説明

分離体

【課題】単純な3次元クロマトグラフのための手段を提供する。
【解決手段】3次元クロマトグラフ用の分離体(1)であって、分離体(1)は空間内で望ましくは互いに直交する3方向(X,Y,Z)に延びる。移動相内に各方向(X,Y,Z)で搬送された検体用に各方向(X, Y, Z)において予め決めておくことができる個々の保持機構(Rx, Ry, Rz)を有する。分離体(1)はモノリシックユニットに形成され、当該分離体(1)はさらに、開放または被覆された経路を有するか、またはモノリシック固定相を有するか、または疑似固定相、特にミセルを有するか、またはマイクロマシン構造として形成されるか、またはパックされたベッドを有するか、または自己組織化マイクロ・ナノ構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ方法を実施するための分離体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフ用分離体は、従来技術から次のように知られている。伝統的な方法として、分離されるべき特定の成分を含有する移動相が、例えばカラムを貫通する。固定相と検体の特定の相互作用によって、カラムから異なる時間差で表出してくる個々の成分が分離される。空間3次元クロマトグラフの性能は、3列の戦略に基づいたLC×LC×LCの性能を大幅に超えている。
【0003】
通常、移動相は分離体に与えられた圧力差の結果として当該分離体を通して移動する。あるいは、電圧を印加することによってある流れ(電気浸透流)を発生させ、これにより分離体を貫通して移動相を移動させることもできる。この場合、電気浸透流が必要な箇所に表面電荷がなければならない。
【0004】
3次元クロマトグラフの原理は米国特許第4469601号(特許文献1)により公知である。当該米国特許では、1枚のプレートに沿って二次元クロマトグラフが実行される。このプレートは透過性があり、乾燥すると材料の立方体に対して配置される。その後、第3次元で提供されている保持機構を使用するために、溶媒が強制的にプレートを通過しそしてキューブを通過する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4469601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
3次元クロマトグラフのこのような進め方は面倒であり分離体の構造も複雑である
【0007】
従って、本発明の目的は単純な3次元クロマトグラフのための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は請求項1で規定される分離体によって達成される。
【0009】
本発明は、検索する成分をより良好に分離することが可能となるように、別々の保持機構を3次元分離体の内部に設けることができるという考えに基づいている。有利には、3次元クロマトグラフ(分離体のX方向での第1の分離、次いでX方向に垂直な方向Yの第2の分離、最後に他の2つの軸に垂直なZ方向の第3の分離)の個々の相の間で分離体を組み立てたり分解したりする必要がない。その代わりに、分離体は全体の工程を通じてその形状を実質的に保持する。本発明によれば、分離体(ブロック体)の内部でより良好に成分を分離するために、適切な保持機構がX、Y、Zのそれぞれの方向に設けられる。これにより、分離体の内部で直交する3方向に沿った3次元クロマトグラフを実施することができる。好ましくは、この3次元クロマトグラフは連続的、すなわち最初にX方向、次にY方向、最後にZ方向で行われる。考えられる方法ではあるが、ここでは空間の3つの方向のうちの2つの方向で分離が同時になされる。
【0010】
本発明に係る分離体の実際的使用においては、分離する成分を搬送する移動相が第1次元に沿って、好ましくは例えば立方形である分離体の縁に沿って分離体に導入される。好適には、この最初の工程では、可能な最善の方法により、移動相の流れが関連した方向Xに制限され、当該流れの方向用に選択または事前に定義された保持機構に応じて検索される成分の分布がX方向で得られるようにする。一次元分布に垂直に行われるY方向のクロマトグラフの続く第2段階では、既に分離された成分がY方向で優勢な保持機構に基づいて別の分離作用を受ける。同様の分離作用がZ方向の続く第3工程でも働き、分離体内部の成分の3次元分布が最終的に得られる(ここで、クロマトグラフの第3工程でZ方向に成分を分布させる代わりに、成分が分離体の境界面からZ方向で時間差を伴って表出することを意味する「時間」での分離を行うことも可能である)。この場合は第3次元の分離が「時間」で行われるのであるが、そうでない場合はすべての3つの次元での分離が「空間」でなされる。
