説明

分析装置用の沈殿防止用組成物

【課題】二価金属イオンを含む試薬と、アルカリ性洗浄液とを用いる分析装置において、前記二価金属イオンからアルカリ性条件下で形成される金属化合物の沈殿を防止するための組成物を提供する。
【解決手段】前記沈殿防止用組成物は、CH(OH)CH(OH)COOH基を有する化合物又はその塩を含有する。
【効果】水不溶性又は難溶性化合物(例えば、水酸化マグネシウム)の形成を防ぎ、廃液チューブ等への水不溶性又は難溶性化合物の沈着を防止することができ、自動分析装置による分析を常に正確に実施し、安定に稼動させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に適用する沈殿防止用組成物に関する。本発明の沈殿防止用組成物は、特に自動分析装置に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
臨床診断検査においては、多数の検体について疾病診断の指標となる多岐にわたる物質を短時間に、しかも高精度に測定し、その結果を迅速かつ正確に治療に当たる医師などにフィードバックすることが求められており、大多数の検査は、自動分析装置によって測定が行われている。自動分析装置は、血清等の被検体と診断用試薬とをセットしておけば、被検体のサンプリング、試薬の分注、反応による信号の検出、測定結果の計算及び結果の印刷までを自動的に行うことができる装置で、広く普及している。自動分析装置を用いると、従来の用手法に比較して、一般に検体量や試薬量を少なくすることができるため、コスト的にも有効であるが、操作の自動化が進行すると共に機械の高精度化が要求されている。例えば、検体や試薬分注に使われるノズルは微細になり、反応槽(セル)は同じものを洗浄しながら繰り返し使用しているため、次の検体や試薬を分注するまでに洗浄を行い、前の測定に起因する要因を排除して、次の検体や、試薬に影響のないようにしなくては正確な測定値を得ることはできない。このため、自動分析装置のメーカーは、これらの性能を有する高精度で処理能力の高い、洗浄機構等の優れた装置を開発してきた。
【0003】
装置の性能向上と併せ、それに用いられる各診断用試薬の性能も向上させなくてはならない。しかしながら、試薬の性能が診断指標毎に個別に向上しても、1台の自動分析装置で測定される検査項目は多数あるので、各試薬間の影響についても考慮する必要がある。例えば、或る検査項目に用いる試薬に含まれる或る物質が、反応槽や反応終了後に廃棄される反応液を通過させる廃液チューブへ沈殿又は吸着し、そのために他の検査項目の測定結果へ影響を与えたり、装置自体の稼働に影響を与えるようなことがあってはならない。そのため、そのような事態を未然に防止するため、各試薬にはそれぞれ工夫が施されて市販されている。例えば、反応系自体には関係のない添加物(界面活性剤、又はキレート剤)が加えられている場合が多い。
【0004】
しかしながら、体外診断用試薬は多岐に渡り、その種類も多いため、体外診断用試薬メーカーも努力はしているものの、充分な対応がされているとはいえず、問題点も多数存在した。例えば、自動分析装置で実際に用いる検体は、主に血清や血漿等の生体由来液であるので、検体に含まれるタンパク質が反応槽(セル)やチューブに吸着することによる汚れが問題になることが多い。そこで、反応終了後に行われる反応槽(セル)の洗浄には、水酸化ナトリウム及び界面活性剤等からなるアルカリ性の洗浄液が多用されている。一方、体外診断用試薬には、目的物質を正確に検出するために、金属塩を含むものが多い。例えば、トリグリセライド、グルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチンキナーゼ(CK)活性、CK−MB活性、アミラーゼ活性、又はHDL−コレステロールを測定するためには、目的反応の原理から体外診断用試薬中に金属塩を含ませることは必須である。このような体外診断用試薬を用いる反応を行った後に、アルカリ性洗浄液で洗浄すると、反応液に含まれている金属塩が、洗浄液中の水酸化ナトリウムによって、洗浄時に水不溶性水酸化物に変換し、反応槽(セル)内や廃液吸引ノズルや廃液系チューブ内で沈殿し、他の測定に影響を与えることが少なくなかった。
