説明

分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント

【課題】より軽量化を求め、高度に異型化された分繊用ポリエステルマルチフィラメント、このポリエステル分繊糸、これを用いた布帛やクッション材を提供すること。
【解決手段】単糸の断面が円形のコア部と該コア部から放射状に突出し、かつ該コア部の長さ方向に沿って連続した複数のフィン部からなるポリエステルフィラメントであって、以下の条件(1)〜(2)を満足する分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント。
(1)繊維断面コア部から放射状に突出したフィンの数が3以上6以下
(2)断面の異型係数が20%〜70%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度に異型化された断面を有する分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントに関する。さらにには、分繊後に嵩高性に優れ軽量感を有するポリエステル分繊糸、この分繊糸を用いた布帛またはクッション材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モノフィラメントを効率的に生産する方法として、複数本の細繊度糸条を合糸して太繊度の多条マルチフィラメント糸として巻き取り、その後、分割して細繊度の糸条を得る、いわゆる「分繊」と呼ばれている方法が提案されている。
この分繊糸は、カーテン、オーガンジー、クッション材などに広く用いられているが、いままでこれら製品により軽量化という面においては、あまり検討されてこなかった。
一方、特開平11−269718号公報(特許文献1)には、吸水特性を高めるために高度に異形化された繊維断面、すなわち扁平度が2〜4、W字状繊維断面の各凹部の開口角度が100〜150度の繊維断面形状をなす、部分配向ポリエステル繊維が開示されている。しかし、このような開口角度の大きなW字型繊維断面を有する部分配向ポリエステル繊維を延伸仮撚加工すると、得られる延伸仮撚加工糸のW字開口角度はより拡大して、繊維同士が密着充填した繊維集合体となりやすく、軽量化という面においては、充分な効果が発現しなかった。
【特許文献1】特開平11−269718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、分繊という分野において、より軽量化を求め、高度に異型化された分繊用ポリエステルマルチフィラメント、このポリエステル分繊糸、これを用いた布帛やクッション材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ポリエステルを構成する酸成分の85モル%以上がテレフタル酸成分からなり、断面が円形のコア部と該コア部から放射状に突出し、かつ該コア部の長さ方向に沿って連続した複数のフィン部からなるポリエステルフィラメントであって、以下の条件(1)〜(2)を満足することを特徴とする分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントに関する。
(1)繊維断面コア部から放射状に突出したフィンの数が3以上6以下
(2)断面の異型係数が20%〜70%
ただし、断面の異型係数は、下記式によって求められる値である。
異型係数=〔(a―b)/a〕×100
ここで、
:フィン部を含めた断面径。ただし、フィン長が異なる場合は、その最大幅
:コア部の径。ただし、コア部が真円の場合はその直径、また、真円でない場合はその外接円直径
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、単糸繊度が10〜40デシテックスであって、フィラメント数が4〜20本であることが好ましい。
次に、本発明は、上記分繊用異型マルチフィラメントを、分繊、あるいは仮撚加工後分繊してなる、繊維空隙率が10〜50%である分繊糸に関する。
次に、本発明は、上記分繊糸を使用した布帛またはクッション材に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、適切な断面形状とすることにより、非常に軽量化された分繊糸が得られる。また、この分繊糸を使用した製品は、今までにない軽量感が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いるポリエステルは、構成する酸成分の85モル%以上がテレフタル酸からなり、少なくとも1種のグリコール、好ましくはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ぶことができる。かかるポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲で従来公知の共重合成分が含まれていてもよく、例えば、かかるポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲内、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲内で従来公知の共重合成分が含まれていてもよく、例えば、イソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、ρ−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のなどの芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸を挙げることができる。また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコールなどを挙げることができる。また、必要に応じて、適宜、艶消し剤、制電剤、安定剤などの添加剤または、アルカリ減量により繊維表面に微細孔やフィブリルを形成させることができる添加剤などを含むことができる。
