説明

分離方法及び装置

【課題】比較的簡単な装置又は操作で、比較的多様な混合物質を分離する方法及び装置を提供する。
【解決手段】磁性イオン液体3を入れた容器1、容器に近接して配置した磁界発生装置2、容器内の磁性イオン液体中に磁性イオン液体とは比重の異なる分離すべき混合物質を装入するための装入口及び分離された少なくとも1種の物質を取出すための取出口を有する装置を用いて、分離すべき混合物質を装入口から装入し、比重差により混合物質が上昇又は下降する間に磁界発生装置から所定の磁場を印加して、混合物質中の少なくとも1種の物質と他の物質の上昇方向又は下降方向を変化させ、それにより分かれた位置に上昇又は下降してきた物質を取出口から取出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性イオン液体と磁力を利用した分離方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平7-232097号公報
【特許文献2】特開平8-323192号公報
【特許文献3】特開2000-15136号公報
【特許文献4】特開2001-221111号公報
【特許文献5】特開2002-126495号公報
【特許文献6】特開2003-320271号公報
【特許文献7】特開2004-49998号公報
【特許文献8】特開2005-125314号公報
【特許文献9】特開2005-221439号公報
【非特許文献1】未来材料第5巻第8号p28
【非特許文献2】化学と教育第50巻第4号p264
【非特許文献3】日本応用磁気学会誌第23号p1557
【0003】
非特許文献1には、磁性イオン液体が紹介されており、その代表的化合物として1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンとFeCl4アニオンから構成される塩化鉄(III)酸1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(以下、bmim[FeCl4]という)が開示されている。この磁性イオン液体は磁石に対して応答して、磁石を近づけると液面が盛り上がる現象が生じることが紹介されている。
【0004】
一方、磁石、磁力を利用した物質の分離方法については、金属の分離等には一般的に使用されているが、非磁性体や弱磁性体のガス、液体、粉体等の分離についてもいくつかの報告がある。
【0005】
特許文献1は、懸濁液の流れの上下に磁石を配置し、懸濁液中の微粒子を分離する方法を開示している。特許文献2は、液体と気体の界面の位置を変化させるため、10T以下の強度の磁場を作用させること、その際、磁場に0.001T/cm以上の勾配を設けることを開示している。特許文献3は、電磁石を使用し、10T程度の磁場を形成し、磁場を移動させることにより、磁性の異なる物質の分離、例えば空気から酸素の分離を行う方法を開示している。特許文献4、7は、磁力を利用して空気中の窒素と酸素を分離する方法を開示している。特許文献5は、磁力を利用して常磁性物質と反磁性物質を磁気的な引力又は斥力で分離する方法を開示している。特許文献6は、磁気アルキメデス効果を利用した粒子の分離方法を開示している。特許文献8は、超伝導磁石を使用して水平方向に働く磁力と鉛直方向に働く磁力の合力により物質を分離する方法を開示している。
【0006】
しかしながら、これらの分離方法は一般に大きな磁力を必要としたり、複雑な装置又は操作を必要とするなどの問題がある。したがって、汎用的な分離方法とはなりがたいという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は比較的簡単な装置又は操作で、比較的多様な混合物質を分離する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、磁性イオン液体を入れた容器及び容器に近接して配置した磁界発生装置を有する装置を用いて、分離又は移動すべき物質を装入し、磁界発生装置から所定の磁場を印加して、少なくとも1種の物質を移動させることを特徴とする物質の移動又は分離方法である。
【0009】
また、本発明は、磁性イオン液体を入れた容器、容器に近接して配置した磁界発生装置、容器内の磁性イオン液体中に磁性イオン液体とは比重の異なる分離すべき混合物質を装入するための装入口及び分離された少なくとも1種の物質を取出すための取出口を有する装置を用いて、分離すべき混合物質を装入口から装入し、比重差により混合物質が上昇又は下降する間に磁界発生装置から所定の磁場を印加して、混合物質中の少なくとも1種の物質と他の物質の上昇方向又は下降方向を変化させ、それにより分かれた位置に上昇又は下降してきた物質を取出口から取出すことを特徴とする分離方法である。ここで、分離すべき混合物質は、混合気体、混合粉末であることができる他、磁性イオン液体とは比重が異なり溶解性のない混合液体であることもできる。そして、磁性イオン液体としては、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンとFeCl4アニオンから構成される塩化鉄(III)酸1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムであることが好ましい。更に、磁界発生装置を制御して磁束密度及びその勾配を変化させて上昇方向又は下降方向を制御することにより分離性能をより高めることができる。
