説明

分離チップおよび分離方法

【課題】本発明は、血液等の懸濁液から血球等の不溶成分を小型の装置で効率よく分離するための分離手段を提供することを目的とする。
【解決手段】チップを、チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度と前記第1回転速度よりも高速の第2回転速度とで順次回転させ、遠心力および重力により懸濁液から不溶成分を分離するためのチップであって、導入された懸濁液を蓄液すると共に、懸濁液から遠心力および重力により分離された不溶成分を保持する第1の貯液槽と、前記遠心力及び重力により分離された懸濁液中の不溶成分以外の成分を流出させるための分離流路とを有し、前記分離流路は、前記第1の貯液槽に接続され、該接続位置から上方に、かつ、第1の回転速度に於ける遠心力と重力の合力に垂直な方向より内周側に延伸していることを特徴とする分離チップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離チップおよび分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨床診断や食品衛生、環境分析に関わる微量分子の分析の殆どは、試料を遠心分離器やガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等を用いて分離した後、質量分析装置を用いて高精度な分析が行われている。これらの分析装置は高価で操作に専門知識が必要であることから、分析は臨床検査会社や分析会社で行われてきた。近年、世の中の流れとしてベッドサイドでの簡便・迅速診断や、食品の加工、輸入の各現場において分析・測定を行い、事故を未然に防ぐことや、河川や廃棄物中の有害物質の分析を河川や廃棄物処理場等の現場で行うことの重要性が注目されており、簡便、迅速、安価かつ高感度に測定が可能な検出法や分析装置の開発が重要視されている。
【0003】
特に、臨床診断のための分析においては、分析時間の短縮や、分析に要する検体量の微量化と同時に、病気の状態を早期に発見するために、微量の検体を用いて高感度に検出することが重要な課題である。しかしながら、現在の一般的な分析方法では被検試料を前述の装置を用いて分離した後に、手作業あるいは分注機などを用いて被測定物質を含む試料成分を取りだして分析を行うため、ハンドリングによるロスや分析に不要な成分の混入などにより分析精度が落ちるという欠点がある。そのため、このような欠点を補うためには高価な自動分注・分析機器が必要であった。
【0004】
そこで近年、これらの課題を解決するために微細加工技術を応用し、数cmサイズのチップ上に流路を形成配置して、そこに被験者の血液などの体液を注入し、分析することができる新しいデバイスの開発が進められている。このようなデバイスの機能として、血液からの血球採取をはじめとして、生体試料からの特定成分の分離手段が求められており、そのための様々な技術が開発されてきた。例えば、遠心力を利用した分離技術が知られており、例えば特許文献1には血液から血球を採取する装置が記載されている。また、特許文献2には、略水平面に配置された流路を有するチップを回転及び停止を繰り返すことで、遠心力により液体の定量保持および供給をすることのできる化学分析装置が記載されている。特許文献3には、略水平面に配置された流路を有するチップを回転させることにより血液から血球を分離し、回転停止後、外部吸引ポンプを用いて血漿成分を分取する手法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平3−270748号公報
【特許文献2】特開2004−212050号公報
【特許文献3】特許第3803078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1のチップは、高精度なスプリングや微細なボールからなるバルブ機構を備えるチップであり、精密部品が複数必要なため、簡便、迅速、安価な分析が求められる微量分析分野において、コスト低減が難しい。また、精密な設計であるため、組み立てに熟練を要するという問題点があった。また、特許文献2のチップは、血清分離動作後にチップを停止させ、血清を毛細管流動によって下流の混合部まで導いているが、実際の臨床検体においては血清中に様々な成分が混在するため、検体の状況によっては成分が大きく異なり、毛細管流動の送液量、送液速度にバラツキが生じるという問題があった。
特許文献3のチップでは、血球分離後に、外部接続の吸引ポンプを接続して血漿成分を回収しているが、外部接続のポンプを必要とするなど、簡便、迅速、安価な分析手段としては不十分であった。
本発明は、血液等の懸濁液から血球等の不溶成分を小型の装置で効率よく分離するための分離手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
〔1〕 チップを、チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度と前記第1回転速度よりも高速の第2回転速度とで順次回転させ、遠心力および重力により懸濁液から不溶成分を分離するためのチップであって、導入された懸濁液を蓄液すると共に、懸濁液から遠心力および重力により分離された不溶成分を保持する第1の貯液槽と、前記遠心力及び重力により分離された懸濁液中の不溶成分以外の成分を流出させるための分離流路とを有し、前記分離流路は、前記第1の貯液槽に接続され、該接続位置から上方に、かつ、第1の回転速度に於ける遠心力と重力の合力に垂直な方向より内周側に延伸していることを特徴とする分離チップ。
〔2〕 前記第1の貯液槽は、前記分離流路の接続部よりもチップの回転軸に対し外周側に突出して形成される保持領域をその一部に備える、〔1〕に記載の分離チップ。
〔3〕 前記分離流路と前記第1の貯液槽の接続部は、前記第1の回転速度に於ける前記不溶成分と、不溶成分以外の成分との界面よりも内周側に位置する〔1〕または〔2〕に記載の分離チップ。
〔4〕 前記分離流路は、その一部が前記第1の回転速度における前記懸濁液の液面を含む平面よりも内周側に位置する〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の分離チップ。
〔5〕 前記分離流路は、前記第2の回転速度における前記懸濁液の液面よりも外周側まで延伸している〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の分離チップ。
〔6〕 前記分離流路の回転軸に対する角度が、27°以下であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の分離チップ。
〔7〕 前記分離流路は、その途中に、該分離流路の外周側に突出したトラップを有する、〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の分離チップ。
