説明

分注チップ及びそれを用いた反応キット

【課題】分注チップ内のエアロゾルを介して外部や分注する溶液が汚染することを防ぐ。
【解決手段】本発明の分注チップ20は、先端部に設けられた分注ノズル19、分注ノズル19の上部に接続し、内部が空洞になっているシリンジ21、及びシリンジ21内を上下に摺動して分注ノズル19での液体の吸引・吐出を行なうプランジャ22を備えている。プランジャ22の上部とシリンジ21の上部間に、ノズル19内を外部と隔てる気密性およびプランジャ22が摺動可能な柔軟性を有する隔離部材が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学的分析、生化学的分析、又は化学分析一般の分野において、医療や化学の現場において各種の解析や分析を行なうのに適する分注チップとそれを用いた反応キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生化学的分析や通常の化学分析に使用する小型の反応装置としては、マイクロマルチチャンバ装置が使用されている。そのような装置としては、例えば平板状の基板表面に複数のウエルを形成したマイクロタイタープレートなどのマイクロウエル反応プレートが用いられている。
【0003】
また、それらの反応装置でサンプルや試薬などの溶液の分注のために吸引・吐出用ノズル先端に取り付けられて用いられる分注チップとしては、尖端をもつ中空円錐状のものが使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、分注チップで溶液を分注する際に、溶液の成分や反応産物が分注チップ内からエアロゾルを介して吸引・吐出用ノズル側へ漏れ出してしまい、コンタミや外部への汚染を引き起こすことがある。また、逆に分注チップの内部のエアロゾルを介して、分注しようとする溶液を汚染することもある。
そこで本発明は、分注チップ内のエアロゾルを介して外部や分注する溶液の汚染を防ぐことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の分注チップは、先端部に設けられた分注ノズル、分注ノズルの上部に接続し、内部が空洞になっているシリンジ、及びシリンジ内を上下に摺動して分注ノズルでの液体の吸引・吐出を行なうプランジャを備えており、プランジャの上部とシリンジの上部間に、ノズル内を外部と隔てる気密性およびプランジャが摺動可能な柔軟性を有する隔離部材が備えられている。
【0006】
プランジャを引き上げた際、プランジャ、シリンジ、及びそのプランジャの上部とそのシリンジの上部間の隔離部材により形成されるループ状空間が減圧になり、プランジャや隔離部材が滑らかに動くことができない場合があるので、シリンジ、プランジャ及び隔離部材により形成されるループ状空間に通じる空気穴を設けるようにしてもよい。
【0007】
従来のマイクロウエル反応プレートは、使用時には反応プレートの上面は大気に開放された状態となり、サンプルに外部から異物が進入する恐れがあるし、逆に反応生成物が外部の環境を汚染することもありうる。そこで本発明の反応キットは、反応プレートの外部からの異物の進入や、外部への環境汚染を防ぐため、表面側にサンプルに反応を起こさせる反応容器を備えた反応プレートと、反応プレートの表面側の上方に配置された本発明の分注チップと、反応プレート上の表面側の上部プレート上空間を覆うとともに、分注チップをその先端部がプレート上空間の内側、基端部が外側になるようにして移動可能に支持しているカバーとを備えている。
【0008】
プランジャを引き上げた際に生じるループ状空間の減圧を防ぐためには空気穴を備えることが簡便で好ましいが、その空気穴がカバーの外側に備えられている場合、隔離部材によってループ状空間を外部と封止した効果が薄れてしまうので、シリンジの基端部のうちプレート上空間の内側に配置されている部位に空気穴を設け、ループ状空間に存在する空気をカバーで被われたプレート上空間の内側との間で交換することが好ましい。
【0009】
この反応キットの使用に際し、何らかの方法によりサンプルをカバーで覆われたプレート上空間内に導入しなければならない。その導入方法は特に限定されるものではないが、例えば、カバーの一部に密閉可能に設けられた開口を介して外部からそのプレート上空間内にサンプルを注入するサンプル導入部をさらに設けておいてもよい。
【0010】
サンプルの反応に使用される試薬も何らかの方法によりカバーで覆われたプレート上空間内に導入しなければならず、その方法も特に限定されるものではないが、例えばサンプルとともにサンプル導入部から導入するようにしてもよく、別の容器に入れて導入するようにしてもよく、又は予め反応プレートに収容しておいてもよい。反応プレートに試薬を予め収容しておく形態では、反応プレートはその表面側に試薬を収容しフイルムで封止された試薬容器も備えているものとなる。試薬容器を被って試薬を封止しているフイルムは分注チップで貫通可能なものである。
【0011】
反応プレート上の表面側のプレート上部空間はカバーで覆われて外部と遮断されており、サンプルに対する反応はそのプレート上部空間内で行なわれる。反応後の反応生成物の検知も反応生成物をそのカバーの外に出すことなく、反応生成物がカバー内にある状態で行なわれる。検知後は反応生成物がカバー内にある状態のままでこの反応キットが廃棄処理される。すなわち、この反応キットは使い捨て可能である。
【0012】
この反応キットが遺伝子の分析を対象とする場合には、反応プレートはその表面側に遺伝子増幅反応を行なう遺伝子増幅部を備えていることが好ましい。遺伝子増幅部は所定の温度サイクルで温度制御するのに適した形状になっていることが好ましく、反応容器をそのような形状にして遺伝子増幅部とすることもできるし、反応容器とは別に遺伝子増幅容器を設けてもよい。遺伝子増幅反応にはPCR法やLAMP法などを含む。
【0013】
反応容器での反応生成物の分析は、反応容器内で行なうこともでき、又は反応プレート上で反応容器から別の場所に移動して行なうこともできる。
反応生成物の分析を反応容器内で行なうようにした形態の反応キットでは、反応容器は底部から光学的に測定が可能なように光透過性の材質にて構成されていることが好ましい。
【0014】
反応生成物の分析を反応容器から別の場所に移動して行なうようにした形態の反応キットでは、反応プレートはその表面側に反応容器での反応生成物の分析を行なう分析部をさらに備えている。
【0015】
そのような分析部の一例は、反応生成物の電気泳動分離を行なう電気泳動部である。
