説明

分枝状炭化水素の製造方法

本発明は、ケトン、アルデヒド、アルコール、カルボン酸、カルボン酸のエステルおよびカルボン酸の無水物、αオレフィン、カルボン酸の金属塩および対応するイオウ化合物、対応する窒素化合物ならびにその組合せから選択される原料油を縮合工程に供し、続いて、水素化脱官能化と異性化の併合工程に供する工程を含む基油の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、分枝状飽和炭化水素の製造方法、特に、生物原料を基にした高品質飽和基油の製造方法に関する。該方法は、生物由来の原料油を縮合させ、次いで、触媒法による水素化脱官能化(hydrodefunctionalization)と異性化の併合工程に供する工程を含む。
【背景技術】
【0002】
技術水準
基油は、潤滑油、たとえば、自動車用潤滑油、工業用潤滑油および潤滑グリースなどの製造に一般的に使用されている。また、基油は、プロセス油、ホワイトオイルおよび金属作動油としても使用されている。最終潤滑油は、一般的に潤滑基油と添加剤からなる。基油は、最終潤滑油の主要構成成分であり、最終潤滑油の性質に大きく寄与する。
【0003】
アメリカ石油協会(American Petroleum Institute)(API)の分類による第III群またはIV群の基油は、現在、高品質潤滑油に使用されている。第III群の基油は、超高粘度指数(VHVI)を有する基油であって、低揮発性と低温流動特性の改善が達成されるような所望の分子サイズと重量分布を有する分枝状パラフィンを得るためのワックス状直鎖状パラフィンの水素化分解および/または異性化によって、原油から最新の方法により製造される基油である。また、第III群の基油には、鉱油の加工処理済留分を主成分とするスラックワックスパラフィンから製造される基油、ならびにフィッシャー・トロプシュ合成によって得られたガス液体燃料(GTL)ワックスおよび(バイオマス液体燃料)BTLワックスから製造される基油も包含される。第IV群の高品質基油は、充分制御された星様分子構造およびきわめて狭い分子量分布を有する合成ポリαオレフィン(PAO)である。
【0004】
また、同様の分類が、ATIEL(Association Technique de l'Iindustrie Europeenne des Lubrifiants、欧州潤滑油業界技術協会(Technical Association of the European Lubricants Industry))によって使用されており、前記分類は、第VI群:ポリ内部オレフィン(PIO)も含む。また、公式の分類に加え、第II以上の群が、この分野で一般的に使用されており、この群は、110より大きいが120未満の粘度指数を有するサルファーフリーの飽和基油を含む。これらの分類によれば、飽和炭化水素には、パラフィン系化合物とナフテン系化合物が包含されるが、芳香族化合物は包含されない。API基油分類を以下の表1に示す。
【0005】
【表1】

【0006】
また、「ベースストックは、単一の製造業者によって同じ規格に製造され(原料供給源または製造業者の所在地とは無関係に)、同じ製造業者の規格を満たし、独自の配合、製品識別番号またはその両方によって特定される潤滑油成分である。ベースストックは、さまざまな異なるプロセスを用いて製造され得る」という、API 1509によるベースストックに対する定義が利用可能である。基油は、API認可油に使用されているベースストックまたはベースストックの配合物である。既知のベースストック型は、1)鉱油(パラフィン系、ナフテン系、芳香族)、2)合成油(ポリαオレフィン、アルキル化芳香族、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、リン酸エステル、シリコーン)、および3)植物油である。
【0007】
すでに長い間、特に、自動車産業界では潤滑油が必要とされており、したがって、改善された技術的特性を有する基油が必要とされている。最終潤滑油に対する規格により、ますます、優れた低温特性、高い酸化安定性および低揮発性を有する製品が求められるようになっている。一般的に、潤滑油基油は、100℃で約3mm2/s以上の動粘度(KV100、100℃で測定したときの動粘度);約−12℃以下の流動点(PP);および約120以上の粘度指数(VI)を有する基油である。低流動点に加え、マルチグレードエンジンオイルには、寒冷気候でエンジンが容易に始動することを保証するための低温流動性も求められる。
【0008】
一般的に、潤滑油の耐用年数はできるだけ長く、したがって、エンドユーザーによる頻繁なエンジンオイル交換が回避され、さらに、車両のメンテナンス間隔が長くなるようにすることが望ましい。乗用車のエンジンオイル交換の間隔は、ここ数年間で約5倍長くなっており、最良で50000kmである。大型車両では、エンジンオイル交換の間隔は現在、すでに、ほぼ100000km程度である。同時に、オイル性能を改善するための添加剤の使用を抑制する規制が強化されている。
【0009】
一般的に使用されている耐磨耗添加剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(これは、通常、ZDDPと略記される)、ZnDTPまたはZDPなどの有機金属塩である。典型的には、鉱油を主成分とする自動車用潤滑油中のZDDP添加剤の割合は、およそ2〜15重量%の範囲である。添加剤を高割合にする目的は、基油の品質の不充分さを補うことである。
【0010】
さらに、鉱油を主成分とする第I群および第II群の基油は、多くの場合、許容不可能に高濃度の芳香族、イオウ分および窒素化合物を含み、また、さらに、高い揮発性と中程度の粘度指数(VI)(これは、粘度−温度依存性である)を有する。しかしながら、車両での触媒式排ガス浄化装置および粒子フィルターの使用の増大にともない、高品質自動車用潤滑油の製造において、イオウ分、リンおよび金属を含有する添加剤、またはかかる化合物を含有する基油の使用が制限されている。
【0011】
潤滑油の製造におけるリサイクル油および再生可能原料の使用は、関心の対象となってきた。現在のところ、エステルのみが生物由来の市販の潤滑油に使用されている。エステルの使用は、いくつかの特別な適用用途、たとえば、冷蔵コンプレッサ潤滑油、生分解性作動液、チェーンソー油および金属加工用液用の油などに限定されている。エステル系基油は不安定なため、その使用は、主として付加的規模に限定されている。
【0012】
生物性供給源に由来する出発材料は、通常、多量の酸素を含有しており、酸素含有化合物の例として、脂肪酸、脂肪酸エステル、アルデヒド、第1級アルコールおよびその誘導体が挙げられ得る。欧州特許第457,665号明細書には、酸化鉄含有ボーキサイト触媒を用いて、トリグリセリド、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸塩、および脂肪酸無水物からケトンを製造するための方法が開示されている。米国特許第5,777,183号明細書には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物を金属酸化物助触媒とともに使用し、アルコールを縮合させ、ゲルベアルコールを得るための方法が開示されている。長鎖の炭化水素鎖を有する不飽和で分枝状のアルデヒドまたはケトンの製造方法は、アルデヒドおよびケトンを出発材料とし、アルドール縮合反応を用いて利用可能である。NaOHおよびCa(OH)2などの塩基性均一系触媒、ならびにNa/SiO2などの担持型アルカリ金属は、アルデヒド縮合用の不均一系触媒の一例であり、これは、Kelly,G.J.ら、Green Chemistry,2002,4,392-399に記載されている。
【0013】
酸安定性アルデヒドおよびケトンは、クレメンセン還元によって、対応する炭化水素に還元することができる。アマルガム化亜鉛と塩酸の混合物は、脱酸素化触媒として使用されている。しかしながら、上記の強酸性アマルガム触媒系は、工業規模での基油生産には適していない。強酸性度とバッチプロセスに加え、アルキル化、クラッキングおよび異性化などの制御不能な副反応の可能性が、この反応に関連している。
