説明

分離膜及び水処理装置

【課題】不織布のような比較的孔径の大きい多孔性支持体を用いて、高分子膜を十分に支持し得る耐圧性に優れた分離膜と、この分離膜を用いた水処理装置を提供する。
【解決手段】多孔性支持体と、該多孔性支持体の孔内に充填された微粒子と、該多孔性支持体上に形成された高分子膜とを備えてなる分離膜。この分離膜を備えてなる水処理装置。多孔性支持体の孔内に微粒子を充填することにより、多孔性支持体の見掛けの細孔径を小さくすることができる。従って、不織布のような比較的孔径の大きい多孔性支持体を用いた場合であっても、高分子膜を十分に支持し得る耐圧性に優れた分離膜を構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理や超純水製造などに好適に使用される分離膜と、この分離膜を用いた水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、水処理分野においては様々な処理技術が提案されているが、中でも膜処理技術は超純水製造や排水回収などの処理に欠かせない技術である。膜処理に用いられる膜は、その分離能に応じて精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)、逆浸透膜(RO膜)に分類される。一般的に膜処理では圧力をかけて膜を透過した水を押し出すことにより、水中の分離対象物を膜面で排除して処理水を得るが、この分離対象物が小さくなればなるほど、膜の細孔径も小さくする必要があり、この結果、水を押し出すためには高い圧力が必要となる。
【0003】
従来、この分離膜として、多孔性支持体上に高分子膜を形成したものが知られており、この多孔性支持体として、強度、コストの面から不織布を用い、この上に高分子膜(分離活性層)を設けたものが提案されている(例えば、特開2001−17842号公報など)。
【0004】
本出願人は、このような分離膜において、多孔性支持体上に形成する高分子膜として、カチオン性高分子電解質とアニオン性高分子電解質とのポリイオンコンプレックス膜を形成したものについて、種々の改良技術を提案してきた(特願2004−41682号、特願2004−43151号、特願2004−60894号)。
【特許文献1】特開2001−17842号公報
【特許文献2】特願2004−41682号
【特許文献3】特願2004−43151号
【特許文献4】特願2004−60894号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔性支持体上に高分子膜を形成した分離膜では、高分子膜自体の機械的強度は十分でないことから、多孔性支持体の孔径(不織布の場合には、孔径は繊維間距離に相当する。)が大きい(例えば、1μm以上)と、膜処理時の圧力に高分子膜が十分に耐えることができず、高分子膜が破損してしまう。従って、多孔性支持体の孔径は、高分子膜を十分に支持できる程度に小さいことが望まれるが、不織布は、繊維間距離が大きく、従って、孔径の大きい多孔性支持体であるため、高分子膜を十分に支持し得ないという問題がある。
【0006】
本発明は上記従来の問題点を解決し、不織布のような比較的孔径の大きい多孔性支持体を用いて、高分子膜を十分に支持し得る耐圧性に優れた分離膜と、この分離膜を用いた水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(請求項1)の分離膜は、多孔性支持体と、該多孔性支持体の孔内に充填された微粒子と、該多孔性支持体上に形成された高分子膜とを備えてなることを特徴とする。
【0008】
請求項2の分離膜は、請求項1において、前記高分子膜が高分子電解質によるものであることを特徴とする。
【0009】
請求項3の分離膜は、請求項1,2において、前記高分子膜がカチオン性高分子電解質とアニオン性高分子電解質とのポリイオンコンプレックスよりなることを特徴とする。
【0010】
本発明(請求項4)の水処理装置は、このような本発明の分離膜を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多孔性支持体の孔内に微粒子を充填することにより、多孔性支持体の見掛けの細孔径を小さくすることができる。従って、不織布のような比較的孔径の大きい多孔性支持体を用いた場合であっても、高分子膜を十分に支持し得る耐圧性に優れた分離膜を構成することができる。そして、この微粒子充填多孔性支持体上に形成した高分子膜により、低分子量溶解成分やイオン等をも除去可能な高性能の分離膜を得ることができる。
【0012】
