説明

分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント

【課題】分繊という分野において、より軽量化と鮮明染色性を求め、高度に異型化されたポリエステル分繊糸や布帛およびクッション材を容易に提供する。
【解決手段】スルホン酸ホスホニウム塩が0.1〜10モル%共重合されたポリエステルに該スルホン酸ホスホニウム塩に対して0.1〜20.0モル%となる量の少なくとも1種のポリエステルと実質的に非反応性の第4級オニウム塩を添加した改質ポリエステルからなり、単糸の断面が円形のコア部と該コア部から放射状に突出し、かつ該コア部の長さ方向に沿って連続した複数のフィン部からなるポリエステルフィラメントであって、以下の条件(1)〜(2)を満足する分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント。
(1)繊維断面コア部から放射状に突出したフィンの数が3以上6以下
(2)断面の異型係数が20%〜70%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度に異型化された断面および鮮明染色性を有する分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントに関する。さらには、分繊後に嵩高性に優れ、軽量感と高い発色性を有する分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント、および布帛またはクッション材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モノフィラメントを効率的に生産する方法として、複数本の細繊度糸条を合糸して太繊度の多条マルチフィラメント糸として巻き取り、その後、分割して細繊度の糸条を得る、いわゆる「分繊」と呼ばれている方法が提案されている。
この分繊糸を用い、カーテン、オーガンジー、クッション材など広く用いられているが、いままでこれら製品により軽量化という面においてあまり検討されてこなかった。また、オーガンジーなど高貴な雰囲気を醸し出す高い発色性が要求される分野でそれを十分満足させるものがなかった。
【0003】
ところで、ポリエステルは、多くの優れた特性を有するがゆえに繊維やフィルムとして広く用いられているが染色性が低く、特に分散染料以外の染料には染色が困難である。この染色性を改良するために種々の提案がなされている。その一つとして、従来から金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合することにより、カチオン染料で染色可能にする方法が知られている(特許文献1:特公昭34−10497号公報)。しかしながら、これらを発色性が十分な程度共重合させた場合、その増粘性が著しく上昇するため、ポリマーの重合度はあまり上げられず、糸強度も結果的に低いものとならざるを得なかった。これら増粘の問題に対して、減粘効果を有するポリアルキレングリコールを添加するといったことも提案されているが、やはり十分な効果が得られていない。さらに、5−スルホナトリウムイソフタル酸共重合ポリマーを紡糸する際に、口金孔の周辺に異物が多量に蓄積し、この異物を取るため一旦生産を休止して口金面の清掃(以下「口金清掃」ともいう)を行うことが度々必要であり工程通過性にも問題があった。
【特許文献1】特公昭34−10497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、分繊という分野において、より軽量化と生産性の向上を求め、高度に異型化されたポリエステル分繊糸や布帛およびクッション材を容易に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリエステルを構成する酸成分の85モル%以上がテレフタル酸からなり、テレフタル酸を主とする二官能カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、少なくとも1種のアルキレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体および該二官能性カルボン酸成分に対して、下記式(I)で表わされるスルホン酸ホスホニウム塩が0.1〜10モル%共重合されたポリエステルに該スルホン酸ホスホニウム塩に対して0.1〜20.0モル%となる量の少なくとも1種のポリエステルと実質的に非反応性の第4級オニウム塩を添加した改質ポリエステルからなり、単糸の断面が円形のコア部と該コア部から放射状に突出し、かつ該コア部の長さ方向に沿って連続した複数のフィン部からなるポリエステルフィラメントであって、以下の条件(1)〜(2)を満足することを特徴とする分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントに関する。

【0006】
【化1】

【0007】
[式中、Aは芳香族基または脂肪族基であり、Xはエステル形成性官能基であり、XはXと同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子であり、R、R、RおよびRのそれぞれは、アルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれる同一または異なる基であり、そしてnは正の整数を示す。]

(1)繊維断面コア部から放射状に突出したフィンの数が3以上6以下
(2)断面の異型係数が20%〜70%

ただし、断面の異型係数は、下記式によって求められる値である。
異型係数=〔(a―b)/a〕×100
ここで、a:フィン部を含めた断面径。ただし、フィン長が異なる場合は、その最大幅
:コア部の径。ただし、コア部が真円の場合はその直径、また、真円でない場合はその外接円直径