〔8〕 不溶成分以外の懸濁液の成分を保持するための第2の貯液槽を有し、前記第2の貯液槽は、前記分離流路を介して第1の貯液槽と連通する、〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の分離チップ。
〔9〕 前記第2の貯液槽と前記分離流路とを接続する排液流路を有し、前記排液流路は、前記分離流路と接続する、〔8〕に記載の分離チップ。
〔10〕 前記懸濁液は、血液、尿、髄液、唾液、痰、細胞懸濁液、担体を含む酵素反応液、担体を含む抗原抗体反応液、および担体を含む試薬溶液から選ばれる、〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の分離チップ。
〔11〕 前記懸濁液は血液であり、不溶成分は血球である、〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の分離チップ。
〔12〕 前記懸濁液は担体を含む試薬であり、不溶成分は担体である、〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の分離チップ。
〔13〕 以下の工程を含む、〔1〕〜〔12〕のいずれか一項に記載の分離チップを用いた懸濁液からの不溶成分の分離方法。
(A)懸濁液を、分離チップの第1の貯液槽に導入する工程
(B)前記分離チップを、チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度で回転させて懸濁液から不溶成分を分離する工程
(C)前記分離チップを、チップ外部の回転軸に対し、前記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で回転させて不溶成分以外の懸濁液成分を分離流路を介して第1の貯液槽から排出する工程
〔14〕 前記第1回転速度で得られる遠心力は、2G〜30Gである、〔13〕に記載の分離方法。
〔15〕 前記第1回転速度は、回転時の前記分離チップにおける前記第1の貯液槽内の液面の傾きが、前記回転軸に対して外周側に2〜27°の角度を有するような速度である、〔13〕または〔14〕に記載の分離方法。
〔16〕 前記第2回転速度で得られる遠心力は、第1回転速度で得られる遠心力よりも3倍以上大きい、〔13〕〜〔15〕のいずれか一項に記載の分離方法。
〔17〕 前記第2回転速度で得られる遠心力は、50G以上である、〔13〕〜〔16〕のいずれか一項に記載の分離方法。
〔18〕 前記第2回転速度は、回転時の分離チップにおける前記第1の貯液槽内の液面の傾きが、前記回転軸に対して外周側に0〜2°の角度を有するような速度である、〔13〕〜〔17〕のいずれか一項に記載の分離方法。
〔19〕 前記懸濁液は、血液、血球、尿、髄液、唾液、痰、細胞懸濁液、担体を含む酵素反応液、担体を含む抗原抗体反応液、および担体を含む試薬溶液から選ばれる、〔13〕〜〔18〕のいずれか一項に記載の分離方法。
〔20〕 前記懸濁液は血液であり、不溶成分は血球である、〔13〕〜〔19〕のいずれか一項に記載の分離方法。
〔21〕 前記懸濁液は担体を含む試薬溶液であり、不溶成分は担体である、〔13〕〜〔19〕のいずれか一項に記載の分離方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転時に働く遠心力および重力を利用することにより、懸濁液から不溶成分以外の成分を効率よく、かつ短時間で分離することができる分離チップ、および該チップを用いる分離方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(本発明の分離チップ)
本発明の分離チップは、チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度と第2回転速度とで順次回転させ、遠心力および重力により懸濁液から不溶成分を分離するチップである。
【0010】
本発明の分離チップは、チップ外部の回転軸の周囲を回転させて用いるものである。本発明において回転とは、ある中心軸(回転軸)を基準に回ることを意味し、自転に対する公転とも呼ばれることがある。回転の軌道は略円形であればよく、軌道半径については特に限定はない。回転時のチップの方向は、通常は、主面(水平横断面において第1の貯液槽や分離流路が観察できる面)を回転軌道の周方向に向けるものとする。特に、懸濁液流路を設ける場合には、回転中のチップからの懸濁液流出を防止する観点から、懸濁液導入口が回転軸側になるように懸濁液流路が傾いた状態で回転させることが好ましい。例えば図1の分離チップAのように、第1の貯液槽10が最も下に位置するように懸濁液流路13を傾かせた状態で、主面を回転軌道の周方向に向けて回転させる。懸濁液流路の傾きは、回転軸に対し10〜80°、好ましくは20〜50°をなすような位置とすることができる。
【0011】
本発明の分離チップの形状は、通常は、主面が立方体または直方体の薄板状である。本発明の分離チップのサイズは、遠心機にセット可能な大きさであればよい。
【0012】
本発明の分離チップの適用対象は、懸濁液である。懸濁液とは、分離したい物質(固体、液体の別を問わない)が混合する液体であればよく、中でも生体成分の混合液が好ましい。例えば、血液、尿、髄液、唾液、痰、および細胞懸濁液などをはじめとする生体から採取される液体を挙げることができる。また、担体を含む酵素反応液、担体を含む抗原抗体反応液、および担体を含む試薬溶液であっても良い。このうち、血液もしくは担体を含む試薬溶液が好ましく、最も好ましくは血液である。懸濁液を分離チップで回転させることにより、懸濁液中に含まれる不溶成分を分離することができる。不溶成分とは、前記した懸濁液を第1回転速度で回転させると懸濁液の他の成分から分離する成分であり、例えば懸濁液が血液の場合には血球であり、細胞懸濁液の場合には各種細胞であり、担体を含む酵素反応液の場合には担体であり、担体を含む抗原抗体反応液の場合には担体であり、担体を含む試薬溶液の場合には担体である。このうち、本発明の分離チップは、懸濁液としての血液から、血球(赤血球、白血球、血小板などの各種血球)を分離するのに用いられることが最も好ましい。また、懸濁液としての担体を含む試薬溶液から、担体を分離するのに用いられてもよい。
【0013】
本発明の分離チップは、上述したように、担体を含む酵素反応液から担体を、担体を含む抗原抗体反応液から担体を、および担体を含む試薬溶液から担体を分離するために用いられてもよい。これにより、担体を含む酵素反応液、担体を含む抗原抗体反応液、および担体を含む試薬溶液中の検体中の被検物質を分析することができる。
【0014】
