説明

分注装置

【課題】容易にピペットの先端に残存する液滴を除去可能な分注装置を提供する。
【解決手段】回収部62Aには、Y方向(分注ノズル20Aの並び方向)に沿って、液滴除去部材64が配置されている。液滴除去部材64は、回収部62Aの測定部30から遠い側の内壁を構成している。液滴除去部材64には、回収部62Aへ向かって低くなる傾斜面64Aが構成されている。傾斜面64Aの上部は、回収タンク62の上端から上へ突出している。ピペットチップCPの先端に残留する液滴は、傾斜面64Aに接触させられることにより、傾斜面64A側へ付着して、ピペットチップCPから除去される。傾斜面64A側へ付着した液滴は、下方へ流れ、回収部62Aに回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットを用いて液体の分注を行う分注装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体の試料等を反応用の測定チップへ分注するための各種分注装置が提案されている(特許文献1参照)。この分注装置においては、ピペット内に液体を吸引し、吸引したピペット内の液体を測定チップへ吐出して供給することにより分注が行われる。
【0003】
ところで、ピペットは、内部の液体を所定の測定チップへ供給した後、他の液体を吸引することになるが、ピペットの先端には吐出した液体の液滴が付着したままになることがある。このように液滴が付着したままで異なる種類の液体を吸引すると、吸引元の液体に前の液体が混入してしまうという不都合が生じる。
【特許文献1】特開2003−312411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、容易にピペットの先端に残存する液滴を除去可能な分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の分注装置は、先端に液体の吐出及び吸引を行う吐出口が形成され、駆動機構により駆動されるピペットと、前記ピペットの先端に残留した液滴を接触させ、前記液滴を前記ピペットから除去する液滴除去部材と、前記液滴除去部材により除去された液体を回収する回収部の構成された液体回収部材と、を含んで構成されている。
【0006】
請求項1の分注装置では、駆動機構により駆動されるピペットの先端から液体の吐出及び吸引が行われる。液体の吐出後、ピペットの先端に残留した液滴は、液滴除去部材に接触させられ、ピペットから除去される。そして、除去された液滴は、液体回収部材により構成された回収部へ回収される。
【0007】
このように、接触により液滴を除去可能な液滴除去部材を備えることにより、容易にピペットの先端に残留した液滴を除去することができ、同一ピペットを使用しても異なる液体が大量に混入することを抑制することができる。
【0008】
なお、液滴除去部材へは、液滴のみが接触してもよいし、液滴とピペットの先端の両方が接触してもよい。
【0009】
本発明の請求項2の分注装置は、前記液滴除去部材は、前記回収部へ向かって低くなる傾斜面を含んで構成され、前記ピペットの先端に残留した液滴は、前記傾斜面に接触することにより前記ピペットの先端から除去されること、を特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、傾斜面に液滴を接触させればよいため、駆動手段でピペットを水平方向または鉛直方向に移動させることにより、容易に接触させることができる。
【0011】
本発明の請求項3の分注装置は、前記傾斜面の前記液滴が接触する部分には、前記液滴を下方向に向かって流下させる前記液滴の最大径よりも狭幅の溝が構成されていること、を特徴とする。
【0012】
このように、溝を構成することにより、傾斜面に付着した液滴が溝へ入り込み、スムーズに液体回収部材へと流すことができる。
【0013】
本発明の請求項4の分注装置は、前記液滴除去部材の少なくとも前記液滴の接触する部分が、親水性の材料で構成されていること、を特徴とする。
【0014】
このように、液滴の接触部分を親水性とすることにより、より確実に液滴をピペットから液滴除去部材へと移動させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成としたので、容易にピペットの先端に残存する液滴を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0017】
