分極抵抗測定方法、腐食速度モニタリング方法及び分極抵抗測定装置
【課題】腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法、該分極抵抗測定方法を用いた腐食速度モニタリング方法及び分極抵抗測定方法に用いる分極抵抗測定装置を提供する。
【解決手段】腐食電流を測定する金属を試料極12とし、前記金属とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を対極14とし、前記試料極12と対極14との間を極微小時間、短絡させた後、直ちに開放し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求める。このようにして求められた分極抵抗を用いることで直接、腐食電流を算出することができる。試料極12の自然腐食状態を大きく乱すことなく分極測定ができるので、この方法を常時監視可能な腐食速度モニタリング法として好適に使用することができる。
【解決手段】腐食電流を測定する金属を試料極12とし、前記金属とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を対極14とし、前記試料極12と対極14との間を極微小時間、短絡させた後、直ちに開放し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求める。このようにして求められた分極抵抗を用いることで直接、腐食電流を算出することができる。試料極12の自然腐食状態を大きく乱すことなく分極測定ができるので、この方法を常時監視可能な腐食速度モニタリング法として好適に使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法、該分極抵抗測定方法を用いた腐食速度モニタリング方法及び分極抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属がある水溶系の環境に置かれた場合の腐食電流を求める方法として、試料極に金属を用い、試料極、対極及び参照電極を用いた3電極法がある。なお本発明において、水溶系とは、水又は水を主成分とする水溶液を言う。
【0003】
3電極法を用いた分極測定から腐食電流を求める方法に分極抵抗法がある。参照電極は試料極の自然状態の腐食電位を測定するために用い、対極と試料極との電位を同じに設定し、その状態から対極の電位を+または−に操作し分極させ、電位、電流を測定し分極抵抗を求める。さらに相関式を用いて分極抵抗から腐食電流を求める。分極を数mVから数十mVにすると、表面の腐食状態をほとんど変えることなく分極測定ができるので腐食モニタリングに適している。
【0004】
また、3電極法を用いた分極測定から腐食電流を求める方法として、交流インピーダンス法がある。通常ポテンシオスタット等を併用し対極を試料極と同じ電位に保ち、周波数の異なる交流を印加することにより、試料極と対極とのインピーダンスが変化し、その抵抗成分を取り出すことで腐食抵抗を求める。さらに相関式を用いて分極抵抗から腐食電流を求める(例えば特許文献2参照)。
【0005】
金属材料の腐食モニタリング方法及び装置に関しては、これまでに多くの提案がなされている。例えば特許文献1には、ボイラー鋼材の腐食状況をモニタリングするための3電極法を用いた分極抵抗の測定装置が開示されている。また特許文献2には、ボイラー、ガスタービンなどの溶融塩付着環境における腐食速度推定に用いる腐食モニタリングセンサー及び測定法が開示されている。また特許文献3には、水系プロセスの管理システムの中で3つの電極を用いた電気化学ノイズ法が開示されている。また特許文献4には、水系における金属の腐食防止方法の中で、自然腐食電位を測定して腐食モニタリングする方法が開示されている。さらに特許文献5には、ポテンシオスタット、3電極を用いて試料極にアノード電流を流し、局部腐食を生じる金属のモニタリング方法及び装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−318962号公報
【特許文献2】特開2003−14682号公報
【特許文献3】特開2005−3635号公報
【特許文献4】特開平11−118703号公報
【特許文献5】特開2004−101349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3電極法を用いた分極測定から腐食電流を求める方法である分極抵抗法又は交流インピーダンス法では、得られた分極抵抗や印加した電圧、電流値から直接腐食速度、腐食電流を求めることができず、得られた分極抵抗等と材料の減肉量などから換算された腐食速度と相関させた係数を用いて腐食速度を求める必要がある。得られた分極抵抗や印加した電圧、電流値から直接腐食速度、腐食電流を求めることができれば好ましいが、これまで分極抵抗や印加した電圧、電流値から直接腐食速度、腐食電流を取得する手法は見出されていない。またこれら腐食速度、腐食電流の取得を簡単に行うことが可能で、またポテンシオスタット又は外部電源などの装置を使用することなく行うことができれば、装置構成が簡単となり、腐食速度モニタリング装置としてより好ましい。
【0008】
また従来の3電極法を用いた腐食モニタリング方法は、参照電極として銀・塩化銀電極のように溶液を用いる汎用参照電極が使用されるため、封液の漏れによる環境汚染が生じる恐れがあり、ボイラー環境など純水環境における腐食モニタリング方法としては適さない。
【0009】
本発明の目的は、腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法、該分極抵抗測定方法を用いた腐食速度モニタリング方法及び分極抵抗測定方法に用いる分極抵抗測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明は、腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法であって、腐食電流を求める金属を試料極とし、前記金属とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を対極とし、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させた後、直ちに開放し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求めることを特徴とする分極抵抗測定方法である。
【0011】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の分極抵抗測定方法において、さらに前記対極と同一の材料からなる固体を参照電極とし、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させるとき、同時に、前記試料極と前記参照電極との間の電位差を測定することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又2に記載の分極抵抗測定方法において、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させることに代え、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて前記試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の分極抵抗測定方法において、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させた後、直ちに開放することに代え、前記試料極と対極との間を短絡させた状態から極微小時間開放し、その後直ちに短絡させることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の本発明は、請求項3に記載の分極抵抗測定方法において、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて前記試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに試料極と対極との間を開放することに代え、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて電圧を印加した状態から極微小時間試料極と対極との間を開放し、その後直ちに電極間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて電圧を印加することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の本発明は、前記試料極及び対極、又は試料極、対極及び参照電極を、腐食電流を求めたい水溶系環境下に置き、請求項1から5のいずれか1の分極抵抗測定方法を用いて金属材料の分極抵抗を測定し、腐食速度をモニタリングすることを特徴とする腐食速度モニタリング方法である。
【0016】
