説明

分注方法

【課題】微小量の液体試料を、表面に凹凸を有する平板上に整列状に分注(スポッティング)する方法であって、凹凸によるスポッティング不能や、ノズルの先端の接触による破損を防止し、かつ簡便なノズル移動制御を可能にする方法を提供する。
【解決手段】試料溶液14を平板41上へノズル31を介して分注するマイクロシリンジ3と、平板41の表面の凹凸を測定するセンサ11と、マイクロシリンジ3およびセンサ11を移動する移動機構45,46,47とを備える分注装置を用い、分注開始前に平板41の表面のすべての分注対象点について凹凸を測定して、分注対象点毎に分注時のノズル31の最適高さを決定し、決定された最適高さへとノズル31を逐次移動して分注を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小量の液体試料を凹凸を有する平板上に点状に分注(スポッティング)する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNA等の分析の分野では、微小量の試料を平板(基板、チップ)上に整列(アレイ)状態でスポッティングし、これに各種物質を反応させてその変化により分析を行うアレイ分析技術の研究が進められている。このような分析の例として、本発明者の一部は、各種タンパク質を基板上にアレイ状に形成し、これに別のタンパク質の溶液を接触させることで溶液中のタンパク質とアレイ上各種タンパク質との相互作用を一度に分析する方法を提案している(特許文献1参照)。このような分析のためには、タンパク質やDNA等の分子を包含する容量約数μL以下の多数の液体試料を、基板上にアレイ状に的確に分注する技術が求められている。
【0003】
従来、このような基板に液体試料を点状に分注(スポッティング)し、アレイを形成する方法として、任意量の液体試料をノズルから排出する手段を用い、このノズルの先端のチップに対する高さを調整しながら、チップ上の各アレイ内に試料を排出するものがある。
【特許文献1】国際公開第WO2006/59727号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の分注方法は、平板上のいずれの分注対象点にも同一の「高さ」値を適用してノズルを配置し、スポッティングを行うものである。この方法は平板の表面が均一な高さの場合は有効であるが、例えば、基板が液体クロマトグラフに用いる担体の材料(各種ゲル)である場合、条件によっては平板表面において、最大約20μm程度の高低差の凹凸を有する。
【0005】
このように表面に最大約20μm程度の高低差の凹凸を有する平板を分注対象とする場合、従来のノズル高さ制御では、表面の凹凸によって、ノズルの先端が平板表面から離れすぎていて試料溶液が滴下されない(スポッティング不能)、または逆に、ノズルと平板との接触により破損する、といった不具合が生じる。
【0006】
このような従来技術の問題点を鑑み、本発明は、平板表面に最大約20μm程度の高低差の凹凸が存在しても、スポッティング不能や、平板またはノズルの破損といった不具合を伴わず、アレイ状に分注することが可能な分注方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、分注対象となる平板の表面の凹凸を測定し、平板上に1次元又は2次元状に周期的に配列された複数の分注対象点毎の、ノズルの先端の最適高さを決定するステップと、ノズルを有するマイクロシリンジを分注対象点のいずれかに水平移動する手順と、このいずれかの分注対象点において対応する最適高さへノズルの先端の位置を垂直移動する手順と、最適高さにおいてノズルから液体試料を分注対象点に排出する手順を、複数の分注対象点のそれぞれについて繰り返すステップとを含む分注方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、平板表面に最大約20μm程度の高低差の凹凸が存在しても、スポッティング不能や、平板またはノズルの破損という不具合を伴わず、アレイ状に分注することが可能な分注方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、縦横の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。又、図面相互間においても互いの比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成物品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0011】
(分注システム)
