説明

分離装置および分離方法

【課題】塩類を含む懸濁液を塩類を含まない希釈液によって希釈することなく、簡易に誘電泳動力によって粒子を分離する。
【解決手段】誘電泳動特性の異なる複数種の粒子B,Cを含む懸濁液Aを流動させる流路2内に間隔をあけて配置された少なくとも一対の電極3A,3Bと、該電極3A,3B間に高周波のパルス状の電圧を供給して、流路2内に高周波不平等電界を形成する電圧供給部4と、該電圧供給部4により加える電圧の周波数を調節する周波数調節部5とを備える分離装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離装置、特に、細胞等の粒子の誘電泳動特性の相違に基づいて、流路内を流動する懸濁液内の細胞等の粒子を分離する分離装置および分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞分離装置として、異なる極性を交互に配置した一対の櫛歯状の電極を流路内に配置して、電極間に高周波電圧を供給することにより、流路内に高周波不平等電界を形成し、該高周波不平等電界内を流動する際に、細胞の有する誘電泳動特性によって発生する誘電泳動力を利用して、細胞懸濁液内から所望の誘電泳動特性を有する細胞を分離する細胞分離装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
細胞懸濁液として培地のように、浸透圧やpH調整のために塩類が混入された導電性の媒体内に複数種の細胞を懸濁させたものが流路内に流動させられる場合には、電極間に流れる電流によって電気泳動力が発生してしまい、誘電泳動特性によって細胞を分離することが困難となる。そのため、誘電泳動特性によって効率的に細胞を分離するためには、細胞懸濁液を希釈して導電率を十分に(50μS/cm以下に)低下させることが必要である。
【0004】
【特許文献1】特開2008−263847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導電率を低下させるためには、塩類を含まない希釈液と混合したり、遠心分離等によって分離された細胞を塩類を含まない希釈液に再懸濁したりする必要がある。
しかしながら、単に希釈液で希釈する場合には、細胞懸濁液量が大幅に増大し、分離するための処理時間が増大してしまうという不都合がある。また、遠心分離等によって分離する場合には、遠心力により細胞にダメージが与えられたり、連続処理が困難であったりする等の問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、塩類を含む懸濁液を塩類を含まない希釈液によって希釈することなく、簡易に誘電泳動力によって粒子を分離することができる分離装置および分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、誘電泳動特性の異なる複数種の粒子を含む懸濁液を流動させる流路内に間隔をあけて配置された少なくとも一対の電極と、該電極間に高周波のパルス状の電圧を供給して、流路内に高周波不平等電界を形成する電圧供給部と、該電圧供給部により加える電圧の周波数を調節する周波数調節部とを備える分離装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、電圧供給部の作動により電極間に高周波電圧を加えると、電極の周囲の流路内に電位傾度が変化する高周波不平等電界が形成される。流路を流れる懸濁液内の各粒子には、高周波不平等電界の周波数に応じた誘電泳動特性に基づいて誘電泳動力が作用し、誘電泳動特性の異なる粒子をそれぞれ分離することができる。
【0009】
この場合において、電極間に加える高周波電圧をパルス状の電圧にすることにより、通常の正弦波からなる交流電圧と比較して、電圧の積分値を低くすることができ、懸濁液内にイオンの流れを形成することなく高周波不平等電界を形成することができる。その結果、懸濁液が、その中に含有される塩類によって導電性を有していても、電気泳動力の発生を抑えて、効果的に誘電泳動力を作用させて粒子を分離することができる。したがって、懸濁液を塩類を含まない希釈液によって希釈することなく、また、遠心力によって粒子にダメージを与えることなく、簡易に誘電泳動力によって粒子を分離することができる。
【0010】
上記発明においては、前記対向面の間隔が500μm以下であることが好ましい。
