説明

分離膜のシミュレーション方法、シミュレーション装置、プログラムおよび該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体ならびに分離膜

【課題】分離性能の高い分離膜の構造を推算する。
【解決手段】分離膜の構造シミュレーションであって、既存の分離膜の構造データを記憶させ(S100)、グランドカノニカルモンテカルロ法を用い前記既存の分離膜構造における少なくとも2種以上の各対象被分離種に対する吸着性能を求め(S106)、前記吸着性能に基づき多変数回帰手法を用いて分離膜構造の予測モデルを作成し(S108)、動的モンテカルロ法を用い前記分離膜構造の予測モデルを基に複数の細孔ネットワークにおける前記分離膜の拡散性能を求め(S122)、仮想的な分離膜の分離性能を推算可能とした。また、CO/N分離膜は、二酸化炭素ガスの透過係数が1×10−11mol・m/msPa以上でかつ分離係数が100以上の二酸化炭素ガスと窒素ガスとのガス分離膜であって、前記ガス分離膜は細孔構造が3次元であり、細孔径として少なくとも3.2Å以上4.2Å以下の細孔を含み吸着サイトの直径Dsiteが7Å以上20Å以下ある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜のシミュレーション方法、シミュレーション装置、プログラムおよび該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体ならびに分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題が深刻化するなかで大気中への二酸化炭素の放散を抑制する手段として、化石燃料の燃焼時に発生する二酸化炭素を、膜による分離ののち回収して隔離する方法が提案されている。この二酸化炭素隔離プロセスにおいて、二酸化炭素の分離回収の部分で多くのコストが必要とされており、このコストの削減がプロセスの実現のために必要不可欠である。そのためには耐熱性・耐圧性ならびに高い分離性能を有する二酸化炭素分離膜の合成が期待される。
【0003】
例えば、T型ゼオライト膜上にポリエーテル共重合体からなる膜を積層した積層膜またはT型ゼオライト粉末とポリエーテル共重合体との混合物から構成される混合膜からなる、混合気体から二酸化炭素ガス或いは水素ガスを分離する気体分離膜が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、ガス分離性能を向上させたカルド型ポリイミドの非対称構造を有する高分子のガス分離膜も提案されている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−305371号公報
【特許文献2】特開2005−334687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記高分子のガス分離膜では、膜の耐久性が従来の無機系分離膜に比べやや劣るという問題があった。また、上述の無機系気体分離膜も、近年の要求分離性能レベルに対して今一歩であった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、特に気体に対する分離性能の高い仮想分離膜の構造をシミュレーション可能な分離膜のシミュレーション方法、シミュレーション装置、プログラムおよび該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体ならびに分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の分離膜のシミュレーション方法、シミュレーション装置、プログラムおよび該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体ならびにガス分離膜は、以下の特徴を有する。
【0009】
(1)二酸化炭素ガスの透過係数が1×10−11mol・m/msPa以上でかつ二酸化炭素ガスの分離係数が100以上の二酸化炭素ガスと窒素ガスとのガス分離膜であって、前記ガス分離膜は細孔構造が3次元であり、前記分離膜の細孔径として少なくとも3.2Å以上4.2Å以下の細孔を含み、吸着サイトの直径Dsiteが7Å以上20Å以下であることを特徴とするCO/N分離膜である。
【0010】
ガス分離膜の透過方向の細孔径dy、dzと吸着サイトの直径Dsiteとを上記範囲にすることによって、従来の二酸化炭素ガスの透過係数より一桁以上優れた透過性能を有し、また、従来の二酸化炭素ガスの分離係数より優れた分離性能を有する分離膜を得ることができる。
【0011】
(2)上記(1)に記載のCO/N分離膜において、前記CO/N分離膜は、ゼオライト膜またはゼオライト類縁化合物からなる分離膜であるCO/N分離膜である。
【0012】
(3)上記(1)に記載のCO/N分離膜において、前記CO/N分離膜は、二酸化ケイ素からなる骨格を基本として、一部のケイ素がアルミニウムに置き換えられるSi/Alゼオライト分離膜であり、前記Si/Alゼオライト分離膜のSi/Al比が20〜99であるCO/N分離膜である。
【0013】
さらに、上記Si/Alゼオライト分離膜のSi/Al比が20〜99とすることによって、従来の二酸化炭素ガスの透過係数より一桁以上優れた透過性能を有し、また、従来の二酸化炭素ガスの分離係数より優れた分離性能を有する分離膜を得ることができる。
【0014】
(4)分離膜の分離性能を計算するシミュレーション方法であって、既存の分離膜の構造データを記憶させ、グランドカノニカルモンテカルロ法を用い前記既存の分離膜構造における少なくとも2種以上の各対象被分離種に対する吸着性能を求め、前記吸着性能に基づき多変数回帰手法を用いて分離膜構造の予測モデルを作成し、動的モンテカルロ法を用い前記分離膜構造の予測モデルを基に複数の細孔ネットワークにおける前記分離膜の拡散性能を求め、仮想的な分離膜の分離性能を推算可能とした分離膜のシミュレーション方法である。
【0015】
分離膜構造の予測モデルを作成し、この予測モデルに基づいて仮想的な分離膜構造の分離性能を推算することができるため、実験を行うのと同様のことを短時間で安全に安価に、最適構造の分離膜構造を求めることができる。さらに、複数の手法を組み合わせ、それぞれの得意とする計算過程を経ることによって、高速で仮想的な分離膜の構造に対して分離性能のスクリーニングを行うことができる。
【0016】
(5)上記(4)に記載の分離膜のシミュレーション方法において、さらに、分離条件に応じて最適分離膜構造を求める分離膜のシミュレーション方法である。
