説明

分泌された細菌エフェクタータンパク質の薬学的使用

【課題】非神経細胞の治療のための新たな薬学的組成物を提供すること。
【解決手段】ポリペプチド結合体は、タイプIIIまたはタイプIV分泌装置を含む改変された線毛または「針様」構造によって分泌された細菌の注入可能なエフェクタータンパク質、および非神経標的細胞に該結合体をターゲティングするキャリアを含む。エフェクタータンパク質は、細胞内感染、および分泌の欠陥に関連する疾患の治療を含む種々の目的に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分泌され、注入される細菌エフェクタータンパク質の薬学的使用に関する。特に、本発明は、このようなタンパク質ならびに該タンパク質とキャリアとの組み合わせおよび結合体の製造および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経治療の有効性および適切性には多くの欠陥が存在する。現時点では、大多数の神経障害は、治療の介入については対策が不十分である。例えば、現在、虚血または外傷により生じた神経損傷に対する効果的な処置はない。運動ニューロン疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびCJDのようなプリオン障害などの他の神経変性障害は、いずれも現在の治療法によって完全には扱われない。これは、一部は、神経系の複雑性および冒された特定の細胞に対して適切な治療法をターゲティングすることの困難性を反映する。損傷後の神経修復は、別の障害であり、これには効果的な処置がない。
【0003】
多くの神経学的障害は、アポトーシスのような内部プロセスによる神経損傷を刺激する神経外傷から生じることが知られている。スーパーオキシドジスムターゼを、該酵素をニューロンにターゲティングする成分と組み合わせて使用することによって、このような障害を治療することが知られている。しかし、神経疾患の処置のためのさらなる活性な化合物が所望されている。
【0004】
薬学的組成物において、タイプIIIエフェクターを使用することが知られている。
【0005】
特許文献1は、シゲラIpaB、IpaB融合タンパク質または機能的な誘導体またはアンタゴニスト、もしくはアポトーシスを誘起または阻害するために真核生物細胞に送達するためのIpaB DNAを含む組成物を記載している。部位特異的送達は、ターゲティングされた免疫リポソーム内で達成され得る。細胞タイプ特異性は、脂質二重層への細胞タイプ選択的モノクローナル抗体の組み込みによって達成される。この送達方法に関連する不利点としては、免疫リポソームの非常に大きなサイズ、低い安定性、および不十分な組織浸透、ならびに治療に使用するための免疫リポソームの一貫した製造に関する困難性が挙げられる。リポソーム膜の固有の特性によって生じる非標的細胞タイプと免疫リポソームとの融合による高いバックグラウンド効果の可能性もある。
【0006】
特許文献2は、HIV TATタンパク質のタンパク質形質導入ドメインに連結されたタイプIIIエフェクターを記載している。エフェクター−トランスデューサー融合タンパク質をコードするDNA構築物は、組織特異的なウイルスベクターまたはプラスミドベクターを使用して、タイプIII分泌系を含む宿主細胞にターゲティングされる。形質転換された宿主細胞における発現の際、エフェクター−トランスデューサー結合体は分泌され、そして二次的な再分布を受け、そして隣接した細胞によって取り込まれる。
【0007】
HIV TAT形質導入ドメインは、いかなる細胞タイプにも特異的ではなく、したがって、エフェクターのターゲティングは、DNAレベルでのみ行われる。(エフェクタータンパク質をターゲティングすることよりもむしろ)エフェクターDNAをターゲティングすることの不利点としては、エフェクターDNAからエフェクタータンパク質へのプロセシングのタイムラグが挙げられる。ウイルスベクターが使用される場合、免疫原性効果の危険性およびゲノムへのベクターの組込みの危険性がある。
【0008】
特許文献3は、タイプIII分泌系に関連する百日咳菌エフェクタービルレンス遺伝子を記載している。この病原性遺伝子またはコードされたポリペプチドは、ワクチン組成物に用いられ、そして別の分子に結合され得るか、または送達のためのキャリアとともに提供され得る。病原性ポリペプチドは、インビボにおいて、Bordetella病原性ポリヌクレオチドの発現に関するベクターを介して送達され得る。
【0009】
特許文献4は、YopJタンパク質を発現する非病原性生物を含む薬学的組成物を記載し、そしてYopJタンパク質は腸管から胃腸細胞へのYopJの送達のためのキャリアと合わされる。この文献に開示された送達メカニズムは、正常な細菌タイプIII分泌系−すなわち、細菌から標的細胞までの一工程による。
【0010】
特許文献5は、診断/治療目的のための、組換えエルシニアによって産生されるタンパク質の、真核生物細胞のサイトゾルへのターゲティングを記載している。YopEターゲティングシグナルとの融合タンパク質は、エルシニア細胞で発現され、そしてSycEシャペロンの存在下でタイプIII分泌系により真核生物細胞に直接送達される。
【0011】
特許文献6は、免疫診断および治療の目的でタンパク質を真核生物細胞に送達するための組換えエルシニアのインビトロでの使用を記載している。タンパク質は、エルシニアタイプIII分泌系によって認識される送達配列に融合される。
【0012】
望ましくない免疫応答を誘起する危険性のため、治療タンパク質を送達するために細菌を使用することに利点はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5972899号
【特許文献2】WO01/19393号
【特許文献3】WO00/37493号
【特許文献4】WO98/56817号
【特許文献5】WO99/52563号
【特許文献6】米国特許第5965381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、種々の用途のための新たな薬学的組成物の提供を目的とする。さらなる目的は、非神経細胞の治療のための新たな薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明は、新しいクラスの細菌由来タンパク質に基づく新たな治療法を提供する。しかし、本発明の範囲は、天然のタンパク質の特性を保持するフラグメント、誘導体、およびその改変体も包含することを意図する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
したがって、本発明の第1の局面は、タイプIIIまたはタイプIV分泌経路によって分泌される細菌の注入されるエフェクターを含む薬学的組成物である。
【0017】
薬学的組成物は、患者における細胞の亜集団の治療のために使用され得る。特に、細胞の生存を促進すること、細胞に対する損傷を防止すること、細胞に対する損傷を復帰させること、細胞の増殖を促進すること、アポトーシスを阻害すること、細胞からの炎症メディエーターの放出を阻害すること、および細胞の分割を促進することから選択される治療のために、あるいは、細胞の生存を阻害すること、細胞の増殖を阻害すること、細胞の分割を阻害すること、アポトーシスを促進すること、細胞を殺傷すること、細胞からの炎症メディエーターの放出を促進すること、および細胞からの窒素酸化物放出を調節することから選択される治療のために、使用され得る。
【0018】
キャリアは、エフェクタータンパク質を標的細胞にターゲティングするために提供され得る。必要に応じて、上皮細胞、神経細胞、分泌細胞、免疫細胞、内分泌細胞、炎症細胞、外分泌細胞、骨細胞、および心臓血管系の細胞から選択される細胞にエフェクターをターゲティングするために提供され得る。
【0019】
エフェクターの送達のもう1つの手段は、エフェクタータンパク質およびキャリアの結合体によるものであり、この2つはリンカーによって適切に連結される。1つの特に好ましいリンカーは、切断可能であり、そのため、このリンカーは、標的細胞内に侵入した後に切断されて、キャリアからエフェクターを遊離させ得る。このリンカーは、ジスルフィド結合または標的細胞中で見出されるプロテアーゼ部位を含むペプチド配列であり得る。本発明のもう1つの実施態様では、リンカーは、2つの協同タンパク質、すなわちエフェクターに関連する第1の協同タンパク質および細胞ターゲティング成分に関連する第2の協同タンパク質から構成される。これらのそれぞれの部分は、別々に投与され、そしてインビボで組み合わせて、エフェクターを細胞ターゲティング成分に連結し得る。このような2部分リンカーの例は、ボツリヌス菌毒素C2とC2との協同である。
【0020】
本発明の1つの実施態様では、以下でさらに詳述するが、組成物は、切断可能なリンカーによってエフェクタータンパク質に連結された神経細胞ターゲティング成分を含む。好ましくは、神経細胞ターゲティング成分は、エフェクターを神経細胞にターゲティングする第1のドメインおよび該エフェクターを該神経細胞のサイトゾル内にトランスロケートする第2のドメインを含む。
【0021】
本発明の組成物の調製は、タイプIIIエフェクタータンパク質を薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせることによって行われ得る。このような組成物において、エフェクタータンパク質は、単独であり得るか、または(ターゲティング)キャリアと化学的に連結され得る。もう1つの調製方法は、エフェクタータンパク質に対応する第1の領域およびキャリアをコードする第2の領域を有するポリペプチドをコードするDNAを発現することである。第1および第2の領域の間の第3の領域は、標的細胞に存在するタンパク質分解酵素によって切断され、これは必要に応じて含まれる。
【0022】
神経細胞への細菌タイプIIIエフェクタータンパク質の送達のための本発明の特定の組成物は、
該エフェクタータンパク質および神経細胞ターゲティング成分を含み;
該エフェクタータンパク質は切断可能なリンカーによって該神経細胞ターゲティング成分に連結され、
該神経細胞ターゲティング成分は、神経細胞に結合する第1のドメインおよび該神経細胞内に該組成物の該エフェクタータンパク質をトランスロケートする第2のドメインを含む。第1のドメインが、(a)クロストリジウム菌毒素の神経細胞結合ドメイン;ならびに(b)該(a)のドメインの神経細胞結合活性を実質的に保持する(a)のドメインのフラグメント、改変体、および誘導体から選択されることが好ましい。第2のドメインが、(a)ポリペプチド配列を細胞にトランスロケートするクロストリジウム菌神経毒素のドメイン、ならびに(b)該(a)のドメインのトランスロケーティング活性を実質的に保持する(a)のドメインのフラグメント、改変体、および誘導体から選択されることがさらに好ましい。
【0023】
神経症状の治療のために本発明の組成物を使用する場合、リンカーは、神経細胞中で切断されて、ターゲティング成分からエフェクタータンパク質を遊離させ、したがって、ターゲティング成分の付着によって妨げられることなく、細胞中でエフェクターが効果を発揮することを可能にする。
【0024】
したがって、本発明はまた、細菌タイプIIIエフェクタータンパク質を神経細胞に送達する方法を提供し、これは本発明の組成物を投与する工程を含む。
【0025】
第1のドメインは、(a)クロストリジウム菌毒素の神経細胞結合ドメイン;ならびに(b)該(a)のドメインの神経細胞結合活性を実質的に保持する(a)のドメインのフラグメント、改変体、および誘導体から適切に選択され得る。第2のドメインは、(a)ポリペプチド配列を細胞にトランスロケートするクロストリジウム菌神経毒素のドメイン、ならびに(b)該(a)のドメインのトランスロケーティング活性を実質的に保持する(a)のドメインのフラグメント、改変体、および誘導体から適切に選択される。第2のドメインはさらに:
(a)クロストリジウム菌毒素のHドメインではなく、そしてクロストリジウム菌毒素のHドメインのフラグメントまたは誘導体ではない、トランスロケーションドメイン;
(b)生理学的緩衝液中でサイズによって測定される場合の非凝集トランスロケーションドメイン;
(c)ジフテリア毒素のHドメイン;
(d)ジフテリア毒素のHドメインのトランスロケーティング活性を実質的に保持する(c)のフラグメントまたは誘導体;
(e)融合性ペプチド;
(f)膜破壊ペプチド;および
(g)(e)および(f)のトランスロケーティングフラグメントおよび誘導体
から適切に選択される。
【0026】
本発明の実施態様においては、構築物は、ジスルフィド結合によって神経細胞ターゲティング成分に連結されたエフェクタータンパク質を含み、この神経細胞ターゲティング成分は、神経細胞に結合する第1のドメインおよびエフェクタータンパク質を神経細胞にトランスロケートする第2のドメインを含む。この構築物は、単一のポリペプチドとして、組換えにより作成され、エフェクタータンパク質上に第2のドメインのシステイン残基とジスルフィド結合を形成するシステイン残基を有している。エフェクタータンパク質は、最初に第2のドメインに共有結合される。この単一のポリペプチドの発現後、エフェクタータンパク質は第2のドメインから切断され、構築物の残りにジスルフィド結合のみによって連結されたエフェクタータンパク質を遊離する。
【0027】
本発明の特定の局面は、結合ドメインおよびトランスロケーションドメインのさらなる選択にある。そして1つのこのような局面は、神経細胞へのエフェクタータンパク質の送達のための非毒性ポリペプチドを提供し、該非毒性ポリペプチドは:
神経細胞に結合する結合ドメイン、および
