説明

分析装置

【課題】分析パラメータを少しずつ変更しながら分析を繰り返して適切な分析条件を見い出す作業を行う際の、分析者の負担を軽減し作業効率を改善する。
【解決手段】分析パラメータを情報として含む分析条件ファイルに、IDとその下位のバージョン情報とを属性情報として付与する。分析者が目的とするファイルを読み出してパラメータを適宜編集し(S1〜S3)、そのファイルを用いた分析実行指示やファイル保存の指示を行うと(S4、S5でYes)、データベース管理部はバージョン情報を自動的に更新し(S7)、IDは元のままで更新されたバージョン情報を属性として、編集後のパラメータを含む分析条件ファイルをデータベースに新規保存する(S8)。これにより、編集後のパラメータを含む分析条件ファイルが編集前のパラメータを含む分析条件ファイルとは別に確実に保存される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線微小部分析装置などの各種の分析装置に関し、さらに詳しくは、分析装置において分析を遂行するために必要な分析条件をファイルとして保存する際のファイル管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線微小部分析装置(以下、「EPMA」と称す)による元素分析では、加速した電子線を励起線として試料表面に照射し、それによって試料の含有元素の内殻電子の遷移が生じる際に外部に放出される特性X線を波長分散型のX線分光器で検出する。このX線分光器を波長走査することで得られた特性X線スペクトルのピーク波長やX線強度から試料の含有元素の種類を特定する分析方法が定性分析であり、X線強度から試料の含有量を特定する分析方法が定量分析である。また、試料表面上を2次元的に走査しながら、各測定点に対するX線強度を測定することにより、2次元的な元素の分布状況を調べるマッピング分析を行うこともできる。
【0003】
EPMAによる定性分析、定量分析、或いはマッピング分析などの自動分析を実施するには、電子線の加速電圧、照射電流値、分析元素と測定する特性X線の種類、使用するX線分光器(分光結晶)の選択、など、様々な分析パラメータを予め指定する必要がある。分析パラメータの種類は非常に多いため、その組み合わせは膨大な数となり、分析者はその中から、分析目的や試料の種類などに応じて最適な分析条件を試行錯誤的に決定しなければならない。
【0004】
近年、1台の分析装置を様々な分析者が共用する使用方法が一般化しており、さらにまた、分析に係る技術に熟練していないオペレータが分析作業を担うことも多い。そのため、権限を有する分析者が分析装置を用いて試行錯誤的に試験的な分析を繰り返すことにより適切な分析パラメータを決定し、その分析パラメータを分析条件ファイルとして保存しておき、オペレータは試料の種類等に応じて単に分析条件ファイルを選択した上で分析を実施する、というシステム管理が現在広く採用されている。こうした場合、通常、分析条件ファイルは適切な分析条件ID(識別情報)が付与されてHDD等の記憶装置に保存され、その分析条件IDによってファイルは管理される(例えば特許文献1など参照)。
【0005】
上記のように権限を有する分析者が或る試料に対して適切な分析パラメータを決める際には、少しずつ分析パラメータを変化させながら分析を繰り返し、適切な結果が得られる分析パラメータを見い出す作業が行われる。そうした作業においては、分析パラメータを修正する毎にその分析パラメータを保存しておく必要があるが、そのためにはパラメータ修正前とは別の分析条件IDを付与して別の分析条件ファイルとして修正後のパラメータを保存する必要があった。しかしながら、こうした作業は面倒であり、作業効率が悪かった。また、分析者のミス等により、新しい分析条件IDを付与した保存作業を忘れてしまうと修正されたパラメータは記録されず、作業が大幅に遅れる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−329715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、主として、適切な分析条件を決定するために繰り返し分析を行う際の分析者の作業を軽減し、作業効率を改善することができる分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明は、分析者により設定される分析条件の下で試料に対する分析を実行する分析装置において、
a)分析条件を情報として含む分析条件ファイルを、識別情報とさらに下位の識別補助情報とからなるファイル属性情報が付与された状態で保存する記憶手段と、
