説明

分煙ブース

【課題】タバコの煙をより高性能に清浄化することができる分煙ブースを実現する。
【解決手段】個室状に形成された分煙ブース1であって、前記個室の内部には、タバコの煙を吸い込んで浄化する空気浄化装置20が設置され、前記個室の内側の面の全部または一部には、タバコの煙に含まれる成分を分解可能な表面活性を有する無機塗料60の層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内施設等の空間の一部を区画して覆い、その空間を喫煙空間とする分煙ブースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィスをはじめとする様々な屋内施設において、喫煙対策として、喫煙スペースを限定するための分煙ブースが普及している(特許文献1等)。分煙ブースは、分煙ブース内のタバコの煙が外部に漏れ出て、非喫煙者を不快にさせることを防ぐために、衝立等で仕切られている場合や個室として形成されている場合等、様々な形態がある。また、分煙ブースには、タバコの煙を屋外に排出する換気扇や浄化する空気浄化装置(空気清浄機)等が設置されていて、分煙ブースの内部にいる人にも快適な空間を提供するようにしている。
【0003】
タバコの煙を浄化する空気浄化装置等には、一般的に、活性炭や高性能フィルター(プラズマ式、イオン式等)を用いたものが多く、吸い込んだ空気に含まれる粒子を、各方式で吸着したりろ過したりして除去し、清浄化した空気を機外に放出する。
【特許文献1】特開2000−218115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述したような空気浄化装置等では、タバコの煙の成分のうち、比較的分子量の大きい成分(粒子状の成分)であるニコチンやタール等を除去することはできるが、分子量の小さい成分(ガス状の成分)である一酸化炭素やアルデヒド等を除去することは困難であった。
【0005】
また、空気浄化装置等で除去しきれなかったタバコの煙の成分は、分煙ブースの内部に残り、壁面を汚染し黄ばみを招くため、清掃に手間がかかるという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記問題を解消するものであり、タバコの煙をより高性能に清浄化することができる分煙ブースを実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明における分煙ブースは、個室状に形成された分煙ブースであって、前記個室の内部には、タバコの煙を吸い込んで浄化する空気浄化装置が設置され、前記個室の内側の面の全部または一部には、タバコの煙に含まれる成分を分解可能な表面活性を有する無機塗料の層が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の分煙ブースにおいて、前記空気浄化装置は、前記タバコの煙に含まれる成分のうち分子量の大きい成分を除去し、前記無機塗料は、前記タバコの煙に含まれる成分のうち少なくとも分子量の小さい成分を分解することを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の分煙ブースにおいて、前記無機塗料は、光触媒作用または放射性物質による作用で、タバコの煙の成分を分解する塗料であることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の分煙ブースにおいて、前記空気浄化装置の外側の面に、前記無機塗料が塗布されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、分煙ブースには、個室状に形成されているから、分煙ブースの内部で発生したタバコの煙が、ブースの外に漏れ出し難くなっている。また、分煙ブースには、タバコの煙を吸い込んで浄化する空気浄化装置と、タバコの煙に含まれる成分を分解可能な表面活性を有する無機塗料の層が形成されているから、これら両方を複合的に利用してタバコの煙を浄化することができ、分煙ブースの内部が悪臭や黄ばみで汚染され難く、快適性が向上する。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、無機塗料は、タバコの煙に含まれる成分のうち分子量の小さい成分、換言すると、空気浄化装置で除去できなかった成分を分解することができる。従って、空気浄化装置に無機塗料を組み合わせることで、従来、空気浄化装置だけでは除去しきれなかったタバコの煙の成分を除去することができ、分煙ブースの内部の汚染に加え、健康面でも改善することができる。
【0013】
