説明

分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物の製造方法

【課題】分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物を穏和な条件下、簡便かつ収率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】末端アセチレン化合物(例えばp-トリルアセチレン)と、第2級ホスフィンオキシド化合物(例えばジフェニルホスフィンオキシド)とを、キレート配位性ホスフィンのパラジウム錯体の存在下で反応させて分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物(例えば[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシド)を得る製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物は、錯体触媒の配位子として用いられるホスフィン類の合成原料、高分子に難燃性を付与する添加剤、重合性のビニルモノマー等として有用な化合物である。例えば、特許文献1には分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物をマグネシウム試薬で重合させて熱安定性の高い高分子化合物を製造する技術が開示されている。非特許文献1にはアルケニルホスフィンオキシドの重合で得られる高分子化合物が透明で非燃性であることが開示され、非特許文献2では、アルケニルホスフィンオキシドの金属錯体の単独重合又は共重合で得られる高分子化合物が溶剤に可溶であり、難燃性を有していることが開示されている。
【0003】
アルケニルホスフィンオキシド化合物は、一般的には第2級ホスフィンオキシドのアセチレン化合物への付加反応により製造することができる。例えば、非特許文献3には、上記付加反応が、Pd(PPh、cis−PdMe(PPh、cis−PdMe(PPhMe、PdMe(PMeまたはPdMe(PEtのパラジウム錯体触媒下の存在下で行われることが開示されている。しかし、非特許文献3に記載の方法は、末端アセチレン化合物との反応の主たる生成物が一般的には直鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物であり、分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物の生成の選択性が極めて低い点で工業的に有利な方法とはいえない。非特許文献4にはニッケル錯体を触媒に用いる方法が開示されているが、パラジウム錯体を用いる場合と基本的に同じ問題点を有している。位置選択性に関するこのような問題点を解決する方法として、ホスフィン酸のような添加物を加えて反応させる方法が、非特許文献4に開示されているが、ホスフィン酸の添加は反応系を複雑にし、副反応を惹起するばかりでなく、生成物の分離に際して添加物の除去を考慮した処理が必要となるため、工業的に有利な方法とはいえない。また、第2級ホスフィンを末端アセチレン化合物に付加させることでアルケニルホスフィンが得られるので、これを過酸化水素で酸化する方法も可能であるが、非特許文献5及び6に示されているように、位置選択性が極めて低い。以上のように、P−H結合を末端アセチレン化合物に付加させる工程を含む公知の方法は、いずれも工業的に極めて不利である。
【特許文献1】US3519607公報
【非特許文献1】Journal of Polymer Science,Part A、1965年、3巻、pp.3439−3449
【非特許文献2】Journal of Polymer Science,Part A、1965年、3巻、pp.3427−3437
【非特許文献3】Organometallics、1996年、15巻、pp.3259−3261
【非特許文献4】Journal of the American Chemical Society、2004年、126巻、pp.5080−5081
【非特許文献5】Journal of Alloys and Compounds、2006年、408−412巻、pp.432−436
【非特許文献6】Journal of Organic Chemistry、2003年、68巻、pp.6554−6565
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、第2級ホスフィンオキシド化合物を末端アセチレン化合物と反応させて、分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物を高い選択率で製造し得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、第2級ホスフィンオキシド化合物と末端アセチレン化合物の付加反応について鋭意研究を重ねてきた。その結果、配位能が高すぎるために多くの反応において触媒を失活させるか触媒活性を大きく低下させると従来信じられてきた1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンのような、下記一般式(1)で示される特定の2座配位性のホスフィンを配位子とするパラジウム錯体が、第2級ホスフィンオキシド化合物と末端アセチレン化合物の付加反応を効率的に進行させ、かつ高い選択性で分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物を製造し得るという当業者にも予測できない格別顕著な効果が奏されることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
すなわち本発明は、一般式(1)
P−A−PR (1)
[式中、Rは、
炭素数12以下のアリール基または
炭素数12以下のアラルキル基を表す。
、R及びRは、同一または異なって、
炭素数12以下のアルキル基、
炭素数12以下のアリール基または
炭素数12以下のアラルキル基を表す。
及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
Aは炭素数1〜15の直鎖状、分枝鎖状または環状の2価の有機基を表す。
、R、R及びR中のアリール基及びアラルキル基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよく、また、R、R、R及びRは官能基で置換されていてもよい。]
で示されるキレート配位性ホスフィンのパラジウム錯体の存在下、一般式(2)
【0007】
【化1】