そのような分析部の他の例は、反応生成物に遺伝子が含まれている場合にその遺伝子と反応するプローブが配置されている領域である。そのようなプローブ配置領域の例は、DNAチップやハイブリダイズ領域である。
【0016】
分注チップを保持し移動可能に支持する構造の一例は、ダイヤフラムやフイルムのように、気密性をもち柔軟性のある素材によって分注チップを保持し移動可能に支持する構造である。
【0017】
分注チップを保持し移動可能に支持する構造の他の例は、カバーが反応プレートと一体化されたカバー本体と、反応プレートの表面側の上部に配置されカバー本体に対してシール材により気密を保って水平面内で摺動可能に保持されたカバープレートとからなるものとし、分注チップがそのカバープレートに他のシール材により気密を保って垂直方向に摺動可能に保持されている構造である。
【0018】
本発明の反応キットは、化学反応、生化学反応を初め、種々の反応の測定に用いられるものである。
本発明の反応キットを用いて測定されるサンプルは、化学物質、生体試料、生体由来試料など種々のものを挙げることができ、特に限定されない。
【発明の効果】
【0019】
本発明の分注チップは、プランジャの上部とシリンジの上部間に分注ノズル内を外部と隔てる気密性およびプランジャが摺動可能な柔軟性を有する隔離部材が備えられているので、プランジャを摺動させてもプランジャとシリンジの隔離部材部より外側へ溶液の成分や反応産物がエアロゾルを介して漏れ出すことを抑制し、その結果コンタミや汚染を防止することができる。
【0020】
また、シリンジ、プランジャ及び隔離部材により形成されるループ状空間に通じる空気穴を設けるようにすれば、プランジャを引き上げた際にループ状空間が減圧になることを防止することができるので、プランジャや隔離部材は滑らかに動くことができ、正確な分析を行なうことができるようになる。
【0021】
本発明の反応キットは、反応プレートの表面側のプレート上空間がカバーで覆われた状態で使用されるので、外部からサンプルに異物が侵入するのを阻止することができるとともに、反応生成物が外部環境を汚染するのも阻止することができ、また、本発明の分注チップはシンプルな機構で分注ノズル内を外部空間と完全閉鎖することができるので、反応容器をコンパクトにすることもできる。
【0022】
シリンジの基端部のうちプレート上空間の内側に配置されている部位に空気穴を設けるようにすれば、外部空間と完全閉鎖した状態でシリンジのループ状空間に存在する空気をプレート上空間の内側との間で交換することができるようになり、外部への汚染の防止や装置の小型化、分析の正確性を高めることが可能になる。
【0023】
サンプル導入部をさらに備えている場合には、カバーで覆われたプレート上空間内へのサンプルの導入操作が容易になる。
【0024】
サンプルの反応に使用される試薬をサンプルとともにサンプル導入部から導入するようにすれば、この反応キットの汎用性が増す。それに対し、試薬を予め反応プレートに収容しておくようにすれば、この反応キットを処理する装置の側に試薬を用意する必要がなくなるため、処理装置が簡便なものですむようになる。
【0025】
分注チップがカバーの外側から操作するシリンジを備えているものとすれば、ノズル機構を別途設ける必要がなくなる。
反応プレートが遺伝子増幅部をさらに備えている場合には、測定対象の遺伝子を微量にしか含んでいないサンプルでもPCR法やLAMP法など遺伝子増幅反応によって遺伝子を増幅して分析精度を高めることができるようになる。
【0026】
分注チップが先端部の内部にフィルタを備えているものとすれば、分注チップがシリンジを備えていない場合でも、分注チップを通して外部から異物が侵入するのを阻止することができるとともに、分注チップを通して反応生成物が外部環境を汚染するのも阻止することができる。
【0027】
遺伝子増幅反応を行なう場合には外部からサンプルに他のDNAなどが侵入する問題が生じる。また、増幅された遺伝子が他のサンプルを汚染する問題も生じる。本発明では遺伝子増幅反応も閉じたプレート上空間内で行ない、分析終了後はそのプレート上空間に閉じたまま廃棄処理するので、外部からの汚染を阻止することができるとともに、他のサンプルを汚染する虞もなくなる。
【0028】
反応容器での反応生成物の分析を、反応容器内で行なうようにしたり、反応容器から別の場所に設けられた電気泳動部や、遺伝子と反応するプローブ配置領域などで行なうようにすれば、扱う試料の種類を広げることができる。
【0029】
分注チップを保持し移動可能に支持する構造を、気密性をもち柔軟性のある素材によって実現したり、カバーをカバー本体とカバープレートとからなるものとして分注チップをカバー本体に対するカバープレートの摺動とカバープレートに対する分注チップの摺動とにより移動可能に支持するようにすれば、分注チップを保持し移動可能に支持する構造を簡単な構成で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は一実施例の反応キットを表わしたものであり、(A)は垂直断面図、(B)は反応プレートと分注チップ20を示す平面図であり、図2は同実施例の斜視図である。
図1に示されるように、反応プレート2は基板3の表面側にサンプルに反応を起こさせる反応容器4及びサンプルの反応に使用される試薬を収容しフイルム14で封止された試薬容器12を備えている。
【0031】
反応容器4は基板3の表面に凹部として設けられている。反応容器4は反応に際して外部から温度制御されるものである場合には、熱伝導率をよくするためにその部分の反応容器4の肉厚が薄くなっていることが好ましい。
【0032】
試薬容器12は基板3に形成された複数の凹部からなり、それらの凹部に必要な試薬が収容され、後で説明する分注チップ20で貫通可能なフイルム14で覆われている。フイルム14は、例えばアルミニウム箔、アルミニウムとPET(ポリエチレンテレフタレート)フイルムなどの樹脂フイルムとの積層膜などであり、容易に剥がれないように融着や接着により貼りつけられている。
【0033】
基板3の表面には必要に応じてサンプルと試薬とを混合するための混合部も凹部として形成しておいてもよく、そのような混合部は空の状態でフイルム14により覆われているものとすることができる。
【0034】
