説明

分注装置およびその制御方法

【課題】生産性を損なうことなしに液体の粘度を計測することができるとともに粘度の異なる液体に対して吐出量のばらつきを抑える分注装置を提供する。
【解決手段】シリンジ1に内包されたピストン2と、前記シリンジ1から突出した前記ピストン2の端面に連結された駆動機構20と、前記シリンジ1吐出口に具備されたプローブ6と、前記駆動機構20を駆動する駆動回路7とを備えた分注装置において、前記プローブ6で液体を吸入する際に前記駆動機構20の動作量から粘度を算出し、前記粘度を前記ピストンの移動量に変換する演算装置9を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を分注する分注装置に係り、特に粘性の異なる液体を分注する際の分注量の正確性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の分注装置は、以下のような構成によって動作している(例えば、特許文献1参照)。
図4において、111はマイクロシリンジポンプで、シリンダ112、ピストン113、パルスモータ114、ラックピニオン機構115等から構成されている。116は液体の種類および分注量に応じたパルス数で前記パルスモータ114を制御する制御回路、117は前記制御回路の信号で前記パルスモータを駆動するための駆動回路、118はパルスモータ114の移動量およびパルス数を決定するための演算部である。以上の構成の分注装置において、種々の液体を吐出する場合、予め液体種は特定されているので、演算部118により、液体種に応じたパルス数および分注量を決定し、それらの値を制御回路116に伝える。制御回路116からパルスモータ制御用の信号が駆動回路117へ信号を送り、駆動回路117からパルスモータ114へ動力信号が送られる。パルスモータ114の回転動作は、ラックピニオン機構115によって回転運動から直動運動へ変換される。ピストン113ではこの直動運動によって、液体を吸入、吐出することになる。
このように、従来の分注装置は、既知の液体に対して、粘性等の物性からパルス数を決定し、パルスモータを動作させているのである。
【特許文献1】特開平4−291159号公報(第3−4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の分注装置は、既知の液体に対して予めパルス数を決定してパルスモータを制御しているので、粘度に差を持つ液体が混在する場合、対応することができないので、吐出量が変動してしまうという問題があった。また、予め液体の粘度を計測しておくという方法も考えられるが、多量の試料の粘度を計測するには長い時間を要するといった問題や工程の増加に伴い生産性が低下するといった問題があった。
また、経時変化によって吐出液成分がプローブ内壁に付着していった場合には、プローブ内径が変化することで吐出量が変動してしまう。その結果、検体と試薬の混合比の割合が変わってしまい、血液検査の精度が低下するという問題があった。さらに、このような問題はわかっていても、実際には使用中のプローブの内径を計測することは困難であるため、対策を施すことができなかった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、生産性を損なうことなしに液体の粘度を計測することができるとともに粘度の異なる液体に対して吐出量のばらつきを抑えるとともに、プローブの内径を計測することなしに、液成分の付着によるプローブ内壁が狭窄していても吐出量のばらつきを抑える分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、シリンジに内包されたピストンと、前記シリンジから突出した前記ピストンの端面に連結された駆動機構と、前記シリンジ吐出口に具備されたプローブと、前記駆動機構を駆動する駆動回路とを備えた分注装置において、前記プローブで液体を吸入する際に前記駆動機構の動作量から粘度を算出し、前記粘度を前記ピストンの移動量に変換する演算装置を備えたものである。
また、請求項2に記載の発明は、シリンジに内包されたピストンと、前記シリンジから突出した前記ピストンの端面に連結された駆動機構と、前記シリンジ吐出口に具備されたプローブと、前記駆動機構を駆動する駆動回路とを備えた分注装置において、前記プローブ内面の液体通達部に抵抗体が配設されたものである。
また、請求項3に記載の発明は、前記抵抗体が、液体が通過するための空洞部を有し、前記空洞の内径が吐出方向へ向かって小さくなった構造であり、前記プローブ内周面に配置されたものである。
また、請求項4に記載の発明は、前記プローブの内周面は、テフロン(登録商標)やシランカップリング剤等の撥水材料で皮膜されたものである。
また、請求項5に記載の発明は、駆動機構によりピストンがシリンジ内を往復移動し、前記シリンジ吐出口に具備されたプローブから液体が吸入および吐出される分注装置の制御方法において、演算装置で前記駆動機構の動作量から粘度を算出し、前記粘度を前記ピストンの移動量に変換するものである。