ここで、本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、単糸繊度が10〜40デシテックスであって、フィラメント数が4〜20本であることが好ましい。
次に、本発明は、上記分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントを、分繊、あるいは仮撚加工後分繊後してなる、繊維空隙率が10〜50%である分繊糸に関する。
次に、本発明は、上記分繊糸を使用した布帛またはクッション材に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、適切な断面形状とすることにより、非常に軽量化された分繊糸が得られる。また、この分繊糸を使用した製品は、今までにない軽量感が得られる。さらに、得られる分繊糸は、カチオン可染ポリエステルとして十分な強力と発色性が得られると共に、工程通過性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いるポリエステルは、構成する酸成分の85モル%以上がテレフタル酸からなり、少なくとも1種のグリコール、好ましくはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ぶことができる。かかるポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲で従来公知の共重合成分が含まれていてもよく、例えば、かかるポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲内、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲内で従来公知の共重合成分が含まれていてもよく、例えば、イソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、ρ−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸を挙げることができる。また、上記グリコール以外のジオール化合物としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。また、必要に応じて適宜艶消し剤、制電剤、安定剤などの添加剤または、アルカリ減量により繊維表面に微細孔やフィブリルを形成させることができる添加剤などを含むことができる。
【0010】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成したものでよい。例えば、ポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、通常、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステルか反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、またはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成ものを減圧下加圧して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造される。
【0011】
さらに、本発明で用いられるポリエステルには、優れた発色性を得るためにテレフタル酸を主とする二官能カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、少なくとも1種のアルキレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体および該二官能性カルボン酸成分に対して、上記式(I)[式中、Aは芳香族基または脂肪族基であり、X1はエステル形成性官能基であり、XはXと同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子であり、R、R、RおよびRのそれぞれは、アルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれる同一または異なる基であり、そしてnは正の整数を示す]で表わされるスルホン酸ホスホニウム塩が0.1〜10モル%共重合されたポリエステルにスルホン酸ホスホニウム塩に対して0.1〜20.0モル%となる量の少なくとも1種のポリエステルと実質的に非反応性の第4級アンモニウム塩を添加した改質ポリエステルを使用する。これにより、得られる分繊糸は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を共重合した場合と同等の優れた発色性を有する。しかも、上記実質的に非反応性の第4級アンモニウム塩は、スルホン酸ホスホニウム塩に対して増粘効果がほとんどないため、容易にポリエステルの重合度を上げることができるため、得られる繊維は十分な強力が得られる。また、紡糸した際の口金孔周辺の異物が極めて少なくすることができ、特に本発明のような高度に異型された繊維断面を目的とするような異型糸には極めて好適である。
【0012】
かかるスルホン酸ホスホニウム塩は、一般に対応するスルホン酸とホスフィン類との反応、または対応するスルホン酸金属塩とホスホニウムハライド類との反応により容易に合成できる。
上記スルホン酸ホスホニウム塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホウニム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸エチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3−カルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−カルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、4−ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、α−テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸などを挙げることができる。
上記スルホン酸ホスホニウム塩は、1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0013】
上記スルホン酸ホスホニウム塩をポリエステルに共重合するには、前述したポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で、好ましくは第2段階の反応の初期以前の任意の段階で添加すればよい。