本発明における被検物質は、タンパク質、糖、脂質、核酸、糖タンパク質、糖脂質などであればよい。例えばサイトカイン、ケモカイン、インターロイキン、アレルゲン、DNA、RNA、抗体、脂質、酵素、その他化学物質等を挙げることができる。特に、本発明における被検物質は抗原または抗体と結合するタンパク質であることが好ましく、より好ましくはサイトカイン/ケモカインである。さらに好ましくは、IL−6、IL−8、TNFである。被検物質の由来生物は問わない。被検物質は1種類であってもよし、2種類以上であってもよい。
【0015】
検体とは、前記被検物質を含む可能性がある試料をいい、液体であることが好ましい。例えば、血液、尿、髄液、唾液、痰、細胞懸濁液などの体液をはじめとする生体から採取される液体を挙げることができる。
【0016】
本発明における抗原抗体反応液とは、抗体もしくは抗原、或いは抗体および抗原の両方を含む溶液である。
【0017】
本発明における試薬溶液の試薬とは、化学物質や薬剤を意味する。例えば、被検物質の検出や洗浄等のための薬剤、物質などであり、更に具体的には、蛍光や酵素で標識された標識抗体(二次抗体)、抗原、結合性タンパク質、蛍光基質、洗浄液等を挙げることができる。また、試薬は免疫学的測定において利用される各種化学物質や薬剤などであってもよく、この場合の試薬溶液としては、例えば、抗原を含む溶液、抗体を含む溶液、洗浄液を含む溶液、酵素基質を含む溶液、検体溶液、などであってもよい。
【0018】
また、本発明における試薬溶液としては、具体的には、検体のほかに、ブロッキング溶液、希釈液、変性剤、標識抗体、標識抗原、未標識抗体、未標識抗原、標識物質、発光基質、蛍光基質、発色基質、過酸化水素水、洗浄液、タンパク質変性剤、細胞溶解液、酵素溶液、標識核酸、未標識核酸、プライマー、プローブ、アビジン、ストレプトアビジン、酵素溶液、緩衝液、pH調製溶液、ハイブリダイゼーション溶液、酵素反応停止液等から選択されたものを含む溶液を挙げることができる。
【0019】
本発明における担体の形状は、球状、楕円球状などのマイクロビーズのほか、円柱、多角柱などのいわゆるマイクロロッド、板状のマイクロプレートであってもよい。
【0020】
担体のサイズは、反応室および分離流路をはじめとする流路のサイズによるが、担体の形状にかかわらず、短径が1〜1000μm、好ましくは10〜200μmの範囲であることが好ましい。
【0021】
担体の材料は特に限定されず、ガラス、セラミック(例えばイットリウム部分安定化ジルコニア)、金属(例えば金、白金、ステンレス)、樹脂(例えばナイロンやポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド)、アガロース等を用いることができるが、この中でも樹脂、特にポリスチレンが好ましい。
【0022】
各担体の形状、サイズ、素材は均一であってもよいし、多様であってもよい。また、担体のすべてに抗原および/または抗体が結合されている必要はなく、何も結合しない担体が一部含まれていてもよい。
【0023】
本発明における担体を含む酵素反応液、担体を含む抗原抗体反応液、および担体を含む試薬溶液において、担体は、抗原および/または抗体が結合した担体であることが好ましい。担体に結合させる抗原および/または抗体は、種々の抗体、FabフラグメントやF(ab')2フラグメントのような抗体の抗原結合性断片、並びに種々の抗原などの中から、免疫分析における検体中の被検物質に特異的に結合する抗原や抗体を適宜選択することができ、1種類であっても、また複数であってもよい。抗原や抗体の担体への結合密度、結合数、結合様式などに特に制限はない。
【0024】
担体に抗原および/または抗体を結合させる方法は、例えば、担体と抗原や抗体とを緩衝液等の溶液中で混合し接触し結合させる方法によることができる。接触による結合は、通常1時間〜24時間(日)、低温、一般には4〜37℃の条件で、必要に応じて攪拌しながら実施することができる。得られた担体は、使用前に緩衝液、洗浄液等で洗浄してもよい。尚、結合方法はこれに限定されず、例えば抗原や抗体と担体とを親水性ポリマー(ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリスルホン酸ナトリウム等)を含む架橋剤を使って化学的に結合させる方法などを利用することもできる。
【0025】
このように、本発明の分離チップに担体を含む酵素反応液、担体を含む抗原抗体反応液、および担体を含む試薬溶液を適用することにより、酵素反応液、試薬もしくは抗原抗体反応液中に懸濁、分散した状態の懸濁液から、担体(不溶成分)と不溶成分以外の成分とを分離することができる。
【0026】
この際、担体量を多くすることでプレートを用いた免疫学的測定より大きい表面積を使用することができ、反応時間を短くすることができるという効果がある。さらに、光学的な検出を行う場合、担体を含む懸濁液のままだと、検出位置に担体が存在することで、担体による光の散乱、吸収、自家蛍光が生じ、測定のばらつきやノイズが生じるが、本発明の分離チップを用いて担体と溶液を分離し、溶液のみで検出を行うことでばらつきを抑えるもしくはノイズ源を無くすことができる。
【0027】
以下、本発明の分離チップを図面を参照しながら説明する。図1〜図9は、本発明の各実施例の分離チップを主面側から見た断面図である。図1〜図9は、いずれもチップの左側に回転軸を有する分離チップである。また、特に図1〜図3および図6は、実際分離チップを回転させる際の、軌道の周方向から見た際の状態で示したものである。
【0028】
本発明の分離チップは、第1の貯液槽と分離流路とを有する。第1の貯液槽は、導入された懸濁液を蓄液すると共に、懸濁液から遠心力および重力により分離された不溶成分を保持するための液槽であり、分離流路は、懸濁液中の不溶成分以外の成分を、主にチップを第2回転速度で回転させた際の遠心力および重力により流出させるためのものである。
【0029】
第1の貯液槽のサイズは、懸濁液を蓄積するのに十分な容積があればよく、例えば懸濁液20μL〜50mLを蓄積できる程度であればよい。また、第1の貯液槽は懸濁液を第1の貯液槽に注入するための開口部に直接的或いは間接的に接続されるものであり、後述のように回転の際の液漏れ防止や、溶液注入の際の操作性等の観点から、開口部に懸濁液流路を介して連結されることが好ましい。
【0030】
第1の貯液槽は、懸濁液の不溶成分を遠心力および重力により分離して保持する。すなわち、第1の貯液槽に導入された懸濁液が、チップが回転することにより遠心力および重力の働きにより不溶成分が分離され、これが、第1の貯液槽の一部に保持される。このため、第1の貯液槽は、不溶成分を保持するための保持領域をその一部に備えることが望ましい。保持領域の位置は、分離流路の接続部よりもチップの回転軸に対し外周側、言い換えれば、分離チップ回転の際の遠心力および重力による加圧方向側に突出して形成されるものであってもよい。
【0031】
図1の分離チップAでは、第1の貯液槽10は、主面から見てチップの回転軸側の下方に設けられている。保持領域11は、回転軸に対し外周側に突出して形成されている。