請求項7に記載の本発明は、請求項6に記載の腐食速度モニタリング方法において、前記参照電極は、溶液又は塩溶液を用いない固体材料からなる参照電極であり、測定する水溶系環境下において、性状安定性及び形状安定性に優れることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の本発明は、請求項6又は7に記載の腐食速度モニタリング方法において、前記対極、又は対極及び参照電極がマグネタイトからなり、前記水溶系環境が、100℃以上のボイラー給水であることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の本発明は、腐食電流を求める金属からなる試料極と、前記試料極とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体からなる対極と、前記試料極と前記対極とを極微小時間短絡させた後、開放させるスイッチと、前記試料極と前記対極との間の電位差を検出する電圧計と、前記試料極と前記対極との間を流れる電流を検出する電流計と、電位差及び電流値をオンラインで取り込み可能なデータ処理装置と、を含むことを特徴とする分極抵抗測定装置である。
【0019】
請求項10に記載の本発明は、請求項9に記載の分極抵抗測定装置において、さらに前記対極と同一の固体材料からなる参照電極を備え、前記スイッチは、さらに前記試料極と前記参照電極とを極微小時間短絡させた後、開放し、前記電圧計は、前記試料極と前記対極との間の電位差の検出に代え、前記試料極と前記参照電極との間の電位差を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る分極抵抗測定方法は、試料極と対極との間に瞬間的に高電流を流し、分極抵抗を測定する。このようにして得られる電位電流応答は、内部分極曲線に近似するため、得られる分極抵抗から直接、腐食電流、腐食速度を求めることができる。また分極時間が極微小時間であるので、試料極の腐食状態を自然腐食状態とほぼ同じ状態に維持することができる。この方法は簡単に分極抵抗を測定することができるので、腐食速度のモニタリングに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の分極抵抗測定原理を説明するための電位−電流図及び分極曲線を示す図である。
【図2】本発明の3電極短絡法又は2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリングが可能な3電極方式の腐食速度モニタリング装置1の構成を示す図である。
【図3】本発明の2電極外部電源法を用いて分極抵抗を測定する分極抵抗測定装置2の構成を示す図である。
【図4】本発明の3電極外部電源法を用いて分極抵抗を測定する分極抵抗測定装置3の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例1で使用した2電極短絡法の実験装置の構成図である。
【図6】本発明の実施例1の実験結果を示す図であって、分極時間を4、8、50msとした場合の電位、電流応答の経時変化を示す図である。
【図7】本発明の実施例2の実験結果であって、電位、電流応答から求めた分極抵抗及び腐食電流の経時変化を示す図である。
【図8】本発明の実施例2の実験結果であって、腐食電流から求めた腐食積算量と実際の試験片の質量変化及びICP分光分析から得られた質量変化とを比較した図である。
【図9】本発明の実施例3の実験結果であって、ボイラー水環境条件において電位、電流応答から得られた腐食電流及び腐食電流を用いて求めた累積腐食量の経時変化を示す図である。
【図10】本発明の実施例4の実験結果であって、2電極短絡法による水道水環境の純鉄試料極の電位、電流応答を示す図である。
【図11】本発明の実施例6の実験結果であって、3電極短絡法による水道水環境の軟鋼試料極の電位、電流応答を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法であって、分極測定を外部電源を用いることなく2電極法又は3電極法によって行う。ここで言う外部電源とは、試料極と対極に外部から電圧又は電流を印加するための電源である。本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、ある環境における金属又は電導体の電位はその表面で生じる酸化還元反応で決まり、2つの異種金属の自然腐食電位が異なることを利用するものである。この電位差を用いて試料極と対極とを極微小時間短絡させ、その間の電位、電流変化を測定することにより、分極抵抗、さらには腐食電流を求める。試料極と対極とを短絡させると両電極間には、瞬間的に高電流が流れる。このようにして得られる電位電流応答は、内部分極曲線に近似するため、得られる分極抵抗から直接、腐食電流を求めることができる。腐食電流はファラデーの法則により直接腐食速度に換算される。分極時間を短くすることにより、外部的には乱れをほとんど生じさせない。本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、異種金属接触腐食という腐食現象を逆手に取った分極抵抗測定方法と言える。以下、詳細に説明する。
【0023】
本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、腐食電流を求める金属を試料極とし、前記金属とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を対極とし、試料極と対極との間を極微小時間、短絡させた後、直ちに開放し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求める。このようにして得られる分極抵抗は、従来の分極抵抗法から得られる分極抵抗と異なり、分極抵抗から直接、腐食電流を算出することができる。以下、この方法を2電極短絡法と記す。
【0024】
2電極短絡法において、対極は、水溶系の環境に対して試料極とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を用いる。成分、形状は限定されず、例えば水溶系の環境に対して安定な物質であるマグネタイトや白金を用いることができる。
【0025】
2電極短絡法において、試料極の自然腐食状態を大きく乱すことなく試料極と対極との電位差及び短絡電流を測定するために、試料極と対極との短絡時間をできるだけ短くする。従来の3電極法では、対極と試料極との電位を同じに設定し、その状態から対極の電位を+または−に操作し分極させることで電位、電流を測定する。このため従来の3電極法においては、電極間を流れる電流は比較的小さいが、2電極短絡法においては、電位が異なる試料極と対極との間を短絡させるので電極間に瞬間的に高電流が流れる。このため試料極と対極とを短絡させる時間は、極微小時間とする。後述の実施例に示すように短絡時間は、数ミリ秒(ms)から数十ミリ秒(ms)である。なお2電極短絡法では、試料極と対極の短絡状態の電流と電位差とを別々に測定する。このとき電位、電流測定の測定間隔を短くする。
【0026】
また本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、2電極短絡法を、参照電極を用いた3電極短絡法とすることができる。3電極短絡法は基本的に2電極短絡法と同じであるが、参照電極を備えるため試料極と対極の短絡状態の電流を測定しながら、参照電極と試料極との電位差を直接測定することができる。3電極短絡法で使用する参照電極は、対極と同一の材料からなる固体を用いる。参照電極では、例えば水溶系の環境に対して安定な物質であるマグネタイトや白金を用いることができる。
【0027】
本発明の分極抵抗測定原理は次のように想定される。図1は、本発明の分極抵抗測定原理を説明するための電位−電流図及び分極曲線を示す図である。図1の縦軸は相対電位、横軸は電流の対数である。試料極は水溶系環境である平衡状態になる。このときの電位が腐食電位である。対極も同一の水溶系環境である平衡電位をもつ。この2つの電極が短絡されることにより、瞬間的に2つの電極の電位差V1に見合った短絡電流I1が流れる。その直後2つの電極は、電位差を0にするように分極し、短絡電流も小さくなる。このときの電位差はV2、短絡電流はI2である。次の瞬間に短絡状態を開放すると、電位差V2は徐々に元の状態V1に戻ろうとする。2電極短絡法では、短絡状態の試料極そのものの電位は計測されないので、これらの値から求められる分極抵抗は仮想内部アノード分極曲線、仮想内部カソード分極曲線を合わせたものの直線の傾きを表す。3電極短絡法では試料極と対極との短絡状態の電流差(I1−I2)を測定しながら、参照電極と試料極との電位差(V1−V2)を直接測定することになる。
【0028】
2電極短絡法では、分極抵抗は仮想内部アノード分極曲線、仮想内部カソード分極曲線を合わせたものの直線の傾きで表されるので、仮想内部アノード分極曲線の傾きである分極抵抗値を平均分極抵抗Rp1として式1で表す。また、平均分極抵抗Rp2は電位、電流の切り替え直後に変わる電位差(V3−V2)及び電流差(I1−I3)を用いて式2としても表される。これらの平均分極抵抗Rp1、Rp2、及び1点の電位差、電流値から式3を用いて腐食電流Icorrを求めることができる。一方、3電極短絡法では、短絡状態の試料極そのものの電位が計測されるので、式1及び式2の右辺(1/2)は不要である。
【0029】
Rp1=(1/2)×(V1−V2)/log(I1/I2)・・・(1)
Rp2=(1/2)×(V3−V2)/log(I1/I3)・・・(2)
Icorr=I1×10−(V1/Rp)=I2×10−(V2/Rp)・・・(3)
ここでRp=Rp1 又は Rp=Rp2
【0030】
