説明

分注装置及び分注方法

【課題】ナノリットル量のような微量の液体を正確に分注できる分注装置を提供することにある。
【解決手段】先端部と基端部とを備える細管2と、細管2への作動液の送出、および、細管から作動液の吸出しが可能なポンプユニット30と、細管2内に充填された作動液の液面の位置を変えて細管内に所望量の液体を吸い上げ、吸い上げた液体を吐出させるようにポンプユニット30を制御するコントローラ60とを備える分注装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料溶液等の液体を所望量吸い上げ、吸い上げた液体を分注位置に吐出する分注装置及び分注方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、核酸やタンパク質、ペプチドなど生体試料や創薬試料のハイスループットスクリーニングや、ゲノミクス、プロテオミクスなどの網羅的生体活動解析に対するニーズが高まっていると共に、取り扱う試料も生体関連物質など不安定な性状の検体が多くなっている。このような技術分野では、複数種類の試料溶液をスライドガラスなどの基板上の数センチ四方という狭小領域に高密度に迅速に分注できる自動分注装置が必要とされている。
【0003】
自動分注装置は、一般的には、ピペットチップ等のノズルを複数備えた分注ヘッドを備え、この分注ヘッドのノズルにより試料溶液溜めから試料溶液を分取する工程と、基板上の所定の位置にノズルから分取した試料溶液を分注する工程と、その後にノズルを洗浄、又は、未使用の新たなノズルに交換する工程とを自動で行う。
【0004】
試料溶液を収容する試料溶液溜めとしては、96個、384個、又は1536個のウェルをもつ標準のマイクロタイタープレートが通常用いられている。これらのマイクロタイタープレートには各ウェルが9mm、4.5mm、又は、2.25mmの配列ピッチで配列されている。
【0005】
一方、基板上へ分注する際の分注間隔は数十μmから数百μmである場合が多い。そのためマイクロタイタープレートなどの試料溶液溜めに収容された試料溶液を基板上へ分注するには、分注ヘッドのノズルの配列ピッチを変更する必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1、特許文献2等は、分注ヘッドのノズルの配列ピッチを変更できるピッチ可変機構を開示している。
【0007】
しかしながら、これらのピッチ可変機構は、ノズル全体を移動させてノズルの配列ピッチを変更するため、ピッチの狭小化には限界がある。このため、数十μmから数百μmの分注間隔に対応するのは困難である。
【0008】
また、上記のような技術分野においては、最低限マイクロリットル単位で分注量をコントロールする必要があり、さらに、ナノリットル単位の極めて微量な分注量のコントロールも必要とされている。
【0009】
しかしながら、従来の自動分注装置では、ナノリットル単位で分注量を精度良くコントロールすることは困難であった。
【0010】
【特許文献1】特開2001−99847号公報
【特許文献2】特開2001−211873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ナノリットル単位のような微量の液体を精度良く分注できる分注装置及び分注方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、液体を狭小領域に高密度でかつ迅速に分注することができる分注装置及び分注方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の分注装置は、先端と基端とを備える細管と、前記細管の基端を通じて、前記細管内へ作動液を送出し、当該細管内から前記作動液を吸い出すポンプユニットと、前記細管内に充填された前記作動液の液面の位置を変えて、前記先端から当該細管内に所望量の液体を吸い上げ、かつ、前記吸い上げた液体を当該先端から吐出させるように前記ポンプユニットを制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の分注方法は、先端と基端とを備える細管と、前記細管の基端を通じて、前記細管内へ作動液の送出し、当該細管内から前記作動液を吸出するポンプユニットとを用いた分注方法であって、前記細管内、および、前記ポンプユニット内に作動液を充填するステップと、前記ポンプユニットを制御して前記細管内の前記作動液の液面の位置を当該細管の先端から所定距離の位置に調整するステップと、前記液面の位置を調整した後に、前記細管内の先端を液体に浸漬しながら、前記ポンプユニットの制御により前記作動液の液面の位置を変更して所望量の前記液体を当該細管内に吸い上げるステップと、前記細管内の先端を前記液体から取り出した後、前記ポンプユニットの制御により前記作動液の液面の位置を変更して当該細管内に吸い上げた前記液体を前記細管の先端から所定箇所に吐出するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細管内に充填した非圧縮性の作動液の液面位置を制御して液体を吸い上げ、これを吐出するので、微量の液体を精度良く分注できる。
