説明

分離剤除去方法

【課題】遠心分離処理後の検体容器から分離剤を迅速かつ容易に除去できるようにする。
【解決手段】検体容器110内に中空部材としてのスティック118が差し込まれる。スティック118の外径は検体容器110の内径よりも小さいがほぼそれに等しい。スティック118により検体容器110の内面から分離剤を剥がすことが可能となる。スティック118の先端部内に分離剤114が取り込まれた段階でスティックの下降が停止される。その後、スティック118を引き上げるとその先端部内に入り込んだ分離剤が検体容器から取り出される。スティック118の先端部にはスリットを形成するのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体前処理装置に関し、特に遠心分離処理後の検体に対する前処理を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体から採取された血液試料を入れた採血管(検体容器)に対して遠心分離処理が実行されると、血液試料は採血管の中で血清と血餅とに分離する。採血管には一般に予め分離剤が入れられており、その分離剤は、遠心分離処理後に、上層としての血清層と下層としての血餅層との間に中間層を構成する。分離剤は一般にかなり大きな粘度を有する。
【0003】
従来においては、上層の血清が分析対象となっていたため、それに対してだけ分注処理(つまり吸引と小分け吐出)が行われていた。しかし、近時、下層の血餅も分析対象になりつつある。そこで、血餅を分注処理する必要があるが、ここで問題となるのが採血管内の分離剤の存在である。
【0004】
分離剤の粘度は一般に高いために、血清分注後にノズル先端を分離剤を突き通して血餅層まで差し込むと、その粘性からノズル先端に前方に膜を作ったり、分離剤が変形して階層を乱したりして、血餅の吸引を円滑に行えないという問題がある。
【0005】
そこで、採血管内に竹串を差し込んで掻き取る等の手技が行われていたが、その作業性は極めて悪く、分離剤を除去するのに多大な労力が生じていた。また、そのような方法では、結局、分離剤が残留しがちであり、その後における血餅の分注に悪影響が生じやすい。特許文献1には、スプーンのような形態をもった棒状部材で分離剤を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−43032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、検体容器内に存在する分離剤を簡便に除去できるようにすることにある。
【0008】
本発明の他の目的は、分離剤の粘性を逆に旨く利用して検体容器内から分離剤を容易に除去できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、遠心分離処理後の検体を収容した検体容器を保持する検体容器ラックと、前記検体容器の内径よりも小さい外径を有する中空部材と、前記検体容器内に対して前記中空部材を差し込んで前記検体中の分離剤の少なくとも一部が前記中空部材内に取り込まれるようにし、その後に前記中空部材を引き上げる第1搬送機構と、を含むことを特徴とする検体前処理装置に関する。
【0010】
上記構成によれば、第1搬送機構によって中空部材が検体容器内に差し込まれる。すると、中空部材の先端開口から中空部材の内部へ分離剤が入り込む。分離剤の奥側(下側)には血液試料からなる下層が存在しているので、中空部材を差し込めば、その中に自然に分離剤が入ってくる。その際に中空部材の先端エッジがカッターのように作用する。中空部材の外径を検体容器の内径に近付けておけば、中空部材の外面が検体容器の内面に接しながら、あるいは近接しながら、中空部材が下降運動することになるので、先端エッジにより分離剤を検体容器の内面から剥がす作用が発揮される。中空部材を所定の深さまで差し込んだ後に、それを引き上げれば、中空部材の内容物として分離剤を検体容器の外に取り出すことができる。よって、典型的には1回のアクションで分離剤を迅速かつ容易に除去することができる。勿論、1つの検体容器に対して複数回の除去工程を実行することも可能である。最終的に検体容器内に一部の分離剤が残留していても、例えば検体容器の内壁に一部の分離剤が残留していても、あまり問題とならない。つまり、後の血液試料の分注に当たって障害とならない程度の残留が生じていてもよい。分離剤は一般に高粘度の液状体であるために、いったん中空容器内に入り込むと、容易に抜け出ない性質をもっている。よって、中空容器をそのまま引き上げれば分離剤を効果的に除去でき、また分離剤のたれ落ちといった問題も生じ難い。但し、中空部材の内部を大気圧よりも負圧に維持しつつその引き抜きを行うようにしてもよい。中空部材内において分離剤の上に、上部層を構成していた残留血液試料(一般に血清)が取り込まれてもよい。
【0011】