本発明に係る高分子膜は、高分子電解質よりなるものが好ましく、特に、カチオン性高分子電解質(正の電荷を持つポリマー:以下「カチオンポリマー」と称す場合がある。)と、アニオン性高分子電解質(負の電荷を持つポリマー:以下「アニオンポリマー」と称す場合がある。)とが結合して形成されるポリイオンコンプレックスよりなることが好ましい。
【0013】
本発明の水処理装置は、このような本発明の分離膜を用いてなるものであり、強度、コスト面で工業的に有利な不織布を多孔性支持体として用いて、水処理性能に優れた高耐久性の水処理装置を低コストに提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
本発明の分離膜は、多孔性支持体と、多孔性支持体の孔内に充填された微粒子と、微粒子充填多孔性支持体上に形成された高分子膜とを備えてなる。
【0016】
多孔性支持体としては、逆浸透圧をかけて通水しても十分な強度を持つものであれば良く、特に制限はない。その形態としては、例えば、不織布、織布、多孔質体等、いずれの形態であっても良く、また、材質としては、ポリエステル、ポリオレフィン、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PFA(パーフルオロアルコキシフッ素樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、フェノール樹脂、メラミン樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)等の合成樹脂、ガラス(ガラスファイバー)、カーボン(カーボンファイバー)、金属(金属ファイバー)等各種のものを用いることができる。コスト、強度の面からは、多孔性支持体としては、不織布を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明において、この多孔性支持体の孔内に、後述の微粒子を充填して見掛け上の孔径を小さくするため、用いる多孔性支持体の孔径は若干大きなものでも良く、例えば平均孔径0.1〜100μm、特に0.2〜50μm程度であることが好ましい。多孔性支持体の平均孔径が100μmを超えると、微粒子を充填しても、その見掛け孔径を十分に小さくすることが困難であり、0.2μm未満では、もはや微粒子を充填する必要はなく、本発明の効果を十分に得ることができない。
【0018】
また、多孔性支持体は、その材質や形態、孔径にもよるが、十分な強度と透水性能を得るために、厚さ0.05〜0.5mm、目付が50〜200g/m程度のものであることが好ましい。多孔性支持体の厚さが薄い、或いは目付が少ないと十分な強度が得られなくなり、厚さが厚い、或いは目付が多いと圧力損失が大きくなるとともに、製造した膜モジュールが大きくなるという不都合が生じる。
【0019】
本発明において、このような多孔性支持体の孔内に充填する微粒子は、多孔性支持体の孔径に応じた大きさであることが重要であり、微粒子の直径(微粒子が真球でない場合、微粒子の「直径」とは同体積の真球の直径を指す。)は多孔性支持体の孔径の10〜200%、特に30〜90%であることが好ましい。微粒子の直径が過度に大きいと、多孔性支持体の孔内に侵入することができず、多孔性支持体の孔内に充填し得ない。微粒子の直径が過度に小さくても、多孔性支持体の孔内に充填するのが困難となる。ただし、微粒子は、単一の大きさのものに限らず、大きさの異なるものを複数種用い、例えば、多孔性支持体の孔径の50%程度の直径の微粒子で予め孔内をある程度埋めて、多孔性支持体の見掛け孔径を小さくし、その後、その見掛け孔径の50%程度の直径を有する超微粒子で孔内を埋めることにより、多孔性支持体の見掛け孔径を更に小さくすることもできる。
【0020】
用いる微粒子の材質は特に限定されることはない。例えば、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、ジメチルアミノエチルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等を原料として合成される高分子系微粒子を用いても良いし、無機物からなる微粒子、例えば酸化ニッケル、酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マンガンなどの金属酸化物やゼオライト等を用いても良い。材質の異なる微粒子を2種以上用いることも可能である。
【0021】