スルホン酸ホスホニウム塩をポリエステルに共重合させる割合は、ポリエステルを構成する酸成分(スルホン酸ホスホニウム塩を除く)に対して0.1〜10モル%の範囲であり、0.5〜5モル%の範囲が好ましい。共重合割合で0.1モル%より少ないと、得られる改質ポリエステル組成物をカチオン染料で染色した際の濃色性や鮮明発色性が不十分になり、一方、10モル%より多くなると濃色性や鮮明発色性は最早著しい向上を示さず、かえって改質ポリエステル組成物の物性が低下し、本発明の目的を達成し難くなる。
【0014】
また、本発明で用いられるポリエステルには、上記スルホン酸ホスホニウム塩に対して0.1〜20.0モル%となる量の少なくとも1種のポリエステルと実質的に非反応性の第4級オニウム塩を添加する。
上記第4級オニウム塩としては、上記ポリエステルと実質的に非反応性の第4級オニウム塩が全て使用できる。
上記第4級オニウム塩としては、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩などが挙げられる。
【0015】
このうち、第4級アンモニウム塩としては、具体的には水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトライソプロピルアンモニウム、塩化テトライソプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラフェニルアンモニウム、塩化テトラフェニルアンモニウムなどが例示される。
【0016】
また、第4級ホスホニウム塩としては、テトラメチルホスホニウムクロライド、テトラメチルホスホニウムアイオダイド、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド、テトラエチルホスホニウムクロライド、テトラプロピルホスホニウムクロライド、テトライソプロピルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムアイオダイド、テトラブチルホスホニウムハイドロオキサイド、エチルトリオクチルホスホニウムクロライド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムクロライド、エチルトリヘキシルホスホニウムクロライド、シクロへキシルトリブチルホスホニウムクロライド、弁じるトリブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムハイドロオキサイド、オクチルトリメチルホスホニウムクロライド、オクチルジメチルベンジルホスホニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルホスホニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルホスホニウムハイドロオキサイド、ステアリルトリメチルホスホニウムクロライド、ラウリルトリメチルホスホニウムエトサルフェート、ラウリルベンゼントリメチルホスホニウムメトサルフェート、ラウリルジメチル−o−クロルベンジルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムトシレート、テトラブチルホスホニウムステアレート、テトラブチルホスホニウムオレエート、テトラブチルホスホニウムホスフェート、テトラブチルホスホニウムホウファイト、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムアイオダイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムブロマイド、エチレンビストリス(2−シアノエチル)ホスホニウムブロマイド、トリス−2−シアノエチルアリルホスホニウムクロライドなどが例示される。
【0017】
中でも、第4級アンモニウム塩は、他の第4級オニウム塩に比較して安価に入手できるので、コスト的な観点から工業的には第4級アンモニウム塩を使用するのが好ましい。上記第4級アンモニウム塩の使用量はあまりに少ないと耐熱性を改善する効果が不十分になり、逆にあまりに多くなると、かえって耐熱性が悪化するようになり、そのうえ生成ポリエステルや成形物が黄褐色に着色する傾向が顕著になる。
このため、第4級オニウム塩の使用量は、上記スルホン酸ホスホニウム塩に対して0.1〜20モル%の範囲であり、好ましくは1〜10モル%の範囲である。かかる第4級オニウム塩の添加時期は、上記ポリエステルの溶融成形以前の任意の段階でよく、例えばポリエステルの原料中に添加しても、第1段階の反応中に添加しても、第1段階の反応終了後から第2段階の反応開始までの間に添加しても、第2段階の反応中に添加しても、第2段階の反応終了後から溶融成形開始までの間に添加しても良い。第4級オニウム塩と上記スルホン酸ホスホニウム塩との添加順序は任意で良く、両者をあらかじめ混合した後に添加することもできる。このようにすることにより、高強力に必要である固有粘度が0.53以上、好ましくは0.60以上、さらに好ましくは0.64以上で、黄色の少ない白度に優れたポリエステルが得られる。
【0018】
以上の重縮合工程で得られるポリエステルは、通常、溶融状態で押し出しながら、冷却後、粒状(チップ状)のものとなす。
得られたポリエステルの固有粘度は、0.40〜0.80、好ましくは0.50〜0.70であることが望ましい。
【0019】
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、図1〜6に示すように、繊維断面コア部から放射状に突出したフィンを有するが、この数が3以上6以下でなければならない。フィンの数が3未満であると、後述する断面の異型係数との関係もあるが、開口部が広くなり過ぎ十分な繊維間空隙が得られず、軽量という面において不十分となる。一方、フィンの数が6を超えると、製糸上のパフォーマンスが低下したり、また仮撚した場合の変形で繊維空隙率が低下し易くなる。好ましくは、4以上6以下である。
【0020】
また、本発明の上記マルチフィラメントの断面の異型係数は、20〜70%、好ましくは30%〜70%である。図7は、その異型係数の求め方を示す。ただし、断面の異型係数は、下記式によって求められる値である。
異型係数=〔(a―b)/a〕×100
ここで、
:フィン部を含めた断面径。ただし、フィン長が異なる場合は、その最大幅
:コア部の径。ただし、コア部が真円の場合はその直径、また、真円でない場合はその外接円直径
すなわち、異型係数が20%未満の場合は、分繊または仮撚分繊した後の繊維空隙率が不十分なものとなり、軽量感が乏しくなる。一方、70%を超えると、分繊時に糸分けが難しくなることや、仮撚加工などの物理的衝撃を与えた場合、断面の変形が大きく空隙率も低下し易くなる。従って、単糸の異型係数は、20〜70%であることが必要であり、30%〜70%の範囲が好ましい。