望ましくは、前記検体容器内の検体は、血液試料からなる下部層と、その上に存在する前記分離剤からなる中間層と、を含み、前記搬送機構は、前記中空部材の下端が前記中間層を突き抜けるまで、前記中空部材を前記検体容器内に差し込む。中空部材の下端が下部層の途中まで入り込むように中空部材の位置決めを行うのが望ましい。中間層の下面レベルが既知であればそれに応じた所定の高さまで中空部材の先端を差し込むようにすればよく、中間層の下面レベルが既知でないような場合はそのレベルを検出して高さ制御を行うようにしてもよいし、最下端まで中空部材を差し込んでしまってもよい。下部層は一般に血餅層として構成され、分離剤の上には上部層としての血清層が形成される。先の分注処理によって血清層が概ね吸引除去されている状態で分離剤の除去が実行されるのが一般的であると思われるが、血清分注を行わずに分離剤除去工程が実行されてもよい。
【0012】
望ましくは、前記中空部材は、その下端から垂直方向に伸びたスリットを有する。スリットは、状況に応じて各種の機能を発揮する。まず、検体容器の内径に中空部材の外径がかなり近いような場合、スリットは中空部材の実際の外形に自由度を生じさせる機能を発揮する。次に、中空部材の内部が密閉空間となる場合には中空部材を検体容器内に差し込む際に分離剤の進入に抵抗が生じることが予想されるが、スリットを形成しておけばそれが通気口として機能して、分離剤の進入を円滑に行わせることができる。また、中空部材を回転させながら検体容器に差し込む場合、スリットが回転カッターのように機能し、検体容器の内壁から分離剤を剥がす作用を発揮する。実際のニーズに応じて、スリットの長さ、開口幅を定めるのが望ましい。一般には分離剤の厚みよりも長いスリットを構成しておくのが望ましい。但し、単純な円筒形状をもった中空部材を利用して分離剤の除去を行うことも可能である。つまり、スリットはあった方が望ましいが、それがなくても分離剤の除去を行える。複数のスリットを形成するようにしてもよい。
【0013】
望ましくは、前記中空部材は、前記透明性を有するストロー形状を有する。その先端は水平開口が望ましいが、傾斜開口であってもよい。前者の構成によれば下端縁により均等に分離剤に対して圧をかけてそれに対して型抜きを行えるので、分離剤の形態が不安定になることを防止できる。残留血清を一緒に除去する場合にも水平開口の方が望ましい。中空部材は樹脂等によって構成されるのが望ましく、ある程度の硬さと柔軟性とがあった方が望ましい。
【0014】
望ましくは、前記第1搬送機構は、前記中空部材を前記検体容器内に挿入する際に前記中空部材を回転させる回転部を備える。この構成によれば分離剤に対して中空部材を円滑に差し込める。
【0015】
望ましくは、前記第1搬送機構は、前記中空部材の上端部が着脱自在に装着される装着部を有し、前記装着部は、前記中空部材の上端開口内に差し込まれる挿入軸と、前記中空部材の上端開口内に前記挿入軸が差し込まれた状態で、前記中空部材をその外側から掴むチャッキング部と、を含む。挿入軸への上部開口の差し込みにより位置決めが図られ、中空部材をその外側からチャッキングすることにより、その脱落が防止される。特に、中空部材の引き上げ時に確実に中空部材を保持できる構成を採用するのが望ましい。
【0016】
望ましくは、前記中空部材の使用後に当該中空部材を前記装着部から取り外すためのリムーブ機構が設けられる。望ましくは、前記リムーブ機構は、前記中空部材の中間部分を両側から挟んで変形させる一対の部材を有し、前記第1搬送機構は、前記中空部材の中間部分が前記一対の部材によって挟まれた状態において、前記中空部材が装着された装着部を上方へ引き上げる。中空部材を一対の部材で挟み変形させてそれを保持した状態で装着部を引き上げることにより、装着部から中空部材を確実に外すことができる。望ましくは、前記一対の部材は、一対のローラーであり、前記一対のローラーの間隔は前記中空部材の外径よりも小さい。一対のローラーであればその間に水平方向から中空部材を円滑に差し込むことができ、上記の変形状態を速やかに形成できる。各ローラーは従動ローラーであってもよいし、駆動されるローラーであってもよい。
【0017】
望ましくは、前記検体容器ラックは、それによって保持されている検体容器の上方運動を制止する制止手段を有する。中空部材を上方へ引き上げる際に、分離剤の粘度により、検体容器に上方への運動力が生じてしまう可能性がある。そこで、制止手段によってそのような動きを防止するのが望ましい。望ましくは、前記検体容器ラックは容器収容孔を有し、前記制止手段は、前記容器収容孔に設けられ当該容器収容孔に収容された検体容器の側面に当接されてブレーキ作用を発揮する当接部材を有する。
【0018】
望ましくは、未使用の中空部材が保持された中空部材ラックを有し、前記中空部材ラックは、前記未使用の中空部材の下端開口に差し込まれて当該未使用の中空部材の位置決めを行う突起部材を有する。この構成によれば、中空部材に柔軟性があっても、その位置決めを適切に行えるので、自動的な装着時にジャミングエラーが生じることを軽減できる。
