説明

分析装置

【課題】キャリブレーション処理における操作者の負担を軽減するとともに分析精度の維持を可能にする分析装置を提供すること。
【解決手段】この発明にかかる分析装置は、分析項目に応じた試薬を実際に用いて検量線を設定するキャリブレーション処理を行なう分析装置1において、すでに行なわれたキャリブレーション処理のキャリブレーション結果を試薬開封後の経過時間に対応させて分析項目ごとにそれぞれ記憶する記憶部35と、キャリブレーション処理対象である試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果を記憶手段から検索し、検索したキャリブレーション結果を使用して検量線を設定する設定部32と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、分析項目に応じた試薬を実際に用いて検量線を設定するキャリブレーション処理を行なう分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液や体液等の検体を自動的に分析する装置として、試薬が分注された反応容器に検体を加え、反応容器内の試薬と検体の間で生じた反応を光学的に検出する分析装置が知られている。このような分析装置では、試薬補充時および所定タイミングにおいて、分析項目ごとにキャリブレーション処理を行なうことによって分析精度を維持している。このキャリブレーション処理においては、既知の結果を示す標準物質に対して分析項目に応じた試薬を実際に用いて分析を行い、この標準物質に対する分析結果をもとに、測光処理の基準となる検量線を設定している。
【0003】
ところで、このキャリブレーション処理を行なうため、操作者は、試薬の設置処理および標準物質の調製処理などを行なう必要がある。そして、操作者は、標準物質の測定結果を確認し標準物質の測定が異常なく行なわれたことを確認した後に、分析対象の各検体の分析処理を実際に開始している。このため、操作者は、キャリブレーション処理のために試薬設置処理および標準物質の調製処理を行なう必要があるとともに、標準物質の測定結果の確認処理のため分析装置そばで待機する必要があり、操作者の負担となっていた。この操作者のキャリブレーション処理における作業負担を軽減するため、補充試薬を実際に使用する測定処理前の空き時間を利用してキャリブレーション処理を実施する方法、以前に使用された同一分析項目の試薬の検量線を使用する方法、および、試薬容器に付されたバーコードなどの媒体に検量線結果を記録しておき、この検量線結果を装置側で読み取り使用する方法などが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−340649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、空き時間を利用してキャリブレーション処理を実施する方法の場合、試薬補充後すぐに補充試薬を使用する分析項目を開始させたい場合、空き時間自体が発生しないため、試薬補充後即時にキャリブレーション処理を行なわなければならず、キャリブレーション処理における操作者の負担を軽減することができなかった。
【0006】
また、以前に使用された同一分析項目の試薬の検量線を使用する方法の場合、直前のキャリブレーション処理において設定された検量線結果を使用する。直前のキャリブレーション処理においては、開封後の経過時間が長い試薬を用いた場合がほとんどである。しかしながら、開封後の経過時間が長い試薬は、開封時の試薬に比べ試薬の活性状態が変わってしまっていることが多い。このため、試薬補充後に直前のキャリブレーション処理において設定された検量線結果を用いた場合、必要な分析精度を維持することが困難であった。
【0007】
また、試薬容器に付されたバーコードなどに記録された検量線結果を装置側で読み取り使用する方法の場合、分注精度や測光精度のばらつきなど装置固有の影響を検量線に反映させることができない。このため、試薬容器に付されたバーコードなどに記録された検量線結果を使用する場合、必要な分析精度を維持することが困難であった。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の欠点に鑑みてなされたものであり、キャリブレーション処理における操作者の負担を軽減するとともに分析精度の維持を可能にする分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる分析装置は、分析項目に応じた試薬を実際に用いて検量線を設定するキャリブレーション処理を行なう分析装置において、すでに行なわれた前記キャリブレーション処理のキャリブレーション結果を試薬開封後の経過時間に対応させて分析項目ごとにそれぞれ記憶する記憶手段と、前記キャリブレーション処理対象である前記試薬の分析項目および前記試薬開封後の経過時間と一致する前記キャリブレーション結果を前記記憶手段から