このようにすることで、粒子が一対の電極間のいずれの位置に配置されていても、粒子に対して高周波不平等電界を作用させて誘電泳動力を発生させることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記電圧供給部により供給される電圧が両極性電圧であることが好ましい。
このようにすることで、パルス状の電圧を正負交互に加えて、電圧の積分値をより低くすることができ、懸濁液内にイオンの流れを形成することなく高周波不平等電界を形成することができる。
また、上記発明においては、前記電圧供給部により供給される電圧が矩形波状電圧であってもよい。
【0012】
また、本発明は、誘電泳動特性の異なる複数種の粒子を含む懸濁液を流動させる流路内に間隔をあけて配置された少なくとも一対の電極間に高周波のパルス状の電圧を供給して、流路内に高周波不平等電界を形成し、加える電圧の周波数を調節して特定の誘電泳動特性を有する粒子を分離する分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塩類を含む細胞懸濁液を塩類を含まない希釈液によって希釈することなく、簡易に誘電泳動力によって細胞を分離することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る分離装置1および分離方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る分離装置1は、図1に示されるように、細胞懸濁液(懸濁液)Aを流動させる流路2内壁に配置した一対の電極3A,3Bと、該電極3A,3B間に高周波電圧を供給する電圧供給部4と、該電圧供給部4により供給する電圧の周波数を調節する周波数調節部5とを備えている。流路の対向面の間隔は500μm以下である。
【0015】
電極3A,3Bは、図2に示されるように、それぞれ平行間隔をあけて配置される複数の棒状電極部3a,3bを備える櫛歯状に形成されている。一対の電極3A,3Bはそれらの棒状電極部3a,3bが交互に配置されるように配置されている。そして、両電極3A,3B間に高周波電圧を加えると、図3に示されるように流路2内に配置される電極3A,3Bの周囲に棒状電極部3a,3bから遠ざかるに従って電位傾度が小さくなる高周波不平等電界が形成されるようになっている。
【0016】
電圧供給部4は、図4に示されるように、電極3A,3B間にパルス状の高周波電圧を加えるようになっている。このパルス状の高周波電圧は、周期的に正負の極性が現れる両極性電圧であり、図4に破線で示される正弦波電圧と比較して、ピーク電圧毎の時間積分値を十分に低く抑えることができるようになっている。
【0017】
周波数調節部5は、隣接する電極3A,3Bに電圧供給部4から供給する異なる極性の高周波電圧の周波数を調節するようになっている。一般に、各種細胞の誘電泳動特性は、供給される高周波電圧の周波数によって変化するので、所望の細胞において特異的に誘電泳動力が高くなる周波数の高周波電圧を供給することで、当該細胞を選択的に分離することができるようになっている。
【0018】
このように構成された本実施形態に係る細胞分離装置1を用いた細胞分離方法について以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1を用いて、複数種の細胞を含む細胞懸濁液A内から所望の細胞を分離するには、流路2内に細胞懸濁液Aを所定の流速で流動させ、電圧供給部4により電極3A,3B間に高周波電圧を供給することで流路2内に高周波不平等電界を形成する。また、周波数調節部5の作動により、高周波電圧の周波数を特定の細胞において誘電泳動力が大きくなる周波数に調節しておく。
【0019】
電極3A,3B間には、棒状電極部3a,3bに近づくにつれて電位傾度が増大する高周波不平等電界が発生するので、供給している高周波電圧の周波数において正の誘電泳動特性を有する細胞Bは、電極3A,3Bに近接する方向に誘電泳動力を受けて、電極3A,3Bが設けられている側壁内面に沿って流動させられる。一方、同周波数において負の誘電泳動特性を有する細胞Cは、電極3A,3Bから遠ざかる方向に誘電泳動力を受けて、電極3A,3Bが設けられている側壁とは反対側の側壁に沿って流動させられる。これにより、細胞B,Cをその有する誘電泳動特性によって分離することができる。
【0020】
