説明

分枝形態形成のモディファイヤーとしてのMYLK及び使用方法

ヒトMYLK遺伝子は分枝形態形成のモジュレーターとして同定されており、したがってこれらは欠陥分枝形態形成機能に関連する疾患の治療上の標的である。MYLKの活性を調節する作用剤をスクリーニングすることを含む、分枝形態形成のモジュレーターを同定する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
(関連出願への言及)
本出願は、2003年6月19日出願の米国特許仮出願第60/479,781号の優先権を主張するものである。先行出願の内容は、その全体が本明細書中に組み込まれる。
【0002】
(発明の背景)
複数の必須器官(例えば肺、腎臓、リンパ系及び脈管構造)は、液体、気体、栄養分及び廃棄物を輸送及び交換する管状構造の複合的ネットワークから形成されている。これらの複雑に枝分かれしたネットワークは、分枝形態形成(branching morphogenesis)が進化的に保存される過程で発生したもので、その中では、ネットワークの出芽、剪定及び血管形成により連続的に分枝が起こっている。ヒトの胚形成の段階において、血管の発達には2つの過程がある。即ち、前駆細胞タイプから内皮細胞が生まれる血管形成と、既存の血管から新規毛細管が出芽する血管形成(新生)である。
分枝形態形成は、増殖、生存/アポトーシス、移動、浸潤、付着、凝集及び基質リモデリングを含む多くの細胞プロセスを含む。内皮細胞、上皮細胞、及び平滑筋細胞、並びに単球を含め、多種類の細胞が分枝形態形成に寄与している。分枝プロセスを調節する遺伝子経路は分枝組織だけでなく、その他の細胞でも機能する。例えば、特定の単球は、分子構造の形成に直接参画することはないが、血管形成応答を促進することができる。
【0003】
血管形成レベルの増大は、リウマチ様関節炎及び糖尿病性網膜症を含む複数のヒト疾病の病態の主要因であり、固形腫瘍の成長、維持、及び転移の大きな要因である(詳細については、Liotta LA等, 1991 Cell 64:327-336; Folkman J., 1995 Nature Medicine 1:27-31; Hanahan D及びFolkman J, 1996 Cell 86:353-364を参照)。心臓疾患、脳卒中、不妊症、潰瘍及び強皮症を含むその他のヒト疾患において、血管形成不全が顕著である。
休止状態から血管形成活性化への移行には、血管形成の刺激因子と抑制因子間の均衡の調節が必要となる。病理学的な状況によっては、局所的な抑制的制御と血管形成誘導物質の間に不均衡が生じて血管形成が過剰になったり、反対に血管形成が不足したりする。血管形成促進因子と抗血管形成因子の繊細な平衡状態は、細胞外基質、内皮細胞、平滑筋細胞、及びその他多様な細胞間の複雑な相互作用、並びに組織内における酸素需要等の環境因子により調節される。傷や固形腫瘍周囲の酸素の不足(低酸素)は、低酸素症誘発因子α(HIF1α)を含む多数の血管形成因子を調節することにより、血管形成に必要な駆動力となっていると考えられている(Richard DE等, Biochem Biophys Res Commun. 1999 Dec 29;266(3):718-22)。次いでHIF1は、血管内皮増殖因子(VEGF)を含む多数の成長因子の発現を調節する(Connolly DT, J Cell Biochem 1991 Nov;47(3):219-23)。様々なVEGFリガンド及びレセプターが、内皮細胞の増殖、生存、血管浸透性及び出芽、並びにリンパ脈管新生の重要な制御因子である(Neufeld G等, FASEB J 1999 Jan;13(1):9-22; Stacker SA等, Nature Medicine 2001 7:186-191; Skobe M, 等, Nature Medicine 2001 7:192-198; Makinen T,等, Nature Medicine 2001 7:199-205)。
【0004】
最もよく知られている血管形成遺伝子、その生化学的活性、及びそのシグナル伝達経路への組織化は、ヒト、マウス及びゼブラフィッシュの血管形成段階、並びにショウジョウバエ気管の分枝形態形成段階において同様に使用される。従って、ショウジョウバエの気管の発達とゼブラフィッシュの血管の発達は、哺乳動物の血管形成の研究の有用なモデルとなる(Sutherland D等, Cell 1996, 87:1091-101; Roush W, Science 1996, 274:2011; Skaer H., Curr Biol 1997, 7:R238-41; Metzger RJ, Krasnow MA. Science. 1999. 284:1635-9; Roman BL 及びWeinstein BM. Bioessays 2000, 22:882-93)。
平滑筋の収縮は、ミオシン軽鎖のリン酸化によって始まる。これは、カルシウム−カルモジュリンの結合により活性化されるミオシン軽鎖キナーゼ(MYLK)によって触媒される反応である。MYLKは、非筋肉アイソフォーム及び平滑筋アイソフォームの両方に存在し、31のコード化エキソンを差次的に使用することにより、様々なアイソフォームがコードされる(Lazar, V.及びGarcia, J.G.N. (1999) Genomics 57:256-267; Watterson DM等 (1999) J. Cell. Biochem.)。
【0005】
ショウジョウバエ及びゼブラフィッシュなどモデル生物のゲノムを操作及びスクリーニングできると、遺伝子、経路、及び細胞プロセスの顕著な進化的保存の数により、複雑な脊椎動物との直接の関連性を有する生化学プロセスを分析する、強力な手段が提供される。
ゼブラフィッシュとショウジョウバエは共に生活環が短く、正及び逆の遺伝子的ツールが使用可能であることから、分枝形態形成を制御する経路の重要な成分を迅速に同定することができる。遺伝子配列と分枝経路が進化的に保存されていると仮定すると、モデル生物遺伝子のヒトオルソログを使用して血管形成を含む分子形態形成経路を調節することができる。
【0006】
参照した特許、特許出願、公開公報、及びGenbank識別番号における配列情報を含めた本明細書中で引用するすべての参考文献は、その全体が本明細書中に組み込まれる。
【0007】
(発明の概要)
本発明者らは、ゼブラフィッシュで分枝形態形成を改変させる遺伝子を発見し、ヒトにおけるそのオルソログを同定し、本明細書中で以降ミオシン軽鎖キナーゼ(MYLK)と呼ぶ。本発明は、これらの分枝形態形成モディファイヤー遺伝子及びポリペプチドを利用して、分枝形態形成機能及び/又はMYLK機能の欠陥又は不全に関連する疾患の治療に使用できる候補治療剤であるMYLK調節剤を同定する方法を提供する。好ましいMYLK調節剤(modulating agent)は、MYLKポリペプチドに特異的に結合して分枝形態形成機能を修復する。他の好ましいMYLK調節剤は、アンチセンスオリゴマーなど核酸モジュレーターや、たとえば対応する核酸(すなわちDNA又はmRNA)に結合してそれを阻害することによってMYLK遺伝子発現又は生成物の活性を抑制するRNAiである。
【0008】
MYLK調節剤は、MYLKポリペプチド又は核酸との分子相互作用のための任意の都合のよいインビトロ又はインビボのアッセイによって評価することができる。一実施態様では、MYLKポリペプチド又は核酸を含むアッセイ系を用いて候補MYLK調節剤を試験する。対照と比べてアッセイ系の活性に変化を生じさせる作用剤は、候補分枝形態形成調節剤として同定される。このアッセイ系は細胞に基づくものでも、細胞を含まないものでもよい。MYLK調節剤には、MYLK関連タンパク質(たとえばドミナントネガティブ変異体やバイオ治療薬);MYLKに特異的な抗体;MYLKに特異的なアンチセンスオリゴマー及び他の核酸モジュレーター;MYLKと特異的に結合するか相互作用する、又は(例えばMYLK結合パートナーに結合することにより)MYLK結合パートナーと競合する化学剤が含まれる。特定の一実施態様では、キナーゼアッセイを用いて小分子モジュレーターを同定する。特定の実施態様では、スクリーニングアッセイは、結合アッセイ、アポトーシスアッセイ、細胞増殖アッセイ、血管形成アッセイ、低酸素誘発アッセイ、細管形成アッセイ、細胞接着アッセイ、及び出芽アッセイから選択される。
【0009】
本発明の別の実施態様は、アッセイ系は培養細胞又はMYLKを発現する非ヒト動物を含み、アッセイ系により、血管形成を含む分子形態形成における薬剤の影響による変化が検出される。細胞に基づくアッセイにより検出される事象には、細胞増殖、細胞周期、アポトーシス、細管形成、細胞移動、及び低酸素状態への反応が含まれる。細管形成又は細胞移動を検出するアッセイでは、アッセイ系は少なくとも2つの異なる血管形成促進剤を用いた刺激に対する細胞応答を試験する工程を含むことができる。或いは、細管形成又は細胞移動は、起炎性血管形成剤を用いて細胞を刺激することにより検出することができる。特定の実施態様においては、動物に基づくアッセイを、基質移植アッセイ、異種移植アッセイ、中空繊維アッセイ、又は遺伝子組換え腫瘍アッセイから選択する。
【0010】
別の実施態様では、無細胞又は細胞に基づくアッセイで同定された候補分枝形態形成調節剤を、分枝形態形成に関連する活性の変化を検出する二次アッセイ系を使用してさらに試験する。特定の実施態様では、二次アッセイ系は、血管形成に関連する活性の薬剤の影響による変化を検出する。二次アッセイ系には、培養細胞又は非ヒト動物を使用することができる。特定の実施態様では、この二次アッセイ系は、血管形成の増大又は不足、又は固形腫瘍の転移を含む分枝形態形成に関係づけられた疾病又は疾患を有することが事前に確定されている動物を含めた、非ヒト動物を使用する。
【0011】
本発明はさらに、哺乳動物細胞をMYLKポリペプチド又は核酸に特異的に結合する作用剤と接触させることによって、哺乳動物細胞中のMYLK機能及び/又は分枝形態形成を調節する方法を提供する。この作用剤は、小分子モジュレーター、核酸モジュレーター、又は抗体であってよく、分枝形態形成に関連する病状を有することが事前に確定されている哺乳動物に投与することができる。
【0012】
(発明の詳細な説明)
ゼブラフィッシュにおける分枝形態形成のモディファイヤーを同定するために、遺伝子スクリーニングを設計した。本発明者らは、アンチセンス技術に基づくスクリーニングを使用して、その破壊がゼブラフィッシュに血管機能不全を引き起こした遺伝子を同定した。要約すると、実施例にさらに詳細に記載するように、単細胞段階の胚を、予想されるゼブラフィッシュ遺伝子の多数を標的とするアンチセンスモルホリンオリゴヌクレオチド(PMO)で処理した。処理された動物を幼生段階に固定し、アルカリホスファターゼ染色を使用して血管形成を可視化した。ゼブラフィッシュのDR−MYLK(配列番号10)遺伝子を分枝形態形成のモディファイヤーとして同定した。したがって、これらのモディファイヤーの脊椎動物のオルソログ、好ましくはヒトのオルソログであるMYLK遺伝子(すなわち核酸及びポリペプチド)は、癌など欠陥分枝形態形成シグナル伝達経路に関連する病状の治療における魅力的な薬剤標的である。
【0013】
本発明では、MYLK機能を評価するインビトロ及びインビボの方法を提供する。MYLK又はその対応する結合パートナーの変調は、正常状態及び病態における分枝形態形成とそのメンバーとの関連性を理解し、分枝形態形成に関連する病状の診断方法及び治療様式を開発するのに有用である。本発明で提供する方法を使用して、直接的又は間接的に、たとえば酵素(たとえば触媒)活性又は結合活性などのMYLK機能に影響を与えてMYLKの発現を阻害又は亢進することによって作用するMYLK調節剤を同定することができる。MYLK調節剤は、診断、治療、及び製薬の開発に有用である。
【0014】
本明細書で使用する分枝形態形成は、分枝ネットワークの形成に関与する多数の細胞プロセスを含み、そのような細胞プロセスには増殖、生存/アポトーシス、移動、浸潤、接着、凝集及び基質リモデリングが含まれる。本明細書で使用する分枝形態形成に関連する病態は、分枝形態形成が健常な状態の維持に寄与する病態、並びに分枝形態形成を調節することによってその進行に変化をもたらすことができる病態を包含する。
【0015】
本発明の核酸及びポリペプチド
本発明で使用することができるMYLK核酸及びポリペプチドに関連する配列は、GI#16950600(配列番号1)、GI#6950610(配列番号2)、GI#16950612(配列番号3)、GI#16950614(配列番号4)、GI#16950616(配列番号5)、GI#16950618(配列番号6)、GI#16950620(配列番号7)、GI#16950622(配列番号8)、GI#16950624(配列番号9)、ポリペプチド配列はGI#16950611(配列番号11)として、Genbankに開示されている(Genbank識別(GI)番号により参照)。
【0016】
用語「MYLKポリペプチド」とは、完全長のMYLKタンパク質又はその機能的に活性のある断片又は誘導体を言う。「機能的に活性のある」MYLK断片又は誘導体は、抗原活性や免疫原性活性、酵素活性、天然の細胞基質に結合する能力など完全長の野生型MYLKタンパク質に関連する機能活性を1つ又は複数示す。MYLKタンパク質、誘導体及び断片の機能活性は、当業者に周知の様々な方法によって(Current Protocols in Protein Science、1998年、Coligan他編、John Wiley & Sons, Inc.、ニュージャージー州ソマーセット)また以下にさらに述べるようにアッセイすることができる。一実施態様では、例えば細胞に基づくアッセイ又は動物アッセイにおいて、機能的に活性のあるMYLKポリペプチドは、内因性MYLK活性の欠陥を救援する能力を有するMYLK誘導体であり、救援誘導体は同じ種由来でも、異なる種由来でもよい。本発明の目的のために、機能的に活性のある断片には、キナーゼドメインや結合ドメインなどMYLKの構造ドメインを1つ又は複数含む断片も含まれる。タンパク質ドメインは、PFAMプログラムを使用して同定することができる(Bateman A.他、Nucleic Acids Res、1999年、27:260-2)。たとえば、GI#16950611(配列番号11)由来のMYLKのキナーゼドメイン(PFAM00069)は、概ね、アミノ酸残基1464〜1719に位置している。同様に、同じタンパク質の免疫グロブリンドメイン(PF00047)は、概ね、アミノ酸残基47〜108、175〜235、428〜489、528〜585、637〜697、735〜796、1112〜1172、1252〜1312、及び1823〜1884に位置している。MYLKポリペプチドを得る方法も、以下にさらに記載する。一部の実施態様では、好ましい断片は、機能的に活性のある、MYLKの少なくとも25個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも50個、より好ましくは75個、最も好ましくは100個の連続したアミノ酸を含むドメイン含有断片である。さらに好ましい実施態様では、この断片は機能的に活性のあるドメインの全体を含む。
【0017】