【0010】
また、本発明は、磁性イオン液体を入れた容器、容器に近接して配置した磁界発生装置、容器内の磁性イオン液体中に磁性イオン液体とは比重の異なる分離すべき混合物質を装入するための装入口及び分離された少なくとも1種の物質を取出すための取出口を有する分離装置である。
【0011】
本発明者らは磁性イオン液体を容器に入れ、気体を下方から装入し、磁石を近づけたとき、気泡の上昇する軌跡がまるで磁石に反発するかのように変化する現象を見出した。そして、磁石を近づけると気泡は磁石と反対側に動き、磁石を気泡の近くに保持したままであると、その軌跡は変化したままであることを見出した。かかる現象に類似したことは従来も報告されているが、超導電磁石のような極端に強い磁場を必要としたが、上記現象は永久磁石程度の磁場で観測された。
【0012】
磁束密度及び勾配を変化させることで、気泡の軌道を自由に変えることができ、気体を任意の位置に動かし、分離することができる。したがって、気体の移動手段としても有用である。
【0013】
磁性イオン液体は蒸発しないため、気泡に磁性イオン液体の蒸気が含まれることはないと思われ、磁性イオン液体に気泡が溶解しなければ、気体を純粋に取り出すことも可能と考えられる。また、磁性イオン液体はCuire-Weiss則にしたがうため、磁性イオン液体が凝固又は分解しない範囲の温度では、温度によっても気泡の動きを制御することが可能である。
【0014】
気体以外の物質についても、密度が磁性イオン液体より小さければ同様の現象が観測される。密度が磁性イオン液体と同一であれば、水平方向に移動させることができる。更に、密度が磁性イオン液体より大きければ、沈降する軌跡が同様に変化するので、気体と同様に移動及び分離が可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、磁性イオン液体を使用するため、超電導磁石等を使用しなくても、通常の磁石が発生するような低い磁場で物質の分離又は移動を行うことができる。本発明の方法は、空気の分離、粒子の分離、磁気重力クロマトグラフィー等への応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を、図面を参照して説明する。
図1は本発明の分離装置とその使用の一例を示す模式図である。分離装置は、容器1とN極及びS極を有する磁石2から構成されている。磁石2は電磁石であっても永久磁石であってもよいが、磁力を目的により変化させることができるものが好ましい。ネオジウム磁石のような希土類磁石や常温電導磁石等が有利に使用できる。また、磁石2は1つであっても2つ以上であってもよいが、1つで十分である。一般的には、高磁力の磁石が望ましいが、数ステラ(T)以上もの磁力を有する必要はない。容器1は磁力線を遮蔽しないものであれば、特に制限はない。しかし、物質7が移動しうる空間が必要である。容器1には分離又は移動させるべき物質の装入口4及び取出口5、6を備える。装入口及び取出口は1以上であればよい。容器1中には磁性イオン液体3が装入される。磁性イオン液体3としては、上記公知の磁性イオン液体としての性質を有するものであればよい。比重差を与える等の目的で、必要により2種以上の磁性イオン液体を使用してもよく又はイオン液体又はその他の液体を混合してもよい。物質7としては、気体、液体、粉体等があり、分離する場合は混合物である。物質7は磁性イオン液体を使用するため、非磁性体、常磁性体のいずれであってもよい。気体は、比重差が大きいため有利に適用することができ、酸素、窒素、空気等の分離、移動に適する。物質が固体である場合、固体としては硫酸カルシウム、石灰石、シリカ等の粉末がある。
【0017】
図1は磁性イオン液体より比重の大きな物質、例えば四塩化炭素のような液体又はシリカゲルのような固体の移動又は分離に使用される例を示す。分離に使用する場合は、かかる物質(第一物質という)には分離されるべき他の物質(第二物質という)を1種以上含む。ここで、第一物質と第二物質とは磁力の影響を受ける性質(磁性体と反磁性体又はその程度)が相違する。なお、空気や窒素のような気体や低比重の物質を分離又は移動する場合は、装入口が容器2の下部にあり、取出口が上部にある構造とすることでよい。
【0018】
シリカゲルの分離又は移動の例を図1により説明すると、シリカゲルは装入口4から装入され、磁性液体3中を粒子7の状態となって降下する。容器の周囲に磁石2が配置された領域に到達するとその磁力によって、N又はS極側に引き寄せられ又は反発させられ、降下軌道が変化する。そのため、シリカゲルは取出口5から取出すことができる。このシリカゲルに第二物質が含まれる場合でそれが磁力の影響を受けない物質である場合は、降下軌道が変化することなくそのまま真下に降下し、取出口6から取出すことができる。このようにして分離が行われる。
