、上記毛髪化粧料の光酸化防止効果を評価することができる。同様に、ヘアカラー毛髪の、可視光照射に起因する退色を防止する毛髪化粧料の効果も評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】分析装置1の構成を表す説明図である。
【図2】毛髪カラム13の構成を表す説明図である。
【図3】ESR15の測定チャートである。
【図4】ESR15の測定チャートである。
【図5】ESR15の測定チャートである。
【図6】ESR15の測定チャートである。
【図7】ESR15の測定チャートである。
【図8】分析装置1の構成を表す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1・・・分析装置
3・・・溶離液タンク
5・・・配管
7・・・ポンプ
9、11・・・6方切替バルブ
13・・・毛髪カラム
15・・・ESR
17・・・サンプルループ
19・・・導入口
23・・・ガラス管
25・・・内側継ぎ手
27・・・外側継ぎ手
29・・・o−リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶離液を持続的に流す経路である溶離液経路と、
前記溶離液経路の途中にて、試料を前記溶離液に接触するように保持する保持手段と、
前記溶離液経路のうち、前記保持手段よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加する添加手段と、
前記溶離液経路のうち、前記保持手段よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出する検出手段と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
溶離液を持続的に流す経路である溶離液経路と、
前記溶離液経路の途中にて、試料を前記溶離液に接触するように保持する保持手段と、
前記試料に対し、電磁波、熱、超音波、電気の群から選択される1以上の刺激を加える刺激印加手段と、
前記溶離液経路のうち、前記保持手段よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出する検出手段と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項3】
前記溶離液経路のうち、前記保持手段よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加する添加手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記試料は、人又は動植物の繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記保持手段は、前記人又は動植物の繊維を、その長手方向が前記溶離液の流れ方向と略平行となる状態にて、前記溶離液に浸漬することを特徴とする請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
持続的に流れる溶離液に対し、その流れの途中にて試料を接触させ、
前記試料よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加し、
前記試料よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出することを特徴とする分析方法。
【請求項7】
持続的に流れる溶離液に対し、その流れの途中にて試料を接触させ、
前記試料に対し、電磁波、熱、超音波、電気の群から選択される1以上の刺激を加え、
前記試料よりも下流において、前記溶離液に含まれる成分を検出することを特徴とする分析方法。
【請求項8】
前記刺激を加えるとともに、前記試料よりも上流において、前記溶離液に試薬を添加することを特徴とする請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
前記試料は、人又は動植物の繊維であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の分析方法。
【請求項10】
前記人又は動植物の繊維を、その長手方向が前記溶離液の流れ方向と略平行となる状態にて、前記溶離液に浸漬することを特徴とする請求項9に記載の分析方法。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−304001(P2007−304001A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134057(P2006−134057)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000113274)ホーユー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】