【0016】
また、本発明によれば、細管の撓みを利用して分注ピッチを変更するので、液体を狭小領域に高密度でかつ迅速に分注することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
発明の詳細な説明
以下、本発明の実施形態について、図を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る分注装置の概略構成図である。
【0019】
この分注装置は、複数の細管2を保持する分注ヘッド1、分注ヘッド1を移動し位置決めする移動機構25、ポンプユニット30、コントローラ60、作動液タンク70、及び、分注ヘッド1の下方に配置されたテーブル100を有する。テーブル100には、廃液溜め110、洗浄液溜め120、アルコール溜め121、ブロワー122、マイクロタイタープレート130、ホルダ140、切断装置150が設けられている。
【0020】
図2(a)は分注ヘッド1の斜視図であり、図2(b)は図2(a)の円IIB内の拡大図である。
【0021】
分注ヘッド1は、規則的に一列に配列された複数の細管2、これらの細管2の先端側をガイドして当該細管2の先端部の配列ピッチを規定するための下側ガイド部材10、下側ガイド部材10の上方に配置されて複数の細管2が直線状に保持されるように下側ガイド部材10と協働して細管2をガイドする複数の上側ガイド部材8、これらガイド部材8及び10を支持すると共に等間隔に配列された複数の可動フレーム7、及び、これらの可動フレーム7を移動させて複数の細管2の先端部の配列ピッチを変更させるピッチ可変機構4を有する。
【0022】
図3は、ピッチ可変機構4の構造示す背面図である。
【0023】
ピッチ可変機構4は、図2及び図3に示すように、並行に配列されるとともにその両端部が下部フレーム6bに回転自在に支持された複数のねじ軸14、複数の可動フレーム7とそれぞれ連結されるとともに複数のねじ軸14にそれぞれ螺合する複数の可動部材13、複数のねじ軸14の端部にそれぞれ固定されたプーリ15〜21、ねじ軸14−1のプーリ15に回転トルクを入力するモータ12、モータ12の出力軸に固定されたプーリ11、および、上記プーリ11、15〜21に巻回された複数のプーリベルトBを有する。
【0024】
各ねじ軸14は、長手方向の中央位置から一方側にねじ部14aが形成され、他方側にねじ部14bが形成されている。このねじ部14aとねじ部14bとはピッチは同じであるが向きが互いに逆となっている。各ねじ軸14−1〜14−4のねじ部14aとねじ部14bとにそれぞれ螺合している可動部材13−1a〜13−4aと13−1b〜13−4bとは、各ねじ軸14の長手方向の中央位置に関して対称な位置にそれぞれ配置されている。また、可動部材13−1a〜13−4aは、可動フレーム7−1a〜7−4aにそれぞれ連結され、可動部材13−1b〜13−4bは、可動フレーム7−1b〜7−4bにそれぞれ連結されている。
【0025】
プーリ16とプーリ17の直径の比は3:1、プーリ18とプーリ19の直径の比は5:3、プーリ20とプーリ21の直径の比は7:5に設定されている。このため、ねじ軸14−1,14−2,14−3及び14−4の間の回転速度の比率は、1:3:5:7となる。
【0026】
ねじ部14aとねじ部14bとは向きが互いに逆となっているため、ねじ部14aに螺合する可動部材13−1a〜13−4aは、ねじ部14bに螺合する可動部材13−1b〜13−4bとは逆の方向にそれぞれ移動する。また、共通のねじ軸14に螺合する2つの可動部材13−1a,13−1b〜13−4a,13−4bは、モータ12の回転方向に応じて、互いに接近又は離隔する。さらに、各ねじ軸14−1〜14−4にそれぞれ螺合している可動部材13の移動量の比率は、1:3:5:7となる。
【0027】
このピッチ可変機構4においては、可動フレーム7−1aと7−1bとがある距離xだけ移動して可動フレーム7−1aと7−1bとのピッチが距離2xだけ変化すると、可動フレーム7−2a及び7−2bは3x、可動フレーム7−3a及び7−3bは5x、可動フレーム7−4a及び7−4bは7xだけ移動する。この結果、可動フレーム7の間のピッチを自由に変更できると共に、隣り合う可動フレーム7の間の各間隔を等しく維持することができる。
【0028】
