説明

分析装置

【課題】光音響分光法等の光学的手段による分析装置において、分析に要する時間を短くし、簡易な装置構成とすること。
【解決手段】光源12から照射され波長が異なる複数の単色光を、それぞれ異なる周波数の正弦波で変調して、複数の周波数成分を含む変調光として試料に照射する。光が試料に吸収されることによりエネルギーが放出され複数の単色光の吸収特性等を反映する複数の周波数成分を含む光を検出器で検出する。検出された出力信号は、フーリエ変換等により周波数解析を行うコンピュータ18等の周波数解析手段で個々の周波数成分に分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的手段を用いた分析装置に関し、特に、光の照射態様を周期的に変化させることで試料を分析する光学的手法による分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分析対象とする試料に光を照射して試料の成分等を分析する分析方法として、光音響分光法が知られている。従来、用いられている光音響分光法では、試料に断続的に光を照射し、試料に吸収された光エネルギーが熱として放出されることにより生じる周期的な熱変化を音波として検出する。光音響分光法によれば、光が透過または反射しないような試料も分析できる。このため、光音響分光法は様々な物質の分析装置として採用され、例えば乾海苔の品質を客観的に測定する非破壊分析装置が提案されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示された分析装置は、光源、分光器、反射鏡、光チョッパ、光音響セル、マイクロホン、前置増幅器、メイン増幅器、ロックイン増幅器、およびデータ記録装置を備えている。この分析装置では、光源から照射された光は分光器により分光され、分光により得られたある波長の単色光が光チョッパで遮断され、断続的に照射される光(断続光)として試料に照射される。
【0004】
試料は、光照射を受けて光エネルギーを吸収し、吸収された光エネルギーは熱として蓄積されると共に周辺に放出される。一方、光照射が止まると、試料はしばらくの間は蓄積された熱エネルギーを放出するが、やがて熱エネルギーの放出は停止する。このため、特許文献1に記載の装置では、断続光を照射することで、光が照射された試料の周辺に周期的な圧力変動を生じさせ、音波を発生させる。音波は、マイクロホンにより電気信号に変換され、前置増幅器およびメイン増幅器で増幅された後、ロックイン増幅器に入力されて試料に照射された光と実質的に同じ周波数の成分のみが検出される。そして、その検出された周波数成分の強度を計測することにより、照射されたある波長の光に対する当該試料の光吸収が得られる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−186464号公報
【非特許文献1】齋藤 寛「光音響・光熱変換装置を用いた食品(ノリ、チャ、コメ)の非破壊検査法の確立」東海大学研究奨励補助計画報告書 第28号 学校法人東海大学総合研究機構 2004年7月31日 p39〜42
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、上述したとおり、1回の測定である一つの単色光を照射してロックイン増幅器で増幅した後、特定の周波数の音波のみを取り出す。このため、波長が異なる複数の単色光に対する吸収率を求めるためには、複数回、すなわち求めたい単色光の数に相当する回数の測定が必要となる。このため、試料の分析に要する時間が長くなるという問題があった。
【0007】
また、上記従来技術では単色光を断続的に照射するため、高調波成分が多く発生する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、光源から、波長が異なる複数の単色光をそれぞれ異なる周波数の正弦波で強度変調して試料に照射した後、複数の単色光の吸収特性を反映する複数の周波数成分を含む音を検出し、この音の出力信号を周波数解析して複数の周波数成分に分解することにより、上記課題を解決できることを想到し、本発明を完成させた。また、本発明者らは、複数の周波数成分を含む音の代わりに、複数の強度変調された単色光を受けた試料が発する蛍光等の光を検出し、この光の強度波形を周波数解析することにより、上記課題を解決できることを想到して、本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下を提供する。
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、複数の単色光を照射する光源と、前記複数の単色光をそれぞれ異なる周波数の正弦波で強度変調して前記試料に同時に照射する光変調手段と、強度変調された前記複数の単色光が前記試料に照射されて発生する光を検出する検出器と、を備える分析装置である。
【0010】
単色光は正弦波で強度変調されることで周期的に強度が変化し、その単色光の強度の変化態様は、光の強度を縦軸、照射時間を横軸にとった場合において、ほぼ正弦波をなす波形を描く。なお、「正弦波で単色光を変調する」という場合の「正弦波」は、実質的に正弦波であることを意味するものとする。すなわち、「正弦波で強度変調された単色光」(以下、これを「変調光」と称する場合がある)は、ある周波数の、実質的に正弦波である波形を描くように強度が変化する。以下、試料に照射される変調光の強度変調の周波数を「変調周波数」と称する場合がある。なお、数学的には、正弦波は、その値がプラスの半周期とマイナスの半周期を繰り返す波形であるが、本明細書では、正弦波は、その値が全周期に亘ってプラスになるように、適正なプラスのバイアス(オフセット)を加えてなる波形を表す場合もある。
【0011】