腐食を受けている試料極の腐食速度R(mm/Year)は、腐食電流を表す式3、ファラデーの法則におけるファラデー定数F=96500C/eq、金属の原子量M、イオン価数n、密度ρ及び試料極の露出面積Aを用いて、式4で計算される。
R=Icorr×((365×24×3600)/(96500×n)×(M/ρ/A)
・・・(4)
【0031】
図2は、3電極短絡法又は2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリングが可能な3電極方式の腐食速度モニタリング装置1の構成を示す図である。ここでは、発電所等に用いられる高温高圧のボイラー給水管11の腐食速度モニタリングを例としている。ボイラー給水管11には一般に炭素鋼又は低合金鋼が用いられる。超純水でpH9前後、酸素濃度7ppb以下の環境で炭素鋼又は低合金鋼の表面にマグネタイト(Fe3O4)が形成される。腐食速度モニタリング装置1は、ボイラー給水管11と同材の試料極12と試料極12とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体材料であるマグネタイトからなる参照電極13及び対極14を備える。これら電極は絶縁具15で絶縁され、ボイラー給水に直接接するように、ボイラー給水管11の一部を取除きその部分に、各電極の表面がボイラー給水管11の内面と同一平面となるように、電極固定具16でボイラー給水管11に固定されている。
【0032】
さらに腐食速度モニタリング装置1は、電極間の電位差、電流を検出する電圧計18、電流計19、電位差及び電流値を取り込むためのA/Dコンバータ20、切換スイッチ21及びパーソナルコンピュータ22を備える。各電極は、導線17を介して切換スイッチ21、電圧計18、電流計19に接続し、電圧計18、電流計19はA/Dコンバータ20を介してパーソナルコンピュータ22と接続し、パーソナルコンピュータ22は、切換スイッチ21及びA/Dコンバータ20を制御する。電圧計18は入力インピーダンスの高いものを、電流計19は無抵抗電流測定器とし、測定器の応答時間の早いものを使用する。なお、切換スイッチ21、電圧計18、電流計19、A/Dコンバータ20、切換スイッチ21の制御、データ処理などを行う装置を組み込んだ専用測定器を用いてもよいことは言うまでもない。腐食速度モニタリング装置1は、参照電極13を使用しなければ2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリング装置として使用することが可能であり、また腐食速度モニタリング装置1から参照電極13を取除けば2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリング装置となる。2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリング装置は、短絡電流と電位差とを同時に測定することはできないが構造が非常に簡単である。
【0033】
腐食速度モニタリング装置1において、電位測定状態から瞬間的に切換スイッチ21を作動させることにより試料極12及び対極14との短絡電流、この状態での参照電極13との電位差を測定し、それらの電位電流応答から分極抵抗を、さらに分極抵抗値から腐食電流が計算で求められる。瞬間的な切換えによって試料極12は自然腐食状態を大きく乱さないまま分極測定がなされるので、長時間の腐食状態を監視できる腐食速度モニタリング装置として優れる。また、腐食速度モニタリング装置1は、試料極12と対極14とを短絡させることで電極間に電圧、電流を印加するので外部電源が不要である。このため設置も簡単であり、また分極抵抗測定、腐食電流の算出も簡単に行うことができる。
【0034】
また、腐食速度モニタリング装置1では、参照電極13にマグネタイトを用いるので、銀・塩化銀電極のように溶液を用いる汎用参照電極と異なり、封液の漏れによる汚染の心配がない。参照電極13が一部溶解などしてこれらが不純物としてボイラー給水に混入すると、プロセスに悪影響を及ぼすけれども、参照電極13にマグネタイトを用いるので仮に参照電極13の一部が溶解しボイラー給水に含まれても、ボイラー給水管11は一般に炭素鋼又は低合金鋼が用いられ、超純水でpH9前後、酸素濃度7ppb以下の環境で炭素鋼又は低合金鋼の表面にマグネタイトやヘマタイトなどの酸化鉄が形成されることからプロセスに悪影響を及ぼさないと考えられる。さらに参照電極13にマグネタイトを用いるので、試料極12の表面に良好なマグネタイトが形成される場合は参照電極13と試料極12との電極間電位は0に近づくので、試料極12の表面にマグネタイトが形成されたことを検知することができる。なお、マグネタイトは、あらゆる温度の水溶系の環境下で成分的、物性的及び形状的にも安定であり、かつマグネタイトは良好な電気伝導性を有するので参照電極として好適に使用することができる。なお、使用環境に応じて、参照電極13及び対極14に白金を用いることができる。
【0035】
本発明に係る第2の分極抵抗測定方法は、前記2電極短絡法及び3電極短絡法の試料極と対極との短絡、開放に代え、試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに電極間を開放する。以下この方法を2電極外部電源法、3電極外部電源法と記す。
【0036】
図3は、2電極外部電源法を用いて分極抵抗測定する分極抵抗測定装置2の構成を示す図、図4は、3電極外部電源法を用いて分極抵抗測定する分極抵抗測定装置3の構成を示す図である。図2に示す腐食速度モニタリング装置1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。分極抵抗測定装置2、分極抵抗測定装置3は、3電極短絡法を用いた腐食速度モニタリング装置1と異なり、試料極12と対極14との間に外部から所定の電圧を印加するための外部電源23を備え、外部電源23と電流計18が直列に接続される。2電極外部電源法及び3電極外部電源法では、2電極短絡法及び3電極短絡法で行う試料極12と対極14との短絡の代わりに、外部電源23を用いて試料極12と対極14との間に所定の電流(高電流)が流れるようにする。この点を除けば、前記2電極短絡法及び3電極短絡法と同じ要領で腐食電流、腐食速度を求めることができる。なお図2、図3中符号24、25、26、27は、試験面、被覆、対極作用面及び溶液を示す。2電極短絡法及び3電極短絡法では、電位差は2つの異種金属の自然腐食電位で決まってしまうが、2電極外部電源法及び3電極外部電源法では、電極間に任意の電圧を印加可能なため、試料極12と対極14との自然腐食電位差が小さい場合に好適に使用することができる。
【0037】
本発明に係る第3の分極抵抗測定方法は、前記2電極短絡法及び3電極短絡法の試料極12と対極14との短絡、開放に代え、試料極12と対極14との間を短絡させた状態から極微小時間開放した後、直ちに短絡させ、この間の電位電流応答から分極抵抗を求め、該分極抵抗から直接、腐食電流を算出する。第3の分極抵抗測定方法は、前記2電極短絡法及び3電極短絡法と同様に、試料極12の分極現象により、分極抵抗を求める方法であり、瞬間的であれば、どの位置から分極させても、分極挙動が同じであることを利用する。前記2電極短絡法及び3電極短絡法は、瞬間的に電極間を短絡、開放するため自然腐食状態に保つことができる。これに対してこの方法は、短絡させた状態から、極微小時間、開放し再度短絡させるため、自然腐食状態を維持することができないが、腐食を加速させることができる。自然腐食状態を維持する必要がない場合、腐食状態を迅速に模擬させたい場合には適する。
【0038】
本発明に係る第4の分極抵抗測定方法は、前記2電極外部電源法、3電極外部電源法の外部電源23を用いて試料極12と対極14との間に所定の電流が流れるように試料極12と対極14との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに試料極12と対極14との間を開放することに代え、試料極12と対極14との間に所定の電流が流れるように外部電源23を用いて電圧を印加した状態から極微小時間試料極12と対極14との間を開放し、その後直ちに電極間に所定の電流が流れるように外部電源23を用いて電圧を印加し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求め、該分極抵抗から直接、腐食電流を算出する。第4の分極抵抗測定方法は、前記2電極外部電源法及び3電極外部電源法と同様に、試料極12の分極現象により、分極抵抗を求める方法であり、瞬間的であれば、どの位置から分極させても、分極挙動が同じであることを利用する。前記2電極外部電源法及び3電極外部電源法は、外部電源23を用いて試料極12と対極14との間に所定の電流が流れるように試料極12と対極14との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに試料極12と対極14との間を開放するため自然腐食状態に保つことができる。これに対してこの方法は、試料極12と対極14との間に所定の電流が流れるように外部電源23を用いて電圧を印加した状態から極微小時間試料極12と対極14との間を開放し、その後直ちに電極間に所定の電流が流れるように外部電源23を用いて電圧を印加するため、自然腐食状態を維持することができないが、腐食を加速させることができる。自然腐食状態を維持する必要がない場合、腐食状態を迅速に模擬させたい場合には適する。
【実施例】
【0039】
実施例1