用語「MYLK核酸」とは、MYLKポリペプチドをコードするDNA又はRNA分子を言う。好ましくは、このMYLKポリペプチド又は核酸あるいはその断片はヒト由来であるが、ヒトMYLKと少なくとも70%の配列同一性、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは85%、さらに好ましくは90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するオルソログ又はその誘導体でもよい。オルソログの同定方法は当技術分野において既知である。通常、異なる種のオルソログは、1つ以上のタンパク質モチーフの存在及び/又は3次元構造のために、同じ機能を保持している。一般に、オルソログは、通常タンパク質ベイトシーケンスを使用し、BLAST分析のようなシーケンス相同分析により同定される。フォワードBLAST結果のうち最も合致するシーケンスが、リバースBLASTの元のクエリシーケンスを取り出すのであれば、シーケンスを潜在的オルソログとして指定する(Huynen MA及びBork P, Proc Natl Acad Sci、1998年、95:5849-5856; Huynen MA他、Genome Research、2000年、10:1204-1210)。CLUSTAL(Thompson JD他、1994年、Nucleic Acids Res 22:4673-4680)など、多重シーケンス整列のためのプログラムを使用して、オルソログのタンパク質の保存域及び/又は残基をハイライトし、系統樹を作製してもよい。多様種の多重相同シーケンス(例えばBLAST分析により取り出されたもの)を表す系統樹において、2種のオルソログシーケンスは、それら2種のそれ以外の全シーケンスに対し、系統樹中最も接近して現われる。構造のスレッディング、又はタンパク質の折りたたみのその他分析法(例えばProCeryon(バイオサイエンス、オーストリア国ザルツブルク)を使用したもの)により潜在的なオルソログを同定してもよい。進化において、種分化に続いて遺伝子重複が起こるとき、ゼブラフィッシュなど単一種の単一遺伝子は、ヒトなど別の種の複数の遺伝子に対応する場合がある(パラログ)。本明細書において、「オルソログ」という表現は、パラログも含む。対象配列又は対象配列の特定の一部分に関して本明細書中で使用する「パーセント(%)配列同一性」とは、配列のアラインメントを行い、最大のパーセント配列同一性を得るために必要な場合はすべての検索パラメータを初期値に設定したプログラムWU−BLAST−2.0a19(Altschul他、J.Mol.Biol.、1997年、215:403-410;http://blast.wustl.edu/blast/README.html)によって作製されたギャップを導入した後の、対象配列(又はその特定の一部分)中のヌクレオチドやアミノ酸と同一である候補誘導体の配列中のヌクレオチドやアミノ酸の割合として定義される。HSP S及びHSP S2パラメータは動的値であり、プログラム自体により、具体的な配列の組成と、目的配列と比較して検索する個々のデータベースの組成とに応じて確定される。%同一性値は、一致する同一ヌクレオチド又はアミノ酸の数を、パーセント同一性が報告される対象となる配列の長さで割ることによって決定される。「パーセント(%)アミノ酸配列類似性」は、%アミノ酸配列同一性の決定と同じ計算を行うが、同一アミノ酸に加えて保存的アミノ酸置換を含めて算定することによって決定される。
【0018】
保存的アミノ酸置換とは、タンパク質のフォールディングや活性が顕著に影響されないように、あるアミノ酸が類似の特性を有する別のアミノ酸で置換される置換である。互いに置換できる芳香族アミノ酸はフェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンであり、互換性のある疎水性アミノ酸はロイシン、イソロイシン、メチオニン、及びバリンであり、互換性のある極性アミノ酸はグルタミン及びアスパラギンであり、互換性のある塩基性アミノ酸はアルギニン、リジン及びヒスチジンであり、互換性のある酸性アミノ酸はアスパラギン酸及びグルタミン酸であり、互換性のある小さいアミノ酸はアラニン、セリン、スレオニン、システイン及びグリシンである。
【0019】
あるいは、核酸配列のアラインメントは、Smith及びWatermanの局所相同性アルゴリズムによって提供される(Smith及びWaterman、1981年、Advances in Applied Mathematics、2:482-489;database:European Bioinformatics Institute ; Smith及びWaterman、1981年、J.of Molec.Biol.、147:195-197; Nicholas他、1998年、「A Tutorial on Searching Sequence Databases and Sequence Scoring Methods」(www.psc.edu)及びこれに引用される参考文献であるW. R. Pearson、1991年、Genomics、11:635-650)。このアルゴリズムは、Dayhoffによって開発され(Dayhoff:Atlas of Protein Sequences and Structure、M.O.Dayhoff編、第5補遺、3:353-358、National Biomedical Research Foundation、米国ワシントンD.C.)、Gribskovによって正規化された(Gribskov、1986年、Nucl.Acids Res.14(6):6745-6763)スコアマトリックス(scoring matrix)を使用することによって、アミノ酸配列に適用することができる。スコアをつけるのに初期パラメータを用いたSmith−Watermanアルゴリズムを使用することができる(たとえば、ギャップ隙間ペナルティー(gap open penalty)12、ギャップ伸張ペナルティー(gap extension penalty)2)。作成されたデータでは、「一致」値は「配列同一性」を反映している。
【0020】
対象核酸分子から誘導した核酸分子には、MYLKの核酸配列とハイブリダイズする配列が含まれる。ハイブリダイゼーションの緊縮性は、温度、イオン強度、pH、ならびにハイブリダイズ及び洗浄中にホルムアミドなど変性剤を存在させることによって調節することができる。日常的に使用される条件は、容易に入手可能な手順書に記載されている(たとえば、Current Protocol in Molecular Biology、第1巻、第2.10章、John Wiley&Sons, Publishers、1994年;Sambrook他、Molecular Cloning、Cold Spring Harbor、1989年)。一部の実施態様では、本発明の核酸分子は、6×単位強度クエン酸(single strength citrate)(SSC)(1×SSCは0.15MのNaCl、0.015Mのクエン酸Na、pH7.0である)、5×デンハルト溶液、0.05%のピロリン酸ナトリウム及び100μg/mlのニシン精子DNAを含む溶液中で、核酸を含むフィルターを8時間〜終夜、65℃でプレハイブリダイゼーションを行うこと;6×SSC、1×デンハルト溶液、100μg/mlの酵母tRNA及び0.05%のピロリン酸ナトリウムを含む溶液中で、18〜20時間、65℃でハイブリダイゼーションを行うこと、及び;0.1×SSC及び0.1%のSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む溶液で、65℃で1時間フィルターを洗浄する高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、MYLKのヌクレオチド配列を含む核酸分子にハイブリダイズすることができる。
【0021】
他の実施態様では、35%のホルムアミド、5×SSC、50mMのTris-HCl(pH7.5)、5mMのEDTA、0.1%のPVP、0.1%のフィコール、1%のBSA、及び500μg/mlの変性サケ精子DNAを含む溶液中で、核酸を含むフィルターを6時間、40℃で前処理すること;35%のホルムアミド、5×SSC、50mMのTris-HCl(pH7.5)、5mMのEDTA、0.02%のPVP、0.02%のフィコール、0.2%のBSA、100μg/mlのサケ精子DNA、及び10%(重量/体積)のデキストラン硫酸を含む溶液中で、18〜20時間、40℃でハイブリダイゼーションを行うこと;次いで、2×SSC及び0.1%のSDSを含む溶液で2度、1時間55℃で洗浄することを含む、中程度の緊縮性のハイブリダイゼーション条件を使用する。
【0022】
あるいは、20%のホルムアミド、5×SSC、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%のデキストラン硫酸、及び20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、8時間〜終夜、37℃でインキュベートすること;同じ緩衝液中で18〜20時間、ハイブリダイゼーションを行うこと、及び;1×SSCで、約37℃で1時間洗浄することを含む、低い緊縮性の条件を使用することができる。
【0023】
MYLK核酸及びポリペプチドの単離、生成、発現、及びミスエクスプレッション
MYLK核酸及びポリペプチドは、MYLK機能を調節する薬剤の同定及び試験、ならびに分枝形態形成におけるMYLKの関与に関連する他の用途に有用である。MYLK核酸ならびにその誘導体及びオルソログは、利用可能な任意の方法を使用して得ることができる。たとえば、DNAライブラリをスクリーニングすることによって、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用することによって、目的のcDNA又はゲノムDNA配列を単離する技術が、当分野で周知である。一般的に、タンパク質の具体的な使用により、発現、生成、及び精製方法の詳細が規定される。たとえば、スクリーニングして調節剤を探すために使用するタンパク質を生成するには、これらタンパク質の特異的生物活性を保存する方法が必要であるかもしれないが、抗体を産生するためのタンパク質を生成するには、特定のエピトープの構造的な完全性が必要であるかもしれない。スクリーニング又は抗体を産生するために精製すべきタンパク質を発現させるには、特定のタグの付加が必要であるかもしれない(たとえば融合タンパク質の生成)。細胞周期制御や低酸素性応答の関与などMYLK機能を評価するのに使用するアッセイのためのMYLKタンパク質を過剰発現させるには、これらの細胞活動が可能な真核細胞系中での発現が必要であるかもしれない。タンパク質を発現、生成、及び精製する方法は当分野で周知であり、したがって、任意の適切な手段を使用することができる(たとえば、Higgins SJ及びHames BD編、Protein Expression:A Practical Approach、Oxford University Press Inc.、ニューヨーク、1999年;Stanbury PF他、Principles of Fermentation Technology、第2版、Elsevier Science、ニューヨーク、1995年;Doonan S編、Protein Purification Protocols、Humana Press、ニュージャージー、1996年;Coligan JE他、Current Protocols in Protein Science編、1999年、John Wiley&Sons、ニューヨーク)。具体的な実施態様では、組換えMYLKは、欠陥分枝形態形成機能を有することで知られている細胞系で発現される。この組換え細胞は、以下にさらに記載する本発明の細胞に基づくスクリーニングアッセイ系で使用する。
【0024】
MYLKポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を、任意の適切な発現ベクター内に挿入することができる。プロモーター/エンハンサーエレメントを含めて必要な転写シグナル及び翻訳シグナルは、ネイティブMYLK遺伝子及び/又はそのフランキング領域由来のものでよく、また異種性のものでもよい。ウイルス(たとえばワクシニアウイルス、アデノウイルスなど)で感染させた哺乳動物細胞系;ウイルス(たとえばバキュロウイルス)で感染させた昆虫細胞系;酵母ベクターを含む酵母、あるいはバクテリオファージ、プラスミド、又はコスミドDNAで形質転換させた細菌などの微生物など、様々な宿主−ベクター発現系が利用できる。遺伝子産物の発現を変調させ、修飾し、及び/又は特異的にプロセッシングする単離された宿主細胞系を使用することができる。
【0025】
MYLK遺伝子産物を検出するために、発現ベクターは、MYLK遺伝子の核酸に発現可能に連結されたプロモーター、1つ又は複数の複製起点、及び1つ又は複数の選択可能なマーカー(たとえばチミジンキナーゼ活性、抗生物質耐性など)を含むことができる。あるいは、インビトロアッセイ系(たとえば免疫アッセイ)におけるMYLKタンパク質の物理的又は機能的特性に基づいてMYLK遺伝子産物の発現をアッセイすることによって、組換え発現ベクターを同定することもできる。
【0026】
たとえば精製又は検出を促進するために、MYLKタンパク質、断片、又はその誘導体を、任意選択で融合体又はキメラタンパク質産物(すなわち、MYLKタンパク質が異なるタンパク質の異種タンパク質配列にペプチド結合を介して結合されている)として発現させることができる。標準の方法を使用して所望のアミノ酸をコードする適切な核酸配列を互いにライゲートさせ、キメラ産物を発現させることによって、キメラ産物を作製することができる。また、タンパク質合成技術、たとえばペプチド合成機の使用(Hunkapiller他、Nature、1984年、310:105-111)によってキメラ産物を作製することもできる。
【0027】
MYLK遺伝子配列を発現する組換え細胞が同定された後は、標準の方法(たとえばイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、及びゲル排除クロマトグラフィー;遠心分離;溶解度差;電気泳動、精製の文献を引用)を使用して遺伝子産物を単離及び精製することができる。あるいは、標準の方法(たとえば免疫親和性精製)によって、天然源から天然に生じたMYLKタンパク質を精製することができる。タンパク質を得た後は、免疫アッセイ、バイオアッセイ、又は結晶学など他の物理的特性の測定など適切な方法によってこれを定量し、その活性を測定することができる。
【0028】
本発明の方法では、MYLK又は分枝形態形成に関連する他の遺伝子の発現が変化するように(ミスエクスプレッションされるように)操作した細胞を使用することもできる。本明細書中で使用するミスエクスプレッションとは、異所性発現、過剰発現、過少発現、及び無発現(たとえば遺伝子のノックアウト又は通常は正常に引き起こされる発現の遮断による)を包含する。
【0029】
遺伝子改変動物
候補分枝形態形成調節剤の活性を試験するため、又はアポトーシスや細胞増殖など分枝形態形成のプロセスにおけるMYLKの役割をさらに評価するために、MYLKの発現が変化するように遺伝子が改変された動物モデルを、インビボアッセイで使用することができる。好ましくは、変化したMYLKの発現により、正常なMYLK発現を有する対照動物に比べて低減又は上昇した細胞増殖、血管形成、又はアポトーシスのレベルなど、検出可能な表現型がもたらされる。この遺伝子改変動物はさらに、分枝形態形成発現が変化していてもよい(たとえば分枝形態形成ノックアウト)。好ましい遺伝子改変動物は、特に、霊長類、げっ歯類(好ましくはマウス又はラット)などの哺乳動物である。好ましい哺乳動物でない種には、ゼブラフィッシュ、線虫(C.elegans)、及びショウジョウバエが含まれる。好ましい遺伝子改変動物は、染色体外エレメントとして存在する異種核酸をその細胞の一部分内に有するトランスジェニック動物、すなわちモザイク動物(たとえば、Jakobovits、1994年、Curr.Biol.、4:761-763によって記載されている技術参照)、又は異種核酸が生殖系列DNA内(すなわち細胞のほとんど又はすべてのゲノム配列中)に安定に組み込まれているトランスジェニック動物である。異種核酸は、たとえば宿主動物の胚又は胚性幹細胞を遺伝子操作することによって、このようなトランスジェニック動物の生殖系列内に導入される。
【0030】