【0019】
望ましくは、前記検体容器内の血液試料を吸引するノズルと、前記ノズルを搬送する第2搬送機構と、を含み、前記第1搬送機構と前記第2搬送機構は同一又は別々の機構である。望ましくは、前記検体容器内の検体は、下部血液試料からなる下部層と、その上に存在する前記分離剤からなる中間層と、その上に存在する上部血液試料からなる上部層と、を含み、前記ノズルによって前記上部層の吸引が行われ、その後に前記中空部材によって前記分離剤の除去が行われ、その後に前記ノズルによって前記下部層の吸引が行われる。
【0020】
本発明は、遠心分離処理後の検体を収容した検体容器の内径よりも小さい外径を有するストロー状の中空部材であり、その内部に前記検体容器中の分離剤を取り込むことを特徴とする分離剤除去部材に関する。
【0021】
本発明は、上記の分離剤除去部材を用いて前記検体容器から分離剤の一部又は全部を除去する方法であって、前記分離剤除去部材の先端が前記分離剤からなる中間層を突き抜けるまで、前記分離剤除去部材を前記検体容器内に差し込む差し込み工程と、前記分離剤を取り込んでいる前記分離剤除去部材を前記検体容器から引き抜く引き抜き工程と、を含むことを特徴とする方法に関する。望ましくは、前記差し込み工程では前記分離剤除去部材の回転が行われる。望ましくは、前記引き抜き工程では前記分離剤除去部材の内部が負圧にされる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、検体容器内に存在する分離剤を迅速かつ簡便に除去できる。あるいは、本発明によれば、分離剤の粘性を逆に旨く利用して検体容器内から分離剤を迅速かつ容易に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る検体前処理装置の好適な実施形態を示す正面図である。
【図2】分離剤除去ユニットの側面図である。
【図3】装着部の断面図である。
【図4】スティックの斜視図である。
【図5】ラックの平面図である。
【図6】ラックの断面図である。
【図7】ブレーキ部材の作用を説明するための断面図である。
【図8】突起部材によるスティックの保持を説明するための断面図である。
【図9】スティック取り外し機構を示す平面図である。
【図10】分離剤除去工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1には、本発明に係る検体前処理装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す正面図である。この検体前処理装置は、遠心分離処理後の検体に対して前処理を実行する装置であり、その前処理には、血清分注、分離剤除去及び血餅分注が含まれる。本実施形態に係る前処理装置ではそれらの一連の工程が全て自動化されている。ただし、一部あるいは全部の工程が用手的に行われてもよい。
【0026】
図1において、検体前処理装置は、筐体12、可動部14、ラック16、スティック取り外し機構20及びノズルチップ取り外し機構18を有している。筐体12は、ベース22、一対の支柱24,26及び上部レール30を有している。上部レール30は可動部14を図においてY方向に運動させるための部材である。
【0027】
可動部14は、本実施形態において、フレーム32、ノズルユニット34及び分離剤除去ユニット36を有している。ノズルユニット34は、チップフィッティングとしての装着部38と、それに対して着脱自在に装着されるノズルチップ40とを有している。ノズルチップ40は血清分注及び血餅分注において用いられるディスポーザブルの部材である。血清分注と血餅分注とで別々のタイプのノズルチップが用いられてもよい。ノズルユニット34と分離剤除去ユニット36は互いに独立してフレーム32上において昇降運動することが可能である。それらの昇降駆動機構については図示省略されている。
【0028】
分離剤除去ユニット36は、モータ46、モータ46の軸に連結された装着部42及び分離剤除去部材としてのスティック44を有している。スティック44は後に説明するようにストロー状の透明性を有する樹脂からなる中空部材として構成されている。スティック44の上部が装着部42に対して着脱自在に装着される。
【0029】
ベース22上にはラック16が搭載されている。ラック16は搬送機構56によってX方向(紙面垂直方向)に運動可能である。符号58は搬送機構56の駆動源を表している。ラック16がX方向に位置決めされ、一方、可動部14がY方向に位置決めされ、これによってラック16に対して可動部14を相対的にX方向及びY方向の両方向に位置決めすることができる。ラック16は、本実施形態において複合ラックであり、ラック16上には複数の検体容器50が保持されており、また、複数のノズルチップ(未使用のノズルチップ)52が保持されており、更に、複数のスティック(未使用のスティック)54が保持されている。
【0030】
