説明

分析装置

【課題】流路の異常に伴う圧力損失を圧力センサを設置せずに測定し、流路状態を評価する手段を備えた分析装置を提供する。
【解決手段】目的成分の検出を行うフローセル202と溶液を導入する流路205・排出する流路209を備えたフローセル方式の検出器において、フローセルまたはフローセルに接続する流路で流路内に導入された気泡が通過するのに要する時間を測定する機構を備え、流路が正常な場合の気泡通過時間との比較から流路の異常の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定内容積を有する容器(フローセル)に測定対象サンプルを含む流体を流すことができる機構と、フローセル中で測定対象サンプルを測定する機構とを備えた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一定内容積を有する容器(フローセル)に測定対象サンプルを含む流体を流すことができる機構と、フローセル中で測定対象サンプルを測定する機構とを備えた分析装置がある。分析装置の測定機構としては、1)サンプルをシースフローと呼ばれる液体で包んで流し、サンプル中に含まれる粒子状物質を光学的に測定するもの(画像を撮影し、当該画像を解析するものや、色の状態を測定するものなど)、例えば尿沈渣分析装置など、2)フローセル中で官能膜と測定対象を接触させ、測定対象成分の濃度に応じた起電力を測定する電解質測定がある。このようなフローセル方式の検出器はバッチ式に比べて、ひとつの測定手段を再利用可能で繰り返し測定できるという特徴がある。このような分析装置には、例えば特許文献2に記載された化学分析装置のようなものがある。特許文献2に記載された化学分析装置では、血液や尿などの検体を検体吸引ノズルでイオン検知器に吸引し、イオン検知器で電解質の定量を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−332590号公報
【特許文献2】特開平10−300651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フローセル方式では、測定対象の溶液を測定部まで輸送し、また排出するための流路が必要である。再現性よく分析を行うためには、溶液が再現性よくフローセル検出部に輸送される必要がある。フローセル流路およびフローセルに接続する流路は、溶液中の成分の付着,流路材の折れ曲がり,流路材の変形等の理由によりその形状が設計時から変化する可能性がある。閉塞や屈曲,溶液成分の付着などの原因により、フローセルまたはフローセルに接続する流路形状が変化すると、溶液が設計意図どおりの流速で流れず検出部に到達する反応液量やタイミングが変化し、再現性低下など分析性能の低下の原因となる。流路状態を監視し正常に保つことが、フローセル方式の検出器にとって一般的な課題である。
【0005】
ここで流路の状態を反映する指標である圧力損失について説明する。流路中の2点間の圧力差である圧力損失は、当該流路に屈曲部や狭隘部等があると増大するため、流路中にこのような変化が生じているかどうかの評価に用いることが可能である。
【0006】
圧力損失を測定して流路性能を評価する方法としては、例えば特許文献1に記載のようなものがある。特許文献1に記載された方法では、圧力センサにより圧力損失を評価している。圧力センサは圧力を測定したい流路に直接接続し、当該点の流体の圧力を測定する。圧力センサは一般に狭隘部等の複雑な流路構造を有している。これをフローセルまたはフローセルに接続された流路内に設置すると、圧力センサ自体が圧力損失の要因となり、正しく目的の圧力を測定することができない。また溶液が圧力センサ内部の流路に入り込み、この溶液成分が圧力センサ内に残留することで、分析値のキャリーオーバ(前回測定の残留物の影響で分析値が正しく得られないこと)の原因となりうる。また流路の圧力損失を測定するための圧力センサは、本来の分析目的に対しては不必要な部品であり、部品点数増加によるコスト増加・故障リスクの増大というデメリットがある。
【0007】
本発明の目的は、流路の圧力損失を、圧力センサを設置せずに測定することができる分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下の通りである。
【0009】
本発明は、フローセル内またはフローセルに接続された流路中での、気泡の通過時間を測定する機構を備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフローセル方式の検出器は、圧力センサを付加せずに圧力損失を測定可能であるため、流路の状態を変えることなく、本来の分析目的に必要な流路構成に対して変更を加えることなく流路状態を評価可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】圧力損失と流路異常の関係について説明した概念図。
【図2】本発明の圧力損失測定機構のうち電流測定による気泡の通過時間測定手段を備えた分析装置の概略図。
【図3】実施例1による流路異常検出の実験結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
流体力学に関する一般的な教科書、例えば「水力学(宮井善弘,木田輝彦,仲谷仁志共著、森北出版)」によると、流路の圧力損失は管摩擦によるものと形状によるものがある。円管内の層流では数式1のハーゲン・ポアズイユの法則で表される。
【0013】
【数1】