トランスジェニック動物を作製する方法は当分野で周知である(トランスジェニックマウスには、Brinster他、Proc.Nat.Acad.Sci.USA、82:4438-4442、1985年、どちらもLeder他による米国特許第4,736,866号及び第4,870,009号、Wagner他による米国特許第4,873,191号、ならびにHogan, B.、Manipulating the Mouse Embryo、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー、1986年参照;パーティクルボンバードメントについては、Sandford他による米国特許第4,945,050号参照;トランスジェニックショウジョウバエについては、Rubin及びSpradling、Science、1982年、218:348-53及び米国特許第4,670,388号参照;トランスジェニック昆虫については、Berghammer A.J.他、A Universal Marker for Transgenic Insects、1999年、Nature、402:370-371参照;トランスジェニックゼブラフィッシュについては、Lin S.、Transgenic Zebrafish、Methods Mol Biol.、2000年、136:375-3830参照);魚、両生類卵及び鳥でのマイクロインジェクションについては、Houdebine及びChourrout、Experientia、1991年、47:897-905参照;トランスジェニックラットについては、Hammer他、Cell、1990年、63:1099-1112参照;胚性幹(ES)細胞を培養し、その後、電気穿孔、リン酸カルシウム/DNA沈降、直接注入などの方法を使用してDNAをES細胞に導入することによるトランスジェニック動物の作製には、たとえばTeratocarcinomas and Embryonic Stem Cells, A Practical Approach、E.J.Robertson編、IRL Press、1987年参照)。利用可能な方法に従って非ヒトトランスジェニック動物を作製することができる(Wilmut, I.他、1997年、Nature、385:810-813;PCT国際公開公報WO97/07668号及びWO97/07669号参照)。
【0031】
一実施態様では、このトランスジェニック動物は、好ましくはMYLK発現が検出不可能又は僅かとなるようにMYLK機能の低下をもたらす、内因性MYLK遺伝子の配列中のヘテロ接合性又はホモ接合性の変化を有する「ノックアウト」動物である。ノックアウト動物は通常、ノックアウトする遺伝子の少なくとも一部分を有する導入遺伝子を含むベクターを用いた相同組換えによって作製される。通常、導入遺伝子を機能的に破壊するために、これに欠失、追加、又は置換を導入しておく。この導入遺伝子はヒト遺伝子(たとえばヒトゲノムクローン由来)でもよいが、より好ましくは、トランスジェニック宿主種由来の、ヒト遺伝子のオルソログである。たとえば、マウスゲノム中の内因性MYLK遺伝子を変化させるのに適した相同組換えベクターを構築するためには、マウスMYLK遺伝子を使用する。マウスにおける相同組換えの詳細な方法が利用可能である(Capecchi、Science、1989年、244:1288-1292;Joyner他、Nature、1989年、338:153-156参照)げっ歯類でない哺乳動物及び他の動物のトランスジェニックを作製する手順も、利用可能である(Houdebine及びChourrout、上掲;Pursel他、Science、1989年、244:1281-1288;Simms他、Bio/Technology、1988、6:179-183)。好ましい実施態様では、特定の遺伝子がノックアウトされたマウスなどのノックアウト動物を使用して、ノックアウトされた遺伝子のヒトでの対応物に対する抗体を産生させることができる(Claesson MH他、1994年、Scan J Immunol、40:257-264;Declerck PJ他、1995年、J Biol Chem.、270:8397-400)。
【0032】
別の実施態様では、このトランスジェニック動物は、たとえばMYLKの追加のコピーを導入することによって、又はMYLK遺伝子の内因性コピーの発現を変化させる制御配列を操作可能に挿入することによって、MYLK遺伝子の発現の変化(たとえば発現の増大(異所性の増大を含む)及び低減)をもたらす変化をそのゲノム中に有する「ノックイン」動物である。このような制御配列としては、誘発性であり、組織特異的で構成的なプロモーター及びエンハンサーエレメントが含まれる。このノックインは、ホモ接合性又はヘテロ接合性であることができる。
【0033】
導入遺伝子の発現を制限可能にする選択された系を含む非ヒト動物のトランスジェニックも、作製することができる。作製し得るこのような系の一例は、バクテリオファージP1のcre/loxPリコンビナーゼ系である(Lakso他、PNAS、1992、89:6232-6236;米国特許第4,959,317号)。導入遺伝子の発現を制御するためにcre/loxPリコンビナーゼ系を使用する場合、Creリコンビナーゼと選択されたタンパク質の両方をコードする導入遺伝子を含む動物が必要となる。このような動物は、たとえば、一方が選択されたタンパク質をコードする導入遺伝子を含み、他方がリコンビナーゼをコードする導入遺伝子を含む2匹のトランスジェニック動物を交配させることによる「ダブル」トランスジェニック動物を作製することによって、提供することができる。リコンビナーゼ系の別の例は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のFLPリコンビナーゼ系である(O'Gorman他、1991年、Science、251:1351-1355;米国特許第5,654,182号)。好ましい実施態様では、導入遺伝子の発現を制御するため、また同一細胞内でのベクター配列が順次削除されるように、Cre-LoxP及びFlp-Frtの両方が同一系内で使用される(Sun X他、2000年、Nat Genet、25:83-6)。
【0034】
遺伝学の研究において欠陥分枝形態形成機能に関係する疾病及び疾患の動物モデルとして、また以下に記載するスクリーニングで同定されたものなど候補治療剤のインビボ試験のために、遺伝子改変動物を使用して分枝形態形成をさらに解明することができる。この候補治療剤をMYLK機能が変化した遺伝子改変動物に投与し、表現型の変化を、偽薬による処置を与えた遺伝子改変動物及び/又は候補治療剤を与えたMYLK発現が変化していない動物などの適切な対照動物と比較する。
【0035】
MYLK機能が変化した上述の遺伝子改変動物に加えて、欠陥分枝形態形成機能(及びそれ以外は正常なMYLK機能)を有する動物モデルを本発明の方法において使用することができる。たとえば、以下に記載するインビトロアッセイのうちの1つで同定された候補分枝形態形成調節剤の活性をインビボで評価するために、分枝形態形成ノックアウトマウスを使用することができる。好ましくは、候補分枝形態形成調節剤を分枝形態形成機能に欠陥がある細胞を有するモデル系に投与した場合、モデル系において検出可能な表現型の変化がもたらされ、これにより、分枝形態形成機能が修復されている、すなわち細胞が正常な分枝形態形成を示していることが示される。
【0036】
調節剤
本発明は、MYLKの機能及び/又は分枝形態形成と相互作用し及び/又はこれを調節する作用剤を同定する方法を提供する。本方法により同定された調節剤もまた本発明の一部である。このような作用剤は、分枝形態形成に関連する様々な診断及び治療用途、ならびにMYLKタンパク質及び分枝形態形成におけるその寄与のより詳しい分析に有用である。したがって、本発明はまた、MYLK相互作用剤又は調節剤を投与することによってMYLK活性を特異的に調節する工程を含む、分枝形態形成を調節する方法も提供する。
【0037】
ここで使用する「MYLK調節剤」とは、MYLK機能を調節する任意の薬剤、例えば、MYLKと相互作用してMYLK活性を阻害又は増強するか、或いは正常なMYLK機能にその他の影響を与える薬剤である。MYLK機能への影響は、転写、タンパク質発現、タンパク質の局在化、細胞活性又は細胞外活性を含め、いかなるレベルでもよい。好ましい実施態様では、MYLK調節剤はMYLKの機能を特異的に調節する。表現「特異的調節剤」、「特異的に調節する」などは、本明細書中では、MYLKポリペプチド又は核酸に直接結合し、好ましくはMYLKの機能を阻害、増強、又は他の形で変化させる調節剤を言うために使用する。また、これらの用語は、(たとえば、MYLKの結合パートナーと、又はタンパク質/結合パートナー複合体と結合してMYLK機能を変化させることによって)MYLKと結合パートナー、基質、又はコファクターとの相互作用を変化させる調節剤も包含する。さらに好ましい実施態様では、MYLK調節剤は分枝形態形成のモジュレーターであり(例えば分枝形態形成機能を回復させる及び/又は上方制御する)、よって分枝形態形成調節剤でもある。
【0038】
好ましいMYLK調節剤には、小分子化合物;MYLK相互作用タンパク質;及びアンチセンスやRNA阻害剤などの核酸調節剤が含まれる。調節剤を、たとえば組合せ療法などにおけるような他の活性成分及び/又は適切な担体や賦形剤を含んでもよい組成物として、薬剤組成物中に配合してもよい。化合物を配合又は投与する技術は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、ペンシルベニア州イーストン、第19版に出ている。
【0039】
小分子モジュレーター
小分子は多くの場合、酵素機能を有し及び/又はタンパク質相互作用ドメインを含むタンパク質の機能を調節することが好ましい。当分野で「小分子」化合物と呼ばれる化学剤は通常、分子量が10,000まで、好ましくは5,000まで、より好ましくは1,000まで、最も好ましくは500ダルトンまでの有機非ペプチド分子である。このクラスのモジュレーターには、化学的に合成した分子、たとえばコンビナトリアル化学ライブラリからの化合物が含まれる。合成化合物は、既知又は推定MYLKタンパク質の特性に基づいて合理的に設計又は同定する、あるいは化合物ライブラリをスクリーニングすることによっても同定することができる。このクラスの代わりの適切なモジュレーターは、天然産物、特に、やはり化合物ライブラリをスクリーニングしてMYLK変調活性を探すことによって同定することができる、植物や真菌類など生物由来の二次代謝産物である。化合物を作製して得る方法は、当分野で周知である(Schreiber SL、Science、2000年、151:1964-1969; Radmann J及びGunther J、Science、2000、151:1947-1948)。
【0040】
以下に記載するスクリーニングアッセイから同定された小分子モジュレーターをリード化合物として使用することができ、それから候補臨床化合物を設計し、最適化し、合成することができる。このような臨床化合物は、分枝形態形成に関連する病状を処置するのに有用であるかもしれない。候補小分子調節剤の活性は、以下にさらに記載する反復性の二次的な機能検証、構造決定、及び候補モジュレーターの改変及び試験によって、数倍改善されるかもしれない。さらに、候補臨床化合物は、臨床的及び薬理的特性に特に注意を払って作製される。たとえば、活性を最適化し、製薬開発における毒性を最小限に抑えるために、試薬を誘導体化し、インビトロ及びインビボアッセイを使用して再スクリーニングすることができる。
【0041】
タンパク質モジュレーター
特異的なMYLK相互作用タンパク質は、分枝形態形成及び関連疾患に関連する様々な診断上及び治療上の用途、ならびに他のMYLK調節剤の検証アッセイにおいて有用である。好ましい実施態様では、MYLK相互作用タンパク質は、転写、タンパク質の発現、タンパク質の局在化、細胞活性又は細胞外活性を含めた正常なMYLK機能に影響を与える。別の実施態様では、MYLK相互作用タンパク質は、癌など分枝形態形成に関連する疾患に関連性があるので、MYLKタンパク質の機能に関する情報を検出及び提供するのに有用である(たとえば診断上の手段用)。
【0042】
MYLK相互作用タンパク質は、MYLK発現、局在化、及び/又は活性を調節するMYLK経路のメンバーなど内因性のもの、すなわちMYLKと自然に遺伝学的又は生化学的に相互作用するものであってよい。MYLKモジュレーターには、MYLK相互作用タンパク質及びMYLKタンパク質自体のドミナントネガティブの形が含まれる。酵母ツーハイブリッド及び変異体スクリーニングにより、内因性MYLK相互作用タンパク質を同定する好ましい方法が提供されている(Finley, R.L.他、1996年、DNA Cloning-Expression Systems:A Practical Approach、Glover D.及びHames B.D編、Oxford University Press、英国オックスフォード、ページ169-203; Fashema SF他、Gene、2000年、250:1-14; Drees BL、Curr Opin Chem Biol、1999、3:64-70; Vidal M及びLegrain P、Nucleic Acids Res、1999年、27:919-29;米国特許第5,928,868号)。タンパク質複合体を解明するための好ましい代替方法は、質量分析である(たとえば、Pandley A及びMann M、Nature、2000年、405:837-846;Yates JR 3rd、Trends Genet、2000年、16:5-8の総説)。
【0043】
MYLK相互作用タンパク質は、MYLKに特異的な抗体やT細胞抗原受容体などの外因性タンパク質でよい(たとえば、Harlow及びLane、1988年、Antibodies, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory; Harlow及びLane、1999年、Using antibodies:a laboratory manual.、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー: Cold Spring Harbor Loboratory Press参照)。MYLK抗体については以下でさらに論じる。
【0044】
好ましい実施態様では、MYLK相互作用タンパク質はMYLKタンパク質に特異的に結合する。好ましい代替実施態様では、MYLK調節剤はMYLK基質、結合パートナー、又はコファクターと結合する。
【0045】
抗体
別の実施態様では、このタンパク質モジュレーターはMYLKに特異的な抗体アゴニスト又はアンタゴニストである。この抗体は治療上及び診断上の用途を有しており、MYLKモジュレーターを同定するスクリーニングアッセイで使用することができる。また、様々な細胞応答ならびにMYLKの通常のプロセッシング及び成熟を担当するMYLK経路の部分の分析においても、この抗体を使用することができる。
【0046】
周知の方法を使用してMYLKポリペプチドと特異的に結合する抗体を作製することができる。好ましくは、この抗体はMYLKポリペプチドの哺乳動物オルソログ、より好ましくはヒトMYLKに、特異的である。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAbs)、ヒト化又はキメラ抗体、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、FAb発現ライブラリによって産生された断片、抗イディオタイプ(抗-Id)抗体、及び上記のうちいずれかのエピトープ結合断片であってよい。たとえば、MYLKのアミノ酸配列に対する抗原性を探すための通常のMYLKポリペプチドスクリーニングによって、又はこれに対するタンパク質の抗原性領域を選択する理論的な方法を施用することによって、特に抗原性であるMYLKのエピトープを選択することができる(Hopp及びWood、1981年、Proc. Nati.Acad. Sci. U.S.A.、78:3824-28;Hopp及びWood、1983年、Mol. Immunol.、20:483-89; Sutcliffe他、1983年、Science、219:660-66)。記載の標準手順によって、10−1、好ましくは10−1〜1010−1、又はそれより強力な親和性を有するモノクローナル抗体を作製することができる(Harlow及びLane、上掲;Goding、1986年、Monoclonal Antibodies: Principles and Practice(第2版)、Academic Press、ニューヨーク;米国特許第4,381,292号;米国特許第4,451,570号;米国特許第4,618,577号)。MYLKの粗細胞抽出物又は実質的に精製されたその断片に対する抗体を作製することができる。MYLK断片を使用する場合は、これらは、好ましくはMYLKタンパク質の少なくとも10個、より好ましくは少なくとも20個の連続したアミノ酸を含む。特定の実施態様では、MYLKに特異的な抗原及び/又は免疫原は、免疫応答を刺激する担体タンパク質に結合している。たとえば、対象ポリペプチドはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体に共有結合しており、このコンジュゲートは免疫応答を増強させるフロイント完全アジュバント中で乳化されている。従来のプロトコルに従って実験ウサギやマウスなど適切な免疫系を免疫化する。