反応容器4での反応生成物を検出するために反応容器4に外部から光を照射するなどの手段により反応容器4自体を検知部とすることもできる。また、検知部を反応容器4とは別に独立して設けることもできる。そのような独立した検知部としては、例えばサンプルと試薬の反応後の反応液が分注チップ20によって分注されるようにしたもので、反応後の状態が検知される試薬がそれぞれ予め配置されているものとすることができる。そのような検知部もその表面が分注チップ20によって貫通可能なフイルムによって覆われたものとすることができる。そのようなフイルムもフイルム14と同様に、例えばアルミニウム箔、アルミニウムとPETフイルムなどの樹脂フイルムとの積層膜などとすることができ、容易に剥がれないように融着や接着により貼りつけることができる。
【0035】
反応容器4を含む基板3の材質は特に限定されるものではないが、この反応キットが使い捨て可能であることから、安価に入手可能な素材があることが好ましい。そのような素材として、例えばポリプロピレン、ポリカーボネートなどの樹脂素材が好ましい。反応容器4又は別途設けた検知部で検出を吸光度、蛍光、化学発光又は生物発光などにより行なう場合には、底面側から光学的な検出ができるようにするために光透過性の樹脂で形成されていることが好ましい。特に蛍光検出を行なう場合には、基板3の材質として低自蛍光性(それ自身からの蛍光発生が少ない性質のこと)で光透過性の樹脂、例えばポリカーボネートなどの素材で形成されていることが好ましい。基板2の厚さは0.3〜4mm、好ましくは1〜2mmである。蛍光検出用の低自蛍光性の観点からは基板3の厚さは薄い方が好ましい。
【0036】
反応プレート2の表面側の上部には分注チップ20が配置されている。分注チップ20はサンプル及び試薬、又は反応プレート2が独立した検知部を備えたものである場合にはさらに反応後の反応液をその検知部に分注するものである。分注チップ20はシリンジ21を備えており、カバー24の外部からこのシリンジ21を駆動することによって分注動作を行なう。
【0037】
次に分注チップ20及びそれを装着するキャッチ機構90について説明する。
図3は分注チップ20とそれを装着するキャッチ機構を表わしたものであり、(A)は分注チップにキャッチ機構を装着する前の状態、(B)はキャッチ機構を分注チップに装着した状態、(C)は分注チップ内のプランジャ22を引き上げる状態の断面図を示している。
分注チップ20は、先端から液体の吸引・吐出を行なう分注ノズル19と、分注ノズル19の上部に接続し、内部が空洞になっているシリンジ21と、そのシリンジ21内を上下に摺動することにより液体の吸引・吐出を行なうプランジャ22とを備えている。
【0038】
キャッチ機構90はプランジャ22及び分注チップ20を別個に把持することが可能なものであり、プランジャ22と同軸上に位置決めされるプランジャホルダ36bと、プランジャホルダ36bの外周部に設けられ、プランジャホルダ36bに対して上下方向(軸に平行な方向)に相対的に移動可能に設けられたスリーブ93と、スリーブ93の外側でスリーブ93に対して上下方向(軸に平行な方向)に相対的に移動可能に設けられたチップホルダ36aを備えている。
【0039】
プランジャホルダ36bとスリーブ93との間、スリーブ93とチップホルダ36aとの間にはコイルバネ92a,94aが圧縮状態で設けられている。
プランジャホルダ36bとチップホルダ36aの先端は、摩擦又は止め具等によって、プランジャ22と分注チップ20を把持する。例えば、プランジャホルダ36bの内表面に凹凸部を有し、プランジャ22の外表面にはその凹凸に嵌めあう形状を有するようにすればよい。
【0040】
プランジャ22の上部に設けられているパッキン98aとシリンジ21の上部に設けられているパッキン98bを繋ぐように隔離部材96が形成されている。隔離部材96としては気密性及び柔軟性を備えているものが好ましく、例えば、ダイヤフラムや薄いフイルムを用いることができる。柔軟性のある素材として、シリコーンゴムやエチレンプロピレンゴム(EPDM)、又はブチルゴムなどを用いることができる。
【0041】
隔離部材96、シリンジ21及びプランジャ22によってループ状空間95が形成されている。
このループ状空間95はプランジャ22の移動により体積が変化する。ループ状空間95とベローズフイルム28により覆われているプレート上空間との間で空気が交換できるように、シリンジ21の基端部のうちプレート上空間の内側に配置されている部位には空気穴99が設けられている。
【0042】
図4はキャッチ機構90が分注チップ20を装着する装着動作(A1)〜(A6)と、キャッチ機構90が分注チップ20を解放する解放動作(B1)〜(B2)を示す垂直断面図である。
(A1)はキャッチ機構90が分注チップ20を装着する前の初期状態であり、プランジャホルダ36bは、スリーブ93内に収められている。プランジャホルダ36bの先端にはシャープペンシルの先端のような切れ込みが設けられており、先端の外径はスリーブ93から出た際に広げられるようになっている。
【0043】
(A2)はプランジャホルダ36bを降下させていくときの状態であり、スリーブ93内から外に出たプランジャホルダ36bの先端は、プランジャ22を掴むのに充分な大きさにまで広がる。コイルバネ92aはプランジャホルダ36bの降下による力によって縮められる。
(A3)は先端が広げられたプランジャホルダ36bがプランジャ22を仮装着したときの状態である。コイルバネ92a,94aは共に縮んでいるので、チップホルダ36aも同時に降下し、シリンジ21に接触して装着に備えている。
【0044】
(A4)はプランジャ22を仮装着したプランジャホルダ36bが引き上げられている状態であり、コイルバネ92aはこれによって伸ばされる。
(A5)はプランジャホルダ36bとチップホルダ36aを同時に降下させ、プランジャホルダ36bがプランジャ22を、チップホルダ36aがシリンジ21を本装着したときの状態である。
(A6)は本装着後、プランジャ22を上下方向に摺動させている状態を示している。
【0045】
(B1)はキャッチ機構90が分注チップ20を装着した状態である。
(B2)はキャッチ機構90から分注チップ20を解放する状態を示し、プランジャホルダ36bには降下させる力を加え、チップホルダ36aには引き上げる力を加える。
プランジャホルダ36bの先端がプランジャ22を解放する大きさまで広がることにより、キャッチ機構90は分注チップ20を解放する。
【0046】
次にカバー24について説明する。
カバー24は反応プレート2の表面側の上部空間を覆うように設けられている。カバー24は周辺部を覆うカバー本体26と、上部を覆うベローズフイルム28とからなっており、反応プレート2の表面側の空間を外部から遮断している。カバー本体26は下端部が反応プレート2に固着されているか、又はシール材を介して反応プレート2と一体として組み立てられており、剛性をもってカバー24の形状を維持している。ベローズフイルム28は柔軟性のあるダイヤフラムや柔軟性のあるフイルムからなり、分注チップ20をその先端部がカバー24で覆われた空間の内側、基端部がカバー24で覆われた空間の外側になるようにして移動可能に保持している。