b)或る識別情報及び識別補助情報が付与されている分析条件ファイルが前記記憶手段から読み出され、その情報内容に変更が加えられて保存が指示されたときに、識別情報を元の状態として識別補助情報を更新し、変更後の情報内容を含む分析条件ファイルを元の分析条件ファイルとは別に保存するファイル管理手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
ここで、識別情報とはIDコードやファイル名などであり、識別補助情報とは或る識別情報が付与された分析条件ファイルの更新状況を示す一種のバージョン情報である。識別補助情報は例えば単純な連続番号でもよいが、日時を含む情報とすると更新の時期などをあとから特定することが容易で利便性が高い。
【0010】
本発明に係る分析装置において、例えば権限を有する分析者は、既に記憶手段に保存されている分析条件ファイルの情報内容(分析パラメータ)の見直しを行う際に、識別情報及び識別補助情報を特定してファイル読み出しを指示する。ファイル管理手段はこの指示に応じて分析条件ファイルを記憶手段から読み出す。分析者がその分析条件ファイルの情報内容を適宜修正してファイル保存の指示を行うと、ファイル管理手段は、識別情報を元の状態として識別補助情報のみを更新し、変更後の情報内容を含む分析条件ファイルを記憶手段に保存する。このときのファイル保存は上書きでなく新規保存であるので、変更後の情報内容を含む分析条件ファイルはその変更前の情報内容を含む分析条件ファイルとは別に、記憶手段の中に存在する。両分析条件ファイルは、識別情報は同一であって識別補助情報が相違する。
【0011】
なお、ファイル管理手段はファイル保存の指示が行われたときのみならず、変更後の情報内容を含む分析条件ファイルを用いた分析の実行が行われたときにもファイル保存が指示されたものとみなすようにするとよい。これにより、実際に分析が実行された際に使用された分析条件ファイルは、分析者による積極的なファイル保存の指示がなくても、自動的に新しい識別補助情報が付与されて保存される。これにより、分析者によるファイルの保存忘れを解消することができる。
【0012】
また、本発明に係る分析装置では、識別情報のほかに識別補助情報を特定して分析条件ファイルを読み出すことが可能であるが、多くの場合には、最も直近に更新された分析条件ファイルが必要である。そこで、本発明に係る分析装置の一態様として、前記ファイル管理手段は、前記識別情報のみの指定により前記記憶手段からの分析条件ファイルの読み出しが指示されたときに、該当する識別情報が付与されたファイルの中で、識別補助情報が最新であるファイルを選択して読み出しを行うようにするとよい。これにより、識別補助情報を指定することなく、最も直近に更新された分析条件ファイルを取得することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る分析装置によれば、例えば分析条件の最適化などを目的として、或る分析条件ファイルに含まれる分析パラメータが修正されたような場合に、その修正後の分析パラメータを含む分析条件ファイルには自動的に更新された識別補助情報が付与されて記憶手段に保存される。そのため、分析パラメータを少しずつ修正しながら分析を遂行するような場合でも、修正された分析パラメータを含む分析条件ファイルを残すために分析者がいちいち識別情報を変更して保存操作を行う必要がなくなる。それ故に、そうした作業を行う分析者の負担が軽減され、作業効率が向上する。また、必要な分析条件ファイルの保存忘れなどのミスも軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例によるEPMAの全体構成図。
【図2】本実施例のEPMAにおける分析条件ファイルの構造を示す概略図。
【図3】本実施例のEPMAにおける分析条件ファイルのファイル属性の一例を示す概念図。
【図4】本実施例のEPMAにおける分析条件ファイル管理処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る分析装置の一実施例であるEPMAについて、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるEPMAの全体構成図である。
【0016】