【0005】
上記問題を解決するために多くの試みがなされた。水酸基によって配位する化合物を含有させる事によりアルカリ性条件下で沈殿を防止する方法(特許文献1)、多糖類を含有せる事によりアルカリ性条件下で沈殿を防止する方法(特許文献2)が報告されている。しかしながら、特にマグネシウム化合物が含まれている試薬の場合、水酸化マグネシウムによる沈殿が発生しやすく、単にマグネシウムをキレートさせて沈殿を防止できるキレート能の高い物質の添加では体外診断用試薬の本来の目的である目的物質を正確に検出する事ができなくなることが少なくなかった。また、アルカリ性条件下で、更にヘパリン、又はデキストラン硫酸等の硫酸多糖類が共存すると、前記の金属塩が沈殿するだけではなく凝集し、反応槽(セル)内や廃液系チューブへ沈着し、測定値誤差や詰まりの原因となり、自動分析装置自体の稼働にも影響を与えてしまうという問題もあった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−62416号公報
【特許文献2】国際公開WO2003/071282号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、アルカリ洗剤による金属塩の沈殿や、硫酸多糖類との凝集及び沈着による影響を受けることなく、自動分析装置における分析を常に正確に実施し、安定的に稼働させるため、更に、体外診断用試薬の本来の目的である目的物質を正確に検出する事ができる試薬を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明による、少なくとも検体と試薬と洗浄液とを注入及び排出する分析装置に適用して、二価金属イオンからアルカリ性条件下で形成される金属化合物の沈殿を防止するための組成物であって、CH(OH)CH(OH)COOH基を有する化合物又はその塩を含有することを特徴とする、前記沈殿防止用組成物により解決することができる。
本発明の沈殿防止用組成物の好ましい態様によれば、トリグリセライド、グルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチンキナーゼ(CK)活性、CK−MB活性、HDL−コレステロール、ヘモグロビンA1c、又はアミラーゼ活性を測定することのできる体外診断用試薬組成物であるか、あるいは、分析装置の洗浄液であることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の沈殿防止性組成物は、CH(OH)CH(OH)COOH基化合物を含有し、二価金属イオン(特にマグネシウムイオン)を含む試薬と、アルカリ性洗浄液とを用いる分析装置(特に自動分析装置)においても、水不溶性又は難溶性化合物(例えば、水酸化マグネシウム)の形成を防ぎ、廃液チューブ等への水不溶性又は難溶性化合物の沈着を防止することができ、自動分析装置による分析を常に正確に実施し、安定に稼動させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による沈殿防止性組成物は、アルカリ性条件下で塩として沈殿する二価の金属イオンに対して、CH(OH)CH(OH)COOH基によって配位する化合物を含有する。このCH(OH)CH(OH)COOH基化合物は、このCH(OH)CH(OH)COOH基化合物が存在しない場合には、アルカリ性条件下において生成する水不溶性あるいは難溶性の二価の金属化合物を生成させず、沈殿を生じさせない。
前記の二価の金属としては、カルシウム、マグネシウム等があげられるが、これらの中でも特にマグネシウムが好ましい。
【0011】
本発明で用いることのできるCH(OH)CH(OH)COOH基化合物は、以下に限定されるものではないが、例えば、一般式(I):
R−CH(OH)CH(OH)COOH (I)
[式中、基Rは、
【化1】

