説明

分波器

【課題】集中定数素子で構成された整合回路を有する小型の分波器を提供する。
【解決手段】分波器は、入力端子102、第1出力端子116、第2出力端子118、該入力端子と該第1出力端子間に配置の第1フィルタ110、該入力端子と該第2出力端子間に配置の第2フィルタ112、該入力端子と該第1及び第2フィルタとの間に配置の第1の整合回路100等、を備え、該整合回路は、一組のキャパシタ電極から成り、一方のキャパシタ電極が該第1フィルタに接続の第1キャパシタ106と、一組のキャパシタ電極から成り、一方のキャパシタ電極が該第2フィルタに接続されると共に,他方のキャパシタ電極が該第1フィルタの他方のキャパシタ電極に接続の第2キャパシタ108と、該第1及び第2キャパシタの接続点148と該入力端子間に配置の第1インダクタ104と、前記接続点と接地間に配置されたリアクタンス素子から成る接地回路130と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分波器に関し、特に、受動素子からなる分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の通信方式を利用して通話やデータ送受信を行うことができるマルチバンド対応の携帯電話機が普及している。マルチバンド対応の携帯電話機は、複数の周波数帯の信号が重畳されたマルチバンド信号を周波数帯ごとに分離する分波器を備える。
【0003】
分波器は、一般に、固有の通過帯域を有する複数のバンドパスフィルタを備える。複数のバンドパスフィルタを接続すると、入力インピーダンスが整合状態から外れるため、通過帯域の信号の損失が大きくなってしまう。そこで、複数のバンドパスフィルタを接続する場合には、これらのバンドパスフィルタの前段に、各バンドパスフィルタの通過帯域における入力インピーダンスを整合させる整合回路が配置される。
【0004】
整合回路は、分布定数線路を用いて構成する分布定数型の整合回路と、集中定数素子を用いて構成する集中定数型の整合回路とに大別される。例えば、特開2007−266897号公報(特許文献1)には、複数の分布定数線路を多段に接続して構成された分布定数型の整合回路が開示されている。分布定数型の整合回路における移相量は、分布定数線路の電気長によって定まるので、分布定数型の整合回路は、移相量に応じた大型化が避けられない。一方、特開2010−527192号公報(特許文献2)には、集中定数素子を組み合わせて成る集中定数型の整合回路が開示されている。集中定数型の整合回路は、小型化が容易である一方、インピーダンス整合を実現する素子の配置及び素子値を決定する手法が確立されておらず、分布定数型の整合回路と比べて回路設計が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−266897号公報
【特許文献2】特開2010−527192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の様々な実施形態によって、集中定数素子で構成された整合回路を有する小型の分波器を提供する。その他の課題は、下記の詳細な説明、添付図面等の記載から理解される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様に係る分波器は、アンテナからの受信信号が入力される入力端子と、第1出力端子と、第2出力端子と、前記入力端子と前記第1出力端子との間に配置され、第1の通過帯域の信号を通過させる第1フィルタと、前記入力端子と前記第2出力端子との間に配置され、前記第1の通過帯域とは異なる第2の通過帯域の信号を通過させる第2フィルタと、前記入力端子と前記第1及び第2フィルタとの間に配置された第1の整合回路と、を備える。一実施形態において、前記整合回路は、一組のキャパシタ電極から成り、一方のキャパシタ電極が前記第1フィルタに接続された第1キャパシタと、一組のキャパシタ電極から成り、一方のキャパシタ電極が前記第2フィルタに接続されるとともに,他方のキャパシタ電極が前記第1フィルタの他方のキャパシタ電極と接続された第2キャパシタと、前記第1及び第2キャパシタの接続点と前記入力端子との間に配置された第1インダクタと、前記第1及び第2キャパシタの接続点と接地との間に配置されたリアクタンス素子から成る接地回路と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の様々な実施態様によれば、集中定数素子で構成された整合回路を有する小型の分波器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る分波器を示す回路図
