説明

分注ポンプおよびそれを備えた液体容器

【課題】 高感度分析用試薬の分注を高精度に行なえ、かつ高感度分析用試薬を収容した容器を接続した場合、移送時など容器全体に負荷がかかった場合でも、収容した試薬の液漏れを回避することが可能なポンプ、および前記ポンプと前記試薬を収容した容器とを備えた液体容器を提供すること。
【解決手段】 1以上の逆止弁を設けた吸引部と1以上の逆止弁を設けた吐出部と前記吸引部から前記吐出部への流路とを設けた第一の筒状管と、第一の筒状管を貫通し、かつ片側にスプリングで弾持された摺動可能なピストンを設けた第二の筒状管と、第二の筒状管内を摺動することで前記吸引部から前記吐出部への流路の開閉が可能なストッパと、を備えたポンプ、および前記ポンプを備えた液体容器により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を分注するためのポンプ、およびそれを備えた液体容器に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の臨床検査、特に免疫化学検査は、血液中微量成分の迅速、高感度かつ特異的な測定により疾病の早期診断や治療に貢献している。しかし、これらの検査に用いられる高感度測定用試薬は、コンタミネーション(汚染)物質に対して非常に敏感なものが多く、例えば、配管などの汚れ、空気中の雑菌、水や接液部に含まれる微量金属などにより試薬が分解し、その結果、正確な測定値が得られなくなることがよくある。自動分析装置においては、このような高感度測定用試薬を装置上で分注する場合、通常試薬を分注する場合と同様、ピペッティング方式またはディスペンシング方式で分注するのが一般的である。ピペッティング方式の分注では、例えば、試薬テーブルにセットされた複数の試薬容器から、共通ノズルにより所定量の試薬を吸引後、所定の場所にセットされた反応容器に吐出して分注する。ディスペンシング方式では、例えば、試薬容器から専用ノズルに至るまで、ポンプや弁などを介した配管接続によりポンプの吸引/吐出動作を行ない、試薬を分注する。
【0003】
高感度測定用試薬を分注する容器において、コンタミネーションの問題を解消するためには、試薬を収容した容器本体から分注ポンプ、分注ノズルに至るまでを一体化し、全体をディスポーザブルにした構成とすると好ましい。高感度測定用試薬を分注する容器全体をディスポーザブルにするには、容器コストを極力低減する必要があるため、ポンプに使用する部材も低コストなものを選択する必要がある。また廃棄物低減の観点からは容器本体の形状は硬質材料からなるボトル形状より可撓性材料からなるバッグ形状のほうが好ましい。
【0004】
空気中の雑菌などによるコンタミネーションを回避する分注容器としては、特許文献1で開示のいわゆるエアレス容器があげられる。エアレス容器とは、容器中の液体が吐出されたことによる内圧の変化を液体収容体積の減少によりキャンセルが可能な容器である。そのためエアレス容器は、液体中に外気に接触すると分解などの悪影響を受けやすい成分を含む場合に用いられる。通常、エアレス容器は容器本体がガラスまたは樹脂製の硬質容器からなるディスポーザブル容器であり、吐出量に相当する分だけピストンである底部が上昇する機構になっている。なお、容器本体を可撓性材料からなるバッグ形状としたエアレス容器もあり、その場合は吐出量に相当する分だけ収縮する。しかし、特許文献1で開示の容器の主な用途は化粧品または洗剤の分注および保存であるため、分注に高い精度は要求されない。そのため、高感度測定用試薬を分注する目的には使用できないものが多い。
【0005】
分注精度を改善するために、吸引部および吐出部にそれぞれ逆止弁を配置した一般的なシリンジポンプを用いる方法が考えられる。しかしながら、高感度測定用試薬を分注する容器全体をディスポーザブルにする場合、高価な部材は使用できないため、開弁圧が低く、かつ簡易な構造の逆止弁を選択しなければならない。そして、簡易構造の逆止弁を設けたシリンジポンプを備えた液体容器は容器本体部分を手で握るなどして負荷を与えると、吐出部(ノズル)から液漏れする問題があった。