ノズルチップ取り外し機構18はチップリムーバ60及び廃棄ボックス62を有している。チップリムーバ60は従来同様にU字型の溝を有しており、その溝内に装着部38を差込み、それを上方に引き上げれば、装着部38に装着されているノズルチップ40を離脱させることができ、その離脱したノズルチップは廃棄ボックス62内に落下する。
【0031】
スティック取り外し機構20は、挟持機構64及び廃棄ボックス66を有している。後に説明するように挟持機構64は一対のローラーを備えており、それらのローラー間にスティックを挟み込んでそれを部分的に変形させて潰し、その状態において装着部42を上方に引き上げることによりその装着部42からスティック44を離脱させることができる。その離脱したスティックは直ちに廃棄ボックス66内に落下し、あるいは次のスティックの除去の時点で押し出されて廃棄ボックス66内に落下する。
【0032】
図1に示される検体容器50には遠心分離処理後の血液試料が入れられており、血液試料すなわち検体は、上方から下方にかけて3つの層をなし、すなわち、それは血清層、分離剤層及び血餅層により構成される。分離剤は高粘度のゼリー状の物質であり、血餅分注に先立ってその大部分を除去しておくことが望ましい。このため、本実施形態においては上述した分離剤除去ユニット36が設けられている。ちなみに、検体容器50は、バイアル、採血管等の容器であってもよい。遠心分離装置からラック16に対して自動的に検体容器を搬送する機構を設けることもでき、そのような搬送を手作業にて行うことも可能である。図1に示す構成では、ラック16が複合ラックを構成していたが、検体容器用のラック、ノズルチップ用のラック、及び、スティック用のラックをそれぞれ別に構成することも勿論可能である。
【0033】
図2には、分離剤除去ユニット36の側面図が示されている。上述したように、分離剤除去ユニット36は、装着部42及びスティック44を備える。スティック44の上端部が装着部42によって保持されている。装着部42は、装着部材70及びチャッキング機構72を有する。チャッキング機構72は、本実施形態において、スティック44の上部を外側からくわえ込む4つのアーム72を有している。上述したように、分離剤除去ユニット36はモータを備えており、そのモータの回転力により、スティック44を検体容器へ差し込む際にスティック44に回転運動を行わせることができる。
【0034】
図3には、装着部42の断面が示されている。装着部材70は、中空形態を有する上部70Aと、その下端側から下方へ伸長した挿入軸46Bと、を有する。挿入軸46Bはスティック44の上部開口からその内部に差し込まれるものであり、その下端は先細形状を有している。挿入軸46Bの根本には突き当たり面46Cが構成されており、その突き当たり面46Cにスティック44の上部開口縁が当接される。そのような状態で、スティック44の外側が4つのアーム72によって保持される。具体的には、各アーム72の爪部72Aによってスティック44がくわえ込まれる。上部70Aにはモータ軸74が連結されており、そのモータ軸74の回転運動が装着部42全体の回転運動に転換される。分離剤の除去の際に、スティック44の先端部内に分離剤が取り込まれ、その状態でスティック44が上方に引き上げられるが、その際において4つのアーム72によって確実にスティック44の上部を保持し、これによってスティック44の脱落が防止されている。
【0035】
図4にはスティック44の斜視図が示されている。上述したように、スティック44はストロー状の形態を有し、それはある程度の堅さをもった柔軟な材料により構成されている。具体的には、透明性を有する樹脂により構成されている。スティック44の上部44Bは上述したように装着部に装着される部分であり、スティック44の下部44Aから分離剤が取り込まれる。符号44Cは下端開口縁を表している。それは分離剤に対して型抜き用のエッジとして機能する。本実施形態においては、下部44Aにスリット76が形成されている。このスリット76は下端開口縁から垂直方向に一定の長さ範囲で形成されており、その範囲は望ましくは分離剤の厚み以上に設定される。
【0036】
スリット76はいくつかの機能を有している。まず第1に、スティック44を検体容器内に差し込む際にそれを回転運動をさせる場合、スリット76が回転しながら検体容器内に進入することになるので、分離剤を内壁面から掻き取る作用を発揮する。第2に、スリット76はスティック44の内外を連通する通気路として機能する。すなわち、そのスリット76が空気穴として機能し、分離剤を円滑にスティック44の内部に取込むことが可能である。第3にスリット76はスティック44の下部44Aにおける変形の自由度をもたらすという作用を発揮する。すなわち、スティック44の外径は検体容器の内径よりも小さいがそれとほぼ同じに設定されており、具体的には、検体容器の内径に対して0.5〜1mm程度小さい直径として定められている。