図5に示す実験装置を使用し、2電極短絡法を用いて分極抵抗方法を行った。図2に示す腐食速度モニタリング装置1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。溶液は水温21℃、pH1の塩酸環境とした。試料極12として純鉄板、対極14としてマグネタイト板を対向させ、1辺が5mmの正方形の試験面24及び対極作用面26とし、周辺を被覆25した後に溶液27に浸漬した。電圧計18、無抵抗電流計19の切換えを4〜100msの範囲で制御した。電位モードにすると試料極12がこの環境で腐食しているときの電位を測定することになる。次ぎに電流モードに切り替え、数msの間、電流測定を行い、再び電位測定に切換えた。このとき変化する電位差及び電流をA/Dコンバータ20で変換し、パーソナルコンピュータ22に取込み保存した。なお数msの分極では試料表面の腐食状態をほとんど乱さない。
【0040】
図6は実施例1の実験結果であり、マグネタイトに対する試料極12の自然腐食電位の状態から、極微小時間の短絡、開放を行った場合の電位差及び短絡電流応答結果を示す図である。短絡(分極)時間は4ms、8ms及び50msの3回とした。2極間を短絡することによって電流値は高い状態から徐々に低下し、分極が進むことが分かる。分極によって2極間の電位差は小さくなるが、短絡を中止し開放すると電位差は徐々に高くなり元の電位差に近づこうとする。短絡前の電位をV1、短絡直後の電流をI1、開放直前の電流をI2、開放直後の電位をV2とする。V3、I3はそれぞれV2、I1の後ろ側にある。
【0041】
実施例2
実施例1と同一の装置を使用した。試料極12として純鉄板、対極14としてマグネタイト板を対向させ、直径4mmの円形の試験面24及び対極作用面26とし、周辺を被覆25した後に21℃、0.5重量%の食塩水溶液の環境に浸漬し、電位、電流応答測定による6時間の腐食試験を行った。1回の分極時間8msとした。分極抵抗値Rp2及び腐食電流値Icorrの経時変化を図7に示した。図7の腐食電流から式4を用いて腐食速度を求め、腐食量を積算した結果、及び表面積455mm2の同一材料の純鉄を用いて6時間の腐食試験を行ったときのICP発光分析及び試験片質量減少量から得られた腐食積算量を図8に示した。表面積455mm2の同一材料の純鉄を用いて2時間の腐食試験を行ったときの試験片質量減少量0.2mg及びICP発光分析から求めた平均腐食速度は66.1×10−8mg/mm2・s、直径4mmの円形面の平均腐食電流は式4を用いて2.6μA、同面積の6時間における腐食積算量は0.017mgであった。図7に示す分極測定で得られた平均腐食電流は2.2μAであり平均腐食電流はよく一致した。さらに図7に示す分極測定で得られた平均腐食速度から求めた6時間における腐食積算量は0.014mgであり、腐食積算量もよく一致した。
【0042】
実施例3
ボイラー水環境である140℃、pH9、溶存酸素濃度20ppb以下の試験溶液を高圧容器内に入れ、純鉄試料極12の電位、電流応答による分極抵抗の測定を、短絡時間8ms、60分の測定間隔で行い、算出した腐食電流から求めた累積腐食量の経時変化を図9に示した。試料極12の表面積を400mm2、マグネタイト対極14の表面積を900mm2とし試料極12と対極14との面積比を変えた。試料極12の表面に形成するマグネタイト皮膜が生長するために腐食量は徐々に低下することが分かる。試験後の試料極12の質量減少量は0.2mgであり、本発明による腐食電流から求めた累積腐食量と良く一致した。
【0043】
実施例4
対極14を白金、試料極12を純鉄として、直径4mmの円形の試験面24及び対極作用面26とし、周辺を被覆25した後に21℃、水道水環境に浸漬し、2電極短絡法により短絡させた状態から極微小時間開放させた場合の純鉄試料極12の電位、電流応答をみた結果を図10に示した。開放時間8ms及び4msの電位電流応答において0.8ms後の電位値V3、電流値I3から式2の分極抵抗を求め、式3から求められる腐食電流は3μAとなった他、極微小時間開放させたときの電位応答が複雑な挙動をとり、試料面の複雑な腐食状態を反映していることが分かった。本手法では瞬間的な切り替えにより、試料面の腐食状態を観察することができることが確かめられた。
【0044】
実施例5
実施例1と同様の装置を使用し2電極短絡法により、対極14としてマグネタイト板、炭素板、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた場合の0.5重量%の食塩水溶液環境の純鉄の腐食電流を求めた。結果を表1に示す。分極時間は8msとした。対極14としてマグネタイト板、炭素板、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた場合の純鉄の腐食電流は、それぞれ2.16μA、2.93μA、1.45μAであり、この値は、実施例2で示す腐食試験による試験片質量減少量から得られる腐食電流2.6μAとよく一致し、本手法の妥当性が確かめられた。
【表1】
【0045】
実施例6
水道水環境において白金の対極14及び参照電極13を用いて軟鋼試料極12の電位、電流応答を、3電極短絡法を用いて求めた結果を図11に示す。対極14及び参照電極13の表面を直径4mmの円形とし、試料極12の表面を直径12mmの円形とした。対極14と試料極12の電位を測り、次に対極14と試料極12を導線17で瞬間的(4ms)に短絡させ、対極14と試料極12に流れる電流及び対極14と短絡させた状態での試料極12と参照電極13の電位を同時に測定した。このときの電位は、回路上プラスとマイナスが逆転する。この試験により、腐食電流は式3を用いて0.02μAと計算された。
【符号の説明】
【0046】
1 腐食電流測定装置
2 分極抵抗測定装置
3 分極抵抗測定装置
11 ボイラー給水管
12 試料電極
13 参照電極
14 対極
15 絶縁具
16 電極固定具
17 導線
18 電圧計
19 電流計
20 A/Dコンバータ
21 切換スイッチ
22 パーソナルコンピュータ
23 外部電源
24 試験面
25 被覆
26 対極作用面
27 溶液
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法、該分極抵抗測定方法を用いた腐食速度モニタリング方法及び分極抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属がある水溶系の環境に置かれた場合の腐食電流を求める方法として、試料極に金属を用い、試料極、対極及び参照電極を用いた3電極法がある。なお本発明において、水溶系とは、水又は水を主成分とする水溶液を言う。
【0003】
3電極法を用いた分極測定から腐食電流を求める方法に分極抵抗法がある。参照電極は試料極の自然状態の腐食電位を測定するために用い、対極と試料極との電位を同じに設定し、その状態から対極の電位を+または−に操作し分極させ、電位、電流を測定し分極抵抗を求める。さらに相関式を用いて分極抵抗から腐食電流を求める。分極を数mVから数十mVにすると、表面の腐食状態をほとんど変えることなく分極測定ができるので腐食モニタリングに適している。
【0004】
また、3電極法を用いた分極測定から腐食電流を求める方法として、交流インピーダンス法がある。通常ポテンシオスタット等を併用し対極を試料極と同じ電位に保ち、周波数の異なる交流を印加することにより、試料極と対極とのインピーダンスが変化し、その抵抗成分を取り出すことで腐食抵抗を求める。さらに相関式を用いて分極抵抗から腐食電流を求める(例えば特許文献2参照)。
【0005】
金属材料の腐食モニタリング方法及び装置に関しては、これまでに多くの提案がなされている。例えば特許文献1には、ボイラー鋼材の腐食状況をモニタリングするための3電極法を用いた分極抵抗の測定装置が開示されている。また特許文献2には、ボイラー、ガスタービンなどの溶融塩付着環境における腐食速度推定に用いる腐食モニタリングセンサー及び測定法が開示されている。また特許文献3には、水系プロセスの管理システムの中で3つの電極を用いた電気化学ノイズ法が開示されている。また特許文献4には、水系における金属の腐食防止方法の中で、自然腐食電位を測定して腐食モニタリングする方法が開示されている。さらに特許文献5には、ポテンシオスタット、3電極を用いて試料極にアノード電流を流し、局部腐食を生じる金属のモニタリング方法及び装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−318962号公報
【特許文献2】特開2003−14682号公報
【特許文献3】特開2005−3635号公報
【特許文献4】特開平11−118703号公報
【特許文献5】特開2004−101349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3電極法を用いた分極測定から腐食電流を求める方法である分極抵抗法又は交流インピーダンス法では、得られた分極抵抗や印加した電圧、電流値から直接腐食速度、腐食電流を求めることができず、得られた分極抵抗等と材料の減肉量などから換算された腐食速度と相関させた係数を用いて腐食速度を求める必要がある。得られた分極抵抗や印加した電圧、電流値から直接腐食速度、腐食電流を求めることができれば好ましいが、これまで分極抵抗や印加した電圧、電流値から直接腐食速度、腐食電流を取得する手法は見出されていない。またこれら腐食速度、腐食電流の取得を簡単に行うことが可能で、またポテンシオスタット又は外部電源などの装置を使用することなく行うことができれば、装置構成が簡単となり、腐食速度モニタリング装置としてより好ましい。