【0047】
カバー24の素材も特に限定されるものではなく、反応プレート2の表面側の上部空間を気密を保って覆うことができるものであればよいが、この反応キットが使い捨て可能であることから、安価に入手可能な素材があることが好ましい。そのような素材として、カバー本体26には例えばポリプロピレン、ポリカーボネートなどの樹脂素材、ベローズフイルム28にはナイロン(登録商標)、ポリ塩化ビニール、シリコーンゴムその他のゴム素材などが好ましい。
【0048】
カバー本体26の一部又は基板3には使用前及び使用後の分注チップ20を保持するための保持部材30が設けられており、分注チップ20は分注時には保持部材30から取り外されて反応プレート2の表面側の上部を自由に移動できるようになる。
【0049】
カバー24の外部から反応プレート2にサンプルを導入するためにカバー本体26の一部に開口31が設けられ、その開口31にはサンプル容器32が開閉可能に取りつけられている。サンプル容器32にはサンプルを注入するために上に開いた凹部が形成されている。その凹部にサンプルを注入し、カバー24の内部に位置決めすると、サンプル容器32を保持しているプレート34がカバー本体26に密着して開口31を密閉するように、プレート34の内側に粘着剤が塗布されているか、又はシール材を介してカバー本体26に挟み込まれるようになっている。したがって、開口31は密閉可能な開口となっている。
この反応キットは使い捨て可能なものであり、1つのサンプルについて分析を行なった後は反応プレート2がカバー24で覆われた状態のままでこの反応キット全体を破棄する。
【0050】
次に、この実施例の反応キットによりサンプルを分析する動作を説明する。
分析に先立ち、サンプルは開口31からサンプル容器32に注入され、その後サンプル容器32により開口31が閉じられることによってカバー本体26にサンプル容器32が固着されて、サンプルがこの反応キットのカバー24で覆われた空間内に導入された状態で外部と遮断される。
【0051】
図5はサンプルが導入された状態で、駆動ユニット36が分注チップ20とシリンジ21との係合を開始する状態を示している。
まず、図6に示されるように、シリンジ駆動部であるプランジャホルダ36bが下降してシリンジ21のプランジャ22と係合する。
続いて、図7に示されるように、チップホルダ36aも下降して分注チップ20に圧入されて分注チップ20を保持する。
【0052】
次に、図8に示されるように、分注チップ20が保持部30から取り外される。これで分注チップ20はベローズフイルム28によって外部と遮断された状態で自由に移動できるようになる。
【0053】
分注チップ20はサンプル容器32のサンプルへ移動させられ、サンプルを注入して反応容器4へ分注する。
続いて分注チップ20は試薬容器12へ移動させられ、フイルム14を貫通して試薬容器12から試薬を反応容器4へ分注して、反応に供される。この反応時に、必要に応じて反応容器4が外部の熱源と接触させられ、所定の温度に制御される。
【0054】
反応中又は反応終了後、反応生成物の検知が行なわれる。ここでは、反応生成物が反応容器4にある状態で反応プレート2の外部から光学的に検知されるものとする。そのため、反応容器4の下方には検出ユニットが配置されて光学的又は他の手段により検出が行なわれる。
【0055】
上記の実施例では反応プレート2は試薬容器12を備えているが、反応プレート2は試薬容器12を備えないものとすることもできる。その場合、試薬はサンプルとともにサンプル容器32に注入してこの反応キット内に導入したり、又は図示していない別の容器に入れてこの反応キット内に導入したりするように使用することができる。
【0056】
図9から図11に本発明の反応キットにおける反応容器での反応生成物の検出に用いる検出ユニットの例を示す。
図9は吸光度検出器からなる検出ユニットの例である。この場合、反応容器4は測定光の入射面と出射面となる互いに平行な一対の平面を備えていることが好ましい。
【0057】
この検出ユニット38aには、照射光学系として光源40aと、光源40aからの光を集光し、いったん平行光にした後に反応容器4に集光して照射する一対のレンズ42aと、一対のレンズ42a間で平行光にされた部分に配置されて光源40aからの光から所定の波長光を選択して測定光とするフィルタ44aと、測定光を反応容器4の入射面に導くミラー46とが光路上に配置されている。光源40aとしては、紫外領域から可視領域の波長の光を発生するタングステンランプなどのランプ光源のほか、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)などを使用する。また、受光光学系として、光検出器48aと、反応容器4の出射面を出た光を光検出器48aに導くミラー50と、その光をいったん平行光にした後に集光し光検出器48aに入射させる一対のレンズ52と、一対のレンズ52間で平行光にされた部分に配置されて測定に適した所定の波長を選択するフィルタ54aとが光路上に配置されている。
【0058】
レンズ42a,52aでそれぞれの光をいったん平行光にするのは、フィルタ44a,54aにおける波長選択の精度を高めるためである。
この検出ユニット38aでは光源40aからの光から反応生成物の検出に適した波長をフィルタ44a,54aにより選択し、その波長での吸光度を測定して反応生成物の検出を行なう。
【0059】
図10は蛍光検出器からなる検出ユニットの例である。
この検出ユニット38bは励起光学系として光源40bと、光源40bからの光を集めていったん平行光とした後、反応容器4に集光して照射するための一対のレンズ42bと、レンズ42bで平行光とされた光線の光路に配置されて光源からの光から所定の励起光波長を選択するフィルタ44bとを備えている。また、受光光学系として光検出器48bと、反応容器4から発生する蛍光を受光し、いったん平行光とした後、集光して検出器48bに入射させる一対のレンズ52bと、レンズ52bにより平行光とされた蛍光の光路に配置され、所定の蛍光波長を選択するフィルタ54bとを備えている。ここでも、レンズ42b,52bでそれぞれの光をいったん平行光にするのは、フィルタ44b,54bにおける波長選択の精度を高めるためである。
【0060】