したがって、検体容器へスティック44を差し込む場合に、位置決め誤差があったり軸ぶれがあったりすると、スティック44が円滑に検体容器内に進入しない可能性が生じる。これに対し、スリット76が形成されていれば、下部44Aを検体容器の形状や位置に応じて自然に変形させることが可能となるので、その挿入を円滑に行えるという利点がある。本実施形態においては1つのスリット76が形成されていたが、スティック44に複数のスリットを形成するようにしてもよい。下部44Aに多数のスリットを形成し、すなわち下部44Aを円形の簾状に構成するようにしてもよい。ただし、あまりスリットの個数を増大させると、分離剤の保持作用が弱くなってしまう可能性もあるため、そのような問題が生じない限りにおいてスリットの個数、スリットの幅及び長さを定めるのが望ましい。ちなみに、本実施形態においてはパイプ状の形態をもってスティック44が構成されていたが、それを矩形等の形態で構成するようにしてもよい。検体容器の形状に合わせてスティック44の形状を定めるのが望ましい。
【0037】
図5には、図1に示したラック16の平面図が示されている。ラック16には、挿入孔アレイ78が設けられている。この挿入孔アレイ78は検体容器50を収容する複数の挿入孔80により構成される。各挿入孔80には必要に応じて検体容器50の保持力を高めるためのブレーキ部材92が設けられる。その作用については後に説明する。ラック16には、別の挿入孔アレイ82が設けられている。挿入孔アレイ82は複数の挿入孔84により構成され、それぞれはノズルチップを収容する収容部を構成する。更に、ラック16には挿入孔列86が形成されており、それは複数の挿入孔88からなる。各挿入孔88にはスティックが差し込まれ、それが保持される。
【0038】
図6には、図5に示すA−A’断面が示されている。上述したように、挿入孔80には検体容器50が差し込まれて保持されている。検体容器50は図示の例において上部が広がって下部が狭まった形態を有している。その下部には血液試料が収容されており、それは遠心分離後のものである。図7には、挿入孔を別の角度から見た断面が示されている。検体容器50は一方の壁部材90とブレーキ部材92との間に挟まれており、特にこのブレーキ部材92が検体容器50をその側面から壁部材90へ押しつける作用を発揮している。ブレーキ部材92は例えばゴム等の弾性部材により構成することができる。このような制止作用を発揮させることにより、スティックを検体容器50内に差し込んだ上でそれを引き上げる際に検体容器50それ自体が上方に浮いてしまう問題を効果的に防止することができる。
【0039】
図8には、スティック94を保持している挿入孔の構造が断面図として示されている。ラック16の底面には台座96が設けられ、その台座には突起部材98が固定されている。突起部材98はスティック94の先端開口からその内部に差し込まれるものであり、このような差込状態を形成することにより、スティック94をぐらつかずに安定的に保持することが可能である。すなわち、装着部に対してスティック94を装着させる場合にスティック94がぐらついていると、その装着を円滑に行えないことが生じるが、突起部材98を利用することによりスティック94を安定的に起立させてその装着を円滑に行えるという利点が得られる。突起部材98は弾性部材あるいはブラシ等の部材により構成されてもよい。
【0040】
図9には、スティック取り外し機構64の平面図が示されている。プレート100によって2つのローラ102,104が回転自在に保持されている。プレート100にはU字型をした溝100Aが形成されており、その溝100Aには、装着部に装着されている状態のスティック108が差し込まれる。溝100Aの横幅よりも2つのローラ102,104の間隔106の方が小さく、しかもその間隔106はスティック108の外径よりも小さいため、一対のローラ102,104の間にスティック108を差し込むと、それらのローラが自然に従動回転し、一対のローラ102,104によってスティック108が挟み込まれる。スティック108は変形可能な樹脂等により構成されているため、その中間部分が部分的にくびれてつまり押しつぶされて一対のローラ102,104によってくわえ込まれることになる。その状態が形成された上で装着部を上方に引き上げれば、装着部からスティック108を確実に引き離すことが可能となる。その後、スティック108は一対のローラ102,104の間に挟まれた状態となるが、次のスティックが一対のローラ102,104の間に挿入されると、それに押し出されて前回のスティックが開放され、それが下方へ落下することになる。このように、スティック108を両側から挟み込むことによりその変形作用と相まってスティックの確実なる保持を達成し、その後に装着状態を円滑に解消させることができる。
【0041】
