分注器具の検定方法及び装置
【課題】正確度が高い分注器具検定方法を提案する。
【解決手段】検出すべき分注器具3から第1の色素成分を含む基準液11Aが入った吸光度検出容器11に第2の色素成分を含む検出液3Aを注入して混合液を作ってから、混合液の吸光度を検出するまでの間の、蒸発現象により第1及び第2の色素成分が減少していないことを利用して、分注器具3の分注液量の検出値VSを求めるようにしたことにより、高い正確度の検定結果を得ることができる。
【解決手段】検出すべき分注器具3から第1の色素成分を含む基準液11Aが入った吸光度検出容器11に第2の色素成分を含む検出液3Aを注入して混合液を作ってから、混合液の吸光度を検出するまでの間の、蒸発現象により第1及び第2の色素成分が減少していないことを利用して、分注器具3の分注液量の検出値VSを求めるようにしたことにより、高い正確度の検定結果を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分注器の検定方法及び装置に関し、特に検定対象である分注器の分注量を、一段と、真値に近く検定できるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
1つの試料容器から試料液体を微小量(例えば1〜1000〔μl〕)づつ吸引して1つの取分け容器に取り分けるピペッタや、1つの試料容器から吸引した微小量の同一液体を一定量づつ複数の分注容器に連続分注する分注器や、2つの試料容器から順次異なる液体を吸引して1つの稀釈容器において混合する稀釈器などの、空気置換型の液体吸引器具(これを分注器具と呼ぶ)が従来から用いられている。
【0003】
この種の分注器具は微小量の液体の吸引動作をするものであるから、ユーザは予定された定量の液体を吸引するためには、現実に使用するに先立って、分注器具の分注量を1つづつ検定した後校正する操作をする必要がある(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−76393公報
【特許文献2】特開2002−286591公報
【特許文献3】特許第2520852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微小量の液体を吸引する分注器具の分注量の検定方法としては、1989年に規格化された標準規格ASTM及び2002年に規格化されたISO8655をガイドラインとして、吸引した液体の重量を天秤を用いて計測する重量法が採用されており、この重量法が標準的な基準として分注器具の検定に用いられている。
【0006】
この重量法は、吸引した液体の重量を天秤の試料容器に吐出してその重量を測定した後、体積に換算する手法を用いたものである。
【0007】
そこで、重量法に基づく検定は、当該重量の測定過程において、天秤の試料容器に吐出した分注液体が大気中に蒸発するという重大な影響を受けることになるため、実際上分注器具の検定作業を湿度が60〜70〔%〕程度に調整された特別な検定環境の部屋で実施することにより、蒸発量を抑えるような工夫がなされている。
【0008】
しかしながら、この特別な検定環境条件の下で検定された分注器具であっても、これを用いて液体の分注作業を行う現実の作業環境は必らずしも当該検定環境(すなわち湿度が60〜70〔%〕の)と同じではなく、例えば30〜45〔%〕の湿度程度に低い湿度の環境で分注作業が行なわれるのが普通である。
【0009】
従って、特別な検定環境条件の下で重量法により検定された分注器具であっても、必らずしも検定された分注定量で液体を定量分注できるとは限らない。
【0010】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、光学計量式の検定手段を用いて分注器具の検定処理を行うことにより、検定した分注器具の現実の作業環境下における分注量が、真値近くになるような検定をすることができるようにした分注器具の検定方法及び装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため本発明においては、試料液体を吸引して所定の分注量の分注液を取り分ける分注器具3の検定方法及び装置において、分注液を、基準の波長730[μl]の光を吸光する第1の吸光度特性Q1を有する第1の色素成分を含む基準液11Aが入った吸光度検出容器11に、分注器具3によって吸引されかつ基準の波長730[μl]とは異なる波長520[μl]の光を吸光する第2の吸光度特性Q2を有する第2の色素成分を含む検出液3Aを注入して混合液を作り、混合液の吸光度を検出して基準液11Aの吸光度ABと当該検出した混合液の吸光度ASとに基づいて検出液3Aの液量VSを計算することにより、分注器具3の分注量VSの検定値を求めるようにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検出すべき分注器具から第1の色素成分を含む基準液が入った吸光度検出容器に第2の色素成分を含む検出液を注入して混合液を作ってから、混合液の吸光度を検出するまでの間の蒸発現象によっては第1及び第2の色素成分が減少していないことを利用して、分注器具の分注液量の検出値を求めるようにしたことにより、高い正確度の検定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態による分注器具検定装置を示すブロック図である。
【図2】吸光度検出容器を示す略線的斜視図である。
【図3】基準液の吸光度特性を示す特性曲線図である。
【図4】混合液の吸光度特性を示す特性曲線図である。
【図5】検定対象分注器具を示す正面図である。
【図6】検定・校正処理手順を示すフローチャートである。
【図7】重量法との比較例の実験データを示す略線図である。
【図8】比較例の実験データとして平均値データを示す図表である。
【図9】重量法検定における蒸発現象の説明に供する略線図である。
【図10】1000[μl]の分注器具についての蒸発現象の影響の説明に供する略線図である。
【図11】1000[μl]の分注器具についての蒸発現象の影響の説明に供する略線図である。
【図12】100[μl]の分注器具についての蒸発現象の影響の説明に供する略線図である。
【図13】10[μl]の分注器具についての蒸発現象の影響の説明に供する略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0015】
(1)分注器具の検定装置の構成