で表される基であって、nは0又は1〜10(好ましくは1〜5)の整数であり、Zは、−H、−OH、−COOH、−CHO、又は−CHOHである]
で表される化合物であることができる。基Rとしては、例えば、−H、−OH、−CH(OH)、−CH(OH)CH(OH)、−CH(OH)CH(OH)CH(OH)、−COOH、−CH(OH)COOH、−CH(OH)CH(OH)COOH、−CH(OH)CH(OH)CH(OH)COOH、−CHO、−CH(OH)CHO、−CH(OH)CH(OH)CHO、−CH(OH)CH(OH)CH(OH)CHO等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0012】
なぜならば、本発明で達成できるアルカリ洗浄剤による金属塩の沈殿の防止や、目的物質を正確に検出する事ができる試薬を提供するために必要な組成は、CH(OH)CH(OH)COOH基により達成されるものであり、一般式(I):R−CH(OH)CH(OH)COOH中のRは、R−CH(OH)CH(OH)COOHとして試薬中に溶解できるものであれば良く、特に構造を限定されるものではない。つまり、化合物中にCH(OH)CH(OH)COOH基を持っていれば、本発明の目的を達成することができる。
【0013】
本発明で用いることのできるCH(OH)CH(OH)COOH基化合物としては、例えば、エリトロン酸、エリトルロン酸、酒石酸、トレオン酸、トレウロン酸、トレアル酸、リボン酸、リブロン酸、リバル酸、アラビノン酸、アラビヌロン酸、アラビナル酸、キシロン酸、キシルロン酸、キシラル酸、リキソン酸、リキスロン酸、アロン酸、アルロン酸、アラル酸、アルトロン酸、アルトルロン酸、アルトラル酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルカル酸、マンノン酸、マンヌロン酸、マンナル酸、グロン酸、グルロン酸、イドン酸、イズロン酸、イダル酸、ガラクトン酸、ガラクツロン酸、粘液酸、タロン酸、タルロン酸、グルコヘプトン酸のほか、ラクトビオン酸、(2R,3R)−タートラニル酸等を挙げることができる。前記のCH(OH)CH(OH)COOH基化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。また、それらの水和物も挙げることができる。更に、D−グルコノ−1,5−ラクトンのように、試薬中に溶解させると一般式(I)で表される構造をとる物質によっても本発明の目的を達成することができる。本発明では、これらのCH(OH)CH(OH)COOH基化合物を、単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
なお、従来技術として、酒石酸を含むジカルボン酸によるグリセロリン酸オキシダーゼの安定化法(特開昭60−126084)や、酒石酸、グルコン酸等を用いた酵素的測定試薬の安定化法(特開2005−278626)があるが、これらはいずれも酵素または酵素的測定試薬中の色原体およびカップラーの安定性を向上させることを目的に用いられており、本発明の目的であるアルカリ条件下での二価金属化合物の沈殿防止とは用途が異なる。
【0015】
本発明による沈殿防止性組成物は、少なくとも検体と試薬と洗浄液とを注入及び排出する分析装置、特には、少なくとも検体と試薬と洗浄液とを分注及び排出する自動分析装置に適用する。本発明において、検体は特に限定されず、分析装置(特に、自動分析装置)で使用可能な検体であればよい。具体的には、生物学的試料、例えば、血液、血清、血漿、尿、糞便抽出液、唾液、咽頭拭い液、髄液、又は細胞抽出液等である。
【0016】
本発明においては、アルカリ性条件下で沈殿する二価の金属化合物或いは二価の金属塩を形成する二価の金属イオンに対して、前記の化合物を作用させる。すなわち、前記のCH(OH)CH(OH)COOH基化合物が存在しない場合には、アルカリ性条件下で水不溶性あるいは難溶性化合物(例えば、水酸化物の形で沈殿するマグネシウム化合物)を生成する可能性のある二価の金属化合物或いは二価の金属塩(例えば、マグネシウム塩)に含まれる二価の金属イオンに対して、前記のCH(OH)CH(OH)COOH基化合物を作用させる。
【0017】
水不溶性あるいは難溶性の二価の金属化合物を生成する可能性のある二価の金属イオン又は二価の金属化合物(例えば、マグネシウム塩)は、種々の理由によって、試薬中に含有されている。例えば、特定の酵素反応を発現させるための必須金属[例えば、グルコース測定に使用するヘキソキナーゼは、マグネシウムの存在下でグルコースとアデノシン三リン酸(ATP)から、グルコース−6−リン酸及びアデノシン二リン酸(ADP)を産生する反応を触媒する酵素である。また、トリグリセライド測定に使用するグリセロキナーゼは、マグネシウムの存在下でグリセロールとATPからα−グリセロリン酸とADPを産生する反応を触媒する酵素である]、あるいは特定の物質を沈殿させるための金属(例えば、HDL−コレステロールを測定する際に、HDL以外のリポタンパク質を凝集させるために、ポリアニオンと共に用いるマグネシウム等の2価金属塩)等を挙げることができる。その他、ヘモグロビンA1c測定試薬、βリポ測定用試薬や遊離脂肪酸測定用試薬等にも、マグネシウム等の二価の金属イオン又はマグネシウム等の二価の金属化合物が含有されている。本発明は、それらの二価の金属イオン又は二価の金属化合物を含有する任意の試薬を用いる分析系に適用することができる。
【0018】
例えば、トリグリセライド、グルコース、ヘモグロビンA1c、HDL−コレステロール、CK活性、CK−MB活性、アミラーゼ活性を測定する体外診断用試薬組成物中に、アルカリ条件下で、アルカリ性条件下での沈殿或いは反応槽や廃液チューブへの吸着を防止できる組成物を含有させ、アルカリ性条件下での沈殿或いは反応槽や廃液チューブへの吸着を防止することができても、本来の目的である目的物質を正確に検出する事ができなくなるような体外診断用試薬組成物では意味がない。CH(OH)CH(OH)COOH基化合物を含有させた体外診断用試薬組成物であれば、アルカリ性条件下での沈殿或いは反応槽や廃液チューブへの吸着を防止し、本来の目的である目的物質を正確に検出する事ができる。なお、本明細書において「アルカリ性」とは、酸性及び中性以外の状態であり、pH7以上を意味する。