ハーゲン・ポアズイユの式
【0014】
数式1において、ΔPは圧力損失、μは溶液の粘度、lは流路長さ、Qは流量、dは管径である。数式1から流量が一定の場合圧力損失は流路の長さに比例する。一方形状のよる圧力損失に対応する損失水頭は一般に数式2で表される。
【0015】
【数2】


形状損失の式
【0016】
数式2においてhは損失水頭でこれに溶液の密度と重力加速度をかけると圧力損失が得られる。ζは損失係数、Vは流速である。フローセルあるいはフローセルに接続された流路の一部に、設計意図外の狭隘部・閉塞部・屈曲部などがあると、正常な流路に対して圧力損失の要因が追加される。図1にこのことを模式的に示す。図1(A)は流路が正常な場合の流路入口部からの距離と圧力の関係、(B)は流路の一部に閉塞部がある場合の流路入口部からの距離と圧力の関係を表す。101,103は流路、102は検出部、104は流路の閉塞部を示す。(A)の場合、流路入口での圧力をP0とし、直管部では圧力損失105が生じるため、検出部での圧力はP1(108)となる。一方(B)の場合、入口での圧力を同じくP0とし直管部で圧力損失に加え、閉塞部104での圧力損失106が追加され、検出部での圧力はP1に比べて低いP2(109)となる。以上に例示したとおり、流路の圧力損失を測定すれば流路の状態を評価することが可能である。気体の状態方程式より、検出部での圧力と気泡の体積は比例する。気泡を一定量導入していれば、気体の体積から圧力損失を算出することが可能である。気泡の体積は気泡の通過時間と流量から算出できるため、結局気泡の通過時間を測定すれば、流路の圧力損失を推算することができる。本発明が対象としている分析装置は、一定内容積を有する容器(フローセル)に測定対象サンプルを含む流体を流すことができる機構と、フローセル中で測定対象サンプルを測定する機構とを備えたものである。測定する機構としては、1)サンプルをシースフローと呼ばれる液体で包んで流し、サンプル中に含まれる粒子状物質を光学的に測定するもの(画像を撮影し、当該画像を解析するものや、色の状態を測定するものなど)、例えば尿沈渣分析装置など、2)フローセル中で化学反応を起こさせ、当該反応を電気的方法や光学的方法などで測定するもの(抗原,抗体反応でサンプルに結合している試薬に設けられた標識体を化学反応,電気化学反応などで発光させ、その発光量を測定する免疫分析装置など)があるが、流体を流して測定するセルを備える分析装置であればどのようなものにも適用可能である。
【0017】
図2は本発明装置の一実施例のうち、気泡の通過時間の検出を流体に流れる電流の測定によって行うものの構成図である。201は電流測定を行うフローセルで、少なくとも2つの電極202,203を備える。電流測定を行うフローセルは、主たる目的成分の測定を行うもの、例えば電解質測定においてはイオン検知電極,電気化学測定においては電気化学測定用電極など、と共通であっても、気泡の通過時間の検出専用のものを設置してもよい。フローセルには、フローセルまで溶液204を送液するための流路205とこれらの溶液を容器206から吸引するためのノズル207が接続部208によって接続されている。また溶液を排出するための流路209とシリンジポンプ210等の流体を送液する手段が設置される。さらに電極に印加する電圧を制御するポテンシオスタットなどの印加電圧制御手段211と、電極部に流れる電流を解析する手段212,得られた結果を処理する演算装置213を備える。
【0018】
シリンジポンプにより溶液を吸引し、あるタイミングでノズルを容器から空中に上昇させる。このときシリンジポンプは一定の速度で吸引し続けており、空気が吸引される。さらに一定時間経過後にノズルを溶液内に再度下降させる。以上の動作により、流路内に溶液,空気(気泡),溶液の順に流体が流れる気液二相流が形成される。検出部に気体と液体の境界部が到達するタイミングで、電極対間に1.2Vの直流電圧を印加する。溶液は電解質を含んでおり、溶液が電極対部を通過するときには電極間に電流が流れる。一方空気は電流が流れないため、電極対部を空気が通過するときには電流値がほぼ0になる。溶液・気泡・溶液の順で電極対部を通過させれば、溶液から空気に切り替わって電流が0になる時点から、空気から溶液に切り替わって再び電流が流れる時点までの時間差と、シリンジの吸引速度から気泡の体積を求めることができる。流路内に導入した空気の大気圧中での体積は、シリンジの吸引速度とノズルが空中に上昇していた時間から算出できる。
【0019】
流路の状態が正常なときにあらかじめ気泡の通過時間を測定しておきこれを基準値として記録しておく。メンテナンス時等に上記の方法により気泡の通過時間を測定し、この通過時間が基準値に対してあらかじめ定めた割合以上に変動した場合は、流路の変化に由来する圧力損失要因が存在する可能性があると判断し、流路の洗浄や交換を促すアラームを表示する。従来ユーザが分析結果から推測していた装置の流路性能について、明確な評価値を表示することが可能となり、装置メンテナンスの効率化を図ることができる。
【0020】