【図2】本発明の一実施形態に係るダイプレクサのインピーダンス整合を説明する模式図
【図3】本発明の一実施形態に係るダイプレクサの入力インピーダンスを示すスミスチャート
【図4】本発明の一実施形態に係るダイプレクサの減衰特性を表すグラフ
【図5】本発明の一実施形態に係るダイプレクサの減衰特性を表すグラフ
【図6】本発明の一実施形態に係る分波器の入力インピーダンスを示すスミスチャート
【図7】本発明の一実施形態に係る分波器の減衰特性を表すグラフ
【図8】本発明の一実施形態に係る分波器の減衰特性を表すグラフ
【図9】本発明の一実施形態に係る分波器の減衰特性を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の様々な実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る分波器10を表す回路図である。本発明の一実施形態における分波器10は、不図示のアンテナから入力端子102を介して入力されたマルチバンド信号を個別の周波数帯の信号に分離し、分離した信号を各出力端子116、118、120から後段の回路に出力する。分波器10は、例えば携帯電話機のフロントエンドモジュールとして用いられる。
【0011】
入力端子102と出力端子116、118、120との間には、SAWフィルタ110、112、114が並列配置されている。SAWフィルタ110、112、114の各々は固有の通過帯域を有している。例えば、SAWフィルタ112の通過帯域を、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)のバンドIの受信用帯域である2110−2170MHzとすることができる。また、SAWフィルタ110の通過帯域を、UMTSのバンドIIの受信用帯域である1930−1990MHzとし、SAWフィルタ114の通過帯域を、GPS(Global Positioning System)のL1バンドに割り当てられている1574−1576MHzとすることができる。本明細書において、SAWフィルタ110、112、114の通過帯域を、それぞれ「第1の通過帯域」、「第2の通過帯域」、「第3の通過帯域」と称することがある。一実施形態において、アンテナから受信されるマルチバンド信号には、これら第1から第3の通過帯域に相当する周波数帯の信号が重畳されている。マルチバンド信号には、第1から第3の通過帯域に相当する周波数帯以外の周波数帯の信号が重畳されていてもよい。
【0012】
入力端子102とSAWフィルタ110、112との間には、整合回路100が配置される。整合回路100は、集中定数素子型のリアクタンス素子であるキャパシタ及びインダクタを組み合わせて構成される。一実施形態において、整合回路100は、SAWフィルタ110の前方(入力端子102側)に接続されたキャパシタ106と、SAWフィルタ112の前方に接続されたキャパシタ108と、キャパシタ106とキャパシタ108との接続点148と入力端子102との間に配置されたインダクタ104と、接続点148と接地との間に配置された接地回路130と、を有する。また、入力端子102とSAWフィルタ114との間には、ハイパスフィルタ型の整合回路140が配置されている。接地回路130は、キャパシタ132とインダクタ134とを含み、例えば、キャパシタ132は、インダクタ134よりもインダクタ104側に配置される。キャパシタ132及びインダクタ134は,その一方が接地されるように配置される。ハイパスフィルタ型の整合回路140は、直列に接続された一組のキャパシタ142、144と、これらのキャパシタの接続点と接地との間に配置されたインダクタ146とからなる公知のハイパスフィルタである。
【0013】
このように、分波器10は、SAWフィルタ110、112を含む2分波回路(ダイプレクサ)150と、SAWフィルタ114を含む回路とが並列に配置された3分波回路を構成している。
【0014】
整合回路100においては、上述のように、入力端子102とSAWフィルタ110との間にキャパシタ106及びインダクタ104が直列に挿入され、インダクタ134及びキャパシタ132が並列に挿入されている。同様に、入力端子102とSAWフィルタ112との間にキャパシタ108及びインダクタ104が直列に挿入され、インダクタ134及びキャパシタ132が並列に挿入されている。これらのリアクタンス素子によって通過帯域のインピーダンスが基準インピーダンスに整合されるとともに、通過帯域外の信号(ここでは、第3の通過帯域の信号)が抑圧される。