【0047】
固定した対応するMYLKポリペプチドを使用した固相酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)など適切なアッセイによって、MYLKに特異的な抗体の存在をアッセイした。ラジオイムノアッセイや蛍光アッセイなど他のアッセイを使用することもできる。
【0048】
異なる動物種由来の異なる部分を含む、MYLKポリペプチドに特異的なキメラ抗体を作製することができる。たとえば、抗体の生物活性はヒト抗体由来であり、その結合特異性はネズミ断片由来となるように、ヒト免疫グロブリン定常領域をネズミmAbの可変領域に連結させてもよい。それぞれの種由来の適切な領域をコードする遺伝子を継ぎ合わせることによってキメラ抗体を作製する(Morrison他、Proc. Natl. Acad. Sci.、1984、81:6851-6855; Neuberger他、Nature、1984、312:604-608;Takeda他、Nature、1985、31:452-454)。キメラ抗体の一形態であるヒト化抗体は、組換えDNA技術によって(Riechmann LM他、1988年、Nature、323:323-327)マウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒトフレームワーク領域及び定常領域のバックグラウンドに移植することによって(Carlos, T.M.、J.M.Harlan、1994年、Blood、84:2068-2101)作製することができる。ヒト化抗体は約10%のネズミ配列及び約90%のヒト配列を含み、それにより、抗体特異性を保持したままで免疫原性がさらに低下又は排除される(Co MS及びQueen C.、1991年、Nature、351:501-501; Morrison SL.、1992年、Ann. Rev. Immun.、10:239-265)。ヒト化抗体及びそれらを産生させる方法は当分野で周知である(米国特許第5,530,101号、第5,585,089号、第5,693,762号、及び第6,180,370号)。
【0049】
アミノ酸架橋によってFv領域の重鎖断片と軽鎖断片とを連結させて形成した組換え単鎖ポリペプチドであるMYLK特異的単鎖抗体を、当分野で周知の方法によって産生することができる(米国特許第4,946,778号;Bird、Science、1988年、242:423-426; Huston他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1988年、85:5879-5883; Ward他、Nature、1989、334:544-546)。
【0050】
抗体を産生するための他の適切な技術は、リンパ球をインビトロで、抗原ポリペプチド、又は代わりにファージや類似のベクター中の選定抗体ライブラリに曝すことを含む(Huse他、Science、1989年、246:1275-1281)。本明細書中で使用するT細胞抗原受容体は、抗体モジュレーターの範囲内に含まれる(Harlow及びLane、1988年、上掲)。
【0051】
本発明のポリペプチド及び抗体は、改変して又は改変せずに使用することができる。多くの場合、検出可能なシグナルをもたらす基質又は標的タンパク質を発現する、細胞にとって毒性である基質を共有結合又は非共有結合のどちらかによって結合させることによって抗体を標識する(Menard S他、Int J.Biol Markers、1989、4:131-134)。幅広い種類の標識及びコンジュゲーション技術が知られており、科学文献及び特許文献のどちらにも広く報告されている。適切な標識には、放射性核種、酵素、基質、コファクター、阻害剤、蛍光部分(moiety)、蛍光発光ランタニド金属、化学発光部分、生物発光部分、磁気粒子などが含まれる(米国特許第3,817,837号;第3,850,752号;第3,939,350号;第3,996,345号;第4,277,437号;第4,275,149号;第4,366,241号)。また、組換え免疫グロブリンを産生させてもよい(米国特許第4,816,567号)。膜貫通毒素タンパク質とコンジュゲートさせることによって細胞質ポリペプチドに対する抗体をその標的に送達し到達させることができる(米国特許第6,086,900号)。
【0052】
患者で治療的に使用する場合は、可能な場合は標的部位に非経口的投与によって、又は静脈投与によって本発明の抗体を投与する。臨床研究によって治療上有効な用量及び投与計画を決定する。通常、投与する抗体の量は患者の重量1kgあたり約0.1mg〜約10mgである。非経口投与には、薬学的に許容されるベヒクルを含む単位用量の注射可能な形態(たとえば溶液、懸濁液、乳濁液)で抗体を配合する。このようなベヒクルは本質的に無毒性で治療作用がない。例は、水、生理食塩水、リンゲル溶液、ブドウ糖溶液、及び5%のヒト血清アルブミンである。また、不揮発性油、オレイン酸エチル、又はリポソーム担体などの非水性ベヒクルを使用してもよい。ベヒクルには、等張性や化学的安定性を高める又は他の形で治療の可能性を高める緩衝剤や保存料など少量の添加剤が含まれ得る。このようなベヒクル中の抗体濃度は、通常約1mg/ml〜約10mg/mlである。免疫療法的な方法は文献にさらに記載されている(米国特許第5,859,206;国際公開公報WO0073469号)。
【0053】
核酸モジュレーター
他の好ましいMYLK調節剤としては、一般的にMYLK活性を阻害するアンチセンスオリゴマーや二本鎖RNA(dsRNA)などの核酸分子が含まれる。好ましい核酸モジュレーターは、DNAの複製、転写、タンパク質翻訳部位へのMYLK RNAの転位、MYLK RNAからのタンパク質の翻訳、MYLK RNAをスプライシングして1つ又は複数のmRNA種を得ること、又はMYLK RNAに関与し又はそれによって促進され得る触媒活性など、MYLK核酸の機能を妨げる。
【0054】
一実施態様では、このアンチセンスオリゴマーは、好ましくは5’非翻訳領域に結合することによってMYLK mRNAと結合して、翻訳を阻止するのに十分相補的なオリゴヌクレオチドである。MYLKに特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは少なくとも6〜約200個の範囲のヌクレオチドである。一部の実施態様では、このオリゴヌクレオチドは、好ましくは少なくとも10、15、又は20ヌクレオチド長である。他の実施態様では、このオリゴヌクレオチドは、好ましくは50未満、40、又は30ヌクレオチド長である。このオリゴヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNA、あるいはそのキメラ混合物や誘導体又はそれを改変した変形であり得る。このオリゴヌクレオチドの塩基部分、糖部分、又はリン酸主鎖を改変してもよい。このオリゴヌクレオチドは、ペプチド、細胞膜を横切る輸送を促進する作用剤、ハイブリダイゼーションによってトリガされる切断剤、インターカレーション剤など他の付属基を含んでいてもよい。
【0055】
別の実施態様では、このアンチセンスオリゴマーはホスホチオエートモルホリノオリゴマー(PMO)である。PMOは、それぞれがモルホリンの六員環に結合している4種の遺伝子塩基(A、C、G、又はT)のうちの1つを含む、4種の異なるモルホリノサブユニットから組み立てられている。これらサブユニットのポリマーは、非イオン性のホスホジアミデートサブユニット間の連結によって結合されている。PMO及び他のアンチセンスオリゴマーの詳細な作製方法及び使用方法は、当分野で周知である(たとえば、国際公開公報WO99/18193号;Probst JC、Antisense Oligodeoxynucleotide and Ribozyme Design, Methods.、2000年、22(3):271-281;Summerton J及びWeller D.、1997年、Antisense Nucleic Acid Drug Dev.、7:187-95;米国特許第5,235,033号;米国特許第5,378,841号参照)。
【0056】
好ましい代替MYLK核酸モジュレーターは、RNA干渉(RNAi)を媒介する二本鎖RNA種である。RNAiは、動物及び植物における配列特異的な翻訳後の遺伝子サイレンシングプロセスであり、サイレンシングされる遺伝子と相同の配列をもつ二本鎖RNA(dsRNA)によって開始される。線虫、ショウジョウバエ、植物、及びヒトで遺伝子をサイレンシングするためのRNAiの使用に関する方法は、当分野で周知である(Fire A他、1998年、Nature、391:806-811; Fire, A.、Trends Genet.、15、358-363、1999年; Sharp, P.A.、RNA interference 2001.、Genes Dev.、15、485-490、2001年; Hammond, S.M.他、Nature Rev.Genet.、2、110-1119、2001年;Tuschl, T.、Chem.Biochem.、2、239-245、2001年;Hamilton, A.他、Science、286、950-952、1999年;Hammond, S.M.他、Nature、404、293-296、2000年;Zamore, P.D.他、Cell、101、25-33、2000年;Bernstein, E.他、Nature、409、363-366、2001; Elbashir, S.M.他、Genes Dev.、15、188-200、2001年;国際公開公報WO0129058号;国際公開公報WO9932619号;Elbashir SM他、2001年、Nature、411:494-498)。
【0057】
核酸モジュレーターは一般的に、研究試薬、診断薬、治療薬として使用される。たとえば、遺伝子の発現を厳密な特異性で阻害することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、しばしば特定の遺伝子の機能を解明するのに使用される(たとえば、米国特許第6,165,790号参照)。また、核酸モジュレーターは、たとえば生体経路の様々なメンバーの機能を識別するためにも使用される。たとえば、アンチセンスオリゴマーは、病態の動物及び人の処置における治療的部分として利用されてきており、安全かつ効果的であることが数々の臨床治験で実証されてきた(Milligan JF他、Current Concepts in Antisense Drug Design、J Med、Chem.、1993年、36:1923-1937;Tonkinson JL他、Antisense Oligodeoxynucleotides as Clinical Therapeutic Agents、Cancer Invest.、1996年、14:54-65)。したがって、本発明の一側面では、分枝形態形成におけるMYLKの役割、及び/又はMYLKとこの経路の他のメンバーとの関係をさらに解明するためのアッセイで、MYLKに特異的な核酸モジュレーターを使用する。本発明の別の側面では、分枝形態形成に関連する病態を処置する治療剤として、MYLKに特異的なアンチセンスオリゴマーを使用する。
【0058】
ゼブラフィッシュは、アンチセンスオリゴマーを用いた分枝形態形成の研究に特に有用なモデルである。例えば、PMOを使用してゼブラフィッシュの胚における1以上の遺伝子をインビボで選択的に不活性化する。1〜16の細胞段階のゼブラフィッシュにPMOを注入することによって、ショウジョウバエのスクリーニングに現れた候補標的をこの脊椎動物モデル系において確認する。本発明の別の側面では、PMOを使用してゼブラフィッシュのゲノムをスクリーニングすることにより分枝形態形成の他の治療的モジュレーターを同定する。本発明のさらに別の側面では、MYLK特性のアンチセンスオリゴマーを治療剤として使用することにより、分枝形態形成に関連する病態を治療する。
【0059】
アッセイ系
本発明は、MYLK活性の特異的なモジュレーターを同定するアッセイ系及びスクリーニング方法を提供する。本明細書中で使用する「アッセイ系」とは、具体的な事象を検出及び/又は測定するアッセイを実施してその結果を分析するのに必要なすべての構成要素を包含する。一般的に、一次アッセイを使用して、MYLK核酸又はタンパク質に関するモジュレーターの特異的な生化学的効果又は分子効果を同定又は確認する。一般的に、二次アッセイでは、一次アッセイによって同定されたMYLK調節剤の活性がさらに評価され、この調節剤が分枝形態形成に関連する方式でMYLKに影響を与えることが確認されることもある。場合によっては、MYLKモジュレーターを直接二次アッセイで試験する。
【0060】
好ましい実施態様では、スクリーニング方法は、候補剤が存在しなければスクリーニング方法で検出される特定の分子事象に基づく対照活性(たとえばキナーゼ活性)が系によってもたらされる条件下で、MYLKポリペプチド又は核酸を含む適切なアッセイ系を候補剤と接触させることを含む。作用剤の影響を受ける活性と対照活性との統計的に有意な差により、この候補剤がMYLK活性を、したがって分枝形態形成を調節することが示される。アッセイに使用するMYLKポリペプチド又は核酸は、上述の核酸又はポリペプチドのいずれを含んでもよい。
【0061】
一次アッセイ
一般的に、試験するモジュレーターの種類によって一次アッセイの種類が決まる。
【0062】
小分子モジュレーター用の一次アッセイ
小分子モジュレーターには、候補モジュレーターを同定するためにスクリーニングアッセイを使用する。スクリーニングアッセイは、細胞に基づくものでもよく、またこの標的タンパク質に関連する生化学的反応を再度引き起こさせる又は保持する無細胞系を使用してもよい(Sittampalam GS他、Curr Opin Chem Biol、1997年、1:384-91及び付随の参考文献に総説がある)。本明細書中で使用する用語「細胞に基づく」とは、生細胞、死滅細胞、又は膜分画、小胞体分画、ミトコンドリア分画など特定の細胞分画を使用したアッセイを言う。用語「無細胞」とは、実質的に精製されたタンパク質(内因性又は組換えによって生成された)、部分的に精製した又は粗細胞抽出物を使用したアッセイを包含する。スクリーニングアッセイでは、タンパク質−DNA相互作用、タンパク質−タンパク質相互作用(たとえば受容体−リガンド結合)、転写活性(たとえばレポーター遺伝子)、酵素活性(たとえば基質の特徴を介するもの)、セカンドメッセンジャーの活性、免疫原性、及び細胞形態や他の細胞性特徴の変化を含めた様々な分子事象を検出することができる。適切なスクリーニングアッセイでは、蛍光、放射活性、比色、分光光度、及び電流滴定を含めた広範囲の検出方法を使用して、検出する具体的な分子事象の読出しを行うことができる。
【0063】
通常、細胞に基づくスクリーニングアッセイには、MYLKを組換えによって発現する系及び個々のアッセイで要求される任意の補助タンパク質が必要である。組換えタンパク質を生じさせる適切な方法では、関連する生物活性を保持しており、活性を最適化してアッセイの再現性を保証するのに十分な純度のタンパク質が、十分な量で生成される。酵母ツーハイブリッドスクリーニング、変異体スクリーニング及び質量分析は、タンパク質−タンパク質相互作用を決定し、タンパク質複合体を解明する好ましい方法を提供する。ある種の用途では、小分子モジュレーターを同定するスクリーニングにMYLK相互作用タンパク質を使用する場合、MYLKタンパク質に対する相互作用タンパク質の結合特異性を、基質による処理(たとえば候補MYLKに特異的に結合する作用剤の、MYLK発現性細胞におけるネガティブエフェクターとして機能する能力)、結合平衡定数(通常少なくとも約10−1、好ましくは少なくとも約10−1、より好ましくは少なくとも約10−1)、免疫原性(たとえばマウス、ラット、ヤギ又はウサギなどの異種宿主中でMYLKに特異的な抗体を誘発する能力)など様々な周知の方法によってアッセイすることができる。酵素及び受容体について、結合はそれぞれ基質及びリガンドによる処理によってアッセイすることができる。
【0064】