【0032】
一方、分離流路は、前述した第1の貯液槽に接続され、該接続位置から上方に、かつ、第1の回転速度に於ける遠心力と重力の合力に垂直な方向より内周側に延伸する。これにより、第1の回転速度において、分離流路から懸濁液が流出することなく、遠心力と重力の合力を利用して懸濁液中の不溶成分を分離することができる。図1の分離チップAでは、分離流路20はチップの回転軸側の下部に位置する第1の貯液槽への接続部21から、チップの斜め上方の外周縁22に開口している。
【0033】
分離流路と第1の貯液槽の接続部は、第1の回転速度に於ける前記不溶成分と、不溶成分以外の成分との界面よりも内周側に位置することが望ましい。これにより、懸濁液から不溶成分以外の成分のみを効率的に分離することができる。
【0034】
第1の回転速度に於ける前記不溶成分と不溶成分以外の成分との界面とは、本発明の分離チップを第1の回転速度により回転させた際に、分離チップにかかる遠心力および重力により懸濁液から分離される不溶成分と、懸濁液中の不溶成分以外の成分とに分離されるが、この2つの層の間の界面を意味する。懸濁液の不溶成分は、下層を形成し、不溶成分以外の成分が上層を形成するため、界面はその間に形成される。尚、不溶成分とそれ以外の成分の界面が形成される時期については懸濁液における不溶成分の濃度や比重、懸濁液の種類にもより異なり、第1の回転速度に達した時点で通常は形成されるが、第1の回転速度に達して少し時間が経ってから形成されることもある。
【0035】
前記界面よりも内周側に位置する、とは、本発明の分離チップが回転する際に、分離流路と第1の貯液槽の接続部の方が前記界面よりも回転軸に近い側に位置することを意味する。
【0036】
図8(第1の回転速度により回転させた場合の一例)の分離チップGに示すように、分離流路の第1の貯液槽への接続部21は、第1の貯液槽10中の点部分の懸濁液の、上層(薄色部分)の不溶成分以外の成分と、下層(濃色部分)の不溶成分との界面よりも、チップの回転軸寄りに位置しており、不溶成分以外の成分のみを遠心力および重力により前記分離流路に流入させることができる。
【0037】
また、分離流路の一部は、第1の回転速度における懸濁液の液面を含む平面よりも内周側に位置することが望ましい。これにより、第1の回転速度において、遠心力と重力の合力を利用して懸濁液および懸濁液中の不溶成分を、流路から漏液させることなく効率的に分離することができる。
【0038】
第1の回転速度における懸濁液の液面とは、第1の回転速度で分離チップを回転させた際に懸濁液が第1の貯液槽もしくは懸濁液流路内に形成する液面を意味する。また、前記懸濁液の液面を含む平面、とは、液面が平坦の場合はそのまま液面を意味し、液面が平面以外の場合は、流路中央での液面の接線を意味する。
尚、流路に進入する液は、第1の回転速度による回転を開始してから間もない時点では懸濁液であるが、第1の回転速度による回転により不溶成分の分離が進むに従い、液中の不溶以外の成分の割合が徐々に増加し、場合によっては不溶成分以外の成分のみとなっていることもあり得る。
【0039】
分離流路の一部が、前記懸濁液の液面を含む平面よりも内周側に位置する、とは、本発明の分離チップが第1の回転速度で回転する際に、分離流路の一部、例えば分離流路と第1の貯液槽との接続部〜分離流路の中間点(前記接続部と流路の終点との中間点)より後半にかけての部分が、前記平面よりも回転軸側に位置することを意味する。言い換えれば、チップの主面から観察した場合に、前記懸濁液もしくは不溶成分以外の成分が分離流路の途中までしか流入しておらず終点に達していないことを意味している。
【0040】
図1の分離チップA、図2の分離チップB、図3の分離チップCのそれぞれの分離流路20の後半部分は、第1回転速度での回転時の液面(1)よりも回転軸の内周側に位置している。すなわち、分離流路20の傾きは液面(1)の傾きよりも大きいものとなっており、液面(1)は、分離流路20の途中の地点aまで達しているので、分離流路の終点から懸濁液もしくは不溶成分以外の成分があふれ出すことがない。
【0041】
更に、分離流路は、前記第2の回転速度における前記懸濁液の液面よりも外周側まで延伸していることが望ましい。これにより、第1の回転速度における回転において分離された不溶成分以外の成分を、第2の回転速度における回転により確実に回収することができる。
【0042】
前記第2の回転速度における前記懸濁液の液面、とは、第2の回転速度で分離チップを回転させた際に懸濁液(通常は、第1の回転速度で不溶成分から分離された、懸濁液の不溶成分以外の成分)が第1の貯液槽もしくは懸濁液流路内に形成する液面を意味する。また、前記液面を含む平面、とは、液面が平面の場合はそのまま液面を意味し、液面が平面以外の場合は、上述したのと同様に流路中央での液面の接線を意味する。
【0043】
分離流路が前記第2の回転速度における前記懸濁液の液面よりも外周側まで延伸している、とは、本発明の分離チップが第2の回転速度で回転する際に、分離流路の一部、例えば分離流路と第1の貯液槽との接続部以外の部分、好ましくは分離流路の終点を含む部分よりも、前記液面の方が回転軸側に位置することを意味する。言い換えれば、チップの主面から観察した場合に、前記懸濁液、すなわち不溶成分以外の成分が分離流路の終点に達していることを意味している。
【0044】
図1の分離チップA、図2の分離チップB、図3の分離チップCのそれぞれの分離流路20は、第2回転速度での回転時の液面(2)よりも外周側まで延伸している。すなわち、分離流路20の傾きは水平面に対する液面(2)の傾きよりも小さいものとなっている。すなわち、液面(2)は、分離流路20の終点22まで達しているので、分離流路の終点から不溶成分以外の成分を取り出すことができる。
懸濁液から取り出される不溶成分以外の成分は、不溶成分以外の成分全量である必要はなく、その一部を取り出すことができればよい。
【0045】
分離流路は、上述のように、第1の貯液槽との接続位置から上方に、かつ、第1の回転速度に於ける遠心力と重力の合力に垂直な方向より内周側に延伸することが必要であるが、分離チップの回転軸よりもやや外周方向に延伸することが好ましい。具体的には、分離流路の分離チップの回転軸に対する角度は、実際に用いる第1の回転速度に於ける遠心力に応じて定めることができ、該遠心力と重力の合力の方向とすることが好ましい。例えば、第1の回転速度において2G以下の遠心力を与える場合は、分離流路の分離チップの回転軸に対する角度を27°以下とすることが好ましい。また、第1の回転速度において5G以下の遠心力を与える場合は、分離流路の分離チップの回転軸に対する角度を12°以下とすることが好ましい。さらに、第1の回転速度において10G以下の遠心力を与える場合は、分離流路の分離チップの回転軸に対する角度を6°以下とすることが好ましい。さらに、第1の回転速度において30G以下の遠心力を与える場合は、分離流路の分離チップの回転軸に対する角度を2°以下とすることが好ましい。更に最も望ましくは、上記分離流路の回転軸に対する角度が0〜5°、中でも1〜2°の角度をなすものとすることができる。