【0015】
キャパシタ106、108、132、及びインダクタ104、134の素子値は、分波器10におけるSAWフィルタ110、112を含むダイプレクサの合成入力インピーダンスが、第1及び第2の通過帯域において入力端子102又は出力端子116,118に接続される外部回路の特性インピーダンス(通常50Ω)に整合するとともに、第3の通過帯域において無限大に近い高インピーダンスとなるように定められる。一実施形態において、インダクタ104の素子値は、キャパシタ106、108をそれぞれ直列に挿入したことによるリアクタンスの変化を相殺するように決定される。具体的には、インダクタ104の素子値は、その第1の通過帯域におけるリアクタンス値がキャパシタ106の第1の通過帯域におけるリアクタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なるとともに、その第2の通過帯域におけるリアクタンス値がキャパシタ108の第2の通過帯域におけるリアクタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なるように定められる。また、接地回路130の素子値は、SAWフィルタ110とSAWフィルタ112とを並列接続したことによるサセプタンスの変化を相殺するように決定される。具体的には、接地回路130の素子値は、その第1の通過帯域における合成サセプタンス値が、キャパシタ108を設けたフィルタ112を接続点148側から出力端子118側を見た第1の通過帯域における入力サセプタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なるとともに、その第2の通過帯域における合成サセプタンス値が、キャパシタ106を設けた第1フィルタ110を接続点148側から出力端子116側を見た第2の通過帯域における入力サセプタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なるように設定される。
【0016】
図2(a)〜図2(f)は、分波器10における第1及び第2の通過帯域の信号のインピーダンス整合を説明するための模式図である。図2(a)〜図2(f)は、入力端子102(共通端子)側から見たSAWフィルタの入力インピーダンス、及び、入力端子102側から見たダイプレクサ150の入力インピーダンスをスミスチャートの形式で模式的に示している。図2において、マーカm1は、第2の通過帯域の低周波端である2110MHzにおけるインピーダンスを示し、マーカをm2は、第2の通過帯域の高周波端である2170MHzにおけるインピーダンスを示す。また、マーカm3は、第1の通過帯域の低周波端である1930MHzにおけるインピーダンスを示し、マーカm5は、第1の通過帯域の高周波端である1990MHzにおけるインピーダンスを示す。マーカm4は、第3の通過帯域の中心周波数である1575MHzにおけるインピーダンスを示す。
【0017】
図2(a)は、SAWフィルタ110及びSAWフィルタ112単体の入力インピーダンスを示す。図示のとおり、SAWフィルタ112のインピーダンスは、第2の通過帯域であるm1からm2の範囲で概ね基準インピーダンスである50Ωに整合しており、それ以外の帯域において概ね容量性の領域にある。また、SAWフィルタ110のインピーダンスは、第1の通過帯域であるm3からm5の範囲で概ね50Ωに整合しており、それ以外の帯域において概ね容量性の領域にある。図2(a)の例に限らず、SAWフィルタ単体の入力インピーダンスは、ほとんどの周波数帯域において容量性となることが知られている。
【0018】
図2(b)に示すように、帯域外の入力インピーダンスを高インピーダンス化するため、SAWフィルタ110、112の前方にキャパシタ106、108をそれぞれ設ける。図示のとおり、キャパシタ106、108により、SAWフィルタ110、112のインピーダンスは、スミスチャートにおける等レジスタンス線上を反時計回りに回転される。具体的には、キャパシタ106により、SAWフィルタ110の通過帯域以外の周波数成分が等レジスタンス線上を高インピーダンス側に回転し、キャパシタ108により、SAWフィルタ112の通過帯域以外の周波数成分が等レジスタンス線上を高インピーダンス側に回転する。キャパシタ106、108により、通過帯域のインピーダンスの基準インピーダンスから外れるが、後述するように、通過帯域のインピーダンスは、インダクタ104による位相回転で基準インピーダンスに整合される。