スクリーニングアッセイでは、MYLKポリペプチド、その融合タンパク質、又はこのポリペプチドもしくは融合タンパク質を含む細胞又は膜に特異的に結合する、あるいはその活性を調節する、候補剤の能力を測定することができる。MYLKポリペプチドは、完全長のものでも、また機能的なMYLK活性を保持しているその断片でもよい。MYLKポリペプチドは、検出又は固定用のペプチドタグあるいは別のタグなど別のポリペプチドに融合させてもよい。MYLKポリペプチドは、好ましくはヒトMYLK、あるいは上記のようなそのオルソログ又は誘導体である。好ましい実施態様では、スクリーニングアッセイで、MYLKと内因性タンパク質、外因性タンパク質、又はMYLKに特異的な結合活性を有する他の基質などの結合標的との相互作用の候補剤に基づく変調を検出し、これを使用して正常なMYLK遺伝子機能を評価することができる。
【0065】
MYLKモジュレーターを探すためのスクリーニングに適合させることのできる適切なアッセイ様式は、当分野で周知である。好ましいスクリーニングアッセイはハイスループット又はウルトラハイスループットであり、したがって、リード化合物用の化合物ライブラリをスクリーニングする、自動化された費用効果の高い手段を提供する(Fernandes PB、Curr Opin Chem Biol、1998年、2:597-603; Sundberg SA、Curr Opin Biotechnol、2000年、11:47-53)。好ましい一実施態様では、スクリーニングアッセイで、蛍光偏光、時間分解蛍光、蛍光共鳴エネルギー移動を含めた蛍光技術を使用する。これらの系は、色素で標識した分子から放出されたシグナルの強度がそのパートナー分子との相互作用に依存する、タンパク質−タンパク質又はDNA−タンパク質相互作用をモニターする手段を提供する(たとえば、Selvin PR、Nat Struct Biol、2000年、7:730-4;Fernandes PB、上掲;Hertzberg RP及びPope AJ、Curr Opin Chem Biol、2000年、4:445-451)。
【0066】
候補MYLK及び分枝形態形成モジュレーターを同定するために様々な適切なアッセイ系を使用することができる(例えば、特に、米国特許第6,165,992号(キナーゼアッセイ)、同第5,550,019号及び6,133,437号(アポトーシスアッセイ)、同第5,976,782号、6,225,118号及び6,444,434号(血管形成アッセイ))。好ましい特異的なアッセイを以下に詳述する。
【0067】
プロテインキナーゼは、膜関連か、又は細胞内の重要なシグナル伝達タンパク質であり、タンパク質基質におけるアデノシン三リン酸(ATP)からセリン、スレオニン、又はチロシン残基へのガンマリン酸の伝達を触媒する。キナーゼ活性のアッセイには[ガンマ−32P又は−33P]ATPからの伝達をモニターするラジオアッセイが頻繁に使用される。例えば、p56(lck)キナーゼ活性のシンチレーションアッセイは、[ガンマ−33P]ATPからビオチン化したペプチド基質へのガンマリン酸の転移をモニターする;基質はシグナルを伝達するストレプトアビジン被覆ビーズに捕らえられる(Beveridge M他、J Biomol Screen、(2000) 5:205-212)。このアッセイはシンチレーション近接アッセイ(SPA)を使用する。SPAにおいては、SPAビーズの表面に拘束された受容体に結合したラジオリガンドのみが、内部に固定化されたシンチラントによって検出され、それにより自由リガンドから結合体を分離することなく、結合を測定することができる。プロテインキナーゼ活性のほかのアッセイでは、リン酸化した基質を特異的に認識する抗体を使用できる。例えば、キナーゼレセプター活性化(KIRA)アッセイは、培養細胞中の無償レセプターを刺激するリガンドによりレセプターチロシンキナーゼ活性を測定し、次いで特異的抗体で可溶化されたレセプターを培養し、ホスホチロシンELISAによりリン酸化を定量化する(Sadick MD, Dev Biol Stand (1999) 97:121-133)。プロテインキナーゼアッセイのための抗体に基づくアッセイの別の例は、TRF(時間分解蛍光光度法)である。この方法では、ユーロピウムキレート標識した抗ホスホチロシン抗体を利用してマイクロタイタープレート上にコーティングされた重合体基質へのリン酸の転移を検出する。次いで、時間分解、乖離増強蛍光を使用してリン酸化の量を検知する(Braunwalder AF, 他, Anal Biochem 1996 Jul 1;238(2):159-64)。
【0068】
アポトーシスアッセイ。アポトーシス用のアッセイは、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼに媒介されたジゴキシゲニン−11−dUTPニックエンド標識(TUNEL)アッセイによって実施することができる。TUNELアッセイは、フルオレセイン−dUTPの取り込み(Yonehara他、1989、J.Exp.Med.、169、1747)を追跡することによってアポトーシスに特徴的な核DNAの断片化を測定すること(Lazebnik他、1994、Nature、371、346)に使用される。組織培養細胞のアクリジンオレンジ染色によってアポトーシスをさらにアッセイすることができる(Lucas, R.他、1998、Blood、15:4730-41)。その他の細胞に基づくアッセイには、カスパーゼ−3/7アッセイ及び細胞死ヌクレオソームELISAアッセイが含まれる。カスパーゼ−3/7アッセイは、多数のアポトーシス経路におけるプログラム細胞死の段階で発生する事象のカスケードの一部としてのカスパーゼ切断活性の活性化に基づいている。カスパーゼ3/7アッセイ(Promega社から市販されているApo−ONE(登録商標)同種カスパーゼ−3/7、cat#67790)では、溶解緩衝液と基質を混合して細胞に添加する。カスパーゼ基質は活性のカスパーゼ3/7で切断すると蛍光性となる。ヌクレオソームELISAアッセイは、当技術分野の専門家に周知の通常の細胞死アッセイであり、市販されている(Roche社、Cat#1774425)。このアッセイは、DNAとヒストンそれぞれに対して方向付けられたモノクローナル抗体を使用することにより、特に細胞可溶化物の細胞質断片中の単一及び少ヌクレオソームの量を決定する定量的サンドイッチ−酵素−イムノアッセイである。DNA断片化が原形質膜の崩壊の数時間前に起こり、細胞質中に蓄積されるという事実から、単一及び少ヌクレオソームはアポトーシスの間に細胞質中で濃縮された。アポトーシスが起こっていない細胞の細胞質断片にヌクレオソームは存在しない。アポトーシスアッセイ系は、MYLKを発現する細胞、及び任意選択で欠陥分枝形態形成機能を有するものを含むことができる。このアポトーシスアッセイ系に試験剤を加えることができ、試験剤を加えない対照と比較したアポトーシスの誘発における変化により、候補分枝形態形成調節剤が同定される。本発明の一部の実施態様では、無細胞系を使用して最初に同定された候補分枝形態形成調節剤を試験する二次アッセイとして、アポトーシスアッセイを使用することができる。また、MYLK機能がアポトーシスにおいて直接役割を果たすかどうかを試験するためにアポトーシスアッセイを使用することもできる。たとえば、野生型細胞に比べてMYLKを過剰発現又は過少発現する細胞でアポトーシスアッセイを実施することができる。野生型細胞と比較した細胞死応答の差により、MYLKが細胞死応答において直接役割を果たすことが示唆される。アポトーシスアッセイは、米国特許第6,133,437号にさらに記載されている。
【0069】
細胞増殖及び細胞周期アッセイ。細胞増殖は、ブロモデオキシウリジン(BRDU)の取り込みを介してアッセイすることができる。このアッセイでは、新しく合成されたDNAにBRDUが取り込まれることにより、DNAが合成されている細胞集団が同定される。その後、抗BRDU抗体を用いて(Hoshino他、1986年、Int.J.Cancer、38、369;Campana他、1988年、J. Immunol. Meth.、107、79)、又は他の手段によって、新しく合成されたDNAを検出することができる。
【0070】
また、ヒストンH3のリン酸化による有糸分裂が起こった細胞集団を同定するホスホ−ヒストンH3染色によって細胞増殖をアッセイする。セリン10におけるヒストンH3のリン酸化は、ヒストンH3のセリン10残基のリン酸化形態に特異的な抗体を用いて検出される(Chadlee, D.N. 1995, J. Biol. Chem 270:20098-105)。また、[H]−チミジンの取り込みを使用して細胞増殖を検査することもできる(Chen, J.、1996年、Oncogene、13:1395-403; Jeoung, J.、1995年、J. Biol. Chem.、270:18367-73)。このアッセイにより、S期のDNA合成の定量的な特徴づけが可能になる。このアッセイでは、DNAを合成している細胞が新しく合成されるDNA中に[H]−チミジンを取り込む。その後、シンチレーション計数器(たとえば、Beckman LS 3800液体シンチレーション計数器)による放射性同位体の計数など標準の技術によって取り込みを測定することができる。別の細胞増殖アッセイでは、染料アラマーブルー(Biosource Internationalより入手可能)を使用する。これにより、生存細胞が減少した際には、蛍光発光させて細胞数を間接的測定値を提供する(Voytik-Harbin SL他, 1998, In Vitro Cell Dev Biol Anim 34:239-46)。 また別の増殖アッセイであるMTSアッセイは、インビトロでの化成物の細胞障害性の評価に基づき、可溶性のテトラゾリウム塩であるMTSアッセイを使用する。MTSとして例えばPromega CellTiter96(登録商標)水溶性非放射性細胞増殖アッセイ(Cat.#G5421)などが市販されている。
【0071】
また、軟寒天中のコロニー形成によって細胞増殖をアッセイすることもできる(Sambrook他、Molecular Cloning、Cold Spring Harbor、1989年)。たとえば、MYLKで形質転換させた細胞を軟寒天プレートに播種し、2週間インキュベートした後コロニーを測定して計数する。
【0072】
細胞増殖は代謝的活性細胞の指標としてATPレベルを測定することによってもアッセイできる。このようなアッセイとしては、Promega社による発光同種アッセイであるCell Titer−Glo(登録商標)などが市販されている。
【0073】
フローサイトメトリーによって細胞周期における遺伝子の関与をアッセイすることができる(Gray JW他、1986年、Int J Radiat Biol Relat Stud Phys Chem Med、49:237-55)。MYLKで形質移入させた細胞をヨウ化プロピジウムで染色し、細胞周期の異なる段階における細胞の蓄積を示すフローサイトメトリー(Becton Dickinsonから入手可能)で評価することができる。
【0074】
したがって、細胞増殖又は細胞周期アッセイ系は、MYLKを発現する細胞、及び任意選択で欠陥分枝形態形成機能を有するものを含むであろう。このアッセイ系に試験剤を加えることができ、試験剤を加えない対照と比較した細胞増殖又は細胞周期の変化により候補分枝形態形成調節剤が同定される。本発明の一部の実施態様では、無細胞アッセイ系など別のアッセイ系を使用して最初に同定された候補分枝形態形成調節剤を試験する二次アッセイとして、細胞増殖又は細胞周期アッセイを使用することができる。また、MYLK機能が細胞増殖又は細胞周期において直接役割を果たすかどうかを試験するために細胞増殖アッセイを使用することもできる。たとえば、野生型細胞に比べてMYLKを過剰発現又は過少発現する細胞で細胞増殖又は細胞周期アッセイを実施することができる。野生型細胞と比較した増殖又は細胞周期の差により、MYLKが細胞増殖又は細胞周期において直接役割を果たすことが示唆される。
【0075】
血管形成。臍帯、冠動脈、又は真皮細胞など様々なヒト内皮細胞系を用いて血管形成をアッセイすることができる。適切なアッセイには、増殖を測定するアラマーブルーに基づいたアッセイ(Biosource Internationalから入手可能);血管形成エンハンサー又はサプレッサーが存在する又は存在しない場合の細胞が膜を通り抜ける遊走を測定するBecton Dickinson Falcon HTS FluoroBlockセルカルチャーインサートの使用など蛍光分子を用いた遊走アッセイ;Matrigel(登録商標)(Becton Dickinson)上の内皮細胞による管状構造の形成に基づいた細管形成アッセイが含まれる。したがって、血管形成アッセイ系は、MYLKを発現する細胞、及び任意選択で欠陥分枝形態形成機能を有するものを含むことができる。この血管形成アッセイ系に試験剤を加えることができ、試験剤を加えない対照と比較した血管形成の変化により候補分枝形態形成調節剤が同定される。本発明の一部の実施態様では、別のアッセイ系を使用して最初に同定された候補分枝形態形成調節剤を試験する二次アッセイとして、血管形成アッセイを使用することができる。また、MYLK機能が細胞増殖において直接役割を果たすかどうかを試験するために血管形成アッセイを使用することもできる。たとえば、野生型細胞に比べてMYLKを過剰発現又は過少発現する細胞で血管形成アッセイを実施することができる。野生型細胞と比較した血管形成の差により、MYLKが血管形成において直接役割を果たすことが示唆される。特に、米国特許第5,976,782号、同第6,225,118号及び同第6,444,434号を参照に様々な血管形成アッセイが記載されている。
【0076】
低酸素誘発。転写因子である低酸素誘発性因子−1(HIF−1)のαサブユニットは、インビトロで低酸素に曝した後に腫瘍細胞中で上方制御される。低酸素条件下では、HIF−1は、糖分解酵素やVEGFをコードする遺伝子など腫瘍細胞の生存に重要であることで知られている遺伝子の発現を刺激する。低酸素条件によるこのような遺伝子の誘発は、MYLKで形質移入させた細胞を(たとえばNapco7001インキュベーター(Precision Scientific)で発生させた0.1%のO2、5%のCO2、及び残りはN2を用いた)低酸素条件下及び正常酸素(normoxic)条件下で増殖させ、その後Taqman(登録商標)によって遺伝子の活性又は発現を評価することによってアッセイすることができる。たとえば、低酸素誘発アッセイ系は、MYLKを発現する細胞、及び任意選択で欠陥分枝形態形成機能を有するものを含むことができる。この低酸素誘発アッセイ系に試験剤を加えることができ、試験剤を加えない対照と比較した低酸素応答の変化により候補分枝形態形成調節剤が同定される。本発明の一部の実施態様では、別のアッセイ系を使用して最初に同定された候補分枝形態形成調節剤を試験する二次アッセイとして、低酸素誘発アッセイを使用することができる。また、MYLK機能が低酸素応答において直接役割を果たすかどうかを試験するために低酸素誘発アッセイを使用することもできる。たとえば、野生型細胞に比べてMYLKを過剰発現又は過少発現する細胞で低酸素誘発アッセイを実施することができる。野生型細胞と比較した低酸素応答の差により、MYLKが低酸素誘発において直接役割を果たすことが示唆される。
【0077】
細胞接着。細胞接着アッセイでは、候補調節剤が存在する又は存在しない場合の、細胞と精製した接着タンパク質との接着、又は細胞の相互接着を測定する。細胞−タンパク質接着アッセイでは、細胞が精製したタンパク質に接着することを調節する作用剤の能力を測定する。たとえば、組換えタンパク質を生成し、PBSで2.5g/mLまで希釈し、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングするのに使用する。陰性対照で使用するウェルはコーティングしない。その後、コーティングしたウェルを洗浄し、1%のBSAで遮断し、再度洗浄する。化合物を2×最終試験濃度まで希釈し、ブロッキングし、コーティングしたウェルに加える。その後、細胞をウェルに加え、結合しなかった細胞を洗い流す。カルセイン−AMなど膜透過性蛍光色素を加えることによって保持された細胞をプレート上で直接標識し、蛍光マイクロプレート読取装置でシグナルを定量する。
【0078】