微粒子が荷電を持っていない場合、分離膜の使用時に多孔性支持体の孔から微粒子が流れ出さないように、微粒子を多孔性支持体の孔内に固定する必要がある。多孔性支持体の孔内に微粒子を固定するには、例えば、ポリマー系の接着剤を用いて固定する方法が挙げられる。用いるポリマー系の接着剤としては特に制限されず、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エポキシ等が用いられる。微粒子に荷電基が付与されている場合は、微粒子の荷電を利用して固定することもできる。例えば、正、負の荷電を持つそれぞれの微粒子を交互に用いて多孔性支持体の孔内に充填することにより、微粒子表面の荷電基同士が反応し、孔内に微粒子を固定化することができる。また、荷電微粒子と高分子電解質を交互に用いることによって固定化することもできる。
【0022】
多孔性支持体の孔内に微粒子を充填する方法としては、具体的には、後述の実施例に示すように、微粒子を水に分散させたスラリーを調製し、このスラリーを多孔性支持体で濾過すれば良い。これにより、スラリー中の微粒子が多孔性支持体の孔内に入り込んで捕捉されることにより、微粒子が孔内に充填される。この濾過後、多孔性支持体上に過剰の微粒子が堆積するため、この過剰分の微粒子は洗浄により除去する。微粒子をポリマー系接着剤で固定化する必要がある場合には、この後、更に、ポリマー系接着剤の水溶液をこの多孔性支持体で濾過すれば良い。
【0023】
本発明においては、このようにして多孔性支持体の孔内に微粒子を充填することにより、多孔性支持体の見掛け孔径を小さくする。この見掛け孔径は得られる分離膜の用途によっても異なるが、平均孔径で0.05〜0.5μm程度とすることが好ましい。多孔性支持体の見掛け上の平均孔径が0.5μmを超えるものでは、高分子膜の支持体として未だ十分な強度を得ることができず、0.05μm未満であると、分離膜使用時に水を押し出すために高い圧力を要し、好ましくない。
【0024】
このようにして得られる微粒子充填多孔性支持体上に形成する高分子膜を形成する高分子としては特に制限はなく、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコールなどのMF膜、UF膜、RO膜等に使用される高分子の1種又は2種以上を使用することができる。
【0025】
本発明においては、特に、この高分子膜は、カチオンポリマーとアニオンポリマーとが結合して形成されるポリイオンコンプレックスを層状に保持させたポリイオンコンプレックス層であることが好ましい。
【0026】
以下に、このポリイオンコンプレックス層よりなる高分子膜について説明する。
【0027】
ポリイオンコンプレックスの形成に用いるアニオンポリマー、カチオンポリマーは、正、又は負の電荷を有するものであれば良く、特に制限はないが、例えば、正の電荷を持つカチオンポリマーとしては、ポリアリルアミン、ポリスチレン4級アンモニウム(ポリビニルベンジルクロライドトリメチルアミン)、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリリジン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルアクリレート、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリビニルピリジン、ポリビニルアミジン、或いはこれらの塩などの1種又は2種以上を使用することができる。また、負の電荷を持つアニオンポリマーとしては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸、或いはこれらの塩などの1種又は2種以上を使用することができる。また、DNAなども使用することができる。また、両性ポリマーも使用することもできる。これらの素材は、強度向上のために別途界面重合させても良く、また架橋剤を併用しても良い。
【0028】
本発明においては、水処理性能、強度等に優れたポリイオンコンプレックス層を形成できることから、ポリイオンコンプレックスを形成するカチオンポリマー、アニオンポリマーともに分子量50万以上の高分子量ポリマーを使用することが好ましい。ただし、分子量は過度に大きくなると、ポリイオンコンプレックス形成時のポリマー水溶液の粘性が高くなり、取り扱い性が悪くなると共に、均質なポリイオンコンプレックス層を形成し得なくなるため、2000万以下であることが好ましい。特に、カチオンポリマー及びアニオンポリマーの分子量は50万〜1000万であることが好ましい。
【0029】