エフェクタータンパク質を神経細胞内にトランスロケートするトランスロケーションドメイン
を含み、ここで、トランスロケーションドメインは、クロストリジウム菌神経毒素のHドメインではなく、そしてクロストリジウム菌毒素のHドメインのフラグメントまたは誘導体ではない。
【0028】
結合ドメインは、適切には、クロストリジウム菌重鎖フラグメントまたは改変されたクロストリジウム菌重鎖フラグメントを含むかあるいはこれらに由来する。本明細書で使用する場合、用語「改変されたクロストリジウム菌重鎖フラグメント」とは、ボツリヌス菌または破傷風菌の神経毒素の対応する重鎖と類似の生物学的機能を保持するが、対応する重鎖と比較してアミノ酸配列およびその他の特性が異なるポリペプチドフラグメントを意味する。本発明は、より詳細には、ボツリヌス菌および破傷風菌の神経毒素に由来するフラグメントに基づくこのような構築物を提供する。
【0029】
さらなる局面において、本発明はまた、神経細胞へのエフェクタータンパク質の送達のためのポリペプチドを提供し、該ポリペプチドは:
神経細胞に結合する結合ドメイン、および
エフェクタータンパク質を神経細胞内にトランスロケートするトランスロケーションドメインを含み、ここで、得られる構築物は非凝集である。
【0030】
構築物が凝集物であるかどうかは、通常、構築物の溶解性が十分でないことから明らかであり、そしてこれは水性媒体中での構築物の簡単な可視検査で確かめられ得る:非凝集ドメインは、一部または好ましくは全部が可溶性である本発明の構築物を生じるが、凝集ドメインは、単一のポリペプチドのサイズの数十倍あるいは数百倍の見かけのサイズを有するポリペプチドの非溶解性凝集物を生じる。一般に、構築物は、ゲル電気泳動法でのサイズによって測定した場合、非凝集であるべきであり、そしてドメインのサイズまたはこのように測定された見かけのドメインのサイズは、生理学的条件を用いた未変性PAGEで適切に行われる測定では、好ましくは1.0×106ダルトン未満、より好ましくは3.0×105ダルトン未満であるべきである。
【0031】
本発明のよりさらなる局面は、神経細胞へのエフェクタータンパク質の送達のためのポリペプチドを提供し、該ポリペプチドは:
神経細胞に結合する結合ドメイン、および
エフェクタータンパク質を神経細胞内にトランスロケートするトランスロケーションドメインを含み、ここで、該トランスロケーションドメインは、(1)ジフテリア毒素のHドメイン、(2)ジフテリア毒素のHドメインのトランスロケーティング活性を実質的に保持する(1)のフラグメントまたは誘導体、(3)融合性ペプチド、(4)膜破壊ペプチド、(5)ボツリヌス菌毒素C由来のH、および(6)(3)、(4)、および(5)のトランスロケーティングフラグメントおよび誘導体から選択される。
【0032】
ボツリヌス菌毒素Cが、神経特異性を有さないので神経毒素ではなく、その代わりにエンテロトキシンであり、そして非凝集トランスロケーションドメインを提供するために本発明で使用することに適切であることは、注目すべきである。
【0033】
本発明のさらなる局面は、神経細胞へのエフェクタータンパク質の送達のためのポリペプチドを提供し、該ポリペプチドは:
神経細胞に結合する結合ドメイン、および
エフェクタータンパク質を神経細胞にトランスロケートするトランスロケーションドメインを含み、ここで、該ポリペプチドは、天然の破傷風菌毒素重鎖の中和抗体に対する親和性と比較して、破傷風菌毒素の中和抗体に対して低い親和性を有する。
【0034】
上記の局面は、単独であるいはいくつか組み合わせて、本発明のポリペプチドによって提示され得る。したがって、代表的な好ましい本発明のポリペプチドは、(i)ボツリヌス菌および破傷風菌毒素の神経毒性活性を欠き、(ii)クロストリジウム菌神経毒素の神経細胞に対する親和性に相当する神経細胞に対する高い親和性を示し、(iii)細胞膜を横切るトランスロケーションをもたらし得るドメインを含み、そして(iv)生理学的緩衝液中でボツリヌス菌または破傷風菌毒素由来の対応する重鎖よりも凝集されない状態で存在する。
【0035】
本発明の特定の局面のポリペプチドの顕著な有利点は、非凝集状態であり、したがって、可溶性のポリペプチドとしてさらに有用になる。本発明のポリペプチドは、一般に、ボツリヌス菌および破傷風菌神経毒素のHドメイン由来の配列を含み、そしてこれらは、天然のままの重鎖の必須の機能が保持されるように、他のタンパク質由来の機能的ドメインと組み合わされる。したがって、例えば、ボツリヌス菌タイプF神経毒素のHドメインは、ジフテリア毒素由来のトランスロケーションドメインに融合されて、改変されたクロストリジウム菌重鎖フラグメントを与える。驚くべきことに、このようなポリペプチドは、天然のままのクロストリジウム菌重鎖よりも、物質を神経細胞に送達するための構築物として、より有用である。
【0036】
本発明は、タイプIIIの分泌されたエフェクタータンパク質、および必要に応じて、神経細胞へのタイプIIIエフェクター部分の特異的な送達をもたらす他の機能的ドメインを含む構築物を提供する。これらの構築物は、神経疾患の治療のための種々の臨床用途を有する。
【0037】
グラム陰性細菌病原体のタイプIII分泌メカニズムは、タンパク質を真核生物細胞に送達するために用いられる複合系である。分泌メカニズムは、少なくとも10〜15の必須のタンパク質を利用し、細菌の表面から伸長して宿主細胞内に貫通する注射針を形成する。エフェクタータンパク質は、次いで、針の内腔を通して細菌膜および宿主膜を横切って輸送され、そして細胞サイトゾルに直接注入される。このプロセスは、さらに不確定な分泌シグナルを含み、そしてエフェクターを分泌機構に送達する特異的なシャペロンタンパク質を含む。この系は、宿主細胞機能を調節し得る広範なタンパク質エフェクターを宿主に送達し、病原体を残存または蔓延させる。これらのエフェクターは、多くのシグナリング経路を調節し、そしてある病原体は、異なる経路を調節するいくつかのエフェクターを、同時にまたはそのライフサイクルの異なる相でのいずれかに輸出し得る。広範な病原性細菌におけるタイプIII分泌系が記載されており、以下のものが挙げられるが、これらに制限されない:
哺乳動物病原体;エルシニア種(pestis、pseudotuberculosis、enterocoliticaを含む)、サルモネラ種(typhimurium、enterica、dublin、typhiを含む)、大腸菌、シゲラ種(例えば、flexneri)、緑膿菌、クラミジア種(例えば、pneumoniae、trachomatis)、およびボルデテラ種、ならびにバークホルデリア種
植物病原体;Pseudomonas syringae、エルウィニア種、ザントモナス種、Ralstonia solanacearum、およびリゾビウム種
昆虫病原体;Sodalis glossinidius、Edwardsiella ictaluri、およびPlesiomonas種。
【0038】
これらの種のいずれかに由来のエフェクタータンパク質は、哺乳動物病原体であろうがなかろうが、ヒトまたは動物の疾患を処置するための治療上の可能性を有する。
【0039】
表1に、現在までに同定されている多くのタイプIIIエフェクターを挙げる。
【0040】
タイプIV分泌系は、エフェクタータンパク質が宿主細胞の細胞質中に注入される場合に通る針様構造を形成する点で、タイプIII系と注目すべき程度の類似性を示す。しかし、針の構造に関連するタンパク質は、2つの系で異なり、そしてエフェクターも多岐にわたる。エフェクターは、細胞シグナリングを調節するために機能して、細胞内ニッチを確立および維持し、および/または侵襲および増殖を促進する。この系は、Legionella pneumophila、百日咳菌、Actinobacillus actinomycetemcomitans、Bartonella henselae、大腸菌、Helicobacter pylori、Coxiella burnetii、Brucella abortus、ナイセリア種、およびリケッチア種(例えば、prowazekii)を含む多くの重要な細菌病原体に必須であるとして記載されている。類似のタイプIV分泌系は、植物または無脊椎動物病原体に存在し、そしてまた治療薬のソースである。多くの記載されたタイプIVエフェクターもまた、目的の機能と共に表1に挙げる。
【0041】
近年、種々のタイプIIIエフェクターの機能が記載されている。興味深いことに、異なる生物由来の多くのエフェクターは、特定のシグナリング経路をターゲティングするように進化し、これは病原性のメカニズムにおけるいくつかの類似点を示唆する。特定のエフェクターの正確な特異性は、病原体および細胞タイプに従って変化し得、そしてこの活性の範囲は、それらを治療上の適用のための魅力的な候補にする。本発明に有用なエフェクターのファミリーのいくつかの例を以下に記載する。
【0042】
GTPアーゼ活性化タンパク質。Yersinia pseudotuberculosis由来のYopE、Salmonella typhimurium由来のSptP、ならびにPseudomonas aeruginosa由来のExoSおよびExoTは、すべてRhoファミリーGTPアーゼに対するGTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)であり、保存された「アルギニンフィンガー」ドメインによって特徴付けられる(BlackおよびBliska,(2000) Molecular Microbiology 37: 515-527頁;FuおよびGalan(1999) Nature 401: 293-297頁;Goehringら(1999) Journal of Biological Chemistry 274: 36369-36372頁)。結合したGTPの加水分解を促進させることによって、これらは、不活性なGTPアーゼのGDP結合体の形成を促進する。これは、細胞においてある範囲のGTPアーゼの機能をダウンレギュレートするように作用する。YopEは、23kDaエフェクターであり、Y. pseudotuberculosisおよび他の株による感染中に、細胞のサイトゾル内にトランスロケートされる。Rasに対してでなく、RhoA、Cdc42、およびRac1に対してGAPとして作用することが、インビトロでの研究で示されている(BlackおよびBliska,(2000) Molecular Microbiology 37: 515-527頁)。アルギニンフィンガーモチーフ内の点変異は、GAP活性の喪失を引き起こし、そしてこれは、細胞における生物学的活性と直接的に関連する。エルシニア感染の正常な部位を模倣する細胞モデルを用いて行われたインビボ研究において、YopEは、Cdc42に対して、より大きな特異性を有するようである(Andorら(2001) Cellular Microbiology 3: 301-310頁)。SptPのGAP活性は、RhoAと比較してCdc42およびRac1に対して、より大きな特異性を示す。特定のタンパク質のGAP活性は、異なる細胞タイプおよび送達経路について変化するようである。SptP、ExoS、およびExoTは、さらなる酵素ドメイン(SptP、チロシンホスファターゼ;ExoS、ExoT、ADP−リボシルトランスフェラーゼ)を有する二機能酵素である。ExoSの場合、この活性は、異なるシグナリング経路の共同作用調節が可能であるRas GTPアーゼの活性化をブロックする(Henrikssonら(2000) Biochemical Journal 347: 217-222頁)。
【0043】
グアニンヌクレオチド交換因子。Salmonella typhimurium由来のSopEおよびSopE2、ならびに関連するタンパク質は、ある範囲のGTPアーゼに対してグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)として作用する(Hardtら(1998) Cell 93:815頁)。GEFは、結合したGDPのGTPによる置換の割合を増強することによって機能し、GTPアーゼの活性化を引き起こす。これは、細胞において特異的なGTPアーゼの活性を効果的にアップレギュレートする。天然のSopEは、240アミノ酸のタンパク質であり、S. typhimuriumによって宿主細胞サイトゾル内に注入される。タンパク質のN末端77アミノ酸は、分泌シグナルとして作用し、そしてタンパク質の生理学的活性は重要ではない(Hardtら(1998) Cell 93:815頁)。インビトロの研究では、SopEは、Cdc42、Rac1、Rac2、RhoA、およびRhoGに対するGEFとして作用する。細胞GEFは、特定のGTPアーゼに対して高度の特異性を示し、そしてSopEは、インビボにおいてより大きな特異性を示すようである。この特異性は、細胞タイプおよび送達経路に応じて変化するようである。Legionella pneumophila由来のタイプIVエフェクターRalFは、小さなGTPアーゼの機能に影響を与えるさらなる交換因子である。この場合、標的は、ADPリボシル化因子(ARF)ファミリーであり、そしてこれは、このファミリーをターゲティングする細菌エフェクターの最初の例である(Nagaiら (2002) Science 295; 679-682頁)。
【0044】
GTPアーゼの共有結合改変。Y. pestisおよび特定の他のエルシニア株由来のタイプIIIエフェクターYopTは、インビボにおいてYopEと類似の効果を有する(IriarteおよびCornelis(1998) Molecular Microbiology 29: 915-929頁)。HeLa細胞において、YopTは、RhoAの電気泳動移動度のシフトを引き起こすが、Cdc−42またはRacでは引き起こさない(Zumbihlら(1999) Journal of Biological Chemistry 274: 29289-29293頁)。これが、YopTによるRhoAの直接改変を示すかどうか、または他の細胞因子が関連するかどうかは、まだ不明である。RhoAに対するYopTの特異性は、顕著な治療の可能性を提供する。