【0008】
[式中Rは、
炭素数12以下のアルキル基、
炭素数12以下のアリ−ル基、
炭素数12以下のアラルキル基、
炭素数6以下のアルキル基及び炭素数12以下のアリール基からなる群から選ばれた3個の基で置換されたシリル基、
フェロセニル基を表す。
中のアリール基及びアラルキル基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよく、また、Rは官能基で置換されていてもよい。]
で示される末端アセチレン化合物と、一般式(3)
【0009】
【化2】

【0010】
[式中、R及びRは、同一または異なって、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数12以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基を表す。
及びR中のアリール基、アラルキル基を構成する芳香環は複素芳香環であってもよく、R及びRは官能基で置換されていてもよい。]
で示される第2級ホスフィンオキシド化合物とを反応させることにより、一般式(4)
【0011】
【化3】

【0012】
[式中、R、R及びRは、前記と同じ意味を表す。]
で示される分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物を製造する方法を提供する。
【0013】
本明細書において示される各基は、具体的には以下の通りである。
【0014】
炭素数12以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、n−へキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基等の炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖状のアルキル基を例示することができる。
【0015】
炭素数12以下のアリール基としては、フェニル基、p−トリル基、1-又は2−ナフチル基、o−ビフェニル基、m−ビフェニル基、p−ビフェニル基等の炭素数6〜12のアリール基を例示することができる。
【0016】
炭素数12以下のアラルキル基としては、フェニル低級アルキル基、ナフチル低級アルキル基等を例示することができる。
【0017】
フェニル低級アルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアルキル部分が炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基であるフェニルアルキル基を例示することができる。
【0018】
ナフチル低級アルキル基としては、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基等のアルキル部分がメチル基またはエチル基であるナフチルアルキル基を例示することができる。
【0019】
本発明に用いる一般式(1)で示されるキレート配位性ホスフィンにおいて、R及びRの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が互いに結合して形成されるリン原子を含む環構造としては、ホスファシクロペンタン環、ホスファシクロヘキサン環、ジベンゾホスファシクロペンタン環等を例示することができる。
【0020】
本発明に用いる一般式(1)で示されるキレート配位性ホスフィンにおいて、R及びRの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が互いに結合して形成されるリン原子を含む環構造としては、ホスファシクロペンタン環、ホスファシクロヘキサン環、ジベンゾホスファシクロペンタン環等を例示することができる。
【0021】
本発明に用いる一般式(1)で示されるキレート配位性ホスフィンにおいて、Aで表される炭素数1〜15の直鎖状、分枝鎖状または環状の2価の有機基としては、炭素数1〜15の直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基;炭素数2〜15の直鎖状または分枝鎖状のアルケニレン基;炭素数6〜14のアリーレン基;フェロセニレン基;キサンテンジイル基等を挙げることができる。
【0022】
尚、ここで炭素数1〜15の直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、テトラメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基等を挙げることができる。
【0023】
また炭素数2〜15の直鎖状または分枝鎖状のアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、2−ブテン−1,4−ジイル基、1−オクテン−1,2−ジイル基、1−ドデセン−1,2−ジイル基等を挙げることができる。
【0024】
炭素数6〜14のアリーレン基としては、例えば、o−フェニレン基、ビフェニレン基、ビナフチレン基、アントラセニレン基等を挙げることができる。
【0025】
一般式(1)で示されるキレート配位性ホスフィンの具体例としては、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(フェニルメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(フェニルシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,2−ビス(9−ホスファフルオレン−9−イル)エタン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(Binap)、2,3−O−イソプロピリデン−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DIOP)、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン(Xanthophos)等が例示される。