【0006】
ノズルからの液漏れを回避する従来技術として、特許文献2および3に、シャンプー容器などのポンプヘッドを有する分注機能付容器において、前記ポンプヘッド部にその上下動を規制するストッパを設けることで、液体の吐出を防止する方法を開示している。しかしながら、いずれの文献も、ポンプヘッドを誤って押下したときに、内容物が無駄に吐出しないよう、未然に防ぐための方法であり、液体容器に負荷をかけた場合のノズルからの液漏れを回避する方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−350144号公報
【特許文献2】特開2001−180774号公報
【特許文献3】特開平8−098784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高感度分析用試薬の分注を高精度に行なえ、かつ高感度分析用試薬を収容した容器を接続した場合、移送時など容器全体に負荷がかかった場合でも、収容した試薬の液漏れを回避することが可能なポンプ、および前記ポンプと前記試薬を収容した容器とを備えた液体容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するためになされた本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、
1以上の逆止弁を設けた吸引部と、1以上の逆止弁を設けた吐出部と、前記吸引部から前記吐出部への流路と、を設けた第一の筒状管と、
第一の筒状管を貫通し、かつ片側にスプリングで弾持された摺動可能なピストンを設けた第二の筒状管と、
第二の筒状管内を摺動することで、前記吸引部から前記吐出部への流路の開閉が可能なストッパと、
を備えたポンプである。
【0010】
第二の発明は、第二の筒状管に設けたピストンを押す操作により、ストッパを前記吸引部から前記吐出部への流路を閉じる位置から開ける位置へ摺動可能な、第一の発明に記載のポンプである。
【0011】
第三の発明は、第二の筒状管のうちピストンを設けた側の反対側の管は閉じられており、かつ第二の筒状管の内壁および/またはストッパに液体または気体の流通が可能な溝を設けた、第一または第二の発明に記載のポンプである。
【0012】
第四の発明は、前記溝を第二の筒状管の内壁下部および/またはストッパ下部に設けた、第三の発明に記載のポンプである。
【0013】
第五の発明は、前記反対側の管に小穴を設けた、第三または第四の発明に記載のポンプである。
【0014】
第六の発明は、ストッパに前記小穴と嵌合可能な突起を設けた、第五の発明に記載のポンプである。
【0015】
第七の発明は、前記小穴にピンを挿入する操作により、ストッパを前記吸引部から前記吐出部への流路を開ける位置から閉じる位置へ摺動可能な、第五または第六の発明に記載のポンプである。
【0016】
第八の発明は、第一の筒状管に対し第二の筒状管が直交した、第一の発明に記載のポンプである。
【0017】
第九の発明は、
1以上の開口部を設けた、液密性および気密性を有する可撓性容器と、
前記開口部の1つと液密に接続可能で、可撓性容器に収容された液体を取り出し可能なポートと、
ポートから取り出された液体の吸引/吐出を行なう、第一から第八の発明のいずれかに記載のポンプと、
液体を吐出するためのノズルと、
を備えた液体容器である。
【0018】
第十の発明は、所定量の液体の温調が可能な液体貯留部をさらに備えた、第九の発明に記載の液体容器である。
【0019】
第十一の発明は、ポート、ポンプ、ノズルのうち、少なくとも2つが一体となった、第九の発明に記載の液体容器である。
【0020】
第十二の発明は、ポート、ポンプ、ノズルがそれぞれ着脱可能な、第九の発明に記載の液体容器である。
【0021】
第十三の発明は、液体貯留部をポートとポンプとの間に設けた、第十の発明に記載の液体容器である。
【0022】
