説明

分離容器および分離方法

【課題】 不要な成分の混入を防止でき、効率よく分離対象物を分離可能な分離容器を提供する。
【解決手段】 試料から分離対象物を分離するための分離容器であって、外容器、内容器および蓋部を有し、
前記外容器は、上端が開口し、下端が閉口した有底筒状であり、
前記内容器は、上端および下端が開口した筒状であり、
前記外容器および前記内容器は、それぞれの上下の方向を揃えた状態で、前記外容器の内部に前記内容器が配置可能であり、
前記外容器の内部に前記内容器を配置した状態で、前記外容器の内部において、配置された前記内容器よりも下方の領域が、前記試料からの沈殿物の収容部であり、
前記蓋部は、前記内容器の上端の開口部に、脱着可能であり、
前記蓋部を前記内容器の前記開口部に装着した際、前記内容器の内部が液密状態となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離容器および分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊症は、男性側に原因があると考えられるケースが50%以上を占める。男性不妊症は、例えば、精液中の精子濃度が低い乏精子症、精子の運動能力が乏しい精子無力症等があげられる。このようなケースには、例えば、精液から回収した精子を使用する、人工授精法、体外受精法および顕微授精法等の生殖補助医療が適用されている。
【0003】
精子サンプルの調製方法は、密度勾配遠心による分離法(密度勾配遠心法)および精子の運動性を利用した分離法(スイムアップ法)があげられる。前者は、まず、遠沈管にパーコールを入れ、前記パーコールに精液を重層し、遠心分離を行う。これによって密度勾配が形成され、精子は、最下層に分離される。前記遠沈管の上部からピペットを挿入して、前記最下層の画分を採取することにより、精子サンプルが得られる。後者は、まず、遠心分離によって、精液を、精漿を含む上層と固形物の濃度が高い下層とに分離する。前記下層には、精子が含まれる。つぎに、培地を入れた容器の底部に、前記固形物を沈める。この際、運動性を有する成熟精子は、直線運動により、前記底部から前記培地の上部に、泳いで浮かび上がってくる。そこで、前記培地の上層を回収することによって、成熟精子が得られる。
【0004】
しかしながら、前者の密度勾配遠心法は、前記ピペットを上部から下層に挿入するため、前記パーコールの中層付近に存在する成分が前記ピペットに付着する。このため、採取した精子サンプル中に、不要な成分が混入するという問題がある。前記中層付近には、精漿または精巣組織成分が存在し、細菌またはウイルスが存在する場合もある。精漿等の混入は、精子サンプルにおける精子の希釈化につながり、精子の運動性に影響を及ぼすおそれがある。細菌等の混入は、受精卵および胎児の安全性に影響を及ぼすおそれがあり、また、精子の調製を行う操作者の安全性にも影響を及ぼすおそれがある。また、同じ理由により、後者のスイムアップ法も、同様の影響を及ぼすおそれがある。このような問題を解決するために、以下のような精子採取用具が提案されている。
【0005】
特許文献1には、遠沈管の中に採取管を配置した採取用具が開示されている。前記採取管は、その先端が、前記遠沈管の底部に達する状態で、前記遠沈管に配置される。そして、前記遠沈管に、パーコールおよび精液を入れ、遠心分離を行う。前記遠心分離後、前記採取管にシリンジを接続し、前記遠沈管の底部に沈殿した精子を吸引して採取する。しかしながら、前記採取用具は、前記採取管の先端が、前記遠沈管の底部に位置しているため、遠心分離時に、前記採取管の先端によって、精子が物理的損傷を受けるおそれがある。
【0006】
特許文献2には、軸方向において、隔壁により、内部が試料導入室と分離対象物の回収室とに区画された用具が開示されている。前記用具において、前記隔壁は、前記試料導入室と前記回収室とを下部で連通可能とする貫通孔を有する。この用具を用いた密度勾配遠心法は、以下のように行われる。まず、前記試料導入室と前記回収室とにパーコールを導入し、前記試料導入室には、さらに、精液を重層する。つぎに、遠心分離によって、精子を、前記試料導入室の下部に沈殿させる。この際、前記試料導入室と前記回収室は、下部の前記貫通孔で連通しているため、沈殿した精子は、前記貫通孔を通じて、前記回収室に移動する。そして、前記回収室にピペットを挿入して、パーコール液を採取する。前記回収室には、精子のみが移動するため、不純物が混入していない精子サンプルが得られる。しかしながら、この用具は、軸方向において、前記試料導入室と前記回収室とに区画されているため、前記試料導入室に十分な容積を確保できず、また、前記回収室にピペットを挿入し難い場合がある。
【0007】
また、特許文献2には、容器本体の内部に、前記試料導入室となるアタッチメントが配置された用具が開示されている。前記容器本体に前記アタッチメントを配置すると、前記アタッチメントの側壁により、軸方向において、前記容器本体の内部が、前記試料導入室と前記回収室とに区画される。すなわち、前記アタッチメントの内部は、前記試料導入室となり、前記容器本体の内部の残りの領域は、前記回収室となる。前記アタッチメントの側壁は、その下部に貫通孔を有している。この用具を使用する場合、遠心によって、前記試料導入室内部で精子が沈殿すると、前記貫通孔を通じて、前記試料導入室から前記回収室に、精子が移動する。遠心後、前記アタッチメントの内部の液密性を保持した状態で、前記アタッチメントを前記容器本体から取り出せば、前記容器本体の内部には、精子を含むパーコールのみが存在することとなる。このため、前記アタッチメントを取り外すだけで、不純物が混入していない精子サンプルが得られる。しかしながら、遠心前、前記回収室にも、多量のパーコールが導入される。このため、遠心後、前記容器本体に残る精子サンプルは、精子の濃度が低いという問題がある。また、パーコールは、比較的高価であるため、コストの問題もある。
【0008】
このような問題は、精子サンプルの調製だけでなく、遠心分離により試料から分離対象物を分離する分野においても共通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−313500号公報
【特許文献2】特開2009−119457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、不要な成分の混入を防止でき、効率よく分離対象物を分離可能な分離容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の分離容器は、試料から分離対象物を分離するための分離容器であって、外容器、内容器および蓋部を有し、
前記外容器は、
上端が開口し、下端が閉口した有底筒状であり、
前記内容器は、
上端および下端が開口した筒状であり、
前記外容器および前記内容器は、それぞれの上下の方向を揃えた状態で、前記外容器の内部に前記内容器が配置可能であり、
前記外容器の内部に前記内容器を配置した状態で、
前記外容器の内部において、配置された前記内容器よりも下方の領域が、前記試料からの沈殿物の収容部であり、
前記蓋部は、
前記内容器の上端の開口部に、脱着可能であり、
前記蓋部を前記内容器の前記開口部に装着した際、前記内容器の内部が液密状態となることを特徴とする。
【0012】
本発明の分離方法は、試料から分離対象物を分離する分離方法であって、
前記本発明の分離容器を使用し、下記の(A1)から(D1)の工程を有することを特徴とする。
(A1)前記外容器の内部に前記内容器を配置し、前記内容器の内部および前記外容器の前記収容部に、遠心処理液を充填する工程
(B1)前記(A1)工程後、前記内容器の内部に、前記試料を導入する工程
(C1)前記(B1)工程後、前記分離容器を遠心分離に供して、前記試料由来の沈殿物を、前記外容器の前記収容部に収容する工程
(D1)前記(C1)工程後、前記内容器に前記蓋部を装着した状態で、前記外容器から前記内容器を取り出す工程
【発明の効果】
【0013】
本発明の分離容器によれば、例えば、遠心分離によって、沈殿する分離対象物を、前記内容器から、その下端の先端口を通じて、前記外容器の前記収容部に収容できる。そして、前記内容器は、前記蓋部の装着により液密状態となるため、前記内容器を取り外すだけで、前記外容器に分離対象物を回収できる。また、本発明の分離容器によれば、前記収容部の大きさは、任意に設計できる。このため、前記収容部を小型化することによって、前記内容器を取り外した後、前記外容器の内部に残る液量を、任意の量、例えば、少量に設定可能となる。前記液量が相対的に少量であれば、分離対象物が相対的に高濃度であるサンプルが得られる。また、これにともない、使用する遠心処理液の量も低減できるため、例えば、パーコールを使用する場合、低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の分離容器の構成部材の一例を示す断面図であり、(A)は外容器、(B)は内容器、(C)は蓋部の断面図である。
【図2】図2は、本発明の分離容器の一例を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の分離容器の構成部材の一例を示す断面図であり、(A)は外容器、(B)は内容器、(C)は蓋部の断面図である。
【図4】図4は、本発明の分離容器の一例を示す断面図である。
【図5】図5(A)、(B)および(C)は、本発明の分離容器の一例を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明における外容器の一例を示す概略図であって、(A)は断面図、(B)はその上部の平面図、(C)は前記上部の斜視図である。