微粒子充填多孔性支持体上に、カチオンポリマーとアニオンポリマーとからなるポリイオンコンプレックス層を形成するには、これらのポリマーを微粒子充填多孔性支持体上に、スプレー、ディッピング、スピンコーティング等の方法で塗布すれば良い。ここで、塗布回数には特に制限はないが、少な過ぎると得られる高分子膜の均一性が十分でなく、多過ぎると分離膜としての透過流束の低下につながることから、5〜30回程度であることが好ましい。
【0030】
以下に本発明の分離膜の好適な製造方法について説明するが、本発明の分離膜の好適な製造方法は何ら以下の方法に限定されるものではない。
【0031】
本発明の分離膜は、具体的には次の(1),(2)の方法で製造される。
【0032】
(1) 微粒子充填多孔性支持体に、カチオンポリマーとアニオンポリマーとを交互に吸着させることにより、この微粒子充填多孔性支持体上にカチオンポリマー層とアニオンポリマー層とが交互に積層吸着された交互積層膜を形成する。例えば、カチオンポリマー水溶液と、アニオンポリマー水溶液とを準備し、これらのポリマー水溶液に微粒子充填多孔性支持体を交互に浸漬してアニオンポリマー層とカチオンポリマー層との交互積層膜を形成する。微粒子充填多孔性支持体をカチオンポリマー水溶液とアニオンポリマー水溶液とに交互に浸漬し、各ポリマーが順次積層されると、アニオンポリマーが有する多数の負の電荷部位の一部と、隣接するカチオンポリマーが有する多数の正の電荷部位の一部とが主として静電気的に結合してポリイオンコンプレックスを形成し、ポリイオンコンプレックスが層状に微粒子充填多孔性支持体に保持された状態となり、交互積層膜からなる高分子膜が微粒子充填多孔性支持体上に形成される。
【0033】
(2) 微粒子充填多孔性支持体に、カチオンポリマーとアニオンポリマーとを混合状態で吸着させることにより、微粒子充填多孔性支持体上にカチオンポリマーとアニオンポリマーとが均一に分散された均一分散膜よりなるポリイオンコンプレックス層を形成する。例えば、カチオンポリマー水溶液とアニオンポリマー水溶液とを混合した溶液に微粒子充填多孔性支持体を浸漬することによってポリイオンコンプレックス層が形成される。即ち、カチオンポリマー水溶液とアニオンポリマー水溶液とを混合した溶液中で、アニオンポリマーとカチオンポリマーとが有する電荷部位の一部が主として静電気的に結合してポリイオンコンプレックスが生成し、このポリイオンコンプレックスを含む溶液中に微粒子充填多孔性支持体を浸漬すると、この微粒子充填多孔性支持体上にポリイオンコンプレックス層よりなる高分子膜が形成される。
【0034】
なお、上記(1),(2)の浸漬工程間では、吸着されたポリマー層の乾燥を行うことにより、ポリマー間の隙間を小さくして緻密なポリマー層を形成することができるため好ましい。
【0035】
以下に(1),(2)の方法についてより詳細に説明する。
(1)の方法においては、カチオンポリマー水溶液と、アニオンポリマー水溶液とを準備し、これらのポリマー水溶液に微粒子充填多孔性支持体を交互に浸漬してアニオンポリマー層とカチオンポリマー層との交互積層膜を形成するに際し、好ましくは浸漬工程の間で乾燥を行う。
【0036】
カチオンポリマー及びアニオンポリマーは、通常0.1〜100mM(モノマーユニット当たり)程度の水溶液として用いられる。
【0037】
微粒子充填多孔性支持体は、必要に応じて正、又は負の電荷を持つよう常法に従って化学処理される。微粒子充填多孔性支持体が正の電荷を持つ場合には、まず最初にアニオンポリマー水溶液に浸漬し、微粒子充填多孔性支持体が負の電荷を持つ場合には、まず最初にカチオンポリマー水溶液に浸漬して、ポリマーの吸着層を形成させる。水溶液中から引き上げた吸着層の表面は必要に応じて純水で洗浄した後、十分に乾燥させる。この乾燥方法は、微粒子充填多孔性支持体や吸着されたポリマー層に悪影響を及ぼすことのないものであれば良く、特に制限はない。例えば、乾燥炉を用いても良く、また、窒素ガス等の乾燥ガスを吹き付けて乾燥させても良い。この乾燥ガスの温度にも特に制限はなく、0〜100℃の範囲で選択可能である。
【0038】
乾燥工程の終点は、例えば吹き付けた温風の温度が十分に低下した時点、或いは、吹き付けた温風の温度の低下がなくなった時点、或いは、温風を吹き付けた吸着層表面の温度が上昇し始める時点などから把握することができる。
【0039】
このようにして吸着層の乾燥を行った後は、吸着層と逆の電荷を持つポリマー水溶液に浸漬し、同様に洗浄、及び乾燥を行う。この浸漬、洗浄、及び乾燥の工程を繰り返してカチオンポリマー層とアニオンポリマー層との交互積層膜を形成することができる。
【0040】