単色光を強度変調する方法としては、光源に与える電流(または電圧)を正弦波で変調することで、光源から発される単色光の強度を変調させる方法が挙げられる。具体例としては、光源として異なる単色光、すなわち波長がそれぞれ異なる単色光を発生させる複数の発光ダイオード(LED)を用いる場合、各LEDに供給する電流をある正弦波で変調すればよい。あるいは電圧駆動の複数の光源を用いる場合は、供給電圧を正弦波で変調すればよい。各単色光をどの周波数の変調周波数で変調するかという変調周波数の割り当ては特に限定されず、任意であってよい。また、単色光を強度変調する方法は、光源に供給する電流等を変調して光源から変調された光を発する方法に限定されず、一定の強度で光源から発された光の透過量(透過率)を正弦波状に変化させる機構を利用してもよい。
【0012】
光照射を受けた試料は、光エネルギーを吸収し、吸収された光エネルギーを熱として放出するため、ある変調周波数の変調光を照射された試料は、上述したメカニズムによって、照射された変調光の変調周波数と実質的に同一の周波数の音波を発生させる。本発明では、このように変調光から音波を発生させる現象を、複数の異なる波長の光について生じさせ、各波長の光を異なる変調周波数で変調させて照射することで同時に行う。検出器では、複数の周波数成分を含む音を検出する。
【0013】
光エネルギーを吸収した試料からはまた、照射された変調光の変調周波数と実質的に同一の周波数で強度が変化する蛍光による光を発生させることもできる。さらに、変調光が試料に照射されて反射した反射光、変調光が試料に照射されて散乱した散乱光、または変調光が試料を透過した透過光も、入射光の変調周波数と実質的に同一の周波数で強度変調されている。本発明では、検出器で音を検出する代わりに、これらの光を検出してもよい。なお、本明細書においては蛍光という現象により発生する光を便宜的に「蛍光」と称する場合がある。
【0014】
検出器で検出される光は、試料に同時に照射された複数の変調光のそれぞれに対応する変調周波数と実質的に同一の周波数の複数(試料に照射された変調光と同数)の周波数成分を含む。以下、検出器で検出され周波数の異なる複数の単色光を含む光の強度波形については「混合光強度波形」と称する場合がある。
【0015】
周波数解析では、混合光強度波形を周波数解析することで、試料に照射した複数の変調光のそれぞれに対応する複数の周波数成分に分解する。このような複数の周波数成分は、複数の単色光に対する試料の吸収特性、蛍光の励起特性、反射特性、散乱特性、または透過特性(以下、これらを総称して「応答特性」と称する場合がある)を反映している。本発明では複数の光に対する試料の応答特性を1回の測定で知ることもでき、また、分光された光を順次照射して複数の光に対する試料の応答特性を知ることもできる。
【0016】
前記検出器は光センサであり、前記光の強度波形を周波数解析する周波数解析手段をさらに備える。
【0017】
前記周波数解析手段は、検出器で検出され出力された混合光強度波形の信号に含まれる成分を周波数毎に分解し、横軸を周波数、縦軸をレベルとしてグラフ化して表示する機器で構成され、任意のスペクトラムアナライザを用いることができる。
【0018】
近年、フーリエ変換またはウェーブレット変換により周波数解析を行うプログラムを実行する様々なソフトウェアが提案されている。このようなソフトウェアを用いれば、測定機器として特別に作られたスペクトラムアナライザに代えて、かかるソフトウェアをインストールした任意のパーソナルコンピュータでスペクトラムアナライザを構成できる。前記検出器によって検出された光は、電気信号に変換される。また、このようなコンピュータと検出器との間には、前記検出器により検出され変換された電気信号を増幅する増幅器を設けるとよい。
【0019】
本発明の請求項5に係る発明は、前記試料は、乾海苔である請求項1から4のいずれかに記載の分析装置である。
【0020】
本発明に係る分析装置で分析される試料は特に限定されないが、乾海苔のような光学的条件の悪い試料の分析に適している。
【0021】
本発明の請求項2に係る発明は、前記検出器として、複数の光センサが配置され、各光センサと前記試料との間には干渉フィルタがそれぞれ配置され、各干渉フィルタはそれぞれ異なる波長の光を透過させ、前記試料から発生した蛍光が検出される請求項1に記載の分析装置である。
【0022】
請求項2に係る発明では、それぞれの光センサは、別々の波長の蛍光を検出する。
【0023】
本発明の請求項5に係る発明は、前記光源として、複数の発光ダイオードが配置されている。
【0024】
光源として発光ダイオードを用いることで、より少ないエネルギーでの光照射を可能とし、コンパクトで安価な構成の装置を提供することを可能とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、一回の測定で複数の単色光を試料に照射し、それぞれの単色光に対する試料の応答特性を求めることができる。このため、試料の測定に要する時間を短縮できる。また、光を試料に照射する合計時間を短くできるため、試料が経時的に変化する測定誤差も低減できる。
【0026】
また、正弦波で強度変調する光を照射するため、矩形波で強度変調する光を照射する場合に生じる高調波成分の発生による問題を解消できる。例えば、高調波成分の発生によるエネルギーの分散を抑制できるため、従来に比べて照射する光の強度を少なくしても光の強度不足により測定が困難になる問題を回避できる。よって、コンパクトで扱いやすい装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。以下、同一部材には同一符号を付し説明を省略又は簡略化する。また、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0028】
図1(A)は、本発明の一実施態様に係る分析装置1の構成を示す概略図である。分析装置1は、光音響効果を利用して海苔の品質を測定する光音響分光法による分析装置である。分析装置1は、光変調手段としての光源駆動器11と、異なる波長の光線を発生させる複数の光源12と、光音響セル14と、増幅器16と、周波数解析手段としてのコンピュータ18と、を備える。
【0029】