【0045】
プロテインキナーゼおよびホスファターゼによる細胞シグナリングの調節。Yersinia spp由来のYopO/YpkAは、真核生物のセリン/スレオニンキナーゼに関連するプロテインキナーゼである(Galyovら(1993) Nature 361: 730-732頁)。YopO/YpkAは、YopEのような他のエフェクターで観察されるのと類似の細胞の球状化を引き起こし、これはGTPアーゼ機能を調節する役割を示唆する。小さなGTPアーゼRhoAおよびRacIは、YopOおよびYpkAに結合することを示しており、これらがキナーゼに対する細胞内標的であることを示唆する(Barz Cら(2000) FEBS Letters 482: 139-143頁)。Helicobacter pylori由来のタイプIVエフェクターCagAもまた、感染した細胞の細胞骨格に影響を及ぼし、そしてその活性は、細胞内キナーゼによるリン酸化に依存する。CagAは、SHP−2チロシンホスファターゼを介して機能して、下流のシグナリングを調節する。
【0046】
イノシトールホスファターゼ。Salmonella typhimurium由来のSigD、S. dublin由来のSopB、およびShigella flexneri由来のIpgDは、すべて推定のイノシトールホスファターゼである。腸管細胞において、SopBは、イノシトール1,4,5,6,テトラキスリン酸の蓄積を引き起こす。SopBの活性部位における変異は、そのホスファターゼ活性およびイノシトールテトラキスリン酸の蓄積の両方をなくす(Norrisら(1998) Proceedings of the National Academy of Science U.S.A 95: 14057-14059頁)。SopBは、インビトロで広い範囲のイノシトールおよびホスファチジルイノシトールリン酸を加水分解するようであるが、その正確な細胞内標的は明らかにされなければならない(Eckmannら (1997) Proceedings of the National Academy of Science U.S.A 94: 14456-14460頁)。イノシトール1,4,5,6,テトラキスリン酸のレベルを増加させないので、SigDはインビボでは異なる特異性を有するようである(Eckmannら (1997))。さらに、正確な細胞内標的は明らかにされていないが、SigDは、上皮細胞においてAkt/プロテインキナーゼBを活性化させることが示されている(Steele-Mortimer (2000) Journal of Biological Chemistry 275: 37718-37724頁)。その活性は、タンパク質のC末端付近のシナプトジャニン相同領域の存在に依存することが示されている。相同タンパク質IpgDもまた、これらの細胞においてAktの活性化を刺激する(Marcusら (2001))。Aktを活性化する可能性は、細胞生存の重要なレギュレーターであるので、多くの治療機会を提供する(VanhaesebroeckおよびAlessi (2000) Biochemical Journal 346: 561-576頁に総説される)。
【0047】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼの阻害。Yersinia pestis由来のYopJは、Salmonella spp.由来のAvrAおよび植物病原体由来の種々のエフェクターを含む広い範囲のホモログを有する、もう一つのトランスロケートされたエフェクターである。YopJは、広い範囲のマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MKK)を不活性化することが示され(Orthら(1999) Science 285: 1920-1923頁)、マクロファージにおいてアポトーシスを引き起こす。YopJは、ユビキチン様タンパク質プロテアーゼとして作用して、MKK由来のSumo−1タグの除去によりシグナリング分子の代謝回転を増加させることが示唆される(Orthら(2000) Science 290: 1594-1597頁)。興味深いことに、サイトカイン産生およびマクロファージ殺傷の細胞モデルにおいて、AvrAは、YopJとの相同性にもかかわらず、活性を示さず、これはタンパク質の特異性が異なり得ることを示唆する(Schesser Kら(2000) Microbial Pathogenesis 28: 59-70頁)。神経細胞において、これらの異なる特異性は、しばしば、アポトーシスまたは炎症応答に関連するMKKを調節するための可能性のある治療上の適用を提供し得る。
【0048】
細胞輸送のモジュレーター。Salmonella enterica由来のSpiCは、エンドソーム小胞の融合を阻害して、サルモネラ菌のリソソーム分解への曝露を防止する(Uchiyaら (1999) EMBO Journal 18: 3924-3933頁)。細胞内輸送経路を調節する能力は、レセプターのサイクリングまたは膜結合小胞から物質の放出を調節するための多くの治療上の機会を提供する。
【0049】
多くの他のエフェクタータンパク質は、細菌病原体によって占領された細胞内コンパートメントを調節および維持することに関連する。サルモネラ菌は、多くの他の病原体と同様に、特殊化した細胞内コンパートメントを樹立する。サルモネラ菌は、このコンパートメント内から宿主細胞サイトゾル中にタンパク質を分泌する専用のタイプIII分泌系を有し、そして、この系によって分泌されるエフェクター(SpiC;SopE/E2;SseE、F、G、J;PipA、B;SifA、Bを含む)は、このコンパートメントの完全性を維持する。最近の論文は、液胞膜からの調節過程におけるSseJおよびSifAの相乗効果を記載している(Ruiz-Albertら(2002) Molecular microbiology 44; 645-661頁)。これらのタンパク質および他の細胞内病原体由来の対応物は、細胞内輸送経路に影響を及ぼす障害を治療するための重要な可能性を有する。RalFおよび既述の多くの他のエフェクターはまた、このような障害に対する顕著な治療の可能性を有し得る。
【0050】
ボツリヌス菌神経毒素は、構造的に類似しているが、抗原性が異なる7つのタンパク質毒素のファミリーであり、その1次作用部位は神経筋接合部であり、そこで伝達物質であるアセチルコリンの放出をブロックする。ヒトおよび動物の末梢神経系におけるこれらの毒素の作用は、ボツリヌス中毒症候群を生じさせ、これは広範な弛緩した筋麻痺によって特徴付けられる(Shone(1986) 「Natural Toxicants in Foods」、D. Watson編, Ellis Harwood, UK)。それぞれのボツリヌス菌神経毒素は、2つのジスルフィド結合したサブユニットからなる;神経末端への神経毒素の最初の結合およびインターナリゼーションで役割を果たす100kDaの重サブユニット(Dollyら(1984) Nature,307,457-460頁)およびエンドサイトーシスプロセスをブロックするように細胞内で作用する50kDaの軽サブユニット(McInnesおよびDolly(1990) Febs Lett.,261,323-326頁; de PaivaおよびDolly(1990) Febs Lett.,277,171-174頁)。したがって、顕著な神経特異性を与えるのは、ボツリヌス菌神経毒素の重鎖である。
【0051】
破傷風菌毒素は、ボツリヌス菌神経毒素と構造的に非常に類似しているが、その1次作用の部位は中枢神経系であり、そこで、中枢シナプス(レンショウ細胞)からの抑制性神経伝達物質の放出をブロックする。ボツリヌス菌毒素について記載したように、神経細胞のレセプターに結合するのは、破傷風菌毒素の重鎖内のドメインである。
【0052】
クロストリジウム菌神経毒素(破傷風菌およびボツリヌス菌)重鎖の結合機能およびインターナリゼーション(トランスロケーション)機能は、それらの構造内の少なくとも2つのドメインに割り当てられ得る。最初の結合工程は、エネルギー非依存的であり、そして神経毒素のHフラグメント(約50kDaのC末端フラグメント)内の1以上のドメインによって媒介されるようである(Shoneら(1985),Eur. J. Biochem.,151,75-82頁)が、トランスロケーション工程は、エネルギー依存的であり、そして神経毒素のHフラグメント(約50kDaのN末端フラグメント)内の1以上のドメインによって媒介されるようである。
【0053】
単離された重鎖は、天然の神経毒素に比べて非毒性であるが、それにもかかわらず神経細胞に対して高親和性結合を保持する。7つの血清型のほとんどに由来する破傷風菌神経毒素およびボツリヌス菌神経毒素は、それらの由来する重鎖とともに、nMの範囲の高親和性で種々の神経細胞タイプに結合することが示されている(例えば、ボツリヌス菌タイプB神経毒素;Evansら(1986) Eur. J. Biochem. 154, 409-416頁)。神経細胞への破傷風菌およびボツリヌス菌重鎖の結合のもう一つの重要な特徴は、種々の毒素の血清型によって認識されるレセプターリガンドが異なることである。したがって、例えば、ボツリヌス菌タイプA重鎖は、ボツリヌス菌タイプF重鎖と異なるレセプターに結合し、そしてこれらの2つのリガンドは、神経細胞へのそれらの結合に関して非競合である(Wadsworthら(1990), Biochem J. 268, 123-128頁)。現在までに特徴付けられているクロストリジウム菌神経毒素血清型(破傷風菌、ボツリヌス菌A、B、C、D、E、およびF)のうち、すべてが神経細胞上の異なるレセプター集団を認識するようである。まとめると、クロストリジウム菌神経毒素重鎖は、神経細胞に特異的であるレセプターのファミリー全体を認識する高親和性結合リガンドを提供する。
【0054】
本発明はまた、神経細胞にタイプIIIエフェクタータンパク質を特異的に送達するための構築物を提供する。これらの構築物によってタイプIIIエフェクタータンパク質が細胞に送達されるメカニズムは、宿主細菌によって使用されるメカニズムとは全く異なる。細胞サイトゾルに直接的に注入される代わりに、本発明の特異的な構築物は、多くの連続的に作用する生物学的に活性なドメインによっておよびレセプター媒介エンドサイトーシスに類似のプロセスによって、タイプIIIエフェクタータンパク質を細胞に送達する。驚くべきことに、この全く異なるメカニズムによって送達される場合、タイプIIIエフェクタータンパク質は、細胞サイトゾル内で生物学的に活性である。
【0055】
本発明の特定の構築物は、それらの生物学的活性によって定義される3つの機能的ドメインを含む。これらは:
タイプIIIエフェクター部分(例えば、表1を参照のこと);
構築物をレセプターに結合し、そして神経細胞に対して高度の特異性を提供するターゲティングドメイン;および
構築物のインターナリゼーション後、エンドソーム膜を通して細胞サイトゾルへのタイプIIIエフェクター部分のトランスロケーションをもたらすトランスロケーションドメインである。
【0056】
タイプIIIエフェクター含有構築物はまた、これらのドメインが相互に連結される「リンカータンパク質」を含み得る。本発明の1つの実施態様においては、タイプIIIエフェクター部分は、トランスロケーションドメインにジスルフィド結合により連結される。
【0057】
本発明の好ましい実施態様においては、ターゲティングドメインは、クロストリジウム菌神経毒素結合フラグメント(Hドメイン)由来である。これは、破傷風菌毒素あるいは8つのボツリヌス菌毒素血清型(A〜G)のいずれか1つに由来し得る。クロストリジウム菌神経毒素レセプターを介する送達は、タイプIIIエフェクターの正常な送達経路と明らかに異なり、そして多くの有利点を提供する。
【0058】
クロストリジウム菌のHフラグメントは、細胞表面上のレセプターに高親和性で結合し、そして神経細胞に対して高い特異性を提供する。クロストリジウム菌神経毒素は、酸性エンドソームを介してインターナライズされ、これが引き金となってタイプIIIエフェクター部分は膜を横切ってサイトゾル内へトランスロケートする。
【0059】
非神経細胞について、特異的な細胞タイプに対する広い範囲の高親和性結合ドメインは、明らかにされている。その例は、多くの細胞標的について記載されている。
【0060】
薬剤は、リガンドまたはターゲティングドメインを含み得、これは、内分泌細胞に結合し、したがって、これらの細胞タイプに特異的になる。適切なリガンドの例としては、ヨウ素;甲状腺刺激ホルモン(TSH);TSHレセプター抗体;島特異的モノシアロガングリオシドGM2−1に対する抗体;インスリン、インスリン様増殖因子、および両方のレセプターに対する抗体;TSH放出ホルモン(プロチレリン)およびそのレセプターに対する抗体;FSH/LH放出ホルモン(ゴナドレリン)およびそのレセプターに対する抗体;コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)およびそのレセプターに対する抗体;ならびにACTHおよびそのレセプターに対する抗体が挙げられる。
【0061】