下側ガイド部材10は、その基端部が可動フレーム7の下端部に水平方向に延在するように固定されていると共に、先端部に細管2が挿通するガイド孔10aをそれぞれ備えている。また、下側ガイド部材10は、共通の平面内に配置されているが、先端部のガイド孔10a間のピッチを最小にしたときに、互いに干渉しない形状に形成されている。
【0029】
上側ガイド部材8は、基端部が可動フレーム7の中途に固定され水平方向に延在していると共に、先端部に細管2が挿通されるガイド孔8aを備える。ガイド孔8aは、下側ガイド部材10のガイド孔10aにそれぞれ対応する位置に配置されている。また、上側ガイド部材8は、ガイド孔8a間のピッチを最小にしたときに互いに干渉するのを避けるために、可動フレーム7へ固定される高さがそれぞれ異なる。
【0030】
細管2は、液体が流通する流路を備え、可撓性を有するように、ステンレス、溶融石英ガラス、合成石英ガラス等の材料から形成される。細管2の内径は、微量の分注量を実現するためには、マイクロメータオーダーからナノメータオーダーの範囲内に設定される。しかし、このような範囲に限定されるわけではない。細管2の内径、外径、長さなどの寸法は、細管2を用いて分注する液体の量等に応じて最適化される。
【0031】
細管2は、図2に示すように、上部フレーム6a上に配列された複数の管継手51と基端部が接続され、上部フレーム6aから下方に延在し、上側ガイド部材8のガイド孔8a及び下側ガイド部材10のガイド孔10aに挿通され、先端部は自由端となっている。この細管2は、ガイド孔8a及びガイド孔10aによりガイドされることにより、ガイド孔10aよりも下方部分が直線状に保たれている。細管2には、細管2の先端部分の高さを規定するために、ガイド部材8に対する細管2の動きを規制するストッパ90が取り付けられている。なお、ストッパ90の取り付け位置はこれに限定されるわけではなく、適宜変更可能である。
【0032】
図4(a)は、細管2の先端部の構造の一例を示す断面図である。
【0033】
細管2の外周面には、補強用膜3がコーティングされている。この補強用膜3は、例えば、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などで形成されている。補強用膜3を細管2の外周面にコーティングすることにより、細管2が塑性変形するのを抑制するとともに、細管2の復元力を高めることができる。
【0034】
図4(b)は、細管の先端部の構造の他の例を示す断面図である。
【0035】
図4(b)に示すように、細管2の先端部の内径が徐々に減少するように形成することも可能である。これにより、細管2の先端に形成される液滴を小さくすることができる。
【0036】
さらに、細管2の少なくとも先端部に疎水処理を施して、細管2の先端に付着した液体の分離を促進させることができる。疎水処理は、細管2の内周面及び/又は外周面への化学修飾、シラン化処理、フッ素樹脂コーティングなどである。
【0037】
細管2は、図1及び図2に示すように、管継手51を介して接続管50に接続されている。接続管50は、三方弁80を介してポンプユニット30に接続されている。
【0038】
接続管50は、可撓性を有し、例えば、PEEK(ポリエーテル エーテル ケトン)樹脂で形成されている。PEEK樹脂で接続管50を形成することにより、分注ヘッド1を移動させるために必要な可撓性が接続管50に付与されるとともに、分注の際に接続管50に作用する作動液の圧力により接続管50が変形するのを極力抑制できる。この結果、分注量を正確にコントロールすることが可能となる。
【0039】
移動機構25は、図1に示すように、分注ヘッド1と連結された可動部材27を移動可能に保持するフレーム26と、水平方向に設けられたレール29と、フレーム26を保持するとともにレール29に沿って移動可能に設けられたスライダ28とを有する。
【0040】
フレーム26は、可動部材27を垂直方向に移動させるモータ等から構成される機構を内蔵している。
【0041】
スライダ28は、レール29に沿って移動するためのモータ等から構成される機構を内蔵している。
【0042】
ポンプユニット30は、複数のシリンジポンプ32と、シリンジポンプ32を駆動するアクチュエータ40とを備える。
【0043】
シリンジポンプ32は、シリンジバレル34と、このシリンジバレル34の内周に移動自在に嵌合するプランジャチップ36と、このプランジャチップ36に接続されたプランジャロッド38とを含む。
【0044】
シリンジバレル34は、接続管53を介して三方弁80に接続されている。
【0045】
また、複数のシリンジバレル34は、図5に示すように、共通の支持部材SM1により支持され、複数のプランジャロッド38は共通の可動板46に連結されている。
【0046】