【0026】
一般式(1)で示されるキレート配位性ホスフィンには、例えば、上記一般式(1)においてAが炭素数1〜15(好ましくは炭素数1〜4)のアルキレン基または炭素数6〜14のアリーレン基(好ましくはフェニレン基)であり、R、R、R及びRが、炭素数12以下のアリール基(好ましくはフェニル基)であるかまたはRとR、RとRから水素原子を1原子ずつ除いた残基が夫々、互いに結合してホスファシクロペンタン環を形成している、キレート配位性ホスフィンが含まれる。
【0027】
炭素数6以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、n−へキシル基、イソへキシル基等の炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基を例示することができる。
【0028】
炭素数6以下のアルキル基及び炭素数12以下のアリール基からなる群から選ばれた3個の基で置換されたシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等の、炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基及び炭素数6〜12のアリール基からなる群より選ばれた基が3個置換したシリル基を例示することができる。シリル基上の3個の置換基は、同一でも異なっていてもよい。
【0029】
、R、R、R、R、R及びR中のアリール基、アラルキル基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよく、複素芳香環としては、フラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環等を例示することができる。
【0030】
、R、R及びRは、例えば、1〜2個、好ましくは1個の官能基によって置換されていてもよい。ここで、R、R、R及びRが2個の官能基により置換されている場合、これらの官能基は同一でも異なっていてもよい。
【0031】
、R、R及びRが官能基によって置換されている場合の官能基としては、例えば、炭素数6以下のアルコキシ基、アルキル部分が前記炭素数6以下のアルキル基であるN,N−ジアルキルアミノ基(アミノ基上の2個のアルキル基は、同一でも異なっていてもよい)、ハロゲン原子等を挙げることができる。
【0032】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。
【0033】
炭素数6以下のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、t−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基、イソへキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルコキシ基を例示することができる。
【0034】
、R及びRは、例えば、1〜3個、好ましくは1〜2個の官能基によって置換されていてもよい。ここで、R、R及びRが2個以上の官能基により置換されている場合、これらの官能基は同一でも異なっていてもよい。
【0035】
、R及びRが官能基によって置換されている場合の官能基としては、例えば、炭素数6以下のアルコキシ基;アミノ基;アルキル部分が前記炭素数6以下のアルキル基であるN−アルキルアミノ基;アルキル部分が前記炭素数6以下のアルキル基であるN,N−ジアルキルアミノ基(アミノ基上の2個のアルキル基は、同一でも異なっていてもよい);アルコキシ部分が前記炭素数6以下のアルコキシ基であるアルコキシカルボニル基;アルキル部分が前記炭素数6以下のアルキル基であるN−アルキルアミノカルボニル基(アミノ基上の2個のアルキル基は、同一でも異なっていてもよい);アルキル部分が前記炭素数6以下のアルキル基であるN,N−ジアルキルアミノカルボニル基(アミノ基上の2個のアルキル基は、同一でも異なっていてもよい);ハロゲン原子;シアノ基;ヒドロキシ基;アルキル部分が前記炭素数6以下のアルキル基であるアルキルカルボニル基;アルキル部分が前記炭素数6以下のアルキル基であるアルキルカルボニルオキシ基;アリール部分が炭素数10以下のアリール基であるアロイル基;アリール部分が炭素数10以下のアリール基であるアロイルオキシ基;炭素数6以下のアルキル基及び炭素数12以下のアリール基からなる群から選ばれた3個の基で置換されたシリル基;炭素数6以下のアルキル基及び炭素数12以下のアリール基からなる群から選ばれた3個の基で置換されたシリル基が酸素原子と結合してなるシロキシ基等が挙げられる。
【0036】
炭素数10以下のアリール基としては、フェニル基、p−トリル基、1-又は2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基を例示することができる。
【0037】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
【0038】
本発明の化合物である一般式(4)
【0039】
【化4】

【0040】
[式中、R、R及びRは、前記と同じ意味を表す。]
で示される分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物(以下、この化合物を単に化合物(4)ということもある)は、
一般式(1)
P−A−PR (1)
[式中、R、R、R、R、及びAは、前記と同じ意味を表す。]
で示されるキレート配位性ホスフィンのパラジウム錯体の存在下、一般式(2)
【0041】
【化5】

