説明

分析装置

【課題】 真空容器等の気密容器に、強度上の構造的、材料的な制限を加えることなく、エネルギ線源等を一定の位置に保持できて、精度良い分析が可能な分析装置を提供する。
【解決手段】 サンプルを内部空間の所定位置に収容する気密容器1と、前記サンプルSの分析を行う分析部2と、前記気密容器1を支持するベース板112と、前記ベース板112に固定されるものであって、前記分析部2を前記サンプルSから所定距離離間した位置に支持する支持構造体3と、ガス導出入に伴う気密容器1の変形による、当該気密容器1と前記分析部2との相対移動を許容しながら、この分析部2と気密容器1とを気密に接続する接続機構5と、を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線や電子線などを用いてサンプルの定量・定性分析を行う分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線や電子線などのエネルギ線をサンプルに照射して当該サンプルの定量・定性分析を行うこの種の分析装置において、大気などのガスによって分析が阻害される場合には、真空容器中にサンプルを収容して、真空中で分析を行うようにしている。
【0003】
一方、このような構成においては、空間分解能を向上させるために、集光機構を用いてエネルギ線をできるだけ小さい領域に収斂して照射するようにしており、その集光位置にサンプルが位置するように、サンプルとエネルギ線源との距離を正確に設定している。そして従来は、このようなエネルギ線源や集光機構を、真空容器の壁体に取り付けている
【特許文献1】特開2005−19708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、真空容器を密閉し、内部空間を真空にすると、大気圧による周りからの圧縮力で真空容器が歪むため、その変形によって前記集光機構等とサンプルとの距離が変わり、スポット径が大きくなって所望の空間分解能を得られない場合が生じる。特に高い分解能を要求される場合には、真空容器のわずかの歪みが大きな問題となり得る。
【0005】
そこで、特許文献1に示すように、最も歪みが小さいと考えられる真空容器の角部分からビームを伸ばし、そのビームに前記エネルギ線源等を支持させるようにした構造も知られているが、変形する真空容器に支持させていることに変わりなく、抜本的な問題解決には至っていない。
【0006】
また、真空容器の壁体を厚くしたり、強度の大きい材料を使ったりして、歪みそのものを小さくすることも考えられるが、重量やコストの増大などの不具合を招き得るし、あるいは、歪みを見越してサンプルとの距離設定をするといった対応では、正確な設定が難しい上に、その設定操作が煩雑になるという問題点が生じ得る。そして、こういった問題点は、真空容器のみならず、内部を加圧して密閉する加圧容器にも共通する。
【0007】
本発明は、こういった問題点を一挙に解決すべくなされたものであって、その主たる所期課題は、真空容器や加圧容器などの気密容器に対し、強度上の構造的、材料的な制限を加えることなく、エネルギ線源等を一定の位置に保持できて、精度良い分析が可能な分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る分析装置は、サンプルを内部空間の所定位置に収容する気密容器と、前記サンプルの分析を行う分析部と、前記気密容器を支持するベース板と、前記ベース板に固定されるものであって、前記分析部を前記サンプルから予め定めた所定距離離間した位置に支持する支持構造体と、ガス導出入に伴う気密容器の変形による、当該気密容器と前記分析部との相対移動を許容しながら、この分析部と気密容器とを気密に接続する接続機構と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、分析部を支持する支持構造体が、構造上の強度が最も大きい部材の一つであるベース板に固定され、気密容器とは別に配設されているため、気密容器内を減圧又は加圧することによる歪みの影響をほとんど受けない。しかも、その分析部は気密容器に対して固定されずに相対移動可能に構成されているため、気密容器が歪んで変形移動してもその移動を接続機構が吸収して分析部を一定の位置に保持することができる。したがって、分析部とサンプルとの距離が変化せず一定に保たれ、精度良い測定が可能となる。また、分析部と気密容器との間で相対移動が生じても、前記接続機構によって気密状態を維持できる。
【0010】
