説明

分注装置

【課題】分注時の異常を示す情報を容易に取得可能な液面検知高さ位置の検出手段を有する分注装置の提供。
【解決手段】プローブ1が下降して、試料容器9内の試料10の液面を液面センサ1aが検知すると、プローブ1は所定量下降して停止する。そこから一定時間後にモータ4を駆動することで分注シリンジ3が吸引動作を行う。圧力センサ11は分岐ブロック12を介し、プローブ1,チューブ2,分注シリンジ3を含む分注流路系に接続されている。プローブ1が停止してから分注シリンジ3が吸引動作を開始するまでの圧力信号測定区間の圧力信号から液面検知高さ位置情報を得ることができる。前記圧力信号測定区間における圧力センサ11の出力は、圧力測定部13により測定され、記憶部14に記憶される。前記圧力信号と液面下降距離算出部15および圧力変化量算出部16からの情報に基づいて正誤判定部17で、正常な液面検知が行なわれたか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、血清や尿等の生体試料を分析する自動分析装置に用いられる分注装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血清や尿等の生体試料を分析する自動分析装置に用いられる分注装置は、プローブの液面センサにより試料液面を検知し、そこからプローブを試料液中に所定量挿入して試料の吸引を行っている。液面センサの液面検知の方式としては、静電容量変化方式や、光学的な方式、プローブが接続された配管内の圧力検出方式によるものなど種々の方式がこれまでに提案されている。
【0003】
このうち、プローブが液面に触れたときの静電容量の変化を検知する静電容量変化方式が最も一般的に用いられている。静電容量変化方式による液面検知の問題点として、試料を収容する容器の帯電による該容器とプローブ間での放電や周辺機器からのノイズにより液面を誤検知して分注不良が生じる場合があった。例えば、特許文献1には、試料プローブの上下動作を駆動するパルスモータのパルス信号数から液面誤検知を検出する分注装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−127136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の分注装置は、液面誤検知を検出することは可能であるが、それ以外の分注時の異常を示す情報を得ることはできない。試料分注異常を起こす原因としては、液面誤検知によるものだけでなく、例えば、血清を試料とした場合において、フィブリンの析出によってプローブの詰りが発生する場合がある。
【0006】
プローブの詰りの検出手段としては、分注流路系に接続された圧力センサの試料吸引中から吸引終了後にかけての圧力信号を測定して、そのデータに各種アルゴリズムを適用して判断するものが一般に用いられている。試料分注時の異常を検出することは、信頼性の高い測定データを得るために非常に重要となる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、液面高さ位置誤検知の検出と併せてプローブ詰りなどの分注異常の要因となる他の情報を任意にチェック可能として分注不良を低減することを目的とする。また、分注装置のハード構成を変更することなく液面高さ位置誤検知の検出ができる分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、液体試料の吸引・吐出を行う分注装置において、液体試料の液面検知高さ位置の変位に対する分注流路内の圧力変化に基づき、分注にともない推移する液体試料の液面検知高さ位置の正誤を判定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、液体試料の吸引・吐出を行う分注装置において、分注流路内の圧力から得る液面検知高さ位置と、分注数量から算定される液面の下降距離から求める算定液面検知高さ位置と、を比べて分注により降下推移する液面検知高さ位置の正誤を判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、液体試料を吸引・吐出するプローブと、前記プローブに試料を吸引・吐出させるための圧力を発生させる分注シリンジと、前記プローブ、前記分注シリンジおよびこれらに接続する流路を含む前記分注流路と、試料の液面を検知する液面センサと、液体試料の吸引・吐出動作を制御する制御部と、を備えた分注装置において、前記液面センサの液面検知高さ位置情報を有する前記分注流路内の圧力信号を測定する圧力測定手段と、前記圧力測定手段の測定値を記憶する記憶手段と、試料分注による液面下降距離を算出する