【0019】
試薬中等に含まれる二価の金属イオンの量と、その二価の金属イオンのアルカリ性条件下での沈殿或いは反応槽や廃液チューブへの吸着を回避するために必要なCH(OH)CH(OH)COOH基化合物の量とは比例関係にある。二価の金属イオンとCH(OH)CH(OH)COOH基化合物との至適濃度比(モル比)は、二価の金属イオンと使用するCH(OH)CH(OH)COOH基化合物の種類との組み合わせによって変化するので限定することはできないが、基本的には、二価の金属イオンのモル濃度に対して、CH(OH)CH(OH)COOH基化合物を0.25〜100倍、好ましくは0.5〜50倍のモル濃度範囲内で、適宜調整して用いることができる。
【0020】
前記のCH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物を試薬に含有させ、本発明による沈殿防止性組成物が試薬に相当する場合には、通常の試薬組成にそのまま前記のCH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物を含有させることができる。試薬構成が、現在汎用されている自動分析機にあわせて、1試薬系又はそれ以上からなる場合にも、アルカリ性条件下で沈殿する二価の金属化合物を形成する二価の金属イオンを含有する試薬、及び/又はアルカリ性条件下で沈殿する二価の金属化合物を形成する二価の金属イオンを含有しない試薬に、前記のCH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物を含有させることができる。すなわち、二価の金属塩の沈殿又は反応槽や廃液チューブへの吸着は、洗浄液として使用されるアルカリ性洗浄液中の水酸化ナトリウムなどとの接触によって発生するので、前記の二価の金属イオンが洗浄液と接触する際に前記のCH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物が共存していればよく、従って、前記二価の金属イオンを含む試薬又は前記二価の金属イオンを含まない試薬のいずれか一方、又は両方に前記CH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物を含有させることができる。
【0021】
また、前記のCH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物を含有する試薬は、目的とする物質を測定するために反応に必須の基質や酵素、反応によって消費あるいは生成する物質を検出するための組成物、又は試薬の安定化に必要な各種添加剤を含んでいることができる。すなわち、前記のCH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物は、目的とする反応系には影響(干渉)せず、しかも反応に必要な二価の金属イオンの役割を損なわずに、アルカリ性条件下において、二価の金属化合物(特にマグネシウム水酸化物)の生成による沈殿を防止することができる。
【0022】
本発明による沈殿防止性組成物が試薬に相当する場合には、試薬用の緩衝液も特に限定されるものではなく、例えば、リン酸緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、又はイミダゾール緩衝液等を用いることができる。
【0023】
また、液状の試薬に限らず、酵素の安定化等のために凍結乾燥した試薬にも、本発明を適用することができる。この場合、凍結乾燥品に前記CH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物を含有させるか、凍結乾燥品の溶解液に前記CH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物を含有させることができる。更に、前記のCH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物をアルカリ性洗浄液に含有させ、本発明の沈殿防止性組成物をアルカリ性洗浄液とすることもできる。また、本発明の沈殿防止性組成物を、前記試薬又は洗浄液としてではなく、それ単独で自動分析装置に供給することもできる。この場合には、試薬と洗浄液との接触時に沈殿防止性組成物が共存するように供給する。
【0024】
本発明によって沈殿防止効果が得られる理由は、完全に解明されているわけではないが、以下のように考えることができる。もっとも、本発明は、以下の説明に限定されるものではない。本発明においては、アルカリ性条件で水不溶性水酸化物形成する二価の金属イオンに対して、前記CH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物に含まれる2つの水酸基とカルボキシル基が作用し、二価の金属イオンをキレートし、アルカリ性条件下でも水溶性を保つことができることになるものと思われる。キレートの状態はEDTA等による金属キレートとは異なり、カルボキシル基の酸素原子による単独の配位ではなく、また、2つの水酸基の酸素原子によるだけの配位でもないため、アルカリ性条件下で水酸基による配位置換による水酸化物生成が起こらないだけではなく、試薬反応時にCH(OH)CH(OH)COOH基配位性化合物による影響を受けることなく測定できるものと考えられる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
《実施例1:マグネシウム塩のアルカリ条件下での沈殿防止》
100mmol/Lの塩化マグネシウム6水和物50μL、表1に示した化合物の100mmol/L水溶液(pH7.0に調整)100μL、蒸留水250μLを混合した後、4N NaOH 100μLを加え、混合攪拌した。攪拌30分後に沈殿の有無を肉眼で確認した。比較例として、R−CH(OH)CH(OH)COOH類似化合物、特開平10−62416号公報で用いられているジヒドロキシベンゼン化合物である1,2−ジヒドロキシ−3,5−ベンゼンジスルホン酸2ナトリウム[別名:タイロン(Tiron)]を用いた。
結果を表1に示す。CH(OH)CH(OH)COOH基を持つ化合物以外は沈殿を生じた。また、今回の条件下ではジヒドロキシベンゼン化合物であるタイロンでも沈殿を生じた。
【0027】
【表1】