アクチュエータ40は、回転自在に支持されたねじ軸42と、このねじ軸42がねじ込まれるとともに上記した可動板46に連結された可動部材44と、ねじ軸42を回転させるステッピングモータ48を含む。
【0047】
ステッピングモータ48は、コントローラ60からの制御指令に応じた駆動電流がドライバ62から供給されることにより駆動される。ステッピングモータ48が駆動されると、可動板46が移動し、プランジャロッド38が前進又は後退する。
【0048】
三方弁80には、接続管50、シリンジバレル34に通じる接続管53、及び作動液71を貯留する作動液タンク70に通じる導管72が接続されている。三方弁80は、電磁式又は電動式であり、コントローラ60からの制御指令に応答して、接続管53と接続管50との間および接続管53と導管72との間を選択的に接続する。
【0049】
作動液71は、非圧縮性の液体であり、好適には水である。
【0050】
廃液溜め110は、細管2から排出される廃液を収容する。
【0051】
洗浄液溜め120は、細管2の先端部を洗浄するための水等の洗浄液を収容している。
【0052】
アルコール溜め121は、細管2の先端部を洗浄するためのアルコールを収容している。
【0053】
ブロワー122は、細管2の先端に付着した液体を吹き飛ばすために、乾燥した不活性ガス、好適には、窒素ガスを吹き出す。
【0054】
マイクロタイタープレート130は、複数のウェルを備え、各ウェルに試料溶液が収容される。
【0055】
ホルダ140は、試料溶液を分注すべきスライドガラス160を保持する。
【0056】
切断装置150は、例えば、レーザ光線や切刃を用いて細管2の先端部を切断する。例えば、分注後に細管2の先端部を切断することにより、細管2の先端部の洗浄を不要化することができる。また、複数の細管2の先端の位置を揃えることができる。
【0057】
コントローラ60は、プロセッサ、メモリなどのハードウエアと所要のソフトウエアで構成される。コントローラ60は、ドライバ62にパルス指令を与えることによりステッピングモータ48を制御する。また、コントローラ60は、三方弁80に制御指令を与えて、三方弁80を作動させる。さらに、コントローラ60は、移動機構25に対して制御指令を与えて、分注ヘッド1の位置をコントロールする。
【0058】
次に、上記した分注装置による分注動作の一例について、図6〜図14を参照して説明する。なお、分注装置の一連の動作は、コントローラ60により制御される。
【0059】
細管2、接続管50、シリンジポンプ32内に作動液71を充填するために、図6に示すように、移動機構25により分注ヘッド1を移動させて、細管2の先端部を廃液溜め110内に位置決めする。
【0060】
細管2、接続管50、シリンジポンプ32内に作動液71を充填するには、先ず、三方弁80を制御してシリンジポンプ32と導管72とを連通させる。
【0061】
次いで、ステッピングモータ48を駆動してプランジャチップ36を後退させ、作動液タンク70から作動液71をシリンジバレル34内へ吸い上げる。
【0062】
次いで、三方弁80を制御してシリンジポンプ32と接続管50とを連通させるとともに、ステッピングモータ48を駆動してプランジャチップ36を前進させ、シリンジバレル34内の作動液71を接続管50及び細管2へ送出する。
【0063】
作動液71のシリンジバレル34内への吸い上げ、及び、作動液71のシリンジバレル34から接続管50及び細管2への送出を必要な回数だけ繰り返すことにより、図7(a)に示すように、細管2の先端から廃液溜め110に作動液71が排出される。このとき、細管2、接続管50及びシリンジポンプ32に存在する空気も作動液71とともに外部に排出される。この結果、接続管50及び細管2の全てに作動液71が満たされる。
【0064】
次に、ステッピングモータ48を駆動してプランジャチップ36を後退させて、図7(b)に示すように、細管2内の作動液71の液面71fの位置を上昇させ、細管2内に空隙AGを形成する。このとき、細管2の先端から液面71fまでの長さが所定長L0になるように、液面71fの位置は制御される。所定長L0は、例えば、数ミリメートルから数センチメートルの範囲に設定される。
【0065】
細管2内の作動液71の液面71fの位置を調整したのち、分注ヘッド1における細管2の配列ピッチをマイクロタイタープレート130のウェル131の配列ピッチに対応するように調整する。そして、図8及び図9に示すように、分注ヘッド1をマイクロタイタープレート130に向けて移動させてマイクロタイタープレート130の所望のウェル131内に細管2の先端を位置決めする。この結果、細管2の先端は、図10(a)に示すように、ウェル131内に収容された試料溶液132内に浸漬される。
【0066】
