説明

分離モリブデン化学種の製造方法

【課題】複数種の鉱酸を含有する混合液の処理において、廃棄物の増加を抑制でき且つ希少金属であるモリブデンを充分に回収できる分離モリブデン化学種の製造方法を提供すること。
【解決手段】モリブデン酸と、モリブデン酸以外の鉱酸と、を含有する混合液からモリブデン化学種を分離する分離モリブデン化学種の製造方法は、混合液路21からの混合液を、リン酸の存在下、pH9以下の状態でアニオン交換樹脂23に接触して、モリブデン含有イオンをイオン交換させる工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離モリブデン化学種の製造方法に関し、特に、排液からモリブデン酸を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場、液晶製造工場等から排出される洗浄排水は、主成分としてリン酸を含む他、硝酸及び酢酸等の種々の鉱酸を含有する。このため、かかる洗浄排水は外界に排出する前に浄化される必要があるところ、従来の浄化は、消石灰(環境科学センター、重点基礎研究、平成13年度、課題名「高濃度モリブデン排水除去技術の基礎的検討」)等を用いた凝集沈殿法で行われている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−260556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前述した凝集沈殿法は、希少金属であるモリブデンが充分に回収されず、資源の有効活用の点で問題である。また、モリブデン酸カルシウム等の析出沈殿汚泥が多量に発生し、廃棄物の増加を避け難い。
【0004】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、複数種の鉱酸を含有する混合液の処理において、希少金属であるモリブデンを充分に回収でき且つ廃棄物の増加を抑制できる分離モリブデン化学種の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、モリブデン含有イオンが、リン酸の存在下且つpH3以下の状態で、アニオン交換樹脂に選択的にイオン交換されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0006】
(1) モリブデン酸と、モリブデン酸以外の鉱酸と、を含有する混合液からモリブデン化学種を分離する分離モリブデン化学種の製造方法であって、
前記混合液を、リン酸の存在下、pH9以下の状態でアニオン交換樹脂に接触して、モリブデン含有イオンをイオン交換させる分離モリブデン化学種の製造方法。
【0007】
(2) アニオン交換樹脂にpH13以上のアルカリ性溶液を接触して前記モリブデン含有イオンを放出させ、リン酸塩を含むモリブデン酸塩溶液を回収する(1)記載の分離モリブデン化学種の製造方法。
【0008】
(3) 前記リン酸塩を含むモリブデン酸塩溶液を、pH9〜12の状態でモリブデン酸型アニオン交換樹脂に接触し、リン酸イオンをイオン交換して除去することで、前記リン酸塩が低減したモリブデン酸塩溶液を回収する(2)記載の分離モリブデン化学種の製造方法。
【0009】
(4) 前記リン酸塩が低減したモリブデン酸塩溶液をH型カチオン交換樹脂に接触することでモリブデン酸(H型)の状態にする(3)記載の分離モリブデン化学種の製造方法。
【0010】
(5) 前記モリブデン酸溶液の一部又は全部をOH型アニオン交換樹脂に通水することで、前記モリブデン酸型アニオン交換樹脂を調製する(3)又は(4)記載の分離モリブデン化学種の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、混合液をリン酸の存在下且つpH3以下の状態でアニオン交換樹脂に接触したので、モリブデン含有イオンが選択的にイオン交換され、他の鉱酸から分離できる。このため、イオン交換されたモリブデン含有イオンを適宜溶出等することで、希少金属であるモリブデンを充分に回収でき且つ廃棄物の増加を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに特に限定されるものではない。