この検出ユニット38bでは光源40bからの光からフィルタ44bにより反応生成物を励起するための励起光の波長を選択して反応容器4内の反応生成物に照射し、反応生成物から発生した蛍光を受光光学系で受光し、フィルタ54bにより所定の蛍光波長を選択して光検出器48bで蛍光を検出する。
【0061】
図11は反応生成物からの化学発光又は生物発光を検出するための検出ユニットの例である。
この検出ユニット38cは、反応容器4からの発光を検出するために、光検出器48cと、反応容器4からの発光を受光して光検出器48cに導くためのレンズ52cと、集められた光から所定の発光波長を選択するフィルタ54cを備えている。
この検出ユニット38cでは反応容器4中の反応生成物からの化学発光又は生物発光による光がレンズ52cで集められ、フィルタ54cで波長が選択されて光検出器48cで検出される。
【0062】
図12から図16は反応プレートの構造が異なる他の実施例を表わしたものである。以上の実施例の反応プレートでは反応生成物の検出を反応容器4で行なうようにしているが、図12から図16に示す実施例では反応プレートは反応生成物の分析を行なう分析部をさらに備えている。
【0063】
図12の実施例における反応プレート2aは、分析部として電気泳動部を備えている。その電気泳動部の一例が電気泳動チップ100であり、電気泳動チップ100は、反応生成物の注入部103、電気泳動分離用流路102及び泳動電圧印加用電極106a〜106dを備えている。ここでは、電気泳動分離用流路102のほかに、電気泳動分離用流路102と交差し、電気泳動分離用流路102に試料を導入するための試料導入用流路104も備えているが、電気泳動分離用流路102の一端に直接に試料を導入するように構成されたものであってもよい。電気泳動チップ100は裏面側から蛍光検出するために、低自蛍光性で光透過性の樹脂、例えばポリカーボネートなど、ガラス又は石英などの素材で形成されている。
【0064】
反応プレート2aは、その表面側に、流路102,104に注入される分離バッファ液を収容し分注チップ20の先端で挿入可能なフイルムで封止された分離バッファ液容器15も備えている。
【0065】
泳動電圧印加用電極106a〜106dはそれぞれ流路102,104の端部に接続され、この反応キットの外部に設けられた電源装置に接続できるように、カバー24の外側に導かれている。
流路102,104の端にはリザーバが設けられ、分離バッファ液容器15に収容された分離バッファ液はそれらのリザーバに入れられる。
この実施例を遺伝子の分析に使用する場合の一例を示すと、試薬容器12にはPCR反応試薬を収容しておく。反応容器4はPCR反応容器となる。
【0066】
この実施例の反応キットで遺伝子試料を測定する場合は、試料をサンプル容器32から導入し、反応キットを処理装置に装着する。その処理装置内で、分注チップ20によってサンプル容器32から反応容器4へ分注し、さらに分注チップ20によって試薬容器12からPCR反応試薬を反応容器4へ分注し、さらにその上に図示していないミネラルオイルを重層した後、反応容器4の反応液を所定の温度サイクルになるように制御してPCR反応を起こさせる。
電気泳動チップ100では、分注チップ20によって分離バッファ液を分離バッファ液容器15から電気泳動チップ100のリザーバを介して流路102,104に供給する。
【0067】
PCR反応終了後の反応液を試料として分注チップ20によって反応容器4から分離バッファ液供給すみの電気泳動チップ100の注入部103に注入する。その後、処理装置に設けられた電源装置101(図13参照。)から電極106a〜106dにより流路102,104に電圧を印加して、試料を電気泳動分離用流路102へ導入し、その後電気泳動分離用流路102を泳動させて分離する。
【0068】
電気泳動分離された試料成分を検出するために、処理装置には検出ユニット38dが設けられている。
ここでは、反応容器4をPCR反応容器として使用しているが、反応容器4とは別にPCR反応容器を設けてもよい。
【0069】
その検出ユニット38dを図13に示す。この検出ユニット38dは励起光学系と蛍光受光光学系を備えて、電気泳動分離用流路102の所定の位置を通過する試料成分の蛍光検出を行なう。検出ユニット38dは固定された位置を通過する試料成分の蛍光検出を行なうので、検出ユニット38dは移動させる必要はない。
【0070】
その励起光学系は光源40cと、光源40cからの光を集めて平行光とするレンズ42cと、レンズ42cで平行光とされた光線の光路に配置されて光源からの光から所定の励起光波長を選択するフィルタ44cとを備えている。
【0071】
励起光学系からの励起光を電気泳動チップ100の裏面から電気泳動分離用流路102の所定の位置に照射し、その位置から発生した蛍光を受光して平行光にするためにダイクロイックミラー53と対物レンズ55を備えている。ダイクロイックミラー53はこの実施例で使用する励起光波長の光を反射し、蛍光波長の光を透過させるように分光波長が設定されている。
【0072】
蛍光受光光学系は対物レンズ55により平行光とされてダイクロイックミラー53を透過した蛍光を受光する位置に配置されており、ダイクロイックミラー53を透過した蛍光から所定の蛍光波長を選択するフィルタ54cと、フィルタ54cにより波長選択された蛍光を集光して検出器48cに入射させるレンズ52cとを備えている。ここでも、レンズ42c,55でそれぞれの光をいったん平行光にするのは、フィルタ44c,54cにおける波長選択の精度を高めるためである。
【0073】
この検出ユニット38dでは光源40cからの光からフィルタ44cにより反応生成物を励起するための励起光の波長を選択して電気泳動分離用流路102の所定の位置を通過する反応生成物に照射し、反応生成物から発生した蛍光を受光光学系で受光し、フィルタ54cにより所定の蛍光波長を選択して光検出器48cで蛍光を検出する。
【0074】
図14の実施例における反応プレート2bは、分析部としてDNAチップ110を備えている。DNAチップ110には、反応生成物に遺伝子が含まれている場合にその遺伝子と反応するプローブが固定されている。DNAチップ110は裏面側から蛍光検出するために、低自蛍光性で光透過性の樹脂、例えばポリカーボネートなど、又はガラスで形成されている。
【0075】
反応プレート2aは、その表面側に、DNAチップ110においてプローブと結合した反応生成物から結合しなかった反応生成物を分離して除去するための洗浄液を収容し分注チップ20の先端で挿入可能なフイルムで封止された洗浄液容器17も備えている。