次いで、ステッピングモータ48を駆動してプランジャチップ36を後退させて、細管2内の作動液71の液面71fの位置を上昇させて所望量の試料溶液132を細管2内に吸い上げる。試料溶液132を細管2内に吸い上げる際には、図10(a)に示すように、細管2内に吸い上げた試料溶液132と細管2内の作動液71の液面71fとの間には空隙AGが介在する。これにより、試料溶液132に作動液71が混入することがない。
【0067】
所望量の試料溶液132を細管2内に吸い上げるために、図10(b)に示すように、細管2の先端から細管2内の作動液71の液面71fまでの距離が所定長L1となるように、液面71fの位置が制御される。これにより、試料溶液132が正確に計量される。
【0068】
次いで、分注ヘッド1を移動機構25により移動させて、細管2をマイクロタイタープレート130のウェル131から取り出し、図11に示すように、細管2をスライドガラス160上に位置決めする。このとき、図12に示すように、スライドガラス160の分注ピッチに合わせて、細管2の先端側の配列ピッチを狭小化する。これにより、細管2は、ガイド部材8および10によりガイドされた部分は、直線状に保たれるが、ガイド部材8より上側部分は撓む。この細管2の撓みが細管2の先端側の配列ピッチの調整を可能にする。
【0069】
次いで、ステッピングモータ48を駆動してプランジャチップ36を前進させて、細管2内の作動液71の液面71fの位置を下降させ、細管2内に吸い上げた試料溶液132をスライドガラス160上に吐出する。図13に示すように、試料溶液132の液滴132dが複数の細管2から同時にスライドガラス160上に分注される。試料溶液132を吐出した後の細管2内の作動液71の液面71fの位置は、空隙AG1が形成されるように制御され、作動液71がスライドガラス160上に落下することはない。
【0070】
試料溶液132をスライドガラス160上に吐出した後に、細管2の先端を洗浄する。
【0071】
細管2の先端を洗浄するには、分注ヘッド1を移動機構25により移動させ、図6に示したように、細管2の先端部を廃液溜め110内に位置決めする。そして、細管2内の作動液71の一部を細管2の先端から吐出させて細管2内を洗浄する。
【0072】
次いで、分注ヘッド1を移動機構25により移動させ、図14に示すように、細管2の先端部を洗浄液溜め120内に移動し、洗浄液を用いて細管2の先端外周を洗浄する。その後、細管2をアルコール溜め121に位置決めしてアルコールで洗浄する。最後に、細管2をブロワー122に位置決めし、細管2の先端部122を乾燥させる。
【0073】
分注装置に上記のような動作を繰り返し実行させることにより、必要な数の試料溶液132の液滴がスライドガラス160上に縦横に分注される。
【0074】
上記実施形態では、1回の分注に必要な試料溶液132を細管2内に吸い上げて、吸い上げた試料溶液132の全てをスライドガラス160上に吐出させる構成としたが、本発明はこれに限定されない。複数回の分注に必要な試料溶液132を細管2内に一度に吸い上げ、吸い上げた試料溶液132をスライドガラス160上に複数回に分けて続けて吐出させるようにコントローラ60がポンプユニット30を制御することも可能である。この場合には、スライドガラス160に必要数の溶液132の液滴をより迅速に分注することができる。
【0075】
次に、本実施形態に係る分注装置の分注精度に関する測定結果を図15〜図18を参照して説明する。
【0076】
使用した細管2は、外径360μm、内径150μm、長さが約20cmである。
【0077】
図15は、ピッチ2mm、100ナノリットルの分注量で8×25の配列のスポットを形成したスライドガラスを示している。図16は、ピッチ1mm、50ナノリットルの分注量で8×50の配列のスポットが形成されたスライドガラスを示している。図17は、ピッチ1mm、20ナノリットルの分注量で8×50の配列のスポットが形成されたスライドガラスを示している。
【0078】
図15〜図17に示すスライドガラス上の共通の細管から分注された25個又は50個のスポットの分注量をそれぞれ測定し、分注誤差を算出した。
【0079】
この結果を図18に示す。図18において、分注誤差は、2.0ナノリットル以下、変動係数で5%以下に収まっているのが分かる。
【0080】
市販されている従来の分注装置の分注誤差は、各社の製品カタログの記載によれば、1〜10マイクロリットルの分注時で50〜250ナノリットル程度ある。したがって、本発明の分注装置によれば、飛躍的に分注量の精度を改善することができる。
【0081】