コンパクト化や構造容易化が可能な前記接続機構としては、気密容器の壁体に略垂直に貫通させた貫通孔と、この貫通孔にスライド可能に嵌合する分析部の外周面と、それらの間に設けられたシール構造と、からなるものが好ましい。このようなものであれば、分析部が、真空容器内に貫通することとなるので分析部とサンプルとの距離を短くできるという効果も奏し得る。
【0011】
気密容器やその周辺機器に干渉しにくく、コンパクト化に寄与できる構成としては、前記ベース板が、気密容器よりも外方に延出するものであり、前記支持構造体が、前記ベース板の延出部分から起立する起立部材と、その起立部材の上端部に片持ち支持されて前記気密容器の上方に延伸する梁部材と、を備えており、前記分析部が、前記梁部材の先端部に取り付けられて気密容器の頂部壁体を貫通しているものを挙げることができる。
【0012】
具体的に、前記気密容器が、正面側に開口部を設けた容器本体と、その開口部を閉止するための蓋体と、前記容器本体の側方に設けられ、前記蓋体を開閉移動可能に支持する案内支持機構と、を備えたものにおいては、側面側には案内支持機構があり正面側には開口部があるため、特別な構造が存在しない背面側に前記起立部材を起立するとともに、前記梁部材を容器本体の背面側から正面側に向かって延伸するように構成しておくことが、コンパクト化や部材同士の干渉を防止するうえで好ましいものとなる。
【0013】
もちろん、そのような構造上の制限がない場合は、梁部材を両持ちにするなどして、分析部の保持安定性を向上させればよい。
【0014】
本発明の効果が特に顕著となるものとしては、前記開口部が斜め上向きに開口する場合を挙げることができる。開口部が斜め上向きの分だけ、頂部壁体の大きさ、つまり強度が減少し、歪みが大きくなるところ、本発明によればその影響をほとんど受けないからである。
【0015】
具体的実施態様としては、前記分析部が、気密容器の内部空間に連通する筐体と、その筐体内を通ってサンプルに収斂照射されるエネルギ線源と、を備えたものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上に述べたように、本発明によれば、分析部を支持する支持構造体が気密容器とは別に配設されており、しかも、その分析部は気密容器に対して固定されず、気密状態を保ったまま相対移動可能に構成されているため、気密容器の歪み影響を受けることなく、分析部を一定の位置に保持することができる。つまり、気密容器に強度上の構造的、材料的な制限を加えることなく、エネルギ線源等を一定の位置に保持できて、精度良い分析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る分析装置100は、模式的な全体斜視図を図1、内部構造を示す模式的断面図を図2に示すように、サンプルSを内部に収容する気密容器である真空容器1と、その真空容器1の内部のサンプルSを分析するための分析部2と、その分析部2を支持する支持構造体3と、前記分析部2及び真空容器1を気密に接続する接続機構5とを備えたものであり、サンプルSの定性・定量分析に用いられる。
【0018】
各部を説明する。真空容器1は、図2等に示すように、当該真空容器1の底板も兼ねる、等厚平板状をなすベース板112上に支持されたものであり、サンプルSの搬出入のための開口部1aを有した容器本体11と、その開口部1aを閉止するための蓋体12と、その蓋体12を開閉可能に支持する案内支持機構4と、を有している。
【0019】
前記容器本体11は、図2に示すように、中空直方体の上部を、一辺に沿って斜めに切り取った形状を概略なすアルミニウム製のものであり、その切り取った斜めの部分を開口部1aとしている。そして、水平に倒した概略直角三角柱状をなすアルミニウム製中空の蓋体12により、この開口部1aが閉止されるように構成している。蓋体12と開口部1aとの間には、弾性シール部材たる樹脂製のOリングO3を介在させており、閉止状態での容器内部空間の気密性を確保できるように構成している。なお、以下の説明では、開口部1aが設けられている側を正面、すなわち前として説明するが、これはあくまで説明の便宜上のことであり、絶対的な方向を示すものではない。また、この容器本体11の内部には、XYZ方向に移動可能な可動ステージAが設けてあり、その可動ステージA上に前記サンプルSが載置される。
【0020】