分析装置1では、光源12としてある特定波長の単色光を発するLEDを用いており、それぞれ異なる波長の単色光を発する複数のLEDを光源12として設けている。光源12は、光源駆動器11と接続されている。光源駆動器11は、LEDの数と同数のLED駆動回路を備えており、ある一つのLED駆動回路はある一つのLEDと接続されている。複数のLED駆動回路はそれぞれ、LEDに供給される電流を周期的に変化させ、各LEDからの単色光の強度を周期的に変化させるように構成されている。
【0030】
このような光源駆動器11の例としては、複数のシグナルシンセサイザを備え、各光源12をそれぞれ別のシグナルシンセサイザと接続して、異なる周波数で各単色光が変調されるように構成したものが挙げられる。具体的には、ダイレクトデジタルシンセサイザのようなシグナルシンセサイザを複数、設け、各シグナルシンセサイザからそれぞれ異なる周波数の正弦波信号を出力する。正弦波信号は必要に応じて増幅器で増幅し、かかる正弦波信号により各光源12からそれぞれ異なる変調周波数の変調光を発生させる。なお、光源駆動器11には、各光源(LED)12より出力される単色光の強度波形が全周期に渡ってプラスの値の正弦波となるように、各光源12に適正な直流バイアスを加える回路が含まれている。
【0031】
図1(B)に、光源駆動器(シグナルシンセサイザ)11と各光源(LED)12との接続方法の一例を示す。この例では、シグナルシンセサイザ11と各LED12とをオーディオパワーアンプ111および電流制限回路112を介して接続している。オーディオパワーアンプ111としては、例えば東芝株式会社製TA7252AP(モノラル)オーディオアンプキットが使用でき、その電源電圧は12Vである。シグナルシンセサイザ11とオーディオパワーアンプ111との間にはコンデンサが設けられている。
【0032】
シグナルシンセサイザ11から出力された信号は正弦波であるが、その波形の電圧値は中心値を0Vとし、プラスの半周期とマイナスの半周期を繰り返す。このような波形の正弦波信号は、コンデンサを介してオーディオパワーアンプ111に入力され、オーディオパワーアンプ111で増幅される。増幅後、正弦波の電圧値の中心値は、電源電圧の略1/2、つまり約6Vとなる。シグナルシンセサイザ11から出力される正弦波信号の振幅と、オーディオパワーアンプ111の増幅率とは、オーディオパワーアンプ111からの出力信号波形が全周期に渡ってプラスになるように設定されている。よって、オーディオパワーアンプ111からの出力信号を、電流制限用抵抗を有する電流制限回路112を介してLED12に供給するように構成することで、LED12から照射される単色光を全周期に渡ってプラスの値の正弦波で強度変調することができる。なお、電流制限回路112の電流制限用抵抗は個々のLED12によって抵抗値が異なるものを使用している。
【0033】
図1(C)は、光源駆動器(シグナルシンセサイザ)11と各光源(LED)12との接続方法の別の例を示す回路図である。この例では、シグナルシンセサイザ11からの出力信号を全周期に渡りプラスの値となる正弦波信号としてLED12に送るために、オフセット電圧発生回路113と、2回路入りのオペアンプ114とを用いている。オペアンプ114としては、例えば新日本無線株式会社製高出力電流オペアンプNJM4556Aが使用できる。
【0034】
オペアンプ114は、第1オペアンプ114Aと第2オペアンプ114Bとを含む。シグナルシンセサイザ11からの出力信号は、シグナルシンセサイザ11と第1オペアンプ114Aとの間に配置された抵抗を介して第1オペアンプ114Aのマイナス端子に入力される。第1オペアンプ114Aのマイナス端子にはまた、オフセット電圧回路113から出力された電圧が抵抗を介して入力されるよう、構成されている。第1オペアンプ114Aは、反転出力が得られる加算回路として動作するように構成されている。
【0035】
また、オフセット電圧発生回路113は、所定の範囲の直流電圧(ここではマイナスの直流電圧)を発生する機能を持つよう構成され、出力される電圧の値が適正なマイナスの値となるよう、調整される。すなわち、オフセット電圧発生回路113は、第1オペアンプ114Aからの出力電圧が全周期に渡ってプラスとなるように手動で調整される。このように、全周期に渡ってプラスとなるようにされた第1オペアンプ114Aからの出力信号は、第2オペアンプ114Bのプラス端子に入力される。第2オペアンプ114Bからは、プラス端子に印加された電圧と極めて高い精度で比例する電流がLED12に送られる。よって、この例では、図1(B)に示した回路構成とする場合に比べて歪みが少なく全周期がプラスの正弦波でLED12から照射される単色光を強度変調することができる。また、図1(B)に示す回路構成では、オーディオパワーアンプ111からの出力の大部分がロスとなり電力効率が悪いという問題があるが、図1(C)の回路構成とすれば、この問題を解消できる。
【0036】
なお、オフセット電圧発生回路113には、内部にピーク検出回路を設け、シグナルシンセサイザ11から出力された信号のピーク値(ここではマイナスのピーク値)を検出して最適なオフセット電圧を自動で発生する機能を持たせてもよい。このようなピーク検出回路は、オペアンプを利用して公知の技術で容易に実現可能である。
【0037】
図1(C)の回路構成では、LED12の後段に電流検出用の抵抗を設けている。そして、LED12に送られる電流の値を、LED12の後段の抵抗によって直接的かつ忠実に計測し、第2オペアンプ114Bのフィードバックループ内に含めることにより、極めて歪みのない正弦波で強度変調する電流をLED12に供給できる。しかし、第2オペアンプ114BとLED12との間を長いケーブルを用いて接続するような場合には、長いケーブルが第2オペアンプ114Bのフィードバックループに含まれ、動作が不安定になる恐れがある。
【0038】