【0014】
Durand,R.ら、Journal of Catalysis 90(1)(1984),147-149には、硫化物型NiO−MoO3/γ−Al23触媒でのケトンおよびアルコールの水素化脱酸素化によって対応パラフィンを得ることが記載されている。米国特許第5,705,722号明細書には、バイオマス原料油(トール油、桐油、動物性脂肪およびトール油と植物油の配合物など)から、水素処理条件下、CoMoまたはNiMo触媒の存在下で生成物の混合物を得るディーゼル燃料用の添加剤を製造するための方法が記載されている。
【0015】
水素化脱酸素化プロセスでは、慣用的な水素処理触媒、特に、NiMoおよびCoMo系触媒が使用され、少量添加H2S同時供給原料が一般的に使用されるプロセス条件において活性が維持されるように、硫化物型の形態に維持される。しかしながら、特に環境上の理由によりイオウ分の使用の低減の必要性が一般的に存在するため、このような触媒の使用は望ましくない。
【0016】
上記の方法で得られる生成物は、本質的に氷点下の温度で凝固するn−パラフィンであり、したがって基油には不適当である。
【0017】
フィンランド特許第100248号公報には、中間留分を植物油から、植物油のカルボン酸またはトリグリセリドの水素添加によって生成させ、直鎖状ノルマルパラフィンを得た後、前記n−パラフィンの異性化によって分枝状パラフィンを得る工程を含む方法が開示されている。両プロセス工程は、異なる触媒および別々のプロセスユニットを必要とし、これにより、全体的なコストが高くなり、また、収率が低下する。
【0018】
国際公開第2006/100584号パンフレットには、原料油を単一の工程で水素化脱酸素化および水素化異性化することを含む、植物油および動物性脂肪からのディーゼル燃料の製造方法が開示されている。また、米国特許第7,087,152号明細書には、ワックス状無機系炭化水素原料またはフィッシャー・トロプシュワックスを含有する酸素物質(oxygenate)を、原料に添加された該酸素物質によって選択的に活性化される脱ろう触媒を用いて脱ろうさせる方法が開示されている。欧州特許第1549725号明細書は、プロセス工程間に合間なしで水素処理、水素化脱ろう(すなわち、水素化異性化)および/または水素化精製を含む、イオウ分および窒素不純物を含む炭化水素原料油を加工処理するための一体型触媒法による水素化脱ろうプロセスに関する。
【0019】
再生可能な原料を利用して高品質基油が得られ、最も求められている技術的要件を満たし、添加剤を大量に使用することなく潤滑油とエンジンオイルに適した分枝状飽和炭化水素、特に高品質飽和基油を製造するための新たな効率的な方法の必要性が明白に存在する。
【発明の概要】
【0020】
発明の目的
本発明の目的は、分枝状飽和炭化水素の製造方法である。
【0021】
本発明の別の目的は、飽和基油の製造方法である。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、生物由来の出発材料を用いて飽和基油を製造するための方法である。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、生物性出発材料由来の原料油を縮合させた後、水素化脱官能化と異性化の併合工程を行なう基油の製造方法である。
【0024】
定義
カルボン酸およびその誘導体は、脂肪酸およびその誘導体を包含する。脂肪酸およびその誘導体の炭素数は少なくともC4である。したがって、本発明の縮合反応後、反応生成物の鎖長は少なくともC18である。たとえば、C18:1と示すカルボン酸は、1つの二重結合を有するC18鎖を意味する。
【0025】
用語「飽和炭化水素」は、本明細書で用いる場合、パラフィン系およびナフテン系の化合物をいうが、芳香族化合物を除く。パラフィン系化合物は、直鎖状(n−パラフィン)または分枝状(i−パラフィン)のいずれかであり得る。
【0026】
飽和基油は、本明細書において、飽和炭化水素を含むものである。
【0027】
ナフテン系化合物は、環状飽和炭化水素、すなわちシクロパラフィンをいう。かかる環状構造を有する炭化水素は、典型的には、シクロペンタンまたはシクロヘキサンから誘導される。ナフテン系化合物は、単環構造(モノナフテン)もしくは2つの環が孤立した構造(孤立型ジナフテン)、または2つの環の縮合構造(縮合型ジナフテン)もしくは3つ以上の環の縮合構造(多環式ナフテンまたはポリナフテン)で構成されたものであり得る。
【0028】
縮合は、本明細書において、2つの原料油分子が結合してより大きな分子が形成される型の反応をいう。縮合では、原料油分子の炭素鎖が基油に必要なレベルまで、典型的には、少なくともC18の炭化水素鎖長まで伸長される。
【0029】
水素化脱官能化(HDF)は、本明細書において、水素による酸素、イオウおよび窒素原子の除去をいう。生物性出発材料の構造は、使用される触媒および反応条件に応じて、パラフィン系またはオレフィン系のいずれかに変換される。HDF工程により、酸素、窒素およびイオウを含有する不純物は、それぞれ、水、アンモニアおよび硫化水素に変換される。
【0030】
異性化は、本明細書において、分枝状炭化水素(i−パラフィン)が得られる直鎖状炭化水素(n−パラフィン)の水素化異性化をいう。
【0031】
併合水素化脱官能化/異性化工程(CHI)は、本明細書において、水素による酸素、窒素およびイオウ原子の除去とワックス状分子の分枝状異性化ガソリン(炭化水素)への異性化をいう。
【0032】
これに関連して、圧力は、標準大気圧に対するゲージ圧である。
【0033】
元素の周期表の分類は、第1族から第18族まで有するIUPAC周期表形式である。
【0034】
これに関連して、炭素数範囲の幅は、生成物の最大分子と最小分子の炭素数の差+1(FIMS分析のメインピークから測定)をいう。
【0035】
発明の概要
分枝状飽和炭化水素、特に、生物原料を基にした高品質飽和基油の製造のための本発明による方法は、生物由来の出発材料から得られる原料油を縮合工程に供し、酸素、イオウおよび窒素から選択される1個以上のヘテロ原子を含有する炭化水素を含む縮合生成物を得て、次いで、該縮合生成物を、水素化脱官能化と異性化の併合工程(CHI)に供する工程に供し、それにより単一のプロセス工程で異性化とヘテロ原子の除去が同時に行なわれる工程を含む。
【0036】
本発明を添付の図1により説明するが、本発明の範囲を前記図の実施形態に限定されることを望まない。
【0037】
図1に、本発明の好ましい一実施形態を概略的に示す。このプロセスでは、縮合工程が、水素化脱官能化と異性化の併合工程の前に行なわれる。供給槽1から、ヘテロ原子含有原料油流2を縮合反応器3まで通過させた後、縮合流4を併合水素化脱官能化/異性化反応器5まで、水素ガス6と一緒に通過させる。過剰の水素と水素添加されたヘテロ原子は、ガス状流7として除去される。得られた分枝状パラフィン流8を蒸留および/または分離ユニット9まで通過させ、ここで、異なる温度範囲で沸騰する生成物成分、ガス10、ガソリン11、ディーゼル12、および基油13が分離される。また、縮合生成物の一部(4a)は、特に、第1縮合生成物のものの2倍の炭素数を有する重質基油成分の製造が所望される場合、再循環させて縮合反応器3に戻してもよい。
【0038】
種々の留分の蒸留カットは異なり得る。典型的には、ガスは、−162〜36℃の範囲で沸騰するC1〜C4炭化水素を含み、ガソリンは、36〜180℃の範囲で沸騰するC5〜C10炭化水素を含み、ディーゼル燃料は、180〜380℃の範囲で沸騰するC11〜C23炭化水素を含み、基油は、316℃より上の範囲で沸騰する少なくともC18の炭化水素を含む。また、基油は、亜群:316〜413℃の範囲で沸騰するC18〜26のプロセス油として提示され、好ましくは、プロセス油は、C21〜26炭化水素を含み、基油は、413℃より上で沸騰する>C26炭化水素を含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態を概略的に示した図である。