図1において、1は全体として分注器具検定装置を示し、検定装置本体2と、検定対象分注器具3とで構成されている。
【0016】
検定装置本体2の筐体10には吸光度検出容器11を位置決め収納する検出容器設定溝12が設けられ、光源手段13から射出される白色光源光L1がフィルタ手段14のブランク光フィルタ14A又は検出光フィルタ14Bを透過して吸光度検出容器11に入射され、当該吸光度検出装置11を透過した透過光L2が光電変換手段15に入射するようになされている。
【0017】
吸光度検出装置11は、図2に示すように、円筒状の透明ガラス容器によって構成され、白色光源光L1から図3において吸光度曲線Q1で示すように、所定の波長(この実施の形態の場合730〔nm〕の波長)を吸光する青色の色素成分を含む基準液11Aが予め決められた基準液量だけ注入した状態で用意されている。
【0018】
かかる構成の吸光度検出容器11は、検出容器設定溝12内に設定されたとき、上側端に設けられた分注口11Bを筐体10の外側に露出する状態に保持され、これにより分注口11Bに対して、当該検定対象分注器具3が吸引して来た検出液3Aを吸光度検出容器11内に注入できるようになされている。
【0019】
検出液3Aは、基準液11Aの色素成分(青色)とは異なる吸光波長(この実施の形態の場合520〔nm〕)の赤色の色素成分を含んでいる。
【0020】
かくして吸光度検出容器11は、検定対象分注器具3から検出液3Aを注入されたとき、これを基準液11Aと混合することにより、図4に示すように、基準液11Aの色素成分に基づく吸光度曲線Q1に加えて、当該基準液11Aの吸光度曲線Q1(波長730〔nm〕)の波長位置より離れた波長位置に検出液3Aの吸光度曲線Q2(波長520〔nm〕)が生ずるような吸光度特性を呈することになる。
【0021】
フィルタ手段14は、ブランク光フィルタ14A及び検出光フィルタ14Bを有し、吸光度検出容器11に基準液11Aだけが入っている状態のとき、フィルタ切換器21によって切換動作される回転機構21Aによってブランク光フィルタ14Aを光源光L1の透過軸線上に挿入することにより、図3に示す基準液の吸光度曲線Q1の光成分だけを取り出して吸光度検出容器11に入射させる。
【0022】
これに対して吸光度検出容器11に対して検定対象分注器具2から検出液3Aが注入されて基準液11Aと混合された状態において、フィルタ手段14はフィルタ切換器21の回転機構21Aによって検出光フィルタ14Bを光源光L1の透過軸線上に介挿することにより、図4の検出液3Aの吸光度曲線Q2を含む光成分だけを抽出して吸光度検出容器11に入射させる。
【0023】
かくして吸光度検出容器11から透過する透過光L2は、ブランク光フィルタ14Aが介挿されているとき図3の基準液11Aの吸光度曲線Q1の光成分を含む透過光L2が光電変換手段15に入射することにより、光電変換手段15はその吸光度ABを表す検出出力S1を出力し、これをマイクロコンピュータ構成の中央処理ユニット(CPU)25に供給する。
【0024】
これに対して基準液11Aに検出液3Aが混合された状態において吸光度検出容器11を透過する透過光L13が光電変換手段15に入射されたとき、光電変換手段15は図4の検出液の吸光度曲線Q2の吸光度ASに対応する検出出力S1を出力することにより、これをCPU25に供給をする。
【0025】
CPU25は次式
【0026】
【数1】
【0027】
に基づいて検出液3Aの注入量VSを演算し、当該演算結果をシステムバス26を介して表示手段27に検定値として表示する。
【0028】
(1)式は、検出液3Aの注入量VSは、基準液11Aの液量VBに対して基準液11Aの吸光度ABに対する検出液3Aの吸光度ASとの比率を乗算した値として求めることができることを表している。
【0029】
また、基準液11Aの吸光度ABに対する検出液3Aの吸光度ASの比は、基準液11Aに対する検出液3Aの稀釈度を表していることから、検出液3Aの注入量VSは、予め吸光度検出容器11に入れられていた基準液11Aの液量に対する検出液3Aの注入量の比として決めることを表している。
【0030】
この実施の形態の場合、検定対象分注器具3は図5に示すように、先細りの円筒形状を有する機器本体部31A内にピストン駆動部31Bによってピストン動作するピストン部31Cが設けられ、ユーザが指当て部31Dを指で挟んで他の指で吸引操作部31Eを下方に押込み操作したとき、当該押込み力を伝達シャフト部31Fがピストン駆動部31Bに伝達することにより、ピストン部31Cを下方にピストン動作させる。
【0031】
このときピストン部31Cは下方端部に連結された円錐環状の吸引部31Gを通してその先端に嵌め込まれたチップ部31Hを通して吸引部31G内の空気を下方に吐出させるようになされている。
【0032】
この状態においてユーザが吸引操作部31Eに対する押圧力を緩めると、ピストン駆動部31Bのスプリング動作によってピストン部31Cを上方にピストン動作させることにより、吸引部31Gがチップ部31Hの空気を内部に吸引することにより、チップ部31Hの先端から分注すべき液体をチップ部31H内に吸引する。
【0033】
かくして検定対象分注器具3は分注すべき液体を試料容器から吸引して分注器具検定装置1(図1)の吸光度検出容器11に検出液3Aとして吐出することにより、検定対象分注器具3に予め予定されている分注量の検出液3Aを検定装置本体2に供給し、これにより当該分注液量の検定処理が行われる。
【0034】
以上の構成において、CPU25は入力手段35から検定・校正処理の実行命令が与えられたとき、図6に示す検定・校正処理手順RT1に入って、ステップSP1において検出容器設定溝12に基準液11Aが入れられた吸光度検出容器11が設定されるのを待ち受ける。
【0035】
当該吸光度検出容器11が設定されたことを確認すると、CPU25は、次のステップSP2に移って制御手段36からフィルタ切換器21に切換制御信号S11を与えることにより、フィルタ手段14のブランク光フィルタ14Aを光源光L1の透過光路に設定すると共に、次のステップSP3において制御手段36から発光制御信号S12を光源手段13に与えることにより白色光源光L1を射出させる。
【0036】
このときブランク光フィルタ14Aは吸光度検出容器11内に入っている基準液11Aに対する吸光度曲線Q1(図3)の光成分を光源光L1から抽出して吸光度検出容器11の基準液11Aを透過する透過光L2を生じさせることにより、光電変換手段15が当該基準液11Aの吸光度ABを表す検出出力S1を送出し、CPU25はこれをステップSP4において内部のメモリに取り込む。