細胞−細胞接着アッセイでは、天然で生じたリガンドとの細胞接着タンパク質の結合を調節する作用剤の能力を測定する。これらのアッセイには、天然に又は組換えによって選択した接着タンパク質を発現する細胞を使用する。例示的なアッセイでは、細胞接着タンパク質を発現している細胞をマルチウェルプレートのウェル内に植え付ける。リガンドを発現している細胞をBCECFなど膜透過性蛍光色素で標識し、候補剤の存在下で単層に接着させる。結合しなかった細胞を洗い流し、蛍光プレート読取装置を使用して結合した細胞を検出する。
【0079】
ハイスループット細胞接着アッセイも記載されている。このようなアッセイの1つでは、マイクロアレイスポッターを使用して小分子リガンド及びペプチドを顕微鏡スライドの表面に結合させ、その後、未処置の細胞をスライドと接触させ、結合しなかった細胞を洗い流す。このアッセイでは、細胞系に対するペプチド及びモジュレーターの結合特異性が決定されるだけでなく、付着した細胞の機能的細胞シグナル伝達も、マイクロチップ上で免疫蛍光技術をインサイツで使用して測定される(Falsey JR他、Bioconjug Chem.、2001年5-6月、12(3):346-53)。
【0080】
細管形成。細管形成アッセイは、培養細胞、通常内皮細胞の、一般に細胞外マトリックスの環境を刺激するマトリクス基質上での管状構造形成能力をモニターする。例示的基質には、ラミニンを含む基底膜タンパク質の抽出物であるMatrigel(登録商標)(Becton Dickinson)、コラーゲンIV、及び4℃で液体であり、37℃で堅いゲル状となるヘパリン硫酸プロテオグリカンが含まれる。適切な基質としては、他に、コラーゲン、フィブロネクチン及び/又はフィブリンが挙げられる。血管形成促進刺激薬により細胞を刺激し、画像化によりその細管形成能力を検出する。通常、刺激物により一晩インキュベートした後細管が検出されるが、それよりも長い、又は短い時間を採用してもよい。管形成アッセイも当技術分野で周知である(たとえば、Jones MK他、1999年、Nature Medicine 5:1418-1423)。これらのアッセイは伝統的に血清による刺激、又は成長因子FGF又はVEGFによる刺激を使用している。血清は、非限定的な成長因子源を意味する。好ましい実施態様では、血清を含まない媒体中で培養した細胞にアッセイを行い、よって候補薬が変調するプロセス又は経路を制御する。さらに、異なる標的遺伝子は、TNFアルファなどの炎症性血管形成因子を含む異なる血管形成促進剤による刺激に別の反応をすることを発見した。このように、さらに好ましい実施態様では、細管形成アッセイ系は、FGF、VEGF、フォルボールミリステートアセテート(PMA)、TNFアルファ、エフリンなど、様々な因子に対するMYLKの反応を試験することを含んでいる。
【0081】
細胞移動。侵入/移動アッセイ(移動アッセイとも呼ぶ)では、細胞の、物理的障壁を克服して血管形成促進シグナルへ向かって移動する能力を試験する。移動アッセイは当技術分野で周知である(たとえば、Paik JH他、2001年、J Biol Chem. 276:11830-11837)。典型的な実験設定では、培養した内皮細胞を通常の細胞より小さい径の孔を有する基質で被覆した薄膜に埋め込む。上述したように、基質は通常細胞外マトリックスの環境を刺激する。薄膜は典型的にはトランスウェル(transwell)ポリカーボネート膜(Corning Costar Corporation, マサチューセッツ州ケンブリッジ)などの膜であり、通常血管形成促進刺激物を含む下部チャンバと液体接点を有する上部チャンバの一部である。通常、刺激物で一晩インキュベートしてから移動をアッセイするが、これよりも長い、又は短い時間を採用してもよい。移動の評価は薄膜を通過した細胞の数で行い、ヘモトキシリン(hemotoxylin)溶液(VWR Scientific, カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)で染色した細胞を使用して検出するか、細胞の数を決定するためのその他任意の方法で検出することができる。別の例示的設定では、細胞を蛍光標識し、Falcon HTS FluoroBlok(Becton Dickinson)などの蛍光読み取りを使用して移動を検出する。刺激物がなくても観察できる移動はあるが、血管形成促進因子に反応して移動が大きく増加する。上述したように、移動/侵入の好ましいアッセイ系は、腫瘍血管形成及び炎症性血管形成剤を含む様々な血管形成促進因子に対するMYLKの反応を試験すること、及び無血清培地での細胞培養を含む。
【0082】
出芽アッセイ。出芽アッセイは、ゲルベースのコラーゲン基質に埋め込まれた内皮細胞の細胞数決定スフェロイド凝集(「スフェロイド」)を使用する3次元のインビトロ血管形成アッセイである。スフェロイドは、細胞外マトリックスへの侵入(「細胞出芽」と呼ぶ)による毛細血管状構造の出芽の開始点、及びそれに続く複合網状ネットワーク形成の役割を果たす(Korff及びAugustin、1999年、J Cell Sci 112:3249-58)。一例示的実験設定では、非接着性96ウェルプレートの1つのウェルにつき、ヒト臍帯静脈内皮細胞400個をピペットで取り分け、一晩スフェロイド凝集を行うことによりスフェロイドを調製する(Korff及びAugustin: J Cell Biol 143:1341-52、1998年)。スフェロイドを回収し、900μlのメトセル(methocel)コラーゲン溶液に蒔き、24ウェルプレートの核ウェルにピペットで取り分け、コラーゲンゲル重合させる。30分後、10倍に濃縮した試験物質の作用希釈液100μlをゲル頂部にピペットで取ることにより試薬を加える。プレートを37℃で24時間インキュベートする。パラホルムアルデヒドを添加することにより、実験的インキュベーション期間の最後にディッシュを固定する。自動化画像分析系により1スフェロイド当たりの累積出芽長を測定することにより、内皮細胞の出芽強度を定量化することができる。
【0083】
抗体モジュレーターの一次アッセイ
抗体モジュレーターでは、適切な一次アッセイ試験は、MYLKタンパク質に対する抗体の親和性及び特異性を試験する結合アッセイである。抗体の親和性及び特異性を試験する方法は当分野で周知である(Harlow及びLane、1988年、1999年、上掲)。MYLKに特異的な抗体を検出する好ましい方法は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)である。他の方法には、FACSアッセイ、ラジオイムノアッセイ、及び蛍光アッセイが含まれる。
場合によっては、小分子モジュレーターについて記載したスクリーニングアッセイも、抗体モジュレーターを試験するために使用できる。
【0084】
核酸モジュレーターの一次アッセイ
核酸モジュレーターでは、一次アッセイにより核酸モジュレーターがMYLK遺伝子の発現、好ましくはmRNAの発現を阻害又は増強する能力を試験し得る。一般的に、発現分析には、核酸モジュレーター存在下又は非存在下の細胞の類似集団(たとえば、内因的に又は組換えによってMYLKを発現する2種の細胞プール)中のMYLK発現を比較することが含まれる。mRNA及びタンパク質の発現を分析する方法は当分野で周知である。たとえば、ノーザンブロッティング、スロットブロッティング、RNA分解酵素保護、定量的RT−PCR(たとえばTaqMan(登録商標)、PE Applied Biosystemsを使用)、又はマイクロアレイ分析を使用して、核酸モジュレーターで処置した細胞中でMYLK mRNAの発現が低減していることを確認することができる(たとえば、Current Protocols in Molecular Biology、1994年、Ausubel FM他編、John Wiley&Sons, Inc.、第4章;Freeman WM他、Biotechniques、1999年、26:112-125; Kallioniemi OP、Ann Med、2001年、33:142-147; Blohm DH及びGuiseppi-Elie、A Curr Opin Biotechnol、2001年、12:41-47)。タンパク質の発現をモニターすることもできる。タンパク質は、最も一般的にはMYLKタンパク質又は特異的なペプチドのどちらかに対する特異的な抗体又は抗血清を用いて検出される。ウエスタンブロッティング、ELISA、インサイツ検出を含めた様々な手段が利用可能である(Harlow E及びLane D、1988年及び1999年、上掲)。
場合によっては、特にMYLK mRNA発現を伴うアッセイ系において、小分子モジュレーターについて記載したスクリーニングアッセイも核酸モジュレーターを試験するために使用できる。
【0085】
二次アッセイ
調節剤が分枝形態形成に関連する様式でMYLKに影響を与えることを確認するために、二次アッセイを使用して上記の任意の方法によって同定したMYLK調節剤の活性をさらに評価することができる。本明細書中で使用するMYLK調節剤は、以前に同定した調節剤から誘導した候補臨床化合物又は他の作用剤を包含する。また、二次アッセイを使用して、特定の遺伝的又は生化学的経路における調節剤の活性を試験するために、あるいは調節剤がMYLKと相互作用する特異性を試験することもできる。
【0086】
二次アッセイでは一般的に、候補モジュレーター存在下又は非存在下において、細胞や動物の類似集団(たとえば、内因的に又は組換えによってMYLKを発現する2種の細胞プール)を比較する。一般的に、このようなアッセイでは、候補MYLK調節剤を用いて細胞や動物を処置することにより、処置しない(あるいはモック処置又は偽薬で処置した)細胞や動物と比較して分枝形態形成に変化がもたらされるかどうかを試験する。特定のアッセイでは、「感作させた遺伝的バックグラウンド」を使用する。本明細書中で使用する「感作させた遺伝的バックグラウンド」とは、分枝形態形成又は相互作用する経路における遺伝子の発現が変化するように操作した細胞や動物を表す。
【0087】
細胞に基づいたアッセイ
細胞に基づいたアッセイでは多種の哺乳類の細胞を使用する。好ましい細胞は、分枝形態形成プロセス能を有し、通常は内皮細胞である。代表的な細胞として、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)、ヒト微小血管内皮細胞(HRMEC)、ヒト真皮性微小血管内皮細胞(HDMEC)、ヒト子宮微小血管内皮細胞、ヒト肺微小血管内皮細胞、ヒト冠動脈内皮細胞、及び不死化微小血管細胞が特に挙げられる。細胞に基づいたアッセイは、MYLK及び/又はその他の遺伝子の内因性発現、例えば分枝形態形成に関与するもの、又はこれら遺伝子の組換えによる発現に依存し得る。候補モジュレーターは、通常は細胞培地に加えるが、細胞に注入するか、又は任意の他の有効な手段によって送達してもよい。
細胞に基づいたアッセイにより、上述のようにして、細胞増殖、アポトーシス、細胞遊走、管形成、出芽及び低酸素誘発を含む分枝形態形成及び血管形成が検出される。
【0088】
動物アッセイ
候補MYLKモジュレーターを試験するために、血管形成、及びそれに関連する病態を含む分枝形態形成の様々な非ヒト動物のモデルを使用することができる。動物モデルは、MYLK及び/又はその他の遺伝子の内因性発現、例えば分枝形態形成に関与するもの、又はこれら遺伝子のエンジニアリングによる発現に依存し得る。場合によっては、MYLKの発現又はMYLKタンパク質は特定の移植組織又は基質に制限できる。動物アッセイでは、通常、経口投与、注入(静脈内、皮下、腹腔内)、大量瞬時投与などによって候補モジュレーターを全身に送達する必要がある。
好ましい実施態様では、新血管形成及び血管形成をモニターすることによって分枝形態形成の活性を評価する。Matrigel(登録商標)アッセイにおける、MYLKに対する候補モジュレーターの影響を試験するために、欠陥のある分枝形態形成及び正常な分枝形態形成を有する動物モデルを使用する。Matrigel(登録商標)は基底膜タンパク質の抽出物であり、主にラミニン、コラーゲンIV、及びヘパリン硫酸プロテオグリカンから構成される。これは、4℃の無菌的な液体として提供されるが、37℃で迅速にゲルを形成する。液体のMatrigel(登録商標)を、bFGF及びVEGFなど様々な血管形成剤、又はMYLKを過剰発現するヒト腫瘍細胞と混合する。その後、激しい血管性応答をサポートするためにこの混合物を雌の無胸腺ヌードマウス(Taconic、ニューヨーク州ジャーマンタウン)に皮下注入(SC)する。Matrigel(登録商標)ペレットを有するマウスに、経口(PO)、腹腔内(IP)、又は静脈内(IV)経路で候補モジュレーターを投薬してもよい。注入後5〜12日にマウスを安楽死させ、ヘモグロビン分析のためにMatrigel(登録商標)ペレットを回収する(Sigma plasma hemoglobin kit)。ゲルのヘモグロビン含有量は、ゲル中の新血管形成の程度と相関していることが判明した。
【0089】
別の好ましい実施態様では、MYLKにおける候補モジュレーターの効果を腫瘍形成アッセイによって評価する。一実施例では、既存の腫瘍又は血管原性であることが分かっている腫瘍細胞系由来のヒト細胞を含む異種移植片を使用する。細胞系には、例えばA431、Colo205、MDA−MB−435、A673、A375、Calu−6、MDA−MB−231、460、SF763T又はSKOV3tp5が含まれる。腫瘍異種移植アッセイは、当技術分野において既知である(例えば、Ogawa K他, 2000, Oncogene 19:6043-6052を参照)。異種移植片は、通常、既存の腫瘍由来又はインビトロ培養物由来のいずれかの単一細胞懸濁液として、6〜7週齢の雌の無胸腺マウスに移植されたSCである。内因的にMYLKを発現する腫瘍を、マウス1匹あたり1×10〜1×10個の細胞を100μLの体積で、27ゲージの針を用いて脇腹に注入する。その後、マウスの耳に札をつけ、週2回腫瘍を測定した。平均腫瘍重量が100mgに達した日に候補モジュレーターによる処置を開始した。候補モジュレーターは、大量瞬時投与によってIV、SC、IP、又はPOで送達される。それぞれの独特な候補モジュレーターの薬理動態に応じて、1日に複数回投薬を行うことができる。腫瘍の重量を、カリパーを用いて垂直直径を測定することによって評価し、2つの次元の直径の測定値を掛け合わせることによって計算した。実験の最後に、切除した腫瘍をさらなる分析用のバイオマーカーの同定に利用することができる。免疫組織化学染色では、異種移植腫瘍を4%のパラホルムアルデヒド、0.1Mのリン酸、pH7.2で6時間、4℃で固定し、PBS中30%のショ糖に浸し、液体窒素で冷却したイソペンタン中で迅速に凍結させる。
別の好ましい実施態様では、ホローファイバーアッセイを使用して腫瘍形成能をモニターする。ホローファイバーアッセイは米国特許第5,698,413号に開示されている。要約すると、本方法は、実験動物に対し、標的細胞を含む生体適合性の半透明なカプセル封入器を埋め込むこと、実験動物を候補調節剤で処置すること、及び候補モジュレーターに対する反応について標的細胞を評価することを含む。埋め込まれる細胞は、通常、既存の腫瘍又は血管原性であることが分かっている腫瘍細胞系由来のヒト細胞である。適当な時間、通常約6日を置いて、埋め込んだ細胞を回収し、候補モジュレーターの評価に使用する。腫瘍形成能とモジュレーターの有効性は、マクロカプセル中に存在する生細胞の量をアッセイすることにより評価してもよく、これは、当技術分野において既知の試験、例えばMTT染色変換アッセイ、ニュートラルレッド染色取り込み、トリパンブルー染色、生細胞計算、軟寒天中に形成されたコロニーの数、細胞の回復能及びインビトロでの複製能等により決定できる。 従来技術に既知で、本明細書にも記載する、血管形成に特有の他のアッセイも使用できる。
【0090】
別の好ましい実施態様では、腫瘍形成能アッセイは、組織特異性の制御配列の制御の下で、優性オンコジーン、又は腫瘍サプレッサー遺伝子ノックアウトを有するトランスジェニック動物、通常マウスを使用する。これらのアッセイは通常トランスジェニック腫瘍アッセイと呼ばれる。好ましい用途では、トランスジェニックモデルにおける腫瘍の進行の特徴づけ又は制御が良好に行われる。例示的なモデルでは、「RIP1-Tag2」導入遺伝子は、インスリン遺伝子制御領域の制御の下でSV40大型T抗原オンコジーンを有し、膵臓β細胞に発現し、結果的に島細胞悪性腫瘍となる(Hanahan D, 1985, Nature 315:115-122; Parangi S等, 1996, Proc Natl Acad Sci USA 93:2002-2007; Bergers G等, 1999, Science 284:808-812)。通常過剰増殖性の島細胞のサブセット中の静止毛細血管が血管形成性となるので、「血管形成スイッチ(angiogenic switch)」は、約5週目に起こる。RIP1-Tag2マウスは14週で死亡する。候補モジュレーターは、血管形成スイッチの直前(例えば腫瘍予防のモデルの場合)、小規模腫瘍の成長期(例えば処置のモデルの場合)、又は大規模及び/又は湿潤性腫瘍の成長期(例えば退行のモデルの場合)を含め、様々な段階において投与できる。腫瘍形成能及びモジュレーターの有効性は、腫瘍の数、腫瘍の大きさ、腫瘍の形態、血管密度、アポトーシス指数などを含め、寿命延長及び/又は腫瘍特性の評価であってもよい。