【図2】実施例における生成物の収率分布を示した図である。
【図3】実施例における5mm2/sのVHVI(413〜520℃カット)と本発明の基油(>413℃カット)の炭素数分布を示した図である。
【図4】PAO、VHVIおよび本発明の基油(=KETONE ISOM)のノアック揮発性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、少なくともC18、好ましくはC21〜C48の炭素数を有する分枝状飽和炭化水素を含む高品質基油が、生物由来の出発材料から得られる原料油を縮合させ、続いて、水素化脱酸素化と異性化併合工程に供する本発明による方法によって得られることがわかった。本発明の方法の場合、水素化脱酸素化反応と異性化反応は、水素と、酸性機能および水素添加機能の両方を有する触媒との存在下において、同じ反応器内で首尾よく同時に行なわれ得る。触媒は、典型的には、分子ふるいと金属の組合せを含むものである。
【0041】
縮合用原料油
縮合工程の原料油は、生物由来の出発材料から得られる物質である。原料油は、生物性出発材料に由来するケトン、アルデヒド、アルコール、カルボン酸、カルボン酸のエステルおよびカルボン酸の無水物、カルボン酸から生成されるαオレフィン、カルボン酸の金属塩、および対応するイオウ化合物、対応する窒素化合物ならびにその組合せから選択される。原料油の選択は、使用される縮合反応の型に依存する。
【0042】
好ましくは、原料油は、脂肪酸エステル、脂肪酸無水物、脂肪族アルコール、脂肪族ケトン、脂肪族アルデヒド、天然ワックス、および脂肪酸の金属塩から選択される。また、縮合工程では、二官能性または多官能性原料油、たとえば、ジカルボン酸または、ジオールを含むポリオール、ヒドロキシケトン、ヒドロキシアルデヒド、ヒドロキシカルボン酸、および対応する二官能性または多官能性イオウ化合物、対応する二官能性または多官能性窒素化合物ならびにその組合せが使用され得る。該カルボン酸およびその誘導体の炭素数は、少なくともC4、好ましくはC12〜C24であり、原料油物質は、得られる縮合生成物の炭素数が少なくともC18、好ましくはC21〜C48となるように選択されるが、所望により、さらに重質の基油成分が製造されることもあり得る。
【0043】
生物由来の出発材料から得られる原料油は、本発明記載において生物性出発材料とも称し、
a)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックス、
b)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックスから得られる脂肪酸または遊離脂肪酸、および加水分解、エステル交換または熱分解によるそれらの混合物、
c)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックスから得られるエステル、およびエステル交換によるそれらの混合物、
d)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックスから得られる脂肪酸の金属塩、およびケン化によるそれらの混合物、
e)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックス由来の脂肪酸の無水物、およびそれらの混合物、
f)植物、動物および魚起源の遊離脂肪酸とアルコールとのエステル化によって得られるエステル、
g)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックス由来の脂肪酸の還元生成物として得られる脂肪族アルコールまたはアルデヒド、およびそれらの混合物、
h)リサイクル食品等級の油脂、および、遺伝子操作によって得られる脂肪、油類およびワックス、
i)ジカルボン酸または、ジオールを含むポリオール、ヒドロキシケトン、ヒドロキシアルデヒド、ヒドロキシカルボン酸、および対応する二官能性または多官能性イオウ化合物、対応する二官能性または多官能性窒素化合物、ならびに
j)前記出発材料の混合物
からなる群より選択される。
【0044】
また、生物性出発材料は、藻類、細菌および昆虫由来の対応化合物、ならびに炭水化物から調製されるアルデヒドおよびケトンに由来する出発材料を包含する。
【0045】
好適な生物性出発材料の例としては、魚油(バルト海ニシン(Baltic herring)油、サケ油、ニシン油、マグロ油、アンチョビー油、イワシ油、およびサバ油など);植物油(菜種(rapeseed)油、菜種(colza)油、キャノーラ油、トール油、ヒマワリ種子油、大豆油、コーン油、大麻油、亜麻仁油、オリーブ油、綿実油、からし油、ヤシ油、ピーナッツ油、ヒマシ油、ホホバ種子油、クロヨナ(Pongamia pinnata)種子油、パーム核油、およびココナッツ油など)が挙げられ、さらに、動物性脂肪(ラードおよび獣脂など)、また廃油脂およびリサイクル食品等級の油脂、ならびに遺伝子操作によって作出された脂肪、ワックスおよび油類もまた好適である。油脂に加え、好適な生物由来の出発材料としては、動物性ワックス、たとえば、蜜蝋、シナ蝋(虫白蝋)、シェラックワックス、およびラノリン(羊毛蝋)など、ならびに植物性ワックス、たとえば、カルナウバヤシ油ワックス、ウリクリ(Ouricouri)ヤシ油ワックス、ホホバ種子油、カンデリラワックス、エスパルトワックス、木蝋、および米糠油などが挙げられる。
【0046】
また、生物性出発材料は、遊離脂肪酸および/または脂肪酸エステルおよび/またはその金属塩、または生物性出発材料の架橋生成物を含むものであってもよい。金属塩は、典型的には、アルカリ土類金属またはアルカリ金属の塩である。
【0047】
縮合
縮合工程では、原料油が、少なくともC18の炭素数を有する単官能性または多官能性の化合物に加工処理される。
【0048】
好適な縮合反応は供給原料の分子の官能性に基づき、脱カルボキシル縮合(ケトン化)、アルドール縮合、アルコール縮合(ゲルベ反応)、およびα−オレフィン二重結合と弱いα−水素官能性に基づくラジカル反応である。縮合反応工程は、好ましくは、ケトン化、アルドール縮合、アルコール縮合およびラジカル反応から選択される。好適な縮合反応を、以下に、より詳細に記載する。
【0049】
ケトン化(脱カルボキシル縮合)
ケトン化反応では、原料油中に含まれる脂肪酸の官能基(典型的には、酸基)は互いに反応し、少なくともC18の炭素数を有するケトンが生じる。また、ケトン化は、脂肪酸エステル、脂肪酸無水物、脂肪族アルコール、脂肪族アルデヒド、天然ワックス、および脂肪酸の金属塩を含む原料油でも行なわれ得る。また、ケトン化工程では、ジカルボン酸またはポリオール(たとえば、ジオール)が、脂肪酸のみの場合よりも長い鎖伸張を可能にするさらなる出発材料として使用され得る。この場合、ポリケトン系分子が得られる。ケトン化反応において、圧力は、0〜10MPa、好ましくは0.1〜5MPa、特に好ましくは0.1〜1MPaの範囲であり、一方、温度は、10〜500℃、好ましくは100〜400℃、特に好ましくは300〜400℃の範囲であり、供給流速WHSVは、0.1〜10L/時、好ましくは0.3〜5L/時、特に好ましくは0.3〜3L/時である。ケトン化工程において、任意選択で、担持型金属酸化物触媒が使用され得る。典型的な金属としては、Na、Mg、K、Ca、Sc、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Mo、Rh、Cd、Sn、La、Pb、Bi、および希土類金属が挙げられる。担持体は、典型的には、ラテライト、ボーキサイト、二酸化チタン、シリカおよび/または酸化アルミニウムである。金属は、好ましくは、モリブデン、マンガン、マグネシウム、鉄および/またはカドミウムであり、担持体は、シリカおよび/またはアルミナである。特に好ましくは、金属は、担持体なしの触媒中で酸化物としてのモリブデン、マンガンおよび/またはマグネシウムである。脂肪酸の金属塩(石鹸)のケトン化に特別な触媒は必要とされない。それは、石鹸中に存在する金属がケトン化反応を促進するためである。