【0037】
続いてCPU25は、ステップSP5に移って制御手段36からフィルタ切換器21に対して切換制御信号S11を与えることにより検出光フィルタ14Bを光源光L1の透過光路に設定した後ステップSP6において吸光度検出容器11に対して検定対象分注器具3から検出液3Aが注入されるのを待ち受ける。
【0038】
やがて検出液3Aが吸光度検出容器11に注入されることにより吸光度検出容器11内の混合液の色が変わったとき、CPU25は、検出液3Aの吸光度曲線Q2の成分が透過光L2に得られることによって、光電変換手段15が対応する検出出力S2を発生することにより、CPU25は次のステップSP7に移って当該検出液の吸光度ASを内部の記憶メモリに取り込む。
【0039】
かくして基準液11Aについての波長730〔nm〕における吸光度ABと、波長520〔nm〕における吸光度ASが得られたことにより、CPU25は、ステップSP8において上述の(1)式を演算することにより検出液3Aの注入量を算出してステップSP9において当該検出液の注入量を表示手段27に表示することによりユーザに知らせる。
【0040】
この後ステップSP10において光源手段13を消灯することにより、CPU25は吸光度検出容器11に検出液3Aを注入した検定対象分注器具3に対する検定処理を終了する。
【0041】
その後、ユーザはステップSP11において表示手段27の表示に基づいて、検定対象分注器具3(図5)のピストン駆動部31Bのピストン量を調整することにより当該検定対象分注器具3の校正を必要に応じて行い、かくしてCPU25は、次のステップSP12において当該検定・校正処理手順RT1を終了する。
【0042】
以上の構成によれば、検定対象分注器具3(図5)においてチップ部31Hに吸引されて吸光度検出容器11に注入されることにより分注された検出液3Aは、当該分注操作の間に、色素成分が蒸発することはないので、蒸発現象の影響を受けることなく、検出液3Aの分注液量の検定をすることができる。
【0043】
因に、図1の分注器具検定装置1による分注操作の間に、基準液11A及び検出液3Aに含まれている色素成分は原理的に周囲の湿度に起因して蒸発が生ずることはないような光学計量方式によって検定をすることができるので、例え当該検定操作を分注作業を行う現実の作業環境において、例えば30〜45〔%〕程度の十分に低い湿度の環境で行なわれたとしても、当該検定結果に検定誤差が混入することなく安定な検定結果を得ることができる。
【0044】
このような効果は以下に述べる重量法による検定結果との比較例によって明確に裏付けられる。
【0045】
(2)重量法との比較例
図7及び図8は、分注液体の蒸発に関して、重量法の検定結果と、上述の実施の形態の構成による検定結果との間の、実験結果の比較例を示すものである。
【0046】
当該実験条件は、検定環境における湿度を60〔%〕、45〔%〕及び30〔%〕とし、図5に示す検定対象分注器具3として手動ピペッタを用いて、重量法と、上述の構成の光学計量方式とで、それぞれ10ポイントの測定を3回づつ行った。
【0047】
正確度と精密度の比較論を重点に考慮するため、ピペッタの直線性などは特に論点から除外した。
【0048】
ピペッタとして、1000〔μl〕、100〔μl〕及び10〔μl〕を、現在ピペッタを校正する際に多用されているように、湿度60〔%〕において校正したピペッタを用いた。
【0049】
蒸発値の大きさを確認するために、実質的な蒸発量の補正は行なわずに実験データを取った。
【0050】
実験者は、個人偏差を考慮して1名で行った。
【0051】
図7及び図8において、各実験における10ポイントの実験結果のばらつきの大きさを1つのバブルの大きさによって表しており、その中心点が平均値として当該バブルの正確度を表している。
【0052】
図7及び図8の第1のデータDT1は、1000〔μl〕のピペッタを用いて1000〔μl〕の分注液を採取した場合の実験データを表す。
【0053】
また第2の実験データDT2は、1000〔μl〕のピペッタを用いて500〔μl〕の分注液を採取した場合の実験データを示す。
【0054】
以下同様にして第3及び第4の実験データDT3及びDT4は100〔μl〕のピペッタを用いて100〔μl〕及び10〔μl〕の分注液を採取した実験例を示すと共に、第5及び第6の実験データDT5及びDT6は、10〔μl〕のピペッタを用いて10〔μl〕及び1〔μl〕の分注液を採取した実験例を示す。
【0055】
図7及び図8の実験例において、第1に確認されたのは1000〔μl〕から1〔μl〕までの分注液量に亘って、全ての湿度において重量法の値が上述の光学計量方式より低い正確度になっている点である。
【0056】
これは、上述の実施の形態のような光学計量方式の場合には色素成分の蒸発が発生しないのに対して、重量法の場合には全ての実験結果において天秤上の蒸発が検定値を引き下げていることを表している。
【0057】
因に、光学計量方式において用いる色素は蒸発しないために、分注した時点での分注液量がそのままの値として表われたものと解し得る。
【0058】
また精密度については、バブルグラフで直径の大きさでばらつきの大きさを表しているように、特に分注液量が微小な分注液について、重量法における検定結果は精密度が低いことが読み取れる。
【0059】
重量法による検定において正確度が低いのは、図9に示すように、重量法検定において、ピペッタのような検定対象分注器具3を用いて天秤上に分注液を分注する操作をする間に生ずる分注液の蒸発現象が原因であると考えられる。
【0060】
すなわち、図9(A)に示すように検定対象分注器具3によって試料容器41内の試料液体42をチップ部31Hに分注液43として吸引操作をして、図9(B)及び(C)に示すように天秤44のサンプル容器45に取り分ける操作をする間において、検定対象分注器具3はチップ部31Hに分注液43を吸引する際に、チップ部31H内に生ずる負圧によって吸引した分注液43を内部蒸発させる。
【0061】
このように「内部蒸発現象」(これをEIP/Evaporation Inside Pipetterと呼ぶ)が生ずると、分注液43が気化することにより液体の体積が800倍前後の体積に膨張するために、チップ部31H内の当該膨張による圧力によって吸引量が小さくなる結果を生ずる。
【0062】