薬剤を炎症細胞にターゲティングするために適切なリガンドとしては、(i)マスト細胞に対しては、一般にFc IgEのC4ドメインを含む補体レセプター、およびC3a/C4a−R補体レセプターに対する抗体/リガンド;(ii)好酸球に対しては、C3a/C4a−R補体レセプターに対する抗体/リガンド、抗VLA−4モノクローナル抗体、抗IL5レセプター、CR4補体レセプターに反応性の抗原または抗体;(iii)マクロファージおよび単球に対しては、マクロファージ刺激因子;(iv)マクロファージ、単球、および好中球に対しては、細菌LPS、およびCR3に結合する酵母菌B−グルカン;(v)好中球に対しては、OX42に対する抗体、iC3b補体レセプター関連抗原、またはIL8;(vi)線維芽細胞に対しては、マンノース6−リン酸/インスリン様増殖因子β(M6P/IGF−II)レセプターおよびPA2.26、マウスにおいて活性な線維芽細胞についての細胞表面レセプターに対する抗体が挙げられる。
【0062】
薬剤を外分泌細胞にターゲティングするために適切なリガンドとしては、下垂体アデニルシクラーゼ活性化ペプチド(PACAP−38)、またはそのレセプターに対する抗体が挙げられる。
【0063】
薬剤を免疫細胞にターゲティングするために適切なリガンドとしては、エプスタイン・バーウイルスのフラグメント/表面特徴すなわちイディオタイプ抗体(Bリンパ球およびリンパ節濾胞樹状細胞のCR2レセプターに結合する)が挙げられる。
【0064】
不十分な血小板活性化および血栓形成に関連する疾患状態の治療のために血小板をターゲティングするために適切なリガンドとしては、トロンビンおよびTRAP(トロンビンレセプターアゴニストペプチド)またはCD31/PECAM−1、CD24、またはCD106/VCAM−1に対する抗体が挙げられ、そして高血圧の治療のために心臓血管の内皮細胞をターゲティングするためのリガンドとしては、GP1b表面抗原を認識する抗体が挙げられる。
【0065】
骨化石症および骨粗鬆症から選択される疾患の治療のために骨芽細胞をターゲティングするために適切なリガンドとしては、カルシトニンが挙げられ、そして薬剤を破骨細胞にターゲティングするために適切なリガンドとしては、破骨細胞分化因子(例えば、TRANCE、RANKL、またはOPGL)、およびレセプターRANKに対する抗体が挙げられる。
【0066】
本発明の1つの実施態様においては、トランスロケーションドメインは、細菌毒素由来である。適切なトランスロケーションドメインの例は、クロストリジウム菌神経毒素またはジフテリア毒素由来である。
【0067】
本発明の他の実施態様においては、トランスロケーションドメインは、膜破壊ペプチドまたは「融合性」ペプチドであり、これは、トランスロケーションドメインとして機能する。このようなペプチドの例は、インフルエンザウイルス赤血球凝集素HA2(1〜23残基)由来である。
【0068】
本発明の構築物の1つの例では、タイプIIIエフェクタータンパク質は、Salmonella spp.由来のSigDである。本発明の構築物の他の例では、タイプIIIエフェクタータンパク質は、Yersinia spp.由来のYopEである。
【0069】
タイプIIIエフェクター部分がSalmonella spp.由来のSigDである場合の本発明の構築物の例では、構築物は、以下のものからなり得る:
SigDタイプIIIエフェクター部分;
ジフテリア毒素由来のトランスロケーションドメイン;
ボツリヌス菌タイプA神経毒素由来の結合ドメイン(Hドメイン);および
ジスルフィド結合によるトランスロケーションドメインへのSigDエフェクターの付着を可能にするリンカーペプチド。
【0070】
タイプIIIエフェクター部分がSalmonella spp.由来のSigDである場合の本発明の構築物の他の例では、構築物は、以下のものからなる:
SigDタイプIIIエフェクター部分;
融合性ペプチドの形態でのトランスロケーションドメイン;
ボツリヌス菌タイプF神経毒素由来の結合ドメイン(Hドメイン);および
ジスルフィド結合によるトランスロケーションドメインへのSigDエフェクターの付着を可能にするリンカーペプチド。
【0071】
タイプIIIエフェクター部分がYersinia spp由来のYopEである場合の本発明の構築物の例では、構築物は、以下のものからなり得る:
YopEタイプIIIエフェクター部分;
ジフテリア毒素由来のトランスロケーションドメイン;
ボツリヌス菌タイプF神経毒素由来の結合ドメイン(Hドメイン);および
ジスルフィド結合によるトランスロケーションドメインへのYopEエフェクターの付着を可能にするリンカーペプチド。
【0072】
本発明は、細胞シグナリングの操作を可能にし、そして特定の例では、SigDは、本発明の構築物に組み込まれ、そしてストレス下での神経細胞生存を促進するために使用され得る。適切な細胞内シグナリング経路をターゲティングすることによって、多くの経路を同時に調節し、神経細胞生存の見込みを向上させることが可能になる。SigD(SopBとしても知られている)は、プロテインキナーゼAktを活性化し、これは、種々の増殖因子によって媒介されるプロサバイバルシグナリング経路における重要な中間体である。AktはNF−κBのようなプロサバイバル転写因子をアップレギュレートするだけでなく、BadおよびForkheadのようないくつかのプロアポトーシス因子をダウンレギュレートする。
【0073】
多くのタイプIIIおよびタイプIVエフェクターは、宿主細胞内で細菌の細胞内ニッチを維持するために機能する。いくつかの細菌病原体は細胞サイトゾル中に放出されるが、多くは、時に液胞と呼ばれる特殊化された細胞内コンパートメントを形成し、維持する。多くのエフェクタータンパク質の主な機能の1つは、コンパートメントと、潜在的に損傷しているファゴリソソームのような他の細胞内コンパートメントとの融合を調節することである。同時に、病原体は、被包化された病原体に栄養源を提供するか、あるいは他の部位へ病原体を播種させるかのいずれかのために、再利用エンドソームを含む他の膜結合コンパートメントの融合を促進することが必要であり得る。細胞内病原体は、細胞内輸送および膜融合を調節するために広い範囲のエフェクター分子を提供する。
【0074】
膜結合した小胞の融合の基礎になるメカニズムは、多くの細胞プロセスで保存されている。広く言えば、膜融合事象は、原形質膜からの物質の放出のための分泌プロセス、または物質を原形質膜からリソソーム系に移動させるエンドサイトーシスプロセスのいずれかに分類される。この単純化した分類は、これらの経路内または2つの経路間の多数の連絡点内で生じる退行性および順行性のプロセスを考慮しない。すべての膜融合事象における基礎になるメカニズムは、4つの構成相に分類され得る。
【0075】
輸送された物質は、ドナー膜上の特異的部位で濃縮され、そしてこの膜から分離される小胞中に「ピンチオフ」される。
【0076】
小胞は、細胞骨格の繊維(例えば、微小管)に沿ってアクセプター膜に輸送される。
【0077】
小胞は、次いで、アクセプター膜に、SNARE複合体タンパク質によって媒介される「ドッキング/テサリング」メカニズムにより付着する。
【0078】
小胞およびアクセプター膜は融合して、アクセプター膜を通して小胞の内容物を放出する。
【0079】
したがって、類似のSNAREタンパク質および調節タンパク質は、エンドソーム小胞とリソソームとの融合、小胞体とゴルジ体およびトランスゴルジネットワークとの融合、および分泌小胞と原形質膜との融合を補強する。膜融合メカニズムの機能的な保存とは、特異的な事象の融合を正常に調節する細菌エフェクタータンパク質が他の融合事象を調節することに関与し得ることを意味する。例えば、リソソームとのエンドソーム融合をブロックするエフェクターは、分泌小胞と原形質膜との融合またはER小胞とゴルジネットワークとの融合をブロックすることに再関与し得る。
【0080】
小胞輸送で明らかにされている調節タンパク質の重要なクラスの1つは、Rabタンパク質(または酵母菌のYptタンパク質)と名付けられたRasスーパーファミリーの小さなGTPアーゼである。Rabタンパク質は、膜融合の全ての段階に関係する。例えば、Rab1、2、5、および9は、輸送のために物質をソーティングすることに関係し(上記の段階1)、Rab5、6、27およびSec4は輸送を媒介し(段階2)、Rab1、5、Ypt1、7、Sec4は、アクセプター膜へのドッキングに影響を与え(段階3)、そして他のRabタンパク質は、膜融合の促進に関係する。上記のリストは、Rab1およびRab5のようなあるRabタンパク質が1より多くの段階の融合プロセスに関係することを示す。同様に、いくつかのRabタンパク質は、全ての膜小胞に存在するが、他は、特異的な融合事象において、より特殊化された役割を有する。
【0081】
Rabタンパク質は、重要な潜在的な改変の標的であり、この改変は、膜融合事象をブロックまたは促進することを意図する細菌病原体、または細胞内輸送を調節するように設計された治療薬のいずれかによってなされる。Rab機能の効果を有するとして述べられた最初のエフェクタータンパク質の1つは、サルモネラ菌種由来の分泌されたエフェクタータンパク質SopE2であった。SopE2は、Rab5aについてのグアニンヌクレオチド交換因子として作用し、その結果、細胞膜上のタンパク質の活性化が上昇する。この活性は、感染したHeLa細胞およびマクロファージにおけるサルモネラ菌の生存の増加に関連している(Cell Microbiol. 3, 473頁)。SpiCは、エンドソーム融合をブロックするもう1つのサルモネラ菌エフェクターである(EMBO J. 18, 3924-3933頁)。GTPアーゼの正常な細胞レギュレーターといくつかの保存を示すSopEとは異なり、SpiCは、他のタンパク質と明確な相同性を示さない。小胞融合の4段階のうちの1つをブロックする能力が知られている。これは、SNAREタンパク質のレベルでその活性を示すか、Rab機能を直接的に調節するか、またはRab機能のレギュレーターの1つのレベルで操作し得る。膜挿入は、Rab活性に必須である。Rabタンパク質は、サイトゾルにおいてRabエスコートタンパク質(REP)と安定な複合体を形成し、そしてこれは、C末端イソプレノイド部分を付加するゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ(RabGGT)の基質である。REPまたはRabGGTの不在下で、Rabタンパク質は、サイトゾルにおいて不活性形態のままである。REPはまた、ドナー膜への改変されたRabの膜挿入を媒介する。Rabタンパク質はまた、RabGDP解離インヒビター(RabGDI)の作用により膜から回収され得る。これらのタンパク質はすべて、膜融合事象を変更する細菌病原体のための潜在的な標的である。正確な効果は、変更がドナー膜において活性なRabのレベルを増加または減少させるかどうか、および特定のRabタンパク質の特異性に依存する。
【0082】
現在、変異がRabタンパク質またはそれらのレギュレーターのいずれかに影響を及ぼす多くのヒト疾患が同定されている。これらのヒト疾患は、細胞においてRab制御での変更の細胞効果を明らかにするのに役立つ。このように、Rab27(グリセリ症候群)、REP1(先天性脈絡膜欠如)、RabGDIα(X染色体性精神遅滞疾患)、およびRabGGTαサブユニット(ヘルマンスキー−プドラック症候群)の変異はすべて、ヒト疾患に関係している(Seabraら, Trends in Molecular Medicine(2002) 8; 23-26頁、OlkkonenおよびIkonen, New England Journal of Medicine(2000) 343; 1104頁に総説される)。広い範囲のヒト疾患は、細胞内輸送における欠陥に関連する(AridorおよびHannan, Traffic(2000) 1; 836-851頁に総説される)。上記の4つのメカニズムの1つに関する細菌エフェクタータンパク質の特殊化した特性による膜融合の調節は、これらの疾患および輸送特性が影響を及ぼす他の疾患に対する治療の機会を提供する。
【0083】
分泌小胞と原形質膜との間の膜融合事象のターゲティングは、細胞からの分泌の制御を可能にする。直接かまたは上記のメカニズムの1つによるかのいずれかにより、Rab3a、b、c、およびd、Rab8aおよびb、Rab26、Rab27a、Rab37を含む特異的なRabタンパク質の調節を変更するエフェクター、あるいは膜融合に関する他の分子事象(上記1〜4で述べた)のいずれかに影響を及ぼすエフェクターは、分泌を調節し得る。エフェクタータンパク質は、特異的な細胞タイプからの分泌の増加あるいは減少のいずれかに適用され得る。治療の面において、これは、筋痙攣(眼瞼痙攣、斜頚など)、過分泌障害(COPD、気管支炎、喘息)を含む広い範囲の障害の治療に価値がある。
【0084】
再利用エンドソームとリソソームまたは原形質膜のいずれかとの融合を調節することによって、細胞表面マーカーの特異的なファミリーの提示を調節することも可能である。また、Rab4aおよびb、Rab11aおよびb、Rab15、Rab17、Rab18のような特異的なRabタンパク質の調節を変更すること、または融合メカニズムにおいて他の分子事象に影響を及ぼすことに関するエフェクターは、細胞表面マーカーの提示をアップレギュレートまたはダウンレギュレートし得る。治療上、これは、外部の刺激に対する細胞の応答を変更すること(例えば、増殖因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、または他のシグナリング分子に対する応答を調節すること)、外部因子による細胞の認識を改変すること(例えば、免疫監視)、または細胞シグナリング経路のオンまたはオフを切り換えることに、非常に大きな可能性を有する。
