説明

分級装置

【課題】 鉛玉を含んだ土壌から鉛玉を除去する作業を容易に行うことができる分級装置を提供する。
【解決手段】 円筒形容器(12)内の底部に円筒形容器と実質的に同心になるように配置され、上部が開放した小型円筒形容器(16)と、円筒形容器内の上方に円筒形容器と実質的に同心になるように配置され、鉛玉を含んだ土を噴出するための噴出器(18)とを備え、ノズル(14)からエアを噴出させて液体を攪拌させた状態で噴出器から鉛玉を含んだ土を噴出させ、土内の重比重の部分を小型円筒形容器内に沈降させるように構成されている分級装置(20)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、分級装置に関する。より詳細には、本発明は、特に射撃場の土から射撃に使用した鉛玉を除去するのに用いられる分級装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射撃場の土壌には、クレー射撃による鉛玉が散乱しているが、鉛玉は、金属鉛を含み鉛含有量が非常に高いため、周囲環境にとって有害である。このような土壌は、直接埋め立て処分をすることができないので、多大の労力とコストを費やして、土壌中の鉛玉を除去している。射撃場の土壌の処理方法としては、たとえば特許文献1に記載されるように、振動による篩分けを利用した方法などが知られている。
【0003】
一方、本発明者は、機械的な駆動源を必要とせずに、流体を効率的に攪拌させることができる攪拌装置を提案している(特許文献2および特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−98013号公報
【特許文献2】特許第3058876号明細書
【特許文献3】特許第4195782号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される処理方法では、鉛玉を含んだ土壌に乾燥促進粉体を混合して混合物を生成し、この混合物を粉砕した後、振動篩分けを行うため、作業に手間がかかるという課題を有している。また、鉛玉を含んだ土壌の処理作業を容易に行うことができる装置は、見受けられない。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、鉛玉を含んだ土壌から鉛玉を除去する作業を容易に行うことができる分級装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、単孔ノズルから液体内にガスを吹き込むと上昇気泡噴流が形成されるが、本発明者は、特許文献2に示したように、一定条件下において、この上昇気泡噴流によって、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出した。すなわち、円筒形容器の内径をD、単孔ノズルと液面との高さの差をH1 とすると、DとH1 との関係が約0.3<H1 /D<約1である場合に、気泡噴流の半径方向変位が比較的小さく、周期が短い旋回現象が発生し、円筒形容器内の液体は、スロッシングに似た挙動を示す。ここで、スロッシングとは、容器が軸方向又は半径方向に加振されることによって液体の振動が誘起される現象をいう。上述の旋回現象は、気泡
の生成、上昇に伴う気体から液体への周期的加振によって誘起されたものと推測される。
【0008】
また、本発明者は、特許文献2に示したように、単孔ノズルから液体内に液体を噴出させると上昇噴流が形成され、上述のガスを液体内に吹き込んだ場合と同様な現象が発生することを見い出した。
【0009】
なお、H1 /D<約0.3である場合には、気泡噴流の半径方向変位が極めて小さいため、旋回は、液体を攪拌するには不十分なものとなる。また、H1 /D>約1である場合には、旋回が安定せず、十分な攪拌効果が得られない。
【0010】
上述の旋回現象が気泡(又は、液体)による液体への周期的な加振によって誘起されるものであるため、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生するためには、吹き込まれるガス(又は、液体)の流量が臨界値以上であり、かつ、気泡(又は、吹き込まれた液体)が液面を吹き抜ける程度以下であることが必要である。なお、本明細書において使用される語「吹き抜け」とは、ノズルから液体中に吹き込まれた気体(又は、液体)が気柱(又は、液柱)を作って液面から外部へ出る現象を意味している。
【0011】