【0019】
次に、図2(c)に示すように、SAWフィルタ110、112を並列に接続して、ダイプレクサ150(インダクタ104、134、キャパシタ132は省略された状態)を構成すると、この接続点から見たダイプレクサ150の入力インピーダンスは、SAWフィルタ110、112の単体の入力インピーダンスを等コンダクタンス線に沿って時計回りに回転させたものとなる。つまり、SAWフィルタ110、112同士を並列に接続することにより、接地させたキャパシタを並列に挿入したのと等しい位相回転効果が得られる。これは、図2(b)に示したキャパシタ106を設けたSAWフィルタ110が第2の通過帯域で接地のキャパシタとして機能し、キャパシタ108を設けたSAWフィルタ112が第1の通過帯域で接地のキャパシタとして機能するためである。
【0020】
次に、図2(d)に示すように、接続点148と入力端子102との間にインダクタ134を並列に挿入する。このインダクタ134により、ダイプレクサ150の入力インピーダンスは、等コンダクタンス線に沿って反時計回りに回転する。図示のとおり、この位相回転により、第3の通過帯域に相当するm4の周波数帯域の信号が高インピーダンス領域まで回転されるとともに、第1及び第2の通過帯域を基準インピーダンスの近傍に回転させる。このインダクタは、キャパシタ106とキャパシタ108との接続点148と入力端子102との間に設けられているので、SAWフィルタ110、112の前段にそれぞれ個別のインダクタを設ける場合と比較して回路を小型化することができる。
【0021】
次に、図2(e)に示すように、キャパシタ132を並列に挿入し、第1の通過帯域及び第2の通過帯域で50Ωの等レジスタンス線上に調整するとともに第3の通過帯域のインピーダンスを無限大に近い領域で回転させてインピーダンスの微調整を行うことにより、第3の通過帯域の信号をさらに抑圧する。このようなインピーダンスの微調整をキャパシタを用いて行う場合には、当該キャパシタの素子値を小さな値に設定することができる。かかるインピーダンスの微調整をインダクタのみで行おうとすると大きな素子値が必要になる。すなわち、キャパシタ132とインダクタ134の2素子を用いて特性を調整することで、インダクタ134の素子値を小さな値に設計することができる。また、インダクタ134は、通過帯域(第1及び第2の通過帯域)を基準インピーダンスに整合させることを主目的として挿入されるので、インダクタ134の1素子のみで(つまりキャパシタ132を用いずに)回路を設計すると、阻止域(第3の通過帯域)の入力インピーダンスが十分に高インピーダンス化できない可能性がある。一方、インダクタ134とキャパシタ132の2素子を用いて回路を設計することにより、それぞれの素子値を適宜設定することにより、阻止域の高インピーダンス化と通過帯域の整合を両方とも実現することができる。なお、インダクタ134の挿入によって第3の通過帯域のインピーダンスが無限大に調整されている場合には、キャパシタ132を省略することもできる。
【0022】
次に、図2(f)に示すように、インダクタ104を直列に挿入し、ダイプレクサ150の入力インピーダンスを等レジスタンス線に沿って時計回りに回転させる。第3の通過帯域は既に無限大に近い領域に位置しているため、インダクタ104を直列に挿入しても、第3の通過帯域におけるインピーダンスは無限大の領域から移動しない。
【0023】
以上のように、ダイプレクサ150のインピーダンスは、SAWフィルタ110、112と入力端子102との間にそれぞれ直列に挿入されるキャパシタ106、108によって、等レジスタンス線上を反時計回りに回転する。この位相回転による基準インピーダンスからの乖離は、インダクタ104をキャパシタ106,108の接続点と入力端子102との間に直列に挿入することで相殺される。したがって、キャパシタ106、108の直列挿入による移相回転量とインダクタ104の直列挿入による移相回転量とが等しくなるように、インダクタ104、キャパシタ106、108の素子値が設定される。例えば、インダクタ104のリアクタンス値は、上述のように、その第1の通過帯域におけるリアクタンス値がキャパシタ106の第1の通過帯域におけるリアクタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なるとともに、その第2の通過帯域におけるリアクタンス値がキャパシタ108の第2の通過帯域におけるリアクタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なるように定められる。