また、空気浄化装置と無機塗料のいずれか一方を分煙ブースに備えた場合に比べて、タバコの煙の処理に対する各々の負荷が軽減されるので、分煙ブースの内部を、素早く快適にすることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、無機塗料は、光触媒作用または放射性物質による作用で、タバコの煙の成分を分解して無害化し、分煙ブースの内部を浄化することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、空気浄化装置の外側の面にも無機塗料が塗布されているから、タバコの煙と接触可能な無機塗料の層の表面積が拡大し、タバコの煙に対する浄化性能が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本願発明の基本的な実施形態について説明する。実施形態の分煙ブース1は、既存の建造物の内部に設置されるブースであって、図1に示すように、互いに直交して配置された4つ(4面)の側壁部2と、平面視矩形状の天井部3と、側壁部2の1つに設けられた出入口となる開閉戸4とを備えて直方体の個室状に形成されている。床材は、既存の建造部の床材を利用している。
【0017】
側壁部2と天井部3とは、パネル材を組み立てて構成されているが、側壁部2の全面または上半分程度を内部が視認できる透光性の部材(透明パネル又は半透明パネル)で構成してもよい。図1に示す分煙ブース1の構造はもちろん一例であって、全体形状や扉の開閉構造等は適宜変更でき、また、既存の建造物の壁を分煙ブース1の側壁部として利用したり、既存の建造物の天井を天井部として利用したりして構成してもよい。
【0018】
分煙ブース1の内部には、図2に示すようなテーブル状の分煙装置10が配置されている。分煙装置10は、平面視小判形で左右横長の天板11と、天板11を支持する空気浄化装置20と、その左右両側に配置された吸殻消火装置40とを備えている。
【0019】
天板11の中央部には、汚れた空気を空気浄化装置20の内部に吸引するための吸気穴21が開いており、この吸気穴21に、パンチングメタル製や金網製等の通気性カバー22を着脱自在に装着している。天板11の吸気穴21を挟んだ左右両側の部位には、吸殻消火装置40の内部に吸殻を投入するための吸殻投入口41が開いており、この吸殻投入口41に灰皿状受け部42を着脱自在に装着している。灰皿状受け部には、吸殻Sを投入できる貫通穴43と、吸いかけのタバコを寝かせた状態に仮置きする溝44とが形成されている。
【0020】
空気浄化装置20は、図3及び図4に示すように、底板23を有する金属板製の外箱(本体ケース)24を備えていて、外箱24の側面には開閉式の扉25が設けられている。外箱24の内部は、左右の仕切り板26により、中央の吸引エリア27とこれを挟んだ左右に設けた放散エリア28とに分けられていて、吸引エリア27には、上から順に、ゴミ捕集網29、フィルターユニット30、脱臭ユニット(光触媒式や活性炭式等)31、ファン32が配置されている。
【0021】
つまり、ファン32によって、空気浄化装置20に引き込まれた空気は、ゴミ捕集網29、フィルターユニット30、脱臭ユニット(光触媒式や活性炭式等)31を順次通過することによって、タバコの煙の成分(詳細には後述するように、タバコの煙の成分のうちの分子量の大きい成分)が、ろ過、吸着され、空気から分離除去される。
【0022】
吸引エリア27と放散エリア28とは下部において連通していて、放散エリア28に流入した浄化済み空気は、外箱24に形成した排気口33から機外に放出される。
【0023】
吸殻消火装置40は、図3及び図4に示すように、金属板製のボックス45を備え、その内部のうちの上部には、吸殻投入口41に投入された吸殻を受ける上広がり漏斗状のホッパー46が配置されている。ホッパー46の下部は幅狭になっており、その下方に消化部の一例として、吸殻をもみ消す1対のローラ47(図4では手前側のローラのみを簡易に図示している)を配置している。このローラ47は、吸殻が落下したことをセンサ48で検出すると、駆動源であるモータ49によって回転駆動して吸殻をもみ消すように構成されている。モータ49の下方の部分には、吸殻容器50が着脱自在に配置されている。
【0024】
なお、図示した分煙装置10は、本願発明で使用できるものの一例であり、空気浄化装置20は、例えば2台のファンを備えているタイプや、吸着やろ過の方式の異なるタイプ等、様々の構造を採用できる。また、分煙装置10は、吸殻消火装置40を備えない(空気浄化装置20のみを備える)構造や、天板11を備えない(テーブル式でない)構造でもよい。
【0025】
一方、分煙ブース1の側壁部2、天井部3、及び開閉戸4の内測の面には、表面活性を有する無機塗料60の層が形成されている。この無機塗料60の層は、分煙ブース1を組み立てた後にその内側の面に塗布し乾燥させることで、皮膜(表面層)として形成している。他の方法として、無機塗料60が表面層として形成されている建材をあらかじめ用意し、この建材で側壁部2や天井部3、開閉戸4を形成してもよい。なお、無機塗料60を建材に後から塗布して乾燥させる方法は、既存の建材や、壁、天井を分煙ブース1に利用するときに有効である。
【0026】