【0007】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成したものでよい。例えば、ポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、通常、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステルか反応させるか、テレフタル酸ジメチルのなどのテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、またはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成ものを減圧下加圧して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造される。
【0008】
この重縮合工程で得られるポリエステルは、通常、溶融状態で押し出しながら、冷却後、粒状(チップ状)のものとなす。
得られたポリエステルの固有粘度は、0.40〜0.80、好ましくは0.50〜0.70であることが望ましい。
【0009】
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、図1〜6に示すように、繊維断面コア部から放射状に突出したフィンを有するが、この数が3以上6以下でなければならない。フィンの数が3未満であると、後述する断面の異型係数との関係もあるが、開口部が広くなり過ぎ十分な繊維間空隙が得られず、軽量という面において不十分となる。一方、フィンの数が6を超えると、製糸上のパフォーマンスが低下したり、また仮撚した場合の変形で繊維空隙率が低下し易くなる。好ましくは、4以上6以下である。
【0010】
また、本発明の上記マルチフィラメントの断面の異型係数は、20〜70%、好ましくは30%〜70%である。図7は、その異型係数の求め方を示す。ただし、断面の異型係数は、下記式によって求められる値である。
異型係数=〔(a―b)/a〕×100
ここで、
:フィン部を含めた断面径。ただし、フィン長が異なる場合は、その最大幅
:コア部の径。ただし、コア部が真円の場合はその直径、また、真円でない場合はその外接円直径
すなわち、異型係数が20%未満の場合は、分繊または仮撚分繊した後の繊維空隙率が不十分なものとなり、軽量感が乏しくなる。一方、70%を超えると、分繊時に糸分けが難しくなることや、仮撚加工などの物理的衝撃を与えた場合、断面の変形が大きく空隙率も低下し易くなる。従って、単糸の異型係数は、20〜70%であることが必要であり、30%〜70%の範囲が好ましい。
なお、繊維の空隙率は、通常の丸断面糸に対する捲取密度から算出した。
【0011】
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、前述の如く特定の突出したフィンおよび単糸断面の異型係数を有し、かつ繊維の物性を適切な範囲に調整することが重要である。これは、ポリエステルの紡糸速度、紡糸温度、冷却条件、単糸繊度、断面形状など諸条件によって変えることができる。
また、本発明のポリエステルマルチフィラメントの単糸繊度は、好ましくは5〜40デシテックスであり、これは、例えばオーガンジーなどの製品にした場合の品位の点によるものである。また、フィラメント数は、好ましくは4〜20あることが、分繊性が良好であり好ましい。
【0012】
以上に説明した、本発明のポリエステルマルチフィラメントは、例えば以下の方法で製造することができる。すなわち、固有粘度が0.55〜0.80のポリエチレンテレフタレートを通常の条件で乾燥し、スクリュウエクストルーダーなどの溶融押出機で溶融し、例えば、特許第3076372号公報に開示されているような、コア部形成用円形吐出孔(本発明の図8の3)の周囲に間隔を置いて配置された3〜6個、好ましくは4〜6個の小円状開口部(図8の5)とスリット状開口部(図8の4)とが連結したフィン部形成用吐出孔を配置した紡糸口金(図8)から吐出し、従来公知の方法で冷却、固化後、2,000〜4,000m/min、より好ましくは2,500〜3,500m/minの速度で紡糸後、一旦捲き取りすることなく3,000〜5,000m/minの速度で延伸したりすることにより得ることができる。
【0013】
このとき、コア部形成用円形吐出孔の半径(図8のb2)、該円形吐出孔の中心点からフィン部形成用吐出孔の先端部の長さ(図2のa2)などを変えることにより、繊維断面の異型係数が20〜70%となるように任意に設定することができる。
なお、冷却風は、紡糸口金から5〜15cm下方が上端となるように設置された長さ50〜100cmのクロスフロータイプの紡糸筒から送風するのが望ましい。このほか、一旦巻き取って後で延伸しても良いし、未延伸糸として捲取ることでも良い。
【0014】
このようにして得られる本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、そのままで分繊することもできるし(例えば、特開昭59−116405号公報参照)、あるいは、仮撚加工後、分繊し(例えば、特開平1−229832号公報、特開平10−251926号公報参照)、ポリエステル分繊糸とすることができる。
このようにして得られる分繊糸の繊維空隙率は、好ましくは10〜50%である。繊維空隙率が10%未満では、軽量感が乏しくなる場合がある。一方、50%を超えると、糸の取扱い性が低下する場合がある。
なお、繊維空隙率は、下記のように、通常の丸断面糸に対する捲取密度から算出した。
上記繊維空隙率は、仮撚加工糸でない場合は、異型係数を調節することにより調整することができ、また、仮撚分繊する場合は、仮撚条件により空隙率を調整することができる。
【0015】