図3は本発明による流路異常の検出の実験例である。図3で横軸は経過時間、縦軸は電極間に流れる電流である。図3の301は流路が正常な状態での測定結果であり、302はフローセルへの入口側流路の一部に折り曲げた部分を作り、流路が閉塞した状態を再現した場合の測定結果である。シリンジの吸引速度は42.5μL/sで一定とし、ノズルを2.35秒間空中に上昇させて100μLの気泡を導入している。図3で303の時点で電圧印加を開始する。この領域304では電極間を電解質を含む溶液が流れているため電流が流れている。電極間に気泡が到達すると、空気は電気伝導度が極めて小さいため電流値が減少し、電極間が完全に空気に置換されると電流は0になる。その後再び溶液が電極間に到達すると、再度電流が流れる(307)。308は電圧印加を終了した時点である。305と306はそれぞれの場合での気泡が電極間を通過していた時間である。流路が正常な場合(A)では気泡の通過時間は約2.2秒であるのに対し、流路に閉塞部がある場合(B)では気泡の通過時間は約2.5秒と0.3秒程度増加した。この通過時間の増加はフローセル上流の圧力損失要因により、電極部通過時の気泡の圧力が低下し、体積が膨張したためである。この実験結果から、本発明の方法によって流路の異常を検出する例を示した。
【0021】
本実施例では気泡はノズルの昇降により導入したが、空気の導入は三方電磁弁の切り替えによって行うこともできる。また本実施例では直流電圧を印加したが、電圧は交流であっても、パルス状の電圧であってもよい。
【0022】
気泡通過時間の測定は電流測定以外にも、以下に挙げるような方法が可能である。
【0023】
光センサを用いる方法では、空気と溶液の吸光度あるいは反射率の相違を利用し、センサ部分を通過している流体がいずれであるかを判断することで、気泡の通過時間を測定する。画像解析による方法では、流路内の画像を撮影し画像解析により通過中の流体が気泡か溶液のいずれであるかを判断することで、気泡の通過時間を測定する。いずれの方法においても、実施例と同様に気泡の通過時間から流路の状態を評価する。気泡通過時間の測定手段については、装置の目的とする分析で使用する方法を流用することが望ましい。例えば電解質や電気化学など電極を用いる検出手段を用いる免疫分析装置では、気泡の通過時間測定は電流測定方式で行うことが望ましい。これは追加的な測定機構を必要としないため、流路構成が複雑にならないこととコストを増加させないためである。
【符号の説明】
【0024】
101,103 流路
102 検出部
104 流路に生じた閉塞部
105 直管部での圧力損失
106 閉塞部での圧力損失
107 流路入口での圧力
108 流路が正常な場合の検出部での圧力
109 流路に閉塞部が生じている場合の検出部での圧力
201 電流測定フローセル
202,203 電極
204 溶液
205 導入用流路
206 溶液用容器
207 ノズル
208 流路接続部
209 排出用流路
210 シリンジポンプ
211 電圧制御手段
212 電流解析手段
213 演算装置
301 流路が正常な場合の気泡導入からの経過時間と電流の関係
302 流路に異常がある場合の気泡導入からの経過時間と電流の関係
303 電圧印加開始時点
304 電極間を溶液が流れている領域
305 流路が正常な場合の気泡通過時間
306 流路に異常がある場合の気泡通過時間
307 電極間を溶液が流れている領域
308 電圧印加終了時点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の内容積を有する容器と、該容器に測定対象サンプルを含む流体を少なくとも流入および流出する流路と、を備えた分析装置において、
前記流路、または前記容器を、通過する気泡の速度を測定する気泡速度計測手段を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の分析装置において、
前記気泡速度計測手段と計測結果を記録する手段を備え、計測された気泡の速度を予め定めた正常値と比較する比較手段と、該比較手段により、計測された気泡の速度が正常値にないと判断された場合は、その旨を報知する報知機構とを備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の分析装置において、
前記気泡速度計測手段は、前記流路内に設置した少なくとも2つの電極間に電圧を印加し、気泡が該電極間を通過するときの電流の変化に基づいて測定するものであることを特徴とする分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の分析装置において、
前記気泡速度計測手段は、前記流路内に設置した光センサにより、気泡が通過するときの光の反射率あるいは吸光度の変化に基づいて測定するものであることを特徴とする分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の分析装置において、
前記気泡速度計測手段は、前記流路内の画像を撮影し、撮影された画像の解析に基づき測定するものであることを特徴とする分析装置。
【請求項6】
請求項1から5に記載の分析装置において、
サンプルの測定に供せられる測定手段の信号を用いて気泡の速度を測定することを特徴とする分析装置。
【請求項7】
請求項1から6に記載の分析装置において、
測定プロセス中の時刻と気泡の有無に関する評価を行い、予め定められた情報との比較により、各々の測定プロセスが正常に行われたか否かに関する情報を測定結果と関連付けて出力することを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−158258(P2011−158258A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17598(P2010−17598)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】