この検定対象分注器具3のチップ31Hにおける分注液43の吸引による生ずる内部蒸発現象(EIP)は、図9(A)〜(C)の操作をしている間、すわなち試料吸引から排出するまでの間で生じている。
【0063】
重量法検定においては、検定対象分注器具3によって吸引により取り分けられた分注液43は、図9(D)に示すように、サンプル容器45内に排出され、これにより天秤44は排出された分注液43の重量を測定する。
【0064】
ところが、当該天秤44上のサンプル容器45に検定対象分注器具3のチップ部31Hから分注液43が排出されると、当該分注液43はサンプル容器45から外気に蒸発できる状態になるため、「天秤上での蒸発現象」(これをEOB/Evaporation On Balanceと呼ぶ)という蒸発現象の発生が避けられない。
【0065】
このような検定操作時に生ずる天秤上での蒸発は、検定対象分注器具3によって取り分けられた分注液43の分注液量の大小によらず発生するが、分注液量が微小量である場合には、検定結果における正確度の誤差に大きく影響する。
【0066】
このような天秤上での蒸発現象による検定正確度に対する影響は、図7及び図8の重量法との比較例において明確に読み取ることができる。
【0067】
図7及び図8の実験結果から見て、重量法における検定結果は天秤上での蒸発現象(EOB)の影響を受けて、光学計量方式の検定結果に対して検定の正確度がいずれの分注量についても低く出ている。
【0068】
これに対して、上述の実施の形態による光学計量方式の分注器具検定装置1を用いた場合には、基準液11A(図2)に含まれている色素成分量と、検定対象分注器具3によって吸引された検出液3Aに含まれている色素成分量は、蒸発現象によって色素成分量が少なくなるような現象は生じない。
【0069】
従って、図9(D)について上述した天秤上での蒸発現象(EOB)は、分注液の重量の減少として直接に検定結果の正確度の低下を生じさせるのに対して、このような検定の正確度の低下の原因は、色素成分量に基づく吸光度の比較による分注液体の分注量の検定には生じることはない。
【0070】
このことは、図7の重量法との比較例の実験結果から明確に読み取り得る。
【0071】
光学計量方式においても内部蒸発現象(EIP)の影響を受けることは、図10及び図11によって明らかに読み取り得る。
【0072】
図10は図7のうち、1000〔μl〕の検定対象分注器具3についての検定データDT1及びDT2を拡大して示すと共に、図11は図10のうち、光学計量方式のうち、湿度30〔%〕における実験データの描写を省略することにより、その背後にある重量法による実験データを見ることができるようにしたものである。
【0073】
図10及び図11によれば、重量法及び光学計量方式のいずれについても、内部蒸発現象(EIP)に基づいて、湿度が60〔%〕、45〔%〕、30〔%〕となるに従って正確度が低下していく傾向があると共に、天秤上での蒸発現象(EOB)に基づいて、当該天秤上の蒸発現象がない光学計量方式の検定結果の正確度が高くなっていることが分かる。
【0074】
また、60〔%〕湿度の重量法に基づく検定値が30〔%〕湿度の光学計量方式の検定値の近くに表れている。
【0075】
このことは現象として近似しているのが明らかであるが、バリデーションを必要とする場合の検定値とすると、60〔%〕と30〔%〕の湿度差に理論上の整合性がないことが理解できる。
【0076】
蒸発補正のない60〔%〕湿度の重量法の検定は、実際の30〔%〕台湿度下の分注作業現場で起こる正確度を補償できるものではなく、また正確度の許容値の判断を狂わせる結果になっている。
【0077】
図12及び図13は、100〔μl〕及び10〔μl〕の分注器具についての実験結果を拡大して示したもので、両方共に、湿度による差が生じている。
【0078】
また分注量が小さくなればなるほど蒸発現象を受ける重量法に精密度の低下が見られ(1つのバブルの直径が大きくなっている)、重量法による測定による限界が明らかになっている。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明はピペッタ等の分注器具の検定に利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1……分注器具検定装置、2……検定装置本体、3……検定対象分注器具、3A……検出液、10……筐体、11……吸光度検出容器、11A……基準液、11B……分注口、12……検定容器設定溝、13……光源手段、14……フィルタ手段、14A……ブランク光フィルタ、14B……検出光フィルタ、15……光電変換手段、21……フィルタ切換器、21A……回転機構、25……CPU、27……表示手段、35……入力手段、36……制御手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は分注器の検定方法及び装置に関し、特に検定対象である分注器の分注量を、一段と、真値に近く検定できるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
1つの試料容器から試料液体を微小量(例えば1〜1000〔μl〕)づつ吸引して1つの取分け容器に取り分けるピペッタや、1つの試料容器から吸引した微小量の同一液体を一定量づつ複数の分注容器に連続分注する分注器や、2つの試料容器から順次異なる液体を吸引して1つの稀釈容器において混合する稀釈器などの、空気置換型の液体吸引器具(これを分注器具と呼ぶ)が従来から用いられている。
【0003】
この種の分注器具は微小量の液体の吸引動作をするものであるから、ユーザは予定された定量の液体を吸引するためには、現実に使用するに先立って、分注器具の分注量を1つづつ検定した後校正する操作をする必要がある(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−76393公報
【特許文献2】特開2002−286591公報
【特許文献3】特許第2520852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微小量の液体を吸引する分注器具の分注量の検定方法としては、1989年に規格化された標準規格ASTM及び2002年に規格化されたISO8655をガイドラインとして、吸引した液体の重量を天秤を用いて計測する重量法が採用されており、この重量法が標準的な基準として分注器具の検定に用いられている。
【0006】