【0042】
[式中、Rは、前記と同じ意味を表す。]
で示される末端アセチレン化合物を、一般式(3)
【0043】
【化6】

【0044】
[式中、R及びRは、前記と同じ意味を表す。]
で示される第2級ホスフィンオキシド化合物と反応させることにより製造される。
【0045】
パラジウム錯体としては、予め調製されたゼロ価又は2価の各種パラジウム錯体を例示することができ、その具体例としては、PdClL(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdL(PEt(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、Pd(OAc)L(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdClPhL(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdCl(COPh)L(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdMeL(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、Pd(PhCH=CH)L(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdL(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)等を挙げることができる。本明細書中において、Etはエチル基、Acはアセチル基、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す(以下同様)。
【0046】
パラジウム錯体の使用量は、パラジウム原子当たり、一般式(3)の第2級ホスフィンオキシド化合物に対して、通常0.00001〜15モル%、好ましくは0.0005〜10モル%である。
【0047】
本発明に用いるパラジウム錯体は、予め調製することなく、反応系中でキレート配位性ホスフィンと前駆体としてのパラジウム化合物を混合して発生させて用いてもよい。好ましく用いられる前駆体としてのパラジウム化合物としては、種々のゼロ価又は2価のパラジウム化合物を用いることができ、具体例としては、PdCl、KPdCl、NaPdCl、PdCl(PhCN)、PdCl(cod) (codは1,5−シクロオクタジエンを示す)、Pd(OAc)、Pd(dba)・CHCl (dbaはジベンジリデンアセトンを示す)、Pd(PPh等のゼロ価又は2価のパラジウム化合物を好適に用いることができる。パラジウム化合物の使用量は、パラジウム原子当たり、一般式(3)の第2級ホスフィンオキシド化合物に対して、通常0.00001〜15モル%、好ましくは0.0005〜10モル%である。また、前駆体としてのパラジウム化合物に混合するキレート配位性ホスフィンの量は、パラジウム原子1モルに対し、ホスフィン中のリン原子が1〜10モル、好ましくは1〜5モルの範囲になるように選択される。
【0048】
本発明の反応に用いられる一般式(2)で示される末端アセチレン化合物は、公知の化合物であるか、公知の方法に準じて容易に製造できる化合物である。
【0049】
一般式(2)で示される末端アセチレン化合物の具体例としては、プロピン、1−ブチン、1−ヘキシン、t−ブチルアセチレン、1-オクチン、1−ドデシン、フェニルアセチレン、1−又は2−ナフチルアセチレン、p−エチニルビフェニル、プロパルギルベンゼン、(7-オクチン−1−イル)ベンゼン、1−エチニルチオフェン、エチニルフェロセン、トリメチルシリルアセチレン、ジメチルフェニルシリルアセチレン、プロパルギルメチルエーテル、4−t−ブチルジメチルシロキシ−1−ブチン、5−クロロ−1−ペンチン、5−シアノ−1−ペンチン、5−ヘキシン酸メチル、p−フルオロフェニルアセチレン、p−クロロフェニルアセチレン、p−メトキシフェニルアセチレン、p−トリフルオロメチルフェニルアセチレン、4−アクリロイルオキシ−1−ブチン等を例示することができる。
【0050】
一般式(2)で示される末端アセチレン化合物の中では、例えば、対応するRが前記炭素数12以下のアリール基または炭素数12以下(好ましくは1〜6個)のアルキル基を示す末端アセチレン化合物が好ましい。
【0051】
一般式(3)で示される第2級ホスフィンオキシド化合物は、公知の化合物であるか、または公知の方法に準じて容易に製造される。
【0052】
一般式(3)で示される第2級ホスフィンオキシド化合物の具体例としては、ジフェニルホスフィンオキシド、ジ(α−又はβ−ナフチル)ホスフィンオキシド、ジビフェニルホスフィンオキシド、ジ(2−フリル)ホスフィンオキシド、ジ(p−、m−、又はo−アニシル)ホスフィンオキシド、ジ(p−、m−、又はo−トリル)ホスフィンオキシド、フェニル(p−トリル)ホスフィンオキシド等が例示される。
【0053】
一般式(3)で示される第2級ホスフィンオキシド化合物の中では、例えば、対応するR及びRが、同一又は異なって前記炭素数12以下のアリール基(好ましくはフェニル基)を示す第2級ホスフィンオキシド化合物が好ましい。
【0054】
一般式(2)で示される末端アセチレン化合物と一般式(3)で示される第2級ホスフィンオキシド化合物との使用割合は、前者1モルに対して、後者が、通常0.5〜2モル、好ましくは0.8〜1.5モルである。
【0055】
本発明の反応は特に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて溶媒中で実施することもできる。溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒など種々のものが使用できる。また、これらは単独または2種以上の混合物として使用される。
【0056】
上記反応は、冷却下、室温下及び加温下のいずれで行ってもよい。具体的には、通常0℃から250℃、好ましくは50℃から170℃の範囲から選択される。
【0057】
反応時間は、通常30分〜数十時間、好ましくは1〜10時間である。
【0058】
反応混合物からの精製物の分離及び精製は、各種クロマトグラフィー、蒸留或いは再結晶等通常行われる分離手段及び精製手段により容易に達成される。
【発明の効果】
【0059】
本発明の製造方法によれば、一般式(4)で示される分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物を、末端アセチレン化合物及び第2級ホスフィンオキシド化合物から高い選択率で製造することができる。
【0060】
また、本発明の製造方法によれば、一般式(4)で示される分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物を、末端アセチレン化合物及び第2級ホスフィンオキシド化合物から容易にかつ高収率に製造することができ、その単離精製も容易に行うことができるため、工業的に極めて有用である。
【0061】
本発明の方法により製造される、本発明の一般式(4)で示される分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物は、医薬・農薬の製造中間体、高分子添加用難燃剤、錯体触媒の配位子またはその合成原料等として有用である。
【0062】