【0013】
<水処理システム>
図1は、本発明に係る分離モリブデン化学種の製造方法が実施される水処理システム10のブロック図である。水処理システム10は、モリブデン含有イオン交換系20、モリブデン酸塩溶液回収系30、モリブデン酸溶液回収系40、モリブデン酸型アニオン交換樹脂調製系50、及び流出液添加系60を備える。各系の詳細を以下説明する。
【0014】
[モリブデン含有イオン交換系]
モリブデン含有イオン交換系20は、モリブデン含有イオンをイオン交換する。具体的にモリブデン含有イオン交換系20は、アニオン交換樹脂23が収容されたアニオン交換塔を有する。このアニオン交換樹脂23は混合液路21を介して図示しない混合液源に連通され、この混合液源からは、モリブデン酸と、モリブデン酸以外の鉱酸と、を含有する混合液が供給される。
【0015】
混合液のアニオン交換樹脂23への供給の開始及び停止、並びに供給量は、混合液路21の途中に設けられた混合液弁211の開度によって調節される。つまり、後述の放出水弁341を閉じた状態で混合液弁211を開くと、その開度に応じた量の混合液がアニオン交換樹脂23へと供給され、アニオン交換樹脂23に接触する。
【0016】
このとき、モリブデン酸及びモリブデン酸以外の鉱酸を構成するアニオンのいずれもが非特異的にアニオン交換樹脂23にイオン交換された場合には、モリブデン化学種を分離することは困難である。しかし、本発明者らは、驚くべきことに、モリブデン含有イオンが、リン酸の存在下且つpH9以下の状態で、アニオン交換樹脂に選択的にイオン交換されることを発見した。そこで、本発明の方法では、混合液をリン酸の存在下且つpH9以下の状態でアニオン交換樹脂23に接触させることで、モリブデン含有イオンを他の鉱酸を構成するアニオンから分離する。
【0017】
この機構は、次のように推測されている。つまり、混合液をリン酸の存在下且つpH9以下の状態におくと、リン酸と混合液中のモリブデン酸との錯体、リンモリブデン酸(H(PMo1240))が形成される。そして、この錯体が他の鉱酸に比べて優先的にアニオン交換樹脂に吸着されるため、モリブデン含有イオンが選択的にイオン交換されることになる。なお、上記機構は、推測であって本発明を限定するものではなく、実際に上記機構が生じていないような態様も本発明に包含される。
【0018】
本明細書におけるモリブデン含有イオンとは、元素としてモリブデン(Mo)を含むすべてのイオンを指し、上記機構によればPMo12403−であることが期待されるが、これに限られるものではない。
【0019】
pHは、9以下であれば特に限定されないが、モリブデン含有イオンを充分にイオン交換できるよう、2.5以下であることが好ましく、2.3以下であることがより好ましい。なお、pHは、混合液のpHに応じて、別段の調整(例えば、強酸の添加)を行ってもよいし、行わなくてもよいが、除去すべきアニオンの増加を予防できる点では別段の調整を行わないことが好ましい。また、装置等が腐食しないよう、pHは0.5以上であることが好ましい。
【0020】
リン酸の存在量は、特に限定されないが、モリブデン含有イオンを充分にイオン交換できるよう、モリブデン酸に対して1/12倍(モル比)以上、好ましくは1/6倍(モル比)以上、より好ましくは1/3倍(モル比)以上である。リン酸は、混合液中のリン酸含有量に応じて、別途添加してもよいし、添加しなくてもよい。なお、本発明が対象とする半導体製造工場、液晶製造工場等から排出される洗浄排水では、モリブデン酸及びリン酸の濃度がそれぞれ1〜50mg/L、100〜5000mg/L程度であり、大過剰量のリン酸が含有されているため、リン酸を別途添加する必要はない。
【0021】