また、キャパシタ106とキャパシタ108とを接続することにより入力インピーダンスが等コンダクタンス線上を時計回りに回転されるので、キャパシタ132、インダクタ134をキャパシタ106,108を接続点と入力端子102との間に並列に挿入することにより、この等コンダクタンス線上の位相回転を相殺する。したがって、キャパシタ132及びインダクタ134の素子値は、これらの第1の通過帯域における合成サセプタンス値がキャパシタ108を設けたSAWフィルタ112の第1の通過帯域におけるサセプタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なるとともに、第2の通過帯域における合成サセプタンス値がキャパシタ106を設けたSAWフィルタ110の第2の通過帯域におけるサセプタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なるように設定される。このような観点から、一実施形態において、キャパシタ106、108、132の容量値は、それぞれ1.9pF、2.1pF、0.25pFとし、インダクタ104、134のインダクタンス値はそれぞれ2.3nH、4.4nHとすることができる。
【0024】
図3は、図1に示すダイプレクサ150の入力端子102から見た入力インピーダンスのシミュレーション結果を示すスミスチャートである。シミュレーションの際には、SAWフィルタ110、112の通過帯域をそれぞれ1930−1990MHz、2110−2170MHzとし、キャパシタ106、108、132の容量値を1.9pF、2.1pF、0.25pFとし、インダクタ104、134のインダクタンス値をそれぞれ2.3nH、4.4nHとした。図3に示されるインピーダンスは、周波数を500MHzから3GHzまで掃引して測定された。図示のとおり、第1及び第2の通過帯域にそれぞれ相当するマーカm1、m2、m3、m5は、いずれも50Ω近辺に分布しており、第3の通過帯域に相当するマーカm4は無限大に近い高インピーダンス領域に位置することが確認された。これにより、第1及び第2の通過帯域の信号は、低損失でSAWフィルタ110、112にそれぞれ入力される一方、第3の通過帯域の信号はSAWフィルタ110、112に到達しない。
【0025】
図4及び図5は、図1に示すダイプレクサ150の減衰特性のシミュレーション結果を表すグラフである。これらの減衰特性は、ダイプレクサ150を構成するSAWフィルタ110及びSAWフィルタ112の特性を回路シミュレータに取り込み、これらの特性を整合回路100を構成する受動素子と合成してシミュレートした結果である。これらのSAWフィルタ減衰特性は、アメリカ合衆国カリフォルニア州に本社を有するAgilent Technologies, Inc.のPNA−Lを用いて測定された。図4及び図5において、横軸は周波数をGHz単位で表し、縦軸は減衰特性を示すSパラメータの大きさをdB単位で表す。図4における曲線401は入力端子102・出力端子118間の減衰特性を表し、図5における曲線501は入力端子102・出力端子116間の減衰特性を表す。
【0026】
図4から明らかなように、入力端子102・出力端子118間の減衰量は、UMTSのバンドIに割り当てられている2110−2170MHzにおいて概ね3dB以下と十分に小さく、これ以外の帯域において十分に大きい。また、図5から明らかなように、入力端子102・出力端子116間の減衰量は、UMTSのバンドIIに割り当てられている1930−1990MHzにおいて概ね5.0dB以下と十分に小さく、これ以外の帯域において十分に大きい。
【0027】
図6は、図1に示す分波器10の入力端子102から見た入力インピーダンスのシミュレーション結果を示すスミスチャートである。測定の際には、SAWフィルタ110、112、114の通過帯域をそれぞれ1930−1990MHz、2110−2170MHz、1574−1576MHzとした。また、整合回路100の各リアクタンス素子の素子値は、図3のシミュレーションと同じ値に設定するとともに、キャパシタ142の容量値を4.4pF、キャパシタ144の容量値を2.2pF、インダクタ146のインダクタンス値を6.2nHにそれぞれ設定した。図示のとおり、第1〜第3の通過帯域にそれぞれ相当するマーカm1〜m5は、いずれも50Ω近辺に分布していることが確認された。