また、無機塗料60を、分煙装置1の外側の面(天板11等)に塗布したり、床材に塗布したりしてもよい。つまり、分煙ブース1の内部で、タバコの煙に接触可能な面には、可能な限り無機塗料60でコーティングすることが望ましい。
【0027】
無機塗料60には、第1実施形態では、アクパイトジャパン(株)社製の表面活性を有する無機塗料(製品名「ワンダーライフ」)を適用しており、この無機塗料60は、後述する実証実験でもわかるように、タバコの煙に含まれる成分を分解することができる。無機塗料60の組成は、(a)一般式MO・nSiO(但し、MはNa、及びRN(Rは一価の有機酸)、nは自然数)で表されるシリカゾルをSiO換算で1〜35重量部、(b)イオン発生物質を0.1〜30重量部、(c)無機充填材を0〜50重量部、(d)水を5〜80重量部で、(a)+(b)+(c)+(d)=100重量%となるように調整されたものを用いている。
【0028】
(a)の成分は、単体のままで、あるいは硬化剤と併用して、低温加熱(40〜150℃)又は常温で乾燥、硬化して膜を形成する性質を有しているものであればよく、具体的にはケイ酸(SiO)をナトリウム溶液又は第4級アンモニウム塩溶液等の分散媒に懸濁させて調整したものである。
【0029】
(b)のイオン発生物質は、イオン発生機能を備えた物質であって、大気中の水蒸気及び炭酸ガスを同時的に接触させると、過酸化水素と水素を生じさせる性質を備えた非水溶性の物質である。具体的には、光によって上記性質が喚起される物質(光触媒)、及び放射能を有する物質(放射性物質)の群から選ばれた、少なくとも1種である。
【0030】
詳しくは、前記光触媒は、紫外線によって上記作用が励起される性質のアナターゼ型酸化チタン、非可視光線によって上記作用が励起される性質の燐酸チタニア系化合物であり、前記放射性物質は、放射能を有する鉱石もしくはセラミックである。放射能物質は、放射能370ベクレル/g(放射線濃度)以下の使用届不要物質が実用の安全上望ましい。
【0031】
(c)の無機充填材は、塗膜の着色、厚みや硬度調整等の用途に応じて用いるものである。このような無機充填材としては、非水溶性で粒子状もしくは繊維状のものが望ましく、無機体質顔料、無機顔料、機能性顔料、金属粉等があり、これらの群から選ばれた1種または2種以上である。
【0032】
具体的には、無機体質顔料及び機能性顔料としては、シリカ、ジルコン、アルミナ、カオリン、タルク、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、各種のウイスカー、セルベン、ベントナイト、トルマリン、フェライト、カーボン等があり、無機顔料としては、チタン、クロム、鉄、亜鉛、コバルト、マンガン、ニッケル等の酸化物及びこれらの複合化合物等である。金属粉としては、鉄粉、ステンレス粉、ニッケル粉、真鍮粉、銅粉、亜鉛粉等であるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
上述した構成の分煙ブース1では、空気浄化装置20が灰皿状受け部(吸殻消火装置40)に隣接するように一体化して設けられているうえに、ファン32により吸引しているから、分煙ブース1の内部で喫煙すると、側壁部2や天井部3、開閉戸4の内側の面に形成されている無機塗料60の層よりも先に、タバコの煙は空気浄化装置20に吸引される。
【0034】
ところが、空気浄化装置20は、タバコの煙の成分のうち、分子量の大きな成分(粒子状の成分)を主に除去し、分子量の小さい成分(ガス状の成分)は排気口33から排出してしまう。なお、タバコの煙の成分のうち分子量の大きい成分としては、ニコチン、タール等があり、分子量の小さい成分としては、一酸化炭素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ピリジン等がある。
【0035】
一方、側壁部2や天井部3、開閉戸4の内側の面に塗布されている無機塗料60の層は、タバコの煙の成分を分子量にかかわらず分解することができる。そのため、空気浄化装置20で除去しきれず排出されたタバコの煙における分子量の小さい成分(ガス状の成分)や、空気浄化装置20で吸引しきれなかった(吸い込まれなかった)煙が、浮遊して無機塗料60に接触すると、無機塗料60によって分解されて無害化されるのである。
【0036】
つまり、本願発明の分煙ブース1では、通常、空気浄化装置20で除去できないタバコの煙における分子量の小さい成分も、無機塗料60の層を設けることで、分解して除去することができるから、タバコの煙に対する浄化性能に優れている。そのため、分煙ブース1の内部の悪臭や煙を確実に解消して快適性が向上されるとともに、黄ばみを防ぐから清掃等の負担も軽減される。また、特に、タバコの煙には、発がん性物質も含まれているから、浄化性能を高めることで、健康面でも改善を図ることができる。
【0037】