【0017】
先に求めた仮想的な分離膜構造とその分離性能とに基づいて、分離条件に応じて最適分離膜構造を求めることができる。
【0018】
(6)上記(4)または(5)に記載の分離膜のシミュレーション方法において、前記分離膜は、COガス分離用ゼオライト膜である分離膜のシミュレーション方法である。
【0019】
ガス分離膜について適用可能とし、さらに、分離膜の構造とその分離性能を分子動力学法(MD)のみを用いてシミュレーションすることにより、グランドカノニカルアンサンブル・モンテカルロ法を組み合わせることによって、短時間で高速スクリーニングすることができる。
【0020】
(7)分離膜の分離性能を計算するシミュレーション装置であって、既存の分離膜の構造データを記憶させる構造データ格納手段と、グランドカノニカルモンテカルロ法を用い前記既存の分離膜構造における少なくとも2種以上の各対象被分離種に対する吸着性能を求める吸着性能演算手段と、前記吸着性能に基づき多変数回帰手法を用いて分離膜構造の予測モデルを作成する予測モデル作成手段と、動的モンテカルロ法を用い前記分離膜構造の予測モデルを基に複数の細孔ネットワークにおける前記分離膜の拡散性能を求める拡散性能演算手段と、を有し、仮想的な分離膜の分離性能を推算可能とした分離膜のシミュレーション装置である。
【0021】
(8)上記(7)に記載の分離膜のシミュレーション装置において、さらに、分離条件に応じて最適分離膜構造を求める構造最適化手段を有する分離膜のシミュレーション装置である。
【0022】
(9)上記(7)または(8)に記載の分離膜のシミュレーション装置において、前記分離膜は、COガス分離用ゼオライト膜である分離膜のシミュレーション方法である。
【0023】
(10)コンピュータを、既存の分離膜の構造データを記憶させる構造データ格納手段と、グランドカノニカルモンテカルロ法を用い前記既存の分離膜構造における少なくとも2種以上の各対象被分離種に対する吸着性能を求める吸着性能演算手段と、前記吸着性能に基づき多変数回帰手法を用いて分離膜構造の予測モデルを作成する予測モデル作成手段と、動的モンテカルロ法を用い前記分離膜構造の予測モデルを基に複数の細孔ネットワークにおける前記分離膜の拡散性能を求める拡散性能演算手段と、仮想的な分離膜の分離性能を推算する仮想的分離膜の分離性能演算手段として機能させるためのプログラムである。
【0024】
(11)上記(10)に記載のプログラムにおいて、前記分離膜は、COガス分離用ゼオライト膜であるプログラムである。
【0025】
(12)上記(10)または(11)に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0026】
(13)上記(4)から(6)のいずれか1つに記載の分離膜のシミュレーション方法により得られた仮想的な分離膜の構造を有する分離膜である。
【0027】
(14)上記(7)から(9)のいずれか1つに記載の分離膜のシミュレーション装置により推算されて得られた仮想的な分離膜の構造を有する分離膜である。
【0028】
(15)上記(10)または(11)に記載のプログラムをコンピュータにより読み出し、推算することによって得られた仮想的な分離膜の構造を有する分離膜である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、分離性能の高い分離膜構造をシミュレーションすることができ、特に、対象気体を選定することによって、仮想的な最適分離膜構造をシミュレーションすることができるとともに、この仮想的な最適分離膜構造に対して分離膜性能のスクリーニングを行うことができる。また、上記CO/N分離膜によれば、従来により優れた分離性能を有する膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の最良の実施形態である分離膜のシミュレーション方法および装置について、図面に基づいて説明する。
【0031】
図1には、本発明に係る分離膜のシミュレーション装置の一例の概略構成を示すブロック図である。また、図2は、本発明に係る分離膜の分離性能を計算する数値シミュレーション方法の一例を実施するための処理の流れを示すもので、一連の処理は、パソコンまたはワークステーションのようなコンピュータ上で実行される。
【0032】
本実施の形態では、分離膜として無機系のガス分離膜、特にゼオライト膜を例に取り説明するとともに、2種以上の分離対象被分離種として混合気体を用いることとし、混合気体として、特に二酸化炭素(CO)と窒素(N)からなる混合気体を例に取り説明する。
【0033】
本実施の形態における分離膜のシミュレーション装置は、構造データ格納手段である既存の無機系分離膜構造の構造データベース10のデータベースを基に、グランドカノニカルモンテカルロ法(GCMC(Grand Canoical Monte Carlo)法)を用い各既存無機系分離膜構造における少なくとも2種以上の各対象気体に対する吸着性能を求める吸着性能演算装置12と、吸着性能に基づき多変数回帰手法(例えば、PLS(Partial Least Square)法)を用いて分離膜構造の予測モデルを作成する予測モデル作成装置14と、動的モンテカルロ法(DMC法)を用い分離膜構造の予測モデルを基に複数の細孔ネットワークにおける前記分離膜の拡散性能を求める拡散性能演算装置16と、得られた予想モデルから構成される無機系分離膜構造とその分離性能とを対応させて格納されているスクリーニング膜性能データベース18とを有する。さらに、スクリーニング膜性能データベース18のデータベースを基に、分離条件に応じて、無機系分離膜の最適構造予測を行う最適構造予測装置20を有し、また、上記スクリーニング膜性能データベース18に格納した仮想的な分離膜の構造や、最適構造予測装置20により得られた最適構造を表示する表示装置22を有する。
【0034】
本実施の形態における分離膜のシミュレーション装置は、さらに、仮想的な無機系分離膜の分離性能を推算する仮想的分離膜の分離性能演算装置を含んでもよい。
【0035】
本実施の形態では、上記吸着性能として、例えば無機系分離膜に対する対象分離気体の吸着量、吸着選択性を指標として評価し、また、上記拡散性能としては、例えば無機系分離膜に対する対象分離気体の透過係数、拡散選択性を指標とし評価し、さらに、分離性能としては、例えば無機系分離膜に対する対象分離気体の透過係数、分離係数を指標として評価する。
【0036】