上記実施形態では、複数の細管2を一列に配列した場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図19に示すように、マイクロタイタープレート130の縦横に配列されたウェル131に対応する数の細管2を分注ヘッド(図示せず)に設ける。さらに分注ヘッドには、縦横に配列された複数の細管2のピッチを変更できるピッチ可変機構(図示せず)を設ける。このピッチ可変機構としては、例えば、国際公開番号WO2008/007556、特開2001−99847号公報等に開示されたものを使用することも可能である。このような構成において、細管2の配列ピッチを狭小化すれば、スライドガラス160上の狭小な領域に多数の液滴が一括して縦横に配列されるように分注することが可能になる。
【0082】
上記した実施形態では、ポンプとしてシリンジポンプを用いたが、これに限定されるわけではなく、例えば、チュービングポンプ、スクリューポンプ、ギアポンプ等の他のポンプを用いることも可能である。また、上記実施形態では、全てのポンプを一括して動作させたが、個別に駆動することも可能である。
【0083】
上記した実施形態では、回転モータの回転運動を直線運動に変換するアクチュエータを用いた場合を説明したが、リニアモータ等のリニアアクチュエータを用いることも可能である。また、三方弁80の動作など、動作の一部を手動とすることも可能である。
【0084】
上記実施形態では、分注ヘッドを移動させる移動機構として、水平方向及び垂直方向の移動が可能なものについて説明したが、これに限らず、三次元移動機構を採用することも可能である。
【0085】
上記実施形態では、分注ヘッドを移動させる場合について説明したが、分注ヘッドを固定し、マイクロタイタープレートやスライドガラスを保持するテーブルを移動させることも可能である。
【0086】
上記実施形態では、複数の細管の先端の配列ピッチを縮小させた場合について説明したが、複数の細管の先端の配列ピッチを拡大することも可能である。
【0087】
上記実施形態では、複数の細管を備える装置の場合を説明したが、これに限定されるわけではなく、単一の細管でもよい。この場合には、ピッチ可変機構に代えて、単一の細管の先端の位置および高さを変更させる移動機構を採用できる。
【0088】
上記実施形態では、ガイド部材として第1及び第2のガイド部材を用いた場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、細管の先端の位置を規定すると共に細管の先端部分を直線状に保つ共通のガイド部材を用いることも可能である。
【0089】
上記実施形態では、複数の細管の基端が、所定の配列ピッチで配列された場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、複数の細管の基端をランダムな位置に固定し、複数の細管の先端を所定の配列ピッチで配列することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施形態に係る分注装置の概略構成を示す図である。
【図2】(a)、図1の分注装置における分注ヘッドの斜視図であり、(b)は(a)のガイド部材の先端部周辺の拡大図である。
【図3】図2の分注ヘッドに備わるピッチ可変機構の背面図である。
【図4】(a)は、細管の先端部の構造の一例を示す断面図であり、(b)は、細管の先端部の構造の他例を示す断面図である。
【図5】シリンジポンプの構造を示す斜視図である。
【図6】図1の分注装置の細管を廃水溜めに移動させた状態を示す図である。
【図7】(a)は、細管に作動液を充填する際の細管の先端部の断面図であり、(b)は、細管内の作動液の液面の位置を細管の先端から所定距離の位置に調整する際の細管の先端部の断面図である。
【図8】図1の分注装置の細管をマイクロタイタープレートに移動させて試料溶液を吸い上げる状態を示す図である。
【図9】図8に示す分注装置の分注ヘッドの状態を示す斜視図である。
【図10】(a)は、細管内に試料溶液を吸い上げる際の細管の先端部の断面図であり、(b)は、細管内への試料溶液の吸い上げが完了した際の細管の先端部の断面図である。
【図11】図1の分注装置の細管をスライドガラス上に移動させて分注する状態を示す図である。
【図12】図11に示す分注装置の分注ヘッドの状態を示す斜視図である。
【図13】細管内に吸い上げた試料溶液を吐出した際の細管の先端部の断面図である。
【図14】図1の分注装置の細管を洗浄液溜めに移動させた状態を示す図である。
【図15】図1の分注装置により試料溶液を一の条件で分注したスライドガラスを示す図である。
【図16】図1の分注装置により試料溶液を他の条件で分注したスライドガラスを示す図である。
【図17】図1の分注装置により試料溶液をさらに他の条件で縦横に分注したスライドガラスを示す図である。
【図18】図15ないし図17に示す結果に基づく分注量と分注誤差の関係を示す表である。