【0085】
本発明の構築物を用いることによって、アルツハイマー病およびプリオン疾患(vCJD)のような神経変性障害に治療の介入が提供され得る。両疾患とも、細胞タンパク質のミスフォールディングによる不溶性タンパク質プラークの蓄積によって特徴付けられる。両方の場合とも、エンドソーム−リソソームコンパートメントの通過によるミスフォールドしたタンパク質の細胞内増幅は、疾患の進行に関係する。本明細書で記載する場合、神経をターゲティングした細菌エフェクターは、エンドソームおよびリソソームのコンパートメントの融合を調節し、不溶性のタンパク質の蓄積の制御を可能にする。これは、多くの細胞内細菌病原体の重要な生存方策の1つであるので、多くの治療分子、例えば、SpiC、SptP、およびSopE2のようなサルモネラ菌エフェクターが利用可能である。
【0086】
本発明のさらなる実施態様では、分泌の阻害または促進のための構築物が提供され、これはタイプIIIエフェクターおよびターゲティング部分を含む。この目的のための特異的なエフェクターは、SpiC、SopE、RalF、SseE、F、G、およびJ、PipA、PipB、SifA、ならびにSifBから選択される。これらの構築物は、細胞からの分泌の制御を可能にするために、分泌小胞と原形質膜との間の膜融合事象をターゲティングする。直接的かまたは上記のメカニズムの1つによるかのいずれかにより、Rab3a、b、c、およびd、Rab8aおよびb、Rab26、Rab27a、Rab37を含む特異的なRabタンパク質の調節を変更するエフェクター、あるいはいずれかの膜融合に関する他の分子事象に影響を及ぼすエフェクターは、分泌を調節し得る。エフェクタータンパク質は、特異的な細胞タイプからの分泌の増加あるいは減少のいずれかに適用され得る。治療の面において、これは、筋痙攣(眼瞼痙攣、斜頚など)、過分泌障害(COPD、気管支炎、喘息)を含む広い範囲の障害の治療に価値がある。
【0087】
特殊化した細胞内ニッチを樹立し、およびそのコンパートメントと他の小胞との融合を調節するための病原体の方策は、非常に広い範囲の病原体について保存される。これは、上述のように細胞事象を調節し得る非常に広い範囲の分子を提供するだけでなく、このような分子についての潜在的な治療標的のアレイを提供する。表2に記載の多くの細胞内病原体は、膜結合コンパートメントを樹立するが、正確な生化学およびシグナリング事象、ならびにこれらのコンパートメントを維持するために必要とされるエフェクターは、非常に異なる。少数の細胞内病原体は、それらが細胞に侵入するファゴソームまたはエンドソームコンパートメントから逸脱する。このプロセスに関連するエフェクタータンパク質は、膜コンパートメントに残存する病原体のライフサイクルに適合性がない。膜結合小胞に存在する2つの細胞内病原体のエフェクタータンパク質もまた、必ずしも適合性ではない。例えば、マクロファージにおけるサルモネラ菌によるRab5a活性の増強は、増強された生存と関係がある(Cell Microbiology 3; 473頁)。しかし、Rab5a発現/活性の上昇は、マクロファージにおけるListeria monocytogenesの細胞内破壊を加速させる(J. Biological Chemistry 274; 11459頁)。したがって、Rab5a補充に関連すると思われるサルモネラ菌エフェクタータンパク質(例えば、SopE2、SpiC、または他のSPI−2分泌されたエフェクター)は、細胞内リステリア菌を治療するための可能性のある治療剤である。
【0088】
最も天然のままの形態において、抗菌療法は、2つの細胞内コンパートメントおよび生物の要求が適合しないことに基づいて、1つの細胞内病原体を第2の病原体で処置する工程を含み得る。例えば、TB感染したマクロファージをサルモネラ菌で治療することは、マクロファージ内に、誘発された液胞リソソーム融合物を生じ、TBを絶滅させることが期待され得る。この重複感染している病原体のタイプおよび運命は、元の生物の感染力および広がりを悪化させないように注意深く選択されなければならない。
【0089】
したがって、重複感染方策の改善は、本発明により述べるように、特異的な標的細胞へのエフェクター分子のターゲティングされた送達に焦点を合わせる。これは、非常に弱毒化された病原体(例えば、SopE2またはSptPのみを分泌するサルモネラ菌)またはターゲティングされたタンパク質送達(例えば、毒素送達ドメイン、抗体、または類似の細胞ターゲティングリガンドを使用して)のいずれかを利用し得る。Bacillus anthracis由来の防御抗原は、広い範囲の細菌病原体の治療のためにエフェクターをマクロファージにターゲティングすることができる。炭水化物部分の特異的な付加は、マンノースレセプターによるマクロファージのプールの特異的なターゲティングを可能にする(例えば、Vyasら、International Journal of Pharmaceutics(2000) 210, 1-14頁)。感染した細胞に特異的な細胞表面マーカーは、(感染していない細胞と異なるので)送達システムに対する理想的な標的を提供する。病原体によって感染した細胞タイプは、送達リガンドの選択を決定するが、細胞コンパートメントの正確な運命は、エフェクターの選択を決定する(例えば、細胞アポトーシス、溶菌、エンドソーム−リソソーム融合、エンドソーム酸性化など)。
【0090】
このタイプの治療の重要な利点は、エフェクタータンパク質が細胞に対して本質的に毒性ではないことであり、したがって、感染していない標的細胞へのタンパク質の送達は、いかなる有害な影響も与えないようである。この場合、ターゲティングリガンドの正確な特異性は望ましいが、治療の成功のために必須ではない。
【0091】
広い範囲の細胞内病原体およびこれらの生物に対して治療/免疫することの困難性は、このアプローチを抗生物質療法に代わるべき価値のある手段にする。この方法はまた、抗菌剤の回避が、病原体がエフェクター誘導された細胞刺激を無効にし得る分子を産生しなければならないか、またはそのライフスタイルを明らかに改変しなければならないかのいずれかを意味するので魅力的である。偏性細胞内病原体に対して、あるいは細胞内の段階が増殖に必須である場合、これは、特異的な生化学的相互作用でターゲティングされる現在の抗生物質方策よりも広い範囲の抗菌用途に非常に大きな希望を提供し得る。
【0092】
エフェクタータンパク質がSalmonella spp由来のSpiCである場合における本発明のもう1つの例においては、構築物は、以下の:
防御抗原と相互作用し得るドメインに融合されたSpiCエフェクター部分;
Bacillus anthracis由来の防御抗原;
からなり得、
該構築物は同時に投与されるか、または該防御抗原の後にSpiC部分が投与されるかのいずれかである。
【0093】
本発明の構築物は、好ましくは、全部がまたは部分的に組換え技法によって作成される。本発明の実施態様においては、本発明の構築物が組換え技法によって作成される場合、本発明の構築物は、N末端から、
タイプIIIエフェクター部分;
リンカーペプチド;
トランスロケーションドメイン;および
結合ドメイン
を含む単一の多ドメインポリペプチドとして作成される。
【0094】
このような構築物において、タイプIIIエフェクタータンパク質のC末端はリンカーペプチドを介してトランスロケーションドメインのN末端に融合される。このようなリンカーペプチドの例は、配列CGLVPAGSGPであり、これは、トロンビンプロテアーゼ切断部位およびジスルフィド結合形成のためのシステイン残基を含む。次いで、後者の一本鎖融合タンパク質は、二本鎖タンパク質を得るためにトロンビンで処理され得、該二本鎖タンパク質においては、タイプIIIエフェクターは、ジスルフィド結合によってトランスロケーションドメインに連結される。トランスロケーションドメインが融合性ペプチドである場合のように、トランスロケーションドメインがそのC末端付近に遊離のシステイン残基を含まない場合のリンカーペプチドのもう1つの例において、リンカーペプチドは、ジスルフィド結合に必要とされる両方のシステイン残基を含む。後者のリンカーペプチドの例は、アミノ酸配列:CGLVPAGSGPSAGSSACである。
【0095】
タイプIIIエフェクター部分が、組換え技術によって作成されたSalmonella spp由来のSigDである場合の本発明の構築物の例においては、該構築物は、(N末端から)以下のドメインを含むポリペプチドからなり得る:
SigDタイプIIIエフェクター部分;
ジスルフィド結合によるトランスロケーションドメインへのSigDエフェクターの付着を可能にするリンカーペプチド(配列CGLVPAGSGP);
ジフテリア毒素(残基194〜386)由来のトランスロケーションドメイン;および
ボツリヌス菌タイプA神経毒素(残基872〜1296)由来の結合ドメイン(Hドメイン)。
【0096】
本発明の構築物はまた、化学的連結法を用いて作成され得る。タイプIIIエフェクタータンパク質が、種々の確立された化学的連結技法を用いて、トランスロケーションドメインおよび結合ドメインからなるポリペプチドに連結され得る種々の方策が知られている。これらの技術を用いて、種々のタイプIIIエフェクター構築物が作成され得る。タイプIIIエフェクタータンパク質は、例えば、連結試薬N-スクシンイミジル3-[2-ピリジルジチオ]プロピオネートで誘導体化される。次いで、誘導体化されたタイプIIIエフェクターは、トランスロケーションドメインおよび結合ドメインを含むペプチドに、トランスロケーションドメインに存在する遊離のシステイン残基を介して連結される。
【0097】
タンパク質エフェクターは、それらの通常の作用部位以外の細胞内コンパートメントへの送達を可能にするように改変され得る。例えば、ミトコンドリアまたは核ターゲティングシグナルは、エフェクターをこれらのコンパートメントに指向させるために付加され得る。エフェクターをターゲティングドメインに共有結合させることによって、エフェクターは、エンドソーム/リソソームコンパートメントに保持され得るが、これは、通常には、細菌による送達によって入っていかない。エフェクターは、ミリストイル化、パルミトイル化、あるいはSH2、SH3、WWドメイン、Rabタンパク質のフラグメント、またはシナプトジャニン様ドメインを含み得る短いタンパク質ドメインの付加を含む脂質改変により、特異的な膜の位置にターゲティングされ得る。当業者は、これらのターゲティング方策が、ある治療方策についての有利点を提供することを認識する。
【0098】
本発明の構築物は、当該技術分野で知られている方法を用いて、神経または非神経組織のいずれかに導入され得る。それに続く神経細胞組織への特異的結合によって、ターゲティングされた構築物は、その治療効果を発揮する。理想的には、構築物は、治療介入を必要とする部位付近に注射される。
【0099】
本発明の構築物は、治療物質の適用および特性に応じて、懸濁液、乳濁液、溶液、または凍結乾燥粉末として生成され得る。本発明の構築物は、適用に応じて、種々の薬学的に受容可能な液体で再懸濁または希釈され得る。
【0100】
「クロストリジウム菌神経毒素」とは、破傷風菌神経毒素または7つのボツリヌス菌神経毒素のうちの1つのいずれかを意味し、後者は、血清型A、B、C、D、E、F、またはGと命名され、そして毒素のドメインと言うときは、完全なドメインあるいはドメインの必須の機能を保持するフラグメントまたは誘導体を言うことが意図される。
【0101】
「結合体」とは、2つのポリペプチドに関し、ポリペプチドが共有結合、代表的には結果として単一のポリペプチドを形成すること、またはジスルフィド結合によって連結されることを意味する。
【0102】
「結合ドメイン」とは、標的細胞に特異的な高親和性結合、例えば、クロストリジウム菌神経毒素の結合に対応する神経細胞の結合を示すポリペプチドを意味する。クロストリジウム菌神経毒素由来の結合ドメインの例としては、以下のとおりである:
ボツリヌス菌タイプA神経毒素 −アミノ酸残基(872〜1296)
ボツリヌス菌タイプB神経毒素 −アミノ酸残基(859〜1291)
ボツリヌス菌タイプC神経毒素 −アミノ酸残基(867〜1291)
ボツリヌス菌タイプD神経毒素 −アミノ酸残基(863〜1276)
ボツリヌス菌タイプE神経毒素 −アミノ酸残基(846〜1252)
ボツリヌス菌タイプF神経毒素 −アミノ酸残基(865〜1278)
ボツリヌス菌タイプG神経毒素 −アミノ酸残基(864〜1297)
破傷風菌神経毒素 −アミノ酸残基(880〜1315)
【0103】
「クロストリジウム菌神経毒素の結合に対応する神経細胞に特異的な高親和性結合」とは、リガンドが所定の神経毒素の特異的結合に関連する神経細胞の細胞表面レセプターに強く結合する能力をいう。所定のリガンドがこれらの細胞表面レセプターに強く結合する能力は、従来の競合結合アッセイを用いて評価され得る。このようなアッセイにおいては、放射標識されたクロストリジウム菌神経毒素を、放射標識されていない種々の濃度のリガンドの存在下で神経細胞と接触させる。リガンド混合物を低温(0〜3℃)で細胞とインキュベートし、リガンドのインターナリゼーションを防止するが、その間放射標識されたクロストリジウム菌神経毒素と放射標識されていないリガンドとの競合が生じ得る。このようなアッセイにおいて、使用される放射標識されていないリガンドが、放射標識された神経毒素の濃度と同じ場合、放射標識されたクロストリジウム菌神経毒素は、放射標識されていない神経毒素の濃度が上昇するにつれて、神経細胞レセプターから置換される。したがって、この場合に得られた競合曲線は、本明細書で使用される場合、「クロストリジウム菌神経毒素の結合に対応する神経細胞に特異的な高親和性結合」を示すリガンドの挙動の例である。