無機系分離膜の構造データベース10は、既存の無機系分離膜の構造、例えば、ゼオライト膜におけるゼオライト格子の原子のタイプ(例えば、セオライトの二酸化ケイ素からなる骨格中のケイ素に置き換えられるアルミニウムとケイ素との比:Al/Si比)、ゼオライト膜の密度、細孔容積、比表面積、細孔径、吸着サイトの細孔の次元数などの分離膜構造特性データが記憶されている。ここで、ゼオライトは、一般に、二酸化ケイ素からなる骨格を基本として、一部のケイ素がアルミニウムに置き換えられることによって結晶格子全体が負に帯電しており、このゼオライトの細孔内にナトリウムなどのカチオンを含むことによって、電荷のバランスを取っている。
【0037】
また、吸着性能演算装置12では、グランドカノニカルモンテカルロ法(GCMC(Grand Canoical Monte Carlo)法)を用い、各既存無機系分離膜構造、本実施の形態では既存のセオライト膜構造における少なくとも2種以上の各対象気体、例えば、二酸化炭素と窒素に対する吸着能、例えば二酸化炭素と窒素の吸着量および二酸化炭素と窒素の吸着選択性が求められる。
【0038】
また、予測モデル作成装置14では、例えば二酸化炭素の平衡吸着量およびCO/Nの吸着選択性に基づき多変数回帰手法であるPLS(Partial Least Square)法)を用い、分離膜構造の予測モデルが複数作成される。
【0039】
また、拡散性能演算装置16では、動的モンテカルロ法(DMC法)を用い、分離膜構造の予測モデルを基に、後述する複数の細孔ネットワークにおける分離膜の拡散性能、例えば二酸化炭素の透過係数、CO/Nの拡散選択性が求められる。
【0040】
スクリーニング膜性能データベース18では、得られた予想モデルから構成される無機系分離膜構造とその分離性能とを対応させて格納される。そして、最適構造予測装置20では、分離条件に応じて、無機系分離膜の最適構造予測を行い、表示装置20には、上記スクリーニング膜性能データベース18に格納した仮想的な分離膜の構造や、最適構造予測装置20により得られた最適構造が表示される。
【0041】
図1に示すシミュレーション装置において、上記拡散性能演算装置16とスクリーニング膜性能データベース18との間に、分離性能演算装置を設けてもよく、該分離性能塩蔵装置では、上述したDMC法により求められた拡散選択性および透過係数とGCMC法により求められた吸着選択性および吸着量とから、仮想的な無機系分離膜の分離性能、例えば二酸化炭素と窒素ガスの透過係数と分離係数が求められる。
【0042】
次に、本実施の形態の分離膜のシミュレーション装置の動作およびシミュレーション方法について、図1,2に用いて以下に説明する。なお、本実施の形態では、上述したように、無機系分離膜としてゼオライト膜を例により、また分離する混合気体として二酸化炭素と窒素の混合気体を例に取り、以下に説明する。
【0043】
吸着性能演算装置12では、無機系分離膜の構造データベース10に記憶されている、ゼオライト膜におけるゼオライト格子の原子のタイプ(例えば、セオライトの二酸化ケイ素からなる骨格中のケイ素に置き換えられるアルミニウムとケイ素との比:Al/Si比)、ゼオライト膜の密度、細孔容積、比表面積、細孔径、吸着サイトの細孔の次元数などの分離膜構造特性データが読み込まれる(S100)。次に、GCMC法を用いて、吸着シミュレーションを行う。このシミュレーションは、以下の手順に行われる。
【0044】
(a)計算条件の決定
本実施の形態では、例えば、GCMC法による計算にはMSI社の「Cerius2」を使用した。「Cerius2」はGraphical Interfaceの点で大変優れており、煩雑なコンピューターシミュレーションを比較的容易に行うことができる。
【0045】
(b)ゼオライト膜のモデル
本研究で使用したゼオライト構造・Si/Al比は全てCerius2に入っているユニットセル構造を用いた。そして実際に用いたモデルはユニットセルを数倍に拡張したものである。計算を正確に行うには、セルの大きさは大きければ大きい程良いが、その分計算時間が長くなってしまうので、本実施の形態では1辺が30〜40Å(3〜4nm)になるようにユニットセルを拡張した。
【0046】
(c)結晶の格子振動の扱い
本実施の形態では、ゼオライト格子を固定して計算を行った。ゼオライト中の吸着分子の拡散機構を検討している既往の研究では、計算時間を短縮するためにゼオライト格子を固定しているものが多い。なお、ゼオライトの細孔に対して分子が小さい系や、極めて低濃度な領域に対するシミュレーションを行う際は、結晶格子を固定する影響は少ないとされている。
【0047】
(d)計算のステップ数
モンテカルロ法(MC法)を用いてシミュレーションを行うと、多くの系において200,000ステップ以上で系のエネルギーがほぼ一定になることが経験的に知られている。従って、平衡状態に達するまでには200,000ステップ以上の試行回数が必要となる。そこで、本実施の形態では、平衡状態の吸着量と吸着熱を算出する際のMC法によるシミュレーションの試行回数は1,000,000〜2,000,000ステップとした。
【0048】
(e)アンサンブルの決定
GCMC法による計算であるため、ケミカルポテンシャルμ・体積V・温度Tが一定のμVTアンサンブル(グランドカノニカルアンサンブル)を用いている。計算を行う際には圧力・温度を一定値として入力するようになっている(S102)。
【0049】
(f)CUTOFF LENGTH
シミュレーションでは、ある原子に働く力やエネルギーを計算する際、全ての原子との相互作用を計算すると膨大な計算量となり、多くの計算コストを要する。原子間に働く力は、その距離がある程度大きくなると収束する。そこで通常はその原子から半径rの球の中にある原子のみを考慮し、それより外にある原子の影響は無視することで計算の速度をあげる。このrの値をcutoffという。
【0050】
本来は、MC法によるシミュレーションによって求めた吸着熱が変化しない程度のcutoffをとる必要があるが、計算にかかる時間を考えて本研究では、ファンデルワールスのcutoffを9.8Å、静電相互作用のcutoffを8.2Åとした。
【0051】
(g)その他の計算条件
以上で挙げたような計算条件以外にも、様々な計算条件の設定があるが、それらについては「Cerius2」のDefaultで設定されている値を使用した。
【0052】
(h)計算に用いたポテンシャルとパラメーター
(i)計算に用いたポテンシャル
本実施の形態では、吸着分子内相互作用は考慮せず、吸着分子はrigidであると仮定して計算を行った。
【0053】
分子間相互作用については、以下の式(1)で計算した。
【数1】