【0091】
診断及び治療上の使用
特異的なMYLK調節剤は、疾病又は疾病予後が血管形成、細胞死、又は増殖疾患など分枝形態形成の欠陥に関連している様々な診断及び治療用途に有用である。したがって、本発明は、MYLK活性を特異的に調節する作用剤を細胞に投与する工程を含む、細胞、好ましくは分枝形態形成機能の欠陥又は不全(例えば、分枝形態形成の過剰発現、過少発現、又は誤発現、或いは遺伝子突然変異による)を有することが事前に確定されている細胞における分枝形態形成を調節する方法も提供する。好ましくは、調節剤は細胞中に検出可能な表現型の変化を生じさせ、これにより、分枝形態形成機能が修復されたことが示される。本明細書で使用する「機能が修復された」という表現、及びそれと同等の表現は、所望の表現型が達成されたか、又は未処理の細胞と比較した場合に正常に近づいたことを意味する。例えば、分枝形態形成機能が修復されると、細胞増殖及び/又は細胞周期の進行が正常化するか、又は未処理の細胞と比較した場合に正常に近づく。本発明はまた、分枝形態形成を調節するMYLK調節剤の治療的有効量を投与することによる、分枝形態形成機能不全に関連する疾患又は疾病の治療方法を提供する。さらに本発明は、MYLK調節剤を投与することによる、細胞、好ましくはMYLK機能の欠陥又は不全を有することが事前に決定されている細胞において、MYLK機能を調節する方法を提供する。これらに加えて、本発明は、MYLK調節剤の治療的有効量を投与することによる、MYLK機能不全に関連する疾患又は疾病の治療法を提供する。
MYLKが分枝形態形成に関係しているという発見により、分枝形態形成の欠陥に関与する疾病及び疾患の診断及び予後評価、ならびにこのような疾病及び疾患の素因を有する対象の同定に使用可能な様々な方法が提供される。
【0092】
特定の試料でMYLKが発現されるかどうかを診断するために、ノーザンブロッティング、スロットブロッティング、RNA分解酵素保護、定量的RT−PCR、及びマイクロアレイ分析など様々な発現分析方法を使用することができる(たとえば、Current Protocols in Molecular Biology、1994年、Ausubel FM他編、John Wiley & Sons, Inc.、第4章; Freeman WM他、Biotechniques、1999年、26:112-125 ;Kallioniemi OP、Ann Med、2001年、33:142-147; Blohm及びGuiseppi-Elie、Curr Opin Biotechnol、2001年、12:41-47)。MYLKを発現する欠陥分枝形態形成シグナル伝達に関係づけられている疾病又は疾患を有する組織は、MYLK調節剤を用いた処置を受け入れることが同定されている。好ましい用途では、分枝形態形成欠陥組織は正常組織に比べてMYLKを過剰発現する。たとえば、完全又は部分MYLK cDNA配列をプローブとして使用した、腫瘍及び正常細胞系由来、又は腫瘍及び同一患者からの対応する正常組織試料由来のmRNAのノーザンブロット分析により、具体的な腫瘍がMYLKを発現又は過剰発現するかどうかを決定することができる。あるいは、細胞系、正常組織及び腫瘍試料中のMYLK発現の定量的RT−PCR分析のために、TaqMan(登録商標)を使用する(PE Applied Biosystems)。
たとえばMYLKオリゴヌクレオチドなどの試薬、及びMYLKに対する抗体を利用して、上に記載した(1)MYLK遺伝子変異の存在の検出、又は疾患でない状態と比較したMYLK mRNAの過剰発現又は過少発現のいずれかの検出、(2)疾患でない状態と比較したMYLK遺伝子産物の過剰存在又は過少存在のいずれかの検出、ならびに(3)MYLKに媒介されたシグナル伝達経路における摂動又は異常の検出のために、様々な他の診断方法を実施することができる。
【0093】
様々な試料中におけるMYLKの発現を検出するためのキットも提供され、このキットは、MYLKに特異的な少なくとも1つの抗体と、抗体の検出、抗体の固定等に適した全ての試薬及び/又は装置と、このようなキットを診断又は治療に使用する際の指示書とを含む。
したがって、特定の実施態様では、本発明は、(a)患者から生体試料を得ること、(b)試料をMYLK発現用のプローブと接触させること、(c)工程(b)からの結果を対照と比較すること、及び(d)工程(c)が疾病又は疾患の可能性を示しているかどうかを決定することを含む、MYLK発現の変化と結び付けられる患者の疾病又は疾患を診断する方法を対象としている。好ましくは、この疾病は癌であり、さらに好ましくは表1に示す癌である。プローブは、DNA又は抗体を含めたタンパク質のどちらであってもよい。
【実施例】
【0094】
以下の実験セクション及び実施例は、限定ではなく例示のために提供するものである。
【0095】
1.ゼブラフィッシュのスクリーニング
テュービンゲン(Tubingen)系由来の単細胞段階にある野生型の胚を、予想されるゼブラフィッシュ遺伝子の5’UTR及び/又は開始コドンを標的とするアンチセンスモルホリンオリゴヌクレオチド(PMO)を用いて処理した。PMOを濃度3mg/mLの注入緩衝液(0.4mMのMgSO、0.6mMのCaCl、0.7mMのKCl、58mMのNaCl、25mMのHepes(pH7.6);合計1.5nL(=4.5ng)を単細胞段階のゼブラフィッシュの胚に注入した。
受精の4日後(dpf)、幼生をリン酸緩衝食塩水(PBS)中4%のパラホルムアルデヒドで30分間固定させた。固定した幼生をメタノールで脱水し、−20℃で一晩保存した。アセトン中で透過処理(−20℃で30分間)した後、胚をPBS中で洗浄し、染色用緩衝液(100mMのTris-HCl(pH9.5)、50mMのMgCl、100mMのNaCl、0.1%のTween−20)中で45分間インキュベートした。染色用緩衝液(原液:70%のN,N−ジメチルフォルムアミド中75mg/mlのNBT、N,N−ジメチルフォルムアミド中50mg/mlのBCIP)1ml当たり、2.25μlのニトロブルーテトリゾリウム(NBT,Sigma)及び1.75μlの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP,Sigma)を添加することにより染色反応を開始させた。
固定した標本を、血管形成における変化、特に血管形成促進、抗血管形成、血管性又は血管パターニングの表現型についてスキャンした。PMO処理により生じたその他の表現型の変化も記録した。一回のPMO注入において同じ表現型が2回目に見られたときヒットが「確認された」とした。血管構造を可視化する血管造影法により3回目に見られたときヒットは「特徴的である」とした。そのアンチセンスのノックダウンにより、セグメント間及び胸部のひれの血管の形成が低減することにより、DR−MYLKをモディファイヤーとして同定した。このモディファイヤーのオルソログを本明細書ではMYLKと呼ぶ。
【0096】
BLAST分析(Altschul等、上掲)を使用してショウジョウバエモディファイヤーのオルソログを同定した。例えば、MYLKの代表的な配列であるGI#16950611(配列番号11)の、ゼブラフィッシュDR−MYLKとのアミノ酸同一性は43%である。
タンパク質の様々なドメイン、シグナル、及び機能的サブユニットを、PSORT(Nakai K.及びHorton P.、Trends Biochem Sci、1999年、24:34-6; Kenta Nakai、Protein sorting signals and prediction of subcellular localization, Adv. Protein Chem. 54, 277-344、2000年)、PFAM(Bateman A.他、Nucleic Acids Res、1999年、27:260-2)、SMART(Ponting CP他、SMART: identification and annotation of domains from signaling and extracellular protein sequences. Nucleic Acids Res.、1999年1月 1;27(1):229-32)、TM−HMM(Erik L.L. Sonnhammer, Gunnar von Heijne、及びAnders Krogh: A hidden Markov model for predicting transmembrane helices in protein sequences. In Proc. of Sixth Int. Conf. on Intelligent Systems for Molecular Biology, P175-182 Ed J. Glasgow, T. Littlejohn, F. Major, R. Lathrop, D. Sankoff, and C. Sensen Menlo Park, CA: AAAI Press、1998年)、及びクラスト(clust)(Remm M及びSonnhammer E. Classification of transmembrane protein families in the Caenorhabditis elegans genome and identification of human orthologs. Genome Res. 2000年11月;10(11):1679-89)プログラムを使用して分析した。例えば、GI#16950611(配列番号11)のMYLKのキナーゼドメイン(PFAM00069)は、概ねアミノ酸残基1464−1719に位置している。同様に、同じタンパク質の免疫グロブリンドメイン(PF00047)は、概ね、アミノ酸残基47−108、175−235、428−489、528−585、637−697、735−796、1112−1172、1252−1312、及び1823−1884に位置している。
【0097】
2.モルホリン(PMO)スクリーニングのヒットに対するゼブラフィッシュの「ネガティブ」及び「ポジティブ」二次アッセイ
ゼブラフィッシュの「ネガティブ」二次アッセイを使用して、モルホリンノックダウンを有する脈管構造に見られる影響が、脈管構造への一次的影響であるのか、一般的なパターニングの欠陥により引き起こされた二次的な影響であるのかを決定した。ゼブラフィッシュ「ポジティブ」二次アッセイにより、遺伝子標的、並びに細胞及び組織の活性特異性に関する経路及び/又はメカニズムの情報が提供された。
ネガティブアッセイ#1−パターニング対血管の欠損 筋特異性抗体mAbMF20(アクトミオシン)を用いてホールマウント染色を行い、遺伝子ノックダウンによって引き起こされる一般的なパターニングの欠陥があるかどうかを評価した。
ネガティブアッセイ#2−ニューロン対血管の欠損 ニューロン特異的抗体(抗アセチル化チューブリン)を用いてホールマウント染色を行い、二次的な血管性表現型を引き起こし得る基本的なニューロンパターニングの欠損があるかどうかを評価した。
ネガティブアッセイ#3−組織ジストロフィー又は壊死対血管の欠損 ノマルスキー光学の下で形態を生で観察する(PMO注入後1−4日目の変化)ことにより、遺伝子ノックダウンにより引き起こされる組織のアポトーシス/壊死の範囲を評価した。
ネガティブアッセイ#4−血管性又は造血性マーカーの発現(インサイツハイブリダイゼーション)発達中の血管を染色する、fli1遺伝子を用いたインサイツハイブリダイゼーションを発達2日目に行い、4日目に観察された表現型が血管発達不全によるものか、血管維持不全によるものかを評価した。
ポジティブアッセイ#5−抗血管形成経路のVEGFレセプター(KDR)と標的遺伝子PMOとの相互作用 KDR(VEGFR2)遺伝子をノックダウンするPMOを有する標的遺伝子PMOを同時注入し、標的がVEGF経路で機能するかどうかを評価した。
【0098】
3.ハイスループットのIn Vitro蛍光偏光アッセイ
蛍光標識したMYLKペプチド/基質を、試験緩衝液(10mMのHEPES、10mMのNaCl、6mMの塩化マグネシウム、pH7.6)中の試験剤と共に96ウェルのマイクロタイタープレートの各ウェルに加えた。Fluorolite FPM−2 Fluorescence Polarization Microtiter System(Dynatech Laboratories,Inc)を用いて決定した蛍光偏光の対照値に対する変化により、試験化合物がMYLK活性の候補モディファイヤーであることが示される。
【0099】
4.ハイスループットのIn Vitro結合アッセイ
33P標識のMYLKペプチドを、試験剤と共にアッセイ緩衝液(100mMのKCl、20mMのHEPES pH7.6、1mMのMgCl、1%のグリセロール、0.5%のNP−40、50mMのβ−メルカプトエタノール、1mg/mlのBSA、プロテアーゼ阻害剤の反応混液)中で、Neutralite−アビジンでコーティングしたアッセイプレートのウェルに加え、25℃で1時間インキュベートした。その後、ビオチン標識した基質を各ウェルに加え、1時間インキュベートした。PBSで洗浄することによって反応を停止させ、シンチレーション計数器で計数した。試験剤を用いない対照に比べて活性に変化を引き起こさせる試験剤が、候補分枝形態形成調節剤として同定された。
【0100】
5.免疫沈降及び免疫ブロッティング
形質移入させたタンパク質の共沈では、MYLKタンパク質を含む3×10個の適切な組換え細胞を10cmのディッシュに植え付け、発現用コンストラクトを用いて次の日に形質移入させた。空ベクターを加えることによって、それぞれの形質移入での総DNA量を一定に保った。24時間後、細胞を回収し、リン酸緩衝生理食塩水で1回洗浄し、50mMのHepes、pH7.9、250mMのNaCl、20mMのグリセロホスフェート、1mMのオルトバナジン酸ナトリウム、5mMのp−ニトロフェニルリン酸、2mMのジチオスレイトール、プロテアーゼ阻害剤(complete、Roche Molecular Biochemicals)、及び1%のノニデットP−40を含む溶解緩衝液1ml中、氷上で20分間溶解させた。15,000×g、15分間の遠心分離2回によって、細胞細片を取り除いた。細胞溶解物を25μlのM2ビーズ(Sigma)と共に2時間、4℃で緩やかに揺り動かしながらインキュベートした。
溶解緩衝液でよく洗浄した後、SDS試料緩衝液中で煮沸することによってビーズに結合したタンパク質を溶解させ、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分画し、二フッ化ビニリデン膜に移し、標識した抗体を用いてブロットした。適切な二次抗体に結合した西洋わさびペルオキシダーゼ及び高感度化学発光(ECL)ウエスタンブロッティング検出システム(Amersham Pharmacia Biotech)によって、反応性のあるバンドを可視化させた。
【0101】
6.キナーゼアッセイ
精製したか、部分的に精製したMYLKを、適切な反応緩衝液(例えば、塩化マグネシウムまたは塩化マンガン(1−20mM)、およびミエリン塩基性タンパク質またはカゼインなどのペプチドまたはポリペプチド基質(1−10μg/ml)を含むpH7.5のHepes50mM)に希釈する。キナーゼの最終的な濃度は1−20nMである。酵素反応をマイクロタイタープレートで行い、アッセイのスループットを増大させることにより反応条件の最適化を促進する。96ウェルのマイクロタイタープレートを用い、最終容量を30−100μlとする。33PガンマATP(0.5μCi/ml)を加えて反応を開始させ、0.5から3時間室温でインキュベートする。EDTA付加によりネガティブコントロールとし、それにより酵素活性に必要な二価カチオン(Mg2+またはMn2+)をキレート化する。インキュベーション後、EDTAを使用して酵素反応を消光させる。反応物の試料を96ウェルのガラフファイバーフィルタリングプレート(MultiScreen,Millipore)に移す。続いてフィルタをリン酸緩衝生理食塩水、希釈したリン酸(0.5%)、またはその他適切な媒体で洗浄し、過剰な放射性標識ATPを除去する。シンチレーションカクテルをフィルタリングプレートに添加し、シンチレーションカウンティングにより取り込まれた放射能を定量化する(Wallac/Perkin Elmer)。活性は、ネガティブコントロール反応値(EDTAクエンチ)の差引き後に検出される放射能の量と定義する。