図1の分離チップA,図2の分離チップB、図3の分離チップCのそれぞれの分離流路20は、分離チップの回転軸(図の分離チップに対し鉛直方向)に対し、ごく僅かに外周に向かって延伸している。
【0046】
分離流路の外周側の末端においては、後述のような第2の貯液槽を接続することにより、懸濁液の不溶成分以外の成分の回収が容易になるので好ましい。一方、図2の分離チップBおよび図3の分離チップCでは、分離流路20は、接続部21からチップの斜め上方へ向かうが、開口部31と第2の貯液槽30とに連通する排液流路32に接続する。
【0047】
分離流路は、その途中に分離流路の外周側に突出したトラップを有することにより、分離流路内の流れを調節すると同時に、該分離流路に僅かに混入した前記不要成分などを捕捉し、下流の第2の貯液槽に流出するのを防ぐことができるので好ましい。トラップは分離流路の途中の任意の部位、好ましくは後半部分に設けることができる。例えば図4の分離チップDには、トラップ23が、分離流路20の、排液流路32への接続部に近い側に設けられている。
【0048】
分離流路の形状やサイズは、分離流路全体が管形状であればよく、分離流路全体を通じて一定でなくともよい。横断面の形状は円、多角形等特に限定されない。横断面のサイズについても、およそ一定であればよく、懸濁液の不溶成分以外の成分が通過可能なサイズで適宜調整することができる。また、毛管現象によるチップ回転前の分離流路への懸濁液進入を防止するため、横断面のサイズをある程度確保することが好ましい。例えば、短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味するものとする。)は通常10μm〜10mm、好ましくは500μm〜5mmの範囲とすることができる。
【0049】
また、分離流路は必ずしも全部が直線でなくともよく、その一部または全部が曲線や凹凸を描いていてもよい。例えば、図5の分離チップEに示すように、分離流路20のうち第2の貯液槽側の一部24が曲線を描いていてもよい。また、図6の分離チップFに示すように、分離流路20の終端部25において折れ曲がっていてもよい。
【0050】
このように分離流路全体が直線でない場合にも、既に説明したように、分離流路と第1の貯液槽の接続部が、第1の回転速度に於ける前記不溶成分と、不溶成分以外の成分との界面よりも内周側に位置すること、分離流路の一部が第1の回転速度における前記懸濁液の液面を含む平面よりも内周側に位置すること、および、分離流路が第2の回転速度における前記懸濁液の液面よりも外周側まで延伸していること、のそれぞれが好ましい点については言うまでもない。そして、具体的には分離流路のうち最も回転軸に近い部分と第1の貯液槽との接続部分とを結んだ直線を基準として、その直線と分離チップの回転軸とがなす角度が、上述の所定の角度となることが好ましい。
【0051】
前記する第1の貯液槽の開口部は、第1の貯液槽に直接設けることもできるが、懸濁液を注入するための開口部と前記開口部と前記第1の貯液槽とを連結する懸濁液流路を有するものとすることにより、第1の貯液槽への懸濁液の導入が容易になる。
【0052】
懸濁液流路は、前記分離流路への成分の流入を妨げない位置に設けることができ、例えば、前記第1の貯液槽において、前記分離流路と10〜80°、好ましくは20〜60°の角度で交差するように設けることができる。また、チップ外形が直方体(長方形)である場合、懸濁液流路は、チップの回転軸側の辺縁に略平行な直線状となるように設けることができる。
【0053】
懸濁液流路の形状やサイズも、懸濁液流路全体が管形状であればよく、一定でなくともよい。横断面の形状は円、多角形等特に限定されない。横断面のサイズについても、およそ一定であればよいが、懸濁液流路は懸濁液の導入や、分離チップ回転後の不溶成分の回収を容易にする観点から、前記分離流路と比較して幅を広く取ることが好ましい。例えば、短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味するものとする。)が通常1mm〜20mm、好ましくは3mm〜9mmの範囲とすることができる。
【0054】
図1〜5の各実施例の分離チップA〜Eでは、懸濁液流路13が、チップの回転軸側の辺縁に略平行な直線状をなして設けられている。懸濁液流路13は、第1の貯液槽10と接続し、接続部分で分離流路20と交差している。
【0055】
一方、懸濁液流路を設けずに、懸濁液導入口を第1の貯液槽に直接設けてもよい。懸濁液導入口は、懸濁液の漏液を防止する観点から、第1の貯液槽の懸濁液の液面が達しない部分に設けることが望ましい。具体的には、第1の貯液槽の、分離流路の接続部よりもチップの回転軸に対し内周側、かつチップの回転軸に対し鉛直上方に設けることができる。
【0056】
図6に示す分離チップFでは、第1の貯液槽10に懸濁液導入口14が設けられている。懸濁液導入口14は、チップの上方に位置し、また、第1の回転速度における懸濁液の液面(1)および第2の回転速度における懸濁液の液面(2)よりも内周側に位置している。
【0057】
本発明の分離チップにおいては、不溶成分以外の懸濁液の成分を保持するための第2の貯液槽を有するものとすることにより、回収が容易になるので好ましい。この第2の貯液槽は、前記分離流路を介して第1の貯液槽と連通するものである。第2の貯液槽は、分離流路の終端部に位置させることができる。
例えば、図2の分離チップBでは、分離流路20の最終端に第2の貯液槽30が連結して設けられている。また、図6の分離チップFにおいても、分離流路20の終端部25が折れ曲がっておりその先に第2の貯液槽30が設けられており、図示しないが第2の貯液槽30の任意の部分に不溶成分以外の成分を回収するための開口部が設けられる。
【0058】
また、第2の貯液槽と分離流路とは、排液流路により接続されているものであってもよく、これにより、チップ回転停止時の、不溶成分以外の懸濁液の成分の、分離流路への逆流を防ぐことができる。
例えば、図3の分離チップCでは、分離流路20の右上方末端に排液流路32が接続されている。排液流路32は、懸濁液流路13と略平行にチップの上方から下方へ延伸している。排液流路32の下方末端には、第2の貯液槽30が設けられており、上方末端には、開口部31が設けられている。
【0059】
前記分離流路と前記排液流路の接続部分は、角度10〜80°をなすことが好ましい。排液流路は、図3に示すように、懸濁液流路と略平行に位置させることができる。排液流路を設ける場合、第2の貯液槽は、図4の分離チップDのように、分離チップの回転軸から遠い方の辺縁の角部分に位置させることができる。
【0060】