検索し、検索した前記キャリブレーション結果を使用して前記検量線を設定する設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる分析装置は、前記記憶手段は、各キャリブレーション処理において使用された前記試薬のロット情報を各キャリブレーション結果に対応づけて記憶し、前記設定手段は、前記キャリブレーション処理対象である試薬のロット情報と、前記検索したキャリブレーション結果に対応する試薬のロット情報とが一致した場合、該検索したキャリブレーション結果を使用して前記検量線を設定することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる分析装置は、前記設定手段は、当該分析装置に新たに試薬が補充された場合に、該補充された試薬の分析項目および前記試薬開封後の経過時間と一致する前記キャリブレーション結果を使用して前記検量線を設定することを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる分析装置は、前記設定手段が前記記憶手段に記憶された前記キャリブレーション結果を使用して前記検量線を設定するか否かを選択できる選択手段をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、キャリブレーション処理対象である試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果を使用して検量線を設定することによって、キャリブレーション処理を行なわなくとも開封後の経過時間による試薬の活性状態の影響が少ない検量線を設定できるため、キャリブレーション処理における操作者の負担を軽減できるとともに分析精度の維持を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態である分析装置について、検体の光学的特性を測定する分析装置を例に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0015】
図1は、本実施の形態にかかる分析装置1の構成を示す模式図である。図1に示すように、分析装置1は、分析対象である検体および試薬を反応容器21にそれぞれ分注し、分注した反応容器21内で生じる反応を光学的に測定する測定機構2と、測定機構2を含む分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構2における測定結果の分析を行う制御機構3とを備える。分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって複数の検体の生化学的、免疫学的あるいは遺伝学的な分析を自動的に行う。
【0016】
測定機構2は、大別して検体移送部11、検体分注機構12、反応テーブル13、試薬庫14、読取部16、試薬分注機構17、攪拌部18、測光部19および洗浄部20を備える。
【0017】
検体移送部11は、血液や尿等、液体である検体を収容した複数の検体容器11aを保持し、図中の矢印方向に順次移送する複数の検体ラック11bを備える。検体移送部11上の所定位置に移送された検体容器11a内の検体は、検体分注機構12によって、反応テーブル13上に配列して搬送される反応容器21に分注される。
【0018】
検体分注機構12は、鉛直方向への昇降および自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行うアーム12aを備える。このアーム12aの先端部には、検体の吸引および吐出を行うプローブが取り付けられている。検体分注機構12は、図示しない吸排シリンジまたは圧電素子を用いた吸排機構を備える。検体分注機構12は、上述した検体移送部11上の所定位置に移送された検体容器11aの中からプローブによって検体を吸引し、アーム12aを図中時計回りに旋回させ、反応容器21に検体を吐出して分注を行う。
【0019】
反応テーブル13は、反応容器21への検体や試薬の分注、反応容器21の攪拌、洗浄または測光を行うために反応容器21を所定の位置まで移送する。この反応テーブル13は、制御部31の制御のもと、図示しない駆動機構が駆動することによって、反応テーブル13の中心を通る鉛直線を回転軸として回動自在である。反応テーブル13の上方と下方には、図示しない開閉自在な蓋と恒温槽がそれぞれ設けられている。
【0020】
試薬庫14は、反応容器21内に分注される試薬が収容された試薬容器15を複数収納できる。試薬庫14には、複数の収納室が等間隔で配置されており、各収納室には試薬容器15が着脱自在に収納される。試薬庫14は、制御部31の制御のもと、図示しない駆動機構が駆動することによって、試薬庫14の中心を通る鉛直線を回転軸として時計回りまたは反時計回りに回動自在であり、所望の試薬容器15を試薬分注機構17による試薬吸引位置まで移送する。試薬庫14の上方には、開閉自在な蓋(図示せず)が設けられている。また、試薬庫14の下方には、恒温槽が設けられている。このため、試薬庫14内に試薬容器15が収納され、蓋が閉じられたときに、試薬容器15内に収容された試薬を恒温状態に保ち、試薬容器15内に収容された試薬の蒸発や変性を抑制することができる。