【0008】
また従来の3電極法を用いた腐食モニタリング方法は、参照電極として銀・塩化銀電極のように溶液を用いる汎用参照電極が使用されるため、封液の漏れによる環境汚染が生じる恐れがあり、ボイラー環境など純水環境における腐食モニタリング方法としては適さない。
【0009】
本発明の目的は、腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法、該分極抵抗測定方法を用いた腐食速度モニタリング方法及び分極抵抗測定方法に用いる分極抵抗測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明は、腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法であって、腐食電流を求める金属を試料極とし、前記金属とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を対極とし、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させた後、直ちに開放し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求めることを特徴とする分極抵抗測定方法である。
【0011】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の分極抵抗測定方法において、さらに前記対極と同一の材料からなる固体を参照電極とし、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させるとき、同時に、前記試料極と前記参照電極との間の電位差を測定することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の本発明は、請求項1又2に記載の分極抵抗測定方法において、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させることに代え、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて前記試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の分極抵抗測定方法において、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させた後、直ちに開放することに代え、前記試料極と対極との間を短絡させた状態から極微小時間開放し、その後直ちに短絡させることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の本発明は、請求項3に記載の分極抵抗測定方法において、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて前記試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに試料極と対極との間を開放することに代え、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて電圧を印加した状態から極微小時間試料極と対極との間を開放し、その後直ちに電極間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて電圧を印加することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の本発明は、前記試料極及び対極、又は試料極、対極及び参照電極を、腐食電流を求めたい水溶系環境下に置き、請求項1から5のいずれか1の分極抵抗測定方法を用いて金属材料の分極抵抗を測定し、腐食速度をモニタリングすることを特徴とする腐食速度モニタリング方法である。
【0016】
請求項7に記載の本発明は、請求項6に記載の腐食速度モニタリング方法において、前記参照電極は、溶液又は塩溶液を用いない固体材料からなる参照電極であり、測定する水溶系環境下において、性状安定性及び形状安定性に優れることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の本発明は、請求項6又は7に記載の腐食速度モニタリング方法において、前記対極、又は対極及び参照電極がマグネタイトからなり、前記水溶系環境が、100℃以上のボイラー給水であることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の本発明は、腐食電流を求める金属からなる試料極と、前記試料極とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体からなる対極と、前記試料極と前記対極とを極微小時間短絡させた後、開放させるスイッチと、前記試料極と前記対極との間の電位差を検出する電圧計と、前記試料極と前記対極との間を流れる電流を検出する電流計と、電位差及び電流値をオンラインで取り込み可能なデータ処理装置と、を含むことを特徴とする分極抵抗測定装置である。
【0019】
請求項10に記載の本発明は、請求項9に記載の分極抵抗測定装置において、さらに前記対極と同一の固体材料からなる参照電極を備え、前記スイッチは、さらに前記試料極と前記参照電極とを極微小時間短絡させた後、開放し、前記電圧計は、前記試料極と前記対極との間の電位差の検出に代え、前記試料極と前記参照電極との間の電位差を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る分極抵抗測定方法は、試料極と対極との間に瞬間的に高電流を流し、分極抵抗を測定する。このようにして得られる電位電流応答は、内部分極曲線に近似するため、得られる分極抵抗から直接、腐食電流、腐食速度を求めることができる。また分極時間が極微小時間であるので、試料極の腐食状態を自然腐食状態とほぼ同じ状態に維持することができる。この方法は簡単に分極抵抗を測定することができるので、腐食速度のモニタリングに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の分極抵抗測定原理を説明するための電位−電流図及び分極曲線を示す図である。
【図2】本発明の3電極短絡法又は2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリングが可能な3電極方式の腐食速度モニタリング装置1の構成を示す図である。
【図3】本発明の2電極外部電源法を用いて分極抵抗を測定する分極抵抗測定装置2の構成を示す図である。
【図4】本発明の3電極外部電源法を用いて分極抵抗を測定する分極抵抗測定装置3の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例1で使用した2電極短絡法の実験装置の構成図である。
【図6】本発明の実施例1の実験結果を示す図であって、分極時間を4、8、50msとした場合の電位、電流応答の経時変化を示す図である。
【図7】本発明の実施例2の実験結果であって、電位、電流応答から求めた分極抵抗及び腐食電流の経時変化を示す図である。
【図8】本発明の実施例2の実験結果であって、腐食電流から求めた腐食積算量と実際の試験片の質量変化及びICP分光分析から得られた質量変化とを比較した図である。
【図9】本発明の実施例3の実験結果であって、ボイラー水環境条件において電位、電流応答から得られた腐食電流及び腐食電流を用いて求めた累積腐食量の経時変化を示す図である。
【図10】本発明の実施例4の実験結果であって、2電極短絡法による水道水環境の純鉄試料極の電位、電流応答を示す図である。
【図11】本発明の実施例6の実験結果であって、3電極短絡法による水道水環境の軟鋼試料極の電位、電流応答を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法であって、分極測定を外部電源を用いることなく2電極法又は3電極法によって行う。ここで言う外部電源とは、試料極と対極に外部から電圧又は電流を印加するための電源である。本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、ある環境における金属又は電導体の電位はその表面で生じる酸化還元反応で決まり、2つの異種金属の自然腐食電位が異なることを利用するものである。この電位差を用いて試料極と対極とを極微小時間短絡させ、その間の電位、電流変化を測定することにより、分極抵抗、さらには腐食電流を求める。試料極と対極とを短絡させると両電極間には、瞬間的に高電流が流れる。このようにして得られる電位電流応答は、内部分極曲線に近似するため、得られる分極抵抗から直接、腐食電流を求めることができる。腐食電流はファラデーの法則により直接腐食速度に換算される。分極時間を短くすることにより、外部的には乱れをほとんど生じさせない。本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、異種金属接触腐食という腐食現象を逆手に取った分極抵抗測定方法と言える。以下、詳細に説明する。
【0023】