本発明者は、ガス(又は、液体)の流量の臨界値を以下のように算定した。スロッシングに関する研究によれば、容器の加振によって液面における波動が誘起され、この波動が粘性を介して液体の内部に伝わり、液体内部の運動が起こるといわれている。したがって、旋回は、液面の波動現象が抑えられることによって止まるものと推測される。本発明者の実験によれば、加振力の主要な部分は、気泡(又は、液体)が上昇して液面から出る際にほぼ周期的に液体に及ぼす力であろうと結論できる。この力は、上昇する液体の慣性力に依存すると仮定する。また、波動を止めようとする力には、表面張力が関与しているであろう。本発明者は、液体の慣性力と表面張力の比として定義されるウェーバー数We =ρLa 2 /(σL3 )が10-5以上であれば、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを実験により確かめた。すなわち、上式のウェーバー数We =10-5が臨界値となる。ここで、ρL は液体の密度、Qa はガスの吹き込み流量、σL は液体の表面張力、Dは円筒形容器の内径である。
【0012】
上述のように、DとH1 との関係が約0.3<H1 /D<約1である場合に液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生するが、H1 /D=約0.5の場合に、最も好ましい攪拌効果が得られる旋回現象が発生する。
【0013】
一方、単孔ノズルより上方の液体が、図2の矢印Aで示されるように、一方向に旋回すると、角運動量保存則により、単孔ノズルより下方の液体は、図2の矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。単孔ノズルより下方における旋回流Bは、単孔ノズルより上方における旋回流Aを安定化させており、旋回流Aへの固形物等の投入により旋回流Aの速度の低下や乱れが生じても、旋回流Bが存在していれば、容易に元の状態に復帰することができる。このため、単孔ノズルより下方に一定の深さの領域を設けるのが好ましい。容器の底面と単孔ノズルの高さの差をH2 とすると、最も好ましくは、約0.5D<H2 <約2Dである。
【0014】
本願請求項1に記載の、内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた分級装置であって、円筒形容器又は多角形容器内に、液体が収容されており、液面から深さH1 のところに上向きに配向され、液体内に気体を吹き込むためのノズルがほぼ中央に配置されており、深さH1 と内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、約0.3〜約1の範囲にあり、ノズルから液体内に吹き込まれる気体の流量Qa が、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体又は水の密度、σL は液体又は水の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、気体の気泡が液面を吹き抜けない流量以下である分級装置は、前記円筒形容器又は前記多角形容器内の底部に前記円筒形容器又は前記多角形容器と実質的に同心になるように配置され、上部が開放した小型円筒形容器と、前記円筒形容器又は前記多角形容器内の上方に前記円筒形容器又は前記多角形容器と実質的に同心になるように配置され、被処理土を噴出するための噴出器とを備え、前記液体を攪拌させた状態で前記噴出器から前記被処理土を噴出させ、被処理土内の重比重の部分を前記小型円筒形容器内に沈降させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
本願請求項2に記載の分級装置は、前記請求項1の装置において、前記被処理土が、鉛玉が混入した射撃場の土であり、前記重比重の部分が前記鉛玉であることを特徴とするものである。
【0016】
本願請求項3に記載の分級装置は、前記請求項1の装置において、前記被処理土が、海底又は湖底に堆積した土であることを特徴とするものである。
【0017】
本願請求項4に記載の分級装置は、前記請求項1から請求項3までのいずれか1項の装置は、前記円筒形容器又は前記多角形容器内の底部に前記小型円筒形容器と実質的に同心になるように配置され、上部が開放し、前記小型円筒形容器よりも大きな内径を有する第2小型円筒形容器をさらに備えることを特徴とするものである。
【0018】
本願請求項5に記載の分級装置は、前記請求項1から請求項4までのいずれか1項の装置において、前記噴射器が、その先端と前記小型円筒形容器の側壁内面の最上部までの距離Sが、W×tan-1α(ここで、2αは噴射器の噴出角度、2Wは小型円筒形容器の内径)を満足するような位置に配置されることを特徴とするものである。
【0019】