また、請求項6に記載の発明は、駆動機構によりピストンがシリンジ内を往復移動し、前記シリンジ吐出口に具備されたプローブから液体が吸入および吐出される分注装置の制御方法において、演算装置で前記プローブの初期使用時に計測した前記駆動機構の動作量との差分量を検出し、前記差分量に応じてピストンの移動量を補正するものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1および5に記載の発明によると、液体の吸入時に吐出対象の粘度を計測することができるので、粘度計測用に必要な試料を不要にすることができ、かつ粘度を計測する工程も不要になるので、生産性の低下を防ぐことができ、さらには、粘度の違いによる吐出量のばらつきを低減することができる。
また、請求項2から4に記載の発明によると、吐出時に比べて吸入時の負荷抵抗を大きくすることができるので、粘度検出に使用する駆動回路に流れる電流値は増大し、粘度の検出感度を大きくすることができ、吐出量の安定性を向上させることができる。
また、請求項6に記載の発明によると、液体の吸入時に液成分の付着によるプローブ内径の変化を駆動装置の動作量により検出することができるので、プローブ内径を計測する工程も不要になり、生産性の低下を防ぐことができる。さらには、プローブ内径の違いによる吐出量のばらつきを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の分注装置のシステム構成図である。駆動機構には、回転型磁気式モータ(以下、モータと呼ぶ)と、回転角を直進量に変換する直動変換機構を用い、駆動機構の動作量にモータ電流値を用いて説明する。図において、1はシリンジ、2はピストン、3はモータ、4は回転角検出器(以降、エンコーダ)、5は回転−直動変換機構、6はプローブ、7は駆動回路、8は制御回路、9は演算装置となっている。
本発明が従来技術と異なる部分は、エンコーダとエンコーダ信号をフィードバックし、位置と速度を制御する制御回路を備えた部分である。
駆動機構20は、モータ3の軸には回転−直動変換機構5が取り付けられた構成である。回転−直動変換機構5の他端にはピストン2が取り付けられている。ピストン2はモータ3の回動を回転−直動変換機構5により直動に変換され、シリンジ1内を往復移動し、プローブ6から液の吸引および吐出がされている。ピストン2の移動位置はモータ3に具備したエンコーダ4により検出され、エンコーダ4の位置情報は制御回路8へフィードバックされる。制御回路8では位置・速度制御され、駆動回路7へ電流指令を送る。駆動回路7は、電流指令をもとにモータへ駆動電流が与えられる。また、演算装置9が備えられ、液の吸引時のモータ電流をもとに液の粘度をピストンの移動量へ変換している。
次に、本発明の分注装置に用いたプローブの詳細な構造について説明する。
図2はプローブの断面図である。プローブ6の内部に抵抗体10を配設している。前記抵抗体10は、液体が通過するための空洞部を有し、前記空洞の内径が吐出方向へ向かって小さくした構造である。また、図3はプローブ内周面に撥水性コーティングを皮膜した例である。プローブ6の内面に撥水皮膜11をコーティングしている。撥水皮膜11をコーティングすることにより、液の吸引時には、前記抵抗体を配設しない場合に比べて負荷抵抗が大きくなる。負荷抵抗が大きくなるとモータに流れる電流が大きくなるため、粘度時の検出電流も増加する。撥水皮膜は、テフロン(登録商標)やシランカップリング剤などが溶解した溶液にプローブ6の先端を漬け、加熱処理を行い、一定時間放置したのち、プローブを取り出し乾燥させることで形成させることができる。
このような構造にすることで、液の吸引時には前記抵抗体や撥水皮膜を配設しない場合に比べて負荷抵抗が大きくなり、モータへ流れる電流が大きくなるため、粘度が変化した際の検出電流も増加させることができる。
【0008】
以上の構成の分注装置による分注動作は次のように行われる。
(1)図示しない2つのモータ(以降、昇降モータ・回転モータ)によって、プローブ6の先端を液に近接させる。
(2)シリンジ1の内部容積が増加する方向にピストン2をわずかに動かす。この動作によってプローブ6の先端に微量の空気が吸引される。
(3)前記昇降モータによってプローブ6の先端を液に挿入する。
(4)所定の量だけ液を吸入するようにシリンジ1の内部容積が増加する方向にピストン2を動かす。
(5)モータ駆動の際に得られた電流値データは、演算装置9へ送られて、液を吐出するためのモータの移動量が算出される。
(6)粘性に応じたモータ移動量でモータは制御され、分注される。
このように、所定の量の液を吸引する際に発生する負荷抵抗に相当するトルクが発生するように制御回路7から駆動回路8へ電流指令が送られ、電流指令に見合う電流をモータ3へ流す。したがって、液を吸引する際の駆動回路からモータへの電流を検出することで液の粘性が検出される。ここで、液の粘性と駆動電流の関係は式1の関係から、流量は比例液の粘度ηに反比例し、流入部圧力pと流出部圧力pの差分値にする関係である。流入部圧力pと流出部圧力pの差分値は、モータトルクに関係する項であり、電流に比例する関係にある。この電流値データをもとに演算装置9で粘度が算出される。
Q=C(p−p)/η (1)
Q:流量 η:流体の粘度 p:流入部圧力 p:流出部圧力
C:細管の形状による定数
次に、液の粘度とモータの移動量の関係について説明する。吐出量と粘度には式2に示す粘度をパラメータとした関係がある。求められた吐出量は、シリンジ内径とピストンのストロークの関係から求められる。すなわち、ピストンのストロークは、モータ移動量が求められることになる。
V=f(η) (2)
V:吐出量 f(η):粘度の関数
このように粘性が変化しても吐出量のばらつきの少ない、正確な分注を行うことができる。