本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、腐食電流を求める金属を試料極とし、前記金属とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を対極とし、試料極と対極との間を極微小時間、短絡させた後、直ちに開放し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求める。このようにして得られる分極抵抗は、従来の分極抵抗法から得られる分極抵抗と異なり、分極抵抗から直接、腐食電流を算出することができる。以下、この方法を2電極短絡法と記す。
【0024】
2電極短絡法において、対極は、水溶系の環境に対して試料極とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を用いる。成分、形状は限定されず、例えば水溶系の環境に対して安定な物質であるマグネタイトや白金を用いることができる。
【0025】
2電極短絡法において、試料極の自然腐食状態を大きく乱すことなく試料極と対極との電位差及び短絡電流を測定するために、試料極と対極との短絡時間をできるだけ短くする。従来の3電極法では、対極と試料極との電位を同じに設定し、その状態から対極の電位を+または−に操作し分極させることで電位、電流を測定する。このため従来の3電極法においては、電極間を流れる電流は比較的小さいが、2電極短絡法においては、電位が異なる試料極と対極との間を短絡させるので電極間に瞬間的に高電流が流れる。このため試料極と対極とを短絡させる時間は、極微小時間とする。後述の実施例に示すように短絡時間は、数ミリ秒(ms)から数十ミリ秒(ms)である。なお2電極短絡法では、試料極と対極の短絡状態の電流と電位差とを別々に測定する。このとき電位、電流測定の測定間隔を短くする。
【0026】
また本発明に係る第1の分極抵抗測定方法は、2電極短絡法を、参照電極を用いた3電極短絡法とすることができる。3電極短絡法は基本的に2電極短絡法と同じであるが、参照電極を備えるため試料極と対極の短絡状態の電流を測定しながら、参照電極と試料極との電位差を直接測定することができる。3電極短絡法で使用する参照電極は、対極と同一の材料からなる固体を用いる。参照電極では、例えば水溶系の環境に対して安定な物質であるマグネタイトや白金を用いることができる。
【0027】
本発明の分極抵抗測定原理は次のように想定される。図1は、本発明の分極抵抗測定原理を説明するための電位−電流図及び分極曲線を示す図である。図1の縦軸は相対電位、横軸は電流の対数である。試料極は水溶系環境である平衡状態になる。このときの電位が腐食電位である。対極も同一の水溶系環境である平衡電位をもつ。この2つの電極が短絡されることにより、瞬間的に2つの電極の電位差V1に見合った短絡電流I1が流れる。その直後2つの電極は、電位差を0にするように分極し、短絡電流も小さくなる。このときの電位差はV2、短絡電流はI2である。次の瞬間に短絡状態を開放すると、電位差V2は徐々に元の状態V1に戻ろうとする。2電極短絡法では、短絡状態の試料極そのものの電位は計測されないので、これらの値から求められる分極抵抗は仮想内部アノード分極曲線、仮想内部カソード分極曲線を合わせたものの直線の傾きを表す。3電極短絡法では試料極と対極との短絡状態の電流差(I1−I2)を測定しながら、参照電極と試料極との電位差(V1−V2)を直接測定することになる。
【0028】
2電極短絡法では、分極抵抗は仮想内部アノード分極曲線、仮想内部カソード分極曲線を合わせたものの直線の傾きで表されるので、仮想内部アノード分極曲線の傾きである分極抵抗値を平均分極抵抗Rp1として式1で表す。また、平均分極抵抗Rp2は電位、電流の切り替え直後に変わる電位差(V3−V2)及び電流差(I1−I3)を用いて式2としても表される。これらの平均分極抵抗Rp1、Rp2、及び1点の電位差、電流値から式3を用いて腐食電流Icorrを求めることができる。一方、3電極短絡法では、短絡状態の試料極そのものの電位が計測されるので、式1及び式2の右辺(1/2)は不要である。
【0029】
Rp1=(1/2)×(V1−V2)/log(I1/I2)・・・(1)
Rp2=(1/2)×(V3−V2)/log(I1/I3)・・・(2)
Icorr=I1×10−(V1/Rp)=I2×10−(V2/Rp)・・・(3)
ここでRp=Rp1 又は Rp=Rp2
【0030】
腐食を受けている試料極の腐食速度R(mm/Year)は、腐食電流を表す式3、ファラデーの法則におけるファラデー定数F=96500C/eq、金属の原子量M、イオン価数n、密度ρ及び試料極の露出面積Aを用いて、式4で計算される。
R=Icorr×((365×24×3600)/(96500×n)×(M/ρ/A)
・・・(4)
【0031】
図2は、3電極短絡法又は2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリングが可能な3電極方式の腐食速度モニタリング装置1の構成を示す図である。ここでは、発電所等に用いられる高温高圧のボイラー給水管11の腐食速度モニタリングを例としている。ボイラー給水管11には一般に炭素鋼又は低合金鋼が用いられる。超純水でpH9前後、酸素濃度7ppb以下の環境で炭素鋼又は低合金鋼の表面にマグネタイト(Fe3O4)が形成される。腐食速度モニタリング装置1は、ボイラー給水管11と同材の試料極12と試料極12とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体材料であるマグネタイトからなる参照電極13及び対極14を備える。これら電極は絶縁具15で絶縁され、ボイラー給水に直接接するように、ボイラー給水管11の一部を取除きその部分に、各電極の表面がボイラー給水管11の内面と同一平面となるように、電極固定具16でボイラー給水管11に固定されている。
【0032】
さらに腐食速度モニタリング装置1は、電極間の電位差、電流を検出する電圧計18、電流計19、電位差及び電流値を取り込むためのA/Dコンバータ20、切換スイッチ21及びパーソナルコンピュータ22を備える。各電極は、導線17を介して切換スイッチ21、電圧計18、電流計19に接続し、電圧計18、電流計19はA/Dコンバータ20を介してパーソナルコンピュータ22と接続し、パーソナルコンピュータ22は、切換スイッチ21及びA/Dコンバータ20を制御する。電圧計18は入力インピーダンスの高いものを、電流計19は無抵抗電流測定器とし、測定器の応答時間の早いものを使用する。なお、切換スイッチ21、電圧計18、電流計19、A/Dコンバータ20、切換スイッチ21の制御、データ処理などを行う装置を組み込んだ専用測定器を用いてもよいことは言うまでもない。腐食速度モニタリング装置1は、参照電極13を使用しなければ2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリング装置として使用することが可能であり、また腐食速度モニタリング装置1から参照電極13を取除けば2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリング装置となる。2電極短絡法を用いた腐食速度モニタリング装置は、短絡電流と電位差とを同時に測定することはできないが構造が非常に簡単である。
【0033】
腐食速度モニタリング装置1において、電位測定状態から瞬間的に切換スイッチ21を作動させることにより試料極12及び対極14との短絡電流、この状態での参照電極13との電位差を測定し、それらの電位電流応答から分極抵抗を、さらに分極抵抗値から腐食電流が計算で求められる。瞬間的な切換えによって試料極12は自然腐食状態を大きく乱さないまま分極測定がなされるので、長時間の腐食状態を監視できる腐食速度モニタリング装置として優れる。また、腐食速度モニタリング装置1は、試料極12と対極14とを短絡させることで電極間に電圧、電流を印加するので外部電源が不要である。このため設置も簡単であり、また分極抵抗測定、腐食電流の算出も簡単に行うことができる。
【0034】
また、腐食速度モニタリング装置1では、参照電極13にマグネタイトを用いるので、銀・塩化銀電極のように溶液を用いる汎用参照電極と異なり、封液の漏れによる汚染の心配がない。参照電極13が一部溶解などしてこれらが不純物としてボイラー給水に混入すると、プロセスに悪影響を及ぼすけれども、参照電極13にマグネタイトを用いるので仮に参照電極13の一部が溶解しボイラー給水に含まれても、ボイラー給水管11は一般に炭素鋼又は低合金鋼が用いられ、超純水でpH9前後、酸素濃度7ppb以下の環境で炭素鋼又は低合金鋼の表面にマグネタイトやヘマタイトなどの酸化鉄が形成されることからプロセスに悪影響を及ぼさないと考えられる。さらに参照電極13にマグネタイトを用いるので、試料極12の表面に良好なマグネタイトが形成される場合は参照電極13と試料極12との電極間電位は0に近づくので、試料極12の表面にマグネタイトが形成されたことを検知することができる。なお、マグネタイトは、あらゆる温度の水溶系の環境下で成分的、物性的及び形状的にも安定であり、かつマグネタイトは良好な電気伝導性を有するので参照電極として好適に使用することができる。なお、使用環境に応じて、参照電極13及び対極14に白金を用いることができる。
【0035】
本発明に係る第2の分極抵抗測定方法は、前記2電極短絡法及び3電極短絡法の試料極と対極との短絡、開放に代え、試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに電極間を開放する。以下この方法を2電極外部電源法、3電極外部電源法と記す。