また、仮に、空気浄化装置20を設けずに無機塗料60のみでタバコの煙をすべて処理すると、無機塗料60の処理能力を超えてしまい、その結果、分煙ブース1内の悪臭や煙の解消に時間を要するようになったり、側壁部2等に黄変を招いたりする虞がある。しかしながら、本願発明のように、空気浄化装置20と無機塗料60とを組み合わせて複合的にタバコの煙を処理し、分子量の大きい煙の成分を主に空気浄化装置20によって除去させるようにしているので、無機塗料60の負担を軽減することができる。そのため、空気浄化装置20と無機塗料60とが各々単独で設けられた場合に比べて、タバコの煙に対する除去や分解を素早く確実に行うことができるのである。
【0038】
また、無機塗料60の層がタバコの煙の浄化を分担することで、空気浄化装置20も処理の負荷が軽減されるため、フィルターユニット30や脱臭ユニット31の交換の時期を延ばすことができ、消耗品のコスト軽減を図ることができる。
【0039】
なお、無機塗料60の第2実施形態として、アクパイトジャパン(株)社製の別の無機塗料(製品名「ワンダーライフ」)を用いてもよい。この別の無機塗料は、(a)一般式MO・nSiO(但し、Mはアルカリ金属のNa、K,及びLiであり、nは自然数)で表されるアルカリケイ酸塩を、SiO換算で1〜25重量部、(b)放射性物質を0.1〜30重量部、(c)無機充填材を0〜70重量部、(d)水を3〜90重量部で、(a)+(b)+(c)+(d)=100重量%となるように調整されたものを用いている。
【0040】
(a)の成分は、具体的には、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウム等であって、常温又は加温により乾燥させると薄膜を生じ、結合剤の働きをするものである。(b)の放射性物質は、放射線を発生する天然の鉱石あるいはセラミックの形態のものである、天然鉱石として、ウラン系列、アクチニウム系列、トリウム系列等に属する元素を内蔵する物質である。また、これらの物質を用いて調整したセラミックスでもよい。(c)の無機充填材は、第1実施形態の無機塗料60の(c)無機充填材として例示した材料の中から選択して適用される。
【0041】
この第2実施形態の無機塗料60も消臭やヤニの分解に効果を奏するが、特に、耐火性に優れていて、木材や紙、布等の可燃性基材にコーティングすると、基材に難燃性を付与することができる。
【0042】
次に、第1実施形態の無機塗料60について、その効果を実証する実験を行ったので、結果について説明する。実験は、タバコの煙の成分に含まれる、ホルムアルデヒドとアンモニアの2種類のガス成分を対象にして、密閉空間における各ガスの濃度が無機塗料60によって低下するか否を確認した経時変化の実験と、各ガスが無機塗料60によって分解されたか否かを確認する加熱実験との2種類を行った。
【0043】
実験1は、ホルムアルデヒドの濃度の経時変化を確認した実験である。詳細には、100L(リットル、以下同様に記載する)のテドラーバッグの内部に、無機塗料60を塗布した合板を設置し、そのテドラーバッグに一定の濃度に調整したホルムアルデヒドを100L注入した。そして、一定時間毎(暴露初期、1、2、3、6時間後)に、テドラーバッグ内の空気を試料としてDNPHカートリッジに捕集した。試料を捕集したDNPHカートリッジは、いずれもアセトニトリルで溶出を行い、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)で濃度を測定した。
【0044】
実験1では比較例として、100Lのテドラーバッグの内部に、無機塗料60を塗布した合板を設置せずに、ホルムアルデヒドのみを100L注入し、一定時間毎(暴露初期、1、2、3、6時間後)に、テドラーバッグ内の空気を前述と同様に捕集し濃度の測定を行った。
【0045】
実験2は、ホルムアルデヒドが無機塗料60に分解されたのかあるいは吸着されたのかを確認するための加熱実験である。詳細には、ホルムアルデヒドに6時間暴露した後の無機塗料60が塗布された合板(実験1終了後の合板)を、50Lのテドラーバッグに入れ、清浄空気50Lを注入し、40℃で24時間加熱した後に、内部の空気を試料としてDNPHカートリッジで捕集し、前述と同様に濃度を測定した。
【0046】
実験1の結果を示す図5(a)及び図5(b)では、無機塗料60の合板が設置されていると、設置されていない場合(比較例)に比べて、経過時間とともにホルムアルデヒドの濃度が確実に低下しているため、無機塗料60がホルムアルデヒドを減少させていることがわかる。
【0047】
また、実験2の結果を示す図5(c)では、ホルムアルデヒドは、加熱後であっても、図5(a)の6時間後の結果よりも小さい濃度が検出されただけである。仮に、ホルムアルデヒドが、無機塗料60に吸着されていると、加熱によって再び空気中に放出され、その濃度が上昇すると予測されるが、加熱後のホルムアルデヒドの濃度が低いことから、ホルムアルデヒドは、無機塗料60に分解されたことがわかる。
【0048】