なお、繊維の空隙率は、通常の丸断面糸に対する捲取密度から算出した。
【0021】
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、前述の如く特定の突出したフィン及び単糸断面の異型係数を有し、かつ繊維の物性を適切な範囲に調整することが重要である。これは、ポリエステルの紡糸速度、紡糸温度、冷却条件、単糸繊度、断面形状など諸条件によって変えることができる。
また、本発明のポリエステルマルチフィラメントの単糸繊度は、好ましくは5〜40デシテックスであり、これは、例えばオーガンジーなどの製品にした場合の品位の点によるものである。また、フィラメント数は、好ましくは4〜20あることが、分繊性が良好であり好ましい。
【0022】
以上に説明した、本発明のポリエステルマルチフィラメントは、例えば以下の方法で製造することができる。すなわち、固有粘度が0.55〜0.80のポリエチレンテレフタレートを通常の条件で乾燥し、スクリュウエクストルーダーなどの溶融押出機で溶融し、例えば、特許第3076372号公報に開示されているような、コア部形成用円形吐出孔(本発明の図8の3)の周囲に間隔を置いて配置された3〜6個、好ましくは4〜6個の小円状開口部(図8の5)とスリット状開口部(図8の4)とが連結したフィン部形成用吐出孔を配置した紡糸口金(図8)から吐出し、従来公知の方法で冷却、固化後、2,000〜4,000m/min、より好ましくは2,500〜3,500m/minの速度で紡糸後、一旦捲き取りすることなく3,000〜5,000m/minの速度で延伸したりすることにより得ることができる。
【0023】
このとき、コア部形成用円形吐出孔の半径(図8のb2)、該円形吐出孔の中心点からフィン部形成用吐出孔の先端部の長さ(図2のa2)などを変えることにより、繊維断面の異型係数が20〜70%となるように任意に設定することができる。
なお、冷却風は、紡糸口金から5〜15cm下方が上端となるように設置された長さ50〜100cmのクロスフロータイプの紡糸筒から送風するのが望ましい。このほか、一旦巻き取って後で延伸しても良いし、未延伸糸として捲取ることでも良い。
【0024】
このようにして得られる本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、そのままで分繊することもできるし(例えば、特開昭59−116405号公報参照)、あるいは、仮撚加工後、分繊し(例えば、特開平1−229832号公報、特開平10−251926号公報参照)、ポリエステル分繊糸とすることができる。
このようにして得られる分繊糸の繊維空隙率は、好ましくは10〜50%である。繊維空隙率が10%未満では、軽量感が乏しくなる場合がある。一方、50%を超えると、糸の取扱い性が低下する場合がある。
なお、繊維空隙率は、下記のように、通常の丸断面糸に対する捲取密度から算出した値である。
上記繊維空隙率は、仮撚加工糸でない場合は、異型係数を調節することにより調整することができ、また、仮撚分繊する場合は、仮撚条件により空隙率を調整することができる。
【0025】
このようにして得られる本発明の分繊糸は、オーガンジーなどの製品やカーテンなどの布帛、または、クッション材に使用することで、今までにない軽量性を有する布帛やクッション材が得られると共に優れた発色性を有する。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例中における口金清掃周期、強度、繊維空隙率は、次のようにして測定した。
口金清掃周期:
口金清掃周期は紡糸断糸が8時間に2回以上発生すると口金面を清掃することとし、平均の口金清掃周期(単位一日)で表わす。
強度:
(株)島津製作所製引張試験機テンシロンを用いて、試料長20cm、伸長率20%/minにて伸長試験を行い、得られた荷伸曲線から破断強度を求めた。
【0027】
繊維空隙率:
通常の丸断面を有する、120デシテックス/12フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの捲取密度をW1、該ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントと同条件で紡糸、延伸して得た異型断面ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの捲取密度をW2とし、次式により繊維空隙率を算出した。
繊維空隙率(%)=〔(W1−W2)/W1〕×100
なお、捲取密度Wは次式により算出される値である。
捲取密度=(g/ρ)/V
ここで、gは捲取重量(g)、ρは捲取ったフィラメントの密度(g/cm)、Vは捲取容量(cm)を表す。
【0028】
実施例1
図8に示す吐出孔形状と同じタイプの吐出孔をベースとして、吐出孔群を12群穿設した紡糸口金を準備し、スピンパックに組み込み、スピンブロックに装填した。テレフタル酸ジメチル成分に対して3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラ−n−ブチルホスホニウム塩を1.6モル%およびテレフタル酸ジメチル成分に対してテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドを0.05モル%加えた、固有粘度が0.632dL/gのポリエチレンテレフタレートを160℃で乾燥した後、スクリュウ押出機にて溶融しポリマー導管を通して、スピンブロックに装填された上記のスピンパックに導入し、紡糸口金より吐出した。引き続き、紡糸口金吐出面から下方10cmの位置が上端となるように設置された長さ60cmのクロスフロータイプの紡糸筒から25℃の冷却風を、5Nm/minの割合で、ポリマー流に吹き付つけて、冷却・固化し、紡糸油剤を付与し、2,800m/minの速度で捲き取り、連続して1.6倍に延伸し巻き取り、120dtex/12フィラメントのポリエステル繊維を得た。この繊維の異型係数は70%であり、分繊後の繊維空隙率は45%であり十分軽量化されていた。
【0029】
比較例1
口金の吐出孔を0.3φの丸形状とした以外は、実施例1と同様にポリエステル繊維を得た。分繊後の繊維空隙率は13%と軽量化不十分であった。
【0030】
比較例2
テレフタル酸ジメチル成分に対してポリエステルに5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを2.5モル%を加え、固有粘度が0.490dL/gのポリエチレンテレフタレートを得た。その後、実施例1と同様に、120dtex/12フィラメントのポリエステル繊維を得た。この繊維の異型係数は63%、この繊維の分繊後の繊維空隙率は38%であり、十分軽量化されていたが、糸強力が無添加に比べ低いものであった。