この実施例を遺伝子の分析に使用する場合の一例を示すと、試薬容器12にはPCR反応試薬を収容しておく。反応容器4はPCR反応容器となる。
【0076】
この実施例の反応キットで遺伝子試料を測定する場合は、試料をサンプル容器32から導入し、反応キットを処理装置に装着する。その処理装置内で、分注チップ20によってサンプル容器32から反応容器4へ分注し、さらに分注チップ20によって試薬容器12からPCR反応試薬を反応容器4へ分注し、さらにその上に図示していないミネラルオイルを重層した後、反応容器4の反応液を所定の温度サイクルになるように制御してPCR反応を起こさせる。
【0077】
PCR反応終了後の反応液を試料として分注チップ20によって反応容器4からDNAチップ110に注入する。インキュベーションの後、分注チップ20によって洗浄液容器17から洗浄液をDNAチップ110に注入し、プローブと結合しなかった反応生成物を分注チップ20によって洗浄液とともに吸入して除去する。
【0078】
反応生成物は蛍光物質によって標識しておくことにより、プローブと結合した反応生成物を蛍光により検出することができる。それにより、蛍光が検出された位置のプローブに対応した遺伝子がその試料中に含まれていたことが検出される。
分注チップ20でプローブと結合した反応生成物を検出するために、処理装置には検出ユニット38eが設けられている。
【0079】
その検出ユニット38eを図15に示す。この検出ユニット38eの光学系の構成は図13に示された検出ユニット38dと同じであるので、説明は省略する。この検出ユニット38eは、DNAチップ110に配置されたプローブの位置にわたって移動しなければならないので、移動可能に支持されている点で図13に示された検出ユニット38dと異なる。その移動は、後の図22に示されるように、テーブル82のX方向の移動と、この検出ユニット38eのY方向の移動により実現することができる。
【0080】
図16の実施例における反応プレート2cは、分析部としてDNAチップ120を備えている。DNAチップ120は検出を蛍光検出ではなく、電気的に行なう点で図14の実施例のDNAチップ110と異なる。プローブへの試料遺伝子の結合の有無によりプローブの電流値が変化する現象を利用する。DNAチップ120は光学的な検出を行なわないので、光透過性の材質である必要はなく、絶縁性であればよい。
【0081】
DNAチップ120には反応生成物に遺伝子が含まれている場合にその遺伝子と反応するプローブが固定されている。それらの各プローブからは裏面側に電極が取り出され、各フローブの電流値が測定されるようになっている。この実施例では、試料を蛍光物質で標識しておく必要はない。
【0082】
DNAチップ120での測定を行なうために、各プローブから裏面側に取り出された電極は、処理装置に設けられた検出器122に接続され、各プローブの電流値が測定される。
反応プレート2cも、その表面側に、DNAチップ120においてプローブと結合した反応生成物から結合しなかった反応生成物を分離して除去するための洗浄液を収容し分注チップ20の先端で挿入可能なフイルムで封止された洗浄液容器17を備えている。試薬容器12にはPCR反応試薬を収容しておく。反応容器4はPCR反応容器となる。
【0083】
この実施例の反応キットで遺伝子試料を測定する場合は、試料をサンプル容器32から導入し、反応キットを処理装置に装着する。その処理装置内で、分注チップ20によってサンプル容器32から反応容器4へ分注し、さらに分注チップ20によって試薬容器12からPCR反応試薬を反応容器4へ分注し、さらにその上に図示していないミネラルオイルを重層した後、反応容器4の反応液を所定の温度サイクルになるように制御してPCR反応を起こさせる。
【0084】
PCR反応終了後の反応液を試料として分注チップ20によって反応容器4からDNAチップ120に注入する。その後、分注チップ20によって洗浄液容器17から洗浄液をDNAチップ120に注入し、プローブと結合しなかった反応生成物を分注チップ20によって洗浄液とともに吸入して除去する。
【0085】
分注チップ20でプローブと結合した反応生成物を検出するために、処理装置には検出器122が設けられており、プローブと結合しなかった反応生成物を除去し、検出器122により各プローブの電流値を測定する。
図14又は図16の実施例において、DNAチップ110,120をハイブリダイズ用の領域に替えても同様に遺伝子を測定することができる。
【0086】
図17はカバーの構造が異なる他の実施例を表わしたものである。分注チップ20を移動可能に支持し、反応プレート2の上部を覆うためのカバーの一部が、図1の実施例ではベローズフイルム28であったのに対し、図17の実施例では柔軟に変形するフイルム状の素材28aになっている点で異なる。フイルム状の素材28aとしては、ベローズフイルム28と同様に、ナイロン(登録商標)、ポリ塩化ビニール、シリコーンゴムその他のゴム素材などが好ましい。
【0087】
また、サンプル容器として図1の実施例ではその一辺がカバー本体26に回動可能に支持されているのに対し、図17の実施例におけるサンプル容器32aは、カバー本体26に対しスライド可能に取りつけられている点で異なる。このようなサンプル容器32aにおいても、サンプル容器32aはカバー本体26から外部に引き出すことによりサンプル容器32aに試料を分注することができる。また、サンプル容器32aのプレート34の内側に粘着剤が塗布されており、サンプル容器32aをカバー本体26の内部に押し込むことによりプレート34の内側で開口31を密閉したり、シール材により開口31を密閉したりすることができる点は図1の実施例のものと同じである。
【0088】
これらの検出ユニット38a,38b,38cはこの反応キットの処理を行なう処理装置において、反応キットが処理装置に装着された状態で、反応プレート2の下側にくるように配置されている。
【0089】
図18は反応キットのさらに他の実施例を表わしたものである。(A)は垂直断面図、(B)は水平断面図、(C)は外観斜視図である。
この実施例では分注チップ20を移動可能に支持するカバーが剛性をもった素材で構成されている。カバー24aのカバー本体60は反応プレート2の上方に開口62をもち、その開口62にはその開口62の範囲内で分注チップ20を移動可能に支持するためのカバープレート64が設けられている。カバー本体60は開口部62の周辺が隙間をもつ二重構造になっており、カバープレート64はその周辺にシール材66を備え、シール材66がカバー本体60の開口部62の周辺の二重構造の隙間に挟まれてX方向に移動することにより、カバープレート64が水平面内でX方向に移動することができる。カバープレート64には分注チップ20が他のシール材68を介して垂直方向(Z方向)に摺動可能に支持されている。