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る分注システムは、分注操作を実行する分注装置1と、分注装置1を制御する制御装置2とからなる。分注装置1は、分注対象となる平板41を搭載する台42と、試料溶液を平板41にノズル31を介して分注するマイクロシリンジ3と、平板41の表面上の凹凸を検出するセンサ11と、マイクロシリンジ3およびセンサ11を固定し、マイクロシリンジ3およびセンサ11を上下方向(Z方向)に移動するZ方向移動機構45、Z方向移動機構45を搭載し、Z方向移動機構45を図1の奥行き方向(Y方向)に移動するY方向移動機構46、およびY方向移動機構46を搭載し、Y方向移動機構46を図1の左右方向(X方向)に移動するX方向移動機構47と、マイクロシリンジ3が吸引する試料溶液を収納する試料容器8と、連続して異なる種類の試料溶液を分注する際に、各々の試料溶液分注の間にマイクロシリンジ3の内部をすすぐための洗浄液を収納する洗浄液容器9と、洗浄溶液や過剰試料溶液を排出する廃液容器10とを備える。マイクロシリンジ3は、マイクロシリンジ3の内部に、任意量の液体を吸引および排出するピストン32と、ピストン32を上下に動かすピストン駆動機構34とを備える。
【0012】
図2に示すように、制御装置2は、分注装置1の動作を制御する演算を行う演算装置(CPU)23と、演算装置23に接続され、平板41の上に、1次元又は2次元状に周期的に配列された複数の分注対象点のすべての座標を記憶する座標記憶手段18と、平板41の凹凸情報を3次元情報として、平板41の上に定義された2次元座標に対応させて(或いは、平板41の凹凸情報を2次元情報として、平板41の上に定義された1次元座標に対応させて)記憶する凹凸情報記憶手段19と、後述の分注マップ作成手段235が作成したノズル31の先端の最適高さのマップである分注マップを記憶する分注マップ記憶手段17と、センサ11とマイクロシリンジ3との間の水平距離dを記憶する水平距離記憶手段16と、複数の分注対象点の一つである代表点において、ノズル31の先端の位置に対するセンサ11の検出位置の相対的高さを調整する際に基準となる、ノズル31の先端と平板41との間の最適距離を記憶する最適距離記憶手段15とを備える。演算装置23は、Z軸駆動回路54を介してZ方向移動機構45を駆動し,Y軸駆動回路55を介してY方向移動機構46を駆動し,X軸駆動回路56を介してX方向移動機構47を駆動するための信号出力やそれに必要な演算処理を行う位置制御手段233と、センサ駆動回路53を介してセンサ11の動作制御を行うための信号出力やそれに必要な演算処理を行うセンサ制御手段232と、センサ11から出力された信号を入力し、入力された信号に対し、凹凸情報を作成するために必要な演算処理を行うセンサ信号入力手段231と、ピストン駆動回路52を介してピストン駆動機構34を制御して、マイクロシリンジ3のピストン32を上下に動かすための信号出力やそれに必要な演算処理を行うマイクロシリンジ制御手段234と、凹凸情報記憶手段19に記憶された平板41の凹凸情報から、水平距離記憶手段16に記憶される水平距離dを用いて、周期的に配列された複数の分注対象点のそれぞれにおけるノズル31の先端の最適高さの情報である分注マップを作成するために必要な演算処理を行う分注マップ作成手段235と、位置制御手段233、センサ制御手段232及びセンサ信号入力手段231等と連動して、センサ11による平板41の凹凸情報の測定を制御する凹凸測定制御手段236と、位置制御手段233及びマイクロシリンジ制御手段234等と連動して、平板41の上の複数の分注対象点に対する分注手順の進行を制御するために必要な演算処理を行う分注制御手段237とを備える。
【0013】
Z軸駆動回路54は、Z方向移動機構45が有するステップモータや電歪素子、磁歪素子等のアクチュエータを駆動するための駆動信号を生成し,Y軸駆動回路55は、Y方向移動機構46が有するアクチュエータ等を駆動するための駆動信号を生成し,X軸駆動回路56は、X方向移動機構47が有するアクチュエータ等を駆動するための駆動信号を生成する。センサ駆動回路53は、センサ11の光源や検出器に電源電圧を供給する等によりセンサ11を駆動する。ピストン駆動回路52は、ピストン駆動機構34が有するアクチュエータ等を駆動するための駆動信号を生成する。ピストン駆動回路52、センサ駆動回路53、Z軸駆動回路54、Y軸駆動回路55、X軸駆動回路56は入出力インターフェイス51を介して、演算装置23に接続されている。
【0014】