ここで、ε0はbond strength、r0はbond lengthである。また、多種の分子間の相互作用パラメーターには下記のLorentz-Berthelot rulesを用いた。
【数2】

【0054】
(ii)計算に用いたパラメーター
本実施の形態で用いたパラメーターを表1に示す。また、C−Oの結合長は1.18Åに固定した。さらにN原子のパラメーターはCO/Nの時はNで、N/Oの時はN_1を用いた。N_1・O_2は「Cerius2」に入っているburchart1.01-DEIDING2.21という汎用力場のパラメーターである。O_z・Si_z・Al_zはゼオライト格子の原子のタイプである。ゼオライト格子のSiとAlの電荷は、ゼオライト全体の電荷がゼロになるようにしながら、4:3となるように各Si/Al比ごとに定めた(S104)。
【0055】
【表1】

【0056】
表2に示す既存のゼオライト膜の吸着データから上述したGCMC法による計算を行い、CO吸着量、N吸着量、CO/N吸着選択性を求める(S106)。Si/Al比の異なるMFIについては、シリカライト中のSiを手でAlに置き換えて「Cerius2」のCation Locatorという機能を用いてNaイオンを入れた。なお、このときのAl原子はAl−O−Alが出来ないような位置にランダムに置換した。Naの数はMFIのユニットセル中の数を示している。以下に、求められた結果を図3に示す。
【0057】
次に、予測モデル作成装置14では、上記吸着性能演算装置12において求められた、例えば二酸化炭素の平衡吸着量およびCO/Nの吸着選択性に基づき多変数回帰手法であるPLS法を用い、分離膜構造の予測モデルが複数作成される(S108)。
【0058】
以下に、PLS法およびPLS法を用いた分離膜構造の予測モデルの作成工程について説明する。
【0059】
まず、主成分分析(PCA:Principal Component Analysis)とは、多変量データの持つ特徴を主成分と呼ばれる指標を用いて表現する手法である。主成分分析を行うことでデータ間の関係や変数間の相関をつかむことができる。
【0060】
上記PLS(Partial Least Squares)法は、PCAを拡張して予測性の高い線形モデルを構築できるようにした多変量回帰手法である。PLS法では説明変数Xをそのまま回帰分析に用いるのではなく、説明変数の線形結合である主成分tを用いてPLS法の最適なモデリングを行う。これに対して、PLS法では説明変数の数がサンプル数を上回る場合でもモデルを構築することができる。さらに逆行列演算を含まないため、共線性の問題は生じない。また、主成分を通して説明変数の情報を順次使うので、PLSモデルの自由度を変えながら予測性を検討することができる。そこで、実施の形態ではこのPLS手法を用いて平衡吸着量・吸着選択性のモデルを構築した。
【0061】
本実施の形態では、全圧が100kPaのデータ(吸着量・吸着量の比)だけを用いて多変量解析を行った。PLSモデリングの具体的な手順を以下に示す。本実施の形態では、PLS法において、説明変数Xと目的変数Yの間でY=f(X)という線形モデルを構築する手法である。目的変数はCO吸着量とCO/Nの吸着選択性の2つである。
(1)モデル化するための説明変数Xを抽出する
(2)GA−PLSによって説明変数を最適化する
(3)最適化された説明変数だけをもちいてPLSモデルを作成する
【0062】
まず、説明変数は以下のものを用いた。
【表2】

この変数は順番に、Vporeはゼオライトの細孔容積、Sporeは比表面積、ALrateはAl原子がゼオライト骨格のT原子の中で占めている割合、dp-minは最小細孔径、dp-maxは最大細孔径、D-minは最小吸着サイト径、D-maxは最大吸着サイト径、Frame DとTDはゼオライトのデータベースから抜粋した原子の連続性を表す変数で、Pdisは細孔の歪曲度を表している。そこで、GA−PLSによって変数の最適化を行い、PLSモデルを作成した結果を以下の式(4)〜(7)に示す(順番にモデル1〜4とする)。モデル1は純シリカの構造のCO平衡吸着量の予測モデル、モデル2は純シリカの構造の吸着選択性(CO/N)予測モデル、モデル3はアルミを含む構造のCO平衡吸着量の予測モデル、モデル4はアルミを含む構造の吸着選択性(CO/N)予測モデルである。
【0063】
(数3)
純シリカの構造
吸着量=-1.331Spore-0.052dp-min-0.042dp-max-0.011D-min+1.173 ・・・ (4)
選択性=21.189Vpore-171.018Spore-2.51dp-max-0.818D-max+47.713 ・・・ (5)
Alを含む構造
吸着量=5.887Alrate+0.643 ・・ (6)
選択性=-1555.104Vpore+805.207Alrate+5.129dp-max-1.429D-max+726.577 ・・ (7)
【0064】
一般にモデル化を行う場合、モデルの自由度によって適合誤差と予測誤差は変化する。モデルの自由度が小さいときにはアンダーフィッティングと呼ばれ適合誤差は大きい。自由度を増加させると当然のことながら適合誤差は減少し、フィッティングは良くなる。しかし、その場合にはオーバーフィッティングの可能性がある。したがって、自由度を変化させながら予測誤差を観測して、予測誤差が最小となる自由度を最適成分とすることが望ましい。最適な成分数はクロスバリデーションによって求められる。
【0065】
クロスバリデーションには外部バリデーションと内部バリデーションがあり、一般に外部バリデーションは与えられたサンプル数が比較的多い場合に行われる。
【0066】
内部バリデーションはleave-one-out法を用いて実行されることが多い。まずn個のサンプルがあるとして1個のサンプルを除いてテスト集合とする。残ったn−1個のサンプルを訓練集合として考えて、PLSモデルを計算する。以下、順番に1個ずつ除きながら適宜PLSモデルを計算する。そして、得られたn個のyの推定値とyの実測値との相関を見る。次に同様な手順で2成分PLSモデルについて、全てのサンプルについてyの推定値を求める。さらに、PLS成分を増加させて対応するPLS成分の誤差を求め、その誤差が最小となる成分数を最適成分数とする。
【0067】
クロスバリデーションを行った結果、それぞれのモデルのR2(説明分散)とQ2(予測的説明分散)について、以下の表3に示す。さらに純シリカの構造で、GCMC計算で得られた結果とモデルによって得られた結果の比較を、図4に示す。
【0068】
純シリカの構造では、吸着量・吸着選択性のR2は約0.4〜0.5という結果であり、Q2は約0.35〜0.4という結果であった。このことから、この2つの予測精度は約6割であるということが言える。また、Alを含む構造ではデータのサンプル数が少ないのにもかかわらず高いR2とQ2を得ることが出来た。こちらの予測精度はQ2=0.6〜0.9であった。なお、R2(説明分散)とQ2(予測的説明分散)は、それぞれ1に近いほどモデルの適合度・予測性が高いといえる。
【表3】