【0011】
多次元分離のための本発明の重要な側面は、個々の分離工程はできるだけ異なっていなければならないということである。理想的には保持機構は完全に独立し、その場合は分離ステージは直交状態と呼称することができる。従って本発明は、分離体内のX、Y、Zの3次元のそれぞれについて個々に保持機構を提供することに重点を置いている。プリセット済または動的に可変な個々の保持機構を設けた場合、検索成分は異なる基準に従って移動相から各方向へ溶出することができ、それに応じて異なる空間分布(または最後の分離が 「時間」で行われる場合は時間的分離)が得られる。
【0012】
従来技術では、分離体は個々の分離工程の過程で連続的に組み立てられる。特に、分離の第2段階の後(XY平面内の成分分離の後)、この目的のために使用されるプレートは所定の保持能力を有する3次元ブロック体に接続される。分離体の組み立て後、移動相は第3次元Zの分離を達成するようにプレートに垂直な方向に分離体全体を通過することができる。
【0013】
これとは対照的に、本発明に係る分離体は最初から完全に組み立てられている。本発明の実施形態の変形例によれば、各流れ方向に適当に異なる保持機構が現時点で個別に実行可能とされている。以下に示すように、代替実施形態では、異なる物理的または化学的効果の助けを借りて保持機構を動的に変更することができる。本発明に係るこのような分離体は、従来技術に比べて3次元クロマトグラフを行うときに、自動化によりかなりの時間と努力を節約することができる。また、分離体はその取り扱いをかなり容易にするように小さいサイズ(例えば縁長さが50mmよりも明らかに短い)にして製造および使用可能である。
【0014】
本発明の特に単純な実施形態では、異なる保持能力を有する幾つかの分離媒体が組み立てられて分離体を形成し、そのようにして規定された保持機構はX、Y、Zのそれぞれの方向で動作する。ここで各次元が、他の二つの保持能力と適当に異なるべき適当な前処理に起因する必要な保存能力を有している限り、同じ種類の分離媒体を異なる方向に使用することも基本的に可能である。例えば、柱を有し表面が適切な方法でエッチングやコーティングされることで多孔質層を有するように前処理され、特定の方向において所望の保持能力に調整されたチャネル(経路)が考えられる。分離体は、代替的または追加的に、例えばエッチングされてマイクロピラー構造を有するシリコンウェーハの形のマイクロマシン構造を有することができる。空間の所望の方向に適切な保持能力をもたらす適当な分離媒体としてのゲルを、分離体内に供給または意図的に配置することも可能である。また、ミセルのような擬似固定相を、パックされたベッド、モノリシック固定相、自己組織化マイクロ・ナノ構造またはモノリシック埋め込み粒子と同程度に使用することが可能である。実際は、本発明の一態様によれば、X、Y、Zの各方向に異なる保持機構を動的に備えつつ分離体全体をモノリシックに形成することができる。しかし、本発明の一態様によれば、分離体を様々な要素やブロック体部品から組み立てることができ、各要素やブロック体の部分は基本的にモノリシックであって独自の保持機構を提供するが、当該保持機構は完成したブロック体の内部要素の空間的な向きにも依存する可能性がある。
【0015】
一般的に、X、YまたはZの1つの特定の方向に望ましくは作用する分離体内部の望ましい保持機構を実現するために、任意の適切な分離機構を使用することができる。分離はサイズ排除に基づいているが、疎水性相互作用、イオン交換、アフィニティーまたは逆相分離のような他の分離機構をブロック体内の適切な分離媒体と共に適用することも可能である。
【0016】
すでに述べたように、本発明に係る分離体は、各々が特定の分離機構を有する異なる分離媒体を含むことができる。しかし、同じ種類の分離媒体をブロック体内に提供してもよく、また当該分離媒体が、空間の特定の方向に、分離媒体の内部構造の空間的な方向によるか、および/または、分離媒体の物理的または化学的処理により、目的に応じて個々に異なる保持能力を有するようにしてもよい。考えられるものとしては、例えば、X方向の分離体の狭いエッジに沿った実質的に一次元の分離構造である。実質的に二次元のマイクロマシン構造は、全体の長さXを横断するY方向において当該エッジと接する。このXY平面に接して、別のマイクロマシン構造や前述の分離媒体または当業者によく知られた他の分離媒体をZ方向に配置し、それにより決定された保持機構をZ方向で作用させることも可能である。
【0017】
分離体内の異なる分離媒体の組み合わせは、本発明に係る分離体を具現化する変形例を構成するに過ぎない。また、分離体は単一の分離媒体によって実質的に均質的に形成することができるが、空間の異なる方向で希望する別の保持機構を有することも可能である。例えば、均質媒体が空間の方向に応じて異なる浸透性を持ち、それにより当該透湿性に応じた異なる保持機構が達成されるようにしてもよい。