次に図10を用いて本実施形態に係る装置の動作を説明する。本実施形態において、検体前処理は、3つの工程により構成される。第1の工程は血清分注工程であり、第2の工程は図10に示す分離剤除去工程であり、第3の工程は血餅分注工程である。まず第1の工程においては、ノズルチップが装着部に装着され、そのノズルチップを利用して血清に対する分注が実行される。すなわち血清が小分け用の複数の容器に移される。その後、図10に示す分離剤除去工程が実行される。
【0042】
まず最初に、装着部に対してスティックが装着され、次に、そのスティックが、対象となる検体容器の上方に位置決めされる。その後、スティックが上方から下方へ下降し、その際においてはスティックに回転力が与えられる。その状態が図10において(A)に示されている。ちなみに、検体容器110内には3つの層が構成されており、上方から下方にかけて残留血清層112、分離剤層114及び血餅層116が構成されている。スティック118を検体容器110内に差し込んでいくと、スティック118の先端面が分離剤を通過し、その際に分離剤層114の変形も生じるが、そのような変形を超えて分離剤に対してスティック118が完全に貫通した位置においてスティック118の下降が停止される。その状態が図10の(B)で示されている。スティック118の下部すなわち先端部内には分離剤の大部分が取り込まれる。その際において、上述した開口縁のエッジ作用により分離剤は型抜きのような形でスティック118の内部に取り込まれる。またエッジは検体容器の内面から分離剤を剥がす作用を発揮し、更にスリットが回転カッターの機能を発揮し、内面からの剥がし作用が強化されている。
【0043】
スティック118内に分離剤の大半が入り込んだ状態の後、スティック118が図10の(C)に示すように上方に引き上げられる。すると、検体容器内には血餅層116が残留することになる。分離剤の大部分はスティック118内に取り込まれる。それが符号114Aで示されている。もっとも、部分的に分離剤が残留してもよい。そのような残留量が次の血餅分注において支障のない範囲内であれば分離剤の残留が生じていてもよい。分離剤の除去に伴って、残留血清についても除去されるため、それが血餅にあまり混じらないという利点も得られる。分離剤の除去に伴って血餅層の一部が除去されても、残る血餅の量が分注にあたって十分な量であればそのような部分的な除去は分注をする上で問題とならない。ただし、分離剤あるいは血餅の液だれ等が問題となるような場合には、スティック内を負圧にするかあるいはその内部に対して吸引を継続的に行うようにしてもよい。あるいはスティックの下方にシャッターを設け、分離剤を除去して検体容器からスティックを引き上げた時点でシャッターをスティックの下方に滑り込ませ、万が一液だれが生じてもシャッター上に落下するように構成してもよい。
【0044】
以上のように分離剤が除去された状態において、つぎの血餅分注工程が実行される。すなわち、新しいノズルチップを利用して血餅に対する分注処理が実行される。この場合においては、血清分注で利用したノズルチップをそのまま使って血餅分注を行うこともできる。ただし、検体間においては、ノズルチップ及びスティックを交換するのがコンタミネーション防止の観点から必要となる。
【0045】
上記実施形態においては全自動の装置が示されていたが、スティックそれ自体に技術的な価値があり、それを利用して用手的に分離剤の除去を行うようにしてもよい。すなわち従来のような竹串等を使った手法では分離剤を上手く除去することが困難であったが、スティックを利用すれば分離剤を円滑かつ迅速に抜き出すことが可能である。
【符号の説明】
【0046】
12 筐体、14 可動部、16 ラック、18 ノズルチップ取り外し機構、20 スティック取り外し機構、34 ノズルユニット、36 分離剤除去ユニット、44 スティック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離処理後の検体を収容した検体容器を保持する検体容器ラックと、
前記検体容器の内径よりも小さい外径を有する中空部材と、
前記検体容器内に対して前記中空部材を差し込んで前記検体中の分離剤の少なくとも一部が前記中空部材内に取り込まれるようにし、その後に前記中空部材を引き上げる第1搬送機構と、
を含むことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記検体容器内の検体は、血液試料からなる下部層と、その上に存在する前記分離剤からなる中間層と、を含み、
前記搬送機構は、前記中空部材の下端が前記中間層を突き抜けるまで、前記中空部材を前記検体容器内に差し込む、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、
前記中空部材は、その下端から垂直方向に伸びたスリットを有する、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置において、
前記中空部材は、前記透明性を有するストロー形状を有する、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置において、
