説明

分注装置

【課題】マイクロチップの分注装置において、複雑な制御機構を使用することなく、ウェル内部に空気層を発生させずに液体を吐出する。
【解決手段】分注装置は、上端に開口11aを有し内部に液体Fを収容可能なウェル11を備え、該ウェル11の下端と連通するマイクロ流路13aが内部に形成されたマイクロチップ10の、ウェル11内部に液体Fを吐出する。ウェル11が、下端に内方に向かって突出する環状の段部で構成されるウェル底部14aを有する。分注装置は、分注ノズル2を先端開口2aがウェル底部14aに位置するまで降下移動させた後に、先端開口2aから液体Fを吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分注装置に関し、特にマイクロ流路を有するマイクロチップのウェルに液体を吐出する分注装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学、光学、臨床、バイオ技術等の分野において、半導体等の微細加工技術を応用して基板上にマイクロサイズの回路(いわゆるマイクロ流路)が形成されたマイクロチップを使用する臨床分析装置が開発されている。マイクロチップはマイクロ流路と連通する液体収容部としてのウェルを有するものであって、例えば生体試料の微量分析を電気泳動解析システムと連動して効率的に行うバイオチップとして利用されている。マイクロチップ上には、前記生体試料からの分析対象成分の抽出(抽出工程)、化学・生化学反応を用いる分析対象成分の分析(分析工程)、分離(分離工程)及び検出(検出工程)等の一連の分析工程が集積化され、該集積化システムは、μ−TAS(マイクロタス)、Lab−on−a−Chip(ラボオンチップ)等とも呼ばれている。
【0003】
一方、各種試験や分析においては、試薬、検体、及び希釈液等の液体を分注先容器に吐出して分注する操作を行なうために分注装置が利用されている。分注装置としては分注先容器内に液体を吐出する際に、分注ノズルの先端を、分注量に応じて分注先容器内の液体水位が上昇すると共に上昇させ且つ分注先容器内部形状曲線に沿わせるように移動させて、液体を分注先容器の内面になじませながら吐出することによって、分注先容器内に気泡が確実に入らない吐出を可能としたものが開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−28683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記の分注装置は分注先容器内に気泡を入れないために、分注先容器内に液体を吐出しながら、該吐出された液体の水位に追従するように且つ分注ノズル先端が分注先容器の内面を沿うように分注ノズルを駆動制御しているので、該制御が複雑で難しくなり、特に分注先容器が上述したマイクロチップのウェル等の微細容器である場合には、その制御は高度な精度を有するためさらに難しくなる。
【0005】
またマイクロチップは、上述したようにウェルと、該ウェルと連通するマイクロ流路とを有するものである。ここで図5に本発明において使用可能なマイクロチップ100の一例を示す。マイクロチップ100は、上端に開口111aを有し内部に液体Fを収容可能なウェル111を備えている。ウェル111の下端には、内部にマイクロ流路113aが形成された2枚のガラス板からなるガラス基板112が配設され、該ガラス基板112にはウェル111及びマイクロ流路113aと連通し、内方に向かって突出する環状の段部すなわち連通穴で構成されるウェル底部114aが形成されている。そしてウェル111の内部には前記環状の段部によって段差111cが形成される。
【0006】