【0028】
《実施例2:トリグリセライド測定用試薬における沈殿防止》
(1)試薬調製
以下の組成で、トリグリセライド測定用試薬を調製した。
・第一試薬
《基本組成》
グッド緩衝液(pH6.8) 20mmol/L
塩化マグネシウム6水和物 15mmol/L
アデノシン5’−3リン酸ナトリウム(ATP−Na) 5mmol/L
N−エチル−N−スルホプロピル−m−トルイジン(ESPT)1mmol/L
グリセロールキナーゼ 1.1KU/L
グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ 12.5KU/L
ペルオキシダーゼ 4MU/L

第一試薬(a):上記基本組成からなるもの(対照)。
第一試薬(b):上記基本組成に酒石酸ナトリウムカリウム4水和物(25mmol/L)を添加したもの(実施例)。
第一試薬(c):上記基本組成にグルコン酸ナトリウム(25mmol/L)を添加したもの(実施例)。
第一試薬(d):上記基本組成にタイロン(25mmol/L)を添加したもの(比較例)。

・第二試薬
《組成》
グッド緩衝液 (pH6.4) 20mmol/L
塩化マグネシウム6水和物 15mmol/L
4−アミノアンチピリン 1.2mmol/L
リポプロテインリパーゼ 1000KU/L
ペルオキシダーゼ 1MU/L
【0029】
(2)反応性
前記(1)で調製した第一試薬(a)、(b)、(c)、(d)と第二試薬を測定に用いた。検体としてはコントロール血清を使用した。測定操作は、検体2μLに第一試薬200μLを加え、37℃で4分間加温した後、主波長600nm、副波長700nmで吸光度を測定した。更に、37℃で1分間加温後、第二試薬100μLを加え、37℃で4分間保温した後に、主波長600nm、副波長700nmで吸光度を測定し、吸光度変化量を求めた。
沈殿防止剤無添加に対する吸光度変化量の割合を表2に示す。ジヒドロキシベンゼン化合物であるタイロンを添加したものでは、無添加の場合に比べ吸光度変化量の減少が認められたが、酒石酸ナトリウムカリウム、グルコン酸ナトリウムを添加したものでは反応に影響なかった。
【0030】
【表2】