【実施例】
【0019】
実施例1
図2に示す装置を使用して気泡の上昇する軌跡の変化を観測した。容器1は10×10×45mmのガラスセルであり、縦に長い。磁性イオン液体3としては、bmim[FeCl4]を使用した。キャピラリー管をセルの中に入れて窒素ガスを流し、気泡を上昇させた。セルに対し磁束密度500mTであるネオジウム磁石2を水平方向から近づけた。いくつかのネオジウム磁石を用いて磁場をさまざまに変えた。そして、磁石の中心軸の延長上周辺での気泡7の軌道の変化を観測し、その一次微分係数(傾き)を計測した。なお、表1は磁石の中心軸付近の挙動で、周辺部分になると磁束密度も勾配も変化する。また、気泡の位置と磁石の距離をさまざまに変えて同様な実験を行った。その結果を表1に示す。
表中、Bは、磁束密度を意味する。
ΔB/Δzは、横方向の磁束密度の勾配を意味する。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例2
図1に示す装置を使用して四塩化炭素の分離を行った。容器は10×10×45mmの箱状の容器であり、縦に長い。磁性イオン液体としては、bmim[FeCl4]を使用した。磁石としてはネオジウム磁石(0.5T、径10mm、長さ20mm)を使用し、容器高さのほぼ中央部に1つ配置した。容器上部であって、断面中心に設けた装入口より四塩化炭素を液滴の大きさが径1mmとなるように滴下した。その結果、容器底部においては、容器の器壁付近に四塩化炭素が集積した。横方向への移動距離は5mmと計算される。
【0022】
実施例3
四塩化炭素の代わりにシリカゲル粉末(径2mm)を使用した以外は、実施例2と同様な実験を行った。その結果、容器底部においては、容器の器壁付近に四塩化炭素が集積した。移動距離は5mmと計算される。
【0023】
実施例4
四塩化炭素の代わりに窒素ガス(気泡径1mm)を使用し、装置の構造を上下逆とし、容器底部であって、器壁に接するように設けた装入口より、窒素ガスを装入した以外は、実施例1と同様な実験を行った。その結果、容器上部においては、ほぼ中心部から窒素ガスの気泡が吹き出た。移動距離は5mmと計算される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】分離装置の使用の一例を示す模式図
【図2】分離装置とその使用の一例を示す模式図
【符号の説明】
【0025】
1:容器
2:磁石
3:磁性イオン液体
4:装入口
5、6:取出口
7:物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性イオン液体を入れた容器及び容器に近接して配置した磁界発生装置を有する装置を用いて、分離又は移動すべき物質を装入し、磁界発生装置から所定の磁場を印加して、少なくとも1種の物質を移動させることを特徴とする物質の移動又は分離方法。
【請求項2】
磁性イオン液体を入れた容器、容器に近接して配置した磁界発生装置、容器内の磁性イオン液体中に磁性イオン液体とは比重の異なる分離すべき混合物質を装入するための装入口及び分離された少なくとも1種の物質を取出すための取出口を有する装置を用いて、分離すべき混合物質を装入口から装入し、比重差により混合物質が上昇又は下降する間に磁界発生装置から所定の磁場を印加して、混合物質中の少なくとも1種の物質と他の物質の上昇方向又は下降方向を変化させ、それにより分かれた位置に上昇又は下降してきた物質を取出口から取出すことを特徴とする分離方法。
【請求項3】
分離すべき混合物質が、混合気体である請求項2記載の分離方法。
【請求項4】
分離すべき混合物質が、混合粉末である請求項2記載の分離方法。
【請求項5】
分離すべき混合物質が、混合液体である請求項2記載の分離方法。
【請求項6】
磁性イオン液体が、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンとFeCl4アニオンから構成される塩化鉄(III)酸1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムである請求項2〜5のいずれかに記載の分離方法。
【請求項7】
磁界発生装置を制御して磁束密度及びその勾配を変化させて上昇方向又は下降方向を制御する請求項2〜6のいずれかに記載の分離方法。
【請求項8】
磁性イオン液体を入れた容器、容器に近接して配置した磁界発生装置、容器内の磁性イオン液体中に磁性イオン液体とは比重の異なる分離すべき混合物質を装入するための装入口及び分離された少なくとも1種の物質を取出すための取出口を有することを特徴とする分離装置。

【図1】
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【図2】
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