このようにウェル111が内部に段差111cを有している場合には、特にウェル111内部に分注される液体Fの表面張力が大きいと、上述のように分注ノズル2の先端がウェル11の内面を沿うように駆動制御しても、分注ノズル2から吐出された液体Fが段差111cの上面に接触すると、前記表面張力によって段差111c上方のウェル111の内周面に沿って液体Fが環状に付着し、ウェル底部114a内に液体Fが流入せず段差111cの近傍に液体Fの膜Sが形成されてしまう。すると膜Sの下方は液体Fが導入されずに空気層となってしまい、該空気層によって液体Fがマイクロ流路113aに導入され難くなったり、又前記空気層がマイクロ流路113aに導入されたりして分析精度が低下若しくは分析できない虞がある。またマイクロ流路113aを洗浄する場合には、洗浄効果が低下する虞もある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、複雑な制御機構を使用することなく、ウェル内部に空気層を発生させずに液体を吐出する分注装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の分注装置は、一端に開口を有し内部に液体を収容可能なウェルを備え、該ウェルの他端と連通するマイクロ流路が内部に形成されたマイクロチップの、前記ウェルの内部に液体を吐出する分注装置であって、
前記ウェルが、前記他端に内方に向かって突出する環状の段部で構成されるウェル底部を有するものであり、
先端開口を有し、後端に配管が接続されて、前記先端開口から液体を吸引及び吐出する分注ノズルと、
前記配管と接続し、前記分注ノズルへ吸引圧及び吐出圧を供給するポンプ手段と
前記分注ノズルを少なくとも前記ウェルの深さ方向に相対移動させる移動手段と、
前記分注ノズルを前記移動手段により前記先端開口が前記ウェル底部に位置するまで前記相対移動させた後に、前記先端開口から液体を先ず、前記ウェル底部の底面及び/又は内周面に接触させて吐出させる制御手段を備えてなることを特徴とするものである。
【0009】
また本発明の分注装置は、前記制御手段が、前記先端開口が前記ウェル底部の底面から所定距離離れる位置に前記分注ノズルを前記相対移動させることが好ましい。ここで「先端開口がウェル底部の底面から所定距離離れる位置」とは分注ノズルの先端開口から液体を吐出させたときに、先端開口とウェル底部の底面との間に、前記吐出された液体がウェル内部に流出するための隙間を維持する位置をいう。
【0010】
また本発明の分注装置は、前記分注ノズルが緩衝機構を備え、該緩衝機構を介して前記移動手段により前記相対移動されることができる。
【0011】
本発明の分注装置において、前記緩衝機構は弾性部材により構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分注装置は、内方に向かって突出する環状の段部で構成されるウェル底部を有するウェルに液体を吐出する分注装置であって、分注ノズルを移動手段により先端開口がウェル底部に位置するまで降下移動させた後に、前記先端開口から先ず、ウェル底部の底面及び/又は内周面に接触させて液体を吐出させる制御手段を備えているので、ウェル内部でウェル底部の環状の段部によって形成された段差よりも下方で液体が吐出され、該吐出された液体は先ずウェル底部の底面又は内周面に接触してから上昇するので、前記吐出された液体が初めに段差の上面に接触した際に、液体の表面張力により液体が段差上方のウェル内周面に沿って環状に付着することで生じる膜が形成されるのを防ぐことができる。これにより複雑な制御機構を使用しなくても、ウェル内部に空気層が形成されるのを防止できる。また空気層によって液体がマイクロ流路に導入され難くなるのを防ぐことができるので分析精度の低下又は洗浄効果の低下を低減できる。
【0013】
また制御手段が、先端開口がウェル底部の底面から所定距離離れる位置に分注ノズルを前記相対移動させる場合には、例えば先端開口がウェル底部の底面と略並行に形成されている際に、先端開口とウェル底部の底面とが接触することによって分注ノズルが密閉されて、液体が吐出できなくなることを防止できる。
【0014】
また前記分注ノズルが緩衝機構を備え、該緩衝機構を介して前記移動手段により前記相対移動される場合は、例えば分注ノズルの下降移動によって先端開口とウェルの底面とが接触する際に、該接触後に分注ノズルが移動手段によってさらに下降移動されても、分注ノズルの先端がウェルの底面に圧接されるのを緩衝機構によって防止できるので、分注ノズル及びマイクロチップが破損等するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明にかかる実施形態の分注装置について図面を参照して詳細に説明する。図1に本実施形態の分注装置1の構成図を示す。なお本実施形態においては、便宜上、液体Fが吐出する方向(分注ノズル2の先端開口2aが向く方向)(図1中下方)を下側として説明する。