【0021】
試薬容器15の側面部には、試薬容器15に収容された試薬に関する試薬情報が記録された記録媒体が付されている。記録媒体は、符号化された各種の情報を表示しており、光学的に読み取られる。試薬庫14の外周部には、この記録媒体を光学的に読み取る読取部16が設けられている。読取部16は、記録媒体に対して赤外光または可視光を発し、記録媒体からの反射光を処理することによって、記録媒体の情報を読み取る。また、読取部16は、記録媒体を撮像処理し、撮像処理によって得られた画像情報を解読して、記録媒体の情報を取得してもよい。なお、読取部16は、試薬庫14の蓋が開けられた場合、試薬庫14内へ試薬容器15が新たに収納されたと判断し、試薬容器15に付された記録媒体の情報を読み取る。読取部16は、試薬庫14内のすべての試薬容器15の情報媒体を読み取るほか、試薬庫14が各収納室にそれぞれ試薬容器15の収納を検知するセンサーを有する場合には、センサーの検知結果をもとに試薬庫14内に新たに補充された試薬容器15に付された記録媒体のみを読み取ってもよい。
【0022】
試薬分注機構17は、検体分注機構12と同様に、検体の吸引および吐出を行うプローブが先端部に取り付けられたアーム17aを備える。アーム17aは、鉛直方向への昇降および自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行う。試薬分注機構17は、試薬庫14上の所定位置に移動された試薬容器15内の試薬をプローブによって吸引し、アーム17aを図中時計回りに旋回させ、反応テーブル13上の所定位置に搬送された反応容器21に分注する。攪拌部18は、反応容器21に分注された検体と試薬との攪拌を行い、反応を促進させる。
【0023】
測光部19は、所定の測光位置に搬送された反応容器21に光を照射し、反応容器21内の液体を透過した光を受光して強度測定を行う。この測光部19による測定結果は、制御部31に出力され、分析部34において分析される。
【0024】
洗浄部20は、図示しないノズルによって、測光部19による測定が終了した反応容器21内の混合液を吸引して排出するとともに、洗剤や洗浄水等の洗浄液を注入および吸引することで洗浄を行う。この洗浄した反応容器21は再利用されるが、検査内容によっては1回の測定終了後に反応容器21を廃棄してもよい。
【0025】
つぎに、制御機構3について説明する。制御機構3は、制御部31、入力部33、分析部34、記憶部35および出力部36を備える。なお、測定機構2および制御機構3が備えるこれらの各部は、制御部31に電気的に接続されている。
【0026】
制御部31は、CPU等を用いて構成され、分析装置1の各部の処理および動作を制御する。制御部31は、これらの各構成部位に入出力される情報について所定の入出力制御を行い、かつ、この情報に対して所定の情報処理を行う。入力部33は、キーボード、マウス等を用いて構成され、検体の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報等を外部から取得する。分析部34は、測光部19から取得した測定結果に基づいて吸光度等を演算し、検体の成分分析等を行う。
【0027】
記憶部35は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、分析装置1が処理を実行する際にその処理にかかわる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを用いて構成され、検体の分析結果等を含む諸情報を記憶する。ここで、分析装置1は、既知の結果を示す標準物質に対して分析項目に応じた試薬を実際に用いて分析を行い、この標準物質に対する分析結果をもとに、測光処理の基準となる検量線を設定するキャリブレーション処理を行なう。記憶部35は、すでに行なわれたキャリブレーション処理のキャリブレーション結果を試薬開封後の経過時間に対応させて分析項目ごとにそれぞれ記憶する。記憶部35は、各キャリブレーション処理において使用された試薬のロット情報であるロット番号を各キャリブレーション結果に対応づけて記憶する。記憶部35は、CD−ROM、DVD−ROM、PCカード等の記憶媒体に記憶された情報を読み取ることができる補助記憶装置を備えてもよい。
【0028】
出力部36は、ディスプレイ、プリンタ、通信機構等を用いて構成され、検体の分析結果を含む諸情報を出力するほか、図示しない通信ネットワークを介して所定の形式にしたがった情報を図示しない外部装置に出力してもよい。
【0029】