【図7】図7は、本発明における内容器の一例を示す概略図であって、(A)は断面図、(B)はその上部の斜視図である。
【図8】図8は、本発明の分離容器の一例を示す概略図であって、(A)および(B)は、それぞれ外容器の異なる溝部に、内容器に突起部を挿入した状態を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明における構成部材の一例を示す概略図であり、(A)は外容器の上部を示す斜視図であり、(B)は内容器の上部を示す斜視図である。
【図10】図10は、本発明における外容器の一例を示す斜視図である。
【図11】図11は、本発明における外容器の一例を示す概略図であり、(A)は軸方向における断面図、(B)は前記(A)のI−I方向断面図である。
【図12】図12は、本発明における内容器の一例を示す概略図であり、(A)は軸方向における断面図、(B)は前記(A)のII−II方向断面図である。
【図13】図13は、本発明の分離容器の一例を示す断面図である。
【図14】図14は、本発明における構成部材の一例を示す概略図であり、(A)は外容器の断面図、(B)は内容器の断面図である。
【図15】図15は、本発明における外容器の一例を示す概略図であり、(A)はその先端部の平面図であり、(B)は外容器の断面図である。
【図16】図16は、本発明の分離容器の一例を示す概略図であって、(A)は、軸方向断面図、(B)は、前記(A)のIII−III方向断面図である。
【図17】図17は、本発明の分離容器の一例を示す概略図であって、(A)は、内容器が突起部を有する分離容器の断面図、(B)は、外容器が突起部を有する分離容器の断面図である。
【図18】図18は、本発明の分離容器の一例を示す概略図であって、(A)は、リブを備える内容器の先端を示す斜視図、(B)は、前記(A)の内容器を有する分離容器の断面図である。
【図19】図19は、本発明の分離容器の一例を示す概略図であって、(A)は、楕円状の内容器を有する分離容器の断面図、(B)は、内容器が一方に偏って配置された分離容器の断面図である。
【図20】図20は、本発明の実施例2において回収した生存精子の平均濃縮率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
分離容器
本発明の分離容器は、前述のように、試料から分離対象物を分離するための分離容器であって、外容器、内容器および蓋部を有し、
前記外容器は、
上端が開口し、下端が閉口した有底筒状であり、
前記内容器は、
上端および下端が開口した筒状であり、
前記外容器および前記内容器は、それぞれの上下の方向を揃えた状態で、前記外容器の内部に前記内容器が配置可能であり、
前記外容器の内部に前記内容器を配置した状態で、
前記外容器の内部において、配置された前記内容器よりも下方の領域が、前記試料からの沈殿物の収容部であり、
前記蓋部は、
前記内容器の上端の開口部に、脱着可能であり、
前記蓋部を前記内容器の前記開口部に装着した際、前記内容器の内部が液密状態となることを特徴とする。
【0016】
前記外容器および前記内容器は、それぞれ筒状であり、特に、円筒状が好ましい。
【0017】
本発明の分離容器は、例えば、前記外容器の内部に前記内容器を配置した状態で、前記内容器の下端は、その先端口の端面およびその先端の外周面の少なくとも一方が、前記外容器の内周面に接触していることが好ましい。このように、前記内容器の下部で、前記外容器と接触させることにより、例えば、遠心時において、前記内容器にかかる物理的負荷を、低減できる。
【0018】
前記内容器の下端は、その先端口の端面が、前記外容器の内周面に接触してもよく、その先端の外周面が、前記外容器の内周面に接触してもよく、両方が、前記外容器の内周面に接触してもよい。
【0019】
このように、前記内容器の下端が、前記外容器の内周面に接触することで、例えば、さらに、以下のような効果が得られる。すなわち、本発明の分離容器は、例えば、スイムアップ法による精子の分離にも適している。スイムアップ法の場合、例えば、前記外容器の前記収容部に精子を配置し、前記内容器の内部に、精子が遊泳可能な液体を導入する。運動性を示す良好な精子は、直線運動により、前記収容部から、前記内容器の下端の開口部を通じて、前記内容器の内部に浮かび上がってくる。本発明の分離容器は、前述のように、前記内容器の下端が、前記外容器の内周面に接触している。このため、前記収容部から浮かび上がった精子は、前記開口部を通じて、効率良く前記内容器の内部に誘導される。このため、運動性能を示す精子を、優れた回収率で回収できる。
【0020】
前記内容器の下端は、例えば、その先端口の端面の全体が、前記外容器の内周面に接触してもよいし、前記端面の部分領域が、前記外容器の内周面に接触してもよい。後者の場合、例えば、前記外容器と接触する箇所は、1ヶ所でもよいし、2カ所以上でもよい。
【0021】
前記内容器の下端は、例えば、その先端の外周面の全体が、前記外容器の内周面に接触してもよいし、前記端面の部分領域が、前記外容器の内周面に接触してもよい。後者の場合、例えば、前記外容器と接触する箇所は、1ヶ所でもよいし、2カ所以上でもよい。
【0022】
前記内容器は、例えば、その先端の外周面に、突起部を有してもよい。この場合、前記内容器の下端は、前記突起部において、前記外容器の内周面に接触してもよい。前記内容器において、前記突起部は、特に制限されず、例えば、1個または2個以上でもよい。
【0023】
前記外容器は、例えば、前記収容部の上端部の内周面に、突起部を有してもよい。この場合、前記内容器の下端は、前記先端口の端面またはその先端の外周面の少なくとも一方において、前記外容器の前記突起部と接触してもよい。前記外容器において、前記突起部は、特に制限されず、例えば、1個または2個以上でもよい。
【0024】
前記外容器は、例えば、前記収容部の上端部の内周面に、周状に突起部を有してもよい。具体的には、例えば、前記収容部を形成する側壁が周状の突起部となり、前記収容部の外周に、周状の溝部が形成されてもよい。この場合、前記内容器の下端は、前記先端口の端面が、前記突起部に接触してもよく、具体的には、前記突起部の内表面に接触してもよい。本発明において、前記外容器の内周面は、例えば、前記突起部を有する場合、前記突起部の表面を含む。
【0025】
前記外容器と前記内容器とは、例えば、前記外容器に前記内容器を配置した際、両者を係合可能な凹部(例えば、溝部)と凸部(突起部)を、それぞれ対応する箇所に有してもよい。前記凹部および前記凸部を備えることによって、例えば、前記内容器を前記外容器に装着した際、より安定な装着性が実現できる。さらに、例えば、前記内容器を前記外容器に装着する際、前記凹部と前記凸部との係合を、操作する者の手指による触覚的感覚で、認知できることから、さらに操作性を向上できる。
【0026】
前記内容器の下端は、前述のように、前記外容器の内周面に接触している。前記内容器の下端と、前記外容器の内周面とは、前述のように、部分的に接触してもよく、これによって、前記内容器の下端と、前記外容器の前記収容部の上端との境において、例えば、前記内容器の外周面と前記外容器の内周面との間には、間隙が存在してもよいし、間隙が存在しなくてもよく、後者が好ましい。また、前者の場合、前記間隙は、例えば、精子が通過できない間隙であることが好ましい。前記間隙であれば、例えば、前記外容器の前記収容部から精子がスイムアップする際、前記精子を効率良く前記内容器の内部に導くことができる。前記精子が通過できない間隙とは、特に制限されない。前記間隙は、例えば、軸に対する垂直方向において、前記内容器の下端の外周面と、それに対面する前記外容器の内周面との距離が、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下である。
【0027】
前記内容器は、その外周面がテーパー状であるテーパー部を有してもよい。前記テーパー部は、例えば、全体的または部分的に、前記外容器の内周面に接触してもよい。また、前記内容器は、前記テーパー部の内周面が、前記外周面と同様に、テーパー状であってもよい。前記内容器において、前記テーパー部の位置は、特に制限されず、例えば、下方向があげられ、下端でもよい。また、前記内容器は、例えば、テーパー部の下方向に、円筒状の先端部を有してもよい。
【0028】
前記外容器は、その内周面がテーパー状であるテーパー部を有してもよい。前記外容器において、前記テーパー部の位置は、特に制限されず、例えば、前記収容部の上方向があげられ、前記収容部の上端部に連結してもよい。この場合、前記外容器の内部に前記内容器を配置した状態で、前記内容器の前記テーパー状の外周面は、例えば、全体的または部分的に、前記外容器のテーパー状の内周面に接触してもよい。また、前記外容器において、前記テーパー部は、例えば、その外周面が、前記内周面と同様に、テーパー状であってもよい。
【0029】
前記内容器は、例えば、さらに、その上端の外周面に、周状に突起部を有してもよい。前記突起部は、例えば、前記外容器の内部に挿入されず、前記外容器の開口部上に露出していることが好ましい。前記突起部は、例えば、前記内容器の把持部となる。また、前記突起部により、例えば、前記上端において、前記外容器と前記内容器との間隙を閉塞することが好ましい。
【0030】
前記蓋部は、前記内容器の上端の開口部に装着することにより、前記開口部を閉塞可能である。前記蓋部は、例えば、前記外容器の内部に配置した前記内容器への装着により、前記外容器の上端の開口部も閉塞することが好ましい。前記蓋部は、例えば、前記内容器と連結された形態でもよいし、前記内容器とは別個の部材であり、使用時に前記内容器に装着する形態でもよい。前記蓋部は、例えば、前記外容器と連結された形態でもよい。前記蓋部の装着形態は、特に制限されず、例えば、螺合、咬合、嵌合、圧接等があげられる。
