説明

分析装置

【課題】可視域の吸収スペクトル変化を検出対象とした簡便で安価な装置により、より多くの種類の検知剤を用いた分析対象物質の比色分析ができるようにする。
【解決手段】光源101,検出部102,波長変換部103,受光部104,および濃度算出部105を備える。光源101より出射した光源光は、検出部102を透過し、検出部102を透過した透過光は、波長変換部103を透過して受光部104に受光される。波長変換部103は、光源101より出射されて検出手部102を透過した光の中の検知剤の吸収スペクトルの波長の光をより長波長の光に変換する。波長変換部103は、例えば、DAPIなどの蛍光色素をポリエチレンなどのポリマーに混合して作製した蛍光フィルムより構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比色分析により対象物質の濃度測定などの分析を行う分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分析対象物質と検出試薬(検知剤)などの反応による色の変化から、分析対象物質の濃度測定などの分析を行う比色分析は、比較的簡便な分析方法として環境分析および生化学など多くの分野において広く用いられている。比色分析では、一般に、検知剤と分析対象の物質とが反応することで、試薬もしくは分析対象物質の可視領域における光吸収スペクトルの変化を測定している。
【0003】
比色分析による測定に関しては、例えば、作業環境測定や工程管理のために広く用いられている検知管(ガステック社製など)や、ホルムアルデヒドの存在で透明な状態より黄色の状態に変化するホルムアルデヒド検知タグ(非特許文献1参照)や、関東化学株式会社製のホルムアルデヒドテストリップ「ドクターシックハウス(登録商標)」(非特許文献2,3参照)などがある。また、ホルムアルデヒドの固相比色認識材料(非特許文献4参照),ホルムアルデヒド検知素子(非特許文献5参照)がある。また、オゾンの存在により青色がほぼ無色の状態に変化するオゾン検知素子(非特許文献6)や、NO2の検出素子(非特許文献7)なども報告されている。
【0004】
上述した比色分析の技術では、色(吸収スペクトル)の変化と分析対象物質の検出量との関係を明らかにすることで、目視による大まかな濃度の測定を可能としているほか、色の変化を分光光度計で測定してより正確な測定を行うようにしている(非特許文献8参照)。また、一般に広く普及しているデジタルカメラで撮影した検知材料の画像を、コンピュータ機器を用いて分析することで濃度を算出することもなされている(非特許文献4参照)。
【0005】
【非特許文献1】Y. Suzuki, et al. ,""Portable Sick House Syndrome Gas Monitoring System Based on Novel Colormetric Regents for the Highly Selective and Sensitive Detection of Formaldehyde", Environ. Soc. Technol., Vol.37, pp.5695-5700, 2003.
【非特許文献2】環化学株式会社ホームページhttp://www.kanto.co.jp/siyaku/hcho/index.htm
【非特許文献3】第37回日本薬剤師会学術大会発表スライドhttp://www.kanto.co.jp/siyaku/pdf/37-B.pdf
【非特許文献4】津田 佑子 他、「ホルムアルデヒドの固相比色認識材料の開発」、室内環境学会誌、Vol.9, No.2, pp.124-125, 2006.
【非特許文献5】丸尾 容子 他、「多孔質ガラスとβ−ジケトン類を用いたホルムアルデヒド検出素子の開発」、環境化学、Vol.17, No.3, pp.413-419, 2007.
【非特許文献6】丸尾 容子 他、「オゾン検知素子の開発」、第17回日本オゾン協会年次研究講演会講演集、167頁、2007年。
【非特許文献7】T.Tanaka, et al., "Coloration reactions between NO2 and organic compounds in porous glass for cumulative gas sensor", Sensors and Actuators B, Vol.47, pp.65-69, 1998.
【非特許文献8】丸尾 容子 他、「カラーセンサネットワークを用いた光化学オキシダントの測定」、NTT技術ジャーナル、Vol.19, No.12, pp.16-19, 2007.
【非特許文献9】インビトロジェン社ホームページ、http://www.invitrogen.co.jp/catalogue/molecular_probes/alexa/alexa_index.html、Molecular Probes社製蛍光色素
【非特許文献10】吉田 勝平 他、「波長変換型フィル無用発光色素の開発と農業への応用研究」、http://www.joho-kochi.or.jp/johosi/0609/rsp.html
【非特許文献11】日本曹達、「波長変換機能を持つ蛍光色素 農業分野への展開」、ポリファイル、Vol.32, No.7, pp.22-23, 1995.