【0090】
この実施例では、カバープレート64がシール材66とカバー本体60の上部の二重構造の隙間とのシール構造により気密を保たれながら水平面内で移動し、分注チップ20がシール材68で気密を保たれながら上下方向に移動することにより、分注チップ20が反応プレート2の上部空間を上下及び水平面内の両方向に自由に移動することができる。
【0091】
図19はさらに他の実施例を表わしたものである。図18の実施例と比較すると、カバープレート64がX,Yの両方向に移動できるようになっていて、反応プレート2における試薬容器12の数が増えている点で異なり、他の構造は同じである。
【0092】
図20はさらに他の実施例を表わす。この実施例では分注チップ20を面内方向で移動させるために、カバーの上部部材を構成するカバープレート64aが面内方向で回転可能に支持されている点で図18の実施例と異なる。カバープレート64aは円板形であり、その周囲にシール材66が取りつけられている。シール材66はカバー本体60の上部に設けられた二重構造の隙間に支持され、カバープレート64aを気密を保って回転可能に支持している。分注チップ20はカバープレート64aにシール材68により垂直方向に移動可能に支持され、その支持されている位置はカバープレート64aの回転中心から外れた位置である。
【0093】
カバープレート64aが回転することにより分注チップ20の位置はカバープレート64aの回転中心を中心とする円周上を移動する。反応プレート2ではその分注チップ20の移動軌跡上に反応容器4、試薬容器12及びサンプル容器32が位置するようにそれぞれの配置が定められている。
【0094】
図21はさらに他の実施例を表わしたものである。図20の実施例と比較すると、カバープレート64aも開口70をもち、その開口70の周辺が二重構造となってその二重構造の隙間にシール材72を介して他のカバープレート71が移動可能に支持されている。分注チップ20は他のシール材68によりカバープレート71に垂直方向に移動可能に支持されている。
【0095】
分注チップ20はシール材72により面内方向においても移動することができるようになっている。そのため分注チップ20の移動範囲はカバープレート64aの回転による円周と、小さいカバープレート71がシール材72により移動できる水平面内の移動範囲の両方により、カバープレート64aの回転中心を中心とするドーナツ状の範囲を移動することができる。このように分注チップ20の移動範囲が広まることにより、その移動範囲に配置される反応容器4及び試薬容器12の数を増やすことができ、サンプル容器32も含めてそれらの容器の配置に対する自由度が高まる。
【0096】
図22は本発明による反応キットを処理する処理装置の一例の内部を概略的に示した斜視図である。
80は上記の実施例に示される反応キットを表わしている。反応キット80は反応キット装着部であるテーブル82上に装着される。テーブル82は反応キット80の下面側に開口をもち、テーブル82の下部には反応キット82の反応容器4の反応生成物を光学的に検出する検出ユニット38が配置されている。テーブル82上には反応キット82の温度制御を行なう温調(温度調節)ユニット83も配置されている。反応キットの反応容器4又は別に設けた遺伝子増幅反応容器により遺伝子増幅反応を行なうものである場合には、温調ユニット83はその遺伝子増幅反応のための温度制御を行なうものとなる。また、反応キットが温度制御を必要とする分析部を備えている場合には、温調ユニット83はその分析部の温度制御を行なうものとなる。温調ユニット83はそれらの両方の機能を備えたものであるものも含む。検出ユニット38は図9〜図11に示されたものなどである。テーブル82は前後方向(X方向)に移動し、一方、検出ユニット38はそれに直交する横方向(Y方向)に移動するように支持されている。
【0097】
テーブル82の近くには分注チップ20を駆動する駆動ユニット36がY方向とZ方向に移動可能に取りつけられている。駆動ユニット36は、図3に示されているように、分注チップ20の基端部と係合して分注チップ20を保持するチップ保持部36aと、分注チップ20に設けられたシリンジ21のプランジャ22と係合してシリンジを駆動するシリンジ駆動部36bを同軸上に備えており、分注チップ20の移動とシリンジ21の駆動の両方を行なうことができるものである。
【0098】
図23は反応キット処理装置の一例における制御系を示したブロック図である。テーブル82に装着された反応キット80に対する処理動作を制御するために、専用のコンピュータ(CPU)又は汎用のパーソナルコンピュータからなる制御部84が設けられている。制御部84は分注チップ20の基端部と係合した駆動ユニット36による分注チップ20の移動と分注動作、温調ユニット83による温度制御、及び反応キット80の反応容器4に測定光又は励起光を照射して反応生成物を光学的に検出する検出ユニット38による検出動作を制御する。
【0099】
制御部84を外部から操作する入力部として使用したり、検査結果を表示するモニターとして使用したりするために、制御部84に外部コンピュータとして、例えばパーソナルコンピュータ(PC)86を接続してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は種々の化学反応や生物化学反応の測定に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】反応キットの一実施例を表わしたものであり、(A)は垂直断面図、(B)は反応プレートと分注チップを示す平面図である。
【図2】同実施例の外観斜視図である。
【図3】分注チップ20とそれを装着するキャッチ機構を表わしたものであり、(A)は分注チップにキャッチ機構を装着する前の状態、(B)はキャッチ機構を分注チップに装着した状態、(C)は分注チップ内のプランジャを引き上げる状態の断面図を示している。
【図4】同実施例においてキャッチ機構90が分注チップ20を装着する装着動作(A1)〜(A6)と、キャッチ機構90が分注チップ20を解放する解放動作(B1)〜(B2)を示す垂直断面図である。
【図5】同実施例においてサンプルが導入された状態を示す垂直断面図である。
【図6】同実施例において駆動ユニットのシリンジ駆動部がシリンジのプランジャと係合した状態を示す垂直断面図である。
【図7】同実施例において駆動ユニットのチップ保持部が分注チップと係合した状態を示す垂直断面図である。