【0050】
アルドール縮合
アルドール縮合反応では、供給原料中のアルデヒドおよび/またはケトンが縮合されてヒドロキシアルデヒドまたはヒドロキシケトンが生じた後、水分子の切断により、供給原料に応じて少なくともC18の炭素数の不飽和アルデヒドまたは不飽和ケトンが生成する。飽和または不飽和アルデヒド、ケトン、ヒドロキシアルデヒドおよびその混合物からなる群より選択される少なくとも1種類の成分を含む供給原料、好ましくは、飽和アルデヒドおよびケトンを含む供給原料が使用される。反応は、均一系または不均一系のアルドール縮合触媒の存在下で行なわれる。Na/SiO2などの担持型アルカリ金属触媒が好適な不均一系触媒であり、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、たとえば、NaOH、KOHまたはCa(OH)2が好適な均一系触媒である。低分子量供給原料では、80〜400℃の反応温度範囲、好ましくは低温が使用され、高分子量供給原料では高温が使用される。任意選択で、アルコールなどの溶媒が使用され得る。反応に使用される均一系触媒の量は、1〜20%、好ましくは1.5〜19%(重量基準)で異なり得る。または、アルドール縮合の反応条件は、反応生成物としてアルドールなどのヒドロキシアルデヒドが得られるように調整され、これにより、二重結合の反応に基づくオリゴマー化が最小限となる。少なくともC18の炭素数を有する分枝状不飽和アルデヒドまたはケトンが得られる。
【0051】
アルコール縮合
アルコール縮合反応(好適には、ゲルベ反応)では、供給原料中のアルコールが縮合され、炭化水素流の炭素数が相当増大し、したがって、それぞれ一価および多価アルコールから、少なくともC18の炭素数を有する分枝状単官能性アルコールおよび分枝状多官能性アルコールが得られる。第1級および/または第2級の飽和および/または不飽和アルコール、好ましくは、飽和アルコールを含む供給原料が、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物およびアルコキシドならびに金属酸化物から選択されるゲルベ反応の塩基性触媒と金属塩含有助触媒との組合せの存在下、縮合に供される。塩基性触媒の量は、1〜20%、好ましくは1.5〜10重量%で異なり得る。好適な助触媒としては、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(II)、コバルト(II)、鉛(II)およびパラジウムの塩、酸化第二スズおよび酸化亜鉛が挙げられ、該塩は、水またはアルコールに可溶性の塩であり、好ましくは、硫酸塩および塩化物である。助触媒は、0.05〜1%、特に好ましくは0.1〜0.5%(重量基準)の種々の量で使用される。アルカリ金属水酸化物またはアルコキシド(アルコラート)が、助触媒としての機能を果たす酸化亜鉛または塩化パラジウムとともに好ましく使用される。反応は、200〜300℃、好ましくは240〜260℃で、反応混合物中に存在するアルコールによってもたらされる蒸気圧下で行なわれる。反応中に水分が放出され、前記水分は継続的に分離される。
【0052】
ラジカル反応
ラジカル反応では、供給原料中の飽和カルボン酸の炭素鎖がαオレフィンにより伸張される。ラジカル反応工程において、モル比が1:1の飽和カルボン酸とαオレフィンを含む原料油を、100〜300℃、好ましくは130〜260℃で、反応混合物によってもたらされる蒸気圧下、アルキル系パーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイドまたはパーオキシケタール触媒の存在下で反応させる。ジターシャリーブチルパーオキサイド触媒などのアルキル系パーオキサイドが好ましく使用される。反応に使用される触媒の量は、1〜20%、好ましくは1.5〜10%(重量基準)である。少なくともC18の炭素数を有する分枝状カルボン酸が反応生成物として得られる。
【0053】
縮合生成物
縮合生成物の炭素数は、供給原料の分子の炭素数ならびに縮合反応に依存する。ケトン化反応を用いて得られる縮合生成物の典型的な炭素数は、供給原料の分子の炭素数の合計−1であり、その他の縮合反応を用いて得られる生成物の炭素数は、供給原料の分子の炭素数の合計である。好ましくは、供給原料は、異なる炭化水素鎖長の1〜3種類のみの原料油化合物を含むもの;すなわち、たとえば、C16のみ、またはC18のみ、またはC20のみ、またはC16/C18など、またはC16/C18/C20を含むもののいずれかである。したがって、縮合生成物の炭素数範囲の幅は、典型的には9以下である。縮合工程への供給原料は、縮合生成物の炭素数が少なくともC18となるように選択される。
【0054】
併合水素化脱官能化/異性化(CHI)
ケトン、アルデヒド、アルコールおよびカルボン酸および対応するイオウ化合物、対応する窒素化合物ならびにその組合せから選択される、少なくともC18の炭素数を有する上記の単官能および/または多官能性の化合物を含む飽和および/または不飽和縮合生成物は、得られたら、次いで、酸性機能(分子ふるい)と水素添加金属(任意選択で、結合剤上に担持)とを含む二官能性分子ふるい触媒の存在下での水素化脱官能化と異性化の併合工程(CHI)に供する。結合剤は、本明細書において、担体または担持体を意味する。
【0055】
触媒
併合水素化脱官能化/異性化(CHI)工程において好ましい触媒は、n−パラフィン系のワックス分子を、基油範囲の沸点を有するイソパラフィンに異性化することにより、脱ろうを可能にするものである。CHI工程では、二官能性分子ふるい触媒が使用される。該触媒は、分子ふるい、水素添加/脱水素化金属および任意選択の結合剤を含むものである。
【0056】
分子ふるいは、結晶質シリコアルミノホスフェートおよびアルミノシリケートから選択され、好ましくは、AEL、TON、およびMTTのから選択される型の骨格を含むものから選択される。分子ふるいは、交差する細孔のない平行な細孔を含み、細孔開口部がほぼ4〜7Åであり、交差するチャネルがなく、強力なクラッキング活性を誘導する1次元チャネル系を有するものであり得る。好ましくは、結晶質分子ふるいは、少なくとも1つの10員環チャネルを含み、アルミノシリケート(ゼオライト)またはシリコアルミノホスフェート(SAPO)を主成分とする。少なくとも1つの10員環チャネルを含む好適なゼオライトの例としては、ZSM−11、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48、EU−1が挙げられ、少なくとも1つの10員環チャネルを含む好適なシリコアルミノホスフェートの例としては、SAPO−11およびSAPO−41が挙げられる。好ましい触媒としては、SAPO−11およびZSM−23が挙げられる。SAPO−11は、欧州特許第0985010号明細書にしたがって合成され得る。ZSM−23は、国際公開第2004/080590号パンフレットにしたがって合成され得る。
【0057】
分子ふるいは、典型的には、高温に耐久性であり、かつ最終触媒を形成するための脱ろう条件下での使用に適した結合剤物質と複合体形成されたものであるか、または、結合剤不要(自己結合型)であり得る。結合剤物質は、通常、無機酸化物(シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナなど)、シリカと他の金属酸化物(たとえば、チタニア、マグネシア、トリア、ジルコニアなど)との2成分の組合せ、および該酸化物の3成分の組合せ(シリカ−アルミナ−トリアおよびシリカ−アルミナマグネシアなど)である。最終触媒中の分子ふるいの量は、触媒に対して10〜100重量%、好ましくは15〜80重量%である。
【0058】