本願請求項6に記載の分級装置は、前記請求項5の装置において、前記噴射角度2αが15°から25°の範囲にあり、好ましくは、前記噴射角度2αが20°であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の分級装置は、プロペラ等の駆動源を必要としないため、構造が極めて簡単であり、従って、装置の製造コスト、維持コストを廉価に押さえることができ、保守点検に要する時間・手間を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る分級装置を示した概略図である。
【図2】図1の分級装置内の液体が旋回している状態を示した模式図である。
【図3】小型円筒形容器と噴出器の位置関係を説明するための図である。
【図4】図1の分級装置による分級作業を示した図である。
【図5】図1の分級装置の変形形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る分級装置について説明する。図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る分級装置は、側壁12aと底壁12bとを有する円筒形容器12を備えている。円筒形容器12の内径は、図1に示されるように、Dである。円筒形容器12内には、底壁12bから液面までの高さがH1 +H2 となるように、攪拌しようとする液体が収容されている。
【0023】
円筒形容器12内のほぼ中央には、液面からの深さがH1 のところに上向きに配向されたノズル14の先端が配置されており、ノズル14は、エアコンプレッサ(図示せず)に連結されている。これにより、エアコンプレッサから供給された空気がノズル14から液体内に上方に向けて噴射されるようになっている。
【0024】
液面からノズル14までの深さH1 と円筒形容器12の内径Dとの比H1 /Dは、約0.3〜約1の範囲にある。好ましくは、比H1 /Dは、約0.5である。
【0025】
図2は、図1の攪拌装置10においてノズル14の先端から空気が噴射され、これにより液体が、矢印Aで示されるように旋回している状態を示した模式図である。この場合において、ノズル14から噴射される空気の流量Qa は、上述のように、ρLa 2 /(σL3 )=10-5を満足する流量以上であり、かつ、空気の気泡が液面を吹き抜ける程度以下である。
【0026】
なお、ノズル14の先端より下方の液体は、上述のように、角運動量保存則により、矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。
【0027】
分級装置10はまた、円筒形容器12内の底部に円筒形容器12と実質的に同心になるように配置された小型円筒形容器16を備えている。ここで、「円筒形容器12と実質的に同心に」とは、円筒形容器12の中心と小型円筒形容器16の中心が実質的に同じになる」ことを意味する。小型円筒形容器16は、内径が2Wの円筒形状であり、上部が開放している。小型円筒形容器16には、後述するように、鉛玉が収容される。
【0028】
分級装置10はさらに、円筒形容器12の上方に円筒形容器12および小型円筒形容器16と実質的に同心になるように配置された噴出器18を備えている。噴出器18は、鉛玉が混入した土を噴出するのに使用される。
【0029】
図3は、小型円筒形容器16と噴出器18の位置関係を説明するための図である。噴出器18からの噴出角度を2αとし、噴出器18の先端と小型円筒形容器16の側壁内面の最上部16aまでの距離をSとし、小型円筒形容器16の内径を2Wとすると、
S=W×tan-1α (1)
の関係が成り立つ。
したがって、噴出器18は、(1)式が成り立つように配置するのが好ましい。
【0030】
噴出器の噴出角度2αは一般に15°〜25°であり、好ましくは20°であることが知られている。故に、詳細には後述するように、噴出角度2αが15°〜25°となるように選定され、好ましくは、噴出角度2αが20°となるように選定される。
【0031】
次に図4を参照して、以上のように構成された分級装置10を使用した鉛玉除去作業について説明する。ノズル14の先端から液体内に空気を供給すると、上述のような原理で、円筒形容器12内の液体は旋回し、攪拌される。この状態で噴出器18から鉛玉が混入した土(鉛玉/土粒子)を液体に向けて噴出する。液体内に投入された鉛玉/土粒子が液体内で旋回・攪拌される際、比重の重い鉛玉が円筒形容器12の中央領域に位置する一方、比重の軽い土粒子は、円筒形容器12の周辺領域に位置することとなる。このようにして、中央領域に位置する鉛玉が沈降して小型円筒形容器16内に収容され、周辺領域に位置する土粒子が円筒形容器12の底部に沈降して、鉛玉と土粒子の分別が行われる。
【0032】