【非特許文献12】大田 登 著、「色再現光学の基礎」、株式会社コロナ社、第4刷,2006年。
【非特許文献13】オリンパス株式会社ホームページ、http://olympus-imaging.jp/product/dslr/e330/feature/index3.html、http://support.olympus.co.jp/jp/support/dlc/archive/e330.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した比色分析で一般に用いられる検知剤は、分析対象物質との反応により可視光域で吸収スペクトルが変化するものであるが、検知剤の中には、分析対象物質との反応により紫外域で吸収スペクトルが変化するものや、変化する吸収スペクトルのピークが紫外域に近いものも数多く存在する。このような検知剤を用いる場合、吸収スペクトルの変化が、目視では判別できない。例えば、非特許文献5のホルムアルデヒド検出では、ホルムアルデヒドとの反応により波長406〜411nmで大きく吸光度が変化している。
【0007】
このような紫外域に近い波長の吸収スペクトルの変化は、人間の目では認識しづらく、目視では測定の結果を十分に評価できないという問題がある。また、安価な刺激値直読方式の測色計(光電色彩計)を用いる場合においても、この装置の波長430nm以下の分光応答度があまり高くないため、十分な測定精度が得られない。
【0008】
また、中性ヨウ化カリウムとオゾンとの反応で遊離したヨウ素を波長365nmの吸光度で測定するオゾン検出方法(JIS.B.7957)がある。この分析方法の場合、対象となる測定波長が、人間の目や光電色彩計では感度を持たない領域となるため、目視および光電色彩計を用いることはできず、高価な紫外可視吸光光度計を用いることになる。また、より安価な簡易型やポータブル型の装置として、吸収波長(ピーク波長)に対応する波長を発光するLEDを光源とし、透過光もしくは反射光をフォトダイオードで検出するものがある。しかしながら、このような装置であっても、数十〜百万円程度と、決して安価ではない。
【0009】
以上に説明したように、分析対象物質との反応により紫外域やこれに近い波長で吸収スペクトルが変化する検知剤を用いる比色分析では、可視域の吸収スペクトル変化を検出対象とした簡便で安価な装置を用いることができないという問題があった。言い換えると、安価な装置を用いる場合、用いることができる検知剤に制限があるという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、可視域の吸収スペクトル変化を検出対象とした簡便で安価な装置により、より多くの種類の検知剤を用いた分析対象物質の比色分析ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る分析装置は、測定対象物質との反応により吸収スペクトルが変化する検知剤を含んだ検出手段と、出射光に吸収スペクトルの波長の光を含む光源と、光源より出射されて検出手段を透過もしくは反射した光の中の吸収スペクトルの波長の第1の光をより長波長の第2の光に変換する波長変換手段とを少なくとも備えるものである。
【0012】
上記分析装置において、波長変換手段は、430nm以下の波長の第1の光を、波長が430nmを超える可視域の第2の光に変換するものである。例えば、波長変換手段は、蛍光体を含むものである。
【0013】
上記分析装置において、波長変換手段によって変換された第2の光を受光して電気信号に変換する受光手段を備える。
【0014】
上記分析装置において、検知剤は、中性ヨウ化カリウムを含むものであればよい。また、検知剤は、β−ジケトンを含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、光源より出射されて検出手段を透過もしくは反射した光の中の吸収スペクトルの波長の第1の光をより長波長の第2の光に変換する波長変換手段を用いるようにしたので、可視域の吸収スペクトル変化を検出対象とした簡便で安価な装置により、より多くの種類の検知剤を用いた分析対象物質の比色分析ができるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における分析装置の構成を示す構成図である。この分析装置は、光源101,検出部102,波長変換部103,受光部104,および濃度算出部105を備える。光源101より出射した光源光は、検出部102を透過し、検出部102を透過した透過光は、波長変換部103を透過して受光部104に受光される。
【0017】