【0031】
前記外容器の内周面および前記内容器の外周面は、例えば、いずれか一方が、突起部(凸部)を有し、他方が、前記突起部と係合可能な溝部(凹部)を有することが好ましい。前記突起部と前記溝部は、例えば、前記外容器の内部に前記内容器を係止可能であることが好ましく、それぞれ、例えば、係合用突起部および係合用溝部という。前記外容器および前記内容器は、例えば、いずれが前記突起部を有してもよく、いずれが前記溝部を有してもよい。前記突起部と前記溝部は、前記外容器の内部に前記内容器を配置する際、例えば、両者が係合できる部位に配置されている。具体例として、前記外容器の内周面に前記溝部を有し、前記内容器の外周面に前記突起部を有してもよいし、前記外容器の内周面に前記突起部を有し、前記内容器の外周面に前記溝部を有してもよい。前記突起部および前記溝部の形状および数は、特に制限されない。
【0032】
前記溝部と前記突起部は、例えば、軸方向に設けられていることが好ましい。前記外容器の上方の開口部から、その内部に、前記内容器を挿入する際、前記軸方向に設けられた溝部に、前記軸方向に設けられた突起部を挿入することで、前記外容器と前記内容器とを係合することが好ましい。前記外容器は、例えば、深さが異なる溝部を複数有してもよい。この場合、前記内容器は、最も深い溝部に挿入可能な長さの突起部を有することが好ましい。前述のように、外容器が、深さが異なる溝部を複数有する場合、いずれの前記溝部に前記突起部を挿入するかによって、前記外容器の内部への前記内容器の挿入の深さ、すなわち、前記外容器の内部において、軸方向における前記内容器の位置を調節できる。なお、前述のように、前記外容器が前記突起部を有し、前記内容器が前記溝部を有してもよい。
【0033】
前記外容器は、例えば、前記外容器が、前記収容部の外側に、同心円状の溝部を有し、前記内容器は、例えば、前記先端の外側に、同心円状の突起部を有することが好ましい。そして、前記外容器の内部に、前記内容器を配置する際、前記外容器の前記溝部に、前記内容器の前記突起部が挿入可能であることが好ましい。前記外容器における前記溝部は、前記収容部の外壁と前記外容器の外壁とによって形成されていることが好ましい。このように、前記外容器において、前記収容部の外側に前記溝部を有することで、例えば、前記外容器の上部に付着した液体が、前記外容器の内壁を伝って流れ落ちる場合でも、前記溝部に前記液体を収容でき、前記収容部への混入を防止できる。これによって、例えば、前記外容器から前記内容器をとりはずした際、前記収容部における液量の増加を十分に防止できる。
【0034】
前記分離容器を形成するための材料は、特に制限されない。前記材料は、例えば、合成樹脂材料、金属材料、ガラス材料等があげられる。これらの中でも、例えば、成形性、組立性、必要に応じて接着性等の材料の加工性;添加物の試料への溶出等の衛生面;視認性等の機能性;コスト面等の観点から、前記合成樹脂材料が好ましい。前記材料は、例えば、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリメチルペンテン、メタクリル、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリ塩化ビニル、シリコーン、エチレン酢酸ビニル共重合体、合成ゴム、各種エラストマー等の合成樹脂があげられ、これらの中でも、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートが好ましい。前記フッ素樹脂は、例えば、疎水性フッ素樹脂が好ましく、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0035】
本発明の分離容器の用途は、特に制限されない。本発明の分離容器は、例えば、試料からの精子の分離用であることが好ましい。本発明の分離容器を、試料からの精子の分離に用いる場合、その分離方法は、特に制限されず、例えば、密度勾配遠心法、スイムアップ法等に適用できる。本発明の分離容器を密度勾配遠心法に使用する場合、精子の分離以外にも、例えば、細胞小器官の分離、DNAまたはRNAの分離、血液の特定成分(例えば、赤血球、単核球、血漿)の分離等にも使用可能である。前記試料は、特に制限されず、前記分離対象物を含む試料があげられ、具体例としては、精液、血液等があげられる。
【0036】
分離方法
本発明の分離方法は、試料から分離対象物を分離する分離方法であって、
前記本発明の分離容器を使用し、下記の(A1)から(D1)の工程を有することを特徴とする。
(A1)前記外容器の内部に前記内容器を配置し、前記内容器の内部および前記外容器の前記収容部に、遠心処理液を充填する工程
(B1)前記(A1)工程後、前記内容器の内部に、前記試料を導入する工程
(C1)前記(B1)工程後、前記分離容器を遠心分離に供して、前記試料由来の沈殿物を、前記外容器の前記収容部に収容する工程
(D1)前記(C1)工程後、前記内容器に前記蓋部を装着した状態で、前記外容器から前記内容器を取り出す工程
【0037】
前記遠心処理液は、特に制限されず、例えば、試料および分離対象物の種類に応じて適宜決定できる。前記遠心処理液は、例えば、密度勾配担体、培地、緩衝液等があげられる。前記密度勾配担体は、例えば、比重調整剤ということもできる。前記密度勾配担体は、特に制限されず、例えば、パーコール、修飾コロイドシリカ、ショ糖重合体、フィコール等があげられる。前記パーコールは、通常、ポリビニルピロリドン皮膜を持つコロイド状シリカゾルである。前記パーコールは、例えば、エンドトキシンを除去した後、前記培地を添加して等張化したパーコールが好ましい。パーコールの濃度は、特に制限されず、例えば、90〜98%が好ましい。前記培地は、例えば、分離対象物が精子の場合、HEPES含有液等があげられる。
【0038】
前記(A1)工程において、前記外容器の内部への前記内容器の配置と、前記遠心処理液の充填は、順序は制限されない。前記(A1)工程は、例えば、下記(A1−1)工程および(A1−2)工程のいずれでもよい。
(A1−1)前記外容器の内部に前記内容器を配置した後、前記内容器の内部に前記遠心処理液を導入することで、前記内容器の内部および前記外容器の前記収容部に、前記遠心処理液を充填する工程
(A1−2)前記外容器の内部に、前記遠心処理液を導入した後、前記外容器の内部に前記内容器を配置することで、前記内容器の内部および前記外容器の前記収容部に、前記遠心処理液を充填する工程
【0039】
前記(A1−1)工程は、例えば、前記外容器の内部に前記内容器を配置した後、前記内容器の内部に、前記遠心処理液を注入する。これによって、例えば、前記内容器の下端の開口部から、前記外容器の前記収容部にも、前記遠心処理液を充填できる。また、前記(A1−2)工程は、例えば、前記外容器の内部に前記遠心処理液を注入した後、前記内容器を前記外容器の内部に配置する。これによって、例えば、前記内容器の内部に遠心処理液を充填することもできる。この場合、前記内容器の下端の開口部から、内部に前記遠心処理液が導入される。
【0040】
前記(B1)工程において、前記試料の導入方法は、特に制限されない。前記遠心処理液が密度勾配担体の場合、例えば、前記試料は、前記密度勾配担体の上に重層することが好ましい。
【0041】
前記(C1)工程において、遠心分離の条件は特に制限されず、例えば、試料および分離対象物の種類に応じて適宜決定できる。具体例として、例えば、1000G(1000×9.80665m/s)で20〜30分間の条件である。前記遠心分離は、例えば、前記内容器に前記蓋部を装着した状態で行うことが好ましい。前記遠心分離によって、前記試料由来の沈殿物が、前記内容器の下端の開口部から、前記外容器の前記収容部に導出される。
【0042】
前記(D1)工程において、前記内容器に前記蓋部を装着すると、前記内容器の内部は、液密状態となる。このため、前記内容器の内部の液体が、下端の開口部から漏れることなく、前記外容器から前記内容器を取り出すことができる。前記試料由来の沈殿物は、前記外容器の収容部に収容されているため、前記収容部の液体を回収することで、沈殿した分離対象物を回収できる。
【0043】
前記分離対象物は、前述のように、特に制限されず、本発明の分離方法は、精子の分離に適用することが好ましい。精子を分離する場合、本発明の分離容器は、例えば、遠心分離法、スイムアップ法に適用できる。
【0044】
本発明の分離方法は、例えば、第1形態として、遠心分離法、すなわち、遠心分離により精子を沈殿させて、精子を回収する方法があげられる。この場合、例えば、前記(B1)工程において、精子を含む試料、例えば、精液等を前記内容器の内部に導入し、そして、前記(C1)工程において、前記分離容器を遠心分離に供し、前記試料中の精子を、沈殿により、前記外容器の前記収容部に収容し、続いて、前記(D1)工程において、前記外容器から前記内容器を取り出し、前記外容器の前記収容部内の前記精子を回収することが好ましい。
【0045】
前記第1形態は、例えば、前記遠心処理液として前記密度勾配担体を使用した、密度勾配法であることが好ましい。
【0046】
前記第1形態は、さらに、スイムアップ法と組み合わせることもできる。この場合、例えば、前記(C1)工程において、前記分離容器を遠心分離に供して、前記試料中の精子を、沈殿により、前記外容器の前記収容部に収容し、前記(D1)工程において、前記外容器から前記内容器を取り出す。そして、さらに、下記(E1)および(F1)の工程を有することが好ましい。
(E1)前記(D1)工程後、前記外容器に、新たな前記内容器を配置し、前記配置の前後いずれかに、前記内容器に、精子が遊泳可能な液体を充填する工程
(F1)前記(E1)工程後、前記外容器の前記収容部から、前記内容器に遊泳してきた精子を回収する工程