ここで平板41としては、各種のゲルやメンブレン、各種クロマトグラフ分析用の担体、種々のポリマーを塗布したガラスチップ等が用いられる。平板41の表面は、最大で20μm程度の凹凸をもつ場合もある。マイクロシリンジ3のノズル31としては、用途に応じて種々のサイズや材質のものが市販されており、それら市販のものが利用可能であるが、タンパク質やDNA等の微小量の試料の分析では、ノズル31の内径が0.5mm以下のものが一般的に用いられる。センサ11としては、光学センサなどの各種の非接触型位置センサが利用可能である。図1ではレーザ光12による三角測量を応用した光学センサ(キーエンス製LK-G35など)を意図して例示している。三角測量法は、センサ11が出射するレーザ光が対象物から拡散反射した光を検出する。すなわち、対象物が移動することにより、対象物からの拡散反射光がセンサ11の検出器に対して移動することによって、対象物の変位を検出する。その他、センサ11としては、超音波式変位センサや、渦電流式変位センサ他の変位センサ(測距センサ)でも良い。試料容器8としては、典型的には96穴マイクロタイタープレートなどの、多数の試料を並列して収納する容器が用いられ、プレート上の各々のウエルから、次々に異なる試料の分注が行われる。
【0015】
また図2では、センサ信号入力手段231、センサ制御手段232、位置制御手段233、マイクロシリンジ制御手段234、分注マップ作成手段235、凹凸測定制御手段236、および分注制御手段237を、同一の演算装置23の内部に実現するように示しているが、論理構成としての例示であり、別の演算装置(CPU)やコンピュータシステムによるハードウェア構成の一部として実現してもよい。図示を省略しているが、演算装置23には、キーボード、マウス、ライトペン等の入力装置、プリンタ装置及びディスプレイ装置等の出力装置が、最適距離記憶手段15、水平距離記憶手段16、分注マップ記憶手段17、座標記憶手段18、凹凸情報記憶手段19等と共に接続され、ノイマン型コンピュータのハードウェア構成をなしている。最適距離記憶手段15、水平距離記憶手段16、分注マップ記憶手段17、座標記憶手段18、凹凸情報記憶手段19等は、論理構成としてのメモリー構造を示したものであり、現実には同一のハードウェアである記憶装置に格納されるファイルとしてそれぞれ存在することもできるし、それぞれ別個のハードウェアに格納されても良い。この記憶装置としては、ノイマン型コンピュータの主記憶装置又は補助記憶装置が使用可能である。単一レベル記憶等のメモリー管理技術により、演算装置23が使う記憶装置のすべてを、アプリケーションソフトウェアに対して主記憶装置と補助記憶装置の区別を意識させずに、ただ一つの巨大なアドレス空間で仮想記憶としてのメモリー管理することも可能である。仮想記憶においては、主記憶装置上の内容の一部を補助記憶装置に退避(ページアウト)、必要とする部分を補助記憶装置から主記憶装置に戻す(ページイン)等の動作が行われる。主記憶装置としては、SRAM、DRAM等の揮発性の記憶装置が、補助記憶装置としては、ハードディスク(HD)等の磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク、光磁気ディスク、RAMディスク、ICカード、フラッシュメモリーカード、USBフラッシュメモリー、フラッシュディスク(SSD)等が採用可能である。
【0016】
平板41上への分注対象点のアレイの形成においては、一回のスポッティングで排出される試料溶液の容量は数μL以下の微小量であり、また分注でできる各々の試料溶液の点は、一般的に2mm四方以下で1次元又は2次元状に周期的に配列された微小なマス目の領域に分配されていることから、所望の容量の試料溶液を平板41上の所望の位置に確実にスポッティングするためには、試料溶液排出時におけるノズル31の先端の2次元方向又は3次元方向の移動制御が必要となるが、特にノズル31の高さ制御が重要である。複数の分注対象点が1次元方向に周期的に配列された場合は、ノズル31の高さ制御を含めると、ノズル31の先端の位置を2次元空間で移動制御することになり、複数の分注対象点が2次元方向に周期的に配列(マトリクス状に配列)された場合は、ノズル31の高さ制御を含めると、ノズル31の先端の位置を3次元空間で移動制御することになることは勿論である。
【0017】
図3に、ノズル31の先端から試料溶液14が排出される際の、平板41の表面に対する高さの関係を模式的に示す。マイクロシリンジ3に吸引された試料溶液14は、ピストン32により押されることにより、図3(b)に示すように、ノズル31の先端から球状の液滴14として突出する。図3(a)は、ノズル31の先端から押し出された試料溶液14のスポッティングが適正に行われる場合の、ノズル31の先端の平板41の表面に対する高さの関係を示す。ノズル31の先端から平板41の表面までの距離Lが液滴14の実効的な直径(液滴14は真球とは限らないので、垂直方向に測った液滴14の高さを「実効的な直径」と定義する。)Dに対し、