【0036】
図3は、2電極外部電源法を用いて分極抵抗測定する分極抵抗測定装置2の構成を示す図、図4は、3電極外部電源法を用いて分極抵抗測定する分極抵抗測定装置3の構成を示す図である。図2に示す腐食速度モニタリング装置1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。分極抵抗測定装置2、分極抵抗測定装置3は、3電極短絡法を用いた腐食速度モニタリング装置1と異なり、試料極12と対極14との間に外部から所定の電圧を印加するための外部電源23を備え、外部電源23と電流計18が直列に接続される。2電極外部電源法及び3電極外部電源法では、2電極短絡法及び3電極短絡法で行う試料極12と対極14との短絡の代わりに、外部電源23を用いて試料極12と対極14との間に所定の電流(高電流)が流れるようにする。この点を除けば、前記2電極短絡法及び3電極短絡法と同じ要領で腐食電流、腐食速度を求めることができる。なお図2、図3中符号24、25、26、27は、試験面、被覆、対極作用面及び溶液を示す。2電極短絡法及び3電極短絡法では、電位差は2つの異種金属の自然腐食電位で決まってしまうが、2電極外部電源法及び3電極外部電源法では、電極間に任意の電圧を印加可能なため、試料極12と対極14との自然腐食電位差が小さい場合に好適に使用することができる。
【0037】
本発明に係る第3の分極抵抗測定方法は、前記2電極短絡法及び3電極短絡法の試料極12と対極14との短絡、開放に代え、試料極12と対極14との間を短絡させた状態から極微小時間開放した後、直ちに短絡させ、この間の電位電流応答から分極抵抗を求め、該分極抵抗から直接、腐食電流を算出する。第3の分極抵抗測定方法は、前記2電極短絡法及び3電極短絡法と同様に、試料極12の分極現象により、分極抵抗を求める方法であり、瞬間的であれば、どの位置から分極させても、分極挙動が同じであることを利用する。前記2電極短絡法及び3電極短絡法は、瞬間的に電極間を短絡、開放するため自然腐食状態に保つことができる。これに対してこの方法は、短絡させた状態から、極微小時間、開放し再度短絡させるため、自然腐食状態を維持することができないが、腐食を加速させることができる。自然腐食状態を維持する必要がない場合、腐食状態を迅速に模擬させたい場合には適する。
【0038】
本発明に係る第4の分極抵抗測定方法は、前記2電極外部電源法、3電極外部電源法の外部電源23を用いて試料極12と対極14との間に所定の電流が流れるように試料極12と対極14との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに試料極12と対極14との間を開放することに代え、試料極12と対極14との間に所定の電流が流れるように外部電源23を用いて電圧を印加した状態から極微小時間試料極12と対極14との間を開放し、その後直ちに電極間に所定の電流が流れるように外部電源23を用いて電圧を印加し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求め、該分極抵抗から直接、腐食電流を算出する。第4の分極抵抗測定方法は、前記2電極外部電源法及び3電極外部電源法と同様に、試料極12の分極現象により、分極抵抗を求める方法であり、瞬間的であれば、どの位置から分極させても、分極挙動が同じであることを利用する。前記2電極外部電源法及び3電極外部電源法は、外部電源23を用いて試料極12と対極14との間に所定の電流が流れるように試料極12と対極14との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに試料極12と対極14との間を開放するため自然腐食状態に保つことができる。これに対してこの方法は、試料極12と対極14との間に所定の電流が流れるように外部電源23を用いて電圧を印加した状態から極微小時間試料極12と対極14との間を開放し、その後直ちに電極間に所定の電流が流れるように外部電源23を用いて電圧を印加するため、自然腐食状態を維持することができないが、腐食を加速させることができる。自然腐食状態を維持する必要がない場合、腐食状態を迅速に模擬させたい場合には適する。
【実施例】
【0039】
実施例1
図5に示す実験装置を使用し、2電極短絡法を用いて分極抵抗方法を行った。図2に示す腐食速度モニタリング装置1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。溶液は水温21℃、pH1の塩酸環境とした。試料極12として純鉄板、対極14としてマグネタイト板を対向させ、1辺が5mmの正方形の試験面24及び対極作用面26とし、周辺を被覆25した後に溶液27に浸漬した。電圧計18、無抵抗電流計19の切換えを4〜100msの範囲で制御した。電位モードにすると試料極12がこの環境で腐食しているときの電位を測定することになる。次ぎに電流モードに切り替え、数msの間、電流測定を行い、再び電位測定に切換えた。このとき変化する電位差及び電流をA/Dコンバータ20で変換し、パーソナルコンピュータ22に取込み保存した。なお数msの分極では試料表面の腐食状態をほとんど乱さない。
【0040】
図6は実施例1の実験結果であり、マグネタイトに対する試料極12の自然腐食電位の状態から、極微小時間の短絡、開放を行った場合の電位差及び短絡電流応答結果を示す図である。短絡(分極)時間は4ms、8ms及び50msの3回とした。2極間を短絡することによって電流値は高い状態から徐々に低下し、分極が進むことが分かる。分極によって2極間の電位差は小さくなるが、短絡を中止し開放すると電位差は徐々に高くなり元の電位差に近づこうとする。短絡前の電位をV1、短絡直後の電流をI1、開放直前の電流をI2、開放直後の電位をV2とする。V3、I3はそれぞれV2、I1の後ろ側にある。
【0041】
実施例2
実施例1と同一の装置を使用した。試料極12として純鉄板、対極14としてマグネタイト板を対向させ、直径4mmの円形の試験面24及び対極作用面26とし、周辺を被覆25した後に21℃、0.5重量%の食塩水溶液の環境に浸漬し、電位、電流応答測定による6時間の腐食試験を行った。1回の分極時間8msとした。分極抵抗値Rp2及び腐食電流値Icorrの経時変化を図7に示した。図7の腐食電流から式4を用いて腐食速度を求め、腐食量を積算した結果、及び表面積455mm2の同一材料の純鉄を用いて6時間の腐食試験を行ったときのICP発光分析及び試験片質量減少量から得られた腐食積算量を図8に示した。表面積455mm2の同一材料の純鉄を用いて2時間の腐食試験を行ったときの試験片質量減少量0.2mg及びICP発光分析から求めた平均腐食速度は66.1×10−8mg/mm2・s、直径4mmの円形面の平均腐食電流は式4を用いて2.6μA、同面積の6時間における腐食積算量は0.017mgであった。図7に示す分極測定で得られた平均腐食電流は2.2μAであり平均腐食電流はよく一致した。さらに図7に示す分極測定で得られた平均腐食速度から求めた6時間における腐食積算量は0.014mgであり、腐食積算量もよく一致した。
【0042】
実施例3
ボイラー水環境である140℃、pH9、溶存酸素濃度20ppb以下の試験溶液を高圧容器内に入れ、純鉄試料極12の電位、電流応答による分極抵抗の測定を、短絡時間8ms、60分の測定間隔で行い、算出した腐食電流から求めた累積腐食量の経時変化を図9に示した。試料極12の表面積を400mm2、マグネタイト対極14の表面積を900mm2とし試料極12と対極14との面積比を変えた。試料極12の表面に形成するマグネタイト皮膜が生長するために腐食量は徐々に低下することが分かる。試験後の試料極12の質量減少量は0.2mgであり、本発明による腐食電流から求めた累積腐食量と良く一致した。
【0043】
実施例4
対極14を白金、試料極12を純鉄として、直径4mmの円形の試験面24及び対極作用面26とし、周辺を被覆25した後に21℃、水道水環境に浸漬し、2電極短絡法により短絡させた状態から極微小時間開放させた場合の純鉄試料極12の電位、電流応答をみた結果を図10に示した。開放時間8ms及び4msの電位電流応答において0.8ms後の電位値V3、電流値I3から式2の分極抵抗を求め、式3から求められる腐食電流は3μAとなった他、極微小時間開放させたときの電位応答が複雑な挙動をとり、試料面の複雑な腐食状態を反映していることが分かった。本手法では瞬間的な切り替えにより、試料面の腐食状態を観察することができることが確かめられた。
【0044】
実施例5
実施例1と同様の装置を使用し2電極短絡法により、対極14としてマグネタイト板、炭素板、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた場合の0.5重量%の食塩水溶液環境の純鉄の腐食電流を求めた。結果を表1に示す。分極時間は8msとした。対極14としてマグネタイト板、炭素板、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた場合の純鉄の腐食電流は、それぞれ2.16μA、2.93μA、1.45μAであり、この値は、実施例2で示す腐食試験による試験片質量減少量から得られる腐食電流2.6μAとよく一致し、本手法の妥当性が確かめられた。
【表1】
【0045】
実施例6