前記第1搬送機構は、前記中空部材を前記検体容器内に挿入する際に前記中空部材を回転させる回転部を備える、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置において、
前記第1搬送機構は、前記中空部材の上端部が着脱自在に装着される装着部を有し、
前記装着部は、
前記中空部材の上端開口内に差し込まれる挿入軸と、
前記中空部材の上端開口内に前記挿入軸が差し込まれた状態で、前記中空部材をその外側から掴むチャッキング部と、
を含むことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記中空部材の使用後に当該中空部材を前記装着部から取り外すためのリムーブ機構が設けられた、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記リムーブ機構は、
前記中空部材の中間部分を両側から挟んで変形させる一対の部材を有し、
前記第1搬送機構は、前記中空部材の中間部分が前記一対の部材によって挟まれた状態において、前記中空部材が装着された装着部を上方へ引き上げる、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項9】
請求項8記載の装置において、
前記一対の部材は、一対のローラーであり、
前記一対のローラーの間隔は前記中空部材の外径よりも小さい、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記検体容器ラックは、それによって保持されている検体容器の上方運動を制止する制止手段を有する、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項11】
請求項10記載の装置において、
前記検体容器ラックは容器収容孔を有し、
前記制止手段は、前記容器収容孔に設けられ当該容器収容孔に収容された検体容器の側面に当接されてブレーキ作用を発揮する当接部材を有する、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項12】
請求項1記載の装置において、
未使用の中空部材が保持された中空部材ラックを有し、
前記中空部材ラックは、前記未使用の中空部材の下端開口に差し込まれて当該未使用の中空部材の位置決めを行う突起部材を有する、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項13】
請求項1記載の装置において、
前記検体容器内の血液試料を吸引するノズルと、
前記ノズルを搬送する第2搬送機構と、
を含み、
前記第1搬送機構及び前記第2搬送機構は同一又は別々の機構である、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項14】
請求項13記載の装置において、
前記検体容器内の検体は、下部血液試料からなる下部層と、その上に存在する前記分離剤からなる中間層と、その上に存在する上部血液試料からなる上部層と、を含み、
前記ノズルによって前記上部層の吸引が行われ、その後に前記中空部材によって前記分離剤の除去が行われ、その後に前記ノズルによって前記下部層の吸引が行われる、ことを特徴とする検体前処理装置。
【請求項15】
遠心分離処理後の検体を収容した検体容器の内径よりも小さい外径を有するストロー状の中空部材であり、その内部に前記検体容器中の分離剤を取り込むことを特徴とする分離剤除去部材。
【請求項16】
請求項15記載の分離剤除去部材を用いて前記検体容器から分離剤の一部又は全部を除去する方法であって、
前記分離剤除去部材の先端が前記分離剤からなる中間層を突き抜けるまで、前記分離剤除去部材を前記検体容器内に差し込む差し込み工程と、
前記分離剤を取り込んでいる前記分離剤除去部材を前記検体容器から引き抜く引き抜き工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法において、
前記差し込み工程では前記分離剤除去部材の回転が行われる、ことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16記載の方法において、
前記引き抜き工程では前記分離剤除去部材の内部が負圧にされる、ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−154952(P2012−154952A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115683(P2012−115683)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2008−80190(P2008−80190)の分割
【原出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】