前記触媒は二官能性である、すなわち、元素の周期表の第6族金属、第8族〜第10族金属およびその混合物から選択される少なくとも1種類の金属の脱水素化/水素添加成分成分が負荷されている。好ましい金属は第9族〜第10族金属である。特に好ましいのは、Pt、Pdおよびその混合物である。触媒中の金属含有量は、触媒に対して0.1〜30重量%、好ましくは0.2〜20重量%で異なる。金属成分は、任意の適当な既知の方法、たとえば、イオン交換および分解性金属塩を用いた含浸法などを用いて負荷され得る。
【0059】
プロセス条件
縮合生成物は、0.1〜15MPa、好ましくは1〜10MPa、特に好ましくは、2〜8MPaの範囲の圧力下、100〜500℃、好ましくは200〜400℃、特に好ましくは300〜400℃の範囲の温度、0.1〜10L/時、好ましくは0.1〜5L/時、特に好ましくは0.1〜2L/時である流速WHSV、1〜5000NL/L(通常、リットル/リットル)、好ましくは10〜2000NL/L、特に好ましくは100〜1300NL/Lである水素対液状供給原料比で、上記の二官能性分子ふるい触媒の存在下、水素化脱官能化と異性化の併合工程に供される。固定触媒床反応器、たとえば、トリクル床反応器が該反応に好適である。
【0060】
水素化精製
任意選択で、CHI工程で得られた生成物は、生成物の品質を所望される規格に調整するため、水素化精製に供され得る。水素化精製は、任意の潤滑油範囲のオレフィンの飽和ならびに残留ヘテロ原子および着色物質の除去に指向される穏やかな水素処理の一形態である。好適には、水素化精製は、前述の工程とカスケードで行なわれる。典型的には、水素化精製は、約150℃〜350℃、好ましくは180℃〜250℃範囲の温度で、水素化精製触媒の存在下にて行なわれる。全圧は、典型的には3〜20MPa(約400〜3000psig)である。重量空間速度(WHSV)は、典型的には0.1〜5L/時、好ましくは0.5〜3L/時であり、水素処理ガス速度は1〜2000NL/Lである。
【0061】
水素化精製触媒は、元素の周期表の第6族金属、第8族〜第10族金属およびその混合物から選択される少なくとも1種類の金属を含む適切な担持型触媒である。好ましい金属としては、強力な水素添加機能を有する貴金属、特に、白金、パラジウムおよびその混合物が挙げられる。また、金属の混合物をバルク金属触媒として存在させてもよく、この場合、金属の量は触媒に対して30重量%以上である。好適な担持体としては、低酸性金属酸化物、たとえば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアが挙げられ、好ましくは、アルミナである。
【0062】
任意選択の精製工程後、生成物を蒸留および/または分離ユニットに通す。該ユニットでは、異なる温度範囲で沸騰する生成物成分および/または異なる適用用途が意図される生成物成分が互いから分離される。
【0063】
生成物
飽和分枝状炭化水素(典型的には、少なくともC18の炭素数を有するもの)を含む本発明による飽和基油は、生物由来の出発材料を含む供給原料から、出発材料分子の炭素鎖が基油に必要なレベルまで伸張される方法によって製造され得る。比較的長い炭化水素主鎖および制御された分枝レベルのため、本発明の生成物の粘度と低温特性は、非常に良好である。
【0064】
本発明の基油は、2mm2/s〜6mm2/sの範囲の動粘度KV100を有する。C26より大きい炭素数を有し、413℃より高い範囲で沸騰する重質基油の動粘度(KV100)は、約4〜6mm2/sであり、粘度指数(VI)は、流動点(PP)が約−8〜−20℃である場合、約140〜165である。C21〜26の炭素数を有し、356〜413℃の範囲で沸騰する軽質プロセス油では、動粘度(KV100)は約3〜4mm2/sであり、VIは、PPが約−8〜−24℃である場合、約135〜150である。
【0065】
本発明にしたがって得られる生成物は、少なくともC18の炭素数を有する飽和炭化水素を含み、実質的に芳香族化合物を含まない。前記生成物は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも97重量%、最大99重量%の飽和炭化水素を含む。飽和炭化水素は、FIMSによってパラフィン、モノナフテンなどと判定される。典型的には、パラフィンは100%i−パラフィンである。それは、C18以上のn−パラフィンは室温で固形であり、したがって、基油として適したものとはなり得ないためである。したがって、該生成物は、特にi−パラフィンを含むものであり、含有される直鎖状n−パラフィンは、重量基準で5%以下、好ましくは1%以下である。
【0066】
i−パラフィンに加え、2mm2/s〜6mm2/sの動粘度KV100を有する本発明の基油はモノ−およびジナフテンを含むが、典型的には多環式ナフテンを含まず、ジナフテンは非縮合型である。FIMS分析に基づくと、該生成物は、FIMSで20%未満、好ましくはFIMSで10%未満、特に好ましくはFIMSで5%未満のモノナフテン、およびFIMSで2.0%未満、好ましくはFIMSで1.0%未満、特に好ましくはFIMSで0.5%未満の多環式ナフテンを含む。
【0067】
3mm2/s〜6mm2/sの動粘度KV100を有する本発明の基油では、粘度指数は、少なくとも120、好ましくは少なくとも140、特に好ましくは少なくとも150、最大少なくとも165(ASTM D 2270)である。流動点は、−2℃以下、好ましくは−12℃以下、特に好ましくは、−15℃以下(ASTM D 97/5950)である。
【0068】
本発明の基油の炭素数範囲の幅は、9炭素以下、好ましくは7炭素以下、特に好ましくは5炭素以下、最大3炭素(FIMS)である。約50FIMS%超、好ましくは75FIMS%超、特に好ましくは90FIMS%超の基油が、この狭い炭素数範囲に属する炭化水素を含む。
【0069】
本発明の基油では、3mm2/s〜6mm2/sのKV100を有する本生成物の揮発性は、同じ粘度範囲の市販のVHVIおよびPAO製品のものよりも低い。これは、本生成物の揮発性が、DIN 51581−2法(ASTM D 2887 GC蒸留に基づくMathematical Noack法)で測定したとき、2271.2*(KV100)−3.5373重量%以下であることを意味する。
【0070】
本発明による基油低温動粘度CCS−30は、ASTM D 5293法で測定したとき、29.797*(KV100)2.7848cP以下、好ましくは、34.066*(KV100)2.3967cP以下であり、CCS−35は、36.108*(KV100)3.069cP以下、好ましくは50.501*(KV100)2.4918cPである。
【0071】
生物性出発材料を基にした本発明の基油は、再生可能原料の使用の表示とみなされ得る炭素14C同位体を含む。生成物中の総炭素含量の典型的な14C同位体含量(割合)で、完全に生物由来のものは、少なくとも100%である。炭素14C同位体含量は、1950(ASTM D 6866)において、大気中の放射性炭素(炭素14C同位体)含量に基づいて測定される。
【0072】
利点
本発明による方法はいくつかの利点を有する。得られる基油は、再生可能な天然資源に基づいた原料油に由来するものである。本発明の方法の出発材料は、世界中で入手可能であり、さらに、該方法の利用は、たとえば、フィッシャー・トロプシュワックスを製造するGTL技術とは対照的に、相当な初期投資によって制限されない。
【0073】
技術的に利用可能な方法と比較した場合、本発明の方法は、縮合反応工程と、水素化脱官能化/異性化の併合工程(CHI)との組合せを含む。この併合方法は、再生可能な供給源からの経済的かつ効率的な基油の製造方法である。
【0074】
縮合反応では、供給原料の分子の基本炭化水素鎖長が、本質的に、基油適用用途に必要とされる粘度範囲(たとえば、2〜4、4〜6mm2/sのKV100、縮合生成物を再循環させることにより、さらにそれ以上)に達するまで増大される。
【0075】