制御部31は、設定部32を有する。設定部32は、キャリブレーション処理対象である試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果を記憶部35から検索し、検索したキャリブレーション結果を使用して検量線を設定する。設定部32は、キャリブレーション処理対象である試薬の製造ロットと、検索したキャリブレーション結果に対応する試薬の製造ロットとが一致した場合、該キャリブレーション結果を使用して検量線を設定する。そして、設定部32は、分析装置1に新たに試薬が補充された場合に、該補充された試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果を使用して検量線を設定する。入力部33は、設定部32が記憶部35に記憶されたキャリブレーション結果を使用して検量線を設定するか否かを選択できる選択手段として機能する。
【0030】
つぎに、分析装置1における試薬補充時のキャリブレーション結果使用処理を説明する。図2は、図1に示す分析装置1における試薬補充時のキャリブレーション結果使用処理を示すフローチャートである。
【0031】
図2に示すように、設定部32は、読取部16から出力された情報をもとに試薬庫14内に試薬が補充されたか否かを判断する(ステップS2)。読取部16が試薬庫14内のすべての試薬容器15の情報媒体を読み取る場合には、設定部32は、受信した情報に新たな試薬情報が追加されていた場合には、新たな試薬が試薬庫14内に補充されたものと判断する。また、読取部16が試薬庫14内に新たに補充された試薬容器15に付された記録媒体のみを読み取る場合には、読取部16から出力された情報を受信した場合に、受信した情報に対応する試薬が試薬庫14内に新たに補充されたものと判断する。設定部32は、試薬庫14内に試薬が補充されたと判断するまで、ステップS2の判断を繰り返す。
【0032】
そして、設定部32は、試薬庫14内に試薬が補充されたと判断した場合(ステップS2:Yes)、すでに行なわれた過去のキャリブレーション処理のキャリブレーション結果を使用して検量線を設定するか否かを選択できる選択メニューを出力部36に表示出力させる(ステップS4)。具体的には、設定部32は、出力部36を構成するディスプレイの画面上に、図3に示すような、すでに行なわれた過去のキャリブレーション処理のキャリブレーション結果を使用するか否かを選択できるキャリブレーションメニューM1を表示出力させる。操作者は、マウスを操作して、カーソルの移動およびマウスのクリックなどによって、過去のキャリブレーション結果の使用を選択する選択欄C1、または、過去のキャリブレーション結果の不使用を選択する選択欄C2を選択できる。選択欄C1が選択された場合には、すでに行なわれたキャリブレーション処理のキャリブレーション結果を使用する選択情報が入力部33から制御部31に出力される。また、選択欄C2が選択された場合には、すでに行なわれたキャリブレーション処理のキャリブレーション結果を使用しない選択情報が入力部33から制御部31に出力される。
【0033】
設定部32は、入力部33から出力された選択情報を受信し(ステップS6)、受信した選択情報をもとに、すでに行なわれた過去のキャリブレーション処理のキャリブレーション結果を使用する参照モードを選択するか否かを判断する(ステップS8)。設定部32は、参照モードを選択しないと判断した場合には(ステップS8:No)、分析装置1に対して補充した試薬を使用したキャリブレーション処理を行なわせる(ステップS10)。この場合、設定部32は、キャリブレーション処理開始指示とともに、ディスプレイ画面に、このキャリブレーション処理に必要な標準物質の種別、調製方法などの情報を表示出力させてもよい。
【0034】
一方、設定部32は、参照モードを選択すると判断した場合には(ステップS8:Yes)、記憶部35の中から、補充された試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果を検索する(ステップS12)。そして、設定部32は、補充された試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果が記憶部35内にあるか否かを判断する(ステップS14)。設定部32は、補充された試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果が記憶部35内にないと判断した場合(ステップS14:No)、使用できるキャリブレーション結果がないため、分析装置1に対して補充した試薬を使用したキャリブレーション処理を行なわせる(ステップS10)。
【0035】