第十四の発明は、液体貯留部をポンプとノズルとの間に設けた、第十の発明に記載の液体容器である。
【0023】
第十五の発明は、ポート、ポンプ、ノズル、液体貯留部のうち、少なくとも2つが一体となった、第十三または第十四の発明に記載の液体容器である。
【0024】
第十六の発明は、ポート、ポンプ、ノズル、液体貯留部がそれぞれ着脱可能な、第十三または第十四の発明に記載の液体容器である。
【0025】
第十七の発明は、可撓性容器が1以上の樹脂層を含む多層構造からなる容器である、第九から第十六の発明のいずれかに記載の液体容器である。
【0026】
第十八の発明は、可撓性容器が1以上の樹脂層およびアルミニウム層を含む多層構造からなる容器である、第十七の発明に記載の液体容器である。
【0027】
第十九の発明は、可撓性容器が硬質材で形成された容器カバーで覆われている、第九から第十八の発明のいずれかに記載の液体容器である。
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明のポンプは、例えば、互いに直交した二本の筒状管の一方(第一の筒状管)の両側に1以上の逆止弁を設けることで吸引部および吐出部を設け、第一の筒状管における前記吸引部から前記吐出部への流路の開閉が可能なストッパをもう一方の筒状管(第二の筒状管)より挿入後、スプリングで弾持された摺動可能なピストンを第二の円筒管の片側から挿入することで製造できる。
【0030】
本発明のポンプで用いるピストンは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂で成形することで製造することができる。また、ピストンと第二の筒状管とのシーリング部材としてピストン先端に取り付けるピストンヘッドは、例えば、熱可塑性エラストマーやゴムなどで成形された部材をピストン先端部にねじ込むまたは嵌合させるなどによりピストン先端に取り付ければよい。ピストンを第二の筒状管内に弾持させるためのスプリングの材質は、樹脂またはステンレスなどの金属が例示できるが、強度および耐久性の面から金属が好ましい。なおスプリングを第二の筒状管に取り付ける際、液体試薬に接液しない部位に取り付けると、スプリングの材質によりポンプで吸引/吐出する液体が劣化する影響を考慮する必要がなくなるため、より好ましい。
【0031】
本発明のポンプで用いるストッパは、第二の筒状管の内壁と液密かつ摺動可能に接続しており、第二の筒状管内を摺動することで第一の筒状管に設けた吸引部から吐出部への流路の開閉が可能なものであれば特に制限ない。前記ストッパの一例として、熱可塑性エラストマーやゴムなどで成形されたものを例示できる。なお、ピストンの吐出操作(ピストンを押す操作)により、前記ストッパが吸引部から吐出部への流路を閉じる位置から開ける位置に摺動可能な構成にすると、吸引部から吐出部への流路の開閉操作が容易に行なえる点で好ましい。
【0032】
第二の筒状管のうちピストンを設けた側の反対側の管は開いていてもよいし閉じられていてもよいが、閉じられている場合は、前記ストッパによる吸引部から吐出部への流路の開閉操作に伴う液体または気体の流通が可能な溝を、前記第二の筒状管の内壁および/または前記ストッパに設ける必要がある。なお、本発明のポンプにおいて、前記反対側の閉じられた管に小穴を、前記第二の筒状管の内壁下部および/または前記ストッパの下部に前記溝をそれぞれ設け、前記ストッパが吸引部から吐出部への流路を閉じているときに、前記小穴から前記溝を経由して吐出部に至る開放流路が確保できる構成とすると、前記小穴からエアや水などを導入することにより、前記溝から吐出部まで収容された液体の除去や前記溝から吐出部までの洗浄が可能となる。例えば、ポンプを備えた液体容器を製造する際に、前記ポンプの分注精度など品質管理検査を行なうが、本発明のポンプは、前記検査終了後、本発明のポンプに備えたストッパを吸引部から吐出部への流路を開ける位置から閉じる位置に摺動させ、前述した除去/洗浄操作を行なうことで、本発明のポンプに接続したノズルまたは後述する液体貯留部内に残留した液体試薬を除去することができる。したがって、ポンプを再度使用するまでの間、前記ノズルまたは液体貯留部に残留した液体試薬による漏れや前記試薬に由来する結晶の析出による詰まりなどを防止することができる。さらに、前記ストッパに前記小穴と嵌合可能な突起を設けると、液体試薬を吸引する操作(ピストンを引く操作)に伴い、前記ストッパが吸引部から吐出部への流路を開ける位置から閉じる位置に摺動されるのを防止できるため、より好ましい。