液面下降距離算出手段と、前記液面下降距離算出手段が算出した液面下降距離に対応する圧力信号変化量を算出する圧力変化量算出手段と、前記圧力測定手段の測定した圧力信号と前記圧力変化量算出手段が算出した情報に基づき、分注にともない推移する液面検知高さ位置が正常であるか否かを判定する正誤判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記圧力測定手段による測定は前記液面センサが液面を検知して前記プローブの降下動作が停止し、該停止から前記分注シリンジが駆動して試料の吸引が開始されるまでの圧力信号測定区間にすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記圧力信号測定区間の時間長さは前記プローブの振動が収まる時間を見込んでいることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記液面下降距離算出手段は試料容器形状および試料分注量情報から液面下降距離を算出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記圧力変化量算出手段は前記液面下降距離算出手段の算出した液面下降距離に対応する圧力信号変化量を単位距離あたりの圧力信号変化値から算出し、この単位距離あたりの圧力信号変化値は随時更新可能なことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記正誤判定手段が正常な液面検知が行なわれていないと判定した場合に、液面誤検知である旨報知する出力手段を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記正誤判定手段が正常な液面検知が行なわれていないと判定した場合に、液面誤検知であると判定された項目に対して再度分注動作を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、分注にともない推移する液面検知高さ位置が正常であるか否かを判定できるので、液面高さ位置の誤検知による分注不良を低減することができる。分注不良を低減できるので、自動分析装置が分析する測定データの信頼性は向上する。また、分注流路内の圧力変化に基づいて液面検知高さ位置の正誤を判定するので、分注装置のハード構成は変更が不要である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る分注装置の好適な実施の形態を、図1を引用して説明する。この分注装置は、自動分析装置の試料を吸引・吐出する分注装置である。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0019】
図1において、プローブ1はチューブ2を介し、分注シリンジ3に接続され、それらの内部は精製水で充填されている。プローブ1、チューブ2、分注シリンジ3は分注流路に含まれる。プローブ1は分注昇降機構20に備えられる。分注昇降機構20は試料容器9と反応容器の間を移動してプローブ1を運ぶ。試料容器9と反応容器の位置ではプローブ1を上げ下げする。
【0020】
分注シリンジ3はシリンダ3aとプランジャ3bを有し、前記プランジャ3bにはモータ4が連結されている。シリンダ3aを固定し、モータ4をモータ駆動回路5で駆動することで、プランジャ3bを上下に往復駆動させ、これによって試料の分注動作を行う。また、プローブ1は分注昇降機構20を駆動するモータ6をモータ駆動回路7によって駆動することで、所定の位置(試料容器9や反応容器の位置)に移動することができる。なお、モータ駆動回路5および7は、制御部8によって制御される。
【0021】
次に本発明の主要部である液面正誤検知検出回路およびそれに関連するところを含めて述べる。
【0022】
液面正誤検知検出回路は、圧力測定部13、記憶部14、液面下降距離算出部15、圧力変化量算出部16、正誤判定部17を有する。分注流路のチューブ2には、分岐ブロック12を介して圧力センサ11が接続されている。圧力センサ11は分注流路内の圧力を検出する。圧力センサ11が検出した圧力は液面正誤検知検出回路の圧力測定部13に測定される。圧力測定手段は、圧力センサ11、圧力測定部13を含む。記憶手段は、記憶部14を含む。液面下降距離算出手段は、液面下降距離算出部15を含む。圧力変化量算出手段は、圧力変化量算出部16を含む。正誤判定手段は、正誤判定部17を含む。
【0023】