0<L<D

となる範囲に、ノズル31の先端の最適高さとなる距離Lの値があり、このようなノズル31の先端の最適高さでは、液滴14の表面はノズル31の先端より先に平板41の表面に接触し、平板41の表面の素材により吸収され、周囲に飛散することなくノズル31の直下に排出される。これに対し図3(b)に示すように、ノズル31先端と平板41の表面との距離LがD<Lである場合には、微小量の液滴14は表面張力によりノズル31先端から落下せず、分注不能となる。逆に図3(c)に示すように、距離Lが、平板41の表面をゼロレベルとして、L≦0となる場合には、ノズル31先端と平板41が接触し、平板41の表面やノズル31を破損する危険性がある。
【0018】
本発明の実施の形態に係る分注システムでは、適正な分注が行われる高さへのノズル31の移動制御のために、図1に示すように、マイクロシリンジ3とセンサ11とをZ方向移動機構45に一定の水平距離dを介して固定し、Z方向移動機構45をY方向移動機構46に搭載し、Y方向移動機構46をX方向移動機構47に搭載して、水平移動させることにより、センサ11を用いて平板41の表面の凹凸の2次元分布の検出を行う(なお、複数の分注対象点が2次元方向に周期的に配列される場合は、表面の凹凸の2次元分布の検出することになるが、複数の分注対象点が1次元方向に周期的に配列された場合は、表面の凹凸の1次元分布の検出を行うことになることは勿論である。)。「水平距離d」はノズル31の先端の水平位置とセンサ11の検出位置との間の距離である。
【0019】
平板41の表面が均一な高さである場合には、ノズル31の先端と平板41の表面との間の距離は、ノズル31の先端の水平位置とセンサ11の検出位置の水平位置との間に水平距離dが存在しても、センサ11の検出位置の垂直位置と平板41の表面との間の距離にそのまま反映される。しかし、現実には図4に示すように、センサ11の検出位置の水平位置P(x,y)とノズル31の先端の水平位置P(x,y)の間には水平距離d=(x−x)が存在する場合において、平板41の表面が凹凸を有する場合は、センサ11の検出位置の水平位置P(x,y)とノズル31の先端の水平位置P(x,y)における平板41の表面の高さはそれぞれ異なる。このため、センサ11による平板41の表面凹凸の検出結果は、水平距離dだけずれたノズル31の先端の平板41の表面に対する高さを反映しない。
【0020】
これに対応するため、本発明の実施の形態に係る分注システムでは、以下にこの分注システムを用いた分注方法を説明するとおり、分注開始前にあらかじめ、平板41の表面上に、1次元又は2次元状に周期的に配列されたマス目を構成し、このマス目のそれぞれに分注対象点を配列し、このそれぞれの分注対象点について、凹凸をセンサ11により測定し、測定された1次元(直線上の一定間隔)または2次元(マトリクス状)の凹凸情報に対応して、ノズル31と平板41の表面との間が「最適距離」となる、それぞれの分注対象点の「最適高さ」を決定し、分注対象点の座標と対応させて分注マップを作成する。そして、この分注マップを分注マップ記憶手段17に保存する。分注に際しては、分注マップ記憶手段17から分注マップを読み出し、それぞれの分注対象点に決定された「最適高さ」へとノズル31の先端を移動させ、試料溶液14の排出を行う。以降の本明細書の記載においては、複数の分注対象点が2次元方向に周期的に配列される場合を前提として説明するが、複数の分注対象点が1次元方向に周期的に配列される場合も適宜次元を一つ減らせば同様であることは容易に理解できるであろう。
【0021】
(分注方法)
本発明の実施の形態に係る分注方法を、図5〜8のフローチャートを参照して説明する。図5に概略の流れを示す通り、1枚の平板41上にマトリクス状に配列されたすべての分注対象点へ、試料溶液を分注(スポッティング)する分注方法は、ステップS1のノズル31の先端の最適高さに対するセンサ11の検出位置の垂直位置の相対的高さを調整する段階と、相対的高さが調整されたセンサ11を用いて、ステップS2で表面の凹凸情報を測定し、この凹凸情報から各分注対象点の「最適高さ」を決定して分注マップを作成する段階と、この分注マップを用いて、ステップS3においてノズル31の先端の位置を制御し、マトリクス状に配列されたすべての分注対象点に分注する段階とを含む。ステップS1の詳細については図6のフローチャートを用いて、ステップS2の詳細については図7のフローチャートを用いて、ステップS3の詳細については図8のフローチャートを用いて説明する。