【0069】
これらの結果より、Q≧0.35であり(S110)、適合度・予測性が高い予測モデルが得られた。
【0070】
次に、拡散性能演算装置16では、図5に示す得られた分離膜構造の予測モデルを基に、動的モンテカルロ法(DMC法)を用い、図6に示す複数の細孔ネットワークにおける分離膜の拡散性能、例えば二酸化炭素の透過係数、CO/Nの拡散選択性が求められる。
【0071】
膜構造をモデル化することが必要となる。構造のモデル化に関しては、以下のように行った。図5に示すモデルを基に、吸着サイトの直径をDsite、x軸方向を透過方向と定めて、その細孔径をdx、透過方向と垂直方向の細孔径をdy・dz、さらに隣接する吸着サイト間距離をLとする。図5では、LTA型ゼオライト(A型ゼオライト)を例にしている。A型は、xyz方向に吸着サイトが等方的につながっているが、すべてのゼオライトが同じつながり方をしているわけではないので、吸着サイト間のつながり方について7つのタイプに分類した。そのタイプについては図6に示す。実在するゼオライトはほとんどこの7つのTypeのどれかに属していて、細孔の数が微妙に異なっているだけである。例えばFAU型ゼオライトは一つの吸着サイトに注目したとき、隣接するサイトが等方的に4つあるのでType3Bに属するといえる。
【0072】
構造因子を以下のようにふって、すべての因子の組み合わせ1600通りについてDMC計算で透過係数・分離係数を算出した。なお計算条件は、Feedセルに分子を10個ずついれて、ユニットセルを透過方向に10個並べたものを膜モデルとした。計算ステップは50,000,000ステップで、40,000,000ステップ〜50,000,000ステップの透過分子数比を分離係数とした。以下の構成因子を入力する(S112)。
(数4)
dx=3.4,4.2,5.8、7.4[Å](これは酸素7員環・8員環・10員
環・12員環の細孔径に相当する)
dy=3.4,4.2,5.8,7.4 [Å]
dz=3.4,4.2,5.8,7.4 [Å]
site=9,11,13[Å]
Si/Al比= ∞(純シリカ),99,49,32,24,19(Naで交換している)
吸着サイトのつながり=7タイプ(図7に示す)
【0073】
次に、以下の手順で、ホッピング速度定数の算出を行う(S114)。
(a)ホッピング速度定数
ホッピング定数は移動する分子を決定するときに分子が選択される確率に比例する値であり、分子種・分子が存在するサイトごとに異なる値をとる。そこで、ここではホッピングの活性化エネルギーにアレーニウス依存性があるとして以下の式を用いた。
【数5】

ここで、khopはホッピング定数、νhopは頻度因子・ΔEhopはホッピングの活性化エネルギーである。よって与えられた構造から頻度因子とホッピングの活性化エネルギーを求めることで、ホッピングパラメーターを算出することができる。
【0074】
(b)ホッピングの活性化エネルギー
分子とゼオライト結晶格子を構成する原子間のLennard−Jonesポテンシャルによるエネルギーについて、分子が吸着サイトに存在する場合と吸着サイト間の細孔の中間点にいる場合のエネルギー差をホッピングの活性化エネルギーとした。この際には以下の仮定に従うものとする。
(i)ゼオライト格子について、吸着サイト間の細孔は円筒状であるとし、吸着サイト(cage)は球状であるとする。また、ゼオライト格子を構成する酸素原子は細孔断面・吸着サイト表面に均等に分布しているものとする。
(ii)分子の形状は、細孔内に存在するときには円筒状であるとし、その断面の直径をdm(これをKinetic diameterと呼ぶ )とする。分子が吸着サイトにいるときには球形であるとみなし、その径をσm(これをLennard−Jones length constant と呼ぶ)とした。dmとσmは一般に異なる値である。
(iii)分子が細孔内に存在するときには、分子の断面の中心は細孔の中心と一致し、分子の軸も細孔の軸と一致するとする。
(iv)ゼオライト格子を構成する原子のうち、酸素原子のみがポテンシャルに寄与するものとする。これは原子間ポテンシャルの計算ではよく行われる近似である。
(v)透過分子間の影響はホッピングパラメーターにいれて考える。
(vi)対象となる分子が吸着サイトにくるときのホッピングの起点方向に対しても、他のホッピング方向と区別して扱うことはしない。
【0075】
(1)分子径・原子径の算出
分子のσm(Lennard-Jones length constant)は、
【数6】

によって算出した。また、偏心因子ωm
【数7】

によって得た。分子のdm(Kinetic diameter)については、文献値[「二酸化炭素高温分離・回収再利用技術研究開発」新エネルギー・産業技術総合開発機構委託業務成果報告書(平成11年度)]の値を用いた。
【0076】
(2)ホッピングの活性化エネルギー
ホッピングの活性化エネルギーΔEhopは分子の吸着サイトでのエネルギーΦiと細孔でのエネルギーΦcの差として式(11)から導いた。
【数8】

また、細孔でのエネルギーΦc・Φiを求める計算式を以下に記す。
【数9】

ここでE(cation)は吸着サイト内に存在するカチオンから受けるエネルギーである。σcは細孔における分子-酸素間Lennard-Jones length constant、σiは吸着サイトにおける分子酸素間Lennard−Jones length constant、rcは細孔の中心と細孔を構成するO原子の中心間距離である。単位はいずれもÅであり、σc・ rcは細孔を構成する全てのO原子で一定とおいた。そのため式(12)は、
【数10】

となる。ただし、ncは細孔を構成する酸素原子の個数である。なお、ncは以下の式から求めている。
【数11】

poreは細孔の直径で、以下の関係を満たす式である。
【表4】

【0077】
式(13),(14)に用いるσc・σi・rcは式(16)〜(18)によって算出した。
【数12】

さらに、εは式(19)によって求めた。この値は相互作用を及ぼす分子の組ごとに異なる。
【数13】

ゼオライト細孔のO原子についてのεO/kの値はデータが存在しないため、酸素分子のε/kの値を近似値として使用した。εm/kは以下の式(20)から算出した。
【数14】