前記案内支持機構4は、前記蓋体12を、図3に示す閉止位置とその閉止位置から前方かつ下方の図4に示す開放位置との間で所定軌道に沿って開閉移動させるものである。具体的にこの案内支持機構4は、容器本体11の側面に水平スライドのみ可能に支持された一対のブラケット41と、そのブラケット41に基端部を回転可能に取り付けられ、先端部で前記蓋体12の各側部をそれぞれ支持する一対のアーム42と、そのアーム42の動きを規制することにより蓋体12の動きを前記所定軌道に限定する軌道規制部43と、を具備している。この軌道規制部43は、例えば、前記アーム42の回転中心から偏位した部位に設けられて内側方に突出する円柱状の凸部431と、前記容器本体11に取り付けられたレール部材Rの外側面に形成した係合溝432とを具備したものであり、凸部431が係合溝432に係合し、その係合溝432の延伸方向に沿って移動することによりアーム42の挙動を規制する。
【0021】
分析部2は、図2、図5等に示すように、前記サンプルSの直上に設けられたものであり、分析部本体(図示しない)とその分析部本体を収容保持する筐体22とを備えている。
【0022】
分析部本体は、エネルギ線たる一次X線を射出するX線源(図示しない)と、その一次X線を微少スポット径に集光してサンプルSに照射するX線集光導管(図示しない)と、一次X線を照射されたサンプルSから発生する蛍光X線等を検出する検出器(図示しない)とを備え、その検出器での検出結果からサンプルS中に含まれる元素の分析を行うことができるようにしたものである。
【0023】
筐体22は、図2、図5、図6に示すように、X線照射のための開口部22aを下面に有する中空のものである。
【0024】
支持構造体3は、図2、図6に示すように、前記ベース板112における真空容器1よりも後方に延出した延出部分112aに固定したもので、前記延出部分112aから起立する起立部材31と、その起立部材31の上端部に片持ち支持されて前記真空容器1の上方に延伸する梁部材32と、を備えている。より具体的に説明すると、前記起立部材31は、例えば、前記ベース板延出部分112aの各側部からそれぞれ起立させた一対の支柱311と、その支柱の上端部間に架け渡した横架材312とからなる。梁部材32は、例えば平行に配置した2本の梁要素321からなるもので、前記横架材312の中央から前方に向かって伸び、先端部が真空容器1の中央付近上方に位置するように構成されている。そして、この梁部材32の先端部に前記分析部2の筐体22が取り付けられている。
【0025】
接続機構5は、容器本体11の頂部壁体111に垂直に、すなわち鉛直に開けた貫通孔51と、その貫通孔51に嵌合する筐体22の外周面52とを、シール構造7を介して隙間なく気密に密着させてなるものであり、この接続機構5によって、真空容器1の内部空間と当該筐体22の内部空間とが連通する。前述したシール構造7とは、ここでは、筐体外周面52に周回させて設けた溝52aと、その溝52aに一部が突出するように嵌め込んだ弾性シール部材たるOリングO1とからなるものであり、筐体22を貫通孔51に嵌合させることで、前記OリングO1が溝52aと貫通孔51の内周面との間で押圧されて変形するとともに密着し、外部に対する気密性を確保する。しかして、この構成から明らかなように、このシール構造7は、気密性を維持しながら筐体22と貫通孔51との所定範囲内での相対スライド移動を許容する。
【0026】
このような構成の下、真空容器1内を真空にすると、図2、図6の二点鎖線で示すように、大気圧による圧縮作用で壁体が内向きに歪み、例えば頂部壁体111は下方に移動することとなる。一方、分析部2を支持する支持構造体3が真空容器1とは別に配設されていることから、分析部2は同位置に保持され、頂部壁体111のみが分析部2に対してスライドして下方に移動する。したがって、分析部2とサンプルSとの距離が一定に保たれ、X線の集光スポット径が初期設定通りに維持されて精度良い測定が可能となる。また、分析部2と頂部壁体111との間でスライドが生じても、シール構造7によって真空状態を保つことができる。
【0027】
さらに、このように真空容器1の変形を許容し得る構造であるため、逆に言えば、真空容器1の剛性を従来よりも小さく設定でき、その設計自由度を大きく拡げることが可能となる。例えばこの実施形態では、容器本体11をアルミニウム製にして、従来ではなしえなかった軽量化を図っている。
【0028】
加えて、この実施形態では、支持構造体3が、真空容器1の背面側に起立する起立部材31と、その起立部材31に片持ち支持されて正面側に延伸する梁部材32とからなり、正面や側方に及ぶものではないため、正面側に存在する蓋体12や側方に存在する案内機構等の構成や動きなどの自由度を担保できる。