このように、混合液をアニオン交換樹脂23へと供給すると、モリブデン含有イオンが選択的にアニオン交換樹脂23にイオン交換されるとともに、アニオン交換樹脂23を通過した水が流出路28へと流出される。このとき、排出弁281が開かれ且つ後述するモリブデン酸塩弁283が閉じられているため、流出した水は排出弁281を通って排出される。なお、排出弁281を通る水は他の鉱酸に富むため、必要に応じて更なる水処理を行ってもよいし、水処理を行わずに外界へと排出してもよい。
【0022】
混合液は、モリブデン酸及びモリブデン酸以外の鉱酸を含有する限りにおいて特に限定されず、その他の成分を更に含有してもよい。また、モリブデン酸以外の鉱酸としては、特に限定されず、例えばリン酸、硝酸、酢酸、硫酸等の1種又は2種以上が挙げられる。従って、本発明の方法は、液晶のエッチング排水等の水処理に有用である。
【0023】
少なくとも本発明者らが確認した範囲では、上記条件下において、モリブデン酸以外の鉱酸を構成するアニオンのいずれもが、アニオン交換樹脂へのイオン交換性においてモリブデン含有イオンより劣る。ただし、モリブデン含有イオンと同等以上のイオン交換性を有するアニオンで構成される鉱酸が混合液に混在してもよい。
【0024】
アニオン交換樹脂23は、従来周知の強塩基性、中塩基性、又は弱塩基性のアニオン交換樹脂から、混合液を構成する鉱酸の種類に応じて適宜選択されてよい。ただし、前述した条件下では、モリブデン含有イオンのイオン選択性が極めて高く、自然漏出が抑制されていることから、後述する再生のしやすさ及び交換容量の大きさに優れる点で、中塩基性又は弱塩基性のアニオン交換樹脂が好ましく、弱塩基性のアニオン交換樹脂がより好ましい。
【0025】
また、図1ではアニオン交換樹脂23が1個のみ設置されているが、これに限られず、複数個設定されていてよい。複数個のアニオン交換樹脂23を設置する場合、モリブデン含有イオンのアニオン交換樹脂23への交換と、後述のモリブデン酸溶液の回収とを同時並行できる点で、アニオン交換樹脂23を並列に配置することが好ましい。
【0026】
[モリブデン酸塩溶液回収系]
モリブデン酸塩溶液回収系30は、モリブデン酸塩溶液を回収する。具体的にモリブデン酸塩溶液回収系30は、図示しない第1アルカリ性溶液源から延びる第1アルカリ性溶液路31を有し、第1アルカリ性溶液路31の途中に設けられた第1アルカリ性溶液弁311の開度に応じて、アルカリ性溶液の供給の開始及び停止、並びに供給量が調節される。また、モリブデン酸塩溶液回収系30は、図示しない純水源から延びる純水路33を有し、純水路33の途中に設けられた純水弁331の開度に応じて、純水の供給の開始及び停止、並びに供給量が調節される。
【0027】
本実施形態における第1アルカリ性溶液路31及び純水路33は合流して放出水路34を形成し、この放出水路34はアニオン交換樹脂23へと接続されている。また、放出水路34の途中には放出水弁341が設けられていて、この放出水弁341の開度に応じて、アニオン交換樹脂23へのアルカリ性溶液又は純水の供給の開始及び停止、並びに供給量が調節される。つまり、純水弁331及び混合液弁211を閉じた状態で第1アルカリ性溶液弁311及び放出水弁341を開くと、その開度に応じた量のアルカリ性溶液がアニオン交換樹脂23へと供給され、接触される。
【0028】
これにより、アニオン交換樹脂23からモリブデン含有イオンが放出され(アニオン交換樹脂23の再生)、モリブデン酸塩(アルカリ性溶液を構成するカチオンとの塩)を含むモリブデン酸塩溶液が流出路28へと流出する。ここで、排出弁281を閉じた状態でモリブデン酸塩弁283を開くことにより、モリブデン酸塩溶液はモリブデン酸塩溶液収容槽35へと収容され、回収されることになる。
【0029】
アルカリ性溶液は、アニオン交換樹脂23の特性に応じて適宜設定されてよく、例えば水酸化ナトリウム溶液等が使用できる。また、アルカリ性溶液のpHは、13以上であれば特に限定されないが、通常約14以下である。
【0030】