尚、一般式(4)で示される分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物は、例えば、化合物(1)中のP=O結合を容易に脱酸素し、金属錯体の配位子として有用な対応ホスフィンに容易に変換することができる。尚、この脱酸素反応には、例えば、Fritzcheらの方法(Chemische Berichte、1964年、97巻、p.1988)、今本らの方法(Organic Letters、2001年、3巻、p.87)等、ホスフィンオキシドの還元反応に一般的に用いられる方法に用いられる反応条件を適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
実施例
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0064】
実施例1 p−トリルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(1)
窒素雰囲気下、酢酸パラジウム0.067ミリモル、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン0.10ミリモル(すなわち、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン中のリン原子とパラジウムの比は3:1)、ジフェニルホスフィンオキシド1.33ミリモル及びp−トリルアセチレン1.39ミリモルをトルエン2.5mLに加え、混合物を100℃で3時間攪拌した。得られた反応液をH NMRで分析した結果、化合物(4)において、R及びRがフェニル基、Rがp−トリル基である[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率68%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は2%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は97%であった。
【0065】
比較例1 p−トリルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンに代えてトリフェニルホスフィンを0.20ミリモル(すなわち、トリフェニルホスフィン中のリン原子とパラジウムの比は3:1)用いた他は実施例1と同様に反応させた結果、[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率27%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量も17%に達し、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は61%に過ぎなかった。
【0066】
実施例2 p−トリルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(2)
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンの使用量を0.067ミリモルとした他は実施例1と同様に反応させた結果、[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率53%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は2%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は96%であった。
【0067】
実施例3 p−トリルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(3)
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンに代えて1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンを用いた他は実施例1と同様に反応させた結果、[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率54%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は3%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は95%であった。
【0068】
実施例4 p−トリルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(4)
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンに代えて1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンを用いた他は実施例1と同様に反応させた結果、[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率49%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は2%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は96%であった。
【0069】
実施例5 p−トリルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(5)
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンに代えて1,2−ビス(9−ホスファフルオレン−9−イル)エタンを用いた他は実施例1と同様に反応させた結果、[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率21%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は7%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は75%であった。
【0070】
実施例6 p−トリルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(6)
1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンに代えて1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンを用いた他は実施例1と同様に反応させた結果、[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率56%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は4%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は93%であった。
【0071】
実施例7 1−オクチンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(1)
p−トリルアセチレンに代えて1−オクチンを用いた他は実施例1と同様に反応させた結果、[1−オクテン−2−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率68%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[1−オクテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は1%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は99%であった。