【0028】
図7〜図9は、図1に示す分波器10の減衰特性のシミュレーション結果を表すグラフである。これらの減衰特性は、図5のグラフと同様に、分波器10を構成する回路要素を回路シミュレータに取り込んでシミュレートした結果である。図7における曲線701は入力端子102・出力端子118間の減衰特性を表し、図8における曲線801は入力端子102・出力端子116間の減衰特性を表し、図9における曲線901は入力端子102・出力端子120間の減衰特性を表す。
【0029】
図7及び図8のグラフから明らかなように、入力端子102・出力端子118間の減衰量及び入力端子102・出力端子116間の減衰量は、図4及び図5に示すシミュレーション結果と同様に、2110−2170MHz及び1930−1990MHzにおいてそれぞれ十分に小さく、これ以外の帯域において十分に大きい。また、図9から明らかなように、入力端子102・出力端子120間の減衰量は、GPSのL1バンドに割り当てられている1574−1576MHzにおいて十分に小さく、これ以外の帯域において十分に大きい。
【0030】
このように、本発明の一実施形態に係る分波器10によって、3つの異なる周波数帯域の信号が重畳されたマルチバンド受信信号を、それぞれの周波数帯の信号に分離することができる。この分波器10のインピーダンス整合は、5台のキャパシタ(キャパシタ106、108、132、142、144)と3台のインダクタ(インダクタ104、134、146)とで構成することができるので、従来の3分波回路に用いられる整合回路と比べてリアクタンス素子の数を減らすことができる。例えば、特開2009−534871号に開示されている3分波回路においては、7台のキャパシタと6台のインダクタを用いている。また、上述した特開2010−527192号公報に記載の3分波回路では、5台とキャパシタと5台のインダクタを用いている。本発明の実施形態に係る分波器10は、これらに代表される従来の3分波回路と比較して、少ない素子数で受信信号を3分波する分波器を実現することができる。また、キャパシタ106、108、インダクタ134の素子値を比較的小さな値とした場合でも、帯域外信号の抑圧に必要な位相回転を十分に実現することができる。したがって、キャパシタ106、108、及びインダクタ134を比較的小型に形成することができる。以上述べたように、本発明の実施形態に係る分波器10は、インダクタの数が少なく、さらにそのインダクタの素子値を小さく設定することができるため、LTCC(低温同時焼成セラミックス)多層回路基板で分波器10を実現する際に、多数のインダクタを有する回路や容量の大きなインダクタを利用する回路と比較して小型化することができる。LTCC多層回路基板に作り込む際には、インダクタ104とインダクタ134との間に配置されたキャパシタ130を、インダクタ104、インダクタ134、キャパシタ108、キャパシタ106を構成する線路及び平面形状の電極の寄生容量により実現することができるので、さらに小型化が可能である。
【0031】
図1ないし図3に表された分波器の回路構成は適宜変更することができる。例えば、本明細書において述べたSAWフィルタ110、112、114の通過帯域は一例であり、様々な通過帯域を有するフィルタを用いることができる。また、SAWフィルタ110、112、114に代えて、バルク弾性波フィルタ(BAWフィルタ)などの単体でのインピーダンスが帯域外で容量性となる様々なフィルタを用いることができる。また、図1には、受信信号を3分波する例を示したが、SAWフィルタ等のフィルタを並列に追加することにより、受信信号を4以上の信号に分波する回路を実現することができる。追加のフィルタは、ダイプレクサ150内でSAWフィルタ110、112と並列に追加されてもよく、ダイプレクサ150外でSAWフィルタ114と並列に追加されてもよい。ダイプレクサ150内にフィルタを追加する場合には、当該追加されるフィルタの前段にキャパシタ106、108と同様にキャパシタを挿入する。
【0032】
また、SAWフィルタ110、112、114は、誘電体フィルタであってもよい。本発明に係る分波器は、携帯電話機以外の様々な無線通信装置に搭載され得る。本発明に係る分波器は、LTCC(低温同時焼成セラミックス)多層回路基板に作りこむことでさらに小型化することができる。
【0033】