水道水環境において白金の対極14及び参照電極13を用いて軟鋼試料極12の電位、電流応答を、3電極短絡法を用いて求めた結果を図11に示す。対極14及び参照電極13の表面を直径4mmの円形とし、試料極12の表面を直径12mmの円形とした。対極14と試料極12の電位を測り、次に対極14と試料極12を導線17で瞬間的(4ms)に短絡させ、対極14と試料極12に流れる電流及び対極14と短絡させた状態での試料極12と参照電極13の電位を同時に測定した。このときの電位は、回路上プラスとマイナスが逆転する。この試験により、腐食電流は式3を用いて0.02μAと計算された。
【符号の説明】
【0046】
1 腐食電流測定装置
2 分極抵抗測定装置
3 分極抵抗測定装置
11 ボイラー給水管
12 試料電極
13 参照電極
14 対極
15 絶縁具
16 電極固定具
17 導線
18 電圧計
19 電流計
20 A/Dコンバータ
21 切換スイッチ
22 パーソナルコンピュータ
23 外部電源
24 試験面
25 被覆
26 対極作用面
27 溶液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法であって、
腐食電流を求める金属を試料極とし、前記金属とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を対極とし、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させた後、直ちに開放し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求めることを特徴とする分極抵抗測定方法。
【請求項2】
さらに前記対極と同一の材料からなる固体を参照電極とし、
前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させるとき、同時に、前記試料極と前記参照電極との間の電位差を測定することを特徴とする請求項1に記載の分極抵抗測定方法。
【請求項3】
前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させることに代え、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて前記試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加することを特徴とする請求項1又2に記載の分極抵抗測定方法。
【請求項4】
前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させた後、直ちに開放することに代え、前記試料極と対極との間を短絡させた状態から極微小時間開放し、その後直ちに短絡させることを特徴とする請求項1又は2に記載の分極抵抗測定方法。
【請求項5】
前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて前記試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに試料極と対極との間を開放することに代え、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて電圧を印加した状態から極微小時間試料極と対極との間を開放し、その後直ちに電極間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて電圧を印加することを特徴とする請求項3に記載の分極抵抗測定方法。
【請求項6】
前記試料極及び対極、又は試料極、対極及び参照電極を、腐食電流を求めたい水溶系環境下に置き、請求項1から5のいずれか1の分極抵抗測定方法を用いて金属材料の分極抵抗を測定し、腐食速度をモニタリングすることを特徴とする腐食速度モニタリング方法。
【請求項7】
前記参照電極は、溶液又は塩溶液を用いない固体材料からなる参照電極であり、測定する水溶系環境下において、性状安定性及び形状安定性に優れることを特徴とする請求項6に記載の腐食速度モニタリング方法。
【請求項8】
前記対極、又は対極及び参照電極がマグネタイトからなり、前記水溶系環境が、100℃以上のボイラー給水であることを特徴とする請求項6又は7に記載の腐食速度モニタリング方法。
【請求項9】
腐食電流を求める金属からなる試料極と、
前記試料極とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体からなる対極と、
前記試料極と前記対極とを極微小時間短絡させた後、開放させるスイッチと、
前記試料極と前記対極との間の電位差を検出する電圧計と、
前記試料極と前記対極との間を流れる電流を検出する電流計と、
電位差及び電流値をオンラインで取り込み可能なデータ処理装置と、
を含むことを特徴とする分極抵抗測定装置。
【請求項10】
さらに前記対極と同一の固体材料からなる参照電極を備え、
前記スイッチは、さらに前記試料極と前記参照電極とを極微小時間短絡させた後、開放し、
前記電圧計は、前記試料極と前記対極との間の電位差の検出に代え、前記試料極と前記参照電極との間の電位差を検出することを特徴とする請求項9に記載の分極抵抗測定装置。
【請求項1】
腐食電流を直接算出することができる分極抵抗の測定方法であって、
腐食電流を求める金属を試料極とし、前記金属とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体を対極とし、前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させた後、直ちに開放し、この間の電位電流応答から分極抵抗を求めることを特徴とする分極抵抗測定方法。
【請求項2】
さらに前記対極と同一の材料からなる固体を参照電極とし、
前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させるとき、同時に、前記試料極と前記参照電極との間の電位差を測定することを特徴とする請求項1に記載の分極抵抗測定方法。
【請求項3】
前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させることに代え、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて前記試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加することを特徴とする請求項1又2に記載の分極抵抗測定方法。
【請求項4】
前記試料極と対極との間を極微小時間短絡させた後、直ちに開放することに代え、前記試料極と対極との間を短絡させた状態から極微小時間開放し、その後直ちに短絡させることを特徴とする請求項1又は2に記載の分極抵抗測定方法。
【請求項5】
前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて前記試料極と対極との間に極微小時間電圧を印加した後、直ちに試料極と対極との間を開放することに代え、前記試料極と対極との間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて電圧を印加した状態から極微小時間試料極と対極との間を開放し、その後直ちに電極間に所定の電流が流れるように外部電源を用いて電圧を印加することを特徴とする請求項3に記載の分極抵抗測定方法。
【請求項6】
前記試料極及び対極、又は試料極、対極及び参照電極を、腐食電流を求めたい水溶系環境下に置き、請求項1から5のいずれか1の分極抵抗測定方法を用いて金属材料の分極抵抗を測定し、腐食速度をモニタリングすることを特徴とする腐食速度モニタリング方法。
【請求項7】
前記参照電極は、溶液又は塩溶液を用いない固体材料からなる参照電極であり、測定する水溶系環境下において、性状安定性及び形状安定性に優れることを特徴とする請求項6に記載の腐食速度モニタリング方法。
【請求項8】
前記対極、又は対極及び参照電極がマグネタイトからなり、前記水溶系環境が、100℃以上のボイラー給水であることを特徴とする請求項6又は7に記載の腐食速度モニタリング方法。
【請求項9】
腐食電流を求める金属からなる試料極と、
前記試料極とは自然腐食状態の平衡電位が異なる良好な電気伝導性を有する固体からなる対極と、
前記試料極と前記対極とを極微小時間短絡させた後、開放させるスイッチと、
前記試料極と前記対極との間の電位差を検出する電圧計と、
前記試料極と前記対極との間を流れる電流を検出する電流計と、
電位差及び電流値をオンラインで取り込み可能なデータ処理装置と、
を含むことを特徴とする分極抵抗測定装置。
【請求項10】
さらに前記対極と同一の固体材料からなる参照電極を備え、
前記スイッチは、さらに前記試料極と前記参照電極とを極微小時間短絡させた後、開放し、
前記電圧計は、前記試料極と前記対極との間の電位差の検出に代え、前記試料極と前記参照電極との間の電位差を検出することを特徴とする請求項9に記載の分極抵抗測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−220717(P2011−220717A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87096(P2010−87096)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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