【0031】
(3)水酸化マグネシウム沈殿の有無
前記(1)で調製した第一試薬(a)、(b)、(c)、(d)各200μLと、第二試薬100μLとを混合した後、4N NaOH 100μLを加え、混合攪拌した。攪拌30分後に沈殿の有無を肉眼で確認した。
結果を表3に示す。酒石酸ナトリウムカリウム、グルコン酸ナトリウムを添加したものでは沈殿は生じていなかった。
【0032】
【表3】

【0033】
《実施例3:グルコース測定用試薬における沈殿防止》
(1)試薬調製
以下の組成で、グルコース測定用試薬を調製した。
・第一試薬
《基本組成》
トリス緩衝液(pH 9.0) 50mmol/L
塩化カリウム 30mmol/L
塩化マグネシウム6水和物 15mmol/L
エチレンジアミン4酢酸(EDTA) 2.5mmol/L
ATP−Na 2.5mmol/L
グルコキナーゼ 1000U/L
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ 1000U/L

第一試薬(a):上記基本組成からなるもの(対照)。
第一試薬(b):上記基本組成に酒石酸ナトリウムカリウム4水和物(15mmol/L)を添加したもの(実施例)。
第一試薬(c):上記基本組成にグルコン酸ナトリウム(15mmol/L)を添加したもの(実施例)。
第一試薬(d):上記基本組成にタイロン(15mmol/L)を添加したもの(比較例)。
・第二試薬
《組成》
酢酸緩衝液(pH 4.0) 120mmol/L
EDTA 2.5mmol/L
酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)2.5mmol/L
【0034】
(2)反応性
前記(1)で調製した第一試薬(a)、(b)、(c)、(d)と第二試薬を測定に用いた。検体としてはコントロール血清を使用した。測定操作は、検体2μLに第一試薬240μLを加え、37℃で4分間加温した後、主波長340nm、副波長405nmで吸光度を測定した。更に、37℃で1分間加温後、第二試薬60μLを加え、37℃で4分間保温した後に、主波長340nm、副波長405nmで吸光度を測定し、吸光度変化量を求めた。
沈殿防止剤無添加に対する吸光度変化量の割合を表4に示す。ジヒドロキシベンゼン化合物であるタイロンを添加したものでは、無添加の場合に比べ吸光度変化量の増加が認められたが、酒石酸ナトリウムカリウム、グルコン酸ナトリウムを添加したものでは反応に影響なかった。
【0035】
【表4】

【0036】
(3)水酸化マグネシウム沈殿の有無
前記(1)で調製した第一試薬(a)、(b)、(c)、(d)各240μLと、第二試薬60μLとを混合した後、4N NaOH 100μLを加え、混合攪拌した。攪拌30分後に沈殿の有無を肉眼で確認した。
結果を表5に示す。酒石酸ナトリウムカリウム、グルコン酸ナトリウムを添加したものでは沈殿は生じていなかった。
【0037】
【表5】