図1(D)は、図1(C)の回路の変形例を示す。図1(D)では、第2オペアンプ114BとLED12とを接続するケーブルと、第2オペアンプ114Bのフィードバックループとを分離している。その他は図1(C)の回路と同様の構成であり、図1(C)の回路と同様にオフセット電圧発生回路113の内部にピーク検出回路を設けてもよい。図1(D)では、第2オペアンプ114BとLED12との間を長いケーブルを用いて接続するような場合でも、動作が不安定になる不都合を解消できる。
【0039】
このように構成することにより、複数の光源(LED)12からはそれぞれ異なった周波数(変調周波数)で変調された複数の変調光が試料に対して同時に照射される。光源12はLEDに限定されず、例えばLEDに比してスペクトル幅が狭い光(単色光)を発する各種レーザを用いてもよく、または有機もしくは無機のエレクトロルミネッセンスやランプ等を用いてもよい。
【0040】
各種光源のうち、レーザは高強度の光を照射できる。このため、光分析装置では光源としてレーザが用いられることが多い。特に、光音響分光法による分析装置では、レーザが用いられることが一般的である。
【0041】
ところで、上記従来技術に記載されたように、従来は光を断続的に照射し、照射される光の波形は矩形をなし、多くの高調波成分が現れる。高調波成分が発生すると、エネルギーが分散される。このため、矩形波で照射光を変調する従来技術では、高いエネルギーの光を照射する必要がある。一方、本発明では照射する光を正弦波で強度変調するので、矩形波で強度変調する場合のような高調波の発生を回避できる。よって、本発明ではレーザに比べて強度の低い光を発する光源(例えばLED)を用いても、照射する光の強度が不足して測定が困難になるおそれを回避でき、弱い光源を用いても測定できる。
【0042】
すなわち、照射する光を正弦波で強度変調する場合、高調波成分の発生によるエネルギーのロスを抑制できるため、矩形波で強度変調する場合に比して照射する光の強度が少なくてもよい。よって、レーザに比べて光の強度が劣る光源(例えばLED)を用いても、検出器での検出に必要な量の音(または光)が得られる。光源をLEDとする場合、レーザに比べて安価で取り扱いが容易であるという利点がある。また、レーザからの照射光の強度を変調させる場合、寿命の短縮を避けるためにはレーザ照射光の前に光量を変化させる装置を配置する必要がある。一方、LEDの場合はLEDに供給する電流を変化させることにより直接的に強度変調させても寿命を短くする恐れが少ないという利点もある。
【0043】
光源から照射される単色光の波長は特に限定されず、可視光に限らず、赤外光、または紫外光などを用いても良い。
【0044】
さらに、光源駆動器11により単色光をある周波数で変調させて光源12から照射する構成に代えて、光源12から照射された単色光をある変調周波数で強度変調させる構成としてもよい。あるいは、複数の光源12を設ける代わりに、光源から照射される光を複数の異なる波長の単色光に分光して照射する分光器を設けるようにしてもよい。いずれの場合においても、複数の異なる波長の単色光がそれぞれ異なった変調周波数の変調光となるように正弦波で変調して同時に試料に照射されるようにする。
【0045】
光音響セル14は密閉容器であり、内部には試料を保持するサンプル台21と、検出器としてのマイクロホン15とが設けられている。サンプル台21とマイクロホン15とは音響波通路22で接続され、光源12から試料に変調光が照射されることにより生じる音は、音響波通路22を通り、マイクロホン15により検出される。分析装置1では、マイクロホン15としては高感度マイクロホンを用い、マイクロホン15により検出された音が電気信号に変換されてなる出力信号を増幅して出力する増幅器16を設けている。
【0046】
本発明では、異なる波長の複数の単色光が、それぞれ異なる周波数で強度変調されて一斉に試料に照射される。このため、試料に照射される光は、複数の単色光を含み、それらの単色光はそれぞれ異なる変調周波数で変調されているため、単一の単色光を断続的に照射する場合のような単純な波形を描かない。
【0047】
この点について、図2を参照して詳しく説明する。図2において照射光W−INは、それぞれ波長が異なるn種類の単色光W1、W2、W3・・・Wnを異なる正弦波で変調させそれぞれ固有の変調周波数の変調光とし、これらの変調光を同時に光音響セル14内の試料に照射するときの照射光である。また、出力信号W−OUTは、マイクロホン15で検出された音の波形である混合音波形の出力信号である。図2に示すように、例えば、変調光W1は、波長530nmの単色光を発生させるLED12Aから変調周波数150Hzで変調するように正弦波で変調されて発生され、変調光W2は、波長630nmの単色光を発生させるLED12Bから変調周波数200Hzで変調するように正弦波で変調されて発生され、変調光W3は波長430nmの単色光を発生させるLED12Cから変調周波数250Hzで変調するように正弦波で変調されて発生される。個々の変調光W1〜Wnの強度波形は、それぞれ図2に示すように、一周期中の谷と山とがそれぞれ一つずつの単純な単一の正弦波形を描く。
【0048】
一方、異なる複数の単色光を異なる変調周波数で変調させた複数の変調光を同時に試料に照射する場合、照射光W−INの波形は、図2に示すように異なる高さまたは深さの複数の山および谷が周期的に現れるものとなる。このように、本発明では、一の単色光を断続的に照射する従来技術に比べ、照射光W−INの波形は複雑になる。そして、光音響効果により発生する音の混合音波の出力信号W−OUTは、複数の変調光の照射に由来する複数の周波数成分を含み、照射光W−INと同様に異なる高さまたは深さの複数の山および谷が周期的に現れる複雑なものとなる。
【0049】
本発明では、このような出力信号W−OUTを周波数解析することで、複数の単色光が試料によりそれぞれどの程度、吸収されたかを算出する。周波数解析は、任意のスペクトラムアナライザを用いて行えばよい。分析装置1では、高速フーリエ変換を行うプログラムを実行できるように設定されたコンピュータ18を周波数解析手段として設けている。また、増幅器16により増幅され、アナログ信号として出力された出力信号をコンピュータ18の入力信号とするため、コンピュータ18にはA/Dコンバータ17を設けている。