【0078】
本実施の形態で用いた値を以下の表5に示す。
【表5】

【0079】
(3)吸着サイトでのエネルギー
吸着サイトでのエネルギーΦiの求め方は、細孔でのエネルギーの求め方とは異なる。大きな要因としては、吸着サイトが大きくなるにつれて分子が安定に存在する位置が変化することにある。吸着サイトが小さいときは、細孔でのエネルギーと同じように分子がサイトの中心にいると仮定することができる。しかし一般に分子が安定に存在する位置は吸着サイトの中心よりも壁よりであると言われている。そこで本研究では以下の手順で、式(13)の左の項である分子の安定な位置を考慮した吸着サイトでのエネルギーE(z)を算出した。
【0080】
まず吸着サイトを半径Rの球として、球の中心を通るようにx軸を定める。そしてguest分子が座標pR(0≦p≦1)にいるとして、球の中心からx軸との角度θにある円周とのguest分子の相互作用エネルギーを考える。guest分子とこの円周との距離rは、
【数15】

で表せる。そこでこの距離を式(13)の左の項のL−Jポテンシャルの距離の項に代入して、球の中心からの角度がθ〜θ+dθの帯状の面積をかけてやると、そのときのエネルギーE’は、
【数16】

として表せる。そこでこの値をθが0〜πまで積分してやると、
【数17】

が得られて、単位は「J・m」になる。そして、最後にこのF(p,R)に単位面積あたりの酸素原子の数をかけることで求めるエネルギーとなる(図7に概略を示す)。なお、単位面積あたりの酸素原子の数ni0は以下の式で計算している。
【数18】

以上の計算を行うことで、吸着サイトの大きさ(半径R)が決まっているときに、guest分子が最も安定な位置にいるときのエネルギーとその位置(p)が求まるので、これを交換カチオンの影響を受けていない場合の吸着サイトでのエネルギーE(z)とした。
【0081】
(4)吸着サイトでのカチオンの影響
以上より式(13)を簡略化すると式(20)になる。
【数19】

E(z)に関しては、上記(3)で求めたとおりである。吸着サイトではSi/Al比に応じて交換カチオンが存在しており、その影響によって分子の活性化エネルギーが大きくなる傾向が知られている。そこで、カチオンをNaとして固定して、DMC法での吸着サイトを、Naイオンの影響を受けているサイト(strong-site)と受けていないサイト(week-site)の二つに分類した。そしてGCMC法による計算で、Alが存在しているときの吸着熱の上昇を調べることで、E(Na)の値を決定した。当然吸着サイトがweek-siteの場合はE(Na)はゼロとなり、ゼオライトとの相互作用エネルギーE(z)のみを考慮すれば良いことになる。
【0082】
次に、頻度因子を算出する(S116)。分子がサイト間ポテンシャル障壁を乗り越える程度のエネルギーを持つ確率は一般に非常に小さく、ほとんどの時間分子はポテンシャルの底付近にあると考えられる。このような場合、分子はサイト付近を単振動すると近似できる。このときの振動数は式(26)に示すようになる。この振動数をホッピングの頻度因子とみなした。
【数20】

【0083】
次に、ユニットセルデータの作成を行う(S118)。DMC法による計算を走らせるには大きく以下の3つの情報が必要である。
(i)ユニットセル中の吸着サイト一つ一つの座標
(ii)吸着サイト間のつながりの情報(どのサイトとつながっているか、周期境界をまたいだ結合か否か、など)
(iii)それらの吸着サイト間をホッピングするときのホッピング定数
そこでこれらの情報を、例えば「cell.dat」というファイルに出力させて、DMC法による計算のプログラムの中でその「cell.dat」を読み込むようにすることで、膜構造の情報を作成するプログラムと実際のDMC計算のプログラムを分けてプログラムの実行速度を落とさないようにしている。ここでは、ユニットセルの情報を出力するプログラムとして、例えば「Unitcell.cpp」を作成した。このプログラムに限らず本研究でのプログラムは全てC++というプログラミング言語を用いている。「Unitcell.cpp」は以下の入力と出力の関係を持っている。
(数21)
入力・・・吸着サイトの大きさDsite、xyz方向の各細孔径dx.dy.dz、系の温度、ユニットセル中の吸着サイトの数、透過分子の物性
出力・・・データファイル(cell.dat)
なお、ユニットセル中の吸着サイトの数は2×2×2個や3×3×3個というように与えられる。プログラムの中では、上記ホッピング速度定数の算出方法に基づいて吸着サイトiからjにホッピングするときのホッピング速度定数kijをすべてもとめている。
【0084】
次に「cell.dat」について説明する。「Unitcell.cpp」を実行すると、例えば、図8のように「cell.dat」が得られる。(ここではユニットセル中の吸着サイトが8個の例を示している。さらにホッピング定数を記号で省略している。)最初の1行はユニットセルの各辺の長さ(Å単位)である。2行目からは各吸着サイトの状態についての記述となる。各行は5つの部分に分かれており、1列目は吸着サイトの位置を表す。3軸の交点の1つを原点としてユニットセルの各辺の長さに対する割合で位置が示されている。2列目は接続関係を表しており、パスがつながっている吸着サイトの番号が列記される。ここで、周期境界条件によって接続関係にあるサイトも忘れずに列記する。3列目は周期境界条件をまたいで接続しているサイトに関する記述である。またいでいる周期境界条件の向きと、それを判別する値との関係を以下に記す。
【表6】