モリブデン含有イオンの放出は、例えば、次の反応式によるものと推測される。
(PMo1240)+15NaOH→NaPO+12NaHMoO+3H
そして、モリブデン酸塩としてのNaHMoOを含む溶液が回収される。なお、この機構が本発明を限定するものでないことは、前述と同様である。
【0031】
その後、アニオン交換樹脂23に純水を通水することで、アニオン交換樹脂23内に残留するアルカリ性溶液を押し出す。具体的には、第1アルカリ性溶液弁311及び混合液弁211を閉じた状態で純水弁331及び放出水弁341を開くと、その開度に応じた量の純水がアニオン交換樹脂23へと供給され、通水される。このとき、モリブデン酸塩弁283を閉じ且つ排出弁281を開くことで、アルカリ性溶液を含む水は、排出弁281を通って排出されることになる。
【0032】
なお、図1には混合液路21と放出水路34とが合流してアニオン交換樹脂23に接続する態様が示されているが、これに限らず、混合液路21と放出水路34とが独立してアニオン交換樹脂23に接続されていてもよい。また、本実施形態では、第1アルカリ性溶液路31及び純水路33が合流した放出水路34がアニオン交換樹脂23に接続されているが、これに限られず、第1アルカリ性溶液路31及び純水路33が独立してアニオン交換樹脂23に接続されていてもよく、この場合には放出水路34及び放出水弁341が不要になる。
【0033】
[モリブデン酸溶液回収系]
モリブデン酸溶液回収系40は、リン酸塩を含むモリブデン酸塩溶液から、リン酸塩が低減したモリブデン酸溶液を回収する。具体的にモリブデン酸溶液回収系は回収する、モリブデン酸型アニオン交換樹脂43が収容された第2アニオン交換塔を有する。このモリブデン酸型アニオン交換樹脂43はモリブデン酸塩溶液路41を介してモリブデン酸塩溶液収容槽35に連通され、このモリブデン酸塩溶液収容槽35からモリブデン酸塩溶液が供給される。なお、モリブデン酸塩溶液の供給の開始及び停止、並びに供給量は、モリブデン酸塩溶液路41の途中に設けられたモリブデン酸塩溶液弁411の開度に応じて調節できる。
【0034】
ここで、リン酸塩を含むモリブデン酸塩溶液は、pH9〜12の状態でモリブデン酸型アニオン交換樹脂43に接触させる。このpH範囲では、モリブデン酸型アニオン交換樹脂43の特性によっても異なるが、モリブデン酸イオンよりもリン酸イオンの方がイオン選択性に優れるため、モリブデン酸型アニオン交換樹脂43に吸着されていたモリブデン酸イオンにリン酸イオンがイオン交換され、リン酸イオンが除去され且つリン酸塩が低減したモリブデン酸溶液がモリブデン酸型アニオン交換樹脂43から第2流出路48へと流出する。このとき、後述の631を閉じ且つモリブデン酸溶液弁481を開くことで、モリブデン酸溶液は第2流出路48からモリブデン酸溶液収容槽49へと流通し、モリブデン酸溶液収容槽49に収容されて回収される。pHが9以下であるとリン酸とモリブデン酸とが錯体を形成しやすく、pHが12以上であるとリン酸イオンがイオン交換されにくく、モリブデン酸が溶離する。
【0035】
上記イオン交換は、例えば、次の反応式によるものと推測される。
3[R−MoO]+2PO3−→2[R−PO]+3MoO2−
(式中、Rは樹脂骨格を示す。)
そして、リン酸イオンとしてのPO3−がイオン交換されて除去され、MoO2−を選択的に含むモリブデン酸溶液が回収される。なお、この機構が本発明を限定するものでないことは、前述と同様である。
【0036】
pH調整は、従来周知の方法で行ってよく、例えば、酸(塩酸、硫酸等)のモリブデン酸塩溶液への添加や、特開平9−78276号公報に記載されたカチオン交換膜を用いる方法等が挙げられる。ただし、pH調整は、図1に示されるように、モリブデン酸塩溶液をH型カチオン交換樹脂45に接触すること、即ち、H型カチオン交換樹脂45が収容され、モリブデン酸塩溶液路41の途中に設けられたカチオン交換塔に通液することで行うことが好ましい。モリブデン酸塩溶液がH型カチオン交換樹脂45に接触すると、モリブデン酸塩溶液中のカチオン(例えばNa等のアルカリ金属イオン)が、H型カチオン交換樹脂45に吸着していたHにイオン交換され、放出されたHによってモリブデン酸塩溶液が中和され、pHが低下する。このように、本実施形態によれば、酸添加のように除去すべきアニオン(Cl、SO2−等)が増加することを予防でき、カチオン交換膜等の大型装置を設置する必要もなく、設備の簡素化を図ることができる。