EPMA分析部1は、分析制御部2による制御の下に、試料に対して電子線を照射し、それに応じて試料から放出されるX線を検出するものである。その検出信号はデータ処理部3に入力され、データ処理部3でX線スペクトルが作成されるとともに、該スペクトルに基づく定性分析や定量分析が実行される。操作部7及び表示部8が接続された中央制御部4は、分析実行に際して分析制御部2に対し分析条件を指示したり、データ処理結果を表示したり、或いは、各種のデータの保存・管理を行うものである。中央制御部4は本発明における特徴的な処理動作を実行するデータベース管理部5を機能として含み、データベース管理部5はHDD等の記憶装置をハードウエアとする分析条件データベース6に対するファイルの読み書きや検索などを実行する。
【0017】
中央制御部4、データ処理部3、及び分析制御部2の全て又はその大部分はパーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該パーソナルコンピュータにインストールされた専用のソフトウエアを動作させることで、それらの機能を具現化するものとすることができる。したがって、後述する特徴的なデータベース管理もソフトウエアの動作により具現化される機能である。
【0018】
図2は分析条件データベース6に保存される分析条件ファイルの構造を簡略化した概念図である。分析条件ファイルは、EPMA分析部1で分析を実行する際に必要な各種の分析パラメータをデータとして含む。分析パラメータとしては、例えば、試料に照射される電子線の加速電圧、その電子線の照射電流値や照射径、分析元素と測定する特性X線の種類と測定波長、使用するX線分光器(分光結晶)の種類、分析位置或いは領域、データ点数、データ1点あたりの測定ピッチや積分時間、などがある。分析条件ファイルを特定するファイル属性情報(メタデータ)としては、識別情報としての分析条件IDと識別補助情報としてのバージョン情報とがある。バージョン情報は同一の分析条件IDが付された異なる分析条件ファイルを特定するための下位のファイル属性情報であり、具体的には、例えば「1.0.0」といった数値情報でもよいし、「200907241800」のように年月日及び時刻を組み合わせた情報でもよい。
【0019】
EPMAでは様々な種類の試料が分析対象となるが、一般的に、その試料の種類(含まれる成分の種類)や分析領域の大きさによって最適な分析条件が相違するから、試料の種類や分析領域の大きさに応じて異なる分析条件IDが付与された分析条件ファイルが分析に利用される。さらに上述したように、同一の分析条件IDが付与され、且つ、バージョン情報が相違する分析条件ファイルが複数存在し得るから、図3に示すように、メタデータは、1つの分析条件ID(例えばID1)に対して複数のバージョン情報(例えばVer.1、Ver.2、…)が対応する関係となる。
【0020】
次に、分析条件の作成や改変を行う権限を付与された分析者(以下、権限分析者と呼ぶ)が分析条件の最適化を行う際にその権限分析者が行う操作(作業)及びデータベース管理部5が実行する処理動作を、図4のフローチャートに従って説明する。
【0021】
まず権限分析者は、操作部7により、使用したい分析条件ファイルの分析条件ID及びバージョン番号を入力する(ステップS1)。後述するようにバージョン番号の入力は必須ではなく、最低限、分析条件IDを入力しさえすればよい。
【0022】
データベース管理部5は上記入力を受けて、指定された分析条件ID及びバージョン番号が付与された分析条件ファイルを検索し、分析条件データベース6から該当ファイルを中央制御部4のワーキングメモリに読み込む(チェックアウトする)(ステップS2)。ステップS1でバージョン番号の入力がなく分析条件IDのみが入力された場合には、データベース管理部5は自動的に最新のバージョン情報が付与された分析条件ファイルを検索して読み出す。
【0023】
分析条件ファイルが中央制御部4のワーキングメモリに読み込まれると、表示部8にはそのファイル中のデータ、つまりは分析パラメータ等が表示される。そこで、権限分析者は必要に応じて適宜、この分析パラメータの数値などを編集する(ステップS3)。この編集作業により、ワーキングメモリ中のデータは変更される。
【0024】
そのあと、データベース管理部5はワーキングメモリに一時記憶されている分析パラメータに則った分析の実行指示があったか否かを判定する(ステップS4)。分析実行指示があった場合には、ステップS4からS6に進み、編集作業により実際にパラメータ変更があったか否かを判定し、パラメータ変更がなければそのまま処理を終了する。なお、分析実行指示により、ワーキングメモリの内容(分析パラメータ)は分析制御部2に転送され、分析制御部2は分析パラメータに従ってEPMA分析部1の各部を制御して分析を遂行する。
【0025】