【0033】
本発明のポンプが、第二の筒状管のうちピストンを設けた側の反対側の管が閉じられており、前記反対側の管に小穴を、前記第二の筒状管の内壁および/または前記ストッパに液体または気体の流通が可能な溝を、それぞれ設けた構成において、前記小穴にピンを挿入することで、前記ストッパが吸引部から吐出部への流路を開ける位置から閉じる位置に摺動可能な構成とすると、吸引部から吐出部への流路の開閉操作が容易に行なえる点で好ましい。前記ピンは前記小穴に挿入可能な金属またはポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂で成形することで製造することができる。なお、前記ピンは、本発明のポンプとは別の部材として用意してもよいし、前記第二の筒状管の外壁に取り付け摺動することで前記小穴から挿入できるようにしてもよい。
【0034】
本発明のポンプにおいて、第一の円筒管の両側に設ける逆止弁は、バネ式、ボール式、ダイアフラム式、ダックビル式などの低コストな弁を例示できるが、シール性がよく、かつ材質が分注する液体との接液試験の結果、前記液体中の成分が分解/劣化するものでなければ、特に限定されない。
【0035】
本発明のポンプを備えた液体容器(以降、単に本発明の液体容器とする)における可撓性容器は、1以上の開口部を設け、液密性および気密性を有し、吐出内圧に応じて収縮可能な容器であればよい。なお、前記開口部のうちの1つは後述するポートを接続するための開口部である。可撓性容器に液体を収容する場合、前記ポートを接続するための開口部から収容してもよいが、収容するための開口部を別途設け、そこから液体を収容後密栓してもよい。また、液体収容後に液体の脱気を必要とする場合は、窒素やヘリウムなどをバブリングするための、さらに別の開口部を設けてもよい。また、ここでいう液密性とは、液体透過性が全くない、またはほとんどないという意味であり、気密性とは、気体透過性が全くない、またはほとんどないという意味である。前記可撓性容器の材料としては、一般に用いられる液体透過性および気体透過性がない材料の中から適宜選択すればよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂や、これらの異なる樹脂層を積層したシートを例示することができる。前記可撓性容器の容量は、一回の分注量や必要な分注数、または設置する装置のスペースなどを考慮の上、適宜選択すればよいが、通常は10から1000mL程度の範囲から選択する。なお、前記可撓性容器に収容する液体が遮光性を要する液体である場合、前述した液体透過性および気体透過性がない材料の中から選ばれる1以上の層からなるシートに、さらにアルミニウム層を含むシートを設けたシートからなる可撓性容器とすると、より好ましい。前記シートの一態様として、可撓性容器の外側から、PET、アルミニウム、ポリエチレンの順に各材料の薄層を積層したシートがあげられる。前記一態様からなる可撓性容器は、液密性および気密性を有するのはもちろん、遮光性、強靭性、耐熱性、耐ピンホール性、シール性なども、通常の樹脂製容器と比較して向上している。
【0036】