図1は、このようにして製造された分離膜5を示す模式的な断面図であり、微粒子充填多孔性支持体1の一方の面にカチオンポリマー層2とアニオンポリマー層3とが交互に積層吸着された交互積層膜(ポリイオンコンプレックス層)4が形成され、また、微粒子充填多孔性支持体1の浸漬による交互積層膜の形成工程で内部透水路1Aにもカチオンポリマー層2とアニオンポリマー層3との交互積層膜4が形成される。
【0041】
このような分離膜5であれば、交互積層膜4側を流れる原水が交互積層膜4を通過し、その間にアニオンポリマー層3でアニオンが、カチオンポリマー層2でカチオンがそれぞれクーロン力で阻止され、また、SSが細孔で阻止され、イオン及びSSが除去された処理水が微粒子充填多孔性支持体1の透水路1Aから取り出される。
【0042】
上述の如く、浸漬工程間で乾燥を行って製造される分離膜5であれば、各ポリマー層2,3が緻密で細孔径が小さいため、高いイオン及びSSの除去効果が得られる。
【0043】
なお、このような分離膜のアニオンポリマー層及びカチオンポリマー層の厚さや積層数には特に制限はなく、分離膜の用途や要求される脱イオン性能等に応じて適宜決定される。アニオンポリマー層及びカチオンポリマー層の積層数は、多い程脱イオン性能が高くなる。一般的には、アニオンポリマー層とカチオンポリマー層との各々1層の積層膜を1レイヤーとした場合、1〜30レイヤー、好ましくは3〜20レイヤーの積層数とすることが好ましい。また、各層の厚さは、浸漬工程で用いるポリマー水溶液の濃度や浸漬時間等に応じて決定されるが、通常一層のポリマー吸着層の厚さは0.1〜20nm程度である。
【0044】
次に、前記(2)の方法でカチオンポリマーとアニオンポリマーとの均一分散膜よりなるポリイオンコンプレックス層を有する分離膜を製造する方法について説明する。
【0045】
上記(1)の方法で、カチオンポリマー層とアニオンポリマー層とを交互に積層吸着してポリイオンコンプレックス層を形成する場合は、積層吸着の際にポリイオンコンプレックスが生成して、両ポリマーが結合し、ポリイオンコンプレックス層を形成するが、(2)の方法では、予めポリイオンコンプレックスを生成させてから微粒子充填多孔性支持体にポリイオンコンプレックス層を形成させる。この場合には、(1)の方法と同様にして調製されるカチオンポリマー水溶液とアニオンポリマー水溶液とを混合して混合溶液を準備する。この混合溶液中のカチオンポリマーの濃度は0.01〜10mM(モノマーユニット当たり)程度、アニオンポリマーの濃度は0.01〜10mM(モノマーユニット当たり)程度であることが好ましい。混合状態でアニオンポリマーとカチオンポリマーとがそれぞれ有する電荷部位の一部が主として静電気的に結合してポリイオンコンプレックスを生成する。ポリイオンコンプレックスが生成した混合溶液に微粒子充填多孔性支持体を浸漬すると微粒子充填多孔性支持体の空隙に混合溶液が浸透し、ポリイオンコンプレックスの未反応のままの電荷部位が支持材の電荷部位に吸着し、また、別の未反応の電荷部位が他のポリイオンコンプレックスの未反応部位と吸着し、これが繰り返されて微粒子充填多孔性支持体にポリイオンコンプレックス層が保持され、形成されていく。
【0046】
(2)の方法では、カチオンポリマーとアニオンポリマーとの混合水溶液中に微粒子充填多孔性支持体を浸漬して、ポリマーの吸着層を形成させる。水溶液中から引き上げた後、吸着層の表面は必要に応じて純水で洗浄した後、十分に乾燥させる。そして、吸着層の乾燥を行った後、微粒子充填多孔性支持体を再び混合水溶液に浸漬し、同様に洗浄、及び乾燥を行う。この浸漬、洗浄、及び乾燥の工程を繰り返す。
【0047】
このようにして形成されたポリイオンコンプレックス層を有する分離膜では、図1に示す分離膜と同様、微粒子充填多孔性支持体表面だけではなく、内部透水路にまでポリイオンコンプレックス層が形成されたものとなるが、カチオンポリマーとアニオンポリマーとはポリイオンコンプレックス層全体にほぼ均一に分散された状態で存在する。このカチオンポリマーとアニオンポリマーとが均一に分散された均一分散膜を微粒子充填多孔性支持体上に有する分離膜に原水を通水すると、均一分散膜において水中のカチオン、アニオンはクーロン力で通過が阻止され、またSSが細孔で阻止され、イオン及びSSが除去された処理水が膜を透過し、微粒子充填多孔性支持体の内部透水路から取り出される。
【0048】