【0072】
実施例8 1−オクチンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(2)
トルエンに代えてプロピオニトリルを用いた他は実施例7と同様に反応させた結果、[1−オクテン−2−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率81%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[1−オクテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は1%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は99%であった。
【0073】
実施例9 1−オクチンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(3)
トルエンに代えてメチルイソブチルケトンを用いた他は実施例7と同様に反応させた結果、[1−オクテン−2−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率77%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[1−オクテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は1%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は99%であった。
【0074】
実施例10 p−トリルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応(7)
トルエンに代えてプロピオニトリルを用いた他は実施例1と同様に反応させた結果、[1−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率88%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−トリル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は2%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は98%であった。
【0075】
実施例11 フェニルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応
p−トリルアセチレンに代えてフェニルアセチレンを用いた他は実施例10と同様に反応させた結果、[1−フェニルエテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率77%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−フェニルエテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は4%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は95%であった。
【0076】
実施例12 p−フルオロフェニルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応
p−トリルアセチレンに代えてp−フルオロフェニルアセチレンを用いた他は実施例10と同様に反応させた結果、[1−(p−フルオロフェニル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率67%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である[2−(p−フルオロフェニル)エテン−1−イル]ジフェニルホスフィンオキシドの生成は認められず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は100%であった。
【0077】
実施例13 フェニルアセチレンとジフェニルホスフィンオキシドとの反応
p−トリルアセチレンに代えてt−ブチルアセチレンを用いた他は実施例10と同様に反応させた結果、(3,3−ジメチル−1−ブテン−2−イル)ジフェニルホスフィンオキシドがジフェニルホスフィンオキシドの仕込み量に対して収率76%で生成していることが判明した。その直鎖状異性体である(3,3−ジメチル−1−ブテン−1−イル)ジフェニルホスフィンオキシドの生成量は2%に過ぎず、分枝及び直鎖状生成物全体に占める分枝鎖状生成物の選択性は97%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
P−A−PR (1)
[式中、Rは、
炭素数12以下のアリール基または
炭素数12以下のアラルキル基を表す。
、R及びRは、同一または異なって、
炭素数12以下のアルキル基、
炭素数12以下のアリール基または
炭素数12以下のアラルキル基を表す。
及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
Aは炭素数1〜15の直鎖状、分枝鎖状または環状の2価の有機基を表す。
、R、R及びR中のアリール基及びアラルキル基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよく、また、R、R、R及びRは官能基で置換されていてもよい。]
で示されるキレート配位性ホスフィンのパラジウム錯体の存在下、一般式(2)
【化1】

[式中Rは、
炭素数12以下のアルキル基;
炭素数12以下のアリ−ル基;
炭素数12以下のアラルキル基;
炭素数6以下のアルキル基及び炭素数12以下のアリール基からなる群から選ばれた3個の基で置換されたシリル基;または
フェロセニル基を表す。
中のアリール基及びアラルキル基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよく、また、Rは官能基で置換されていてもよい。]
で示される末端アセチレン化合物と、一般式(3)
【化2】

[式中、R及びRは、同一または異なって、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数12以下のアリール基、または
炭素数12以下のアラルキル基を表す。
及びR中のアリール基及びアラルキル基を構成する芳香環は複素芳香環であってもよく、R及びRは官能基で置換されていてもよい。]
で示される第2級ホスフィンオキシド化合物とを反応させることにより、一般式(4)
【化3】

[式中、R、R及びRは、前記と同じ意味を表す。]
で示される分枝鎖状アルケニルホスフィンオキシド化合物を製造する方法。

【公開番号】特開2008−222587(P2008−222587A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59928(P2007−59928)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000149561)大八化学工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】