【図19】本発明の他の実施形態に係る分注ヘッドの概念を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0091】
1…分注ヘッド
2…細管
3…補強用膜
6…上部フレーム
7…可動フレーム
8…上側ガイド部材
10…下側ガイド部材
8a、10a…ガイド孔
11、15〜21…プーリ
12…モータ
13、27、44…可動部材
14、42…ねじ軸
25…移動機構
26…フレーム
28…スライダ
29…レール
30…ポンプユニット
32…シリンジポンプ
34…シリンジバレル
36…プランジャチップ
38…プランジャロッド
40…アクチュエータ
46…可動板
48…ステッピングモータ
50…接続管
51…管継手
53…接続管
60…コントローラ
62…ドライバ
70…作動液タンク
71…作動液
71f…液面
72…導管
80…三方弁
90…ストッパ
100…テーブル
110…廃液溜め
120…洗浄液溜め
121…アルコール溜め
122…ブロワー
130…マイクロタイタープレート
140…ホルダ
150…切断装置
131…ウェル
132…試料溶液
160…スライドガラス
AG…空隙
B…プーリベルト
L0…所定長
SM1…支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端と基端とを備える細管と、
前記細管の基端を通じて、前記細管内へ作動液を送出し、当該細管内から前記作動液を吸い出すポンプユニットと、
前記細管内に充填された前記作動液の液面の位置を変えて、前記先端から当該細管内に所望量の液体を吸い上げ、かつ、前記吸い上げた液体を当該先端から吐出させるように前記ポンプユニットを制御する制御手段と
を備えることを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記先端から細管内に吸い上げた液体と当該細管内の作動液の液面との間に空隙が介在するように、前記作動液の液面の位置を制御することを特徴とする、請求項1に記載の分注装置。
【請求項3】
前記制御手段は、複数回の分注に必要な量の液体を前記先端から細管内に一度に吸い上げ、吸い上げた前記液体を所望量ずつ前記先端から複数回に分けて吐出させるように前記ポンプユニットを制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の分注装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記先端から細管内に吸い上げた液体の全部を吐出させた後に、前記細管内の作動液の一部を前記先端から吐出させることを特徴とする請求項2又は3に記載の分注装置。
【請求項5】
前記作動液は、非圧縮性の液体であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の分注装置。
【請求項6】
前記細管から前記ポンプユニットまで作動液を充填するための充填ユニットをさらに備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の分注装置。
【請求項7】
前記充填ユニットは、前記作動液の供給源と、前記細管と、前記ポンプユニットにそれぞれ連通する三方弁を有することを特徴とする請求項6に記載の分注装置。
【請求項8】
前記細管は可撓性を有し、前記細管の基端は所定位置に固定され、前記細管の先端の位置及び高さは変更可能になっていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の分注装置。
【請求項9】
前記細管の先端の位置を規定するためのガイド部材をさらに有することを特徴とする請求項8に記載の分注装置。
【請求項10】
前記細管の少なくとも先端部分を直線状に保つためのガイド部材をさらに有することを特徴とする請求項8又は9に記載の分注装置。
【請求項11】
前記細管の先端の高さを規定するために、前記細管の少なくとも先端部分の高さ方向の移動を規制するストッパをさらに有することを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載の分注装置。
【請求項12】
前記細管の先端の位置および高さを変更する移動機構をさらに有することを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の分注装置。
【請求項13】
前記細管は複数配列され、
前記複数の細管の先端の配列ピッチは、変更可能であることを特徴とする請求項8に記載の分注装置。
【請求項14】
前記複数の細管の基端は、所定の配列ピッチで配列され、
前記複数の細管の先端の配列ピッチは、縮小又は拡大可能になっていることを特徴とする請求項8に記載の分注装置。
【請求項15】