この重量法は、吸引した液体の重量を天秤の試料容器に吐出してその重量を測定した後、体積に換算する手法を用いたものである。
【0007】
そこで、重量法に基づく検定は、当該重量の測定過程において、天秤の試料容器に吐出した分注液体が大気中に蒸発するという重大な影響を受けることになるため、実際上分注器具の検定作業を湿度が60〜70〔%〕程度に調整された特別な検定環境の部屋で実施することにより、蒸発量を抑えるような工夫がなされている。
【0008】
しかしながら、この特別な検定環境条件の下で検定された分注器具であっても、これを用いて液体の分注作業を行う現実の作業環境は必らずしも当該検定環境(すなわち湿度が60〜70〔%〕の)と同じではなく、例えば30〜45〔%〕の湿度程度に低い湿度の環境で分注作業が行なわれるのが普通である。
【0009】
従って、特別な検定環境条件の下で重量法により検定された分注器具であっても、必らずしも検定された分注定量で液体を定量分注できるとは限らない。
【0010】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、光学計量式の検定手段を用いて分注器具の検定処理を行うことにより、検定した分注器具の現実の作業環境下における分注量が、真値近くになるような検定をすることができるようにした分注器具の検定方法及び装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため本発明においては、試料液体を吸引して所定の分注量の分注液を取り分ける分注器具3の検定方法及び装置において、分注液を、基準の波長730[μl]の光を吸光する第1の吸光度特性Q1を有する第1の色素成分を含む基準液11Aが入った吸光度検出容器11に、分注器具3によって吸引されかつ基準の波長730[μl]とは異なる波長520[μl]の光を吸光する第2の吸光度特性Q2を有する第2の色素成分を含む検出液3Aを注入して混合液を作り、混合液の吸光度を検出して基準液11Aの吸光度ABと当該検出した混合液の吸光度ASとに基づいて検出液3Aの液量VSを計算することにより、分注器具3の分注量VSの検定値を求めるようにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検出すべき分注器具から第1の色素成分を含む基準液が入った吸光度検出容器に第2の色素成分を含む検出液を注入して混合液を作ってから、混合液の吸光度を検出するまでの間の蒸発現象によっては第1及び第2の色素成分が減少していないことを利用して、分注器具の分注液量の検出値を求めるようにしたことにより、高い正確度の検定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態による分注器具検定装置を示すブロック図である。
【図2】吸光度検出容器を示す略線的斜視図である。
【図3】基準液の吸光度特性を示す特性曲線図である。
【図4】混合液の吸光度特性を示す特性曲線図である。
【図5】検定対象分注器具を示す正面図である。
【図6】検定・校正処理手順を示すフローチャートである。
【図7】重量法との比較例の実験データを示す略線図である。
【図8】比較例の実験データとして平均値データを示す図表である。
【図9】重量法検定における蒸発現象の説明に供する略線図である。
【図10】1000[μl]の分注器具についての蒸発現象の影響の説明に供する略線図である。
【図11】1000[μl]の分注器具についての蒸発現象の影響の説明に供する略線図である。
【図12】100[μl]の分注器具についての蒸発現象の影響の説明に供する略線図である。
【図13】10[μl]の分注器具についての蒸発現象の影響の説明に供する略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0015】
(1)分注器具の検定装置の構成
図1において、1は全体として分注器具検定装置を示し、検定装置本体2と、検定対象分注器具3とで構成されている。
【0016】
検定装置本体2の筐体10には吸光度検出容器11を位置決め収納する検出容器設定溝12が設けられ、光源手段13から射出される白色光源光L1がフィルタ手段14のブランク光フィルタ14A又は検出光フィルタ14Bを透過して吸光度検出容器11に入射され、当該吸光度検出装置11を透過した透過光L2が光電変換手段15に入射するようになされている。
【0017】
吸光度検出装置11は、図2に示すように、円筒状の透明ガラス容器によって構成され、白色光源光L1から図3において吸光度曲線Q1で示すように、所定の波長(この実施の形態の場合730〔nm〕の波長)を吸光する青色の色素成分を含む基準液11Aが予め決められた基準液量だけ注入した状態で用意されている。
【0018】
かかる構成の吸光度検出容器11は、検出容器設定溝12内に設定されたとき、上側端に設けられた分注口11Bを筐体10の外側に露出する状態に保持され、これにより分注口11Bに対して、当該検定対象分注器具3が吸引して来た検出液3Aを吸光度検出容器11内に注入できるようになされている。
【0019】
検出液3Aは、基準液11Aの色素成分(青色)とは異なる吸光波長(この実施の形態の場合520〔nm〕)の赤色の色素成分を含んでいる。
【0020】
かくして吸光度検出容器11は、検定対象分注器具3から検出液3Aを注入されたとき、これを基準液11Aと混合することにより、図4に示すように、基準液11Aの色素成分に基づく吸光度曲線Q1に加えて、当該基準液11Aの吸光度曲線Q1(波長730〔nm〕)の波長位置より離れた波長位置に検出液3Aの吸光度曲線Q2(波長520〔nm〕)が生ずるような吸光度特性を呈することになる。
【0021】
フィルタ手段14は、ブランク光フィルタ14A及び検出光フィルタ14Bを有し、吸光度検出容器11に基準液11Aだけが入っている状態のとき、フィルタ切換器21によって切換動作される回転機構21Aによってブランク光フィルタ14Aを光源光L1の透過軸線上に挿入することにより、図3に示す基準液の吸光度曲線Q1の光成分だけを取り出して吸光度検出容器11に入射させる。
【0022】
これに対して吸光度検出容器11に対して検定対象分注器具2から検出液3Aが注入されて基準液11Aと混合された状態において、フィルタ手段14はフィルタ切換器21の回転機構21Aによって検出光フィルタ14Bを光源光L1の透過軸線上に介挿することにより、図4の検出液3Aの吸光度曲線Q2を含む光成分だけを抽出して吸光度検出容器11に入射させる。
【0023】