本発明の分離チップの材料は、透明材料であることが、外部から観察が可能となるので好ましい。透明材料としては、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマー、フッ素樹脂、シリコン等の樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体;石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス類およびその複合体;表面を絶縁材料で被覆した金属及びその複合体、セラミックス及びその複合体等が好ましく用いられる。このうち、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートが特に好ましく用いられる。
【0061】
本発明の分離チップの製造方法は、特に限定されない。例えば、各貯液槽および各流路の凹部を形成した板状の基板を別の基板またはフィルムと接合して作製することができる。あるいは、流路を形成するスリットを有する基板を両側から2枚の基板で挟み込むことによって作成する事が出来る。各貯液槽や各流路の凹部の形成は、材料が樹脂の場合には金型を用いた一般的な成形方法、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、ホットエンボッシングなどによることができる。
【0062】
(本発明の分離方法)
本発明の分離方法は、上述の分離チップを用いた懸濁液からの不溶成分の分離方法であり、以下の工程を含む。
(A)懸濁液を、分離チップの第1の貯液槽に導入する工程
(B)前記分離チップを、チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度で回転させて懸濁液から不溶成分を分離する工程
(C)前記分離チップを、チップ外部の回転軸に対し、前記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で回転させて不溶成分以外の懸濁液成分を分離流路を介して第1の貯液槽から排出する工程
【0063】
本発明の分離方法における分離チップ、懸濁液については、本発明の分離チップの項で既に説明した通りである。
【0064】
まず、(A)工程においては、懸濁液を、分離チップの第1の貯液槽に導入する。懸濁液の導入は、ピペットなどを用いて常法に従って行うことができる。(A)工程においては、図7の分離チップGのように、開口部12から懸濁液流路13を通じて懸濁液が導入され、第1の貯液槽10の保持領域11を含む全体に懸濁液(図中網掛け部分)が貯液される。
【0065】
(B)工程においては、分離チップを、チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度で公転させて懸濁液から不溶成分を分離する。回転軸、公転の定義については、本発明の分離チップの説明において説明したとおりである。(B)工程においては、通常は水平方向から見て図8の分離チップGの角度となるように遠心機にセットして、第1回転速度で分離チップGが左側を回転軸として公転するように遠心を開始する。
【0066】
第1の回転速度によって得られる遠心力は、通常は2〜30Gであり、8〜15Gであることが好ましい。
また、第1回転速度は、回転時の前記分離チップにおける前記第1の貯液槽内の液面の傾きが、チップの回転軸(鉛直軸)に対して外周側に通常は2〜27°、好ましくは2〜12°、より好ましくは5〜10°の角度を有するような速度である。この角度は、前記分離チップとして懸濁液流路を有するチップを用いる場合には、懸濁液流路内の液面の傾きが上記範囲になるように規定することも可能である。
【0067】
更に、第1回転速度は、回転時の分離チップにおける分離流路内の液面の傾きが、分離流路と比較して一般に1〜11°、好ましくは3〜6°大きくなるような速度を適宜設定してもよい。
【0068】
尚、本発明において、第1の貯液槽や懸濁液流路のように流路幅が十分広い場合の液面とは、壁面で表面張力によって液面が持ち上がった部分(親水性の場合)ではなく、流路の中央付近における平坦な部分の液面を意味する。一方、分離流路の液面とは、分離流路は流路幅が細いので流路壁面と反対側の壁面に表面張力によって液面が持ち上がった部分が連結し上記第1の貯液槽のような平坦部ができないため、流路中央での液面の接線を液面と定義する。
【0069】
第1回転速度による回転時間は、1〜30分、好ましくは5〜20分とすることができる。
【0070】
(B)工程の例を挙げると、図8の分離チップGの向きで遠心機にセットし、遠心力10Gで20分程度回転する。チップの回転中は、第1の貯液槽10の保持領域11に不溶成分が蓄積されていくと共に、懸濁液(本工程では不溶成分も含まれている可能性がある)が分離流路20を押し上げられ、液面が(1)の線に達する。液面は(1)の線までしか達しないので、排液流路32までは届かない。(B)工程終了時(第1回転速度による回転終了時)には、懸濁液中の不溶成分は保持領域11に蓄積された状態となる。
【0071】
(C)工程においては、分離チップを、チップ外部の回転軸に対し、第2回転速度で回転させて不溶成分以外の懸濁液成分を分離流路を介して第1の貯液槽から排出する。
【0072】
第2回転速度は、第1回転速度よりも高速であることが必要であり、好ましくは第1回転速度で得られる遠心力よりも3倍以上大きいことが好ましい。具体的には、第1回転速度で得られる遠心力よりも50〜3000G高速であることが好ましく、70〜1000G高速であることがより好ましい。具体的な第2回転速度の範囲は、通常は50G以上、好ましくは100G以上である。特に好ましくは50〜3000G、より好ましくは100〜1000Gである。
【0073】
また、第2回転速度は、回転時の前記分離チップにおける前記第1の貯液槽内の液面の傾きが、チップの回転軸(鉛直軸)に対して外周側に通常は0〜2°、好ましくは0〜1°の角度を有するような速度である。この角度は、前記分離チップとして懸濁液流路を有するチップを用いる場合には、懸濁液流路内の液面の傾きが上記範囲になるように規定することも可能である。
第2回転速度として30Gを与える場合は、回転時の前記分離チップにおける前記第1の貯液槽内の液面の傾きは、チップの回転軸(鉛直軸)に対して外周側におよそ2°となる。また、第2回転速度として50Gを与える場合は、回転時の前記分離チップにおける前記第1の貯液槽内の液面の傾きは、チップの回転軸(鉛直軸)に対して外周側におよそ1°となる。
【0074】
第2回転速度による回転時間は、0.5〜5分、好ましくは1〜3分とすることができる。
【0075】