【0104】
特定の細胞を「ターゲティングする」キャリアは、一般に、そのキャリアまたはその一部分が細胞に結合することによりターゲティングし、そして例として、所定の細胞タイプ特異性を有する多くの異なるリガンドが本明細書に記載される。
【0105】
「トランスロケーションドメイン」とは、膜または脂質二重層を横切ってそれ自体および/または他のタンパク質ならびに物質の輸送をもたらすタンパク質のドメインまたはフラグメントを意味する。後者の膜は、トランスロケーションがレセプター媒介エンドサイトーシスのプロセス中に生じる場合のエンドソームの膜であり得る。トランスロケーションドメインは、しばしば、低pHで脂質膜中に測定可能な細孔を形成し得るという特性によって同定され得る(Shoneら、Eur J. Biochem. 167, 175-180頁)。トランスロケーションドメインの例を、以下にさらに詳しく記載する:
ジフテリア毒素 −アミノ酸残基(194〜386)
ボツリヌス菌タイプA神経毒素 −アミノ酸残基(449〜871)
ボツリヌス菌タイプB神経毒素 −アミノ酸残基(441〜858)
ボツリヌス菌タイプC神経毒素 −アミノ酸残基(442〜866)
ボツリヌス菌タイプD神経毒素 −アミノ酸残基(446〜862)
ボツリヌス菌タイプE神経毒素 −アミノ酸残基(423〜845)
ボツリヌス菌タイプF神経毒素 −アミノ酸残基(440〜864)
ボツリヌス菌タイプG神経毒素 −アミノ酸残基(442〜863)
破傷風菌神経毒素 −アミノ酸残基(458〜879)
トランスロケーションドメインは、本明細書ではしばしば「Hドメイン」と言う。
【0106】
トランスロケーションドメインに関して「トランスロケーション」とは、細胞表面への結合後に生じるインターナリゼーション事象を意味する。これらの事象により、標的細胞のサイトゾル中へ物質を輸送する。
【0107】
「タイプIIIまたはタイプIV分泌系によって分泌された、注入されるエフェクター」とは、タイプIIIまたはタイプIV分泌系としばしば言われる改変された線毛または「針様」注入システムにより宿主細胞(哺乳動物、植物、昆虫、魚、またはその他)に注入される細菌タンパク質を意味し、そしてこの用語は、必須のエフェクター活性を保持するフラグメント、改変体、および誘導体を包含する。
【0108】
したがって、本発明は、神経成長を促進するための細胞内シグナリングの改変を使用する。成長円錐の発達を制御する多くのエフェクターおよびインヒビターは、細胞骨格成分のリン酸化状態を調節し、そして軸索が成長するか崩壊するかを最終的に決定する、共通の細胞内シグナリング経路を通って作用する。したがって、細胞内シグナリングの適切な操作は、アポトーシスおよび成長円錐崩壊を誘導することが示された多くの因子の複数のインヒビターの必要性を除去するための強力なアプローチである。アポトーシスを阻害する転写因子のアップレギュレーションは、神経再生を促進するための細胞内シグナリングの操作の一例である。
【0109】
本発明のエフェクターおよび組成物を用いる治療介入の方策としては、ストレス誘導因子を除去するための薬剤の送達、および細胞生存を促進するための細胞内シグナリングの改変が挙げられる。後者のアプローチは特に強力であり、そして本発明は、このような方策が実行できるようなタイプIIIエフェクター部分との結合体を記載する。
【0110】
本発明の構築物は、所望の細胞への治療薬剤の送達を確実にするために特異的なターゲティングシステムを使用し、そして細胞の細胞シグナリング機構で重要な段階を調節するように進化した細菌毒素を使用する。この方策は、他の薬物計画よりも多くの有利な点を提供する。細胞特異性は、細胞シグナリングの変更がいずれも、この改変が所望される細胞でのみ生じ、その他の隣接細胞では生じないことを確実にする。例えば、神経細胞をターゲティングした構築物において、シグナリングの変化は、ニューロンでのみ起こり、そしてこのような変化が所望され得ない隣接したグリア細胞では起こらない。シグナリング経路において重要な中間体をターゲティングすることによって、所望の効果を促進するための多くの重複する細胞事象を協調的に調節することが可能である。例えば、SigDによるAktの活性化は、細胞生存を積極的に促進し、そしてストレス因子に応じてアポトーシスの誘導をブロックするように、多くのシグナリング経路を協調させることによって、細胞に対する効果を生じる。これはまた、細胞シグナリング経路の成分を活性化するエフェクターの好例である。ほとんどの薬物発見のアプローチは、特定の成分のインヒビターを同定する傾向にある。
【0111】
本発明を、以下の特定の実施例で説明する。
【実施例】
【0112】
実施例1.タイプIIIエフェクター遺伝子のクローニングおよび発現
すべての遺伝子操作について、標準的な分子生物学プロトコルを用いた(Sambrookら、1989, Molecular cloning; A laboratory manual. 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York.)。タイプIIIエフェクター、N末端疎水性ドメインを除去している短縮型(例えば、SigDについては1〜28、SptPについては1〜69、SopEについては1〜76のアミノ酸の除去)、または個々のサブドメイン(例えば、ExoS GAPドメインのアミノ酸96〜234およびADP−リボシルトランスフェラーゼドメインのアミノ酸232〜453)をコードする遺伝子をPCRによってゲノムDNAから増幅して、クローニングに適切な制限部位を生成した。いくつかの場合では、大腸菌における発現に最適化されたコドン使用頻度を有する合成遺伝子を調製した。BamHI(5')およびBglII(3')のような制限酵素をクローニングに用いて、リーディングフレームを維持した。構築物の配列を決定して、正確な配列の存在を確認した。発現用構築物を、適切なフラグメントとして、T7ポリメラーゼプロモーター部位を有する発現ベクター(例えば、pET28、pET30、または誘導体(Novagen Inc, Madison, WI))中にサブクローニングして、マルトース結合タンパク質との融合物(例えば、pMALc2x (NEB))を生成させるか、あるいは当業者に公知の他の発現ベクターにサブクローニングした。確認された配列を有するクローンを用いて、発現宿主を形質転換した:T7ポリメラーゼベクターについては、大腸菌BL21(DE3)(StudierおよびMoffatt 1986 Journal of Molecular Biology 189:113-130頁)、JM109(DE3)またはDE3溶原菌と等価の株である。pMalc2xについては、JM109、BL21、TG1、TB1、または他の適切な発現株である。
【0113】
標準的な融合タンパク質としてのタイプIIIエフェクターの発現の他に、他のアプローチを用いて融合タンパク質を生成した。タイプIIIエフェクターまたは上記のように生成した短縮型エフェクターを、細胞ターゲティングリガンドをコードする遺伝子の5'末端にクローニングした。このリガンドとしては、毒素フラグメント、抗体、増殖因子、レクチン、インターロイキン、ペプチドが挙げられる。これらの融合タンパク質をクローニングし、そして6-Hisタグ付けした融合物、MBPタグ付けした融合物、または上記のような他の融合物のいずれかとして発現させた。
【0114】
発現培養物を、30μg/mlカナマイシンおよび0.5%(w/v)グルコースを含むTerrificブロス中で、2.0のOD600になるまで増殖し、そしてタンパク質発現を、500μMのIPTGで2時間誘導した。細胞を、超音波処理または適切なデタージェント処理(例えば、Bugbuster試薬;Novagen)のいずれかによって溶解し、細胞破砕物を遠心分離によってペレットにし、そして上清をCu2+で荷電した金属キレートカラム(Amersham-Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)に載せた。
【0115】
pETベクターから発現させた組換えタンパク質は、アミノ末端ヒスチジン(6-His)タグおよびT7ペプチドタグを含み、これらのタグはCu2+荷電した金属キレートカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーによるタンパク質精製を可能にする。タンパク質をカラムに載せそして洗浄した後、タンパク質をイミダゾールを用いて溶出させた。すべての緩衝液を、製造業者によって記載されたように使用した。ここでは精製用タグの適切な除去を、製造業者の指示書に従って行った。
【0116】
100μg/mlアンピシリンを含むTerrificブロス中で増殖し、そして上記のように溶菌し、次いで、MBP融合物を、製造業者(NEB)によって記載されたようにアミロース樹脂カラムで精製した。
【0117】
他の融合システムを、製造業者の指示書に従って使用し、そして精製を所定の方法を用いて適切なカラムで行った。
【0118】
実施例2.トランスロケーションドメインおよび結合ドメインからなる組換えターゲティングベクターの作成
すべての遺伝子操作について、標準的な分子生物学プロトコルを用いた(Sambrookら、1989, Molecular cloning; A laboratory manual. 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)。天然の遺伝子または大腸菌での発現に最適化されたコドン使用頻度を有する合成遺伝子のいずれかに由来するクロストリジウム菌神経毒素結合ドメイン(BoNT/HcまたはTeNT/Hc)を、PCRによって増幅した。導入したBamHI(5')制限部位およびHindIII、SalI、またはEcoRI(3')部位を、ほとんどのクローニング操作に用いて、リーディングフレームが制限部位の最初の塩基で始まるように設計した。構築物を配列決定して、正確な配列の存在を確認した。ジフテリア毒素のトランスロケーションドメイン(DipT)を、その天然のままの遺伝子から増幅して、BamHIおよびBglII部位をそれぞれ5'および3'末端に導入した。このBamHIおよびBglIIフラグメントを、Hcフラグメントの5'末端のBamHI部位にサブクローニングして、インフレーム融合物を生成した。重鎖フラグメント全体(DipT−Hc)を、BamHI−HindIIIまたはBamHI−SalIまたはBamHI−EcoRIフラグメントとして切り出し、そして適切な発現ベクターにサブクローニングした。
【0119】
発現用の構築物を、T7ポリメラーゼプロモーター部位を有する発現ベクター(例えば、pET28、pET30、または誘導体(Novagen Inc, Madison, WI))のいずれか中に、あるいはマルトース結合タンパク質との融合物(例えば、pMALc2x(NEB))を生成するために、適切なフラグメントとしてサブクローニングした。確認された配列を有するクローンを用いて、発現宿主を形質転換した:T7ポリメラーゼベクターについては、大腸菌BL21(DE3) (StudierおよびMoffatt 1986 Journal of Molecular Biology 189:113-130頁)、JM109(DE3)またはDE3溶原菌と等価の株である。pMalc2xについては、JM109、BL21、TG1、TB1、または他の適切な発現株である。
【0120】
pETベクターから発現させた組換えタンパク質は、アミノ末端ヒスチジン(6-His)タグおよびT7ペプチドタグを含み、これらはCu2+荷電した金属キレートカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーによるタンパク質の精製を可能にする。発現培養物を、30μg/mlカナマイシンおよび0.5%(w/v)グルコースを含むTerrificブロス中で、2.0のOD600になるまで増殖し、そしてタンパク質発現を、500μMのIPTGで2時間誘導した。細胞を、超音波処理または適切なデタージェント処理(例えば、Bugbuster試薬;Novagen)のいずれかによって溶解し、細胞破砕物を遠心分離によってペレットにし、そして上清をCu2+で荷電した金属キレートカラム(Amersham-Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)に載せた。タンパク質をカラムにロードしそして洗浄した後、タンパク質をイミダゾールを用いて溶出させた。すべての緩衝液を、製造業者によって記載されたように使用した。ここでは精製用タグの適切な除去を、製造業者の指示書に従って行った。
【0121】
100μg/mlアンピシリンを含むTerrificブロス中で増殖し、そして上記のように溶菌し、次いで、MBP融合物を、製造業者(NEB)によって記載されたようにアミロース樹脂カラムで精製した。
【0122】
トロンビンまたは第Xa因子プロテアーゼ部位をタンパク質内に含ませ、これらの精製用タグをその後除去した。
【0123】
アフィニティー精製用タグおよびこれらのアフィニティータグのその後の除去のための1以上の特異的プロテアーゼ部位を付加するためのさらなる配列もまた、遺伝子産物のリーディングフレーム中に含まれ得る。所望のタンパク質の発現を可能にする他のコード配列も受容可能である。他のタグまたは連結部位も、配列に組込まれ得る。
【0124】
上記の技法を用いて、ターゲティングベクターフラグメントを、ボツリヌス菌タイプA、タイプF、または破傷風菌神経毒素のいずれかのHフラグメントのドメインと、ジフテリア毒素のトランスロケーションドメインとを融合することによって構築した。
【0125】
実施例3.化学的方法によるボツリヌス菌重鎖の調製