【実施例2】
【0009】
次に、本発明の第2実施例を説明する。第2実施例の構成は、第1実施例と同様であるので説明を省略する。本発明が第1実施例と異なる部分は、演算装置で前記プローブの初期使用時に計測した前記駆動機構の動作量との差分量を検出し、前記差分量に応じてピストンの移動量を補正する部分である。
所定の量の液を吸引する際に発生する負荷抵抗に相当するトルクが発生するように制御回路7から駆動回路8へ電流指令が送られ、電流指令に見合う電流をモータ3へ流すことにより、モータを所望の位置へ精度よく動かすことができる。このような構成において、何度も吐出を繰り返した際に、吐出液成分の付着によりプローブが狭窄して内径が小さくなってしまうといった問題が発生した場合には、吸引時の流体抵抗が増加するために駆動電流もまた増加することになる。したがって、液を吸引する際の駆動回路からモータへの電流を検出し、プローブが初期状態の時の電流値との差異を検出することで、プローブ内径の変化を検知することが可能となる。この電流値データの差異をもとに演算装置9にて、ピストンの移動量を補正する。その結果、プローブ内径が変化しても吐出量のばらつきの少ない、正確な分注を行うことができる。
次にモータ移動量の補正方法について説明する。図4はモータ電流値と吐出量の関係図で、予め、内径の異なるプローブを用いて、液吸入時のモータ電流値とピストン移動量を一定にして吐出した時の吐出量を計測し、横軸をモータ電流値、縦軸を吐出量としたものである。この関係図に基づいて液吸引時のモータ電流値と吐出量の回帰式を作成する。実際の液吐出においては、液吸引時のモータ電流を検出し、その電流値と前記回帰式に基づいて吐出量を算出する。モータの移動量と吐出量は比例するので、算出された吐出量と所定の吐出量が一致するようにピストンの移動量を補正する。
ここでは、モータは回転型で説明しているが、モータをリニアモータ、エンコーダをリニアスケールとし、回転−直動変換機構を省略しても同様の効果があるのは自明であり、駆動機構の動作量をモータの電流値として求めたが、圧電式、静電式、電歪式等の電圧を扱うものでも良く、駆動機構の動作量が変化するものであれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施例を示す分注装置のシステム構成図
【図2】本発明の第1実施例を示す分注装置のプローブ断面図
【図3】本発明の第1実施例を示す分注装置のプローブ断面図
【図4】本発明の第2実施例のモータ移動量補正に用いるモータ電流値と吐出量の関係
【図5】従来の分注装置のシステム構成図
【符号の説明】
【0011】
1 シリンジ
2 ピストン
3 モータ
4 エンコーダ
5 回転−直動変換機構
6 プローブ
7 駆動回路
8 制御回路
9 演算装置
10 抵抗体
11 撥水皮膜
20 駆動機構
111 マイクロシリンジポンプ
112 シリンダ
113 ピストン
114 パルスモータ
115 ラックピニオン機構
116 制御回路
117 駆動回路
118 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジに内包されたピストンと、前記シリンジから突出した前記ピストンの端面に連結された駆動機構と、前記シリンジ吐出口に具備されたプローブと、前記駆動機構を駆動する駆動回路とを備えた分注装置において、
前記プローブで液体を吸入する際に前記駆動機構の動作量から粘度を算出し、前記粘度を前記ピストンの移動量に変換する演算装置を備えたことを特徴とする分注装置。
【請求項2】
シリンジに内包されたピストンと、前記シリンジから突出した前記ピストンの端面に連結された駆動機構と、前記シリンジ吐出口に具備されたプローブと、前記駆動機構を駆動する駆動回路とを備えた分注装置において、
前記プローブ内面の液体通達部に抵抗体が配設されたことを特徴とする分注装置。
【請求項3】
前記抵抗体は、液体が通過するための空洞部を有し、前記空洞の内径が吐出方向へ向かって小さくなった構造であり、前記プローブ内周面に配置されたことを特徴とする請求項2記載の分注装置。
【請求項4】
前記プローブの内周面は、テフロン(登録商標)やシランカップリング剤等の撥水材料で皮膜されたことを特徴とする請求項2記載の分注装置。
【請求項5】
駆動機構によりピストンがシリンジ内を往復移動し、前記シリンジ吐出口に具備されたプローブから液体が吸入および吐出される分注装置の制御方法において、
演算装置で前記駆動機構の動作量から粘度を算出し、前記粘度を前記ピストンの移動量に変換することを特徴とする分注装置の制御方法。
【請求項6】
駆動機構によりピストンがシリンジ内を往復移動し、前記シリンジ吐出口に具備されたプローブから液体が吸入および吐出される分注装置の制御方法において、
演算装置で前記プローブの初期使用時に計測した前記駆動機構の動作量との差分量を検出し、前記差分量に応じてピストンの移動量を補正することを特徴とする分注装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−199031(P2007−199031A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20866(P2006−20866)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】