【0102】
7.発現分析
以下の実験で使用したすべての細胞系はNCI(米国立癌センター)の系であり、ATCC(アメリカンタイプカルチャーコレクション、バージニア州マナサス、20110〜2209)から入手可能である。正常組織及び腫瘍組織は、Impath、UC Davis、Clontech、Stratagene、Ardais、Genome Collaborative及びAmbionから得た。
様々な試料中における開示した遺伝子の発現レベルを評価するために、TaqMan分析を使用した。
【0103】
Qiagen(カリフォルニア州バレンシア)のRNeasy kitを使用し、製造者のプロトコルに従って各組織試料からRNAを抽出して最終濃度50ng/μlにした。その後、ランダムヘキサマー及び各反応500ngの全RNAを使用して、Applied Biosystems(カリフォルニア州フォスターシティー)のプロトコル4304965に従ってRNA試料を逆転写させることによって一本鎖cDNAを合成した。
TaqManプロトコルならびに以下の基準に従って、TaqManアッセイ(Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティー)を使用した発現分析用のプライマーを調製した。その基準は、a)ゲノムの混入を排除するために、イントロンにまたがるようにプライマーの対を設定すること、及びb)各プライマーの対が1つの産物のみを生成することである。発現分析は7900HT機器を使用して行った。
【0104】
製造者のプロトコルに従って、300nMのプライマー及び250nMのプローブならびに約25ngのcDNAを、96ウェルプレートでは25μlの全体積、384ウェルプレートでは10μlの全体積で使用して、Taqman反応を実施した。標的が大量に存在する可能性が高くなるように広範囲の組織由来のcDNAを含む混合物である、ヒトcDNA試料のユニバーサルプール(universal pool)を使用して結果分析用の標準曲線を作成した。18SのrRNA(すべての組織及び細胞中で普遍的に発現される)を使用して生データを規準化した。
それぞれの発現分析について、腫瘍組織試料を、同一患者からの対応する正常組織と比較した。対応する正常試料と比べて腫瘍中の遺伝子発現レベルが2倍以上高い場合に、ある遺伝子は腫瘍中で過剰発現されているとみなされる。正常組織が入手可能でない場合は、cDNA試料のユニバーサルプールを代わりに使用する。これらの場合では、腫瘍試料と同じ組織タイプからのすべての正常試料の平均との発現レベルの差が、すべての正常試料の標準偏差の2倍を超える場合(すなわち、腫瘍−平均(すべての正常試料)>2×STDEV(すべての正常試料))に、遺伝子は腫瘍試料中で過剰発現されているとみなされる。
【0105】
結果を表1に示す。各腫瘍種類について、腫瘍試料と、同一患者由来の一致する正常組織の対の数を示す。各腫瘍種類について、2倍以上の過剰発現を示した試料の割合を示している。遺伝子が過剰発現されている腫瘍に投与することによって、本明細書中に記載したアッセイによって同定されたモジュレーターの治療上の効果をさらに検証することができる。腫瘍増殖の低下により、モジュレーターの治療上の有用性が確認される。患者から腫瘍試料を得、モジュレーターが標的としている遺伝子の発現をアッセイすることによって、モジュレーターを用いて患者を処置する前に患者が処置に応答する可能性を診断することができる。この遺伝子(又は複数の遺伝子)の発現データも、疾病の進行を診断する上でのマーカーとして使用することができる。このアッセイは、上記の発現分析によって、遺伝子標的に対する抗体によって、又は任意の他の利用可能な検出方法によって実施することができる。

【0106】
8.増殖アッセイ
ヒト臍帯内皮細胞(HMVEC)を、10〜20%のウシ胎児血清(FBS,Hyclone)を補った成長培地(Clonetics Corp.)中1.5%のブタ皮膚ゼラチン(300ブルーム、Sigma)でコーティングしたプレート又はフラスコに入れ、37℃に維持した。細胞を集密になるまで成長させ、7継代まで使用した。刺激培地は、50%のSigma99培地と、50%のLグルタミンを有するRMPI1640から構成し、10μg/mlのインスリン−トランスフェリン−セレン(Gibco BRL)と10%のFBSを補った。20ng/mlのVEGFを補った刺激培地中でインキュベートすることにより細胞成長を刺激した。細胞培養物の分析は3回行った。MYLK又はMYLKコード化配列を有するpSV7d発現ベクター10μgと、neo耐性遺伝子を有するpSV2発現ベクター1μgとの混合物をリポフェクチン試薬(Life Technologies,Inc.)を用いて、細胞に形質移入した。500μg/mlのG418を用いて安定な成分を選択した。パスツールピペットを使用したコロニー単離によりクローニングを実行した。ヨウ素化したVEGFに特異的に結合する能力について形質転換体をスクリーニングした。24ウェルクラスタープレートに蒔き、成長を停止させた細胞に増殖アッセイを実行した。無血清培地にモジュレーターと1μCiの[3H]チミジン(47Ci/mmol)を用いて細胞の単層を4時間に亘りインキュベートした。10%トリクロロ酢酸で10分間不溶性の物質を沈殿させ、中和させ、そして0.2MのNaOH中に溶かしたところ、シンチレーションカウンターにおいて放射能がカウントされた。
【0107】
9.MYLK機能アッセイ
分枝形態形成におけるMLCKの役割を、ヒト細胞培地における細胞接着、細胞移動、血管外遊走及び血管透過性アッセイを用いて試験した。
T細胞接着は、β2インテグリン/ICAM−1相互作用により媒介された。前出の「細胞接着アッセイ」の箇所で説明したように、2μg/mlの組換えICAM−1を用いたコーティングプレートによりICAM−1への細胞接着をアッセイした。ICAM−1でコーティングされたプレートに対する接着能について、THP−1細胞(単球細胞系)をアッセイした。LFA−1(β2インテグリン)阻止抗体は、MYLK阻害薬ML−7と同様に、THP−1細胞のICAM−1に対する接着を阻害した。ML−7は、投与量に依存して、且つ細胞刺激(例えばPMA又はMCP−1)とは無関係に、接着を阻害した。ICAM−1に対するTHP−1の接着は、ミオシン調節軽鎖(MLC)のリン酸化(MYLKの主要基質)を誘発し、ML−7処理はICAM−1によって誘発されるMLCリン酸化を阻害した。同様に、THP−1細胞におけるMYLK(MYLK−DN)のドミナントネガティブ型の発現も、ICAM−1に対する細胞接着を低減した。単球細胞に発現したMYLKの活性型(MYLK−AC)は、ICAM−1への接着を増大させた。上述のように、細胞移動アッセイを用いてTHP−1細胞の経内皮移動能(内皮細胞の単層を通過するTHP−1細胞の移動)を調査した。ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を成長させ、ボイデンチャンバの上部チャンバ内に単層を形成した。上部チャンバに添加したTHP−1細胞を、刺激(MCP−1)への応答の際に内皮単層とフィルター膜支持体を下部チャンバーへと通過する能力についてアッセイした。MYLKを阻害することにより、ML−7も、投与量に依存してTHP−1細胞の経内皮移動を阻害した。加えて、HUVEC細胞におけるMYLK−DNの発現は、TNFαによって誘発されるTHP−1の経内皮移動を低減させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)MYLKポリペプチド又は核酸を含むアッセイ系を提供する工程と、
(b)試験剤が存在しない場合に系により対照活性がもたらされる条件下で、アッセイ系を試験剤と接触させる工程と、
(c)試験剤の影響を受けたアッセイ系の活性を検出し、試験剤の影響を受けた活性と対照活性との差により試験剤を候補分枝形態形成調節剤として同定する工程と
を含む、候補分枝形態形成調節剤を同定する方法。
【請求項2】
アッセイ系がMYLKポリペプチドを含むスクリーニングアッセイを含み、候補試験剤が小分子モジュレーターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スクリーニングアッセイがキナーゼアッセイである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アッセイ系がMYLKポリペプチドを含む結合アッセイを含み、候補試験剤が抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アッセイ系がMYLK核酸を含む発現アッセイを含み、候補試験剤が核酸モジュレーターである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
核酸モジュレーターがアンチセンスオリゴマーである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
核酸モジュレーターがPMOである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アッセイ系がMYLKを発現する非ヒト動物又は培養細胞を含み、またアッセイ系が、分枝形態形成機能における薬剤の影響による変化を検出するアッセイを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
分枝形態形成が血管形成である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アッセイ系が培養細胞を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
アッセイが、細胞増殖、細胞周期、アポトーシス、細管形成、細胞遊走、細胞出芽及び低酸素状態への反応からなる群から選択される事象を検出する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アッセイが細管形成又は細胞遊走又は細胞出芽を検出するものであって、少なくとも2つの異なる血管形成促進剤による刺激に対する細胞応答を試験する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
アッセイは細管形成又は細胞遊走を検出するものであって、細胞を起炎性血管形成剤により刺激する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
アッセイ系が非ヒト動物を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
アッセイ系が基質移植アッセイ、異種移植アッセイ、中空繊維アッセイ、又は遺伝子組換え腫瘍アッセイを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
アッセイ系が、RIP1-Tag2導入遺伝子を有するマウスを含む遺伝子組換え腫瘍アッセイを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(d)MYLKを発現している非ヒト動物又は培養細胞を含む二次アッセイ系を提供する工程と、
(e)二次アッセイ系を(b)の試験剤又はそれから誘導した作用剤と、試験剤又はそれから誘導した作用剤が存在しない場合に二次アッセイ系により対照活性がもたらされる条件下で接触させる工程と、
(f)作用剤の影響を受けた二次アッセイ系の活性を検出する工程と
をさらに含み、作用剤の影響を受けた二次アッセイ系の活性と対照活性との差により試験剤又はそれから誘導した作用剤が候補分枝形態形成調節剤であることが同定され、 二次アッセイ系が分枝形態形成に関する活性における薬剤の影響による変化を検出する二次アッセイを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
二次アッセイが、血管形成に関連する活性における薬剤の影響を受けた変化を検出する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
二次アッセイ系が培養細胞を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
二次アッセイが、細胞増殖、細胞周期、アポトーシス、細管形成、細胞遊走、細胞出芽及び低酸素状態への反応からなる群から選択される事象を検出する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
二次アッセイが、細管形成又は細胞遊走又は細胞出芽を検出するものであり、少なくとも2つの異なる血管形成促進剤による刺激に対する細胞反応を試験する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
アッセイは細管形成又は細胞遊走を検出するものであって、細胞を起炎性血管形成剤により刺激する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
アッセイ系が非ヒト動物を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
アッセイ系が基質移植アッセイ、異種移植アッセイ、中空繊維アッセイ、又は遺伝子組換え腫瘍アッセイを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
アッセイ系が、RIP1-Tag2導入遺伝子を有するマウスを含む遺伝子組換え腫瘍アッセイを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
哺乳動物の細胞をMYLKポリペプチド又は核酸と特異的に結合する作用剤と接触させることを含む、哺乳動物細胞内の分枝形態形成を調節する方法。
【請求項27】
分枝形態形成に関連する病状を有することが事前に確定されている哺乳動物に作用剤を投与する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
作用剤が小分子モジュレーター、核酸モジュレーター、又は抗体である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
分枝形態形成が血管形成である、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
腫瘍細胞増殖を阻害する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
(a)患者から生体試料を得ること、
(b)試料をMYLK発現用のプローブと接触させること、
(c)工程(b)からの結果を対照と比較すること、及び
(d)工程(c)が疾病の可能性を示しているかどうかを決定すること
を含む、患者の疾病を診断する方法。
【請求項32】
前記疾病が癌である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記癌が、表1に示すように25%より高い発現レベルである癌である、請求項32に記載の方法。

【公表番号】特表2007−525961(P2007−525961A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517381(P2006−517381)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/019485
【国際公開番号】WO2005/003372
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(504408797)エクセリクシス, インク. (65)
【Fターム(参考)】