【図8】同実施例において分注チップが保持部から取り外された状態を示す垂直断面図である。
【図9】本発明の反応キットにおける反応生成物の検出に用いる検出ユニットの第1の例を示す垂直断面図である。
【図10】本発明の反応キットにおける反応生成物の検出に用いる検出ユニットの第2の例を示す垂直断面図である。
【図11】本発明の反応キットにおける反応生成物の検出に用いる検出ユニットの第3の例を示す垂直断面図である。
【図12】反応キットの他の実施例を表わす図であり、(A)は垂直断面図、(B)は反応プレートと分注チップを示す平面図である。
【図13】同実施例の反応キットにおける反応生成物の検出に用いる検出ユニットの例を反応キットとともに示す垂直断面図である。
【図14】反応キットのさらに他の実施例を表わす図であり、(A)は垂直断面図、(B)は反応プレートと分注チップを示す平面図である。
【図15】同実施例の反応キットにおける反応生成物の検出に用いる検出ユニットの例を反応キットとともに示す垂直断面図である。
【図16】反応キットのさらに他の実施例を反応生成物の検出に用いる検出ユニットの例とともに示す垂直断面図である。
【図17】反応キットの他の実施例を表わす垂直断面図である。
【図18】反応キットのさらに他の実施例を表わす図であり、(A)は垂直断面図、(B)は反応プレートと分注チップを示す平面図、(C)は外観斜視図である。
【図19】反応キットのさらに他の実施例を表わす図であり、(A)は垂直断面図、(B)は反応プレートと分注チップを示す平面図、(C)は外観斜視図である。
【図20】反応キットのさらに他の実施例を表わす図であり、(A)は垂直断面図、(B)は反応プレートと分注チップを示す平面図、(C)は外観斜視図である。
【図21】反応キットのさらに他の実施例を表わす図であり、(A)は垂直断面図、(B)は反応プレートと分注チップを示す平面図、(C)は外観斜視図である。
【図22】反応キット処理装置の一例を示す内部の概略斜視図である。
【図23】同反応キット処理装置における制御系を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0102】
2,2a,2b,2c 反応プレート
3 基板
4 反応容器
12 試薬容器
14 フイルム
19 分注ノズル
20 分注チップ
21 シリンジ
22 プランジャ
23 フィルタ
24 カバー
26 カバー本体
28 ベローズフイルム
32,32a サンプル容器
36a チップホルダ
36b プランジャホルダ
64,64a,71 カバープレート
66,68,72 シール材
90 キャッチ機構
92a,94a コイルネジ
93 スリーブ
95 ループ状空間
96 隔離部材
98a,98b パッキン
99 空気穴
100,110,120 DNAチップ
106 電極
102 電気泳動分離用流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に設けられた分注ノズル、前記分注ノズルの上部に接続し、内部が空洞になっているシリンジ、及び前記シリンジ内を上下に摺動して前記分注ノズルでの液体の吸引・吐出を行なうプランジャを備え、
前記プランジャの上部と前記シリンジの上部間に、前記ノズル内を外部と隔てる気密性および前記プランジャが摺動可能な柔軟性を有する隔離部材が備えられたことを特徴とする分注チップ。
【請求項2】
前記シリンジ、前記プランジャ及び前記隔離部材により形成されるループ状空間に通じる空気穴が設けられている請求項1に記載の分注チップ。
【請求項3】
表面側にサンプルに反応を起こさせる反応容器を備えた反応プレートと、
前記反応プレートの表面側の上方に配置された請求項1に記載の分注チップと、
前記反応プレート上の表面側のプレート上部空間を覆うとともに、前記分注チップをその先端部が前記プレート上部空間の内側、基端部が外側になるようにして移動可能に支持しているカバーと、
を備えた反応キット。
【請求項4】
前記分注チップには前記シリンジ、前記プランジャ及び前記隔離部材により形成されるループ状空間に通じる空気穴が設けられており、前記空気穴は前記カバーで被われたプレート上空間の内側に配置されている請求項3に記載の反応キット。
【請求項5】
前記カバーの一部に密閉可能に設けられた開口を介して外部から前記プレート上空間内にサンプルを注入するサンプル導入部をさらに備えた請求項3又は4に記載の反応キット。
【請求項6】
前記反応プレートはその表面側にサンプルの反応に使用される試薬を収容しフイルムで封止された試薬容器も備えている請求項3から5のいずれかに記載の反応キット。
【請求項7】
前記分注チップは先端部の内部にフィルタを備えている請求項3から6のいずれかに記載の反応キット。
【請求項8】
前記反応プレートはその表面側に遺伝子増幅反応を行なう遺伝子増幅部を備えている請求項3から7のいずれかに記載の反応キット。
【請求項9】
前記反応容器は底部から光学的に測定が可能なように光透過性の材質にて構成されている請求項3から8のいずれかに記載の反応キット。
【請求項10】
前記反応プレートはその表面側に前記反応容器での反応生成物の分析を行なう分析部をさらに備えている請求項3から9のいずれかに記載の反応キット。
【請求項11】
前記分析部は反応生成物の電気泳動分離を行なう電気泳動部である請求項10に記載の反応キット。
【請求項12】
前記分析部は反応生成物に遺伝子が含まれている場合にその遺伝子と反応するプローブが配置されている領域である請求項10に記載の反応キット。
【請求項13】
前記カバーは気密性をもち柔軟性のある素材によって前記分注チップを保持し移動可能に支持している請求項3から12のいずれかに記載の反応キット。
【請求項14】
前記カバーは前記反応プレートと一体化されたカバー本体と、前記反応プレートの表面側の上部に配置され、前記カバー本体に対してシール材により気密を保って水平面内で摺動可能に保持されたカバープレートとからなり、
前記分注チップが前記カバープレートに他のシール材により気密を保って垂直方向に摺動可能に保持されている請求項3から12のいずれかに記載の反応キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−322291(P2007−322291A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153938(P2006−153938)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】