検出部102は、測定対象物質との反応により吸収スペクトルが変化する検知剤を含むものである。例えば、測定対象物質であるオゾンとの反応により波長365nm付近の吸光度が変化する中性ヨウ化カリウムの2%溶液を検知剤として含むものである。また、このように検知剤が溶液の場合、検出部102は、検知剤を収容する光学的に透明な容器(分光セル)を含む。
【0018】
光源101は、測定対象物質との反応により変化する検知剤の吸収スペクトルの波長を含む光を出射する。上述したように検知剤が中性ヨウ化カリウムより構成される場合、光源101は、波長365nmの光を含むものであり、例えば、キセノンランプや水銀灯などの紫外線ランプである。
【0019】
波長変換部103は、光源101より出射されて検出手部102を透過した光の中の上記検知剤の吸収スペクトルの波長の光(第1の光)をより長波長の光(第2の光)に変換する。例えば、波長変換部103は、波長が430nm以下の光を、波長が430nmを超える可視域の光に変換する。波長変換部103は、例えば、DAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole)などの蛍光色素(蛍光体)をポリエチレンなどのポリマーに混合して作製した蛍光フィルムより構成されたものである。このように、波長変換素子103は、蛍光体を含んで構成されていればよい。なお、DAPIは、中心励起波長が約360nm,中心発光(蛍光)波長が約460nmである。
【0020】
受光部104は、波長変換部103で変換された光を受光して電気信号(光電変換信号)に変換するものであり、例えば、個体撮像素子を含むものである。例えば、市販されているデジタルスチルカメラ,デジタルビデオカメラ,および光電子色彩計などを用いることができる。上述したように、波長変換部103により、例えば、波長が430nm以下の光を、波長が430nmを超える可視域の光に変換するなど、検知剤の吸収スペクトルの波長の光をより長波長の光に変換するので、後述するように、市販されているデジタルスチルカメラ,デジタルビデオカメラ,および光電子色彩計などを用いることができる。
【0021】
また、濃度算出部105は、受光部104より出力される光電変換信号より、予め設定されている条件に従って増幅することなどにより、受光部104が受光した光量に対応した分析結果(例えば濃度値)を出力する。濃度算出部105は、例えば、入力された情報(信号)より濃度値を算出するプログラムにより動作するコンピュータであり、受光部104としてのデジタルビデオカメラより出力される光電変換信号としての画像データの変化より、検出部102で検出された対象物質の濃度値を算出する。
【0022】
また、本実施の形態における分析装置は、図2に示すように、反射式の検出部202を備え、光源101より出射されて検出手部202を反射した光が、波長変換部103に導かれるように構成してもよい。他の構成は、前述と同様である。この場合、例えば、上述した検出部102の一部に反射鏡を設けることで、検出部202とすることができる。また例えば、測定対象物質との反応により吸収スペクトルが変化する検知剤(溶液)を含浸させた濾紙などから検出部202を構成することもできる。
【0023】
[実施例1]
次に、実施例1として、本実施の形態における分析装置を用いたオゾンの分析例について説明する。まず、2%中性ヨウ化カリウム溶液(検知剤)50mlを透明容器に収容した検出部102を用意し、光源101より出射した波長365nmを含む紫外を、検出部102に透過させ、検出部102を透過した透過光を、波長変換部103を透過させて受光部104に受光させる。例えば、検出部102を透過した透過光を入射した波長変換部103の光学像を、受光部104としてのデジタルスチルカメラで撮像する。波長変換部103としての蛍光フィルムを、レンズフィルターとしてデジタルスチルカメラの撮像レンズの前部に取り付けた状態で、検出部102を透過した光を撮影すればよい。
【0024】
オゾンと反応していない中性ヨウ化カリウム溶液は、波長365nm付近には吸収を持たないため、検出部102を透過した光は、波長365nm付近の光を含むものとなる。この光を入射した波長変換部103(蛍光フィルム)は、含まれているDAPIが励起されて中心波長460nmの可視光(蛍光)を発光する。この結果、デジタルスチルカメラには、青色を含む画像(光学像)が撮像されることになる。
【0025】
次に、検出部102の透明容器に収容されている検知剤を、オゾンガスを含む空気(分析対象ガス)を採取した内容積500mlの容器に移し替える。次いで、2%中性ヨウ化カリウム溶液50mlが移し替えられた上記容器を振動させ、分析対象ガスと検知剤とが撹拌された状態とする。この後、容器より検知剤を取り出し、再び検出部102の透明容器に収容する。
【0026】