【0029】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、支持構造体(起立部材)が起立する位置は、背面側に限られず、真空容器の正面、側面、角部などでも構わないし、ベース板の側面や裏面に支持構造体を取り付けてもよい。その場合、ベース板を真空容器と平面視同形状にしてもよく、外方に延出する必要は必ずしもない。また、ベース板に保持された外枠やケーシングに支持構造体としての機能を担わせても、前記実施形態と同様の作用効果を奏し得る。さらに全体構成が許せば、梁部材を両持ちにするなどして、分析部の保持安定性を向上させてもよい。
【0030】
また、貫通孔は、頂部壁体のみならず、側部壁体などに形成して構わないし、分析部が複数あるのであれば、それに応じて貫通孔を複数設けても良い。
前記実施形態では、真空容器を支持するベース板に支持構造体を固定していたが、真空容器と完全に分離しても構わない。
【0031】
また、接続機構として、ベローズなどを用いて分析部と真空容器とを接続するようにしてもよい。さらに、シール構造として、溝を分析部の筐体に設けてそこにOリングを嵌め込むようにしていたが、その逆、つまり貫通孔の内周面に溝を切ってOリングを嵌め込むようにしても良い。真空容器以外の、例えば加圧して用いる加圧容器でも本発明は適用可能であるし、その形状も、円筒状や球状など、種々のもので構わない。
【0032】
その他、本発明は前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る分析装置の全体斜視図。
【図2】同実施形態における分析装置の内部構造を示す縦断面図。
【図3】同実施形態における案内支持機構を示し、蓋体が閉止位置にある状態を示した側面図。
【図4】同実施形態における案内支持機構を示し、蓋体が開放位置にある状態を示した側面図。
【図5】同実施形態における分析部及び支持構造体を示す斜視図。
【図6】同実施形態における分析部の内部構造を一部示した拡大部分断面図。
【符号の説明】
【0034】
100・・・分析装置
S・・・サンプル
1・・・真空容器
11・・・容器本体
111・・・壁体(頂部壁体)
112・・・ベース板
112a・・・延出部分
11a・・・貫通孔
1a・・・開口部
12・・・蓋体
2・・・分析部
22・・・筐体
3・・・支持構造体
31・・・起立部材
32・・・梁部材
4・・・案内支持機構
5・・・接続機構
7・・・シール構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを内部空間の所定位置に収容する気密容器と、
前記サンプルの分析を行う分析部と、
前記気密容器を支持するベース板と、
前記ベース板に固定されるものであって、前記分析部を前記サンプルから所定距離離間した位置に支持する支持構造体と、
ガス導出入に伴う気密容器の変形による、当該気密容器と前記分析部との相対移動を許容しながら、この分析部と気密容器とを気密に接続する接続機構と、を備えている分析装置。
【請求項2】
前記接続機構が、気密容器の壁体に略垂直に貫通させた貫通孔と、この貫通孔にスライド可能に嵌合する分析部の外周面と、それらの間に設けられたシール構造と、からなるものである請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記ベース板が、気密容器よりも外方に延出するものであり、
前記支持構造体が、前記ベース板の延出部分から起立する起立部材と、その起立部材の上端部に片持ち支持されて前記気密容器の上方に延伸する梁部材と、を備えており、
前記分析部が、前記梁部材の先端部に取り付けられて気密容器の頂部壁体を貫通している請求項1又は2記載の分析装置。
【請求項4】
前記気密容器が、正面側に開口部を設けた容器本体と、その開口部を閉止するための蓋体と、前記容器本体の側方に設けられ、前記蓋体を開閉移動可能に支持する案内支持機構と、を備えたものであり、
前記起立部材が容器本体の背面側に起立するとともに、前記梁部材が容器本体の背面側から正面側に向かって延伸するように構成されている請求項3記載の分析装置。
【請求項5】
前記開口部が斜め上向きに開口するものである請求項1乃至4いずれか記載の分析装置。
【請求項6】
前記分析部が、気密容器の内部空間に連通する筐体と、その筐体内を通ってサンプルに収斂照射されるエネルギ線源と、を備えたものである請求項1乃至5いずれか記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−25266(P2009−25266A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191620(P2007−191620)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】