これに対し、設定部32は、補充された試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果が記憶部35内にあると判断した場合(ステップS14:Yes)、補充された試薬のロット番号と検索したキャリブレーション結果に対応する試薬のロット番号とが一致するか否かを判断する(ステップS16)。設定部32は、補充された試薬のロット番号と検索したキャリブレーション結果に対応する試薬のロット番号とが一致しないと判断した場合(ステップS16:No)、ステップS12に戻り、再度記憶部35の中から補充された試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間と一致するキャリブレーション結果を検索する。
【0036】
一方、設定部32は、補充された試薬のロット番号と検索したキャリブレーション結果に対応する試薬のロット番号とが一致したと判断した場合(ステップS16:Yes)、キャリブレーション処理を行なわず検索したキャリブレーション結果を使用し、検量線を設定し(ステップS18)、キャリブレーション結果使用処理を終了する。
【0037】
図4を参照して、キャリブレーション結果使用処理を説明する。図4は、一つの分析項目で使用される試薬の残量とキャリブレーション処理に関する情報とを経過時間に対応させて示した図である。図4に示すように、時間t1において補充、開封された試薬R1がなくなり、時間t4において新たな試薬R2が補充、開封された場合について説明する。時間t1に補充された試薬R1に対しては、キャリブレーション処理がすでに実行されており、Y=A1X+B1という検量線が設定されている。そして、試薬R1に対しては、時間t2および時間t3においてキャリブレーション処理が実行され、それぞれ検量線が設定されている。
【0038】
そして、参照モードが選択されている場合、設定部32は、時間t4における試薬R2補充時に試薬補充時に対応するキャリブレーション結果として、時間t1における試薬R1におけるキャリブレーション結果を記憶部35の中から検索する。そして、矢印Y1に示すように、設定部32は、試薬R2のロット番号「001」と試薬R1のロット番号「001」とが一致すると判断した場合、矢印Y2に示すように、時間t1におけるキャリブレーション結果を使用し、検量線をY=A1X+B1に設定する。
【0039】
そして、時間t4において補充、開封された試薬R2がなくなり、時間t7において新たな試薬R3が補充、開封された場合について説明する。この場合、設定部32は、試薬補充時に対応するキャリブレーション結果として時間t1における試薬R1におけるキャリブレーション結果を検索する。しかしながら、矢印Y3に示すように、設定部32は、試薬R3のロット番号「002」と試薬R1のロット番号「001」とが一致しないと判断した場合、矢印Y4に示すように、時間t1におけるキャリブレーション結果を使用せず、キャリブレーション処理が必要と判断する。この結果、分析装置1は、試薬R3補充時においては、キャリブレーション処理を実行し、Y=C1X+D1という検量線を設定する。
【0040】
ここで、試薬においては、開封後の経過時間差によって、試薬特性差が発生する場合が多い。本実施の形態にかかる分析装置1においては、補充した試薬の分析項目および試薬開封後の経過時間が同等であるキャリブレーション結果を使用して検量線を設定する。分析装置においては、試薬開封後の経過時間差に起因する試薬特性差の影響が少ないキャリブレーション結果を使用するため、キャリブレーション処理を行なわずとも必要な分析精度を維持することができる。
【0041】
さらに、分析装置1においては、補充した試薬のロット番号と同一のロット番号である試薬におけるキャリブレーション結果を使用して検量線を設定する。一般的に、試薬は、同一ロット間では特性差が少ない。これに対し、試薬は、異なるロット間では特性差が大きくなる場合がある。分析装置1においては、同一ロット間の試薬に対応するキャリブレーション結果を使用するため、キャリブレーション処理を行なわずとも必要な分析精度を維持することが可能になる。
【0042】
このように、本実施の形態にかかる分析装置によれば、毎回キャリブレーション処理を行なわなくとも開封後の経過時間による試薬の活性状態の影響およびロット間における試薬特性差による影響が少ない検量線を設定できるため、キャリブレーション処理における操作者の負担を軽減できるとともに分析精度の維持を可能にする。
【0043】
なお、本実施の形態においては、図2において試薬補充時、すなわち、キャリブレーション処理が本来必要であるタイミングごとに参照モードの選択を行なう場合について示したが、これに限らない。たとえば、予め参照モードが選択されていた場合には、キャリブレーション処理が本来必要であるタイミングにおいて、そのまま記憶部35のキャリブレーション結果を検索し、分析項目およびロット番号が一致するキャリブレーション結果を使用して自動的に検量線を設定してもよい。
【0044】