【0018】
本発明によれば、空間のX、YおよびZ方向の異なる保持能力を、分離体の表面特性または分離体内部の多孔性を意図的に形成することで予め規定可能であり、当該保持能力は永続的または動的変更可能のいずれかで実現することができる。
【0019】
本発明の特別な側面は、分離体内の分離媒体の表面特性または多孔性を、当該目的のために分離媒体自体を交換することなく、動的に変更することができる分離体の特性に関連している。有利的に、X、YまたはZの特定の方向に保持能力を動的に変更することで、分離体またはその部分を当該目的のために物理的に交換することなく、それぞれの方向で検出すべき成分に対する分離体の一時的または局所的な調整を可能にする。その代わり、その保持能力は分離体に影響する化学的または物理的作用によって影響を受ける。例えば、独立した保持機構は、異なる静止面(自然状態で)を動的に生成することにより実現することができる。そのような選択的調整方法には、疎水性とC18相の固有の陽イオン交換容量、移動相または熱的または電気的に制御可能な相を変更することによる相互作用モードおよびサイズ排除モードでの多孔質コラムが含まれる。これらの方法により分離体内の表面特性を調整することができ、それにより保持機構を変更することができる。例えば、分離体内の特定区域の表面特性が、移動層に添加される試薬によって動的に変更される場合があり、それによって当該区域で表面特性の変化につながる特定の相互作用を引き起こす。後者の例として、C18相を逆相分離に使用することができるが、正に帯電したイオン対試薬を移動相に追加する場合、C18相はまた "動的陰イオン交換体"に変更することができる。別の例では、移動相を変更することにより、相互作用モードおよびサイズ排除モードで多孔質のカラムを使用する。
【0020】
保持能力の変化を引き起こす別の方法は、分離体の特定区域内の光誘起反応を引き起こすか、または熱的または電気的に分離体内の特定区域を制御することである。
【0021】
これらの各対策により、当該区域または方向における分離体の表面特性または保持能力をそれぞれ変更することが可能になる。このことは、外側に変更されない分離体は、異なる時点またはX、YまたはZの異なる流れ方向での分離体のそれぞれ異なる保持能力で"プログラム制御"できるという特別な利点がある。従って、実質的に均質またはモノリシックとなるように構成され、かつその保持能力が最初は空間の各方向で同じである分離体でも、分離用の特定の効果のために有利であると考えられる特定の異なる保持能力を、3次元クロマトグラフの個々の段階や次元について、それぞれ備えることができる。
【0022】
この種の"プログラミング"は、分離体全体に関連する必要はない。例えば光誘起反応によって、分離体内で規定された区域(例えば立方状区域)を特定の保持能力(当該保持能力が当該区域で正確に適切であると思われる場合)に調整することができる。これは、例えばXY平面で二次元分離を受けた特定の成分が、Z軸方向で追加の分離のために前述の区域でプログラムされた保持能力を必要とする場合であろうが、おそらくZ軸全体に沿った保持能力は必要としない。しかし、分離体をZ方向に貫いて流れる時に前述の区域を通過しないXY平面内の他の成分にとっては、当該区域外に存する保持能力はさらなる分離をするのに十分かもしれない。もちろん、分離体内の内部に上下左右に相互隣接して異なる保持能力を有する異なる区域を配置することも可能である。
【0023】
最後に、分離体のX、YまたはZ方向に沿って連続して相応の異なる保持能力を有する 異なる区域を"プログラム"することも考えられる。従って、この単一方向では、既に多次元分離のようなことが達成されている。もし他の方向YとZで相応の分離が進行した場合、それぞれ分離された成分がさらに詳細に分析可能なように、3次元分離体内の多数の異なる保持能力が実現される。
【0024】
他の有利な実施形態は従属請求項で規定される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る方法で使用される分離体の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下において、本発明に係る分離体の実施形態を図1に示す実施形態の助けを借りてより詳細に説明する。図1に示すように、本発明に係る空間的に広がりのある分離体1は、互いに垂直な3方向X、Y、Zに延びている。分離体1はモノリシックになるように設計されているにもかかわらず、それがY、Z、X方向のそれぞれに固有の保持機構を提供している。
【0027】