【0038】
《実施例4:クレアチンキナーゼ活性測定用試薬における沈殿防止》
(1)試薬調製
以下の組成で、クレアチンキナーゼ活性測定用試薬を調製した。
・第一試薬
《基本組成》
イミダゾール酢酸緩衝液(pH 6.6) 100mmol/L
EDTA 1.25mmol/L
酢酸マグネシウム4水和物 15mmol/L
N−アセチルシステイン(NAC) 30mmol/L
アデノシン5’−2リン酸(ADP) 2.5mmol/L
アデノシン5’−1リン酸(AMP) 12.5mmol/L
ジアデノシン−5リン酸(AP5A) 25μmol/L
D−グルコース 25mmol/L
NADP 6mmol/L
グルコキナーゼ 4000U/L
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ 1000U/L

第一試薬(a):上記基本組成からなるもの(対照)。
第一試薬(b):上記基本組成に酒石酸ナトリウムカリウム4水和物(15mmol/L)を添加したもの(実施例)。
第一試薬(c):上記基本組成にグルコン酸ナトリウム(15mmol/L)を添加したもの(実施例)。
第一試薬(d):上記基本組成にタイロン(15mmol/L)を添加したもの(比較例)。
・第二試薬
《基本組成》
Tris緩衝液(pH 8.5) 20mmol/L
クレアチンリン酸 15mmol/L
酢酸マグネシウム4水和物 10mmol/L

第二試薬(a):上記基本組成からなるもの(対照)。
第二試薬(b):上記基本組成に酒石酸ナトリウムカリウム4水和物(10mmol/L)を添加したもの(実施例)。
第二試薬(c):上記基本組成にグルコン酸ナトリウム(10mmol/L)を添加したもの(実施例)。
第二試薬(d):上記基本組成にタイロン(10mmol/L)を添加したもの(比較例)。
【0039】
(2)反応性
前記(1)で調製した第一試薬(a)、(b)、(c)、(d)と第二試薬(a)、(b)、(c)、(d)を測定に用いた。検体としてはコントロール血清を使用した。測定操作は、検体4μLに第一試薬160μLを加え、37℃で3分間加温した後、37℃で2分間加温しながら、主波長340nm、副波長405nmで吸光度変化量を測定した。第二試薬40μLを加え、37℃で2分間保温した後に、37℃で3分間加温しながら、主波長340nm、副波長405nmで吸光度変化量を測定した。
沈殿防止剤無添加に対する吸光度変化量の割合を表6に示す。ジヒドロキシベンゼン化合物であるタイロンを添加したものでは無添加の場合に比べ吸光度変化量の減少が認められたが、酒石酸ナトリウムカリウム、グルコン酸ナトリウムを添加したものでは反応に影響なかった。
【0040】
【表6】

【0041】
(3)水酸化マグネシウム沈殿の有無
前記(1)で調製した第一試薬(a)、(b)、(c)、(d)各160μLと、第二試薬(a)、(b)、(c)、(d)40μLとを混合した後、4N NaOH 100μLを加え、混合攪拌した。攪拌30分後に沈殿の有無を肉眼で確認した。
結果を表7に示す。酒石酸ナトリウムカリウム、グルコン酸ナトリウムを添加したものでは沈殿は生じていなかった。
【0042】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の沈殿防止用組成物は、臨床診断等の分析装置の用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも検体と試薬と洗浄液とを注入及び排出する分析装置に適用して、二価金属イオンからアルカリ性条件下で形成される金属化合物の沈殿を防止するための組成物であって、CH(OH)CH(OH)COOH基を有する化合物又はその塩を含有することを特徴とする、前記沈殿防止用組成物。
【請求項2】
トリグリセライド、グルコース、ヘモグロビンA1c、クレアチンキナーゼ(CK)活性、CK−MB活性、HDL−コレステロール、ヘモグロビンA1c、又はアミラーゼ活性を測定することのできる体外診断用試薬組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
分析装置の洗浄液である、請求項1に記載の組成物。

【公開番号】特開2010−43914(P2010−43914A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207330(P2008−207330)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】