かくして吸光度検出容器11から透過する透過光L2は、ブランク光フィルタ14Aが介挿されているとき図3の基準液11Aの吸光度曲線Q1の光成分を含む透過光L2が光電変換手段15に入射することにより、光電変換手段15はその吸光度ABを表す検出出力S1を出力し、これをマイクロコンピュータ構成の中央処理ユニット(CPU)25に供給する。
【0024】
これに対して基準液11Aに検出液3Aが混合された状態において吸光度検出容器11を透過する透過光L13が光電変換手段15に入射されたとき、光電変換手段15は図4の検出液の吸光度曲線Q2の吸光度ASに対応する検出出力S1を出力することにより、これをCPU25に供給をする。
【0025】
CPU25は次式
【0026】
【数1】
【0027】
に基づいて検出液3Aの注入量VSを演算し、当該演算結果をシステムバス26を介して表示手段27に検定値として表示する。
【0028】
(1)式は、検出液3Aの注入量VSは、基準液11Aの液量VBに対して基準液11Aの吸光度ABに対する検出液3Aの吸光度ASとの比率を乗算した値として求めることができることを表している。
【0029】
また、基準液11Aの吸光度ABに対する検出液3Aの吸光度ASの比は、基準液11Aに対する検出液3Aの稀釈度を表していることから、検出液3Aの注入量VSは、予め吸光度検出容器11に入れられていた基準液11Aの液量に対する検出液3Aの注入量の比として決めることを表している。
【0030】
この実施の形態の場合、検定対象分注器具3は図5に示すように、先細りの円筒形状を有する機器本体部31A内にピストン駆動部31Bによってピストン動作するピストン部31Cが設けられ、ユーザが指当て部31Dを指で挟んで他の指で吸引操作部31Eを下方に押込み操作したとき、当該押込み力を伝達シャフト部31Fがピストン駆動部31Bに伝達することにより、ピストン部31Cを下方にピストン動作させる。
【0031】
このときピストン部31Cは下方端部に連結された円錐環状の吸引部31Gを通してその先端に嵌め込まれたチップ部31Hを通して吸引部31G内の空気を下方に吐出させるようになされている。
【0032】
この状態においてユーザが吸引操作部31Eに対する押圧力を緩めると、ピストン駆動部31Bのスプリング動作によってピストン部31Cを上方にピストン動作させることにより、吸引部31Gがチップ部31Hの空気を内部に吸引することにより、チップ部31Hの先端から分注すべき液体をチップ部31H内に吸引する。
【0033】
かくして検定対象分注器具3は分注すべき液体を試料容器から吸引して分注器具検定装置1(図1)の吸光度検出容器11に検出液3Aとして吐出することにより、検定対象分注器具3に予め予定されている分注量の検出液3Aを検定装置本体2に供給し、これにより当該分注液量の検定処理が行われる。
【0034】
以上の構成において、CPU25は入力手段35から検定・校正処理の実行命令が与えられたとき、図6に示す検定・校正処理手順RT1に入って、ステップSP1において検出容器設定溝12に基準液11Aが入れられた吸光度検出容器11が設定されるのを待ち受ける。
【0035】
当該吸光度検出容器11が設定されたことを確認すると、CPU25は、次のステップSP2に移って制御手段36からフィルタ切換器21に切換制御信号S11を与えることにより、フィルタ手段14のブランク光フィルタ14Aを光源光L1の透過光路に設定すると共に、次のステップSP3において制御手段36から発光制御信号S12を光源手段13に与えることにより白色光源光L1を射出させる。
【0036】
このときブランク光フィルタ14Aは吸光度検出容器11内に入っている基準液11Aに対する吸光度曲線Q1(図3)の光成分を光源光L1から抽出して吸光度検出容器11の基準液11Aを透過する透過光L2を生じさせることにより、光電変換手段15が当該基準液11Aの吸光度ABを表す検出出力S1を送出し、CPU25はこれをステップSP4において内部のメモリに取り込む。
【0037】
続いてCPU25は、ステップSP5に移って制御手段36からフィルタ切換器21に対して切換制御信号S11を与えることにより検出光フィルタ14Bを光源光L1の透過光路に設定した後ステップSP6において吸光度検出容器11に対して検定対象分注器具3から検出液3Aが注入されるのを待ち受ける。
【0038】
やがて検出液3Aが吸光度検出容器11に注入されることにより吸光度検出容器11内の混合液の色が変わったとき、CPU25は、検出液3Aの吸光度曲線Q2の成分が透過光L2に得られることによって、光電変換手段15が対応する検出出力S2を発生することにより、CPU25は次のステップSP7に移って当該検出液の吸光度ASを内部の記憶メモリに取り込む。
【0039】
かくして基準液11Aについての波長730〔nm〕における吸光度ABと、波長520〔nm〕における吸光度ASが得られたことにより、CPU25は、ステップSP8において上述の(1)式を演算することにより検出液3Aの注入量を算出してステップSP9において当該検出液の注入量を表示手段27に表示することによりユーザに知らせる。
【0040】
この後ステップSP10において光源手段13を消灯することにより、CPU25は吸光度検出容器11に検出液3Aを注入した検定対象分注器具3に対する検定処理を終了する。
【0041】
その後、ユーザはステップSP11において表示手段27の表示に基づいて、検定対象分注器具3(図5)のピストン駆動部31Bのピストン量を調整することにより当該検定対象分注器具3の校正を必要に応じて行い、かくしてCPU25は、次のステップSP12において当該検定・校正処理手順RT1を終了する。
【0042】
以上の構成によれば、検定対象分注器具3(図5)においてチップ部31Hに吸引されて吸光度検出容器11に注入されることにより分注された検出液3Aは、当該分注操作の間に、色素成分が蒸発することはないので、蒸発現象の影響を受けることなく、検出液3Aの分注液量の検定をすることができる。
【0043】
因に、図1の分注器具検定装置1による分注操作の間に、基準液11A及び検出液3Aに含まれている色素成分は原理的に周囲の湿度に起因して蒸発が生ずることはないような光学計量方式によって検定をすることができるので、例え当該検定操作を分注作業を行う現実の作業環境において、例えば30〜45〔%〕程度の十分に低い湿度の環境で行なわれたとしても、当該検定結果に検定誤差が混入することなく安定な検定結果を得ることができる。
【0044】