3次元クロマトグラフを実行するため、図1で不比例的に拡大示するように、移動相が限定された上縁領域2を介して最初に分離体1に導入される。好ましくは、移動相は、本発明方法の最初の工程の間に、他の方向YとZに移動することなく、分離体1の上縁に沿って、第1の方向Xでのみ分離体1を貫通する。
【0028】
この最初の工程では、ブロックのX軸に沿った成分の分離が当該X軸方向で予測される保持機構によって生じる。好ましくは、当該最初の軸に沿って成分が個々に分布する(”空間的分離”)。
【0029】
この最初の工程の後、移動相は、分離体1の上縁2を、最初の工程の分布に対して垂直を成しかつ狭いストリップ3を通る全長Xにわたり、Y方向に貫通して導入される。移動相は、好ましくは他のXまたはZ方向に変動することなくY方向に流れ、第1工程の後に特定のX位置に配置された成分の第2次元における追加的分離に影響を及ぼす。その結果、成分は、図1の分離体1の上面であるかもしれないXY領域を横切る他の”空間的な分離”でさらに分離され
る。
【0030】
第3分離工程は、前の工程を受けたXY面に垂直な分離体の浸透を含んでいる。移動相は、3次元クロマトグラフの第2工程の後に、分離体をZ方向に強制的に通り抜け、特定のXY位置に配置された成分の別の分離を引き起こす。
【0031】
この分離は再び”空間で”発生することが可能で、当該分離により分離体の
X、Y、Zの3つのすべての方向に沿った成分が最終的に明確に分配される。もう一つの(”時間の”)分離の形式は、成分が最後の工程で完全に分離体を
介して駆動されている時に発生するが、Z方向に選択された保持機構によって分離体から異なる時点で表出する。
【符号の説明】
【0032】
1 分離体
2 上縁
3 ストリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元クロマトグラフ用の分離体であって、前記分離体(1)は空間内で望ましくは互いに直交する3方向(X,Y,Z)に延びると共に、前記移動相内に各方向(X,Y,Z)で搬送された検体用に各方向(X, Y, Z)において予め決めておくことができる個々の保持機構(Rx, Ry, Rz)を有する分離体において、
前記分離体はモノリシックユニットに形成され、当該分離体はさらに、
i)開放または被覆された経路を有するか、または
ii)モノリシック固定相を有するか、または
iii)疑似固定相、特にミセルを有するか、または
iv)マイクロマシン構造として形成されるか、または
v)パックされたベッドを有するか、または
vi)自己組織化マイクロ・ナノ構造
を有することを特徴とする分離体。
【請求項2】
前記保持機構(Rx, Ry, Rz)の少なくとも1つが前記分離体内部のプリセットされた表面特性または多孔性により設定されていることを特徴とする請求項1に記載の分離体。
【請求項3】
前記保持機構(Rx, Ry, Rz)の少なくとも1つが、細孔径の特性を変更することにより動的に変更することができることを特徴とする請求項1または2に記載の分離体。
【請求項4】
例えば、疎水性またはシリカC18材料の固有の陽イオン交換容量に対して、表面特性を動的に変更することができることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の分離体。
【請求項5】
a)前記移動相に添加される試薬により、または
b)前記分離体の特定区域内の光誘起反応により、または
c)前記分離体内の熱的または電気的に制御可能な特定区域により、または
d)表面電荷を操作して電気浸透流を生成することにより、
表面特性を動的に変更することができることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の分離体。
【請求項6】
表面電荷が動的に生成され、当該表面電荷は前記移動相の組成の選定によって制御可能であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1に記載の分離体。

【図1】
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【公表番号】特表2013−504046(P2013−504046A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527246(P2012−527246)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005470
【国際公開番号】WO2011/026651
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(512043670)ディオネクス ベネルクス ビー ブイ (3)