【0085】
例えば、サイトiからサイトjにホッピングする際にX軸方向に正の向きで周期境界条件をまたいだら、ここでは“10”と列記される。4列目・5列目は結合している吸着サイトへのホッピング速度定数を列記しており、4列目は透過分子種の第1成分、5列目は第2成分を表している。
【0086】
次に、膜モデルの作成を行う(S120)。DMC法での膜モデルは、上述の方法により作成したユニットセルを透過方向に10個つなげたものを膜モデルとしている。両端のセルはそれぞれFeed領域とPermeate領域としている。Feed領域では常に透過分子の濃度と2成分の組成が変化しないようにしており、Permeate領域では透過してきた分子をカウントするとともに消去する作業を行っている。よって、このモデルでは透過方向に濃度勾配があるような膜領域に相当するのは中央の8個ぶんのユニットセルである。本実施の形態では、膜圧は約数百オングストロームである。ここで透過方向はX軸方向に固定する。Y・Z方向にユニットセルから飛び出すようなホッピングに対しては周期境界条件を適用しており、X軸方向にユニットセルを越えるような場合は隣のセルの吸着サイトに移動することで膜透過現象を見ることが可能になる。
【0087】
次に、DMC法により計算する。DMC計算には、例えば「DyMC10_2.cpp」というプログラムを用いた。このプログラムの入力と出力の関係は以下のとおりである。
(数22)
入力・・・「cell.dat」、系の温度、計算のステップ数、Feed領域にいれる分子の数(2成分)
出力・・・「msd.dat」、「permeation.dat」、「file09p.dat」、透過個数、分離係数
出力されるファイルはそれぞれ次の情報が列記されている。
(数23)
「msd.dat」・・・透過分子の平均2乗変位(MSD)の時間変化
「permeation.dat」・・・透過した分子数の時間変化
「file09p.dat」・・・分子が各ステップでどの位置にいるかという情報(この結果を順に可視化すると、透過分子の挙動を見ることができる。)
ここでの透過係数P・分離係数αは、CO/Nを例にすると、以下の式(27),(28)で計算される。正確に求めるのであれば、上記の出力ファイルでMSDが安定したところからのデータを使って求める必要があるが、計算のステップ数を十分に長くとることで解決できると考えられる。
【数24】

【0088】
また、ホッピングのしかたについては次の手順で行う。
(1)各サイトのホッピングパラメーターの期待値kexpectを求める(式(29))
(2)全てのサイトに対して、透過分子が存在するときは手順(1)で求めた期待値を用い、分子がないときは期待値をゼロとする
(3)各サイトの期待値の重みに基づいてサイトをランダムに選択する(ここで選択されたサイトにいる分子がホッピングする)
(4)手順(3)で選ばれたサイトで、隣接する吸着サイトへのホッピング定数の比によって確率的にホッピングの方向を決める(どの吸着サイトにホッピングするかを決める)
(5)上記(2)〜(4)の手順を毎ステップ行って透過分子を動かしていく。
【0089】
各サイトのホッピングパラメーターの期待値kexpectの求め方は以下のとおりである。
【数25】