本発明に係る分注装置は、バイオセンサーなどの測定装置において、試料を供給する際等に用いることができる。本実施形態では、バイオセンサーに搭載された分注装置18として説明する。
【0018】
バイオセンサー10は、金属膜の表面に発生する表面プラズモン共鳴を利用して、タンパクTaと試料Aとの相互作用を測定する、いわゆる表面プラズモンセンサーである。
【0019】
図1に示すように、バイオセンサー10は、分注装置18、測定部30、試料ストック部46、ピペットチップストック部40、バッファストック部44、及び、液体回収部60を備えている。
【0020】
測定部30には測定スティック50がセットされる。測定スティック50上に固定されたタンパクTaへ試料を供給して信号変化を検出することにより、バイオセンサー10での測定が行われる。
【0021】
試料ストック部46には、異なる種類の試料をストック可能に区画された試料プレート46Aが配置されている。バッファストック部44には、複数流路に区画された、異なる濃度のバッファー液を貯留可能なバッファータンク44Aが配置されている。ピペットチップストック部40には、ピペットチップを並べて保持するピペットチップストッカーが配置されている。
【0022】
測定スティック50は、図2に示すように、誘電体ブロック52、及び、流路部材56で構成されている。
【0023】
誘電体ブロック52は、長尺とされ、上面に平坦な測定面が形成されている。測定面には、金属膜が形成され、金属膜上にリンカー層が形成されている。このリンカー層上にタンパクが固定される。
【0024】
流路部材56には、12本の液体流路が構成され、各々の液体流路は供給口53A及び排出口53Bを有している。
【0025】
図1に示すように、測定部30は、光学定盤32、光出射部34、受光部36を含んで構成されている。光学定盤32上に配置された測定スティック50に向かって、光出射部34からは光ビームが出射される。出射された光ビームは測定スティック50で反射され、受光部36で受光される。受光部36で受光された光は光電変換され、各種の信号処理が行われて、測定データが求められる。
【0026】
図1に示すように、分注装置18は、分注ヘッド20、水平駆動機構22、鉛直駆動機構24を備えている。分注ヘッド20は、水平駆動機構22により矢印X方向に移動可能とされている。水平駆動機構22は、ボールねじ22A、モータ22B、平行な一対のガイドレール22Cを備えている。ボールねじ22A、ガイドレール22Cは、X方向に配置されている。
【0027】
ボールねじ22Aには、取付部22Dが螺合されている。取付部22Dはボールねじ22Aと相対回転可能に螺合されている。モータ22Bの駆動によりボールねじ22Aが回転し、ボールねじ22Aの回転によりX方向に移動する構成とされている。
【0028】
分注ヘッド20は、図3に示すように、鉛直駆動機構24により鉛直方向(Z方向)に移動可能とされている。鉛直駆動機構24は、モータ24A及びZ方向に配置された駆動軸24Bを含んで構成され、駆動軸24Bの回転により分注ヘッド20がZ方向に移動する。
【0029】
分注ヘッド20は、12本の分注ノズル20Aを備えている。分注ノズル20Aは、X方向と直交する矢印Y方向に沿って1列に配置されている。測定時には、分注ノズル20Aにより、測定スティック50へ試料やバッファー液が供給される。分注ノズル20Aは、隣り合う2本で一対とされ、1の液体流路55の供給口53A及び排出口53Bに1本ずつ対応させて使用される。各々の分注ノズル20Aには、ポンプ21が接続されている。また、分注ノズル20Aの先端には、ピペットチップCPが取り付けられている。ポンプ21を駆動させることにより、ピペットチップCPから試料等の液体が吐出/吸引される。
【0030】
分注ノズル20Aに取り付けられたピペットチップCPは、ピペットチップストック部40にストックされており、必要に応じて交換される。
【0031】