(C)工程においては、通常は水平方向から見て図9の分離チップGの角度となるように遠心機にセットして(すなわち(B)工程で遠心機にセットした状態のまま)、第2回転速度で分離チップGが左側を回転軸として公転するように遠心を開始する。(C)工程の例を挙げると、図9の分離チップGの向きで遠心機にセットし、遠心力100Gで2分程度回転する。チップの回転中は、第1の貯液槽10の保持領域11に蓄積された不溶成分はそのまま移動せず、不溶成分以外の成分が分離流路20を押し上げられ、液面が(2)の線に達し、排液流路32に流入して第2の貯液槽30に蓄積される。
【0076】
第1の貯液槽の保持領域に蓄積された不溶成分は、工程(C)終了後にスポイト等で採取されうる。また、不溶成分以外の懸濁液は、工程(C)終了後にスポイト等で採取されうるか、またはチップを上下逆にするなどして採取されうる。
【実施例】
【0077】
本発明における分離チップの実施の一例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0078】
実施例1
以下のようにして分離チップを製作した。本実施例において作製した分離チップは槽や流路が形成された下板と蓋板で構成されている。それぞれの作製方法は下記の通りである。
【0079】
・下板:クラレ社PMMA押出板“コモグラス”厚さ4mmを図4に示すように設計した形状になるようにフライス盤を使用し切削加工で分離チップの下板を試作した。分流路深さ0.5mm、トラップ深さ1mm、それ以外は3.5mmの深さとした。
・蓋板:“コモグラス”厚さ1mmを下板と同寸法に切断し蓋板とした。
・蓋板と下板の接合:接合面が上向きになるように蓋板を置いた。メタノールをピペットにて100〜200μL塗り拡げ蓋板表面を浸漬させた。下板の槽や流路面(切削加工面)蓋板が合うように蓋板の上に重ね合わせ、蓋板側を60℃に予熱したホットプレス機にて3KNで3分間プレスして接合した。
【0080】
実施例2
実施例1により作製した分離チップの開口部(12)より100μLの血液を懸濁液流路(13)を通じて第1の貯液槽(10)へと導入した後、分離チップの第2の貯液槽30が遠心外周側になるように遠心機へ挿入した。分離チップを10Gの遠心力で20分間遠心し第1の貯液槽(10)内で血液を血漿成分と血球成分に分離し、更に100Gの遠心力で1分間遠心することで血漿成分のみを分離流路(20)を経由して第2の貯液槽(30)へと送液した。
【0081】
第2の貯液槽30に送液された血漿成分を血球計算器で測定した結果を表1に示す。この結果から、上記遠心のみの操作で血液から血漿成分を分離し第2の貯液槽へと送液できるという結果を得ることができた。
【0082】
【表1】

【0083】
製造例1
担体表面における抗原抗体反応による免疫学的測定のため、担体としてのビーズと試薬抗体としての標識抗体などとを含む基質溶液の懸濁液を作製した。
【0084】
担体としてポリスチレンビーズ(Polyscience社、粒径:25μm)を選定し、リン酸緩衝液で洗浄し、ポリスチレンビーズと同量の0.1μg/ml抗hIL−6抗体リン酸緩衝液を添加し、4℃で一晩浸透させた。浸透後、ポリスチレンビーズ10μlを150μlの0.05%トゥイーン20含有リン酸緩衝液で懸濁した。
【0085】
その後、0.25%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.05%トゥイーン20含有リン酸緩衝液で溶解させたhIL−6(ヒトインターロイキン−6、鎌倉テクノサイエンス社)50μlと、0.25%BSA、0.05%トゥイーン20含有リン酸緩衝液で溶解させた0.1μg/mlのHRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識抗hIL−6抗体(鎌倉テクノサイエンス社)50μlとを120秒間混合し反応させた。反応後0.05%トゥイーン20含有リン酸緩衝液100μlで洗浄後、200μM過酸化水素水、13μg/ml Amplex Red(Molecular Probes社)を含む0.1Mトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)100μlを基質溶液として添加し、5分間室温で反応させた。
【0086】
実施例3
製造例1で作製したビーズと基質溶液の懸濁液100μlを分離チップの開口部(12)より懸濁液流路(13)を通じて第1の貯液槽(10)へと導入した後、分離チップの第2の貯液槽(30)が遠心外周側になるように遠心機へ挿入した。10Gの遠心力で5分間遠心し第1の貯液槽内でポリスチレンビーズと反応液に分離し、更に100Gの遠心力で1分間遠心することで反応液のみを第2の貯液槽へと送液した。
【0087】
第2の貯液槽に送液された反応液内のレゾルフィンの量を蛍光顕微鏡IX−71(オリンパス社)を用いて測定した。各濃度でのhIL−6の蛍光強度の測定結果を図10に示す。(励起波長510−560nm、発光波長575−650nm、露光時間0.5秒)
【0088】
比較例1
製造例1で作製したビーズと基質溶液の懸濁液100μlを、分離チップを用いずに6分間静置した後、反応液内のレゾルフィンの量を蛍光顕微鏡IX−71(オリンパス社)を用いて測定した。各濃度でのhIL−6の蛍光強度の測定結果を図11に示す。(励起波長510−560nm、発光波長575−650nm、露光時間0.5秒)
【0089】
実施例3と比較例1において、図10と図11に示すような検量線を作成することができた。ここで、図10の検量線と比較し、図11の各検量線の傾きは小さい。また、図10と比較し、図11の各測定点のバラツキ3SDは大きい。これらから、以下のような考察が可能である。すなわち、実施例3と比較例1の測定結果比較から、実施例3のように分離チップを回転させて反応液からビーズを排除することで容量あたりのレゾルフィン濃度を上げることができ、検量線の傾きを大きくすることができる。また、ビーズ由来の光の散乱、吸収、自家蛍光により生じるノイズ源、バラツキを無くすことができ、3SDのバラツキを減少させることができ、低濃度域での検出が可能になるという結果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、本発明の分離チップの一実施例を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の分離チップの一実施例を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の分離チップの一実施例を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、本発明の分離チップの一実施例を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の分離チップの一実施例を模式的に示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の分離チップの一実施例を模式的に示す断面図である。
【図7】図7は、本発明の分離方法の(A)工程を模式的に示す説明図である。