次いで、再度、光源101より出射した波長365nmを含む紫外を、検出部102に透過させ、検出部102を透過した透過光を波長変換部103を透過させて受光部104に受光させる。前述同様に、検出部102を透過した透過光を入射した波長変換部103の光学像を、受光部104としてのデジタルスチルカメラで撮像する。
【0027】
今度は、検出部102の検知剤(中性ヨウ化カリウム)は、オゾンと反応した後であり、波長365nm付近に吸収を持つようになる。このため、検出部102を透過した光は、波長365nm付近の光が吸収される。この光を入射した波長変換部103(蛍光フィルム)は、含まれているDAPIの励起が抑制され、中心波長460nmの可視光の発光が減少する。この結果、デジタルスチルカメラに撮像される光学像においては、青色が少なく(薄く)なる。
【0028】
上述した検知剤における波長365nm付近の吸収は、検知剤と反応したオゾンの濃度に対応し、オゾンの濃度が高いほど波長365nm付近の吸収が多くなる。言い換えると、オゾンの濃度が高いほど、検知部102を透過する光に含まれる波長365nm付近の光は減少する。従って、オゾンの濃度が高いほど、波長変換部103としての蛍光フィルムにおける中心波長460nmの可視光の発光量が小さくなり、結果として、デジタルスチルカメラに撮像される光学像においては、青の濃度が低下する。例えば、オゾンの濃度が高く、検出部102を透過する光には、波長365nm付近の光が全く含まれていない状態となると、デジタルスチルカメラには、無色透明な蛍光フィルムが撮像され、撮像される光学像においては、青の成分がない状態となる。
【0029】
濃度算出部105としてのコンピュータにおいては、動作しているプログラムの処理により、上述したオゾンとの反応(測定)前後の画像データを比較することで、反応したオゾンの濃度を算出する。例えば、濃度算出部105は、予め用意されている画像データにおける青成分の輝度値とオゾン濃度との関係式を用いることで、測定前後の2つの画像データの差分より得られる青成分の輝度値から、オゾン濃度を算出する。
【0030】
また、画像データにおける青成分と赤成分の成分比もしくは青成分と緑成分の成分比のいずれかとオゾン濃度との関係式を用意しておけば、測定前後の2つの画像データの差分より得られる成分比の変化から、オゾン濃度が算出できる。なお、一般に光源101における波長構成は、光強度が変化しても一定に保たれるため、後者の方法によれば、光源101の光強度の変化の影響を受け難いものとなる。
【0031】
ここで、一般に市販されているデジタルスチルカメラおよびデジタルビデオカメラ(デジタルカメラ)は、光電色彩計と同様に、三刺激値を検出する機器(測定器)として捉えることができる。これらは、一般には、いわゆるCIEXYZ表色系(JIS Z8701)による等式関数に近くなるように、分光応答が調整されている。例えば、デジタルスチルカメラのカラーフィルター(原色フィルター)を構成している青フィルターの部分は、等式関数z(波長)に近くなるように設計されている(非特許文献13参照)。このため、一般に市販されている例えばデジタルスチルカメラでは、波長450〜460nmの光であれば、十分な感度を持って検出可能である。
【0032】
ところで、上述では、検知剤として中性ヨウ化カリウムを用いたオゾンの分析を例に説明したが、これに限るものではない。例えば、アセチルケトンなどのβ−ジケトンおよびアンモニウムイオンを含む検知剤を用いたホルムアルデヒドの分析にも適用できる。以下、本実施の形態における分析装置を用いたホルムアルデヒドの分析例について説明する。
【0033】
[実施例2]
次に、実施例2として、本実施の形態における分析装置を用いたホルムアルデヒドの分析例について説明する。本実施例2では、受光部104および濃度算出部105を用いず、波長変換部103を目視で観察することによる簡易な分析(測定)の場合について説明する。
【0034】
まず、酢酸アンモニウム,アセチルアセトン,および酢酸を溶解した検知剤(50ml)を作製し、この検知剤を多孔質ガラス(コーニング社製バイコール7930)に含浸させて検出部102とする(非特許文献5参照)。なお、このように構成した検出部102の光透過特性は、ホルムアルデヒドとの反応により、図3の実線から点線で示すように変化する。図3からわかるように、実施例2における検出部102は、ホルムアルデヒドに晒されることにより、約波長410nmの光吸収特性が変化する。また、アセチルアセトンに限らず、1−フェニル−1,3−ブタンジオン,1,3−ジフェニル−1,3−プロパジオンなどのβ−ジケトンであってもよい。
【0035】
従って、本実施例2では、波長410nmを含む光源として、例えば、ハロゲンランプや白熱灯などを用いる。また、本実施例2では、例えば、ベックマン・コールター社製の蛍光色素「Pacific Blue」ポリエチレンなどのポリマーに混合して作製した蛍光フィルムより波長変換部103を構成する。「Pacific Blue」は、中心励起波長が約410nm,中心発光(蛍光)波長が約455nmである。