【0022】
本発明の実施形態に係る分注方法では、一例として、表面に凹凸を有する平板41としてX方向の一辺の長さl=40mm、Y方向の一辺の長さl=40mmである40mm四方の石英ガラス製のチップを用いる。このチップは、表面に固定化層形成領域として、周辺部分に対して数十〜数百μm低い凹部が加工され、その内部にシリカモノリス層を形成している。また、マイクロシリンジ3としては、ノズル31の長さ30mm、内径0.25mm、外径0.46mmのステンレス製のマイクロシリンジを用い、1回の分注(スポッティング)において、0.1μLの試料溶液14を排出する分注について記載する。しかしながら、これらの数値は例示であり、使用する平板41の表面の凹凸の状態や、マイクロシリンジ3の径、または試料溶液14の粘性等の条件により変動しうる。
【0023】
<センサ高さ調整(ゼロ調整)>
(a)まず図6のステップS110において、マトリクス状に配列される複数の分注対象点のうちから代表点P(x,y)を選択する。更に、ステップS110では、図2に示す位置制御手段233が、Y軸駆動回路55およびX軸駆動回路56を介して、図1に示すY方向移動機構46およびX方向移動機構47を駆動して、代表点P(x,y)の上にマイクロシリンジ3の先端の水平位置を平板41のXY方向に沿って水平移動させ、図4(a)に示すように配置する。
【0024】
(b)次にステップS120において、代表点P(x,y)での、分注が成功するノズル31の最適高さ、すなわちノズル31の先端の垂直位置と平板41の表面との間の最適距離の設定を、以下のステップS121〜S123の手順で行う。まず、ステップS121において、図3に示すように、平板41の表面に垂直方向となる分注装置1の横方向から目視により確認しつつ、ノズル31の先端を徐々に下ろしていく。そして、平板41の表面とノズル31の先端とがごく近接し、かつノズル31の先端が平板41の表面とが接触する可能性が少ないと思われる十分な高さへ到達したら、試料溶液14の排出を試行する。この高さは、1回にスポッティングされる試料溶液14の容量が0.1μLの場合には、約200μmとなる。次に、ステップS122において、肉眼により平板41の表面を確認する。分注の成功を、平板41の表面に試薬溶液の湿った点が存在するか否かを目視で判定し、分注の成功が認められれば、ステップS130へ進む。確認できない場合は、図3(b)のように試料溶液14の液滴がいまだ平板41の表面に到達していない状態であるので、ステップS123に進む。次にステップS123において、ノズル31の先端を、更にわずかに、典型的には約10μm程度下げて、再度試料溶液14の分注を試行する。分注試行後は、ステップS122に戻り、分注が成功したか否かを目視により確認する。ステップS122とS123の手順を、分注が成功するまで繰り返すことにより、ノズル31の先端の垂直位置の最適高さを決定する。このようにして決定された代表点P(x,y)における「最適高さ」に対応するノズル31の先端と平板41表面との間の最適距離は、内径0.25mmのノズルを用いて0.1μLの試料溶液14を排出する場合には、0〜15μmの範囲となる。
【0025】
(c)次にステップS130において、分注が成功したこの時点のZ方向移動機構45の高さを、代表点P(x,y)における「移動機構の最適高さ」として、最適距離記憶手段15に保存する。この最適距離記憶手段15に保存する「移動機構の最適高さ」は、Z方向移動機構45の動作の基本状態(基本垂直位置)から、Z方向移動機構45をノズルの最適高さに到達するまでに下げた垂直方向(Z方向)に測った距離の値として記録しても良く、種々の演算により、他の値に換算して保存しても構わない。
【0026】
(d)次にステップS140において、位置制御手段233がZ軸駆動回路54を介してZ方向移動機構45を駆動し、マイクロシリンジ3を上げる。更に、ステップS140において、位置制御手段233がX軸駆動回路56を介してX方向移動機構47を駆動し、代表点P(x,y)とセンサ検出位置P(x,y)の間の水平距離dの分だけ、マイクロシリンジ3およびセンサ11を、平板41に対しX方向に水平移動し、センサ11を代表点P(x,y)に配置する。
【0027】