本発明による方法では、特に、基油、またディーゼルおよびガソリン成分を製造するために、ヘテロ原子を含有する再生可能な生物由来の出発材料を利用する。伝統的な原油に加え、高品質分枝状パラフィン系基油用の完全に新しい原料供給源が、ここに提供される。
【0076】
得られる基油生成物は、その使用と廃棄に関して二酸化炭素ニュートラルである、すなわち、化石出発材料由来の生成物とは対照的に、大気中の二酸化炭素負荷を増加させない。
【0077】
本発明の方法によれば、炭素と水素のみを含む基油が得られ、湿潤条件での前記基油の安定性は、エステルまたは再生可能な天然資源由来でヘテロ原子を含む他の基油よりも高い。パラフィン系の炭化水素成分は、腐食性の酸を形成させるエステルほど容易に分解されない。また、飽和基油の酸化安定性は、不飽和脂肪酸構造単位を含むエステル基油よりも高い。
【0078】
イオウおよび他のヘテロ原子を含まない、無極性で完全飽和の炭化水素成分が得られる。
【0079】
本発明による基油のさらなる利点は、APIの第III群基油の規格を満たすことである。したがって、新たなエンジン試験を行なう必要なく同じ互換的規定にしたがって、他の第III群基油と同様にエンジンオイル配合物に使用され得る。
【0080】
最終潤滑油の規格では、基油に優れた低温特性、高い酸化安定性および低揮発性が求められる。一般的に、潤滑油基油は、約3mm2/s以上の100℃での動粘度(KV100)、約−12℃以下の流動点(PP);および約120以上の粘度指数(VI)を有する基油である。低流動点に加え、マルチグレードエンジンオイルには、寒冷気候でエンジンが容易に始動することを保証するための低温流動性も必要とされる。低温流動性は、−5〜−40℃の温度でのコールド・クランキング・シミュレータ(CCS)試験において、見掛け粘度として示される。約4cStのKV100を有する潤滑油基油は、典型的には、1800cPより小さい−30℃のCCS粘度(CCS−30)を有するものであるのがよく、約5cStのKV100を有する油は、2700cPより小さいCCS−30を有するものであるのがよい。この値が小さいほど良好である。本発明の基油は、きわめて低い低温流動性を有する。一般に、潤滑油基油は、現在使用されている第I群または第II群の従来の軽質中性油のもの以下のノアック揮発性を有するものであるのがよい。
【0081】
本発明の方法によって得られる生成物は、主としてイソパラフィン系である。したがって、粘度指数がきわめて高く、流動点は比較的低い。また、本発明の最終生成物のナフテンは、モノナフテンと非縮合ジナフテンである。先行技術のスラックワックスおよびVHVI生成物では、ジナフテンは、主として縮合型である。縮合型ナフテンのVIは、非縮合型ナフテンよりも良好でない。非縮合型ナフテン環は、そのVIが適度に高いが流動点は低いため、基油の成分として望ましいことが知られている。
【0082】
流動点と粘度指数に加え、イソパラフィンと1〜2員環ナフテンと3〜6員環ナフテンの関係が低温クランキングに主要な役割を果たしているようである。存在する多環式ナフテンの量が多すぎる場合、きわめて粘性の液体として存在するためCCS−30値が高くなる。さらに、水素化異性化後にノルマルパラフィンが存在する場合、結晶化によってCCS−30値が高くなり、したがって液体の流動が抑制される。本発明の生成物には多環式ナフテンがなく、したがって、その低温流動性は鉱油基油と比べて高い。
【0083】
本発明による基油は高い粘度指数を有し、これにより、粘度指数向上剤(VII)または別名粘度調整剤(VM)などの高価な添加剤の必要性が大きく低減される。一般的に、VMは、自動車用エンジン内に非常に多量の沈着物をもたらすことが知られている。また、VIIの量の削減により、大きなコストの節約がもたらされる。
【0084】
さらに、抗酸化剤および流動点降下剤に対する本発明による基油の応答はきわめて高く、したがって、潤滑油の寿命が長くなり、従来の基油を主成分とする潤滑油よりも低温の環境で使用され得る。
【0085】
また、本発明による基油は、無毒性であり、従来の鉱油を主成分とする生成物中に典型的に存在するイオウ、窒素または芳香族化合物を含まないため、エンドユーザーが油または油噴霧に曝露される適用用途において、より安全に使用され得る。
【0086】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、本発明がこれらの実施例のみに限定されないことは明白である。
【実施例】
【0087】
実施例1
ヤシ油由来脂肪酸の飽和ケトンへの縮合
ヤシ油を加水分解し、ヤシ油由来脂肪酸原料油の二重結合を選択的に予備水素添加した。得られた飽和脂肪酸を、MnO2触媒を用いて管状反応器内で、常圧で継続的にケトン化した。反応器の温度を370℃とし、総原料の重量空間速度(WHSV)を約0.8L/時(h-1)とした。C31、C33およびC35の炭素鎖長を有する飽和ケトンの混合物が生成物として得られた。
【0088】
実施例2
ヤシ油由来C16アルコールの縮合
200gの第1級飽和C16脂肪族アルコール(ヘキサデカノール)、塩化パラジウム(5ppmのパラジウム)および12gのナトリウムメトキシレートをParr反応器に投入した。混合を250rpmに、温度を250℃に、および圧力を0.5MPaに調整した。
【0089】
反応中に放出される水分を一掃するため、少量の窒素パージを維持した。縮合反応は、GC分析において縮合アルコールの量が安定するまで行なった。反応後、生成物を塩酸で中和し、水で洗浄し、塩化カルシウムで乾燥させた。C32縮合アルコールが反応生成物として得られた。
【0090】
実施例3
ヤシ油由来脂肪酸の不飽和ケトンへの縮合
遊離脂肪酸をヤシ油から留出した(PFAD)。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の両方を含む原料を、MnO2触媒を用いて管状反応器内で、常圧で継続的にケトン化した。反応器の温度を370℃とし、総原料の重量空間速度(WHSV)を約0.6L/時とした。C31、C33およびC35の炭素鎖長を有する飽和ケトンと不飽和ケトン両方の混合物が生成物として得られた。
【0091】
実施例4
ステアリン酸留分(C1735COOH)の飽和ケトンへの縮合
植物油(亜麻仁油、大豆油および菜種油)の混合物を加水分解および蒸留によって前処理し、炭素数にしたがって脂肪酸留分を得て、C18酸留分の二重結合を選択的に予備水素添加した。得られたステアリン酸を、MnO2担持アルミナ触媒を用いて管状反応器内で、常圧で継続的にケトン化した。反応器の温度を360℃とし、原料のWHSVを0.9L/時とした。12重量%の未変換ステアリン酸を有する飽和C35ケトンが生成物として得られた。
【0092】
実施例5
飽和ヤシ油ケトンの併合水素化脱官能化/異性化
実施例1によるケトン化によって得られた供給原料を、併合水素化脱官能化/異性化に供した。供給原料中、C35ケトンは約3.16重量%の酸素を含有し、C33ケトンは3.34重量%の酸素を含有し、C31ケトンは3.55重量%の酸素を含有し、ヤシ油ケトンは約3.4重量%の酸素を含有していた。CHI工程は、アルミナ結合剤に担持させたPt/ZSM−23触媒の存在下、345℃の温度で4MPaの圧力下、950NL/Lの水素対炭化水素(H2/HC)比および1.1L/時の重量空間速度(WHSV)を用いて行なった。得られた留分、ガス/ガソリン、ディーゼル、基油軽質留分(プロセス油)(356〜413℃)および基油重質留分(>413℃)を減圧下で、別々の留分として留出した。この実施例では、基油留分を高温度でカットし、したがってKV100を5.7mm2/sとした。プロセス条件および生成物の分布を表2に示す。炭化水素(HC)分布は有機生成物相から算出し、水分はヤシ油ケトン原料から算出したものである。生成物は、主としてメチル分枝状イソパラフィンおよび約3〜7%のモノナフテンを含有するものであった。表3に、基油留分の物性を示す。
【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
実施例6
飽和ヤシ油ケトンの併合水素化脱官能化/異性化