【0016】
本実施形態の分注装置1は、例えば医療機関、研究所等で使用される生化学分析装置等の臨床分析装置に組み込まれ、マイクロチップ10に検体や試薬等の微量な液体Fや洗浄液としての水Wを供給するものであって、図1に示す如く、分注ノズル2と、分注ノズル2への吸引圧及び吐出圧を供給するポンプ手段3としてのシリンジポンプ31及びポンプ駆動部32と、シリンジポンプ31に連結し、内部に水Wを収容する液体タンク4と、分注ノズル2とシリンジポンプ31を繋ぐ第一の配管51と、シリンジポンプ31と液体タンク4とを繋ぐ第二の配管52と、分注ノズル2を上下左右前後に移動させる移動手段としてのノズル駆動部6と、液面を検出する液面検知部7と、液面検知部7からの信号に基づいてポンプ駆動部32及びノズル駆動部6を制御する制御部8(制御手段)と、内部に液体Fを収容する液体収容容器9とから概略構成されている。
【0017】
分注ノズル2は液体Fを吸引及び吐出する先端開口2aを有するものであって、該先端開口2aを下向きにして設置され、図示しない昇降機構及び水平移動機構等によって上下左右前後に移動可能に取り付けられて、これらの機構を駆動するモータ等を備えるノズル駆動部6によって駆動制御されている。また分注ノズル2上部には第一の配管51の一端が接続され、該第一の配管51の他端はシリンジポンプ31に接続されている。なお分注ノズル2の先端開口2aには、例えば液体Fの種類毎に着脱交換可能なピペット状のチップを装着してもよい。
【0018】
シリンジポンプ31は、上端が第一の配管51と接続され、下端に挿入口310aを有する略円筒状のシリンジ本体310と、上方が挿入口310aに挿通する略棒状のプランジャ311と、該プランジャ311の外周に装着され、前記挿入口310aをシールするOリング312と、下端からOリング312を押圧して、シリンジ本体310の下端に装着されるOリング押え313とから概略構成され、ポンプ駆動部32によって分注ノズル2へ吸引圧及び吐出圧を供給するように駆動される。ポンプ駆動部32は図示しないモータを備え、該モータの正転又は逆転駆動に応じてプランジャ311を上方向又は下方向に移動させて分注ノズル2に吐出圧又は吸引圧を供給する。なおモータの回転動力をプランジャ311の上下移動に変換する機構としては、例えばネジ機構、ボールネジ機構及びラックアンドピニオン等、様々な機構が使用でき、分注装置1に応じて適宜変更可能である。
【0019】
またシリンジ本体310の周面の一部には、液体導入口310bが形成されている。液体導入口310bには第二の配管52の一端が接続され、第二の配管52の他端に接続された液体タンク4内部から第二の配管52を介して水Wが供給される。なお該供給のために第二の配管52の途中には、シリンジポンプ31側から順に電磁弁42とポンプ41が配設されていて、適時に液体タンク4内部の水Wをシリンジポンプ31内に供給可能となっている。
【0020】
液面検知部7は、光又は超音波等を利用した液面センサを備えるものであって、後述の液体収容容器9内部に収容された液体Fの液面位置を検出して、液面検出信号を制御部8に出力する。なお液面検知部7は、液面位置を検出可能な構造であれば上記に限られるものでなく、適宜変更可能である。
【0021】
制御部8は、液面検知部7からの信号に基づいてノズル駆動部6及びポンプ駆動部32の制御を行って、分注ノズル2の移動及びシリンジポンプ31の吸引圧及び吐出圧を制御している。本発明で特徴的なのは、制御部8が分注ノズル2をノズル駆動部6により先端開口2aが後述するウェル底部14aに位置するまで降下移動させた後に、先端開口2aから液体Fを吐出させるように制御していることである。なお該吐出を含む液体Fの分注工程については後で詳細に説明する。また制御部8は、液体収容容器9及び後述するウェル11のウェル底部14aを含むマイクロチップ10の設置位置及び形状、さらにウェル11内の液面位置の上限値と下限値に関するデータを有するものであり、ウェル11に吐出される液面位置が前記上限値と前記下限値の間を維持するようにポンプ駆動部32を制御して、ウェル11から液体Fが溢れないようにしている。なお前記データはユーザが必要に応じて適宜変更可能であっても良い。また本実施形態の液体収容容器9は、上端に開口を有する円筒状の容器とするが、本発明の液体収容容器9はこれに限られるものではなく、上端に開口を有し、内部に液体を収容できるものであれば、例えば四角柱状であってもよく、適宜変更可能である。