このような分離膜においても、ポリイオンコンプレックス層の厚さには特に制限はなく、用途や要求される脱イオン性能等に応じて適宜決定される。ポリイオンコンプレックス層は厚い程脱イオン性能が高くなるが、一般的には、前述の浸漬・乾燥工程を10〜100回行って、積層数10〜100層、総厚さ100〜1000nm程度のポリイオンコンプレックス層を形成することが好ましい。なお、この(2)の方法においても1回で形成されるポリイオンコンプレックス層の厚さは、浸漬工程で用いる混合ポリマー水溶液の濃度や浸漬時間等に応じて決定される。
【0049】
本発明の分離膜は、水処理装置に用いて、水中のイオンやSSの除去に有効に使用されるが、水処理装置に限らず、本発明の分離膜は、ガスの除塵処理、清浄化処理にも有効であり、更に、新しい非線形光学材料としての用途も期待される。
【0050】
次に、このような本発明の分離膜を用いた本発明の水処理装置について図2を参照して説明する。
【0051】
図2は本発明の水処理装置の実施の形態を示す概略的な断面図である。
【0052】
この水処理装置では、容器(ベッセル)10内の両端部に仕切板11,12が設けられ、原水室13と処理水室14とが形成されている。原水室13には、仕切板11,12間に中空管状の分離膜エレメント20が懸架されている。一方の仕切板12には、開口12Aが設けられ、分離膜エレメント20の一端側は、この開口12A部に取り付けられ、分離膜エレメント20の中空管内が処理水室14に連通している。15は原水の導入口、16は濃縮水の取出口、17は処理水の取出口である。
【0053】
導入口15からこの水処理装置に導入された原水は、例えば、図1に示す如く、分離膜5の交互積層膜(ポリイオンコンプレックス層)4面をクロスフロー方式で流れ、この交互積層膜(ポリイオンコンプレックス層)4を積層方向に通過し、その間にイオン及びSSが除去される。分離膜を通過した処理水は、分離膜エレメント20の中空部から処理水室14を経て処理水取出口17から取り出される。一方、膜で排除されたイオンやSSが濃縮された濃縮水は濃縮水取出口16から取り出される。この濃縮水は、必要に応じて一部を原水導入側に戻して循環処理し、残部を系外へ取り出すようにしても良い。
【0054】
図2には、中空管状の分離膜エレメント20を設けた水処理装置を示したが、本発明の水処理装置の分離膜の型式には特に制限はなく、中空糸膜であっても平膜であっても良い。単位体積当たりの膜の表面積を大きく確保する点では中空糸膜が好ましい。いずれの形式の膜も容器内に収容し、原水を加圧して容器に供給する加圧給水型とすることが好ましいが、開放系の水中に分離膜を浸漬し、処理水側を減圧して処理水を得る浸漬型であっても良い。このときの給水圧力や減圧の程度についても特に制限はなく、膜を通して所望の処理水量が得られるように適宜決定される。また、平膜は、プレートアンドフレーム型で使用しても、スパイラル型で使用しても良い。これらの膜形式、装置形式は、MF膜装置、UF膜装置、RO膜装置におけるものと同様であり、それらの既知の技術を転用して本発明の水処理装置を組み立てることができる。
【0055】
分離膜への通水方式についても特に制限はなく、クロスフロー(平行流濾過)方式でもデッドエンド方式でも、いずれも適用可能であるが、デッドエンド方式では膜が目詰まりする可能性があるため、クロスフロー方式を採用することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0057】
実施例1
スチレン、アクリル酸、及びポリビニルピロリドンを原料とし、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)を開始剤として平均直径が5.2μmの微粒子を合成した。この微粒子を超純水に10g/Lの割合で分散させ、ポリエステル不織布(目付150g/m、電子顕微鏡観察において平均孔径は約20μmであることが確認された。)を直径47mmの円形にカットしたもので、1時間濾過したところ、不織布上に微粒子が堆積した。微粒子堆積後の不織布を超純水で洗浄し、余分な微粒子を除去した後、90℃に熱したポリビニルアルコールの0.1重量%水溶液を通水し、ポリビニルアルコールを不織布膜内に含浸させ、続けて冷水に浸すことで微粒子を不織布の孔内に固定化した。
【0058】
このようにして得られた微粒子充填不織布の見掛け上の平均細孔径は、電子顕微鏡観察において0.5μmであった。
【0059】
別に、濃度2g/Lのポリビニルアミジン(分子量300万)水溶液と、濃度2g/Lのポリスチレンスルホン酸(分子量200万)水溶液とを調製した。
【0060】