実施例1によるケトン化によって得られた供給原料を、水素化脱官能化と異性化の併合工程に供した。CHI工程で用いた触媒は、アルミナ結合剤に担持させたPt/SAPO−11とした。プロセスは、1250NL/LのH2/HC比および0.8L/時のWHSVを用いて、365℃の温度および4MPaの圧力下で行なった。プロセス条件および生成物の分布を表4に示す。炭化水素分布は有機相から算出し、水分はヤシ油ケトンから算出したものである。製造された基油留分の物性を表5に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
実施例7
アルコールの併合水素化脱官能化/異性化
実施例2によるアルコール縮合(ゲルベ)反応によるC16脂肪族アルコールの縮合で得られた2−テトラデシル−オクタデカノールである分枝状C32アルコールを含む原料を、CHI工程に供した。このC32アルコールは、約3.43重量%の酸素を含有していた。CHI工程は、アルミナ結合剤に担持させたPt/ZSM−23を含む触媒の存在下、366℃の温度および4.2MPaの圧力下で、2000NL/LのH2/HC比および0.5L/時のWHSVを用いて行なった。プロセス条件および生成物の分布を表6に示す。製造された基油留分の物性を表7に示す。
【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
実施例8
不飽和ヤシ油ケトンの併合水素化脱官能化/異性化
実施例3による不飽和ヤシ油脂肪酸のケトン化によって得られた不飽和ヤシ油ケトンをCHI工程に供した。供給原料中、C35ケトンは約3.16重量%の酸素を含有し、C33ケトンは3.34重量%の酸素を含有し、C31ケトンは3.55重量%の酸素を含有し、不飽和ヤシ油ケトンは約3.4重量%の酸素を含有していた。CHI工程は、アルミナ結合剤に担持させたPt/SAPO−11触媒の存在下、356℃の温度および3.9MPaの圧力下で、2000NL/LのH2/HC比および0.5L/時のWHSVを用いて行なった。プロセス条件および生成物の分布を、以下の表8に示す。製造された基油留分の物性を表9に示す。
【0102】
【表8】

【0103】
【表9】

【0104】
実施例9
残留酸性度を有するC35ケトンのCHI
C35の炭素鎖長を有し、約3.16重量%の酸素を含有するケトンと、11.25重量%の酸素を含有し、実施例4に記載の手順にしたがって行なったケトン化の不完全変換によって得られた12重量%のステアリン酸との混合物を、異性化に対する脂肪酸の影響を評価するため、CHIに供した。原料は、全部で4.1重量%の酸素を含有していた。CHIプロセスは、アルミナ結合剤に担持させたPt/ZSM−23の存在下、363℃の温度および4.0MPaの圧力下で、2000NL/LのH2/HC比および0.5L/時のWHSVを用いて行なった。プロセス条件および生成物の分布を表10に示す。炭化水素分布は有機相から算出し、水分は原料のケトンと脂肪酸から算出したものである。製造された基油留分の物性を表11に示す。
【0105】
【表10】

【0106】
【表11】

【0107】
実施例10(比較)
Pt/ZSM−23触媒を用いた飽和ヤシ油ケトンの個別の水素化脱官能化と異性化
実施例1により得られた供給原料を水素化脱官能化に供した。反応は、NiMoあり、4.0MPaの圧力、265℃の温度、1.0L/時のWHSV、500NL/LのH2/HCで行なった。次いで、生成物を、アルミナ結合剤に担持させたPt/ZSM−23の存在下、333℃の温度および4.0MPaの圧力下で、700NL/Lの水素対炭化水素(H2/HC)比および1.4L/時の重量空間速度(WHSV)を用いて実施した異性化に供した。得られたガス/ガソリン、ディーゼル、プロセス油(356〜413℃)および基油(>413℃)留分を蒸留によって分離した。表12に、プロセス条件および生成物の分布を示す。炭化水素分布は有機相から算出したものである。製造された基油留分の物性を表13に示す。
【0108】
【表12】

【0109】
【表13】

【0110】
実施例11(比較)
Pt/SAPO−11触媒を用いた飽和ヤシ油ケトンの個別の水素化脱官能化と異性化
実施例1により得られた供給原料を水素化脱官能化に供した。反応は、NiMoあり、4.0MPaの圧力、265℃の温度、1.0L/時のWHSVおよび500NL/LのH2/HCで行なった。次いで、水素化脱官能化の生成物を、アルミナ結合剤に担持させたPt/SAPO−11の存在下、344℃の温度および3.9MPaの圧力下で、2000NL/LのH2/HC比および0.5L/時のWHSVを用いて実施した異性化に供した。ガス/ガソリン、ディーゼル、プロセス油(356〜413℃)および基油(>413℃)留分を蒸留によって分離した。プロセス条件および生成物の分布を表14に示す。製造された基油留分の物性を表15に示す。
【0111】
【表14】

【0112】
【表15】

【0113】
比較例10および11は、個別のヘテロ原子水素添加およびワックス異性化を用いた別の経路による、生物由来の基油の製造を示す。また、所望の生成物の収率は、−15℃に近い流動点まで同様に流動する生成物の収率を互いに比較した以下の実施例12によって示されるように、CHI工程によって向上する。
【0114】
実施例12
プロセス収率
実施例1〜11に記載のようにして調製した生成物の収率分布を、GC蒸留(ASTM D2887)によって測定した。生成物を留出し、413℃より上で沸騰する留分の流動点を測定した。−15℃に近い流動点を有する生成物の収率を互いに比較した。結果を図2に示す。この実施例では、2種類の異なるSAPO(A)および(B)と2種類の異なるZSM(A)および(B)触媒を使用した。同じ触媒、すなわちSAPO−11(B)またはZSM−23(A)のいずれかでは、基油の収率は、対応するヤシ油ワックス原料(C31、C33、C35n−パラフィン含有)と比べ、ケトン原料(C31、C33、C35ケトン含有)で特に高かった。実施例9および7のZSM−23触媒(=ZSM(B))は、実施例5〜10のZSM−23(=ZSM(A))と比較すると酸性度が低かった。したがって、収率は実施例9および7の方が高い。実施例9では、原料がステアリン酸を含んでいた。したがって、ディーゼル留分の量が多い。
【0115】
実施例13
炭素数分布
基油生成物において、ある炭素数範囲の炭化水素の割合は蒸留に依存する。5mm2/sのVHVI(413〜520℃カット)と本発明の基油(>413℃カット)の炭素数分布を図3に示す。本発明による基油の炭素数分布は、C26パラフィンに相当する>413℃で類似した様式で留分をカットすると、従来のVHVI基油のものより狭い。実施例5の基油の炭素数分布は、蒸留において高温をカット(448℃)したため、最も狭い(表3)。これには、主としてi−C35、i−C33およびi−C31が含まれている。
【0116】
最終生成物の炭素数範囲の幅は、最大分子と最小分子の炭素数の差+1(FIMS分析のメインピークから測定)として計算することができる。これは、メインピークが中心ピークであり、さらなる炭素数がこのピークの周囲に、計3、5、7および9個のピークが考慮されるように含まれることを意味する。この狭い炭素数範囲の基油の量を、これらのピークから算出する。
【0117】
狭い炭素数分布に加えて、本発明の基油はまた、図3(炭素数分布)に示されるように、同じ粘度範囲(KV100約5mm/s2)の従来生成物と比べて、含有される高沸点留分の量が多いものである。<C31の炭素数を有する低沸点成分は、異性化でのクラッキングによるものである。高沸点化合物ではVIが向上する。本発明の基油では、「重質留分テール(heavy tail)」がない。VHVI基油は低沸点パラフィンおよび高沸点パラフィンを有し、メインピークはC28とC29である。
【0118】
実施例14
生成物の揮発性