【0037】
なお、上記のようなpH調整は、モリブデン酸塩溶液をモリブデン酸型アニオン交換樹脂43に接触させる前であれば、任意のタイミングで行ってよい。また、モリブデン酸塩溶液のpHが当初から9〜12の範囲にある場合には、上記したような別段のpH調整を行わなくてもよい。
【0038】
モリブデン酸型アニオン交換樹脂43は、従来周知の強塩基性、中塩基性、又は弱塩基性のアニオン交換樹脂から適宜選択されてよく、これらのOH型アニオン交換樹脂に、モリブデン酸イオンを含む溶液を接触することで調製できる。ただし、リン酸イオンをより充分にイオン交換して除去できる点では、強塩基性アニオン交換樹脂が好ましい。また、H型カチオン交換樹脂45は、従来周知の強酸性カチオン交換樹脂であってよく、ポリスチレン系、フェノール系(架橋度は4〜12%)のものが好ましい。
【0039】
[流出液添加系]
混合液中のリン酸濃度が低い場合には、流出液添加系60を用いてリン酸を回収して利用する。流出液添加系60は、リン酸イオンがイオン交換されたアニオン交換樹脂からOH型アニオン交換樹脂を再生し、この再生でアニオン交換樹脂43から流出した流出液を混合液に添加する。具体的に流出液添加系60は第2アルカリ性溶液供給路61を有し、この第2アルカリ性溶液供給路61は図示しないアルカリ性溶液源をモリブデン酸塩溶液路41に連通する。そして、第2アルカリ性溶液供給路61に設けられた第2アルカリ性溶液供給弁611の開度に応じて、アルカリ性溶液の供給の開始及び停止、並びに供給量が調節される。
【0040】
つまり、モリブデン酸塩溶液弁411を閉じた状態で第2アルカリ性溶液供給弁611を開くと、その開度に応じた量のアルカリ性溶液が第2アルカリ性溶液供給路61からモリブデン酸塩溶液路41へと供給され、やがてアニオン交換樹脂43に通水される。すると、アニオン交換樹脂43からリン酸イオンが放出されるとともに、OHが吸着され、OH型アニオン交換樹脂が再生されることになる。なお、第2アルカリ性溶液供給路61から供給されるアルカリ性溶液は、任意の組成であってよく、また、第1アルカリ性溶液路31から供給されるアルカリ性溶液と同一であっても異なってもよい。
【0041】
本実施形態の流出液添加系60は流出液供給路63を更に有し、この流出液供給路63は第2流出路48と混合液路21とを連通する。そして、流出液供給路63に設けられた流出液供給弁631の開度に応じて、アニオン交換樹脂43を通過した流出水の混合液路21への供給の開始及び停止、並びに供給量が調節される。つまり、上記再生とともにアニオン交換樹脂43を通過しリン酸イオンに富む流出水は、モリブデン酸溶液弁481を閉じた状態で流出液供給弁631を開くことにより、その開度に応じた量で混合液路21へと供給され、前述の混合液に添加されることになる。これにより、流出水に含まれていたリン酸イオンは、モリブデン含有イオンのアニオン交換樹脂23へのイオン交換の促進に利用されるため、リン酸イオンの有効活用及び廃棄量の低減を期待できる。
【0042】
流出水には脱カチオン処理を行うことが好ましい。これにより、流出水のpHが低下されるため、流出水が添加された混合液のpHが上昇して3を超えるような事態を抑制できる。なお、脱カチオン処理の手法は、特に限定されず、例えば流出水にH型カチオン交換樹脂を接触すればよい。また、脱カチオン処理のタイミングも特に限定されず、通常は混合液への添加前であることが想定されるが、混合液への添加後であってもよい。
【0043】