液体回収部60には、回収タンク62が配置されている。回収タンク62は、図4に示すように、複数本に区画された(図4では5本)容器であり、図5(A)にも示すように、区画毎に液体を貯留可能な回収部62Aが構成されている。回収部62Aには、Y方向(分注ノズル20Aの並び方向)に沿って、液滴除去部材64が配置されている。液滴除去部材64は、回収部62Aの測定部30から遠い側の内壁を構成している。液滴除去部材64には、回収部62Aへ向かって低くなる傾斜面64Aが構成されている。傾斜面64Aの傾きθは、60°程度とされているが、必ずしも60°である必要はない。液滴をスムーズに下方へ流下させること、及び、ピペットCPの接触させやすさを考慮して、θは、45°<θ<90°の範囲であることが好ましい。傾斜面64Aの上部は、回収タンク62の上端から上へ突出している。ピペットチップCPの先端に残留する液滴は、傾斜面64Aに接触させられることにより、傾斜面64A側へ付着して、ピペットチップCPから除去される。傾斜面64A側へ付着した液滴は、下方へ流れ、回収部62Aに回収される。
【0032】
次に、分注装置18での分注動作について説明する。
【0033】
ピペットチップCPで試料を吸引して、測定スティック50へ供給する際には、まず、分注ヘッド20をX方向に移動させて試料ストック部46の上部へ配置する。この移動の際には、水平駆動機構22のモータ22Bを駆動させてボールねじ22Aを回転させる。ボールねじ22Aの回転により、取付部72AがX方向に沿って移動し、これにより分注ヘッド20全体がガイドレール22Cに沿ってX方向に移動する。
【0034】
分注ヘッド20が所定の位置に配置された後、モータ22Bを停止して分注ヘッド20を停止させる。そして、鉛直駆動機構24のモータ24Aを駆動させて分注ノズル20Aを下降させ、試料プレート46Aの試料にピペットチップCPの先端部を浸して試料を吸引する。試料の吸引後は、分注ノズル20Aを上昇させる。
【0035】
次に、前述のように水平駆動機構22を駆動させて、ピペットチップCPを測定部30の上部に配置する。分注ヘッド20が測定部30の上部に配置された後、前述と同様にして、鉛直駆動機構24を駆動させてピペットチップCPの先端部を測定スティック50の供給口53A及び排出口53Bへ挿入する。そして、ポンプ21を駆動させて、供給口53A側に挿入したピペットチップCPから試料を吐出すると共に、排出口53Bに挿入したピペットチップCPで、液体流路55の液体を吸引する。これにより、液体流路55内が新たな試料に置換される。
【0036】
次に、前述のようにして鉛直駆動機構24を駆動させて分注ヘッド20を上昇させ、水平駆動機構22を駆動させて分注ヘッド20を液体回収部60の上部に配置する。分注ヘッド20が液体回収部60の上部に配置された後、前述と同様にして、鉛直駆動機構24を駆動させてピペットチップCPの先端部を、液滴除去部材64の傾斜面64A上に下降させる。
【0037】
このとき、鉛直駆動機構24では、図5(B)に示すように、ピペットチップCPの先端部に付着している液滴が傾斜面64と接触するように、ピペットチップCPの先端部と傾斜面64とを接近させる。液滴と傾斜面64Aとを確実に接触させるために、ピペットチップCPと傾斜面64との距離が、ピペットチップCPの先端に残留すると考えられる液滴の最大半径Rよりも短いことが好ましい。ここで、液滴最大半径R、ピペットチップCPの先端部口径r、液体密度ρ、液体の表面張力γ、液滴の質量m、重力加速度g、とすると、最大半径の液滴がピペットチップCPの先端に残留する場合には、
【0038】
【数1】

が成り立つ。
【0039】
一方、体積についての等式は、(式2)となる。
【0040】
【数2】

(式2)を(式1)に代入すると、(式3)となる。
【0041】
【数3】

このようにして、液滴最大半径Rを求めることができる。
【0042】
次に、ポンプ21を駆動させて、吸引した液体をピペットチップCPから排出させる。排出された液体は、傾斜面64Aを下側へ流下し、回収部62Aへ貯留される。
【0043】
液体の排出の終了後、鉛直駆動機構24を駆動させて分注ヘッド20を上昇させる。このとき、供給口53A側、排出口53B側のいずれに対応する側のピペットチップCPにおいても、先端部に残留した液体は、傾斜面64A側へ引き寄せられ、傾斜面64Aに付着する。したがって、ピペットチップCPの先端部に液滴は残留しない。
【0044】
次に、同一ピペットチップCPのままで、次の試料の吸引を行い、測定スティック50への供給、及び、測定スティック50からの旧試料の排出を行う。
【0045】