ある炭素数範囲の炭化水素の割合、したがって、基油生成物の揮発性は、蒸留に依存する。PAO、VHVIおよび本発明の基油(=KETONE ISOM)のノアック揮発性を図4に示す。本発明の基油生成物(=KETONE ISOM)の揮発性は、明らかにPAOとVHVIよりも低い。点は、実施例5〜9基油生成物から得たものであり、等式は、べき関数としてExcelプログラムによって得たものである。等式を図4に、べき関数(power)(曲線名)が示すような異なるスタイルで示す。
【0119】
実施例14
低温流動性
寒冷気候でエンジンが容易に始動することを保証するためには、マルチグレードエンジンオイルの低温流動性が必要とされる。低温流動性は、−5〜−40℃の温度でのコールド・クランキング・シミュレータ(CCS)試験において、見掛け粘度として示される。約4cStのKV100を有する潤滑油用基油は、典型的には、1800cPより小さい−30℃のCCS粘度(CCS−30)を有するものであるのがよく、約5cStのKV100を有する油は、2700cPより小さいCCS−30を有するものであるのがよい。この値が小さいほど良好である。表16において、実施例5により作製された本発明の生成物のCCS値を、参照例11、VHVIおよびPAOのものと比較する。本発明の生成物の低温流動性は、−25〜−35℃の温度でのコールド・クランキング・シミュレータ(CCS)試験によって測定したとき、広範な見掛け粘度試験範囲において、その他の生成物のものより良好である。
【0120】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物由来の出発材料から得られるケトン、アルデヒド、アルコール、カルボン酸、カルボン酸のエステルおよびカルボン酸の無水物、αオレフィン、カルボン酸の金属塩および対応するイオウ化合物、対応する窒素化合物ならびにその組合せから選択される原料油を縮合工程に供し、続いて、水素化脱官能化と異性化の併合工程に供する工程を含むことを特徴とする基油の製造方法。
【請求項2】
縮合工程が、ケトン化、アルドール縮合、アルコール縮合およびラジカル反応から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
ケトン化が、0〜10MPaの圧力下、10〜500℃の温度にて担持型金属酸化物触媒の存在下で行なわれ、原料油が、脂肪酸エステル、脂肪酸無水物、脂肪族アルコール、脂肪族アルデヒド、天然ワックス、脂肪酸の金属塩、ジカルボン酸およびポリオールから選択されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
アルドール縮合が、均一系または不均一系のアルドール縮合触媒の存在下、80〜400℃の温度であり、原料油が、アルデヒド、ケトンおよびヒドロキシアルデヒドから選択されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項5】
アルコール縮合が、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物およびアルコキシドならびに金属酸化物から選択される触媒と、金属含有助触媒との組合せの存在下、200〜300℃の温度で行なわれ、原料油が、第1級および/または第2級の飽和および/または不飽和アルコールから選択されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】
ラジカル反応が、100〜300℃の温度にて、アルキル系パーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイドまたはパーオキシケタール触媒の存在下で行なわれ、原料油が、モル比1:1の飽和カルボン酸とαオレフィンから選択されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項7】
水素化脱官能化と異性化の併合工程が、0.1〜15MPaの圧力下、100〜500℃の温度で、アルミノシリケートおよびシリコアルミノホスフェートから選択される少なくとも1種類の分子ふるいと、元素の周期表の第6族および第8〜10族の金属から選択される少なくとも1種類の金属とを含む二官能性触媒の存在下で行なわれることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
水素化脱官能化と異性化の併合工程において、流速WHSVが0.1〜10L/時であり、水素対液状供給原料比が1〜5000NL/Lであることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
二官能性触媒が、ゼオライトおよびシリコアルミノホスフェートから選択される少なくとも1種類の分子ふるいと、元素の周期表の第9族または第10族の金属から選択される少なくとも1種類の金属と、結合剤とを含むことを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
水素化脱官能化と異性化の併合工程後、任意選択の水素化精製工程を行ない、生成物を、異なる温度範囲で沸騰する生成物成分が互いから分離される蒸留および/または分離ユニットに通すことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
原料油が、ケトン、アルデヒド、アルコール、カルボン酸、カルボン酸のエステルおよびカルボン酸の無水物、カルボン酸から生成されるαオレフィン、カルボン酸の金属塩、および対応するイオウ化合物、対応する窒素化合物ならびにその組合せから選択されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
原料油が、
a)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックス、
b)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックスから得られる脂肪酸または遊離脂肪酸、および、加水分解、エステル交換または熱分解によるそれらの混合物、
c)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックスから得られるエステル、および、エステル交換によるそれらの混合物、
d)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックスから得られる脂肪酸の金属塩、および、ケン化によるそれらの混合物、
e)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックス由来の脂肪酸の無水物、および、それらの混合物、
f)植物、動物および魚由来の遊離脂肪酸とアルコールとのエステル化によって得られるエステル、
g)植物性脂肪、植物油、植物性ワックス、動物性脂肪、動物性油、動物性ワックス、魚類脂肪、魚油または魚類系ワックス由来の脂肪酸の還元生成物として得られる脂肪族アルコールまたはアルデヒド、および、それらの混合物、
h)リサイクル食品等級の油脂、および、遺伝子操作によって得られる脂肪、油類およびワックス、
i)ジカルボン酸または、ジオールを含むポリオール、ヒドロキシケトン、ヒドロキシアルデヒド、ヒドロキシカルボン酸、および対応する二官能性または多官能性イオウ化合物、対応する二官能性または多官能性窒素化合物、ならびに
j)前記出発材料の混合物
からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−529176(P2010−529176A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511671(P2010−511671)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050344
【国際公開番号】WO2008/152200
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(505081261)
【Fターム(参考)】