【0022】
ここで図2(a)に本実施形態のマイクロチップ10の斜視図、図2(b)に図2(a)を下側からみた斜視図、図2(c)に図2(a)のウェル11の断面図、図3に本実施形態の分注装置1によるウェル11内部への液体Fの分注を説明する図を示す。なお本実施形態のマイクロチップ10は、便宜上ウェル11の開口11aを有する側(各図中、上側)を上端として説明する。
【0023】
本実施形態のマイクロチップ10は、図2(a)に示す如く、合成樹脂から成形された略矩形乃至矢形形状で、上面10aに複数のウェル11を有し、図2(b)に示す如く、下面10bにガラス板(透明な板状部材)12が取付けられている。該ガラス板12は、図2(c)に示す如く、上面にマイクロ流路13aが形成された第一の基板13と、該第一の基板13の上面に貼合わされ、マイクロ流路13aと連通し、ウェル11の底部となる連通穴14a(ウェル底部14a)が形成された第二の基板14とから構成されている。
【0024】
ウェル11は上端に開口11aを有し、該開口11aから下方に向かってウェル底部14aと連通するウェルテーパ部11bが形成されている。ウェルテーパ部11bは上端から下端に向かうに連れて径がより小さくなり、ウェル底部14aさらに径が小さいものであるため、ウェルテーパ部11bとウェル底部14aとの境界には環状の段部によって段差11cが形成される。なおウェルテーパ部11bは、図3(a)、(b)の如く、該下端から上端に向かって所定位置まで垂直に形成された下端垂直部11buを有しているが、図3(a’)、(b’)の如く、下端垂直部11buを有していない形状であってもよい。第一の基板13と第二の基板14は、ガラス製の他、合成樹脂であってもよく、両方とも透明であってもよいし、光学測定をする側となる片方だけ透明であってもよい。なお本実施形態ではマイクロ流路13aは第一の基板13に形成されているが、本発明の分注装置で使用されるマイクロチップ10はこれに限られるものではなく、第一の基板13と第二の基板14との間にマイクロ流路13aが形成されていれば、第二の基板14に形成されていてもよい。このように本実施形態の分注装置1は構成されている。
【0025】
次に上記のように構成された分注装置1を使用して液体Fを分注する工程を詳細に説明する。
【0026】
1)先ず電磁弁42を開いた後にポンプ41を駆動して、液体タンク4内部の水Wをシリンジポンプ31内に送る。このときポンプ41による水Wの送出は、水Wが分注ノズル2の先端から排出されるまで行われる。そして水Wが分注ノズル2の先端から排出されて、第二の配管52から分注ノズル2の先端まで水Wが充填された後に、電磁弁42が閉められ、ポンプ41の駆動が止められる。なおシリンジポンプ31内への水Wの導入時には、第一の配管51及び第二の配管52の途中に図示しない気泡検知手段を配設し、該気泡検知手段によって配管5内に気泡が混入しているか否かを判定して、気泡が混入している場合には、該気泡がなくなるまで水Wを送流してもよい。また電磁弁42の開閉及びポンプ41の駆動は、第二の配管52から分注ノズル2の先端まで水Wを充填可能であれば自動であっても手動であっても構わない。
【0027】
2)次にシリンジ本体310内へプランジャ311を送り込むことにより、分注ノズル2から水Wを吐出する。そしてシリンジ本体310内からプランジャ311を引出すことにより、水Wと後述する液体Fとが混合されることがない程度に分注ノズル2内に空気を吸引する。この状態で液体Fの吸引及び吐出を行うことで、分注処理を精度良く行なうことができる。
【0028】
3)次に、分注ノズル2の先端開口2aの下方に液体収容容器9が位置するようにノズル駆動部6により分注ノズル2を移動させる。このときマイクロチップ10は分注ノズル2が水平移動可能な範囲に配置されている(図1参照)。