ステップS6においてパラメータ変更があったと判定されると、データベース管理部5はバージョン情報を更新した上で(ステップS7)、元の分析条件IDと更新後のバージョン情報とを付して、編集後の分析パラメータを含む分析条件ファイルを分析条件データベース6に新たに保存する(チェックインする)(ステップS8)。例えば、バージョン情報が「1.0.0」などの数値情報である場合には、その数値をインクリメントした値を更新後のバージョン情報とする。バージョン情報が日時を用いたものである場合には、内部時計から日時情報を取得してそれを用いてバージョン情報を更新すればよい。
【0026】
ステップS4で分析実行の指示がないと判断した場合には、次に、操作部7を介したファイル保存指示があったか否かを判断し(ステップS5)、保存指示があれば上述したステップS6へと進む。これにより、上述の通り、編集後の分析パラメータを含む分析条件ファイルは、元の分析条件IDと更新後のバージョン情報とが付されて分析条件データベース6に新たに保存されることになる。
【0027】
これに対し、ステップS4で分析実行の指示がないと判断された場合、及び、ステップS6で分析パラメータに変更がないと判断された場合には、ワーキングメモリに読み出された分析条件ファイルは分析条件データベース6に書き戻されることなく処理が終了する。もちろん、この場合でも、チェックアウトされた分析条件ファイル自体は分析条件データベース6に残るから、分析条件データベース6の記憶内容はこの処理実行前と何ら変わらない。
【0028】
以上のように、本実施例のEPMAにおける分析条件データベースの管理手法によれば、既に分析条件IDが付与された分析条件ファイルの内容(分析パラメータ)が変更された場合に、その分析条件ファイルを利用した分析が実行されたりファイル保存の操作がなされたりしただけで、自動的にバージョン情報が更新され、同一分析条件IDで異なるバージョン情報をファイル属性情報として分析条件データベース6に新規に(上書きでなく)保存される。したがって、権限分析者自らが新たな分析条件IDを付与して保存操作を行う必要がなく、権限分析者の負担が軽減され、分析条件を決める作業が効率的に行えるようになる。
【0029】
なお、権限分析者以外のオペレータが分析条件データベース6に保存されている分析条件ファイルを利用した分析を実行したい場合には、通常、分析条件IDのみを入力すれば最新のバージョン情報が付与された分析条件ファイルがワーキングメモリに読み込まれる。また、最新でないバージョン情報が付与された分析条件ファイルを使用したい場合には、分析条件IDと共にバージョン情報も指定してファイル読み出し操作を行えばよい。
【0030】
上記実施例は本発明をEPMAに適用した例について説明したが、本発明は他の各種分析装置に適用可能であることは明らかである。
【符号の説明】
【0031】
1…EPMA分析部
2…分析制御部
3…データ処理部
4…中央制御部
5…データベース管理部
6…分析条件データベース
7…操作部
8…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析者により設定される分析条件の下で試料に対する分析を実行する分析装置において、
a)分析条件を情報として含む分析条件ファイルを、識別情報とさらに下位の識別補助情報とからなるファイル属性情報が付与された状態で保存する記憶手段と、
b)或る識別情報及び識別補助情報が付与されている分析条件ファイルが前記記憶手段から読み出され、その情報内容に変更が加えられて保存が指示されたときに、識別情報を元の状態として識別補助情報を更新し、変更後の情報内容を含む分析条件ファイルを元の分析条件ファイルとは別に保存するファイル管理手段と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分析装置であって、
前記ファイル管理手段は、前記識別情報のみの指定により前記記憶手段からの分析条件ファイルの読み出しが指示されたときに、該当する識別情報が付与されたファイルの中で、識別補助情報が最新であるファイルを選択して読み出しを行うことを特徴とする分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−43403(P2011−43403A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191644(P2009−191644)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】