【0050】
本発明では、コンピュータ18を用いた周波数解析により、混合音波形の出力信号W−OUTを照射された複数の変調光にそれぞれ対応する周波数の複数の周波数成分に分解し、そのレベルを表示する。このようにして得られた複数の周波数成分はそれぞれ、光源12から照射され、それぞれ異なる波長を有する複数の単色光のそれぞれに対する試料の吸収率を反映している。本発明では、変調周波数が異なる複数の変調光を試料に一斉照射するため、複数の単色光に対する試料の吸収特性が一回の測定で得られる。したがって、本発明において試料をベルトコンベアのような搬送装置上に保持するようにすれば、連続分析も可能となる。
【0051】
また、本発明では、複数の変調光を同時入力した後、これらの変調光に対応する周波数成分に分解することから、ある特定の単色光のみを照射して生じるあるひとつの音波のみを取出す従来技術のようにある特定の周波数および位相を有する信号のみを増幅するロックイン増幅器を設ける必要がなくなる。したがって、測定回数を減らして迅速な測定を可能にするという課題のみならず、装置の簡素化という別の課題を解決することもできる。
【0052】
さらに、従来は矩形波で強度変調する光を照射するので多くの高調波成分が現れる。特に、異なる周波数で強度変調する複数の光を同時に照射しようとすれば、検出対象として設定する各周波数(基本周波数)について、多くの高調波成分(例えば基本周波数の3倍の3倍周波数、5倍の5倍周波数等)が出現する。よって、混合音波形(または混同光強度波形)を周波数解析して各基本周波数で強度変調する音(または光)に分解することは、実際上、困難である。また、ある基本周波数とその高調波成分(例えば3倍周波数)との間に、これらと重なり合わないように別の周波数の矩形波信号を設定しようとしても、設定できる周波数(基本周波数)の数が限られる。
【0053】
これに対し、本発明では正弦波で強度変調する光を照射するので、多くの高調波成分が発生することによる周波数同士の重なり合いを回避し、従来に比して多くの異なる基本周波数で変調する光を同時照射できる。また、上述したとおり、従来技術に比して照射する光の強度を少なくしてよい。
【0054】
ここで、試料が光を照射されて発する音を検出する場合、変調周波数が高くなるほど、検出される音のシグナルが小さくなる。このため、900Hz以上の変調周波数で変調する光を照射して音を検出する場合は、光源としてはレーザを用いることが好ましい。しかし、変調周波数が900Hz未満であれば、照射する光の強度が比較的低くても音のシグナルが検出可能であるため、光源としてLEDも使用できる。
【0055】
このように、光源としてLEDを使用しようとすれば、光音響効果を利用した装置において採用できる変調周波数に上限が生じる。このように採用できる変調周波数の範囲が限られる場合でも、光を正弦波で強度変調する場合は矩形波で強度変調する場合より周波数選択の自由度が高く、より多くの変調周波数を選択しやすい。
【0056】
また、正弦波で単色光を強度変調する場合、変調周波数同士の差が20Hz以上あれば、混合音波形または混合光強度波形を各成分に分解することも容易である。よって、混合光強度波形を周波数解析する場合、分解能が比較的低い周波数解析手段を用いることもできるため、装置を簡素かつ安価にできる。
【0057】
なお、音を検出する場合は変調周波数を低くすると、外部の低周波振動がノイズとして検出される恐れが高くなる。このような場合、低反発マットを光音響装置本体の下に敷けばよい。低反発マットを配置すれば、光源として複数のLEDを用い、それらの変調周波数の範囲を100Hz〜900Hz程度とし、ノイズの検出を抑制した装置が得られる。
【0058】
なお、本発明のように正弦波で強度変調する光を照射する場合でも、異なる周波数で強度変調する周波数成分同士が重なり合うことを避けることが好ましい。このため、例えば、複数の単色光を強度変調させる複数の変調周波数は、互いに、実質的に倍数関係でなく、かつ、約数関係でもなくするとよい。「複数の変調周波数の周波数同士が実質的に倍数関係でもなく約数関係でもない」とは、ある変調光の変調周波数が、同時に照射される他のいずれの変調光の変調周波数の倍数または約数となる周波数と完全に一致しない周波数であることはもとより、通常の周波数解析技術によって分解不可能な程度まで接近していない周波数であるように設定されていることを意味する。
【0059】
具体的には、例えば6種類の単色光を照射する場合において、それぞれの単色光を強度変調させる変調周波数を200Hz、250Hz、300Hz、350Hz、450Hzとして、200Hzの整数倍である400Hz、あるいは600Hz、または約数である100Hzといった周波数を含まないようにすることを意味する。このように変調周波数を選べば、ある変調周波数の倍数の周波数成分が、他の変調周波数と同一の周波数成分に重なって影響しあう恐れを回避できる。
【0060】
分析装置1は、変調周波数の異なる複数の変調光を一斉照射し、この照射光を受けた試料からの音の波形または光の強度波形を周波数解析して目的とする周波数成分を取出す解析を行う周波解析手段を備える限りにおいて種々の変形が可能である。例えば、分析装置1は、散乱や透過の測定に対する光学的条件が悪い試料の測定に適した光音響分析法を利用していることから、海苔の品質を分析する装置としているが、本発明は色成分の微妙な違いに基づき分析を行う装置とでき、例えば塗料の分析装置としてもよい。以下、本発明の別の実施態様について述べる。
【0061】
図3(A)は、本発明の第2実施態様に係る分析装置2の構成を示す概略図である。分析装置2は、試料が照射光を吸収した後、放出されるエネルギーを蛍光として検出する点で第1実施態様に係る分析装置1と異なる。具体的には、分析装置2では蛍光を検出して蛍光の強度波形を出力信号としてコンピュータ18に入力するため、検出器としてマイクロホンではなく光センサ15Bを備える。また、試料は光音響セルではなく、照射光が入る窓と蛍光を取出す窓とを備えるセル14Bの内部に保持される。さらに、増幅器としては光センサ15Bからの出力を増幅する増幅器、例えば光センサとしてのフォトダイオードからの出力電流を電圧に変換した上で増幅する増幅器16Bを用いている。