なお、本実施形態の流出液供給路63は混合液弁211よりも上流側に接続されているが、混合液弁211の下流側に接続されていてもよい。また、流出液供給路63を流通する流出水の一部又は全部を外界に排出したり、別途のリン酸除去処理にふしたりしてよい。
【0044】
[モリブデン酸型アニオン交換樹脂調製系]
モリブデン酸型アニオン交換樹脂調製系50は、モリブデン酸型アニオン交換樹脂を調製する。具体的にモリブデン酸型アニオン交換樹脂調製系50は、モリブデン酸溶液収容槽49とモリブデン酸塩溶液路41とを連通するモリブデン酸溶液供給路51を有し、このモリブデン酸溶液供給路51にはモリブデン酸溶液供給弁511が設けられている。これにより、モリブデン酸溶液供給弁511の開度に応じた量のモリブデン酸溶液がモリブデン酸溶液収容槽49からモリブデン酸塩溶液路41へと供給され、やがてOH型アニオン交換樹脂43に通水される。すると、モリブデン酸溶液中のモリブデン酸イオンがOH型アニオン交換樹脂43にイオン交換され、モリブデン酸型アニオン交換樹脂43が調製される。このようにして調製されたモリブデン酸型アニオン交換樹脂43は、モリブデン酸塩溶液収容槽35から供給されるモリブデン酸塩溶液中のリン酸イオンのイオン交換に再利用できる。この過程でアニオン交換樹脂43から放出されたOHを含む液は、図示しない中和槽に導かれ、塩酸や硫酸等の鉱酸で中和された後、系外へと排出される。
【0045】
なお、図1ではモリブデン酸型アニオン交換樹脂43が1個のみ設置されているが、これに限られず、複数個設定されていてよい。特に、リン酸イオンのモリブデン酸型アニオン交換樹脂43へのイオン交換、OH型アニオン交換樹脂の再生、及びモリブデン酸型アニオン交換樹脂の調製を同時並行できるよう、3個以上のモリブデン酸型アニオン交換樹脂43を並列配置することが好ましい。
【0046】
本発明に係る分離モリブデン化学種の製造方法によれば、アニオン交換樹脂23にイオン交換されたモリブデン含有イオン、モリブデン酸塩溶液収容槽35に回収されたモリブデン酸塩溶液、及びモリブデン酸溶液収容槽49に回収されたモリブデン酸溶液という分離モリブデン化学種が製造される。このように、分離モリブデン化学種とは、他の鉱酸から分離され、元素としてモリブデンを含む分子、イオン等あらゆる形態の物質を包含し、所望の化学種に応じて、適宜の段階で製造完了としてよい。
【0047】
また、分離モリブデン化学種は、できる限り他の鉱酸から分離されていることが好ましいが、必ずしも完全に分離されていなくてもよい。即ち、他の鉱酸からの分離の程度に優れる点では、モリブデン酸溶液収容槽49に回収されたモリブデン酸溶液が最も好ましいが、分離モリブデン化学種がこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
図1に示す水処理システム10を用いて水処理を行った。具体的に、混合液源は液晶製造のエッチング排水源であり、混合液路21から供給される排水は、リン酸2500mg/L、硝酸250mg/L、酢酸250mg/L、モリブデン酸10mg/Lを含有し、pH約2であった。また、アニオン交換樹脂23として「Diaion WA30」(三菱化学社製)0.1Lを充填したアクリルカラム(内径20mm、長さ500mmH)を用い、このアクリルカラムに上記排水を2L/hの流量で通水した。アクリルカラムからの流出液中のモリブデン濃度を測定し、この結果を図2に示す。なお、モリブデン濃度は、JIS K010268.2に準じ、ICP発光分析法で定量した。
【0049】
図2に示されるように、0.1Lのアニオン交換樹脂23に対して、混合液150L中のモリブデン酸の大部分がイオン交換されていた。
【0050】