前記複数の細管の先端の配列ピッチを規定するための複数のガイド部材をさらに有することを特徴とする請求項14に記載の分注装置。
【請求項16】
前記複数の細管の先端の配列ピッチを規定するために前記複数の細管をそれぞれ案内する複数の第1のガイド部材と、
前記第1のガイド部材と協働して前記細管を直線状に保つように前記細管をガイドする複数の第2のガイド部材と、
を有することを特徴とする請求項14又は15に記載の分注装置。
【請求項17】
前記複数のガイド部材を移動させて前記複数の細管の先端の配列ピッチを変更させるピッチ可変機構をさらに有する請求項15又は16に記載の分注装置。
【請求項18】
前記ピッチ可変機構は、前記複数のガイド部材にそれぞれ連結された複数の可動部材と、
互いに並行に配列されるとともに回転自在に支持され、ねじの向きが互いに逆向きで、かつ、前記複数の可動部材の各々に螺合する第1及び第2のねじ部を有する複数のねじ軸と、
隣り合う前記ねじ軸間で回転トルクを伝達するための複数の回転伝達機構と、
前記複数のねじ軸の1つに回転トルクを入力するモータとを備えている、
ことを特徴とする請求項17に記載の分注装置。
【請求項19】
前記細管と前記ポンプユニットとを接続する可撓性の接続管をさらに含み、
前記接続管は、PEEK(ポリエーテル エーテル ケトン)から形成されている、ことを特徴とする請求項1ないし18のいずれかに記載の分注装置。
【請求項20】
前記ポンプユニットは、複数のポンプと、前記複数のポンプを共通に駆動するアクチュエータとを有することを特徴とする請求項1ないし19のいずれかに記載の分注装置。
【請求項21】
前記ポンプは、シリンジポンプであることを特徴とする請求項20に記載の分注装置。
【請求項22】
前記細管は、その復元力を付与又は強化するために、少なくとも先端部に樹脂がコーティングされている、ことを特徴とする請求項1ないし21のいずれかに記載の分注装置。
【請求項23】
前記細管は、前記液体の分離を促すべく、少なくとも先端部に疎水処理が施されている、ことを特徴とする請求項1ないし22のいずれかに記載の分注装置。
【請求項24】
前記細管は、先端部の内径が先細りに形成されている、ことを特徴とする請求項1ないし23のいずれかに記載の分注装置。
【請求項25】
前記細管の先端部を切断する切断ユニットをさらに備えることを特徴とする請求項1ないし24のいずれかに記載の分注装置。
【請求項26】
先端と基端とを備える細管と、前記細管の基端を通じて、前記細管内へ作動液の送出し、当該細管内から前記作動液を吸出するポンプユニットとを用いた分注方法であって、
前記細管内、および、前記ポンプユニット内に作動液を充填するステップと、
前記ポンプユニットを制御して前記細管内の前記作動液の液面の位置を当該細管の先端から所定距離の位置に調整するステップと、
前記液面の位置を調整した後に、前記細管内の先端を液体に浸漬しながら、前記ポンプユニットの制御により前記作動液の液面の位置を変更して所望量の前記液体を当該細管内に吸い上げるステップと、
前記細管内の先端を前記液体から取り出した後、前記ポンプユニットの制御により前記作動液の液面の位置を変更して当該細管内に吸い上げた前記液体を前記細管の先端から所定箇所に吐出するステップと
を有することを特徴とする分注方法。
【請求項27】
前記細管に吸い上げた液体を全て吐出した後に、前記細管内の作動液の一部を前記細管の先端を通じて吐出させて前記細管内を洗浄するステップをさらに有することを特徴とする請求項26に記載の分注方法。
【請求項28】
前記細管に吸い上げた液体を全て吐出した後に、前記液体に触れた前記細管の先端部を切断するステップをさらに有することを特徴とする請求項26に記載の分注方法。
【請求項29】
前記分注装置は、前記細管及び前記ポンプユニットが複数設けられ、
前記複数の細管は可撓性を有し、
前記吐出するステップは、前記複数の細管を撓ませて当該複数の細管の先端の配列ピッチを狭小化するステップをさらに有することを特徴とする請求項26ないし28のいずれかに記載の分注方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−186455(P2009−186455A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258958(P2008−258958)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月29日〜31日 社団法人 日本分析機器工業会主催の「2007分析展」に出品
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(508128118)株式会社シーエーエヌ (1)
【Fターム(参考)】