本発明の液体容器におけるポートは、可撓性容器の開口部の1つと液密に接続可能で、可撓性容器に収容された液体を後述する液体貯留部または本発明のポンプに導入するための流路を設けていればよく、例えば、可撓性容器の開口部の1つと液密に接続できるようにポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂を用いて中空円筒状に成形して製造することができる。可撓性容器の開口部とポートとを液密に接続する際は、ポートを可撓性容器の開口部にそのまま嵌合することで接続してもよいが、可撓性容器を構成する樹脂とポートを構成する樹脂との熱融着により接続すると高い液密性が得られるため好ましい。熱融着により可撓性容器の開口部とポートとを接続する場合は、ポートを構成する樹脂を可撓性容器を構成する樹脂(可撓性容器が多層シート状の場合は最も内側の樹脂)と同じ樹脂とすると、より好ましい。
【0037】
本発明の液体容器における可撓性容器へのポートの取り付け部位は、容器本体の底面の他、容器本体の底部側面などが例示できる。ポートを容器本体の底部側面に取り付ける場合は、例えば、鉤状に成形したポートの容器本体への取り付け後の開口部が下方に向くようにすればよい。ポンプ、ノズルの各部品の接続は、円筒形ポートを容器本体の底面に取り付ける場合の接続と同様に、ポートの下方に各部品を接続する方法、またはポートの下方に各部品が一体成形されたものを直列に接続する方法などがあげられる。
【0038】
なお、本発明の液体容器には、ポートまたは本発明のポンプより導入された液体を温調することを目的に所定量の液体を一時貯留させる液体貯留部を設けると好ましく、前記液体貯留部は、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂で成形することにより製造することができる。なお、前記液体貯留部の容量は分注量の一倍から数十倍の容量であればよい。また、前記液体貯留部は、液体貯留部中の液体を温度制御する手段により、液体貯留部中の液体の温度調節が容易に行なえる構造であると、より好ましい。本発明の液体容器における液体貯留部は、ポートと本発明のポンプの吸引部との間に備えてもよいし、本発明のポンプの吐出部とノズルとの間に備えてもよい。また液体貯留部は、ポートまたは本発明のポンプとの一体成形物としてもよいし、独立に成形後ポートまたは本発明のポンプと着脱可能に接続してもよい。
【0039】
本発明の液体容器を用いた場合における、可撓性容器に収容された液体の吐出量は、通常10から1000μL程度の範囲での容量固定分注となる。なお、吐出量を変えて分注したい場合は、本発明のポンプを、吐出量の異なるポンプに交換するなどすればよい。
【0040】
本発明の液体容器の好ましい態様は、液体を収容した可撓性容器が硬質材で形成された容器カバーで覆われた液体容器である。前記好ましい態様で用いる容器カバーは、軟質材で形成された可撓性容器を覆った際に、手で負荷をかけても可撓性容器が変形しない程度に強度を持たせたものであればよく、材料としては、PET、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂で成形されたものが例示できる。さらに、容器カバーの強度をあげる方法として、単純に容器カバーを肉厚にしたり、リブ状に成形する方法が例示できる。また、容器カバーの色は、中に入れた可撓性容器の収縮状態が目視で確認する必要がある場合は、無着色の樹脂とするのが好ましいが、可撓性容器を目視で確認する必要がなければ、顔料や染料などで着色してもよい。
【0041】
本発明の液体容器に収容する液体が遮光性を要する液体である場合は、本発明のポンプ、ポート、液体貯留部およびノズルの樹脂成形部に用いる樹脂(ポリエチレンやポリプロピレンなど)を、例えばカーボンブラックやチタンブラックといった光吸収性の高い顔料などを含有した樹脂とすると好ましい。
【0042】
本発明の液体容器は、ディスポーザブルにしても、再使用してもよいが、可撓性容器に収容する液体が再使用により接液部に蓄積された汚れや前記液体中の成分の分解物によりその後の分析に影響を与える場合は、ディスポーザブルにした方が好ましい。
【0043】
本発明の液体容器は、自動分注装置の構成要素の一つとして用いても、また液体容器単独で用いてもよい。本発明の液体容器を単独で用いる場合は、手動による吐出動作を容易に行なえるように、可撓性容器本体を硬質材で形成された容器カバーで覆い、さらにピストンエンドを指先に密着する形状にするなどの工夫をすると好ましい。