このようにして得られる本発明の分繊糸は、オーガンジーなどの製品やカーテンなどの布帛、または、クッション材に使用することで、今までにない軽量性を有する布帛やクッション材が得られ好適である。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例中、繊維空隙率は、次のようにして測定した。
繊維空隙率:
通常の丸断面を有する、120デシテックス/12フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの捲取密度をW1、該ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントと同条件で紡糸、延伸して得た異型面断面ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの捲取密度をW2とし、次式により繊維空隙率を算出した。
繊維空隙率(%)=〔(W1−W2)/W1〕×100
なお、捲取密度Wは、次式により算出される値である。
捲取密度=(g/ρ)/V
ここで、gは捲取重量(g)、ρは捲取ったフィラメントの密度(g/cm)、Vは捲取容量(cm)を表す。
【0017】
実施例1〜3、比較例1
予め、図8に示す吐出孔形状と同じタイプの吐出孔をベースとして、吐出孔群を12群穿設した紡糸口金を準備し、スピンパックに組み込み、各々例No.毎に表1に従って選択し、スピンブロックに装填した。以下、例No.毎に次の操作を実施した。すなわち、固有粘度(o-クロロフェノール、35℃で測定)が0.630dL/gのポリエチレンテレフタレートを160℃で乾燥した後、スクリュウ押出機にて溶融しポリマー導管を通して、スピンブロックに装填された上記のスピンパックに導入し、紡糸口金より吐出した。引き続き、紡糸口金吐出面から下方10cmの位置が上端となるように設置された長さ60cmのクロスフロータイプの紡糸筒から25℃の冷却風を、5Nm/minの割合で、ポリマー流に吹き付つけて、冷却・固化し、紡糸油剤を付与し、2,800m/minの速度で捲き取り、連続して1.6倍に延伸し巻き取り、120デシテックス/12フィラメントのポリエステルマルチフィラメントを得た。実施例1の場合、このフィラメントの異型係数は51%であり、分繊後の繊維空隙率は28%であり十分軽量化されていた。結果を表1に併せて示す。
【0018】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、適切な断面形状とすることにより、非常に軽量化された分繊糸が得られるので、この分繊糸は、カーテン、オーガンジー、クッション材などの製品の素材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】〜
【図6】本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントの繊維断面の1実施態様を示した模式図である。
【図7】本発明の異型係数を測定するための分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントの繊維断面の模式図である。
【図8】本発明の一実施態様で、本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントを紡糸するための口金の正面模式図である。
【符号の説明】
【0021】
1 :繊維断面フィン部
2 :繊維断面コア部
3 :コア部形成用円形吐出孔
4 :フィン部形成用吐出孔のスリット状開口部
5 :フィン部形成用吐出孔の小円状開口部
1 :繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
1 :繊維断面内面壁の内接円半径
2 :コア部形成用吐出孔中心点からフィン部形成用吐出孔先端部までの長さ
2 :コア部形成用吐出孔の半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを構成する酸成分の85モル%以上がテレフタル酸成分からなり、単糸の断面が円形のコア部と該コア部から放射状に突出し、かつ該コア部の長さ方向に沿って連続した複数のフィン部からなるポリエステルフィラメントであって、以下の条件(1)〜(2)を満足することを特徴とする分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント。
(1)繊維断面コア部から放射状に突出したフィンの数が3以上6以下
(2)断面の異型係数が20%〜70%
ただし、断面の異型係数は、下記式によって求められる値である。
異型係数=〔(a―b)/a〕×100
ここで、a:フィン部を含めた断面径。ただし、フィン長が異なる場合は、その最大幅
:コア部の径。ただし、コア部が真円の場合はその直径、また、真円でない場合はその外接円直径
【請求項2】
単糸繊度が10〜40デシテックスであって、フィラメント数が4〜20本である請求項1記載の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント
【請求項3】
請求項1または2記載の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントを、分繊、あるいは仮撚加工後分繊してなる、繊維空隙率が10〜50%である分繊糸。
【請求項4】
請求項3記載の分繊糸を使用した布帛またはクッション材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−31862(P2007−31862A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214505(P2005−214505)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】