さて、分注昇降機構20が作動してプローブ1が下降動作し、試料容器9内の試料10の液面を液面センサ1aが検知すると、プローブ1はそこから所定量下降して停止する。そこから一定時間後にモータ4を駆動することで分注シリンジ3が吸引動作を行う。同様に、分注昇降機構20が作動してプローブ1が試料吐出位置に移動し、モータ4を駆動することで分注シリンジ3が吐出動作を行う。圧力センサ11は分岐ブロック12を介し、プローブ1,チューブ2,分注シリンジ3を含む分注流路内の圧力を検知する。圧力センサ11が検出した圧力は、圧力測定部13により測定され、記憶部14に記憶される。圧力測定部13により測定された圧力信号と液面下降距離算出部15および圧力変化量算出部16からの情報に基づいて正誤判定部17で、分注にともない液面降下するように推移する液面検知高さ位置が正常であるか否かを判定する。
【0024】
この正誤判定部の正誤判定について、図2〜図4を引用してさらに詳しく述べる。圧力測定部13は、図2に示すように液面センサが液面を検知してプローブが停止し、そこから分注シリンジが駆動して試料の吸引が開始されるまでの圧力信号測定区間における分注流路内圧力信号を測定する。この圧力信号測定区間の時間は、プローブの停止後の振動が止むのを見込んだ時間長さになっている。これにより、プローブが振動している不安定な圧力から振動が止んだ安定な圧力に亘る広範の圧力情報を得ることができる。
【0025】
図3は、図2に示した圧力信号測定区間における圧力信号と分注流路系に接続された圧力センサの設置位置を基準点としたプローブ先端高との関係を表すものである。前記圧力信号測定区間における圧力信号と圧力センサの設置位置を基準としたプローブ先端高には、比例関係があり、その圧力信号から、分注にともない推移する液面検知高さ位置の情報を得ることができる。液面検知高さ位置の情報になる圧力信号は液面センサが液面を検知してプローブが停止したところでのプローブ先端高さ位置の圧力信号である。
【0026】
また、液面下降距離算出部15は、その試料の測定項目シーケンスおよび各項目の分注量、試料容器形状の情報をもとに各項目毎に液面下降距離を算出する。圧力変化量算出部16は、液面下降距離算出部15において算出された液面下降距離に対応する圧力信号変化量をあらかじめ用意された単位距離あたりの圧力変化値から算出する。
【0027】
正誤判定部17は、その試料の(第1項目)目の前記圧力信号測定区間における圧力信号が圧力測定部13から取得されると、圧力変化量算出部16からの情報と合わせて、図4に示す(第1項目)目を基準点とする判定基準を作成する。(第2項目)目以降の各項目について期待圧力信号が設定され、この期待圧力信号に一定の許容範囲を設け、この許容範囲内に入っているか否かにより、液面検知高さ位置の誤検知の有無を判定する(液面検知高さ位置が正常であるか否かを判定する)。
【0028】
その試料についての(第1項目)目の分注に対する判定は一時保留扱いにされ、(第2項目)目について前記判定基準との比較が行なわれ、液面検知高さ位置の誤検知無しと判定された時点で(第1項目)目についても液面検知高さ位置の誤検知無しと判定される。(第3項目)目以降の項目については、各項目毎に対応する前記判定基準との比較が行われ、液面検知高さ位置の誤検知有りと判定された場合には、その旨を報知して再度その項目の分注を行うか、その旨を報知するのみにとどめる。その旨を報知するのみにとどめた場合は、液面検知高さ位置の誤検知有りと判定された項目を除外した判定基準を改めて作成して、以降の項目の判定を行う。
【0029】
その試料についての(第2項目)目が液面検知高さ位置の誤検知有りと判定された場合は、(第1項目)目を再測定扱いおよび(第2項目)目を一時保留扱いとして、(第2項目)目を基準点とする判定基準を改めて作成する。(第3項目)目以降、液面検知高さ位置の誤検知無しと判定されるまでこれを繰り返し、液面検知高さ位置の誤検知無しと判定された項目以降の項目に対しては、各項目毎に対応する前記判定基準との比較が行われる。もし、その試料が単項目分析の場合は、判定保留扱いとして次回分注を行った際に液面検知高さ位置の誤検知の有無の判定を行う。この判定は行わないようにすることも可能とする。
【0030】
この正誤の判定は、分注流路内の圧力から得る液面検知高さ位置と、分注数量から算定される液面の下降距離より求める算定液面検知高さ位置と、を比べて分注により降下推移する液面検知高さ位置の正誤を調べるようにしても実施可能である。液面検知高さ位置と算定液面検知高さ位置を比較した差分値が所定の許容範囲内であれば正常とし、その許容範囲内になければ誤であると判定をする。
【0031】
上述したように分注にともない液面降下する液面検知高さ位置を圧力センサ11で検出して液面正誤検知検出回路で液面検知高さ位置が正常であるか否かを分注の都度毎に判定するので、自動分析装置の分析結果に分注量の的否を反映することにより、測定データの信頼性は向上する。