【発明の効果】
【0044】
本発明のポンプは、
1以上の逆止弁を設けた吸引部と、1以上の逆止弁を設けた吐出部と、前記吸引部から前記吐出部への流路とを設けた第一の筒状管と、
第一の筒状管を貫通し、かつ片側にスプリングで弾持された摺動可能なピストンを設けた第二の筒状管と、
第二の筒状管内を摺動することで、前記吸引部から前記吐出部への流路の開閉が可能なストッパと、
を備えており、前記ポンプを備えた液体容器は、
(1)前記吸引部から前記吐出部への流路を閉じることが可能なストッパを備えることにより開弁圧の低い逆止弁を用いても、液体を収容した可撓性容器に強い負荷がかかったときに前記液体が漏れることがなく、
(2)液体容器毎に専用の分注系をもち、分注系を含む液体容器全体をディスポーザブルにできるため、分注配管の洗浄やメンテナンスに労力をかけることなく、収容した液体間のキャリーオーバーや分注配管内の汚染物による影響を回避することができ、
(3)オペレータが接液部に触れることがない、いわゆるエアレスタイプの液体容器であるため、空気中の雑菌や人体に付着した汚染物の混入など外部からの異物混入を回避できる、
などの効果を得られる。
【0045】
また、本発明のポンプの一態様である、前記第二の筒状管のうちピストンを設けた側の反対側の管が閉じられており、前記反対側の管に小穴を、前記第二の筒状管の内壁下部および/または前記ストッパ下部に液体または気体の流通が可能な溝を、それぞれ設けたポンプは、前記ストッパを前記吸引部から前記吐出部への流路を閉じる位置にしたとき、前記溝から吐出部まで収容された試薬の残液除去や前記溝から吐出部までの洗浄が可能なため、乾燥により液体中の成分由来の結晶が析出することによる、前記吐出部に接続したノズルまたは液体貯留部が閉塞する問題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のポンプを備えた液体容器の一態様を示す図。
【図2】本発明のポンプの一態様における、シリンダヘッド側断面図。
【図3】実施例1で作製した液体容器を用いた、液体試薬の吐出および残留試薬の洗浄除去の手順を示した図。
【図4】本発明のポンプの別の態様を示した図(シリンダヘッド側断面図)。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0048】
実施例1
本発明のポンプを備えた液体容器の一態様を図1に示す。図1の液体容器は、
開口部11を1つ設けた、液密性および気密性を有する可撓性容器10と、
可撓性容器の開口部11と液密に接続可能で、可撓性容器10に収容された液体を取り出し可能なポート20と、
吸引部32aと吐出部32bとを設けた円筒管(第一の筒状管)31と、円筒管31と直交して貫通したシリンダ(第二の筒状管)33aと、ストッパ40aと、から構成され、吸引部32aおよび吐出部32bにはそれぞれ1つの逆止弁を、シリンダ33aにはスプリング39で弾持された摺動可能なピストン38とシリンダヘッド34と小穴35と液体排出用溝36aとを、それぞれ設けた本発明のポンプ30と、
ポンプの吐出部32bと液密に接続可能な、可撓性容器10に収容された液体を吐出するためのノズル50と、
可撓性容器10を覆う容器カバー60と、
を備えている。
【0049】
可撓性容器10は、外側からポリエチレンテレフタレート(PET)16μm、アルミニウム9μm、ポリプロピレン40μmからなる、袋状の容器である。ポート20は、ポリプロピレンにて射出成形により製造した。ポンプ30は、円筒管31と、円筒管31と直交して貫通するシリンダ33aと、からなる十字管をポリプロピレンにて射出成形後、
(1)吸引部32aがシリコンゴムにて成形したダックビル型逆止弁を介してポート20と連通するように、
(2)吐出部32bがシリコンゴムにて成形したダックビル型逆止弁を介してポリプロピレンにて射出成形したノズル50と連通するように、