図3(a)に示す膜固定容器31に、微粒子充填不織布30の片面にのみポリマーが吸着されるように微粒子充填不織布30を固定した。図3(a)中、32は支持板、33は支持棒である。この状態でまず、ポリビニルアミジン水溶液を容器31に投入して1分間静置した後、この水溶液を捨て、その後膜面を純水で洗浄して未反応高分子を除去し、更にドライヤーで5分間乾燥(65℃)させた。その後、ポリスチレンスルホン酸水溶液を容器31に投入して1分間静置した後、この水溶液を捨て、その後膜面を純水で洗浄して未反応高分子を除去し、更にドライヤーで5分間乾燥(65℃)させた。このようにしてポリビニルアミジンの吸着層とポリスチレンスルホン酸の吸着層との積層膜を形成する工程を1レイヤーとして、これを繰り返し、レイヤー数15の交互積層膜を微粒子充填不織布上に形成して分離膜を製造した。
【0061】
このようにして、交互積層膜よりなる高分子膜を形成した状態においては、電子顕微鏡観察で不織布の孔を観察することはできなかった。
【0062】
この分離膜40を図3(b)に示す平膜試験装置の小径平膜セル41に取り付け、その脱塩性能を評価する実験を行った。図3(b)において、42はポンプ、43は背圧弁である。試料水には1g/LのNaCl水溶液を用い、流量1.4mL/minで平膜セル41に導入して膜分離処理した。セル41にかかる圧力は背圧弁43で調整した。膜によって圧力は異なるが、圧力と透過水量(フラックス)は比例関係にあるので、得られた透過水量はすべて1.0MPaの場合に換算して表記した(換算フラックス(m/day)=得られたフラックス×(1.0MPa/操作圧力1MPa))。連続通水後の処理水(透過水)のNaCl濃度を測定し、NaCl除去率((試料水のNaCl濃度−処理水のNaCl濃度)÷試料水のNaCl濃度×100)(%)を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0063】
比較例1
実施例1で用いた不織布をそのまま分離膜として用い、NaCl除去率と換算フラックスを調べ、結果を表1に示した。
【0064】
比較例2
実施例1と同様にして微粒子を充填した不織布を、交互積層膜を形成せずに分離膜として用い、実施例1と同様にしてNaCl除去率と換算フラックスを調べ、結果を表1に示した。
【0065】
比較例3
実施例1において、不織布に微粒子を充填しなかったこと以外は同様にして不織布上に交互積層膜を形成し、この分離膜を用いて実施例1と同様にしてNaCl除去率と換算フラックスを調べ、結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1より明らかなように、比較例1〜3の分離膜では、NaCl除去性能を全く得ることができなかったが、微粒子充填不織布に交互積層膜を形成した実施例1では、良好な除去性能を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態に係る分離膜を示す模式的な断面図である。
【図2】実施の形態に係る水処理装置を示す概略的な断面図である。
【図3】(a)図は実施例で用いた膜固定容器を示す断面図であり、(b)図は実施例で用いた平膜試験装置を示す系統図である。
【符号の説明】
【0069】
1 微粒子充填多孔性支持体
2 カチオンポリマー層
3 アニオンポリマー層
4 交互積層膜(高分子膜)
5 分離膜
10 容器
13 原水室
14 処理水室
20 分離膜エレメント
30 微粒子充填不織布
31 膜固定容器
40 分離膜
41 小径平膜セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体と、該多孔性支持体の孔内に充填された微粒子と、該多孔性支持体上に形成された高分子膜とを備えてなることを特徴とする分離膜。
【請求項2】
前記高分子膜が高分子電解質によるものであることを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記高分子膜がカチオン性高分子電解質とアニオン性高分子電解質とのポリイオンコンプレックスよりなることを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の分離膜を備えてなることを特徴とする水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−187731(P2006−187731A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1625(P2005−1625)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】