【図8】図8は、本発明の分離方法の(B)工程を模式的に示す説明図である。
【図9】図9は、本発明の分離方法の(C)工程を模式的に示す説明図である。
【図10】図10は、本発明の分離チップを用いて得られた測定結果を示す図である。
【図11】図11は、分離チップを用いることなく得られた測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
A〜G 分離チップ
10 第1の貯液槽
11 保持領域
12 開口部
13 懸濁液流路
14 懸濁液導入口
20 分離流路
21 第1の貯液槽への接続部
22 分離流路の開口部
23 トラップ
24 曲線部
25 分離流路の終端部
30 第2の貯液槽
31 排液流路の開口部
32 排液流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップを、チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度と前記第1回転速度よりも高速の第2回転速度とで順次回転させ、遠心力および重力により懸濁液から不溶成分を分離するためのチップであって、
導入された懸濁液を蓄液すると共に、懸濁液から遠心力および重力により分離された不溶成分を保持する第1の貯液槽と、
前記遠心力及び重力により分離された懸濁液中の不溶成分以外の成分を流出させるための分離流路とを有し、
前記分離流路は、前記第1の貯液槽に接続され、該接続位置から上方に、かつ、第1の回転速度に於ける遠心力と重力の合力に垂直な方向より内周側に延伸していることを特徴とする分離チップ。
【請求項2】
前記第1の貯液槽は、前記分離流路の接続部よりもチップの回転軸に対し外周側に突出して形成される保持領域をその一部に備える、
請求項1に記載の分離チップ。
【請求項3】
前記分離流路と前記第1の貯液槽の接続部は、前記第1の回転速度に於ける前記不溶成分と、不溶成分以外の成分との界面よりも内周側に位置する請求項1または2に記載の分離チップ。
【請求項4】
前記分離流路は、その一部が前記第1の回転速度における前記懸濁液の液面を含む平面よりも内周側に位置する請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離チップ。
【請求項5】
前記分離流路は、前記第2の回転速度における前記懸濁液の液面よりも外周側まで延伸している請求項1〜4のいずれか一項に記載の分離チップ。
【請求項6】
前記分離流路の回転軸に対する角度が、27°以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の分離チップ。
【請求項7】
前記分離流路は、その途中に、該分離流路の外周側に突出したトラップを有する、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の分離チップ。
【請求項8】
不溶成分以外の懸濁液の成分を保持するための第2の貯液槽を有し、
前記第2の貯液槽は、前記分離流路を介して第1の貯液槽と連通する、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の分離チップ。
【請求項9】
前記第2の貯液槽と前記分離流路とを接続する排液流路を有し、
前記排液流路は、前記分離流路と接続する、
請求項8に記載の分離チップ。
【請求項10】
前記懸濁液は、血液、尿、髄液、唾液、痰、細胞懸濁液、担体を含む酵素反応液、担体を含む抗原抗体反応液、および担体を含む試薬溶液から選ばれる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の分離チップ。
【請求項11】
前記懸濁液は血液であり、不溶成分は血球である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の分離チップ。
【請求項12】
前記懸濁液は担体を含む試薬であり、不溶成分は担体である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の分離チップ。
【請求項13】
以下の工程を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の分離チップを用いた懸濁液からの不溶成分の分離方法。
(A)懸濁液を、分離チップの第1の貯液槽に導入する工程
(B)前記分離チップを、チップ外部の回転軸に対し、第1回転速度で回転させて懸濁液から不溶成分を分離する工程
(C)前記分離チップを、チップ外部の回転軸に対し、前記第1回転速度よりも高速の第2回転速度で回転させて不溶成分以外の懸濁液成分を分離流路を介して第1の貯液槽から排出する工程
【請求項14】
前記第1回転速度で得られる遠心力は、2G〜30Gである、請求項13に記載の分離方法。
【請求項15】
前記第1回転速度は、回転時の前記分離チップにおける前記第1の貯液槽内の液面の傾きが、前記回転軸に対して外周側に2〜27°の角度を有するような速度である、請求項13または14に記載の分離方法。
【請求項16】
前記第2回転速度で得られる遠心力は、第1回転速度で得られる遠心力よりも3倍以上大きい、請求項13〜15のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項17】
前記第2回転速度で得られる遠心力は、50G以上である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項18】
前記第2回転速度は、回転時の分離チップにおける前記第1の貯液槽内の液面の傾きが、前記回転軸に対して外周側に0〜2°の角度を有するような速度である、請求項13〜17のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項19】
前記懸濁液は、血液、血球、尿、髄液、唾液、痰、細胞懸濁液、担体を含む酵素反応液、担体を含む抗原抗体反応液、および担体を含む試薬溶液から選ばれる、請求項13〜18のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項20】
前記懸濁液は血液であり、不溶成分は血球である、請求項13〜19のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項21】
前記懸濁液は担体を含む試薬であり、不溶成分は担体である、請求項13〜19のいずれか一項に記載の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−268198(P2008−268198A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83711(P2008−83711)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】