本実施形態によれば、ピペットチップCPの先端部に液滴が残留しないので、液滴が新に吸引する試料の試料プレート46Aへ混入することがなく、コンタミネーションを抑制することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、ピペットチップCPを傾斜面64Aに接近させた状態で、液体の排出を行ったが、先に液体の排出行い、その後に液滴を除去するためにピペットチップCPを傾斜面64Aに接近させてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、ピペットチップCPと傾斜面64Aとは接触させなかったが、接触させてもよい。この場合には、ピペットチップCPの先端の変形を避けるため、強い力で当たらないように制御する必要がある。に接近させ付着させるように接触させる。
【0048】
また、本実施形態では、液滴除去部材64は、回収タンク62の上端から上へ突出している例について説明したが、必ずしも突出している必要はなく、回収タンク62の回収部62A中に収まる高さとしてもよい。特に、本実施形態のように、突出させることにより、分注ヘッド20の水平移動のみによっても、傾斜面64AにピペットチップCPの先端部を接近させることができ、簡単な制御とすることも可能である。
【0049】
また、本実施形態では、液滴除去部材64は、回収タンク62と別体としたが、両者を一体的に構成してもよい。
【0050】
なお、液滴除去部材64は、液滴を付着させる観点から、親水性の材料で構成したり、親水性の材料を塗布したりすることが好ましい。親水性の材料としては、ポリプロピレンに添加剤を混ぜて親水性としたものなどを用いることができる。このように、液滴の接触部分を親水性とすることにより、より確実に液滴をピペットチップCPから液滴除去部材64側へと移動させることができる。
【0051】
また、液滴除去部材64の傾斜面64Aに、図6に示すように、溝65を構成することもできる。溝65は、液滴の最大径よりも狭幅とされ、下側へ向かって液体が流れるように構成されている。このように、溝65を構成することにより、傾斜面64Aに付着した液滴が溝65へ入り込み、スムーズに回収部62Aへと流すことができる。
【0052】
また、本実施形態では、バイオセンサーに搭載された分注装置として本発明を説明したが、本発明の分注装置は、他の装置にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施形態のバイオセンサーの概略斜視図である。
【図2】本実施形態の測定スティックの斜視図である。
【図3】本実施形態の分注ヘッドの一部で、分注ノズル側の斜視図である。
【図4】本実施形態の回収タンクの(A)は斜視図であり、(B)は断面図である。
【図5】本実施形態の回収タンクの断面の一部拡大図である。
【図6】本実施形態の液滴除去部材の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
10 バイオセンサー
18 分注装置
20A 分注ノズル
20 分注ヘッド
22C ガイドレール
22B モータ
22D 取付部
22 水平駆動機構
24 鉛直駆動機構
60 液体回収部
62 回収タンク
62A 回収部
64 液滴除去部材
64A 傾斜面
65 溝
CP ピペットチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に液体の吐出及び吸引を行う吐出口が形成され、駆動機構により駆動されるピペットと、
前記ピペットの先端に残留した液滴を接触させ、前記液滴を前記ピペットから除去する液滴除去部材と、
前記液滴除去部材により除去された液体を回収する回収部の構成された液体回収部材と、
を備えた分注装置。
【請求項2】
前記液滴除去部材は、前記回収部へ向かって低くなる傾斜面を含んで構成され、前記ピペットの先端に残留した液滴は、前記傾斜面に接触することにより前記ピペットの先端から除去されること、を特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項3】
前記傾斜面の前記液滴が接触する部分には、前記液滴を下方向に向かって流下させる前記液滴の最大径よりも狭幅の溝が構成されていること、を特徴とする請求項2に記載の分注装置。
【請求項4】
前記液滴除去部材の少なくとも前記液滴の接触する部分が、親水性の材料で構成されていること、を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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