(e)次にステップS150において、最適距離記憶手段15から代表点P(x,y)における最適距離を読み出し、位置制御手段233はZ軸駆動回路54を介して、ステップS130で保存した最適高さまで、Z方向移動機構45を下ろす。このとき、ノズル31の先端の垂直位置とセンサ11の検出位置との間の水平距離dが、平板41の一辺の長さlよりも長ければ、このようなセンサ11の下降の際に、ノズル31の先端が平板41の表面の他の箇所に接触して破損する危険はない。次いでセンサ11のZ方向移動機構45への取り付け位置を、図4(b)に両方向矢印で示すようにZ方向に移動して、ノズル31の先端の垂直位置に対する相対的高さを調整する。すなわち、センサ11の検出位置のZ方向の位置が、センサ11の仕様が定める、平板41の表面からの最適距離において、信号を出力するように、センサ11のZ方向に沿った取り付け位置を調整する。図4(b)では、三角測量法によるセンサ11からのレーザ光12が平板41の表面検出に必要な最適位置に来たときに信号を出力するように、センサ11の取り付け位置や設定を調整することを示す。なお、ステップS150はセンサ11のゼロ調節に対応するので、ステップS150におけるセンサ11の取り付け位置のZ方向の調整は、センサの種類により省略可能である。例えばアナログ出力型のセンサであれば、現在のセンサ11の高さにおけるセンサ11の出力を維持するようにしたり、センサの出力に調整値を加算または減算する(ゲタをはかせる)といった、他の信号処理を採用することも可能である。
【0028】
(f)次にステップS160において、位置制御手段233はZ軸駆動回路54を介して、Z方向移動機構45により、センサ11を引き上げる。このステップS160の動作により、センサ11と同じZ方向移動機構45に固定されるマイクロシリンジ3も同時に引き上げられる。
【0029】
これでステップS1のノズル31の先端位置に対する相対的なセンサ高さを調整する段階を終了して、次のステップS2の表面の凹凸情報の測定を行う段階に移る。
【0030】
<表面の凹凸情報の測定>
(a)あらかじめ、図7のステップS210において、分注対象となる平板41の表面の領域を、ステップS110で先に設定した代表点P(x,y)を含むようにして、分注対象点の間隔によりマス目(例えば1.5mm四方)に区切っておく。次いで各々のマス目の内部に1つずつ分注対象点を設定し、代表点P(x,y)を含めてすべての分注対象点の座標を、座標記憶手段18に保存する。なお、実際にはステップS210は、ステップS1のセンサ11の検出位置の垂直位置の相対的高さを調整する段階に先行して行っても構わない。
【0031】
(b)次にステップS220において、ステップS210で設定された各マス目の分注対象点に対し、以下に説明するステップS221〜S223の手順を繰り返して、ノズルの先端に対する相対的高さが調整されたセンサ11により凹凸情報を逐次得れば、ステップS224において、この凹凸情報を用いて、2次元方向に周期的に配列されたそれぞれの分注対象点におけるノズル31の先端位置の「最適高さ」を規定する分注マップが決定できる。なお、ステップS120で分注試行した代表点P(x,y)については既にノズルの最適高さが決定されているため、不要である。代表点P(x,y)を除き、S210で設定したすべて分注対象点について、ステップS221〜S223の手順を繰り返して行う。
【0032】
(イ)まずステップS221において、位置制御手段233は、Y軸駆動回路55を介してY方向移動機構46によりY方向に水平移動させ、X軸駆動回路56を介してX方向移動機構47によりX方向に水平移動させて、センサ11を平板41に対しXY方向に移動させ、ステップS210で設定された分注対象点のうちの、この回の測定対象とする分注対象点の座標上に配置する。次いでS222において、位置制御手段233は、Z軸駆動回路54を介してZ方向移動機構45により、センサ11を徐々に下ろし、センサ11から信号が出力される高さまで移動する。この時のZ方向移動機構45の高さを、座標値と共に凹凸情報記憶手段19に保存する。
【0033】
(ロ)次いでステップS223において、凹凸測定制御手段236は、すべての分注対象点についての表面の凹凸情報の測定が終了しているか否かを確認する。まだ測定すべき分注対象点が残っているならば、ステップS221へ戻り、次の分注対象点に対する凹凸情報の測定のため、センサ11を配置する。
【0034】
(ハ)全分注対象点について表面の凹凸情報の測定が終了しているならば、ステップS224において、測定された凹凸情報を基礎として、分注マップを作成する。すなわち、ステップS224において、分注マップ作成手段235は、凹凸情報記憶手段19から凹凸情報を読み出し、水平距離記憶手段16から水平距離16を読み出して、凹凸情報を水平距離dだけシフトして、ノズル31の先端が追従すべき分注マップを作成し、分注マップ記憶手段17に格納する。
【0035】
ステップS224が終了すれば、ステップS2の表面の凹凸情報の測定の段階は終了となり、凹凸情報を基礎として、次のステップS3において、ノズル31の先端が追従すべき3次元情報としての分注マップが得られる。