排水150Lを通水した後、10%水酸化ナトリウム溶液0.3Lを0.3L/hの流量で、第1アルカリ性溶液路31からアクリルカラムへと供給し通水し、その後、純水路33からの純水によりアクリルカラム内の水酸化ナトリウム溶液を押し出した。このとき、モリブデン酸塩溶液収容槽35に収容された溶液1Lには、モリブデンが18000mg/L、リンが430mg/L含有されていた。これにより、アニオン交換樹脂23に通水される前の混合液に比べ、リンが低減されるとともに、モリブデンが選択的に濃縮されることが確認された。なお、モリブデンはJIS KK010268.2に準じ、ICP発光分析法で定量し、リンはJIS K0102に準じ、モリブデン青吸光光度法で定量した。
【0051】
上記組成の溶液に、H型弱酸性カチオン樹脂「Diaion SK1B」(三菱化学社製)0.5Lを充填したアクリルカラム(内径40mm、長さ500mmH)に通水し、溶液のpHを7.5にした。また、「Diaion SA11A−OH」(三菱化学社製)にモリブデン酸ナトリウム溶液を通水することで調製した樹脂をモリブデン酸型アニオン交換樹脂43として用い、このモリブデン型アニオン交換樹脂200mLに、pH7.5に中和された溶液1Lを流量1L/hで通水した。このとき、モリブデン酸溶液収容槽49に収容された溶液1Lには、モリブデンが18600mg/L、リンが1mg/L含有されていた。これにより、モリブデン酸型アニオン交換樹脂43に通水される前の液に比べ、リンが更に低減されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る方法を実施するための水処理システムのブロック図である。
【図2】本発明の一実施例に係る方法でイオン交換されたモリブデン含有イオン量の経時的変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
10 水処理システム
20 モリブデン含有イオン交換系
21 混合液路
23 アニオン交換樹脂
30 モリブデン酸塩溶液回収系
31 第1アルカリ性溶液路
35 モリブデン酸塩溶液収容槽
40 モリブデン酸溶液回収系
43 モリブデン酸型アニオン交換樹脂
45 H型カチオン交換樹脂
49 モリブデン酸溶液収容槽
50 モリブデン酸型アニオン交換樹脂調製系
51 モリブデン酸溶液供給路
60 流出液添加系
61 第2アルカリ性溶液供給路
63 流出液供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン酸と、モリブデン酸以外の鉱酸と、を含有する混合液からモリブデン化学種を分離する分離モリブデン化学種の製造方法であって、
前記混合液を、リン酸の存在下、pH9以下の状態でアニオン交換樹脂に接触して、モリブデン含有イオンをイオン交換させる分離モリブデン化学種の製造方法。
【請求項2】
アニオン交換樹脂にpH13以上のアルカリ性溶液を接触して前記モリブデン含有イオンを放出させ、リン酸塩を含むモリブデン酸塩溶液を回収する請求項1記載の分離モリブデン化学種の製造方法。
【請求項3】
前記リン酸塩を含むモリブデン酸塩溶液を、pH9〜12の状態でモリブデン酸型アニオン交換樹脂に接触し、リン酸イオンをイオン交換して除去することで、前記リン酸塩が低減したモリブデン酸塩溶液を回収する請求項2記載の分離モリブデン化学種の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸塩が低減したモリブデン酸塩溶液をH型カチオン交換樹脂に接触することでモリブデン酸(H型)の状態にする請求項3記載の分離モリブデン化学種の製造方法。
【請求項5】
前記モリブデン酸溶液の一部又は全部をOH型アニオン交換樹脂に通水することで、前記モリブデン酸型アニオン交換樹脂を調製する請求項3又は4記載の分離モリブデン化学種の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−89995(P2010−89995A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261801(P2008−261801)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】