本発明の実施形態は、以上明示的に述べた態様に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態に対して様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
10 分波器、100、140 整合回路、102 入力端子、110、112、114 SAWフィルタ、116、118、120 出力端子、130 接地回路、106、108、132、142、144 キャパシタ、104、134、146 インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナからの受信信号が入力される入力端子と、
第1出力端子と、
第2出力端子と、
前記入力端子と前記第1出力端子との間に配置され、第1の通過帯域の信号を通過させる第1フィルタと、
前記入力端子と前記第2出力端子との間に配置され、前記第1の通過帯域とは異なる第2の通過帯域の信号を通過させる第2フィルタと、
前記入力端子と前記第1及び第2フィルタとの間に配置された第1の整合回路と、
を備え、
前記第1の整合回路が、
一組のキャパシタ電極から成り、一方のキャパシタ電極が前記第1フィルタに接続された第1キャパシタと、
一組のキャパシタ電極から成り、一方のキャパシタ電極が前記第2フィルタに接続されるとともに、他方のキャパシタ電極が前記第1フィルタの他方のキャパシタ電極と接続された第2キャパシタと、
前記第1及び第2キャパシタの接続点と前記入力端子との間に配置された第1インダクタと、
前記第1及び第2キャパシタの接続点と接地との間に配置されたリアクタンス素子から成る接地回路と、
を備える分波器。
【請求項2】
前記接地回路が、前記第1及び第2キャパシタの接続点と接地との間に配置された第2インダクタを含む請求項1に記載の分波器。
【請求項3】
前記接地回路が、前記第1及び第2キャパシタの接続点と接地との間に配置された第3キャパシタを含む請求項1又は2に記載の分波器。
【請求項4】
前記第1インダクタの前記第1の通過帯域におけるリアクタンス値が、前記第1キャパシタの前記第1の通過帯域におけるリアクタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なる請求項1〜3のいずれか1項に記載の分波器。
【請求項5】
前記第1インダクタの前記第2の通過帯域におけるリアクタンス値が、前記第2キャパシタの前記第2の通過帯域におけるリアクタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なる請求項1〜4のいずれか1項に記載の分波器。
【請求項6】
前記接地回路の前記第1の通過帯域におけるサセプタンス値が、前記第2キャパシタを設けた前記第2フィルタを前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとの接続点側からみた前記第1の通過帯域における入力サセプタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なる請求項1〜5のいずれか1項に記載の分波器。
【請求項7】
前記接地回路の前記第2の通過帯域におけるサセプタンス値が、前記第1キャパシタを設けた前記第1フィルタを前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとの接続点側からみた前記第2の通過帯域における入力サセプタンス値と絶対値が実質的に等しく極性が異なる請求項1〜6のいずれか1項に記載の分波器。
【請求項8】
第3の出力端子と、
前記入力端子と前記第3出力端子との間に配置され、前記第1及び第2の通過帯域のいずれとも異なる第3の通過帯域の信号を通過させる第3フィルタと、
をさらに備える請求項1〜7のいずれか1項に記載の分波器。
【請求項9】
前記入力端子と前記第3フィルタとの間に配置されたハイパスフィルタ型の第2の整合回路をさらに備える請求項8に記載の分波器。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の分波器を備える無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−98785(P2013−98785A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240388(P2011−240388)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】