【0036】
<分注>
図8のステップS3は、ステップS2で得られた分注マップに従って、すべての分注対象点に対し、ノズル31の先端の位置を最適高さになるように移動制御して、分注を行う段階である。ただしステップS120で分注試行した代表点P(x,y)については、既に分注が行われているため、代表点P以外のすべての分注対象点について、以下に説明するステップS311〜S316の手順を繰り返し行う。
【0037】
(a)まずステップS311において、位置制御手段233は、Y軸駆動回路55およびX軸駆動回路56を介して、Y方向駆動機構46、X方向駆動機構47を駆動して、マイクロシリンジ3を洗浄液容器9の上へ移動し、Z軸駆動回路54を介してZ方向駆動機構45を駆動してマイクロシリンジ3の位置を下ろし、マイクロシリンジ制御手段234はピストン駆動回路52を介してピストン駆動機構34を駆動し、洗浄液を吸引して上げる。次にステップS312において、位置制御手段233はY軸駆動回路55およびX軸駆動回路56を介して、Y方向駆動機構46およびX方向駆動機構47を駆動して、マイクロシリンジ3を廃液容器10の上へ移動し、マイクロシリンジ制御手段234は駆動回路52を介してピストン駆動機構34を駆動して、洗浄液を排出する。次にステップS313において、位置制御手段233はY軸駆動回路55およびX軸駆動回路56を介して、Y方向駆動機構46およびX方向駆動機構47を駆動して、マイクロシリンジ3を試料容器8の上へ移動し、Z軸駆動回路54を介してZ方向駆動機構45を駆動して下ろし、マイクロシリンジ制御手段234は駆動回路52を介してピストン駆動機構34を駆動して試料溶液を吸引する。このとき吸引する試料溶液の液量は、実際に1点の分注に要する量よりも相当量多い液量である。次いで位置制御手段233はZ軸駆動回路54を介してZ方向駆動機構45を駆動して、マイクロシリンジ3を上げる。
【0038】
(b)次にステップS314において、位置制御手段233は、マイクロシリンジ3を、Y軸駆動回路55を介しY方向移動機構46を駆動させてY方向に水平移動させ、X軸駆動回路56を介しX方向移動機構47を駆動させてX方向に水平移動させ、この回の対象となる分注対象点の上に配置する。次いで分注マップ記憶手段17からノズルの最適高さの情報を読み出し、位置制御手段233はZ軸駆動回路54を介してZ方向移動機構45により、マイクロシリンジ3を、この分注対象点におけるノズル31の先端の最適高さに到達するまで下ろす。このノズル31の最適高さにおいて、マイクロシリンジ制御手段234は駆動回路52を介してピストン駆動機構34を駆動し、図3(a)に示すように試料溶液14を排出する。その後、位置制御手段233はZ軸駆動回路54を介してZ方向移動機構45により、ノズル31を上げる。次いで、ステップS315において、位置制御手段233はY軸駆動回路55およびX軸駆動回路56を介してY方向移動機構46およびX方向移動機構47を駆動させて、ノズル31を廃液容器10の上に水平移動し、マイクロシリンジ制御手段234は駆動回路52を介してピストン駆動機構34を駆動して、マイクロシリンジ3内部に残ったすべての試料溶液を排出する。
【0039】
(c)次いでステップS316において、図2に示す分注制御手段237は、すべての分注対象点について分注が行われたか否かを確認する。まだ分注すべき分注対象点が残っているならば、ステップS311に戻り、次の分注対象点での分注を行う。すべての分注対象点について分注が終了しているならば、ステップS3の分注の段階は終了となり、平板41全体への分注の終了となる。
【0040】
本発明の実施の形態に係る分注方法によれば、代表点P(x,y)においてノズル31の先端の最適高さを決定し、この代表点P(x,y)においてノズル31の先端の垂直位置に対するセンサ11の相対的位置を調整するだけで、その他のすべての分注対象点における凹凸の2次元情報については取得が自動化されるため、平板表面に凹凸が存在しても、スポッティング不能や、平板またはノズルの破損という不具合を防止し、かつ簡便なノズル移動制御が可能となる。
【0041】
(その他の実施形態)
本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって本発明の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る分注システムを示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る分注システムを構成する制御装置を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る分注方法において、ノズルの先端から試料溶液の排出時の、平板の表面との位置関係を説明する模式図である。図2(a)は試料溶液の分注に成功した場合のノズルと平板の位置関係を、図2(b)はノズルの先端が平板の表面から離れ過ぎ、分注不能の状態の位置関係を、図2(c)はノズルの先端が平板の表面に接触し平板を破損する場合の位置関係を、それぞれ示す。