【0062】
分析装置2では、試料から発される蛍光と試料に照射する光とを分離するため、光センサ15Bの前段に干渉フィルタFを配置している。干渉フィルタを光センサ15B前段に配置すれば、試料に照射される入射光が誤って検出されることが回避できる。干渉フィルタFとしては、数nmまたはそれ以下のバンド幅で光を分離できる狭帯域干渉フィルタを用いることが好ましい。
【0063】
分析装置2の変形例として、蛍光の代わりに試料を透過した透過光を検出するようにしてもよい。透過光を検出する場合は、干渉フィルタFを省略することもできる。
【0064】
図3(B)に分析装置2の変形例に係る分析装置2´の概略構成を示す。分析装置2´は、光源として複数のLED12B1、12B2・・・12Bnを備える。各LEDとしては、それぞれ異なる波長の単色光を照射するLEDが選択されている。セル14Bと増幅器16Bとの間には複数の光センサ15B1、15B2・・・15Bmが配置されている。LEDの数と光センサの数とは、同じであっても異なっていてもよい。増幅器16Bは、光センサの数と同数の入力チャネルを持ち、各光センサで検出された光信号がそれぞれ、増幅される。ADコンバータ17も光センサの数と同数の入力チャネルを持ち、各光センサによる検出信号がそれぞれAD変換される。
【0065】
また、セル14Bと光センサとの間には光センサの数と同数の干渉フィルタF1、F2・・・Fmが配置され、各光センサに対して一枚の干渉フィルタが配置されている。各干渉フィルタは、それぞれ一本の光ファイバを介してセル14Bと接続されている。各干渉フィルタとしては、それぞれ異なる波長の光を透過させるフィルタが用いられている。また、干渉フィルタとしては、照射する光の波長より長い波長の光を透過させるフィルタが選ばれており、これにより、照射光により励起され照射光より波長が長い蛍光が各光センサにより検出される。
【0066】
具体的には、m枚の干渉フィルタが透過させる光の中で、最も波長が短い光の波長(λ1)は、n個のLEDが照射する光の中で最も波長が短い光の波長(λmin)より長い(λmin<λ1)。また、m枚の干渉フィルタが透過させる光の中で最も波長が長い光の波長(λm)は、n個のLEDが照射する光の中で最も波長が長い光(λmax)の波長より長い(λmax<λm)。
【0067】
m枚の干渉フィルタは、n個のLEDが照射する光は透過させないように選択されていれば、試料に照射された光が誤って光センサに検出されることが回避できるので好ましい。
【0068】
干渉フィルタを透過した蛍光は、その干渉フィルタの後段に配置された光センサで検出される。本実施態様の装置では、各干渉フィルタを透過したある波長の光が、それぞれの光センサで検出される。各光センサで検出された光信号は、増幅器16Bで増幅され、AD変換されてコンピュータ18に入力される。コンピュータ18では、各光信号について周波数解析を行うことで、検出された光がどの周波数の正弦波で強度変調された照射光によって励起された光かを特定する。
【0069】
光センサで検出されたそれぞれの蛍光について、その波長とその蛍光を励起させた照射光の波長とを縦軸・横軸としたグラフにその蛍光量をプロットすれば、試料の蛍光特性を示すコンターマップが作成できる。
【0070】
本実施態様の分析装置では、複数の光を異なる周波数の正弦波で強度変調して同時に照射し、それぞれの光で励起された蛍光を同時に測定する。よって、短い測定時間で複数の光についての蛍光特性を示したコンターマップが作成できる。このように、本発明に係る分析装置では、試料に対する光照射時間を短くできるため、光照射により性質が変化しやすい試料(例えば海苔のような植物体)の分析に特に適する。
【0071】
なお、装置構成はこれに限定されず、例えばLEDから照射される光を、干渉フィルタを通して試料に照射するようにしてもよい。LEDは、レーザに比してスペクトルの幅が広く、ある1種類のLEDから、波長が近似する複数の単色光が照射されうる。そこで、光源として複数のLEDを配置し、適宜、LEDの前に干渉フィルタを配置する構成とする。このように構成すれば、高価なLEDの代わりに安価なLEDを用いることもでき、装置を安価にできる。
【0072】
具体的には、例えば単色光として波長550nmの光を用いる場合において波長550nmを中心発光波長とするLEDが高価である場合、中心発光波長550nmのLEDに代えて中心発光波長540nmのLEDを用い、このLEDから550nmの単色光を照射させることができる。このようにして、複数種類のLEDを光源として配置し、各LEDの前に適宜、干渉フィルタを配置すれば、任意の波長の単色光を照射することができる。また、n種類のLEDから照射される単色光の数を、n以上にすることもできる。よって、多くの種類の任意の波長の単色光を、異なる変調周波数で強度変調して同時照射できる。
【0073】
あるいは、同時照射する単色光の数が少なくてよい場合には、光源として同種のLEDを複数、配置してそれぞれの前に異なる光を透過させる干渉フィルタを配置してもよい。このような構成として、各LEDを異なる変調周波数で強度変調させれば、同一種類のLEDから異なる変調周波数で強度変調された複数の単色光を同時照射できる。よって、LEDの種類を少なくして分析装置を構成することも可能である。このように光源として使用するLEDの種類を少なくできれば、装置を簡素かつ安価にできる。
【0074】
図4は、本発明の第3実施態様に係る分析装置3の構成を示す概略図である。分析装置3は、試料が照射光を反射した反射光を検出する点で第1実施態様に係る分析装置1と異なる。分析装置3は、蛍光を検出する分析装置2と同様に、光波を検出するため、検出器として光センサ15B、増幅器として増幅器16Bを備える。分析装置3では、試料に照射される入射光を直接検出しないように光センサ15Bの位置や方向を適性に設定している。