このように、実験1及び2から、無機塗料60は、タバコの煙に含まれるホルムアルデヒドの濃度を低下させることができることが確認できた。そして、無機塗料60はホルムアルデヒドを吸着ではなく分解しているので、再びホルムアルデヒドを放出する虞は極めて低いと考えられ、ホルムアルデヒドを浄化する作用を有すると言える。
【0049】
次に、アンモニアに対して行った実験3は、実験1と同様の経時変化の実験であり、無機塗料60を塗布した合板を、テドラーバッグの中に、アンモニアとともに入れて放置した。そして、一定時間毎(暴露初期、1、2、3、6時間後)に、テドラーバッグ内の空気を試料としてインピンジャーで捕集し、捕集したインピンジャー液をイオンクロマトグラフで測定した。また、実験1と同様に比較例として、無機塗料60を塗布した合板を設置せずに、アンモニアのみを注入し、一定時間毎(暴露初期、1、2、3、6時間後)に、テドラーバッグ内の空気を前述と同様に捕集し濃度の測定を行った。
【0050】
また、実験4は、アンモニアに対して行った加熱実験であり、アンモニアに6時間暴露した後の無機塗料60が塗布された合板(実験3終了後の合板)を、実験2と同様に加熱して、その空気におけるアンモニアの濃度を実験3と同様に測定した。
【0051】
実験3の結果を示す図6(a)及び図6(b)では、無機塗料60の合板が設置されていると、設置されていない場合(比較例)に比べて、経過時間とともにアンモニアの濃度が確実に低下しているため、無機塗料60がアンモニアを減少させていることがわかる。
【0052】
また、実験4の結果を示す図6(c)では、アンモニアは、加熱後であっても、図6(a)の6時間後の結果よりも小さい濃度が検出されただけである。つまり、アセトアルデヒドの場合と同様に、アンモニアは、無機塗料60に吸着されたのではなく分解されたことがわかる。
【0053】
このように、実験3及び4から、無機塗料60は、タバコの煙に含まれるアンモニアに対してもその濃度を低下させることができ、かつ、アンモニアを分解していることが確認できたので、アンモニアに対する浄化作用を有すると言える。
【0054】
なお、実験結果は示していないが、本出願人の実験によると、無機塗料60は、加齢臭の成分であるノネナールや、病院臭の成分であるエタノールに対しても、程度の差があるものの、アセトアルデヒドやアンモニアと同様に分解(浄化)能力を発揮することが確認できている。従って、無機塗料60の層を分煙ブース1に内側の面に設けることで、タバコの煙の成分や悪臭の元となるような成分を浄化することができるため、本願発明では極めて快適性に優れた分煙ブース1を提供することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態の分煙ブースの模式的な斜視図である。
【図2】実施形態の分煙装置の外観斜視図である。
【図3】(a)は分煙装置の正面図、(b)は(a)のIIIb−IIIb線矢視概略断面図である。
【図4】図2のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、ホルムアルデヒドに対する無機塗料の効果を実証する実験結果の説明図である。
【図6】(a)〜(c)は、アンモニアに対する無機塗料の効果を実証する実験結果の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 分煙ブース
2 側壁部
3 天井部
4 開閉戸
10 分煙装置
11 天板
20 空気浄化装置
40 吸殻消火装置
42 灰皿状受け部
60 無機塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個室状に形成された分煙ブースであって、
前記個室の内部には、タバコの煙を吸い込んで浄化する空気浄化装置が設置され、
前記個室の内側の面の全部または一部には、タバコの煙に含まれる成分を分解可能な表面活性を有する無機塗料の層が形成されていることを特徴とする分煙ブース。
【請求項2】
前記空気浄化装置は、前記タバコの煙に含まれる成分のうち分子量の大きい成分を除去し、前記無機塗料は、前記タバコの煙に含まれる成分のうち少なくとも分子量の小さい成分を分解することを特徴とする請求項1に記載の分煙ブース。
【請求項3】
前記無機塗料は、光触媒作用または放射性物質による作用で、タバコの煙の成分を分解する塗料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分煙ブース。
【請求項4】
前記空気浄化装置の外側の面に、前記無機塗料が塗布されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分煙ブース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−112573(P2009−112573A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289666(P2007−289666)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】