【0047】
前記(D1)工程において、前記外容器から前記内容器を取り出すことによって、前記外容器の前記収容部には、沈殿した精子を含む前記遠心処理液が存在する。そして、前記(E1)工程において、新たな前記内容器を配置し、前記内容器に、前記液体を充填することによって、運動性に優れる精子は、前記外容器の前記収容部から、前記内容器の開口部を通じて、前記内容器の内部に向かって遊泳する。このため、前記内容器の内部の液体を回収することによって、運動性に優れる精子を回収できる。前記(E1)工程において、前記内容器への前記液体の充填は、特に制限されず、例えば、前記外容器に配置してから充填してもよいし、予め前記液体を充填した前記内容器を、液密状態を維持した状態で、前記外容器に配置してもよい。
【0048】
前記(F1)工程において、例えば、前記内容器に前記蓋部を装着した状態で、前記外容器から前記内容器を取り出し、前記内容器内の前記精子を回収してもよい。この場合、前記内容器を取り出した後、例えば、その下端を、試験管等の他の容器に入れ、前記蓋部を取り外して、液密状態を解放することで、前記内容器の内部から前記液体を前記他の容器に移してもよい。また、前記(F1)工程において、例えば、ピペット等を使用して、前記内容器の内部から、精子を含む液体を回収してもよい。
【0049】
前記精子が遊泳可能な液体は、特に制限されず、例えば、前記培地があげられる。前記培地の具体例としては、例えば、HEPESを含有した液体等があげられる。
【0050】
また、本発明の分離方法は、第2形態として、例えば、スイムアップ法があげられる。この場合、前記分離方法は、本発明の分離容器を使用し、下記の(A2)から(C2)の工程を有することが好ましい。
(A2)前記外容器の前記収容部に、精子を含む試料を導入する工程
(B2)前記(A2)工程後、前記外容器の内部に、前記内容器を配置し、前記配置の前後いずれかに、前記内容器の内部に、精子が遊泳可能な液体を充填する工程
(C2)前記(B2)工程後、前記外容器の前記収容部から、前記内容器に遊泳してきた精子を回収する工程
【0051】
前記(C2)工程において、前記内容器に前記蓋部を装着した状態で、前記外容器から前記内容器を取り出し、前記内容器内の前記精子を回収することが好ましい。
【0052】
以下に、本発明の分離容器およびこれを用いた分離方法を例示する。本発明の分離容器および分離方法は、これらの形態には制限されない。以下、図面を用いて説明するが、特に示さない限り、各図において、同一箇所には、同一の符号を付している。また、特に示さない限り、各実施形態は、それぞれの説明を援用できる。
【0053】
実施形態1
本例の分離容器を、図1および図2の断面図に示す。図1は、分離容器を構成する部材の断面図であり、(A)が外容器、(B)が内容器、(C)が蓋部である。図2は、分離容器の断面図である。
【0054】
図1(A)に示すように、外容器10は、上端に開口部104を有する有底の円筒状であり、本体部101、テーパー部102および収容部103から構成される。図1(B)に示すように、内容器11は、上端および下端に、それぞれ開口部114、113を有し、本体部111、テーパー部112から構成され、本体部111の上部の外周面に、周状に突起部115を有する。突起部115は、例えば、前述のように、内容器11の把持部となる。また、前記突起部により、例えば、前記上端において、図1(C)に示すように、蓋部12は、把持部121および挿入部122を有する。
【0055】
外容器10、内容器11および蓋部12の大きさは、特に制限されない。前記各部材は、例えば、外容器10の内部に内容器11が配置可能であり、内容器11が、下端の開口部113の端面および開口部113の外周面の少なくとも一方において、外容器10の内周面に接触し、蓋部12が、内容器11の上端の開口部114に装着可能であり、内容器11への蓋部12の装着により、内容器11の内部が液密状態となればよい。
【0056】
各部材の大きさは、例えば、試料および分離対象物の種類、前記試料の量等に応じて、適宜決定できる。本発明において、「軸方向」とは、分離容器、内容器および外容器について、上下方向を意味し、「垂直方向」とは、前記軸方向に対して垂直の方向を意味し、「高さ」とは、前記軸方向の長さをいい、「直径」とは、前記垂直方向の断面における直径を意味する。
【0057】
外容器10の大きさは、特に制限されず、例えば、以下の条件が例示できる。全体の容量は、例えば、0.5〜100mLであり、好ましくは1.0〜50mLである。外容器10全体の内部の高さは、例えば、30〜200mmであり、好ましくは50〜120mmである。本体部101の高さは、例えば、80〜120mmであり、好ましくは105〜115mmである。テーパー部102の高さは、例えば、5〜20mmであり、好ましくは10〜15mmである。収容部103の高さは、例えば、5〜15mmであり、好ましくは8〜12mmである。開口部104の内周の直径は、例えば、10〜20mmであり、好ましくは13〜15mmである。テーパー部102の上端の内周の直径は、例えば、8〜18mmであり、好ましくは10〜13mmである。収容部103の上端の内周の直径は、例えば、5〜15mmであり、好ましくは6〜7mmである。収容部103の容量は、例えば、0.1〜0.5mLであり、好ましくは0.2〜0.4mLである。収容部103の内部の高さは、例えば、4〜10mmであり、好ましくは5〜8mmである。
【0058】
内容器11の大きさは、特に制限されず、例えば、以下の条件が例示できる。全体の容量は、例えば、0.3〜100mLであり、好ましくは0.5〜50mLである。内容器11全体の高さは、例えば、60〜100mmであり、好ましくは80〜90mmである。本体部111の高さは、例えば、50〜90mmであり、好ましくは60〜70mmである。テーパー部112の高さは、例えば、5〜30mmであり、好ましくは10〜20mmである。上端の開口部114の内周の直径は、例えば、5〜20mmであり、好ましくは10〜14mmである。上端の開口部114の外周の直径、すなわち、突起部115の外周直径は、例えば、10〜20mmであり、好ましくは14〜18mmである。テーパー部112の上端の外周の直径は、例えば、8〜18mmであり、好ましくは10〜15mmである。テーパー部112の下端の外周の直径、すなわち、下端の開口部113の外周の直径は、例えば、3〜8mmであり、好ましくは4〜7mmである。下端の開口部113の内周の直径は、例えば、2〜7mmであり、好ましくは3〜6mmである。
【0059】
蓋部12の大きさは、特に制限されず、例えば、以下の条件が例示できる。把持部121の外周直径は、例えば、10〜20mmであり、好ましくは12〜18mmである。挿入部122の外周直径は、例えば、5〜20mmであり、好ましくは10〜14mmである。挿入部122の高さは、例えば、2〜10mmであり、好ましくは4〜6mmである。
【0060】
つぎに、図1および図2に基づいて、本例の分離容器を用いて、遠心分離により、精子を分離する方法を説明する。
【0061】
まず、外容器10の内部に、内容器11を配置する。この際、内容器11の下端の外周面は、外容器10の内周面と接触している。図2において、具体的には、内容器11のテーパー部112の外周面は、外容器10のテーパー部102の内周面と接触している。本例において、内容器11と外容器10とは、内容器11の下端の外周面が、外容器10の内周面と接触していればよく、例えば、内容器11の外周面の全体が、外容器10の内周面と接触していなくてもよい。
【0062】
つぎに、内容器11の内部に、遠心処理液を注入する。内容器11の下端は、開口部113を有する。このため、内容器11に注入された前記遠心処理液は、開口部113を通じて、外容器10の収容部103に導入される。前記遠心処理液の量は、特に制限されず、外容器10および内容器11の大きさに応じて適宜決定できる。前記遠心処理液は、例えば、1〜10mLであり、好ましくは2〜5mLである。
【0063】
つぎに、内容器11の内部に、精子を含む試料を導入する。前記試料は、内容器11の内部における前記遠心処理液に、重層することが好ましい。
【0064】
そして、内容器11の開口部114に蓋部12の挿入部122を挿入し、内容器11の内部を液密状態にする。そして、分離容器1を遠心分離に供する。遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、1000G(1000×9.80665m/s)で20〜30分間の条件である。遠心分離によって、前記試料から精子が分離され、内容器11の開口部113から、外容器10の収容部103に、精子が沈殿する。本例によれば、遠心分離においても、物理的な安定性に優れる。
【0065】
遠心後、蓋部12を装着した状態で、内容器11を外容器10から取り出す。内容器11の内部には、前記試料の不要物が含まれる。しかしながら、蓋部12の装着により、内容器11の内部は液密状態となっている。このため、内容器11の内部から液体が漏れることなく、外容器10から内容器11を取り出すことができる。これによって、外容器10の収容部103において、精子を含んだ前記遠心処理液が回収される。収容部103において回収された遠心処理液を、回収精子のサンプルとして使用できる。
【0066】