種々の血清型のクロストリジウム菌神経毒素は、既述のような標準的なタンパク質精製技法を用いる方法(ShoneおよびTranter 1995, Current Topics in Microbiology, 194, 143-160頁; Springer)によって、ボツリヌス菌および破傷風菌の種々の毒素産生株から調製されそして精製され得る。ボツリヌス菌神経毒素の試料(1mg/ml)を、50mM Tris-HCl pH8.0、1M NaCl、および2.5M尿素を含む緩衝液に対して4℃にて少なくとも4時間透析し、次いでジチオトレイトールを100mMとし、そして22℃にて16時間インキュベートする。次いで、沈殿した軽鎖を含む濁った溶液を、15000×gで2分間遠心分離し、そして重鎖を含む上清液を保持し、そして0.2M NaClおよび5mMジチオトレイトールを含む50mM HEPES pH7.5に対して4℃にて少なくとも4時間透析する。透析した重鎖を15000×gで2分間遠心分離し、そして上清液を保持し、そして0.2M NaClを含む50mM HEPES pH7.5の緩衝液に対して十分に透析し、そして−70℃にて保存する。後者の手順により、化学的カップリングの目的に使用され得る遊離のシステイン残基を有する重鎖を95%を超える純度で得る。重鎖の生物学的(結合)活性は、実施例5に記載のようにアッセイされ得る。
【0126】
ボツリヌス菌神経毒素の重鎖はまた、ShoneおよびTranter (1995)(Current Topics in Microbiology, 194, 143-160頁; Springer)の方法に記載のようにQAE Sephadexでのクロマトグラフィーによって生成され得る。
【0127】
実施例4.タンパク質の化学的結合
Salmonella spp.由来の組換えSigDタイプIIIエフェクターを、実施例1に記載のようにクローニングして精製した。SigDタイプIIIエフェクターを、0.1M NaClを含む0.05M Hepes緩衝液pH7.0中の3〜5モル過剰のN-スクシンイミジル3-[2-ピリジルジチオ]プロピオネート(SPDP)での22℃にて60分間の処理によって化学的に改変した。過剰のSPDPを、4℃にて16時間同様の緩衝液に対する透析によって除去した。次いで、置換されたSigDエフェクターを、トランスロケーションドメイン(利用可能な遊離のシステイン残基を有する)および神経ターゲティングドメインを含むターゲティングベクターと1:1の割合で混合し、そして4℃にて16時間インキュベートした(実施例2を参照のこと)。後者はまた、実施例3に記載のように精製したボツリヌス菌タイプA神経毒素から精製された天然の重鎖であり得る。インキュベーション期間中、SigDエフェクターを、遊離のスルフヒドリル基によってターゲティングベクターフラグメントに結合した。インキュベーション後、SigD構築物を、Sephadex G200でのゲル濾過クロマトグラフィーによって精製した。
【0128】
実施例5.構築物の生物学的活性のアッセイ−神経細胞への高親和性結合の証明
クロストリジウム菌神経毒素は、クロラミンTを用いて125-ヨウ素で標識され、そしてその種々の細胞への結合は、Evansら、1986, Eur J. Biochem., 154, 409頁またはWadsworthら、1990, Biochem. J. 268, 123頁に記載のような標準的方法によって評価され得る。これらの実験において、神経細胞または脳シナプトソームに存在するレセプターに対して天然のクロストリジウム菌神経毒素と競合するタイプIII構築物の能力を評価した。すべての結合実験を、結合緩衝液中で行った。ボツリヌス菌神経毒素については、この緩衝液は、50mM HEPES pH7.0、30mM NaCl、0.25%スクロース、0.25%ウシ血清アルブミンからなった。破傷風菌毒素については、結合緩衝液は、0.6%ウシ血清アルブミンを含む0.05Mトリス酢酸pH6.0であった。代表的な結合実験において、放射標識したクロストリジウム菌神経毒素を、1〜20nMの間の固定濃度で保持した。反応混合物を、放射標識した毒素を種々の濃度の非標識神経毒素または構築物と混合することによって調製した。次いで、反応混合物を、神経細胞またはラット脳シナプトソームに添加し、次いで0〜3℃にて2時間インキュベートした。この期間の後、神経細胞またはシナプトソームを、氷冷した結合緩衝液で2回洗浄し、そして細胞またはシナプトソームに結合した標識されたクロストリジウム菌神経毒素の量を、αカウンティングによって評価した。ボツリヌス菌タイプA神経毒素由来の結合ドメインを含むタイプIIIエフェクター構築物を用いる実験では、構築物は、非標識の天然のボツリヌス菌タイプA神経毒素と同様に神経細胞レセプターに対して125I標識したボツリヌス菌タイプA神経毒素と競合することが見られた。これらのデータは、構築物が天然の神経毒素の結合特性を保持することを示した。
【0129】
実施例6.組換えタイプIIIエフェクター構築物
以下のエレメントの組み合わせを含む組換えタイプIIIエフェクター−ターゲティングベクター構築物を調製した:
−タイプIIIエフェクター(例えば、Salmonella spp.由来のSigD);
−リンカー領域、これは、タイプIIIエフェクターとトランスロケーションドメインとの間のジスルフィド結合の形成を可能にし、そして二本鎖分子の形成を可能にするために第Xa因子またはトロンビンによる切断のための独特のプロテアーゼ切断部位も含む;
−ジフテリア毒素由来のトランスロケーションドメインまたはインフルエンザウイルス赤血球凝集素由来のエンドソーム溶解(融合性)ペプチド;および
−神経細胞特異的結合ドメイン(例えば、破傷風菌またはボツリヌス菌神経毒素タイプAまたはボツリヌス菌神経毒素タイプF由来)。
【0130】
これらの種々のドメインのタンパク質配列は、本発明の特定の実施態様を形成し、そして以下に実施例を示す。
【0131】
これらの構造の性質を確認するために、組換えタイプIIIエフェクター−ターゲティングベクター構築物を、リンカー領域内の切断部位配列に対応する独特のプロテアーゼでの処理によって二本鎖形態に変換した。トロンビン切断部位を含む結合体を、トロンビン(1mgの結合体あたり20μg)で37℃にて20時間処理し;第Xa因子切断部位を含む結合体を、第Xa因子(1mgの結合体あたり20μg)で22℃にて20分間処理した。
【0132】
非還元条件下でのSDS−PAGEゲルでは、大部分のタイプIIIエフェクター−ターゲティングベクター構築物は、単一バンドとして出現した。還元剤(ジチオトレイトール)の存在下では、タイプIIIエフェクターおよびターゲティングベクター(トランスロケーションドメインおよび結合ドメイン)に対応する2本のバンドを観察した。これらのデータは、独特のプロテアーゼでの処理後、結合体が、ジスルフィド結合によって連結される後者の2つの成分からなることを示す。
【0133】
実施例7.タイプIIIエフェクター−ジフテリア毒素A(CRM197)融合タンパク質からのタイプIIIエフェクター構築物の形成
タイプIIIエフェクター−ターゲティングベクター構築物はまた、インビトロで2つの組換えフラグメントからの再構成によって形成され得る。これらは、次の2つである:
実施例1に記載のようにジフテリアフラグメントA(CRM197)を不活性化するように融合されたタイプIIIエフェクター;
ジフテリア毒素のトランスロケーションドメインが例えばクロストリジウム菌神経毒素由来の神経ターゲティングドメインに融合される、組換えターゲティングベクター。これらの産生は、実施例2に記載される。
【0134】
タイプIIIエフェクター構築物は、10mMジチオトレイトールの存在下でフラグメント1および2を等モルの割合で混合する工程、次いで、pH7.4のリン酸緩衝化生理食塩液に対する透析、次いで0.15M NaClを含むHEPES(0.05M、pH7.4)に対する透析によって、還元剤を完全に除去する工程によって形成され得る。実施例6に記載のように、これらの構築物は非還元条件下のSDSゲルでは単一バンドとして、および還元剤の存在下では2つのバンドとして出現する。
【0135】
実施例8.臨床使用のためのタイプIIIエフェクター構築物の処方物
臨床使用のためのタイプIIIエフェクター構築物の処方物において、組換えタイプIIIエフェクター構築物は、現行の医薬品の製造および品質管理に関する基準の下で調製される。構築物を、凍結乾燥中の製品の安定性を得るために、希釈によって溶液に移す。このような処方物は、5mM HEPES緩衝液(pH7.2)、50mM NaCl、1%ラクトース中にタイプIIIエフェクター構築物(0.1〜10mg/mlの濃度)を含み得る。溶液を、滅菌濾過後、小分けし、凍結乾燥し、そして窒素下で−20℃で保存する。
【0136】
実施例9.神経防御特性を有する構築物の作成
SigDを、実施例1に概説する方法を用いてクローニングした(最初の29コドンを含まない)。タンパク質を発現し、そしてマルトース結合タンパク質(例えば、pMALc2xを用いて)またはヒスチジン6(例えば、pET28aを用いて)のいずれかとの融合物として精製した。次いで、精製用タグを、融合タンパク質のアフィニティー精製後に標準的方法によって除去した。SigDの化学的構築物を、実施例4に概説するように調製した。
【0137】
ボツリヌス菌タイプA神経毒素のトランスロケーションドメインおよび結合ドメインに連結されたSigDを含む本発明の組換え構築物を、実施例1に概説する標準的な分子生物学的手順を用いて実施例6に概説するように調製した。
【0138】
神経細胞への上記構築物の適用により、SigDのレセプター媒介インターナリゼーション、およびそれに続くAktキナーゼの活性化が起こる。このような細胞は、増殖因子除去のようなストレスに耐える能力が増強されている。
【0139】
実施例10.神経変性疾患の治療のための構築物
エフェクターSpiC、SptP、またはSopE2を含む神経変性疾患の治療のための構築物を、実施例9に概説するように調製した。
【0140】
実施例11.細胞分泌および細胞表面レセプターの発現を調節するための構築物
神経細胞に対して、エフェクターSpiC、SopE、RalF、SseE、F、GおよびJ、PipAおよびB、SifAおよびBを含む構築物を、実施例9に概説するように調製した。
【0141】
非神経細胞に対しては、ターゲティングドメインは、標的細胞タイプに特異性を有するリガンドと置き換えられ得る。このようなリガンドは、抗体、炭水化物、ビタミン、ホルモン、サイトカイン、レクチン、インターロイキン、ペプチド、増殖因子、細胞付着タンパク質、毒素フラグメント、ウイルスコートタンパク質を含むリストから選択され得る。
【0142】
実施例12.細胞内病原体の治療のための構築物
エフェクターSopE/SopE2、RalF、SpiC、SseE、F、GまたはJ、PipAまたはB、SifAまたはB、あるいは他のエフェクター(例えば、表1に記載されるエフェクター)を含む構築物は、疾患の治療に有用な治療剤である。
【0143】
構築物を、本質的には実施例9に記載のように調製したが、抗体、炭水化物、ビタミン、ホルモン、サイトカイン、レクチン、インターロイキン、ペプチド、増殖因子、細胞付着タンパク質、毒素フラグメント、ウイルスコートタンパク質などを含むリストから選択される適切な結合ドメインを用いた。マクロファージヘのターゲティングには、これは、Bacillus anthracis由来の防御抗原または特異的取り込みを可能にするマンノース改変のような炭水化物部分を含み得る。
【0144】
本発明の組換え構築物は、エフェクタータンパク質、および所望の細胞タイプへのエフェクターのターゲティングに適切な結合ドメインを含む。
【0145】
細胞に送達される場合、このような構築物は、細胞内病原体の死を引き起こし、感染した細胞タイプからのその放出を防止し、あるいは感染して疾患を引き起こす能力を減少させる細胞事象を生じる。
【0146】
本発明のさらなる実施態様は、記載されたエフェクターと、記載されたリンカー−トランスロケーションドメイン−結合ドメイン結合体とのすべての組み合わせにより示される。
【0147】
本出願は、配列表を含み、その配列番号によって示される以下の配列は、本発明の以下の実施態様を表す。
【0148】
配列番号 説明
1 ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン
2 ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、TeNT−Hc
3 トロンビンリンカー、ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、
TeNT−Hc
4 第Xa因子リンカー、ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、
TeNT−Hc
5 ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、BoNT/F−Hc
6 トロンビンリンカー、ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、
BoNT/F−Hc
7 第Xa因子リンカー、ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、
BoNT/F−Hc
8 AAC46234侵襲遺伝子Dタンパク質[Salmonella typhimurium]SigD
9 AAF21057侵襲タンパク質D[Salmonella typhimurium]SopB
10 CAC05808 IpgD、Mxi−Spa機構により分泌され、