このような効果は以下に述べる重量法による検定結果との比較例によって明確に裏付けられる。
【0045】
(2)重量法との比較例
図7及び図8は、分注液体の蒸発に関して、重量法の検定結果と、上述の実施の形態の構成による検定結果との間の、実験結果の比較例を示すものである。
【0046】
当該実験条件は、検定環境における湿度を60〔%〕、45〔%〕及び30〔%〕とし、図5に示す検定対象分注器具3として手動ピペッタを用いて、重量法と、上述の構成の光学計量方式とで、それぞれ10ポイントの測定を3回づつ行った。
【0047】
正確度と精密度の比較論を重点に考慮するため、ピペッタの直線性などは特に論点から除外した。
【0048】
ピペッタとして、1000〔μl〕、100〔μl〕及び10〔μl〕を、現在ピペッタを校正する際に多用されているように、湿度60〔%〕において校正したピペッタを用いた。
【0049】
蒸発値の大きさを確認するために、実質的な蒸発量の補正は行なわずに実験データを取った。
【0050】
実験者は、個人偏差を考慮して1名で行った。
【0051】
図7及び図8において、各実験における10ポイントの実験結果のばらつきの大きさを1つのバブルの大きさによって表しており、その中心点が平均値として当該バブルの正確度を表している。
【0052】
図7及び図8の第1のデータDT1は、1000〔μl〕のピペッタを用いて1000〔μl〕の分注液を採取した場合の実験データを表す。
【0053】
また第2の実験データDT2は、1000〔μl〕のピペッタを用いて500〔μl〕の分注液を採取した場合の実験データを示す。
【0054】
以下同様にして第3及び第4の実験データDT3及びDT4は100〔μl〕のピペッタを用いて100〔μl〕及び10〔μl〕の分注液を採取した実験例を示すと共に、第5及び第6の実験データDT5及びDT6は、10〔μl〕のピペッタを用いて10〔μl〕及び1〔μl〕の分注液を採取した実験例を示す。
【0055】
図7及び図8の実験例において、第1に確認されたのは1000〔μl〕から1〔μl〕までの分注液量に亘って、全ての湿度において重量法の値が上述の光学計量方式より低い正確度になっている点である。
【0056】
これは、上述の実施の形態のような光学計量方式の場合には色素成分の蒸発が発生しないのに対して、重量法の場合には全ての実験結果において天秤上の蒸発が検定値を引き下げていることを表している。
【0057】
因に、光学計量方式において用いる色素は蒸発しないために、分注した時点での分注液量がそのままの値として表われたものと解し得る。
【0058】
また精密度については、バブルグラフで直径の大きさでばらつきの大きさを表しているように、特に分注液量が微小な分注液について、重量法における検定結果は精密度が低いことが読み取れる。
【0059】
重量法による検定において正確度が低いのは、図9に示すように、重量法検定において、ピペッタのような検定対象分注器具3を用いて天秤上に分注液を分注する操作をする間に生ずる分注液の蒸発現象が原因であると考えられる。
【0060】
すなわち、図9(A)に示すように検定対象分注器具3によって試料容器41内の試料液体42をチップ部31Hに分注液43として吸引操作をして、図9(B)及び(C)に示すように天秤44のサンプル容器45に取り分ける操作をする間において、検定対象分注器具3はチップ部31Hに分注液43を吸引する際に、チップ部31H内に生ずる負圧によって吸引した分注液43を内部蒸発させる。
【0061】
このように「内部蒸発現象」(これをEIP/Evaporation Inside Pipetterと呼ぶ)が生ずると、分注液43が気化することにより液体の体積が800倍前後の体積に膨張するために、チップ部31H内の当該膨張による圧力によって吸引量が小さくなる結果を生ずる。
【0062】
この検定対象分注器具3のチップ31Hにおける分注液43の吸引による生ずる内部蒸発現象(EIP)は、図9(A)〜(C)の操作をしている間、すわなち試料吸引から排出するまでの間で生じている。
【0063】
重量法検定においては、検定対象分注器具3によって吸引により取り分けられた分注液43は、図9(D)に示すように、サンプル容器45内に排出され、これにより天秤44は排出された分注液43の重量を測定する。
【0064】
ところが、当該天秤44上のサンプル容器45に検定対象分注器具3のチップ部31Hから分注液43が排出されると、当該分注液43はサンプル容器45から外気に蒸発できる状態になるため、「天秤上での蒸発現象」(これをEOB/Evaporation On Balanceと呼ぶ)という蒸発現象の発生が避けられない。
【0065】
このような検定操作時に生ずる天秤上での蒸発は、検定対象分注器具3によって取り分けられた分注液43の分注液量の大小によらず発生するが、分注液量が微小量である場合には、検定結果における正確度の誤差に大きく影響する。
【0066】
このような天秤上での蒸発現象による検定正確度に対する影響は、図7及び図8の重量法との比較例において明確に読み取ることができる。
【0067】
図7及び図8の実験結果から見て、重量法における検定結果は天秤上での蒸発現象(EOB)の影響を受けて、光学計量方式の検定結果に対して検定の正確度がいずれの分注量についても低く出ている。
【0068】
これに対して、上述の実施の形態による光学計量方式の分注器具検定装置1を用いた場合には、基準液11A(図2)に含まれている色素成分量と、検定対象分注器具3によって吸引された検出液3Aに含まれている色素成分量は、蒸発現象によって色素成分量が少なくなるような現象は生じない。
【0069】
従って、図9(D)について上述した天秤上での蒸発現象(EOB)は、分注液の重量の減少として直接に検定結果の正確度の低下を生じさせるのに対して、このような検定の正確度の低下の原因は、色素成分量に基づく吸光度の比較による分注液体の分注量の検定には生じることはない。
【0070】
このことは、図7の重量法との比較例の実験結果から明確に読み取り得る。
【0071】
光学計量方式においても内部蒸発現象(EIP)の影響を受けることは、図10及び図11によって明らかに読み取り得る。
【0072】
図10は図7のうち、1000〔μl〕の検定対象分注器具3についての検定データDT1及びDT2を拡大して示すと共に、図11は図10のうち、光学計量方式のうち、湿度30〔%〕における実験データの描写を省略することにより、その背後にある重量法による実験データを見ることができるようにしたものである。