本例においては、さらに、スイムアップ法を行うこともできる。まず、外容器10から内容器11を取り出した後、外容器10に、新たな内容器11を配置する。新たな内容器11に、予め、精子が遊泳可能な液体を充填しておくことが好ましい。この場合、内容器11の開口部114に蓋部12を挿入すれば、液密状態を維持できるため、前記液体が開口部113から漏れることなく、内容器11を外容器10に配置可能である。そして、この状態で、放置する。これによって、運動性を示す精子は、外容器10の収容部103から、内容器11の開口部113を通じて、内容器11の内部にスイムアップしてくる。この際、分離容器1は、内容器11の開口部113の外周面と外容器10の内周面との間に、隙間がないため、スイムアップした精子は、効率よく、内容器11の内部にスイムアップできる。
【0067】
このように、運動性を示す精子のみが内容器11に移動する。したがって、放置した後、内容器11に蓋部12を装着して、内部の液密性を保持した状態で、内容器11を外容器10から取り出すことにより、運動性を示す精子のみを回収できる。また、取出した内容器11の内部の精子は、例えば、内容器11から蓋部12を取り外して液密性を解除し、前記内部から液体を導出させ、他の容器に回収してもよい。
【0068】
遠心分離は、通常、遠心ローターに分離容器をセットして行われる。この際、セットした本例の分離容器と、前記遠心ローターとの間に隙間が生じる場合、前記分離容器にアジャスターを装着してもよい。
【0069】
実施形態2
本例の分離容器を、図3および図4に示す。図3は、分離容器を構成する部材の断面図であり、(A)が外容器、(B)が内容器、(C)が蓋部である。図4は、分離容器の断面図である。
【0070】
図3(A)に示すように、外容器20は、上端に開口部104を有する有底の円筒状であり、本体部101、テーパー部102および収容部103から構成され、収容部103の上端の内周面に、周状に突起部200を有する。突起部200の大きさは、特に制限されない。図3(B)および(C)は、前述した図1(B)および(C)と同じである。そして、図4に示すように、分離容器2は、外容器20の内部に内容器11が配置され、上部の開口部に蓋部12が装着される。
【0071】
外容器20の突起部200および内容器11の下端の開口部113は、例えば、それぞれの内周の直径として、以下の形態があげられる。第1の形態は、例えば、突起部200の内周の直径が、内容器11の開口部113の内周の直径とほぼ一致する形態である。この形態の一例を、図5(A)に示す。図5(A)は、外容器20の内部に内容器11を配置した際における分離容器2の断面図である。図5(A)に示すように、突起部200と内容器11の開口部113は、それぞれの内周の直径がほぼ同一である。第2の形態は、例えば、突起部200の内周の直径が、内容器11の開口部113の内周の直径より大きい形態である。この形態の一例を、図5(B)に示す。図5(B)は、外容器20の内部に内容器11を配置した際における分離容器2の断面図である。図5(B)に示すように、突起部200の内周の直径は、内容器11の開口部113の内周の直径よりも大きい。第3の形態は、例えば、突起部200の内周の直径が、内容器11の開口部113の内周の直径より小さい形態である。この形態の一例を、図5(C)に示す。図5(C)は、外容器20の内部に内容器11を配置した際における分離容器2の断面図である。図5(C)に示すように、突起部200の内周の直径は、内容器11の開口部113の内周の直径よりも小さい。
【0072】
試料から、遠心分離によって分離対象物を沈澱させる場合、例えば、図5(A)に例示する前記第1の形態および図5(B)に例示する第2の形態が好ましい。これらの態様によれば、例えば、内容器11の内部から外容器20の収容部に液体が移動する際に、内容器11と外容器20との間に、液体の移動を妨げる凸部が存在しない流路を構成できる。このため、分離容器を遠心分離して、内容器の内部から外容器の収容部に移動させる際に、目的の分離対象物が、前記凸部に接触することによる物理的負荷を抑制できる。前記分離対象物が、例えば、精子の場合、物理的負荷の低減により、精子の生存率の低下を抑制できる。
【0073】
分離対象物が精子であり、収容部から精子をスイムアップさせ、運動性に優れる精子を回収する場合、例えば、図5(A)に例示する前記第1の形態および図5(C)に例示する第3の形態が好ましい。これらの態様によれば、例えば、外容器20の収容部103の内部から、内容器11の内部に精子が移動する際に、収容部103と内容器11との間に、精子のスイムアップを妨げる凸部が存在しない流路を構成できる。このため、スイムアップした精子を、効率よく、内容器11の内部に導くことができる。
【0074】
本例の分離容器2は、前記実施形態1と同様に、外容器20の内部に、内容器11を配置する。この際、内容器11の下端の開口部113の端面は、外容器20の内周面、すなわち、突起部200の上側の端面と接触している。本例の分離容器2は、前記実施形態1と同様に使用できる。
【0075】
実施形態3
本実施形態の分離容器は、前記外容器の内部における前記収容部の容量を変動できる形態の一例である。
【0076】
(1)実施形態3−1
本例の分離容器を構成する外容器および内容器を、図6、図7および図8に示す(蓋部は、図示せず)。
【0077】
図6は、外容器の概略図であり、(A)が外容器の断面図、(B)が外容器の上部の平面図、(C)が外容器の上部の斜視図である。図6(A)に示すように、外容器30は、上端に開口部304を有する有底の円筒状であり、本体部301、テーパー部302および先端部305から構成される。そして、図6(A)、(B)および(C)に示すように、本体部301の上部の内周面には、係合用の4つの溝部(凹部)306a、306b、306c、306dが形成されている。溝部306a、306b、306c、306dは、本体部301の開口部304側の端部から、軸方向に向かって、異なる長さで、形成されている。図6において、各溝部の長さ(深さ)は、306a、306b、306cおよび306dの順序で、より長くなるように設定されている。溝部の形状は、特に制限されず、例えば、図6に示すような長方形状の他に、V字状等があげられる。
【0078】
図7は、内容器の概略図であり、(A)が断面図、(B)が内容器の上部の斜視図である。図7に示すように、内容器31は、上端および下端に、それぞれ開口部314、313を有し、本体部311、テーパー部312および先端部317から構成される。内容器31は、本体部311の上部の外周面に、周状に突起部315を有し、これは、前記実施形態1と同様に、内容器31の把持部となる。内容器31は、さらに、本体部311の外周面であって、把持部315の下部に、係合用の突起部(凸部)316が形成されている。突起部316の形状は、特に制限されず、外容器30の溝部の形状に対応することが好ましく、例えば、図7に示すような長方形状の他に、V字状等があげられる。
【0079】
本例の分離容器は、外容器30の内部に内容器31を配置する際、外容器30の係合用溝部306a、306b、306c、306dのいずれかに、内容器31の係合用突起部316を挿入し、外容器30と内容器31とを係合する。内容器31の係合用突起部316は、もっとも深い係合用溝部306dよりも、長いことが好ましい。前述のように、外容器の係合用溝部306a、306b、306c、306dは、それぞれ長さが異なる。このため、いずれの前記係合用溝部に係合用突起部316を挿入するかによって、外容器30の内部における内容器31の配置部位を調節できる。
【0080】
具体的に、図8の概略図を用いて説明する。図8は、外容器30の内部に、内容器31を配置した状態を示す断面図であり、(A)は、外容器30の係合用溝部306aに、内容器31の係合用突起部316を挿入した状態を示し、(B)は、外容器30の係合用溝部306dに、内容器31の係合用突起部316を挿入した状態を示す。図8に示すように、前記溝部に突起部316を挿入する場合、溝部の長さが短い程、内容器31は、外容器30の内部に相対的に浅く挿入されることになり(図8(A))、前記溝部の長さが長い程、内容器31は、外容器の内部に相対的に深く挿入されることになる(図8(B))。このため、前者と後者とを比較すると、前者は、外容器30の内部への内容器31の配置により形成される収容部303aの体積が、相対的に大きくなり、後者は、外容器30の内部への内容器31の配置により形成される収容部303bの体積が、相対的に小さくなる。このように、外容器30の係合用溝部と内容器31の係合用突起部との組合せにより、外容器30の内部への内容器31の挿入の深さを調節できるため、これによって、外容器30の内部への内容器31の配置により形成される収容部の体積を容易に調節できる。
【0081】
また、本例の分離容器によれば、例えば、前述のように、外容器30の溝部と内容器の突起部とを係合させているため、遠心処理時等に、内容器31が、外容器30の内部に、さらに挿入されることを十分に抑制できる。また、前記係合により、外容器30の内部において、内容器31が回転することを十分に抑制できる。
【0082】
本例において、外容器30および内容器31とこれらの各部位の大きさは、特に制限されず、例えば、実施形態1の例示を援用できる。
【0083】
外容器30の大きさは、特に制限されず、例えば、以下の条件が例示できる。先端部305の内部の高さは、例えば、4〜20mmであり、好ましくは5〜15mmである。係合用溝部の幅は、例えば、0.5〜4mmであり、好ましくは1.5〜2.5mmである。係合用溝部の長さは、例えば、1〜20mmであり、好ましくは2〜5mmであり、各溝部で長さを変化させることが好ましい。係合用溝部の数は、何ら制限されず、下限は、例えば、2個が好ましく、より好ましくは、3個、4個であり、上限は、例えば、10個が好ましい。
【0084】
内容器31の大きさは、特に制限されず、例えば、以下の条件が例示できる。係合用突起部の幅は、例えば、前記係合用溝部の幅より小さいことが好ましく、例えば、0.4〜3.9mmであり、好ましくは1〜2mmである。係合用突起部の長さは、例えば、最も長い前記係合用溝部の深さと同じまたはそれより長いことが好ましく、例えば、2〜21mmであり、好ましくは3〜6mmである。