(3)ステンレス製スプリング39により弾持されたピストンヘッド37(熱可塑性エラストマーにより成形)を先端部に嵌合したピストン38を、シリンダ33aの片側(図1ではシリンダ33aの右側)に設けることで、可撓性容器10に収容された液体を吸引/吐出できるように、
(4)熱可塑性エラストマーにより成形したストッパ40aが、シリンダ33a内を摺動することで吸引部32aから吐出部32bへの流路の開閉が可能なように、
(5)ピストン38を設けた側の反対側にあるシリンダヘッド34に設けた小穴35が、ストッパ40aに設けた突起と嵌合できるように、
(6)シリンダヘッド34側(ピストン38を設けた側の反対側)のシリンダ内壁下部に設けた液体排出用溝36aにより、シリンダ33aのピストン38側とシリンダヘッド34側とを連通できるように、
それぞれ設けている。容器カバー60はPETを用いた真空成形により製造した。なお、図1の液体容器に備えたポンプ30は、1回の吸引/吐出操作で可撓性容器10に収容された液体を100μLずつ吐出することができる。また、シリンダ33aにストッパ40aを設けた時の、シリンダヘッド側断面図を図2に示す。
【0050】
実施例2
実施例1で作製した液体容器(図1)を用いた、液体試薬の吐出および残存試薬の洗浄除去の手順を図3に示す。
【0051】
まず、液体試薬の吐出手順を説明する。なお、可撓性容器10には100mM 2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、1mM ホスホニウムブロミド、0.1mM フルオレセインからなる水溶液(pH10)を100mL収容した。
(1)初期の状態(図3(a))では、ポンプ30に設けたストッパ40aは、吸引部32aから吐出部32bへの流路を閉じる位置にある。そのため、可撓性容器10に負荷をかけても、ポンプ30に設けたストッパ40aにより可撓性容器10に収容した水溶液がノズル50の方向に漏れることはない。
(2)ストッパ40aをストッパに設けた突起とシリンダヘッドに設けた小穴35とが嵌合する位置までピストン38を押すことで吸引部32aから吐出部32bへの流路を開ける(図3(b))。
(3)スプリング39によりピストン38が初期位置に戻されるとともに、可撓性容器10に収容された水溶液が吸引部32aを通じて、シリンダ33a内に吸引される(図3(c))。
(4)再度ピストン38を押すことで吐出部32bからノズル50を通じてシリンダ内の水溶液を吐出する(図3(d))。
【0052】
ストッパを吸引部32aから吐出部32bへの流路を開ける位置に固定したまま、ピストン38により吸引/吐出操作(図3(c)と(d)の操作)を2回繰り返すことで水溶液を連続吐出後、さらに1回吐出した結果、所定量の100μLが吐出されていることを確認した。
【0053】
次に残存試薬の洗浄除去の手順を説明する。
(1)図3(c)の状態から、ステンレス製のピン70をシリンダヘッドに設けた小穴35に挿入することでストッパ40aを吸引部32aから吐出部32bへの流路を閉じる位置に戻す(図3(e))。前記操作により、シリンダ33a内に残存していた水溶液は、シリンダヘッド34側のシリンダ内壁下部に設けた液体排出用溝36aを通じ、シリンダヘッド34側に流れる。なお、ピン70の長さは、少なくともシリンダヘッドに設けた小穴35へ完全に挿入したとき、ストッパ40aが吸引部32aから吐出部32bへの流路を閉じることができる長さがあればよい。
(2)ピン70を外し、スポイト80をシリンダヘッドに設けた小穴35に挿入してエアを吐出することで、シリンダヘッド側に流れた水溶液、および液体排出用溝36aからノズル50先端まで残存していた水溶液を除去する(図3(f))。
(3)一旦スポイト80を抜いて精製水を吸引後、シリンダヘッドに設けた小穴35に挿入して精製水を吐出することで、(2)で水溶液を除去した流路の洗浄を行なう。
(4)再びスポイト80を抜いて気体を吸引後、シリンダヘッドに設けた小穴35に挿入して気体を吐出することで精製水を除去し、洗浄除去を終了する。
【0054】
実施例3