Nは一つの吸着サイトからホッピングすることが出来るサイトの数である。
【0090】
各構成因子を用いて、順次構成因子の組み合わせを代えて(コンビトリアルに変化させ)、上述した手順でDMC法による計算を行い、拡散選択性と透過係数を求める(S122)。ついで、全構成因子を用いてDMC計算を行ったか否か判定し(S124)、全ての構成因子についてDMC計算が終了していない場合には、S112に戻り、全ての構成因子についてDMC計算が終了している場合には、すなわち、本実施の形態においては、1600通りについて、さらに計算し、DMC計算で得られた拡散選択性・透過係数と、GCMC計算で得られた吸着選択性・吸着量の結果から、膜の透過係数・分離係数を算出し(S126)、各仮想的な分離膜構造とその透過係数・分離係数を出力する(S128)。その結果を図9に示す。
【0091】
ここで、草壁らの製膜したNa−Y型ゼオライト膜では、CO/Nの分離に関し、分離係数100(300K)・CO透過係数1.5×10−7[mol/msec Pa]、K−Y型で分離係数30.3(313K)・CO透過係数1.8×10−6[mol/msec Pa]が、従来最も高い分離係数を示している。一方、図9の結果を考慮すると、この既存のY型ゼオライト膜の膜分離性能、特に分離係数の値を上回る膜分離性能を有する仮想的な分離膜構造が推算されていることが分かる。
【0092】
上述で得られた、複数の仮想的な分離膜構造とその透過係数・分離係数とをリンクさせてスクリーニング膜性のデータベース18に格納し、適宜分離条件に応じて、最適構造予測装置20を用いて、必要に応じて上記DMC計算を行い、分離膜の最適構造を予測し、表示装置22において表示される。
【0093】
以上、対象被分離種として混合気体を用い、CO/Nの分離について述べたが、同様にO/Nの分離についても、分離膜構造をシミュレーションしたのち透過係数・分離係数をスクリーニングすることが可能であることはいうまでもない。さらに、他の混合気体についても、上述した手順で、同様に分離膜構造をシミュレーションしたのち透過係数・分離係数をスクリーニングすることが可能である。また、対象被分離種として混合液体を用いてもよく、また分離膜として、上述の無機系分離膜以外の有機系分離膜や無機/有機系分離膜をシミュレーションにより構造を特定し、その特性について本発明によりスクリーニングしてもよい。
【0094】
また、本実施の形態では、図9に基づく、以下の構成要因を有する分離膜がCO/Nの分離に有用であることを見出した。すなわち、本実施の形態のCO/N分離膜は、二酸化炭素ガスの透過係数が1×10−11mol・m/msPa以上でかつ二酸化炭素ガスの分離係数が100以上の二酸化炭素ガスと窒素ガスとのガス分離膜であって、前記ガス分離膜は細孔構造が3次元であり、前記分離膜の細孔径として少なくとも3.2Å以上4.2Å以下の細孔を含み、吸着サイトの直径Dsiteが7Å以上20Å、好ましくは7Å以上13Å以下である。
【0095】
上記シミュレーションおよびスクリーニングの結果、細孔構造が3次元であって、吸着サイトの直径Dsiteを大きくし、少なくとも透過方向の細孔径dy,dzを小さくすることによって、透過係数および分離係数が増加することが判明した。また、上記結果から得られた分離膜は、上述し、従来の二酸化炭素ガスの透過係数より一桁以上優れた透過性能を有し、従来の二酸化炭素ガスの分散係数に比べ優れた透過性能を有する。
【0096】
上述したように、分離膜の細孔構造は、1次元、2次元、3次元とあり、3次元構造が望ましいが、3次元構造に1次元構造、2次元構造の少なくとも一方が組み込まれた構造であってもよい。
【0097】
また、本実施の形態のCO/N分離膜は、ゼオライト膜またはゼオライト類縁化合物からなる分離膜であることが好ましい。
【0098】
ゼオライト類縁化合物からなる膜としては、ゼオライトにおいて、二酸化ケイ素からなる骨格を基本として、一部のケイ素が少なくともアルミニウム、鉄、ホウ素、ガリウム、リンのいずれかで置き換えられることによって結晶格子全体が負に帯電し、このゼオライトの細孔内にナトリウム、カリウムなどのカチオンを含む膜が挙げられる。
【0099】
また、本実施の形態のCO/N分離膜は、二酸化ケイ素からなる骨格を基本として、一部のケイ素がアルミニウムに置き換えられるSi/Alゼオライト分離膜であって、前記Si/Alゼオライト分離膜のSi/Al比が20〜99である。
【0100】
さらに、上記Si/Alゼオライト分離膜のSi/Al比が20〜99とすることによって、従来の二酸化炭素ガスの透過係数より一桁以上優れた透過性能を有し、また、従来の二酸化炭素ガスの分離係数より優れた分離性能を有する分離膜を得ることができる。
【0101】
図9に示す分離膜構造として、例えば、表7に示す構造が好ましい。
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0102】
特に混合気体の分離を行う分離用途に有効であり、さらには、実験を行うことなく、実験と同等のことを短時間に安全かつ安価に行い、最適分離性能を有する分離膜構造を選定する用途に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の分離膜のシミュレーション方法の一例における処理の流れを示すフロー図である。
【図2】本発明の分離膜のシミュレーション装置の一例の概略構成を示すフロー図である。
【図3】無機系分離膜の構造データにGCMC法による計算により得られた吸着特性を加えたデータベースの一例を示す図である。
【図4】GCMC法による計算結果とPLS法による予測モデルの計算値の比較結果としてCO平衡吸着量とCO/N吸着選択性を説明する図である。
【図5】膜構造のモデル化の一例と構成因子の一例を説明する図である。
【図6】DMC法により計算に用いる構成因子であるゼオライト膜の細孔ネットワーク(吸着サイトのつながり)のタイプを示す図である。
【図7】吸着サイトでのエネルギーの算出手順を説明する図である。
【図8】DMC法におけるユニットセルエータの作成に用いる情報が格納されているファイルデータの一例を示す図である。
【図9】予測モデルから構成された無機系分離膜の分離性能をスクリーンした結果を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
10 既存の無機系分離膜構造の構造データベース、12 吸着性能演算装置、14 予測モデル作成装置、16 拡散性能演算装置、18 スクリーニング膜性能データベース、20 最適構造予測装置、22 表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素ガスの透過係数が1×10−11mol・m/msPa以上でかつ二酸化炭素ガスの分離係数が100以上の二酸化炭素ガスと窒素ガスとのガス分離膜であって、
前記ガス分離膜は細孔構造が3次元であり、
前記分離膜の細孔径として少なくとも3.2Å以上4.2Å以下の細孔を含み、吸着サイトの直径Dsiteが7Å以上20Å以下であることを特徴とするCO/N分離膜。
【請求項2】
請求項1に記載のCO/N分離膜において、
前記CO/N分離膜は、ゼオライト膜またはゼオライト類縁化合物からなる分離膜であることを特徴とするCO/N分離膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のCO/N分離膜において、
前記CO/N分離膜は、二酸化ケイ素からなる骨格を基本として、一部のケイ素がアルミニウムに置き換えられるSi/Alゼオライト分離膜であり、
前記Si/Alゼオライト分離膜のSi/Al比が20〜99であることを特徴とするCO/N分離膜。
【請求項4】
分離膜の分離性能を計算するシミュレーション方法であって、
既存の分離膜の構造データを記憶させ、
グランドカノニカルモンテカルロ法を用い前記既存の分離膜構造における少なくとも2種以上の各対象被分離種に対する吸着性能を求め、
前記吸着性能に基づき多変数回帰手法を用いて分離膜構造の予測モデルを作成し、
動的モンテカルロ法を用い前記分離膜構造の予測モデルを基に複数の細孔ネットワークにおける前記分離膜の拡散性能を求め、
仮想的な分離膜の分離性能を推算可能としたことを特徴とする分離膜のシミュレーション方法。
【請求項5】
請求項4に記載の分離膜のシミュレーション方法において、
さらに、分離条件に応じて最適分離膜構造を求めることを特徴とする分離膜のシミュレーション方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の分離膜のシミュレーション方法において、
前記分離膜は、COガス分離用ゼオライト膜であることを特徴とする分離膜のシミュレーション方法。
【請求項7】
分離膜の分離性能を計算するシミュレーション装置であって、
既存の分離膜の構造データを記憶させる構造データ格納手段と、
グランドカノニカルモンテカルロ法を用い前記既存の分離膜構造における少なくとも2種以上の各対象被分離種に対する吸着性能を求める吸着性能演算手段と、
前記吸着性能に基づき多変数回帰手法を用いて分離膜構造の予測モデルを作成する予測モデル作成手段と、
動的モンテカルロ法を用い前記分離膜構造の予測モデルを基に複数の細孔ネットワークにおける前記分離膜の拡散性能を求める拡散性能演算手段と、を有し、
仮想的な分離膜の分離性能を推算可能としたことを特徴とする分離膜のシミュレーション装置。
【請求項8】
請求項7に記載の分離膜のシミュレーション装置において、
さらに、分離条件に応じて最適分離膜構造を求める構造最適化手段を有することを特徴とする分離膜のシミュレーション装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の分離膜のシミュレーション装置において、
前記分離膜は、COガス分離用ゼオライト膜であることを特徴とする分離膜のシミュレーション装置。
【請求項10】
コンピュータを、
既存の分離膜の構造データを記憶させる構造データ格納手段と、
グランドカノニカルモンテカルロ法を用い前記既存の分離膜構造における少なくとも2種以上の各対象被分離種に対する吸着性能を求める吸着性能演算手段と、
前記吸着性能に基づき多変数回帰手法を用いて分離膜構造の予測モデルを作成する予測モデル作成手段と、
動的モンテカルロ法を用い前記分離膜構造の予測モデルを基に複数の細孔ネットワークにおける前記分離膜の拡散性能を求める拡散性能演算手段と、
仮想的な分離膜の分離性能を推算する仮想的分離膜の分離性能演算手段として機能させるためのプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のプログラムにおいて、
前記分離膜は、COガス分離用ゼオライト膜であることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項13】
請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の分離膜のシミュレーション方法により得られた仮想的な分離膜の構造を有する分離膜。
【請求項14】
請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の分離膜のシミュレーション装置により推算されて得られた仮想的な分離膜の構造を有する分離膜。
【請求項15】
請求項10または請求項11に記載のプログラムをコンピュータにより読み出し、推算することによって得られた仮想的な分離膜の構造を有する分離膜。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図9】
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