【0085】
外容器30の内部に内容器31を配置した状態における収容部の大きさは、特に制限されず、前述のような係合用溝部と係合用突起部との組合せにより、例えば、下限の体積から上限の体積に、段階的に変化できることが好ましい。前記下限は、例えば、0.05〜0.1mLであり、上限は、例えば、0.6〜1.0mLである。
【0086】
(2)実施形態3−2
本実施形態において、前記内容器の前記係合用突起部の数は、特に制限されない。前記係合用突起部の数は、例えば、1個でもよいし、2個以上でもよく、例えば、1〜4個、好ましくは、1〜3個、より好ましくは、1個または2個である。係合用突起部を複数設けることで、例えば、外容器内における内容器の安定性を、より向上できる。
【0087】
前記係合用突起部を2個に設定する場合、前記内容器の前記係合用突起部は、例えば、前記内容器の外周面において、対向する位置に、対となる2つの係合用突起部(突起部のセット)を有することが好ましい。そして、前記外容器の前記係合用溝部は、例えば、前記突起部のセットに対応するように、外容器30の内周面において、対向する位置に、対となる2つの係合用溝部(溝部のセット)を複数有することが好ましい。
【0088】
本例の外容器および内容器の例を、図9に示す。図9において、(A)は、外容器の上部を示す斜視図であり、(B)は、内容器の上部を示す斜視図である。図9(A)に示すように、外容器40は、その内周面に、係合用の6つの溝部(凹部)406a、406b、406c、406a’、406b’および406c’が形成されている。溝部406aと406a’、406bと406b’、406cと406c’は、それぞれ、対向する位置に形成されている。溝部406aと406a’、406bと406b’、406cと406c’は、それぞれ、同じ長さであり、この順序で、より長くなるように設定されている。他方、図9(B)に示すように、内容器41は、その外周面において、係合用の2つの突起部(凸部)416aおよび416a’が、同じ長さで、対向する位置に形成されている。
【0089】
外容器40に内容器41を配置する場合、内容器41の突起部416aと416a’を、外容器40の溝部406aと406a’、406bと406b’、または406cと406c’に挿入すればよい。外容器40に内容器41を配置することにより形成される収容部は、溝部406aと406a’、406bと406b’、406cと406c’の順に、その体積が相対的に小さくなる。
【0090】
(3)実施形態3−3
本実施形態において、前記外容器の係合用溝部の形状は、さらに、他の形態が例示できる。
【0091】
前記外容器のその他の例を、図10に示す。図10は、外容器の上部の斜視図である。図10に示すように、外容器50は、上端に開口部を有する有底の円筒状であり、本体部501、テーパー部および先端部から構成される。そして、図10に示すように、本体部501の上部の内周面には、係合用の6つの溝部(凹部)506a、506b、506c、506a’、506b’および506c’が形成されている。そして、外容器50の前記内周面には、さらに、外容器50の内部に前記内容器を挿入する際、前記内容器の係合用突起部の先端を、所望の溝部にガイドするための、ガイド部が形成されている。具体的に、溝部506aと506bとの間、溝部506bと506cとの間に、それぞれ、ガイド部506ab、506bcが設けられている。ガイド部506abおよび506bcは、それぞれ、より深い溝部に向かって傾斜している形状であることが好ましい。同様に、溝部506a、506bおよび506cに対応する溝部506a’、506b’および506c’に関しても、同様に、ガイド部506ab’および506bc’が設けられている。
【0092】
実施形態4
本実施形態の分離容器は、前記外容器から前記内容器を取り出した後、前記外容器の収容部における液量の変動を防止する形態の一例である。
【0093】
前記外容器の内部に前記遠心処理液を注入した後、前記外容器の内部に前記内容器を配置した場合、例えば、前記内容器の先端より上部において、前記外容器と前記内容器との間に隙間が生じると、前記遠心処理液が前記隙間に入り込む可能性がある。このような場合、遠心処理後、前記外容器から前記内容器を取り外すと、前記隙間に入り込んだ前記遠心処理液が、前記外容器の内周面を伝って、下方向に移動し、前記外容器の前記収容部に流れこむ可能性がある。前記収容部に前記遠心処理液が流れこむと、例えば、回収した精子が希釈され、濃度が低下する可能性がある。そこで、本実施形態の分離容器は、さらに、このような前記遠心処理液の混入による前記収容部の液量の変動を十分に防止する形態の例示である。
【0094】
本例の分離容器を、図11、図12および図13に示す。図11は、外容器の断面図であり、(A)が、外容器の軸方向における断面図、(B)は、前記(A)における前記外容器の先端のI−I方向断面図である。図12は、内容器の断面図であり、(A)は、内容器の軸方向における断面図、(B)は、前記(A)における前記内容器の先端のII−II方向断面図である。図13は、前記外容器と前記内容器から構成される前記分離容器の断面図である。
【0095】
図11(A)に示すように、外容器60は、上端に開口部604を有する有底の円筒状であり、本体部601、先端部605および溝部606から構成される。先端部605は、円筒状であり、その円周状の側壁607と本体部601の側壁によって、円周状の溝部606が形成されている。具体的には、図11(B)に示すように、円筒状の先端部605の周囲に、側壁607が隔壁となって、同心円状に溝部606が形成されている。
【0096】
図12(A)に示すように、内容器61は、上端および下端に、それぞれ開口部614、613を有し、本体部611、テーパー部612および先端部617を有し、先端部617の周囲に、さらに、円周状の突起部618が形成されている。具体的には、図12(B)に示すように、円筒状の先端部617の周囲に、円周状の突起部618が形成されている。
【0097】
そして、外容器60に内容器61を配置することで、分離容器6として使用できる。図13に示すように、分離容器6において、外容器60の先端部605は、内容器61の先端部617が挿入され、外容器60の先端部605において、収容部603が形成される。また、外容器60の溝部606には、内容器61の突起部618が挿入される。
【0098】
このような分離容器6によれば、例えば、遠心分離後、外容器60から内容器61を取りはずしても、外容器60の内壁を伝って落ちる遠心処理液は、外容器60の溝部606に導入され、先端部605内への導入を阻止できる。このため、前述のような、収容部603における液量の変動を十分に防止できる。また、遠心分離時において、外容器60の溝部606には、内容器61の突起部618が挿入されているため、外容器60から内容器61を取り外す前に、溝部606に遠心処理液が導入されることを防ぐこともできる。このため、内容器61を取り外した際に、流れ落ちる遠心処理液を確実に溝部606に収容可能となる。
【0099】
実施形態5
本実施形態の分離容器は、前記外容器から前記内容器を取り出す際、前記内容器の内部の液体が、前記外容器の内部に混入することを防止する形態の一例である。
【0100】
本例の分離容器の一態様として、前記分離容器を構成する外容器を、図14(A)に示す。図14(A)は外容器の断面図である。本例の分離容器は、例えば、図14(A)の外容器と図3(B)の内容器とを組合せて使用できる。なお、図14(A)において、図3と同一箇所には同一符号を付している。
【0101】
図14(A)に示すように、外容器70は、図3(A)の外容器が、さらに、収容部103の上側の開口部に一方弁701を有する形態である。一方弁701は、遠心分離等の圧力変化によって、上方向から下方向に液体を通過させる。したがって、外容器70の内部に、図3(B)の内容器11を配置して遠心分離を行っている間のみ、一方弁701を介して、内容器11から外容器70の収容部103に液体が導入される。そして、遠心分離後、例えば、内容器11の下側の開口部113から液体が落下した場合でも、一方弁701を介して、外容器70の収容部103内部に前記液体が混入することを防止できる。また、内容器11から液体が落下した場合は、例えば、一方弁701の上部に存在する液体をスポイド等で容易に除去できるため、その後、収容部103内の回収液を採取できる。
【0102】
また、本例の分離容器の他の態様として、前記分離容器を構成する内容器を、図14(B)に示す。図14(B)は内容器の断面図である。本例の分離容器は、例えば、図3(A)の外容器と図14(B)の内容器とを組合せて使用できる。なお、図14(B)において、図3と同一箇所には同一符号を付している。
【0103】
図14(B)に示すように、内容器71は、図3(B)の内容器が、さらに、先端の開口部113に一方弁701を有する形態である。この場合、図3(A)の外容器20の内部に、内容器71を配置して遠心分離を行っている間のみ、一方弁701を介して、内容器71から外容器20の収容部103に液体が導入される。そして、遠心分離後、外容器20から内容器71をとりはずしても、一方弁701が装着されていることから、内容器71の開口部113から外部に液体がもれることを防止できる。
【0104】
このように前記外容器または前記内容器が一方弁を備えることで、例えば、さらに分離精度を向上できる。
【0105】
一方弁の種類は、何ら制限されず、例えば、ダックビル式およびアンブレラ式等があげられ、好ましくは前者である。
【0106】
実施形態6