【0073】
図10及び図11によれば、重量法及び光学計量方式のいずれについても、内部蒸発現象(EIP)に基づいて、湿度が60〔%〕、45〔%〕、30〔%〕となるに従って正確度が低下していく傾向があると共に、天秤上での蒸発現象(EOB)に基づいて、当該天秤上の蒸発現象がない光学計量方式の検定結果の正確度が高くなっていることが分かる。
【0074】
また、60〔%〕湿度の重量法に基づく検定値が30〔%〕湿度の光学計量方式の検定値の近くに表れている。
【0075】
このことは現象として近似しているのが明らかであるが、バリデーションを必要とする場合の検定値とすると、60〔%〕と30〔%〕の湿度差に理論上の整合性がないことが理解できる。
【0076】
蒸発補正のない60〔%〕湿度の重量法の検定は、実際の30〔%〕台湿度下の分注作業現場で起こる正確度を補償できるものではなく、また正確度の許容値の判断を狂わせる結果になっている。
【0077】
図12及び図13は、100〔μl〕及び10〔μl〕の分注器具についての実験結果を拡大して示したもので、両方共に、湿度による差が生じている。
【0078】
また分注量が小さくなればなるほど蒸発現象を受ける重量法に精密度の低下が見られ(1つのバブルの直径が大きくなっている)、重量法による測定による限界が明らかになっている。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明はピペッタ等の分注器具の検定に利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1……分注器具検定装置、2……検定装置本体、3……検定対象分注器具、3A……検出液、10……筐体、11……吸光度検出容器、11A……基準液、11B……分注口、12……検定容器設定溝、13……光源手段、14……フィルタ手段、14A……ブランク光フィルタ、14B……検出光フィルタ、15……光電変換手段、21……フィルタ切換器、21A……回転機構、25……CPU、27……表示手段、35……入力手段、36……制御手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液体を吸引して所定の分注量の分注液を取り分ける分注器具の検定方法において、
上記分注液を、基準の波長の光を吸光する第1の吸光度特性を有する第1の色素成分を含む基準液が入った吸光度検出容器に、上記分注器具によって吸引されかつ上記基準の波長とは異なる波長の光を吸光する第2の吸光度特性を有する第2の色素成分を含む検出液を注入して混合液を作り、上記混合液の吸光度を検出して上記基準液の吸光度と当該検出した上記混合液の吸光度とに基づいて上記検出液の液量を計算することにより、上記分注器具から上記吸光度検出容器に上記検出液を注入してから上記混合液の吸光度を検出するまでの間の蒸発現象により上記第1及び第2色素成分が減少しないことを利用して、上記分注器具の上記分注量の検定値を求める
ことを特徴とする分注器具の検定方法。
【請求項2】
試料液体を吸引して所定の分注量の分注液を取り分ける分注器具の検定装置において、
上記分注液を、基準の波長の光を吸光する第1の吸光度特性を有する第1の色素成分を含む基準液が入った吸光度検出容器と、
上記分注器具によって吸引されかつ上記基準の波長とは異なる波長の光を吸光する第2の吸光度特性を有する第2の色素成分を含む検出液を上記吸光度検出容器に注入させて混合液を作る混合液生成手段と、
上記混合液の吸光度を検出して上記基準液の吸光度と当該検出した上記混合液の吸光度とに基づいて上記検出液の液量を計算することにより、上記分注器具から上記吸光度検出容器に上記検出液を注入してから上記混合液の吸光度を検出するまでの間の蒸発現象により上記第1及び第2色素成分が減少しないことを利用して、上記分注器具の上記分注量の検定値を求める検定値演算手段と
を具えることを特徴とする分注器具の検定装置。
【請求項1】
試料液体を吸引して所定の分注量の分注液を取り分ける分注器具の検定方法において、
上記分注液を、基準の波長の光を吸光する第1の吸光度特性を有する第1の色素成分を含む基準液が入った吸光度検出容器に、上記分注器具によって吸引されかつ上記基準の波長とは異なる波長の光を吸光する第2の吸光度特性を有する第2の色素成分を含む検出液を注入して混合液を作り、上記混合液の吸光度を検出して上記基準液の吸光度と当該検出した上記混合液の吸光度とに基づいて上記検出液の液量を計算することにより、上記分注器具から上記吸光度検出容器に上記検出液を注入してから上記混合液の吸光度を検出するまでの間の蒸発現象により上記第1及び第2色素成分が減少しないことを利用して、上記分注器具の上記分注量の検定値を求める
ことを特徴とする分注器具の検定方法。
【請求項2】
試料液体を吸引して所定の分注量の分注液を取り分ける分注器具の検定装置において、
上記分注液を、基準の波長の光を吸光する第1の吸光度特性を有する第1の色素成分を含む基準液が入った吸光度検出容器と、
上記分注器具によって吸引されかつ上記基準の波長とは異なる波長の光を吸光する第2の吸光度特性を有する第2の色素成分を含む検出液を上記吸光度検出容器に注入させて混合液を作る混合液生成手段と、
上記混合液の吸光度を検出して上記基準液の吸光度と当該検出した上記混合液の吸光度とに基づいて上記検出液の液量を計算することにより、上記分注器具から上記吸光度検出容器に上記検出液を注入してから上記混合液の吸光度を検出するまでの間の蒸発現象により上記第1及び第2色素成分が減少しないことを利用して、上記分注器具の上記分注量の検定値を求める検定値演算手段と
を具えることを特徴とする分注器具の検定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−261788(P2010−261788A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112195(P2009−112195)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(597059100)株式会社ユニフレックス (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(597059100)株式会社ユニフレックス (2)
【Fターム(参考)】
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