【0036】
次に、光源101より出射した波長410nmを含む光源光を、検出部102に透過させ、検出部102を透過した透過光を波長変換部103に入射させる。ホルムアルデヒドと反応していない本実施例2における検知剤は、波長410nm付近には吸収を持たないため、検出部102を透過した光は、波長410nm付近の光を含むものとなる。この光を入射した波長変換部103(蛍光フィルム)は、含まれている「Pacific Blue」が励起されて中心波長455nmの可視光(蛍光)を発光する。この結果、波長変換部103を目視により観察すると、青色が認識されることになる。
【0037】
次に、検出部102を、ホルムアルデヒドガスを含む空気(分析対象ガス)に晒し、検出部102に含まれている検知剤がホルムアルデヒドと反応可能な状態とする。
【0038】
次いで、再度、光源101より出射した波長410nmを含む紫外を、検出部102に透過させ、検出部102を透過した透過光を波長変換部103に入射させる。前述同様に、この状態の波長変換部103を目視により観察する。今度は、検出部102の検知剤は、ホルムアルデヒドと反応した後であり、波長410nm付近に吸収を持つようになる。このため、検出部102を透過した光は、波長410nm付近の光が吸収される。この光を入射した波長変換部103(蛍光フィルム)は、含まれている「Pacific Blue」の励起が抑制され、中心波長455nmの可視光の発光が減少する。この結果、波長変換部103の目視により観察では、青色が薄く変化したことが認識されることになる。
【0039】
上述した検知剤における波長410nm付近の吸収は、検知剤と反応したホルムアルデヒドの濃度に対応し、ホルムアルデヒドの濃度が高いほど波長410付近の吸収が多くなる。言い換えると、ホルムアルデヒドの濃度が高いほど、検知部102を透過する光に含まれる波長410付近の光は減少する。従って、ホルムアルデヒドの濃度が高いほど、波長変換部103としての蛍光フィルムにおける中心波長460nmの可視光の発光量が小さくなり、結果として、目視による観察において、青色がより薄く認識されることになる。ホルムアルデヒドの濃度が高く、検出部102を透過する光には、波長410nm付近の光が全く含まれていない状態となると、目視による観察では、青色がない無色透明な蛍光フィルムが認識されることになる。なお、波長変換部103を透過する光は、無色ではない。
【0040】
ここで、上述した波長変換部103としての蛍光フィルムの色の変化とホルムアルデヒド濃度の変化との関係に対応したカラーチャートを用意しておけば、目視による観察でカラーチャートと比較することで、反応したホルムアルデヒドの濃度を求めることができる。本実施例2によれば、検出部102における波長410nmの光の変化を、波長455nmの光の変化に変換しているので、目視による観察が可能となる。人間の視感度は、波長410nmの光に対して波長455nmの光は、8.75倍1程度となる。また、「Pacific Blue」は、吸収した波長410nmの光の約80%程度を波長455nmの光に変換する。従って、本実施例2によれば、では、最大で約7倍の高感度化が実現される。
【0041】
なお、前述した実施例1の場合(オゾンの分析)においても、本実施例2と同様に、波長変換部103の目視による観察で、簡便なオゾン濃度の測定が可能である。ただし、実施例1のオゾン分析の場合、光源101で用いる波長が主に紫外域であるため、目視による観察を行う観察者は、紫外線を除去(抑制)するメガネ(ゴーグル)などを着用し、紫外線の浸入を抑制して観察を行うとよい。
【0042】
なお、上述した実施例1,2では、透過式の検出部102を用いる場合について説明したが、反射式の検出部202の場合についても同様である。例えば、2%中性ヨウ化カリウム溶液よりなる検知剤を含浸させた濾紙より構成した検出部202を用いた測定と、2%中性ヨウ化カリウム溶液にオゾンに反応させた後の検知剤を含浸させた濾紙より構成した検出部202を用いた測定とにより、前述した実施例1と同様に、オゾンの分析が可能である。
【0043】
また、上述では、オゾンガスおよびホルムアルデヒドガスなど気体の分析を行う場合を説明したが、これに限るものではなく、例えば、水溶液中に溶存したオゾンや溶液中に溶解しているホルムアルデヒドの分析にも適用可能であることはいうまでもない。例えば、実施例1において、検知剤に分析対象の水溶液を混合することで、分析対象注の水溶液に溶存しているオゾンの分析が可能である。
【0044】