本実施形態の分離容器は、遠心時の荷重負荷による物理的なダメージを軽減する形態の一例である。
【0107】
本例の分離容器を構成する外容器を、図15に示す。図15において、(A)は外容器の先端部の平面図であり、(B)は前記外容器の断面図である。図15(A)に示すように、外容器80は、図6(A)の外容器が、さらに、その先端の外周面に、リブ81を有する形態である。外容器は、例えば、前述のように、収容部の体積を小さくすることが好ましいことから、その先端部は、例えば、図6(A)等に例示するように、本体部よりも、内周および外周の直径を小さくする形態があげられる。このため、外容器について、細い先端部の外周面に、このようにリブを配置することで、遠心時の荷重負荷による物理的ダメージを低減できる。
【0108】
リブの条件、例えば、大きさ、個数および形状等は、特に制限されない。リブの個数は特に制限されず、例えば、2個以上が好ましい。前記リブは、前記外周面において放射状に、等間隔で配置することが好ましい。
【0109】
実施形態7
本実施形態は、内容器の下端と外容器との接触の状態を例示する。
【0110】
分離容器において、外容器の外周面と外容器の内周面とは、例えば、非接触でもよい。この形態の分離容器の一例を、図16の断面図に示す。図16(A)は、分離容器の断面図であり、図16(B)は、前記(A)のIII−III方向の断面図である。
【0111】
図16(B)に示すように、内容器11の外周面と外容器10の内周面とは、非接触でもよい。非接触の場合、内容器11と外容器10との間は、例えば、空隙105を有してもよい。軸の垂直方向において、内容器11の外周面と外容器10の内周面との距離(空隙105の長さ)は、例えば、前述のように、200μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下である。
【0112】
また、図16(A)のIV−IV方向の断面、V−V方向の断面および/またはVI−VI方向の断面においても、図16(B)と同様に、内容器11と外容器10とが非接触でもよい。
【0113】
実施形態8
本実施形態は、内容器の下端と外容器との接触の状態を例示する。
【0114】
分離容器において、内容器の外周面と外容器の内周面とは、例えば、部分的に接触してもよい。この形態の分離容器の一例を、図17の断面図に示す。図17(A)および(B)は、図16(A)の分離容器のIII−III方向の断面図である。
【0115】
図17(A)に示すように、内容器11の外周面が突起部(116a、116b、116c、116d)を有し、これらの突起部において、外容器10の内周面と接触している。また、図17(B)に示すように、外容器10の内周面が突起部(106a、106b、106c、106d)を有し、これらの突起部において、内容器11の外周面と接触している。
【0116】
つぎに、その他の例を、図18に示す。図18(A)は、内容器の先端部の概略を示す斜視図であり、図18(B)は、図18(A)の内容器を備えた分離容器に関する、図16(A)の分離容器のIII−III方向の断面図である。
【0117】
図18(A)に示すように、内容器11は、先端の外周面に、突起状のリブ16を有する。そして、図18(B)に示すように、分離容器は、内容器11と外容器10とが、リブ16を介して、接触している。リブ16は、周状ではなく、欠失部を有することから、この欠失部において、空隙105が形成される。本例では、内容器11の先端にリブ16を設けたが、これには制限されず、例えば、先端よりも上部において、外周面にリブが形成されてもよい。
【0118】
本例では、内容器11の外周面がリブ16を有するが、これには制限されず、外容器10の内周面にリブ16が形成されてもよい。
【0119】
さらに、その他の例を、図19に示す。図19(A)および(B)は、図16(A)の分離容器のIII−III方向の断面図である。
【0120】
図19(A)に示すように、内容器11は、楕円形の筒状であり、軸に対して垂直方向において、長手方向両端の外周面において、外容器10の内周面と接触してもよい。また、図19(B)において、内容器11は、外容器10内において、非同軸に配置されており、一部の外周面が外容器10の内周面に接触し、前記接触した部位と対応する外周面は、外容器10の内周面と非接触でもよい。
【実施例】
【0121】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。
【0122】
[実施例1]
本例では、本発明の分離容器を用いて、遠心分離により精子を含む沈殿画分を回収し、生存精子の回収率を確認した。
【0123】
図3および図4に示す分離容器を作製した。分離容器の大きさは、以下の通りとした。
外容器20
全体の容量:9.85mL
全体の内部の高さ:85mm
本体部101の高さ:60mm
テーパー部102の高さ:14mm
収容部103の高さ:12mm
開口部104の直径:14.5mm
テーパー部102の上端の内周の直径:12.41mm
テーパー部102の下端の内周の直径:7.2mm
突起部200の内周の直径:6.2mm
収容部103の容量:0.3mL
収容部103の内部の高さ:11mm
内容器11
全体の容量:7.7mL
全体の高さ:84mm
本体部111の高さ:68mm
テーパー部112の高さ:16mm
上端の開口部114の内周の直径:12.4mm
上端の開口部114の外周の直径:16.3mm
テーパー部112の上端の外周の直径:12.2mm
下端の開口部113の外周の直径:7mm
下端の開口部113の内周の直径:5mm
蓋部12
把持部121の外周の直径:16.47mm
挿入部122の外周の直径:12.47mm
挿入部122の高さ:5mm
【0124】
外容器20の内部に内容器11を配置した。そして、内容器11の内部に、パーコール(商品名Percoll、GEヘルスケアジャパン社製)を導入した。具体的には、まず、90%パーコール1.5mLを導入し、この上に45%パーコール1.5mLを積層した。さらに、前記パーコールに、精液0.28mLを重層した。内容器11の開口部114に蓋部12を装着し、700G(700×9.80665m/s)、30分間、遠心分離を行った。遠心後、蓋部12を装着した状態で、外容器20から内容器11を取り出した。そして、外容器20内のパーコール液(全量300μL)について、フローサイトメトリーによって、生存精子、死細胞および不純物を測定し、それぞれの割合(%)を算出した。
【0125】
[比較例1]
本例では、従来の分離容器を用いて、実施例と同じ精液0.28mLから、遠心分離により精子を含む沈殿画分を回収し、生存精子の回収率を確認した。
【0126】
(比較例1−1)
本例では、分離容器として、容量15mLの遠沈管(商品名15mL遠沈管、コーニング社製)、および、ノズル(商品名ARTキャピラール、ニプロ社製)と前記ノズルにセット可能なシリンジ(商品名 JMSシリンジ ジェイ・エム・エス社製)とを使用した。前記遠沈管の内部に、その先端が底部に位置するように、前記ノズルを配置した。そして、前記遠沈管の内部に、前記パーコールを導入した。具体的には、まず、90%パーコール1.5mLを導入し、この上に45%パーコール1.5mLを積層した。さらに、前記パーコールに、前記精液0.28mLを重層した。そして、前記遠沈管に蓋をして、前記実施例1と同様に遠心分離を行った。遠心後、前記蓋を取り外し、前記遠沈管内に配置した前記ノズルの後端部に、前記シリンジをセットして、前記遠沈管の底から、前記ノズルを介して、パーコール液0.3mLを、精子を含む沈殿画分として吸引した。回収した前記パーコール液について、前記実施例1と同様にして、生存精子、死細胞および不純物を測定し、それぞれの割合(%)を算出した。
【0127】
(比較例1−2)
本例では、分離容器として、容量15mLの遠沈管(商品名15mL遠沈管、コーニング社製)、および、ピペットを使用した。前記遠沈管の内部に、パーコールを導入した。具体的には、まず、90%パーコール1.5mLを導入し、この上に45%パーコール1.5mLを積層した。さらに、前記パーコールに、前記精液0.28mLを重層した。そして、前記遠沈管に蓋をして、前記実施例1と同様に遠心分離を行った。遠心後、前記蓋を取り外し、前記遠沈管に、ピペットを挿入し、前記遠沈管の底から、パーコール液0.3mLを、精子を含む沈殿画分として吸引した。このようにして回収したパーコール液について、前記実施例1と同様にして、生存精子、死細胞および不純物を測定し、それぞれの割合(%)を算出した。
【0128】
これらの結果を、下記表1にあわせて示す。表1に示すように、本発明によれば、極めて不純物の割合が低く、高い効率で、生存精子を回収できた。また、本実施例の分離容器によれば、ピペッティングを行うことなく、内容器11を取り外すのみで、300μLという極めて少量で、且つ、生存精子の濃度が高いサンプルを得ることができた。
【0129】
【表1】

【0130】
[実施例2]
本例では、本発明の分離容器を用いて、遠心分離により精子を含む沈殿画分を回収し、生存精子の回収率について再現性の確認を行った。
【0131】
分離容器として、前記実施例1の分離容器および前記比較例1−2の分離容器を使用した。前記精子は、新鮮ブタ精液を使用した。そして、精子分離操作が未経験の実験者3人により、各分離容器を用いて、前記精子からの生存精子の分離を行った。分離方法は、パーコールの条件を以下に変更した以外は、各分離容器に応じて、前記実施例1および比較例1−2と同様に行った。パーコールの条件は、(1)90%パーコール1.5mLの導入後、45%パーコール1.5mLの積層、(2)80%パーコール1.5mLの導入後、50%パーコール1.5mLの積層、(3)80%パーコール3.0mLの導入とした。