また、本実施の形態においては、すでに行なわれたキャリブレーション処理のキャリブレーション結果を使用して検量線を設定する場合として、試薬補充時を例として説明したが、もちろんこれに限らず、試薬補充時以外であってもよい。たとえば、図4に示す時間t5において、試薬R2に対するキャリブレーション処理を実行できない場合には、矢印Y5に示すように、設定部32は、試薬R2の開封後経過時間T2と一致する開封後経過時間T1である時間t2における試薬R1のキャリブレーション結果を使用し、検量線Y=A2X+B2を設定してもよい。このように、時間t5において、試薬R2の開封後経過時間T2と一致する開封後経過時間T1である時間t2における試薬R1のキャリブレーション結果を使用した場合、実際にキャリブレーション処理を行なって検量線Y=A22X+B22を設定した場合における精度に近い分析精度を維持することができる。
【0045】
また、上記実施の形態で説明した分析装置1は、あらかじめ用意されたプログラムをコンピュータシステムで実行することによって実現することができる。このコンピュータシステムは、所定の記録媒体に記録されたプログラムを読み出して実行することで分析装置の処理動作を実現する。ここで、所定の記録媒体とは、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MOディスク、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」の他に、コンピュータシステムの内外に備えられるハードディスクドライブ(HDD)などのように、プログラムの送信に際して短期にプログラムを保持する「通信媒体」など、コンピュータシステムによって読み取り可能なプログラムを記録する、あらゆる記録媒体を含むものである。また、このコンピュータシステムは、ネットワーク回線を介して接続した管理サーバや他のコンピュータシステムからプログラムを取得し、取得したプログラムを実行することで分析装置の処理動作を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施の形態にかかる分析装置の要部構成を示す模式図である。
【図2】図1に示す分析装置における試薬補充時のキャリブレーション結果使用処理を示すフローチャートである。
【図3】図1に示す出力部を構成するディスプレイ画面に表示されるメニューを例示した図である。
【図4】図1に示す分析装置におけるキャリブレーション結果使用処理を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
1 分析装置
2 測定機構
3 制御機構
11 検体移送部
11a 検体容器
11b 検体ラック
12 検体分注機構
12a,17a アーム
13 反応テーブル
14 試薬庫
15 試薬容器
16 読取部
17 試薬分注機構
18 攪拌部
19 測光部
20 洗浄部
21 反応容器
31 制御部
32 設定部
33 入力部
34 分析部
35 記憶部
36 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析項目に応じた試薬を実際に用いて検量線を設定するキャリブレーション処理を行なう分析装置において、
すでに行なわれた前記キャリブレーション処理のキャリブレーション結果を試薬開封後の経過時間に対応させて分析項目ごとにそれぞれ記憶する記憶手段と、
前記キャリブレーション処理対象である前記試薬の分析項目および前記試薬開封後の経過時間と一致する前記キャリブレーション結果を前記記憶手段から検索し、検索した前記キャリブレーション結果を使用して前記検量線を設定する設定手段と、
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、各キャリブレーション処理において使用された前記試薬のロット情報を各キャリブレーション結果に対応づけて記憶し、
前記設定手段は、前記キャリブレーション処理対象である試薬のロット情報と、前記検索したキャリブレーション結果に対応する試薬のロット情報とが一致した場合、該検索したキャリブレーション結果を使用して前記検量線を設定することを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記設定手段は、当該分析装置に新たに試薬が補充された場合に、該補充された試薬の分析項目および前記試薬開封後の経過時間と一致する前記キャリブレーション結果を使用して前記検量線を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記設定手段が前記記憶手段に記憶された前記キャリブレーション結果を使用して前記検量線を設定するか否かを選択できる選択手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−190960(P2008−190960A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24585(P2007−24585)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】