この場合において、本実施形態に係る細胞分離装置1によれば、電極3A,3B間に供給する高周波電圧がパルス状であり、その時間積分値が正弦波電圧と比較して十分に小さく抑えられているので、細胞懸濁液Aが塩類を含有していても細胞懸濁液A内におけるイオンの流れの発生を抑えて、細胞B,Cに電気泳動力が発生することを防止することができる。その結果、細胞B,Cに対しては誘電泳動力を効率的に作用させて、誘電泳動特性の差によって細胞B,Cを分離することができる。
【0021】
すなわち、細胞懸濁液Aが塩類を含有していても誘電泳動特性に基づいて細胞B,Cを分離できるため、細胞懸濁液Aから塩類を除去する脱塩処理が不要である。したがって、塩類を含まない希釈液によって希釈することなく、また、遠心処理によって細胞B,Cにダメージを与えることなく、簡易かつ迅速に細胞B,Cを分離することができるという利点がある。
【0022】
なお、本実施形態においては、一対の櫛歯状の電極3A,3Bを流路2の内壁に配置したが、これに代えて、櫛歯状の電極3A,3Bを細胞懸濁液Aの流動方向に交差する方向に配置してもよい。また、櫛歯状の電極3A,3Bに限定されるものではなく、流路2を挟んで対向配置されたプレート電極とピン電極や、その他の任意の形状の高周波不平等電界を形成可能な電極を採用することにしてもよい。
【0023】
また、パルス状の高周波電圧としては、図4に実線で示されるようなパルス形状に限定されるものではなく、さらに時間積分値の小さくなるパルス形状を採用してもよい。また、本実施形態においては、極性の異なるパルスが交互に現れるような両極性の高周波電圧を採用したので、長時間にわたっても電圧の時間積分値を低く抑えることができ、電気泳動力の発生をさらに長時間にわたって抑えることができる。また、これに代えて、一方向の極性のパルスのみが現れるような高周波電圧を採用してもよい。
また、本実施形態においては、3角波状のパルス形状を有する高周波電圧を例示したがが、これに代えて、図4に2点鎖線で示されるような矩形波状のパルス形状を有する高周波電圧を採用してもよい。
【0024】
また、本実施形態においては、細胞懸濁液A内から特定の誘電泳動特性を有する細胞B,Cを分離する細胞分離装置1を例示して説明したが、これに限定されるものではなく、誘電泳動特性の異なる他の任意の複数種の粒子を含む懸濁液内から特定の粒子を分離する分離装置として利用することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す模式図である。
【図2】図1の細胞分離装置に備えられた電極の一例を示す図である。
【図3】図2の電極の周囲に形成される高周波不平等電界の一例を示す図である。
【図4】図1の細胞分離装置の電極に供給される高周波電圧の波形例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
A 細胞懸濁液(懸濁液)
B,C 細胞(粒子)
1 細胞分離装置(分離装置)
2 流路
3A,3B 電極
4 電圧供給部
5 周波数調節部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電泳動特性の異なる複数種の粒子を含む懸濁液を流動させる流路内に間隔をあけて配置された少なくとも一対の電極と、
該電極間に高周波のパルス状の電圧を供給して、流路内に高周波不平等電界を形成する電圧供給部と、
該電圧供給部により加える電圧の周波数を調節する周波数調節部とを備える分離装置。
【請求項2】
前記対向面の間隔が500μm以下である請求項1に記載の分離装置。
【請求項3】
前記電圧供給部により供給される電圧が両極性電圧である請求項1または請求項2に記載の分離装置。
【請求項4】
前記電圧供給部により供給される電圧が矩形波状電圧である請求項3に記載の分離装置。
【請求項5】
誘電泳動特性の異なる複数種の粒子を含む懸濁液を流動させる流路内に間隔をあけて配置された少なくとも一対の電極間に高周波のパルス状の電圧を供給して、流路内に高周波不平等電界を形成し、加える電圧の周波数を調節して特定の誘電泳動特性を有する粒子を分離する分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−130941(P2010−130941A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309544(P2008−309544)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】