【0029】
4)次に、液面検知部7からの信号に基づいてノズル駆動部6により、先端開口2aが液体収容容器9内部の液体Fの液面下に挿入するように分注ノズル2を下降させ、シリンジ本体310内からプランジャ311を引出すことにより、液体Fを所定量吸引する。
【0030】
5)次に、内部に液体Fを保持した分注ノズル2を、ノズル駆動部6によって液体収容容器9より上方に上昇させる。このときノズル駆動部6は制御部8に予め設定されている液体収容容器9の形状データに基づいて駆動される。
【0031】
6)そして同じく予め制御部8に設定されているマイクロチップ10のウェル11の設置位置データに基づいて、ノズル駆動部6により分注ノズル2を液体収容容器9の上方からマイクロチップ10のウェル11の上方に水平移動する。
【0032】
7)次に、図3(a)の如く、分注ノズル2の先端開口2aがウェル底部14a内部に位置するように、制御部8のデータに基づいてノズル駆動部6により分注ノズル2を下降させる(図中矢印方向)。このとき、制御部8によって、先端開口2aがウェル底部14aの底面から所定距離離れる位置(図3において、0<H2<H1)すなわち分注ノズル2の先端開口2aから液体Fを吐出させたときに、先端開口2aとウェル底部14aの底面との間に、前記吐出された液体Fがウェル11内部に流出するための隙間を維持する位置に分注ノズル2を降下移動させる。これにより例えば先端開口2aがウェル底部14aの底面と略並行に形成されているときに、先端開口2aとウェル底部14aの底面とが接触することによって分注ノズル2が密閉されて、液体Fが吐出できなくなるのを防ぐことができる。なお先端開口2aがウェル底部14aの底面と並行ではない、例えば斜め形状等を有している場合には、先端開口2aがウェル底部14aの底面に接する(図3において、H2=0)まで分注ノズル2を降下させてよい。また分注ノズル2はウェル底部14aの底面略中央に向かって降下移動されることが好ましい。
【0033】
8)そして、シリンジ本体310内へプランジャ311を押し込むことにより、図3(b)の如く、分注ノズル2の先端開口2aからウェル11が要求する微量の液体Fを吐出する。このときウェル11内部の液体Fに空気が混入するのを防ぐために、分注ノズル2内部に液体Fを残すようにする。このようにウェル11内部にウェル底部14aの環状の段部によって形成される段差11cよりも下方で液体Fが吐出されることにより、該吐出された液体Fは先ずウェル底部14aの底面又は内周面に接触してから上昇するので、前記吐出された液体Fが初めに段差11cの上面に接触した際に、液体Fの表面張力により液体Fが段差11c上方のウェル11内周面に沿って環状に付着することによって生じる膜が形成されるのを防ぐことができる。これにより複雑な制御機構を使用しなくても、ウェル11内部に空気層が形成されるのを防止することができる。また空気層によって液体Fがマイクロ流路13aに導入され難くなるのを防ぐことができるので分析精度の低下を低減できる。
【0034】
9)そして、分注ノズル2をノズル駆動部6によってウェル11より上方に上昇して、ウェル11内部への液体Fの吐出が終了する。
【0035】
なお本実施形態の分注装置1は、図3(a)中の符号において、分注ノズル2の先端の径はD2=0.5mm、ウェル底部14aの深さ方向の幅すなわち高さはH1=0.7mm以上、ウェル底部14aの径はD1=1.2〜2.2mmが好ましく、D2×2<D1であることが好ましい。
【0036】
本実施形態における分注装置1は上記のような構成としたが、本発明はこれに限られるものではなく、例えばマイクロチップ10の複数のウェル11に同時に液体を供給する用途に使用される、複数の分注ノズルを備える分注装置であってもよい。
【0037】
次に本発明にかかる別の実施形態2の分注装置を説明する。なお本実施形態の分注装置は上記実施形態の分注装置1に緩衝機構20を追加したものであるため、該緩衝機構20についてのみ説明する。ここで図4に緩衝機構20の構成図を示す。
【0038】