上皮細胞への細菌の侵入を調節する[Shigella flexneri]
11 ACC69766ターゲティングされたエフェクタータンパク質[Yersinia pestis]
YopJ
12 AAC02071 SopE[Salmonella typhimurium]
13 AAC44349プロテインチロシンホスファターゼSptP
[Salmonella typhimurium]
14 NP_047628ターゲティングされたエフェクター[Yersinia pestis]YopE
15 AAK39624外酵素S[Pseudomonas aeruginosa]
16 AAG03434外酵素T[Pseudomonas aeruginosa]
17 NP_047619 Yopターゲティングされたエフェクター[Yersinia pestis]
YopT 18 NP_052380プロテインキナーゼYopO[Yersinia enterocolitica]
19 AAF82095外部タンパク質AvrA[Salmonella enterica subsp. enterica
serovar Dublin]
20 AAC44300 SpiC[Salmonella typhimurium]
21 最初の29コドンを除去したSigD、トロンビンリンカー、
ジフテリアトランスロケーションドメイン、TeNT−Hc
22 最初の29コドンを除去したSigD、第Xa因子リンカー、
ジフテリアトランスロケーションドメイン、TeNT−H
23 最初の29コドンを除去したSigD、トロンビンリンカー、
ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、BoNT/F−H
24 SigD、第Xa因子リンカー、
ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、BoNT/F−H
25 YopT、第Xa因子リンカー、
ジフテリアトランスロケーションドメイン、TeNT−H
26 YopT、第Xa因子リンカー、
ジフテリア毒素トランスロケーションドメイン、BoNT/F−H
27 SpiC、トロンビンリンカー、ジフテリアトランスロケーションドメイン、
TeNT−Hc
28 SpiC、第Xa因子リンカー、ジフテリアトランスロケーションドメイン、
TeNT−H
29 防御抗原と相互作用し得るBacillus anthracis致死因子由来のN末端の
254残基からなるドメインに融合したSpiC
30 Bacillus anthracis防御抗原
31 ボツリヌス菌C2毒素成分1
32 ボツリヌス菌C2毒素成分2
【0149】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入される細菌エフェクタータンパク質と、該エフェクタータンパク質を非神経標的細胞にターゲティングするキャリアとの結合体であって、
該キャリアが、該非神経標的細胞に特異的に結合する第1のドメインを含む、結合体。
【請求項2】
前記キャリアの第1のドメインが、レセプター媒介エンドサイトーシスを受け、そして該キャリアが、前記エフェクターをエンドソーム膜を横切って該細胞のサイトゾル内にトランスロケートする第2のドメインをさらに含む、請求項1に記載の結合体。
【請求項3】
前記エフェクタータンパク質がリンカーによって前記キャリアに連結される、請求項1または2に記載の結合体。
【請求項4】
前記リンカーが、切断可能であり、そのため、該リンカーが前記標的細胞内に侵入した後に切断され、前記エフェクターを前記キャリアから遊離し得る、請求項3に記載の結合体。
【請求項5】
前記リンカーが、ジスルフィド結合または標的細胞中で見出されるプロテアーゼ部位である、請求項4に記載の結合体。
【請求項6】
前記キャリアが、上皮細胞、分泌細胞、免疫細胞、内分泌細胞、炎症細胞、外分泌細胞、骨細胞、および心臓血管系の細胞から選択される標的細胞に特異的に結合する、請求項1から5のいずれかの項に記載の結合体。
【請求項7】
前記第1のドメインが、抗体、炭水化物、ビタミン、ホルモン、サイトカイン、レクチン、インターロイキン、ペプチド、増殖因子、細胞付着タンパク質、毒素フラグメント、およびウイルスコートタンパク質から選択されるリガンドを含む、請求項1から6のいずれかに記載の結合体。
【請求項8】
前記第1のドメインが、内分泌細胞に特異的に結合するリガンドを含み、該リガンドが、ヨウ素;甲状腺刺激ホルモン(TSH);TSHレセプター抗体;島特異的モノシアロガングリオシドGM2−1に対する抗体;インスリン、インスリン様増殖因子、および両方のレセプターに対する抗体;TSH放出ホルモン(プロチレリン)およびそのレセプターに対する抗体;FSH/LH放出ホルモン(ゴナドレリン)およびそのレセプターに対する抗体;コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)およびそのレセプターに対する抗体;ならびにACTHおよびそのレセプターに対する抗体から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の結合体。
【請求項9】
前記第1のドメインが、炎症細胞に特異的に結合するリガンドを含み、該リガンドが、
(i)マスト細胞に対しては、一般にFc IgEのC4ドメインを含む補体レセプター、およびC3a/C4a−R補体レセプターに対する抗体/リガンド;
(ii)好酸球に対しては、C3a/C4a−R補体レセプターに対する抗体/リガンド、抗VLA−4モノクローナル抗体、抗IL5レセプター、CR4補体レセプターに反応性の抗原または抗体;
(iii)マクロファージおよび単球に対しては、マクロファージ刺激因子;
(iv)マクロファージ、単球、および好中球に対しては、細菌LPS、およびCR3に結合する酵母菌B−グルカン;
(v)好中球に対しては、OX42に対する抗体、iC3b補体レセプター関連抗原、またはIL8;および
(vi)線維芽細胞に対しては、マンノース6−リン酸/インスリン様増殖因子β(M6P/IGF−II)レセプターおよびPA2.26、マウスにおいて活性な線維芽細胞についての細胞表面レセプターに対する抗体
から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の結合体。
【請求項10】
前記第1のドメインが、外分泌細胞に特異的に結合するリガンドを含み、該リガンドが、下垂体アデニルシクラーゼ活性化ペプチド(PACAP−38)、およびそのレセプターに対する抗体から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の結合体。
【請求項11】
前記第1のドメインが、免疫細胞に特異的に結合するリガンドを含み、該リガンドが、エプスタイン・バーウイルスのフラグメント/表面特徴およびイディオタイプ抗体から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の結合体。
【請求項12】
前記第1のドメインが、心臓血管系の細胞に特異的に結合するリガンドを含み、該リガンドが、
(i)血小板に対しては、トロンビン、TRAP(トロンビンレセプターアゴニストペプチド)、またはCD31/PECAM−1、CD24、またはCD106/VCAM−1に対する抗体;および
(ii)心臓血管の内皮細胞に対しては、GP1b表面抗原を認識する抗体
から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の結合体。
【請求項13】
前記第1のドメインが、骨細胞に特異的に結合するリガンドを含み、該リガンドが、
(i)骨芽細胞に対しては、カルシトニン;および
(ii)破骨細胞に対しては、破骨細胞分化因子(例えば、TRANCE、RANKL、またはOPGL)、またはレセプターRANKに対する抗体
から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の結合体。
【請求項14】
前記第2のドメインが、ポリペプチド配列を細胞にトランスロケートするクロストリジウム菌神経毒素のドメインから選択される、請求項2に記載の結合体。
【請求項15】
前記第2のドメインが、
(a)クロストリジウム菌毒素のHドメインではなく、そしてクロストリジウム菌毒素のHドメインのフラグメントまたは誘導体ではない、トランスロケーションドメイン;
(b)生理学的緩衝液中でサイズによって測定される場合の非凝集トランスロケーションドメイン;
(c)ジフテリア毒素のHドメイン;
(d)融合性ペプチド;および
(e)膜破壊ペプチド
から選択される、請求項2に記載の結合体。
【請求項16】
単一のポリペプチドである、請求項1から15のいずれかの項に記載の結合体。
【請求項17】
前記注入される細菌エフェクタータンパク質が、GTPアーゼの活性化、GTPアーゼの不活性化、結合したGDPのGTPによる置換の増強、GTPアーゼの共有結合改変の惹起、プロテインキナーゼ活性、プロテインホスファターゼ活性、イノシトールホスファターゼ活性、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼの阻害、遺伝子発現の調節、転写因子、および細胞輸送の調節から選択される活性を有する、請求項1から16のいずれかの項に記載の結合体。
【請求項18】
請求項1から17のいずれかに記載の結合体を調製する方法であって、該方法が、前記エフェクタータンパク質を前記キャリアと結合する工程を含む、方法。
【請求項19】
前記エフェクタータンパク質を前記キャリアと化学的に連結する工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記エフェクタータンパク質に相当する第1の領域および前記キャリアをコードする第2の領域を有するポリペプチドをコードするDNAを発現させる工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記第1および第2の領域の間の前記ポリペプチドをジスルフィド結合によって連結する工程を含む、請求項18から20のいずれかの項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1から17のいずれかの項に記載の結合体をコードする、DNA構築物。
【請求項23】
請求項1から17のいずれかの項に記載の結合体を含む、薬学的組成物。
【請求項24】
請求項22に記載のDNA構築物を含む、薬学的組成物。
【請求項25】
請求項22に記載のDNA構築物を含有するベクターを含む、薬学的組成物。
【請求項26】
非神経細胞の生存を促進すること、非神経細胞に対する損傷を防止すること、非神経細胞に対する損傷を復帰させること、非神経細胞の増殖を促進すること、非神経細胞のアポトーシスを阻害すること、非神経細胞からの炎症メディエーターの放出を阻害すること、非神経細胞の分割を促進すること、および非神経細胞の細胞内感染を治療することから選択される治療のための、請求項23から25のいずれかの項に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
非神経細胞の生存を阻害すること、非神経細胞の増殖を阻害すること、非神経細胞の分割を阻害すること、非神経細胞のアポトーシスを促進すること、非神経細胞を殺傷すること、非神経細胞からの炎症メディエーターの放出を促進すること、非神経細胞からの窒素酸化物放出を調節すること、非神経細胞からの分泌を阻害すること、非神経細胞の細胞内輸送を妨害すること、および非神経細胞の細胞表面マーカーの発現を調節することから選択される治療のための、請求項23から25のいずれかの項に記載の薬学的組成物。
【請求項28】
注入される細菌エフェクタータンパク質を非神経細胞に送達するための薬学的組成物であって、
(i)該エフェクタータンパク質を含み;該エフェクタータンパク質は切断可能なリンカーによって非神経細胞ターゲティング成分に連結され、
(ii)該非神経細胞ターゲティング成分が、非神経細胞に特異的に結合し、そしてレセプター媒介エンドサイトーシスを受ける第1のドメイン、および該組成物の該エフェクタータンパク質をエンドソーム膜を横切って該細胞のサイトゾル内にトランスロケートする第2のドメインを含む、組成物。
【請求項29】
非神経細胞の治療のための医薬品の製造における、請求項1から17のいずれかの項に記載の結合体の使用。
【請求項30】
非神経細胞の治療のための医薬品の製造における、請求項1から17のいずれかの項に記載の結合体をコードする、DNA構築物の使用。
【請求項31】
非神経細胞の細胞内感染を治療するための医薬品の製造における、請求項29または30に記載の使用。
【請求項32】
非神経細胞の細胞内輸送を妨害するための医薬品の製造における、請求項29または30に記載の使用。
【請求項33】
非神経細胞の細胞表面マーカーの発現を調節するための医薬品の製造における、請求項29または30に記載の使用。
【請求項34】
非神経細胞からの分泌を阻害するための医薬品の製造における、請求項29または30に記載の使用。

【公開番号】特開2009−286794(P2009−286794A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202601(P2009−202601)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【分割の表示】特願2002−592975(P2002−592975)の分割
【原出願日】平成14年5月21日(2002.5.21)
【出願人】(509039046)シンタキシン リミテッド (7)
【Fターム(参考)】