【0075】
分析装置3の変形例として、反射光の代わりに散乱光を検出するようにすることもできる。散乱光を検出する場合、必要に応じて光センサ15Bの位置を動かす、または光源12を動かすようにしてもよい。
【実施例】
【0076】
[実施例1]
以下、実施例に基づいて本発明さらに説明する。実施例1では、図1に示した構成の分析装置1を用い、試料として乾海苔を一枚ずつ、裏と表それぞれに光照射をして分析した。光源12としては、波長が異なる単色光を発する16種類のLEDを用い、各LEDを光源駆動器11の16台のシグナルシンセサイザとそれぞれ接続し、各LEDが異なる正弦波で変調され別々の変調周波数で照射されるようにした。表1に、各LEDから発される単色光の波長と、照射する際の変調周波数を示す。
【0077】
【表1】

【0078】
マイクロホン15としてはバックエレクトレット方式コンデンサマイクロホン(株式会社小野測器製、型名:MI−1431)、増幅器16としては電圧入力、電圧出力タイプの増幅器(株式会社小野測器製、型名:SR−2200)、周波数解析手段としてはA/Dコンバータを備え、フリーソフトウェアであるWaveSpectra(http://www.ne.jp/asahi/fa/efu/index.htmlから入手可能)をインストールしたコンピュータを用いた。
【0079】
図5に、コンピュータ18に入力された出力シグナルと周波数解析の結果を示す。図5において符号aで示すグラフ図は、マイクロホン15で検出され、増幅器16で増幅された後、A/D変換されてコンピュータ18に入力された音の波形を示すシグナル、符号bで示すグラフ図は、周波数解析結果を示す図である。図6は、図5のbで示すグラフ図から得られた周波数解析結果に基づき算出した乾海苔の吸収率を示す図である。図6では、異なる原材料で作られた8種類の乾海苔の表側についての吸収率を示している。また、図7に同じ試料の裏側についての吸収率を示す。吸収率を示す図において、異なる形状の符号は異なる試料についての結果を示している。
【0080】
図5のbには、試料に照射した16種類の単色光それぞれに由来する16種類の異なる周波数の周波数成分それぞれの強さを示す16のピークが表示されている。そして、図6および図7に示すように、原材料の産地や採取日が異なる試料間で16種類の単色光の吸収特性が異なることが示された。このようにして得られた各試料の光の吸収特性を、標準試料について得られた光の吸収特性と比較することで、海苔の品質を客観的に示すことができる。
【0081】
[実施例2]
実施例2では、乾海苔を2枚重ねて実施例1と同様に分析した。実施例2においても図5に示すような周波数解析結果が得られ、得られた周波数解析結果に基づいて、図8として示す乾海苔の吸収率を示すグラフ図を作成した。図8に示すように、乾海苔を2枚重ね、凹凸を増した状態にしても原材料の産地や採取日が異なる試料間で16種類の単色光の吸収特性が異なることが示された。
【0082】
[実施例3]
実施例3では、乾海苔に代えて原材料の異なる2種類の生海苔を試料とし、実施例1と同様に分析した。実施例3においても図5に示すような周波数解析結果が得られ、得られた周波数解析結果に基づいて、図9として示す生海苔の吸収率を示すグラフ図を作成した。図9に示すように、水分を含む生海苔についても原材料の違いに応じた光の吸収特性が異なることが示された。
【0083】
[実施例4]
さらに、実施例4として、茶葉をエタノール抽出することにより得られたクロロフィル含有液を試料とし、図3に示す分析装置2による分析に供した。実施例4では、実施例1で用いた16種類のLEDのうち、試料から発生する蛍光の波長(680nm)に近い波長の単色光を発するLEDおよび波長430nmのLEDを除き、10種類のLEDから異なる変調周波数で変調光を試料に照射するようにした。表2に、各LEDの波長と、照射する際の変調周波数を示す。なお、試料に照射したそれぞれの変調光に対応して試料から発された蛍光の強さは、それぞれ異なるため、表2の波長を示す欄の括弧の中にその強さを示す。
【0084】
【表2】

【0085】
実施例4で用いた分析装置2の光センサ15Bとしてはシリコンフォトダイオード(浜松ホトニクス株式会社製、型名:S2281)、干渉フィルタFとしては Andover社製、680FS20−25を使用した。増幅器16Bとしては電流入力、電圧出力タイプの増幅器(浜松ホトニクス株式会社製、型名:C2719)、解析手段としては実施例1と同じソフトウェアをインストールしA/Dコンバータを備えるコンピュータを用いた。
【0086】
図10は、コンピュータ18に入力された出力シグナルと周波数解析の結果を示す。実施例4でも、実施例1と同様に符号aで示すようなコンピュータ18に入力された光の強度波形を示すシグナル、および符号bで示すような周波数解析を示すグラフ図が得られた。このように、実施例4でも、複数の周波数の異なる周波成分に対応した複数のピークを得ることができた。
【0087】
以上のように、本発明によれば、一回の測定で複数の波長の異なる光に対する試料の応答特性を求めることができることが示された。
【0088】
[実施例5]
実施例5として、図3(b)に示した構成の分析装置2´を用い、試料としてオキリシス属の植物プランクトンに光を照射し、蛍光を分析した。光源としては、12種類のLEDを用い、各LEDを光源駆動器11の12台のシグナルシンセサイザとそれぞれ接続した。表3に各LEDから照射する単色光の波長(各LEDの中心発光波長)および変調周波数を示す。
【0089】
【表3】

【0090】