【0132】
分離後、前記実施例1と同様に、フローサイトメトリーによって、遠心分離前の精子における生存精子と、遠心分離後の前記外容器内のパーコール液(全量300mL)における生存精子を測定し、前者を1とした場合の後者の比を濃縮率として求めた。そして、各条件について、実験者3人の濃縮率の結果について平均値を算出した。
【0133】
これらの結果を、図20のグラフに示す。図20において、縦軸は、生存精子の平均濃縮率を示す。図20において、90%−45%は、パーコール条件(1)を示し、80%−50%は、パーコール条件(2)を示し、80%は、パーコール条件(3)を示す。また、各パーコール条件において、2本のバーは、左から、前記比較例1−2の分離容器、前記実施例1の分離容器の結果を示す。図20に示すように、前記実施例1の分離容器によれば、いずれのパーコール条件においても、最も高い濃縮率が実現できた。また、前記実施例1の分離容器によれば、前記比較例1−2の分離容器と比較して、実験者間のバラツキが極めて小さかった。これらの結果から、本発明の分離容器によれば、操作する者が熟練者か否かに関わらず、高い再現性で効率良く、生存精子を濃縮した状態で回収できることがわかった。
【0134】
[実施例3]
本例では、本発明の分離容器を用いて回収した精子の運動率を確認した。
【0135】
分離容器として、前記実施例1の分離容器、前記比較例1−1の分離容器、前記比較例1−2の分離容器を使用した。そして、ヒト精液5検体について、各分離容器に応じて、前記実施例1、比較例1−1および比較例1−2と同様に行った。
【0136】
分離後、回収した精子について、運動率および高速前進運動率を、WHO laboratory manual for the Examination and processing of human semen FIFTH EDITION (2010)(日本語版:WHO精液検査ラボマニュアル第5版(2010年)にしたがって算出した。そして、各分離容器について、5検体の平均値を求めた。これらの結果を下記表2に示す。下記表2に示すように、実施例1の分離容器で回収した精子は、比較例よりも優れた結果を示した。特に、高速前進運動率については、比較例より極めて優れた結果を示した。これらの結果により、実施例の分離容器によれば、精子へ影響を与えることなく、生存精子を回収できることがわかった。
【0137】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の分離容器によれば、例えば、遠心分離によって、沈殿する分離対象物を、前記内容器の下端の先端口を通じて、前記外容器の前記収容部に収容できる。そして、前記内容器は、蓋部の装着により、その内部を液密状態にできるため、前記内容器を取り外すのみで、前記外容器に分離対象物が回収できる。また、本発明の分離容器によれば、前記収容部の大きさは、任意に設計できるため、前記内容器を取り外した後、前記外容器の内部に残る液量を、任意の量、すなわち、少量に設定することが可能となる。前記液量が少量であれば、分離対象物が高濃度であるサンプルを得ることができる。また、遠心処理液としてパーコール等を使用する場合、その使用量も低減できることから、低コスト化も可能である。
【符号の説明】
【0139】
1、2、6 分離容器
10、20、30、40、50、60、70、80 外容器
11、31、41、61、71 内容器
12 蓋部
101、111、301、311、501、601、611 本体部
102、112、302、312、612 テーパー部
103、303a、303b、603 収容部
104、113、114、304、313、314、604、613、614 開口部
121 把持部
122 挿入部
115、200 突起部
306a〜d、406a〜c、406a’〜c’、506a〜c、506a’〜c’ 溝部
305、317、605、617 先端部
315、316、416a、416a’ 突起部
506ab、506bc、506ab’、506bc’ ガイド部
606 溝部
607 側壁
618 突起部
701 一方弁
16、81 リブ
105 空隙
106a〜d、116a〜d 突起部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から分離対象物を分離するための分離容器であって、
前記分離対象物が精子であり、
外容器、内容器および蓋部を有し、
前記外容器は、
上端が開口し、下端が閉口した有底筒状であり、
前記内容器は、
上端および下端が開口した筒状であり、
前記外容器および前記内容器は、
それぞれの上下の方向を揃えた状態で、前記外容器の内部に前記内容器が配置可能であり、
前記外容器の内部に前記内容器を配置した状態で、前記外容器の内部において、配置された前記内容器よりも下方の領域が、前記試料からの沈殿物の収容部であり、
前記内容器の下端は、その先端口の端面およびその先端の外周面の少なくとも一方が、前記外容器の内周面に接触しており、
前記蓋部は、
前記内容器の上端の開口部に、脱着可能であり、
前記蓋部を前記内容器の前記開口部に装着した際、前記内容器の内部が液密状態となる、ことを特徴とする分離容器。
【請求項2】
前記内容器の下端は、その先端口の端面の全体または一部が、前記外容器の内周面に接触している、請求項1記載の分離容器。
【請求項3】
前記内容器の下端は、その先端の外周面の全体または一部が、前記外容器の内周面に接触している、請求項1記載の分離容器。
【請求項4】
前記外容器は、前記収容部の上端の内周面に、周状に突起部を有し、
前記内容器の下端の先端口の端面は、前記突起部に接触する、請求項1から3のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項5】
前記内容器は、その外周面がテーパー状であるテーパー部を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項6】
前記内容器の前記テーパー状の外周面が、前記外容器の内周面に接触している、請求項5記載の分離容器。
【請求項7】
前記外容器の内周面および前記内容器の外周面の一方が、突起部を有し、他方が、前記突起部と係合可能な溝部を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項8】
前記外容器が、前記収容部の外側に、同心円状の溝部を有し、
前記内容器が、前記先端の外側に、同心円状の突起部を有し、
前記外容器の内部に、前記内容器を配置する際、前記外容器の前記溝部に、前記内容器の前記突起部が挿入可能である、請求項1から7のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項9】
用途が、試料からの精子の分離用である、請求項1から8のいずれか一項に記載の分離容器。
【請求項10】
試料から分離対象物を分離する分離方法であって、
請求項1から9のいずれか一項に記載の分離容器を使用し、
下記の(A1)から(D1)の工程を有することを特徴とする分離方法。
(A1)前記外容器の内部に前記内容器を配置し、前記内容器の内部および前記外容器の前記収容部に、遠心処理液を充填する工程
(B1)前記(A1)工程後、前記内容器の内部に、前記試料を導入する工程
(C1)前記(B1)工程後、前記分離容器を遠心分離に供して、前記試料由来の沈殿物を、前記外容器の前記収容部に収容する工程
(D1)前記(C1)工程後、前記内容器に前記蓋部を装着した状態で、前記外容器から前記内容器を取り出す工程
【請求項11】
前記(A1)工程が、下記(A1−1)工程または(A1−2)工程である請求項10記載の分離方法。
(A1−1)前記外容器の内部に前記内容器を配置した後、前記内容器の内部に前記遠心処理液を導入することで、前記内容器の内部および前記外容器の前記収容部に、前記遠心処理液を充填する工程
(A1−2)前記外容器の内部に、前記遠心処理液を導入した後、前記外容器の内部に前記内容器を配置することで、前記内容器の内部および前記外容器の前記収容部に、前記遠心処理液を充填する工程
【請求項12】
前記遠心処理液が、密度勾配担体、培地および緩衝液からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項10または11記載の分離方法。
【請求項13】
前記遠心処理液が、密度勾配担体であり、
前記(B1)工程において、前記密度勾配担体の上に、前記試料を重層する、請求項10から12のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項14】
前記分離対象物が、精子であり、
前記(C1)工程において、前記分離容器を遠心分離に供して、前記試料中の精子を、沈殿により、前記外容器の前記収容部に収容し、
前記(D1)工程において、前記外容器から前記内容器を取り出し、前記外容器の前記収容部内の前記精子を回収する、請求項10から13のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項15】
前記試料が精液を含む、請求項10から14のいずれか一項に記載の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−228518(P2012−228518A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−132258(P2012−132258)
【出願日】平成24年6月11日(2012.6.11)
【分割の表示】特願2011−245843(P2011−245843)の分割
【原出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】