【図4】本発明の実施形態に係る分注方法において、ステップS1のセンサの高さ調整の段階の状態示す模式図である。図4中(a)は代表点でのノズルの先端を最適高さに調整するときの状態を、図4(b)はセンサの検出位置のノズルの先端の垂直位置に対する相対的位置を調整するときの状態を表す。
【図5】本発明の実施の形態に係る分注方法の全体の概略を表すフロー図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る分注方法のうち、センサ検出位置の相対的高さの調整の段階の詳細を表すフロー図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る分注方法のうち、表面の凹凸情報の測定の段階の詳細を表すフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る分注方法のうち、分注の段階の詳細を表すフロー図である。
【符号の説明】
【0043】
1…分注装置
2…制御装置
3…マイクロシリンジ
31…ノズル
32…ピストン
34…ピストン駆動機構
41…平板
42…台
45…Z方向移動機構
46…Y方向移動機構
47…X方向移動機構
8…試料容器
9…洗浄液容器
10…廃液容器
11…センサ
12…レーザ光の光路
14…試料溶液(液滴)
15…最適高さ記憶手段
16…水平距離記憶手段
17…分注マップ記憶手段
18…座標記憶手段
19…凹凸情報記憶手段
23…演算装置(CPU)
231…センサ信号入力手段
232…センサ制御手段
233…位置制御手段
234…マイクロシリンジ制御手段
235…分注マップ作成手段
236…凹凸測定制御手段
237…分注制御手段
51…入出力インターフェイス(I/F)
52…ピストン駆動回路
53…センサ駆動回路
54…Z軸駆動回路
55…Y軸駆動回路
56…X軸駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分注対象となる平板の表面の凹凸を測定し、前記平板上に1次元又は2次元状に周期的に配列された複数の分注対象点毎の、ノズルの先端の最適高さを決定するステップと、
前記ノズルを有するマイクロシリンジを前記分注対象点のいずれかに水平移動する手順と、該いずれかの分注対象点において、対応する前記最適高さへ前記ノズルの先端の位置を垂直移動する手順と、前記最適高さにおいて、前記ノズルから液体試料を前記分注対象点に排出する手順を、前記複数の分注対象点のそれぞれについて繰り返すステップ
とを含むことを特徴とする分注方法。
【請求項2】
前記ノズルの先端の水平位置と、前記凹凸を測定するセンサの検出位置とが、一定の水平距離を介するように、前記マイクロシリンジと前記センサが同一の移動機構に設置され、
前記平板の表面の凹凸を測定するステップが、
前記複数の分注対象点の一つである代表点において、前記センサを用いずに、前記ノズルの先端の最適高さを決定する手順と、
前記センサの検出位置を前記代表点へ水平移動し、前記ノズルの先端の垂直位置に対する前記センサの検出位置の相対的高さを、前記最適高さに前記ノズルの先端が到達した時に、前記センサが信号を出力するように調整する手順、
とを含み、前記相対的高さが調整されたセンサを前記移動機構により移動し、すべての分注対象点の表面凹凸を測定することを特徴とする請求項1に記載の分注方法。
【請求項3】
前記水平距離が、前記水平移動方向に測った前記平板の一辺の長さよりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の分注方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−127711(P2010−127711A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301503(P2008−301503)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発/高効率な抗体分離精製技術の開発」産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】