また、蛍光体としては、上述したDAPI,「Pacific Blue」などの蛍光色素の他に、遷移金属蛍光体、希土類蛍光体、芳香族化合物、タングステン酸塩など、具体的には、例えばナフタレン、アントラセン、タングステン酸マグネシウム、硫化亜鉛、イットリウム化合物などの種々の蛍光材料から適宜に選択することができる。また、波長変換部103としては、石英ガラスなどの透明な部材の表面に蛍光体が混合された層を形成して用いてもよく、また、透明な部材の表面に蛍光体を塗布して用いてもよい。
【0045】
上述したように、本発明では、波長変換手段により、例えば、430nm以下の波長の第1の光を、波長が430nmを超える可視域の第2の光に変換するなど、検出手段を透過もしくは反射した光の中の吸収スペクトルの波長の第1の光をより長波長の第2の光に変換するようにした。この結果、本発明によれば、変化する波長が紫外域もしくは紫外域に近い波長の可視光であるために、比色分析には高価な分光光度計などが必要となっていた検知剤であっても、この光の変化がより長波長に変換されるので、より安価で簡便な比色分析が可能となる。例えば、目視による測定が可能となる。また、より安価で簡便な装置として、市販されているデジタルカメラを用いた比色分析が可能となる。また、いわゆる携帯電話に内蔵されているデジタルカメラの利用も可能となり、波長変換部103の状態を携帯電話内蔵のデジタルカメラで撮像し、このデータを携帯電話のネットワークを利用してサーバに転送して処理し、分析結果を携帯電話に通知するなどのサービスも可能である。
【0046】
以上に説明した本発明によれば、目視による認定が容易ではなくまた不可能な430nm以下の波長で吸光度が変化する比色分析の検知剤であっても、高価な分光光度計や特定波長のLEDを用いた装置を用いることなく、デジタルカメラなどの民生機器および光電色彩計などの安価な装置や、目視による観察で分析が可能になる。このように、本発明によれば、可視域の吸収スペクトル変化を検出対象とした簡便で安価な装置や目視により、より多くの種類の検知剤を用いた分析対象物質の比色分析ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態における分析装置の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における分析装置の他の構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態における検出部102の光透過特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0048】
101…光源、102,202…検出部、103…波長変換部、104…受光部、105…濃度算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質との反応により吸収スペクトルが変化する検知剤を含んだ検出手段と、
出射光に前記吸収スペクトルの波長の光を含む光源と、
前記光源より出射されて前記検出手段を透過もしくは反射した光の中の前記吸収スペクトルの波長の第1の光をより長波長の第2の光に変換する波長変換手段と
を少なくとも備えることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の分析装置において、
前記波長変換手段は、430nm以下の波長の前記第1の光を、波長が430nmを超える可視域の前記第2の光に変換することを特徴とする分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の分析装置において、
前記波長変換手段は、蛍光体を含むものであることを特徴とする分析装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析装置において、
前記波長変換手段によって変換された前記第2の光を受光して電気信号に変換する受光手段を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析装置において、
前記検知剤は、中性ヨウ化カリウムを含むことを特徴とする分析装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析装置において、
前記検知剤は、β−ジケトンを含むことを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−281911(P2009−281911A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135182(P2008−135182)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】