本発明者の実施した実験によれば、噴出角度2αが15°〜25°となるように小型円筒形容器16を配置した場合に、小型円筒形容器16内への鉛玉の回収が良好に行われ、噴出角度2αが20°となるように小型円筒形容器16を配置した場合に、小型円筒形容器16内への鉛玉の回収が最も良好に行われることが確認された。
【0033】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0034】
たとえば、前記実施の形態では、円筒形容器12が使用されているが、容器の平面形状をn角形(n≧3)にした多角形容器(図示せず)を使用してもよい。この場合のDは、n角形の内接円の径となる。
【0035】
また、前記実施の形態では、単一の小型円筒形容器16が円筒形容器12内に配置されているが、図5に示されるように、上部が開放し、小型円筒形容器16よりも大きな内径を有する第2小型円筒形容器20を、小型円筒形容器16と実質的に同心になるように配置してもよい。この実施の形態では、被処理土を3区分に分級することが可能になる。
【0036】
さらに、前記実施の形態では、鉛玉が混入した土の分級に関連して本発明の装置10が説明されているが、本発明の装置10を他の分級用途(例えば、海底又は湖底に堆積した土から不純物を分級する作業)に使用してもよい。
【符号の説明】
【0037】
10 分級装置
12 円筒形容器
14 ノズル
16 小型円筒形容器
18 噴出器
20 第2小型円筒形容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた分級装置であって、円筒形容器又は多角形容器内には、液体が収容されており、液面から深さH1 のところに上向きに配向され、液体内に気体を吹き込むためのノズルがほぼ中央に配置されており、深さH1 と内径又は内接円径Dとの比H1 /Dが、約0.3〜約1の範囲にあり、ノズルから液体内に吹き込まれる気体の流量Qa が、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体又は水の密度、σL は液体又は水の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、気体の気泡が液面を吹き抜けない流量以下である分級装置において、
前記円筒形容器又は前記多角形容器内の底部に前記円筒形容器又は前記多角形容器と実質的に同心になるように配置され、上部が開放した小型円筒形容器と、
前記円筒形容器又は前記多角形容器内の上方に前記円筒形容器又は前記多角形容器と実質的に同心になるように配置され、被処理土を噴出するための噴出器とを備え、
前記液体を攪拌させた状態で前記噴出器から前記被処理土を噴出させ、被処理土内の重比重の部分を前記小型円筒形容器内に沈降させるように構成されていることを特徴とする分級装置。
【請求項2】
前記被処理土が、鉛玉が混入した射撃場の土であり、前記重比重の部分が前記鉛玉であることを特徴とする請求項1に記載された分級装置。
【請求項3】
前記被処理土が、海底又は湖底に堆積した土であることを特徴とする請求項1に記載された分級装置。
【請求項4】
前記円筒形容器又は前記多角形容器内の底部に前記小型円筒形容器と実質的に同心になるように配置され、上部が開放し、前記小型円筒形容器よりも大きな内径を有する第2小型円筒形容器をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された分級装置。
【請求項5】
前記噴射器が、その先端と前記小型円筒形容器の側壁内面の最上部までの距離Sが、W×tan-1α(ここで、2αは噴射器の噴出角度、2Wは小型円筒形容器の内径)を満足するような位置に配置されることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された分級装置。
【請求項6】
前記噴射角度2αが15°から25°の範囲にあり、好ましくは、前記噴射角度2αが20°であることを特徴とする請求項5に記載された分級装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−27816(P2013−27816A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165080(P2011−165080)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(599083547)
【出願人】(500430903)株式会社ヒューエンス (7)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】