【0032】
また、分注流路内の圧力を圧力センサ11で検出し、その検出値を液面正誤検知検出回路に取り込む構成を備えるだけで、分注装置のハード構成に変更を加える必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例に係るもので、分注装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例に係るもので、圧力測定部が計測する圧力信号測定区間での圧力信号を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係るもので、分注流路系に接続された圧力センサの圧力信号とプローブ先端高の関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係るもので、正誤判定部における判定基準を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1…プローブ
1a…液面センサ
2…チューブ
3…分注シリンジ
3a…シリンダ
3b…プランジャ
4,6…モータ
5,7…モータ駆動回路
8…制御部
9…試料容器
10…試料
11…圧力センサ
12…分岐ブロック
13…圧力値測定部
14…記憶部
15…液面下降距離算出部
16…圧力変化量算出部
17…正誤判定部
20…分注昇降機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料の吸引・吐出を行う分注装置において、
液体試料の液面検知高さ位置の変位に対する分注流路内の圧力変化に基づき、分注にともない推移する液体試料の液面検知高さ位置の正誤を判定することを特徴とすることを特徴とする分注装置。
【請求項2】
液体試料の吸引・吐出を行う分注装置において、
分注流路内の圧力から得る液面検知高さ位置と、
分注数量から算定される液面の下降距離より求める算定液面検知高さ位置と、を比べて分注により降下推移する液面検知高さ位置の正誤を判定することを特徴とする分注装置。
【請求項3】
液体試料を吸引・吐出するプローブと、
前記プローブに試料を吸引・吐出させるための圧力を発生させる分注シリンジと、
前記プローブ、前記分注シリンジおよびこれらに接続する流路を含む前記分注流路と、
試料の液面を検知する液面センサと、
液体試料の吸引・吐出動作を制御する制御部と、を備えた分注装置において、
前記液面センサが液面を検知した高さ位置における前記分注流路内の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記圧力測定手段が計測した測定値を記憶する記憶手段と、
試料分注による液面下降距離を算出する液面下降距離算出手段と、
前記液面下降距離算出手段が算出した液面下降距離に対応する圧力変化量を算出する圧力変化量算出手段と、
前記圧力測定手段の測定した圧力と前記圧力変化量算出手段が算出した情報に基づき、分注にともない推移する液面検知高さ位置が正常であるか否かを判定する正誤判定手段と、を備えることを特徴とする分注装置。
【請求項4】
前記圧力測定手段による測定は、前記液面センサが液面を検知して前記プローブの降下動作が停止し、該停止から前記分注シリンジが駆動して試料の吸引が開始されるまでの圧力信号測定区間にすることを特徴とする請求項3に記載の分注装置。
【請求項5】
請求項4に記載の分注装置において、
前記圧力信号測定区間の時間長さは、前記プローブの振動が収まる時間を見込んでいることを特徴とする分注装置。
【請求項6】
前記液面下降距離算出手段は、試料容器形状および試料分注量情報から液面下降距離を算出することを特徴とする請求項3に記載の分注装置。
【請求項7】
前記圧力変化量算出手段は、前記液面下降距離算出手段の算出した液面下降距離に対応する圧力信号変化量を単位距離あたりの圧力信号変化値から算出し、この単位距離あたりの圧力信号変化値は随時更新可能なことを特徴とする請求項3に記載の分注装置。
【請求項8】
前記正誤判定手段が正常な液面検知が行なわれていないと判定した場合に、液面誤検知である旨報知する出力手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の分注装置。
【請求項9】
前記正誤判定手段が正常な液面検知が行なわれていないと判定した場合に、液面誤検知であると判定された項目に対して再度分注動作を行うことを特徴とする請求項3に記載の分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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