本発明のポンプの別の態様(シリンダヘッド側断面図)を図4に示す。図4(a)のポンプは、図1に示すポンプのうち、シリンダ33b内壁に設ける液体排出用溝36bが、図2に示すような肉盛形状ではなく、シリンダ33b内壁底部にそのまま溝を形成した構造となっている。また、図4(b)のポンプは、図1に示すポンプのうち、液体排出用溝36cを、シリンダ33cではなくストッパ40c側に設けた構造となっている。
【0055】
図4(a)および図4(b)のポンプを備えた液体容器を実施例1と同様に作製し、
(1)ストッパ40b・40cが吸引部から吐出部への流路を閉じる位置にあるときの、可撓性容器に負荷をかけた場合の水溶液の漏れ、
(2)ストッパ40b・40cをストッパに設けた突起とシリンダヘッドに設けた穴とが嵌合する位置までピストンを押して、吸引部から吐出部への流路を開けたときの、水溶液の吐出量、および
(3)ストッパ40b・40cを吸引部から吐出部への流路を閉じる位置に戻したときの、残存した水溶液の洗浄除去操作、
を確認した。その結果、いずれのポンプも、実施例1の場合と同様、良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0056】
10:可撓性容器
11:開口部
20:ポート
30:ポンプ
31:円筒管
32a:吸引部
32b:吐出部
33a、33b、33c:シリンダ
34:シリンダヘッド
35:小穴
36a、36b、36c:液体排出用溝
37:ピストンヘッド
38:ピストン
39:スプリング
40a、40b、40c:ストッパ
50:ノズル
60:容器カバー
70:ピン
80:スポイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の逆止弁を設けた吸引部と、1以上の逆止弁を設けた吐出部と、前記吸引部から前記吐出部への流路と、を設けた第一の筒状管と、
第一の筒状管を貫通し、かつ片側にスプリングで弾持された摺動可能なピストンを設けた第二の筒状管と、
第二の筒状管内を摺動することで、前記吸引部から前記吐出部への流路の開閉が可能なストッパと、
を備えたポンプ。
【請求項2】
第二の筒状管に設けたピストンを押す操作により、ストッパを前記吸引部から前記吐出部への流路を閉じる位置から開ける位置へ摺動可能な、請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
第二の筒状管のうちピストンを設けた側の反対側の管は閉じられており、かつ第二の筒状管の内壁および/またはストッパに液体または気体の流通が可能な溝を設けた、請求項1または2に記載のポンプ。
【請求項4】
前記溝を第二の筒状管の内壁下部および/またはストッパ下部に設けた、請求項3に記載のポンプ。
【請求項5】
前記反対側の管に小穴を設けた、請求項3または4に記載のポンプ。
【請求項6】
ストッパに前記小穴と嵌合可能な突起を設けた、請求項5に記載のポンプ。
【請求項7】
前記小穴にピンを挿入する操作により、ストッパを前記吸引部から前記吐出部への流路を開ける位置から閉じる位置へ摺動可能な、請求項5または6に記載のポンプ。
【請求項8】
1以上の開口部を設けた、液密性および気密性を有する可撓性容器と、
前記開口部の1つと液密に接続可能で、可撓性容器に収容された液体を取り出し可能なポートと、
ポートから取り出された液体の吸引/吐出を行なう、請求項1から7のいずれかに記載のポンプと、
液体を吐出するためのノズルと、
を備えた液体容器。
【請求項9】
所定量の液体の温調が可能な液体貯留部をさらに備えた、請求項8に記載の液体容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179954(P2011−179954A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44203(P2010−44203)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】