【0031】
【表1】

【0032】
A:3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラ−n−ブチルホスホニウム塩(+テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド)
B:5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントは、適切な断面形状とすることにより、非常に軽量化され、かつ生産性が可及的に向上された分繊糸が得られ、この分繊糸は、カーテン、オーガンジー、クッション材などの製品の素材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】〜
【図6】本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントの繊維断面の1実施態様を示した模式図である。
【図7】本発明の異型係数を測定するための分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントの繊維断面の模式図である。
【図8】本発明の一実施態様で、本発明の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントを紡糸するための口金の正面模式図である。
【符号の説明】
【0035】
1 :繊維断面フィン部
2 :繊維断面コア部
3 :コア部形成用円形吐出孔
4 :フィン部形成用吐出孔のスリット状開口部
5 :フィン部形成用吐出孔の小円状開口部
1 :繊維断面内面壁の内接円中心からフィン部頂点までの長さ
1 :繊維断面内面壁の内接円半径
2 :コア部形成用吐出孔中心点からフィン部形成用吐出孔先端部までの長さ
2 :コア部形成用吐出孔の半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを構成する酸成分の85モル%以上がテレフタル酸からなり、テレフタル酸を主とする二官能カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、少なくとも1種のアルキレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体および該二官能性カルボン酸成分に対して、下記式(I)で表わされるスルホン酸ホスホニウム塩が0.1〜10モル%共重合されたポリエステルに該スルホン酸ホスホニウム塩に対して0.1〜20.0モル%となる量の少なくとも1種のポリエステルと実質的に非反応性の第4級オニウム塩を添加した改質ポリエステルからなり、単糸の断面が円形のコア部と該コア部から放射状に突出し、かつ該コア部の長さ方向に沿って連続した複数のフィン部からなるポリエステルフィラメントであって、以下の条件(1)〜(2)を満足することを特徴とする分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント。
【化1】

[式中、Aは芳香族基または脂肪族基であり、Xはエステル形成性官能基であり、XはXと同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子であり、R、R、RおよびRのそれぞれは、アルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれる同一または異なる基であり、そしてnは正の整数を示す。]

(1)繊維断面コア部から放射状に突出したフィンの数が3以上6以下
(2)断面の異型係数が20%〜70%

ただし、断面の異型係数は、下記式によって求められる値である。
異型係数=〔(a―b)/a〕×100
ここで、a:フィン部を含めた断面径。ただし、フィン長が異なる場合は、その最大幅
:コア部の径。ただし、コア部が真円の場合はその直径、また、真円でない場合はその外接円直径
【請求項2】
単糸繊度が10〜40デシテックスであって、フィラメント数が4〜20本である請求項1記載の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメント
【請求項3】
請求項1または2記載の分繊用異型ポリエステルマルチフィラメントを、分繊、あるいは仮撚加工後分繊してなる、繊維空隙率が10〜50%である分繊糸。
【請求項4】
請求項3記載の分繊糸を使用した布帛またはクッション材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−31863(P2007−31863A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214506(P2005−214506)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】