また、干渉フィルタとして、それぞれ異なる光を透過させる6種類の干渉フィルタを用い、各光センサの前に干渉フィルタを一つずつ、配置した。6種類の干渉フィルタは、それぞれ、450nmの光を透過させるフィルタ(Andover社製、450FS10−25)、500nmの光を透過させるフィルタ(Andover社製、500FS10−25)、550nmの光を透過させるフィルタ(Andover社製、550FS10−25)、600nmの光を透過させるフィルタ(Andover社製、600FS10−25)、650nmの光を透過させるフィルタ(Andover社製、650FS10−25)、700nmの光を透過させるフィルタ(Andover社製、700FS10−25)である。
【0091】
光センサとしてはシリコンフォトダイオード(United Detector Sensor社製、型名:10DP)、増幅器16Bとしては電源電圧増幅器(浜松ホトニクス株式会社製、型名:C2719)、コンピュータ18としてはA/Dコンバータを備えるコンピュータを用いた。
【0092】
光センサで検出され、増幅されコンピュータに入力された蛍光シグナルについて、試料に照射した光の波長を横軸、検出された蛍光の波長を縦軸にとり、得られた蛍光量ごとにプロットし、コンターマップを作成した。図11は、オキリシス属のプランクトンについて得られたコンターマップである。図11に示すように、本発明に係る分析装置により、植物プランクトンの蛍光特性を示すコンターマップが作成された。なお、試料の測定に要した時間は40秒であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、海苔や布地のような光学的条件が悪い物体や、塗料などの品質分析に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1A】本発明の第1実施態様に係る分析装置の構成図。
【図1B】光源駆動器と光源との接続態様の一例を示す回路図。
【図1C】光源駆動器と光源との別の接続態様を示す回路図。
【図1D】光源駆動器と光源とのさらに別の接続態様を示す回路図。
【図2】前記分析装置において、各光源から照射される単色光、試料に照射される照射光、およびマイクロホンで検出された音の波形を示す図。
【図3A】本発明の第2実施態様に係る分析装置の構成図。
【図3B】第2実施態様に係る分析装置の変形例の構成図。
【図4】本発明の第3実施態様に係る分析装置の構成図
【図5】実施例1の出力シグナルと周波数解析の結果を示す図。
【図6】実施例1の分析により得られた吸収率を示す図。
【図7】実施例1の分析により得られた吸収率を示す図。
【図8】実施例2の分析により得られた吸収率を示す図。
【図9】実施例3の分析により得られた吸収率を示す図。
【図10】実施例4の出力シグナルと周波数解析の結果を示す図。
【図11】実施例5で作成されたコンターマップを示す図。
【符号の説明】
【0095】
1〜3 分析装置
11 光源駆動器(変調光照射手段)
12 光源
14 光音響セル
14B 測定セル
15 マイクロホン(検出器)
15B 光センサ(検出器)
16、16B 増幅器
17 A/Dコンバータ
18 コンピュータ(周波数解析手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる複数の単色光を試料に照射する光源と、
前記複数の単色光をそれぞれ異なる周波数の正弦波で強度変調して前記試料に同時に照射する光変調手段と、
強度変調された前記複数の単色光が前記試料に照射されて発生する蛍光を検出する光センサと、
前記蛍光の強度波形を周波数毎のレベルに分解する周波数解析を行い、前記複数の単色光を強度変調した周波数のレベルをプロットして出力する周波数解析手段と、
を備える分析装置。
【請求項2】
前記光センサは複数配置され、
各光センサと前記試料との間には干渉フィルタがそれぞれ配置され、
各干渉フィルタはそれぞれ異なる波長の光を透過させ、前記試料から発生した蛍光が検出され、
前記周波数解析手段による前記プロットは、前記複数の単色光の波長を第1の軸にとり、検出された蛍光の波長を第2の軸にとり、検出された蛍光の強度波形の周波数解析により得られるレベルを、前記単色光を強度変調した周波数毎に蛍光量としてプロットすることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記干渉フィルタのいずれか一が通過させる光の波長より短い波長の単色光を前記光源が前記試料に照射することを特徴とする請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記周波数解析手段は、フーリエ変換またはウェーブレット変換により前記周波数解析を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記試料は、海苔である請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
前記光源として、複数の発光ダイオードが配置されている請求項1から5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
波長の異なる複数の単色光をそれぞれ異なる周波数の正弦波で強度変調して前記試料に同時に照射し、
強度変調された前記複数の単色光が前記試料に照射されて発生する蛍光を検出し、
前記蛍光の強度波形を周波数毎のレベルに分解する周波数解析をし、前記複数の単色光を強度変調した周波数のレベルをプロットして出力することを特徴とする分析方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−8696(P2009−8696A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265720(P2008−265720)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【分割の表示】特願2007−326666(P2007−326666)の分割
【原出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(593065556)芙蓉海洋開発株式会社 (7)
【Fターム(参考)】