本実施形態の緩衝機構20は、図4に示す如く、分注ノズル2の後端を固定支持する支持部材21と、図示しない昇降機構及び水平機構に固定され、これら機構と連動して移動制御される固定部材22と、上端が支持部材21と、下端が固定部材22とそれぞれ係合する弾性部材としてのばね部材23とを備えている。
【0039】
緩衝機構20は、上述した分注ノズル2の下降移動によって、該ノズル2の先端開口2aとウェル底部14aの底面とが接触する際に、例えば分注ノズル2がノズル駆動部6によって過度に下降移動された場合に、ばね部材23の反発力によって支持部材21を介して分注ノズル2を相対的に上方に移動させる。これにより分注ノズル2の先端開口2aはウェル底部14aの底面との接触を緩衝することができるので、分注ノズル2及びマイクロチップ10の破損、ノズル駆動部6の精度の低下等が防止できる。
【0040】
なお本実施形態の緩衝機構20は上記のように構成したが本発明の緩衝機構はこれに限られるものではなく、分注ノズル2を相対的に上方に移動できれば、例えばウェル底部14aを移動させる機構であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態の分注装置の構成図。
【図2】本実施形態のマイクロチップの斜視図及び断面図。
【図3】本実施形態の分注装置によるウェル内部への液体の分注を説明する図。
【図4】緩衝機構の構成図。
【図5】本発明の課題を説明する図。
【符号の説明】
【0042】
1 分注装置
2 分注ノズル
2a 先端開口
3 ポンプ手段
31 シリンジポンプ
310 シリンジ本体
310a 挿入口
310b 液体導入口310b
311 プランジャ
312 Oリング
313 Oリング押え
32 ポンプ駆動部
4 液体タンク
41 ポンプ
42 電磁弁
5 配管
51 第一の配管
52 第二の配管
6 ノズル駆動部(移動手段)
7 液面検知部
8 制御部(制御手段)
9 液体収容容器
10 マイクロチップ
11 ウェル(液体収容部)
11a 上端開口
11b ウェルテーパ部
11c 環状段部
12 ガラス板(透明な板状部材)
13 第一の基板
13a マイクロ流路
14 第二の基板
14a ウェル底部(連通穴)
A 空気
F 液体
S 膜
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口を有し内部に液体を収容可能なウェルを備え、該ウェルの他端と連通するマイクロ流路が内部に形成されたマイクロチップの、前記ウェルの内部に液体を吐出する分注装置であって、
前記ウェルが、前記他端に内方に向かって突出する環状の段部で構成されるウェル底部を有するものであり、
先端開口を有し、後端に配管が接続されて、前記先端開口から液体を吸引及び吐出する分注ノズルと、
前記配管と接続し、前記分注ノズルへ吸引圧及び吐出圧を供給するポンプ手段と
前記分注ノズルを少なくとも前記ウェルの深さ方向に相対移動させる移動手段と、
前記分注ノズルを前記移動手段により前記先端開口が前記ウェル底部に位置するまで前記相対移動させた後に、前記先端開口から液体を先ず、前記ウェル底部の底面及び/又は内周面に接触させて吐出させる制御手段を備えてなることを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記制御手段が、前記先端開口が前記ウェル底部の底面から所定距離離れる位置に前記分注ノズルを前記相対移動させることを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項3】
前記分注ノズルが緩衝機構を備え、該緩衝機構を介して前記移動手段により前記相対移動されることを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項4】
前記緩衝機構が弾性部材により構成されていることを特徴とする請求項3に記載の分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−76275(P2008−76275A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256776(P2006−256776)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】