説明

分離装置

【課題】配管系に圧力センサを組み込むことなく、安価なディスポーザブルの配管系を提供しつつ、迅速に空吸いを検出して、無駄なく懸濁液を分離する。
【解決手段】所定の軸線回りに回転させられて内部に収容された懸濁液を遠心分離する遠心容器10と、該遠心容器10において遠心分離された上清を排出する廃液管14と、該廃液管14の他端に接続され、排出されてきた上清を収容する廃液容器5aと、遠心容器10内の上清を廃液容器5aへ送るポンプ28と、廃液管14の途中位置に連絡し内部に液面23を形成する圧力室24と、該圧力室24の外部に配置され圧力室24内の液面23を検出するセンサ25,26と、該センサ25,26により液面23の上昇が検出された場合にポンプ28を停止するように制御する制御部7とを備える分離装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトの脂肪組織を採取して、消化酵素および生理食塩水とともに攪拌することにより脂肪組織内に含まれる脂肪由来細胞群を分離する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、液体を吸引する際に配管内の圧力を測定して、測定された圧力に基づいて配管内に空気が吸引されたこと(空吸い)を検出する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/053346号パンフレット
【特許文献2】特開2002−181836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脂肪由来細胞群を分離する細胞分離装置においては、配管系は全て患者毎に使い捨てのディスポーザブルなものを使用するため、配管系に圧力を測定するための圧力センサを組み込んだのでは、使い捨ての配管系が高額なものとなってしまうという不都合がある。
また、配管内への空気の吸引(空吸い)が行われる場合には、その間、液体が吸引されないままで吸引動作が行われるという無駄が発生するため、細胞分離のための処理時間が増大してしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、配管系に圧力センサを組み込むことなく、安価なディスポーザブルの配管系を提供しつつ、迅速に空吸いを検出して、無駄なく懸濁液を分離することができる分離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、所定の軸線回りに回転させられて内部に収容された懸濁液を遠心分離する遠心容器と、該遠心容器において遠心分離された上清を排出する廃液管と、該廃液管の他端に接続され、排出されてきた上清を収容する廃液容器と、前記遠心容器内の上清を廃液容器へ送るポンプと、前記廃液管の途中位置に連絡し内部に液面を形成する圧力室と、該圧力室の外部に配置され圧力室内の液面を検出するセンサと、該センサにより液面の上昇が検出された場合に前記ポンプを停止するように制御する制御部とを備える分離装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、遠心容器内に懸濁液を収容して遠心処理することにより、比重に応じて懸濁液内の物質が積層状態に分離される。そして、ポンプを作動させることにより、遠心容器内に遠心分離された上清が廃液管を介して廃液容器へと送られて、遠心容器内に上清を除去した沈殿物を得ることができる。
【0008】
この場合において、上清の吸引中には、ポンプの作動によって配管系内部が負圧に吸引されるので、廃液管に連絡する圧力室内の空気が膨張しているが、上清の吸引終了時に廃液管の先端から空気が廃液管内に吸引されると、配管系内部の圧力が大気圧に変化するため、圧力室内の空気が収縮する。
【0009】
その結果、圧力室の外部に配置されたセンサによって、配管系内部の圧力の上昇が容易に検出され、制御部がポンプを停止することにより、それ以上の空気の吸引が停止される。すなわち、圧力室内の液面変動により、瞬時に廃液管の先端からの空気の吸引を検出でき、制御部の作動によって、ポンプを停止することで、空吸いを防止し、処理時間を短縮することができる。
【0010】
上記発明においては、洗浄液を貯留する洗浄液容器と、該洗浄液容器内の洗浄液を前記遠心容器に供給する供給管と、前記圧力室が設けられた共通配管と、該共通配管を前記供給管と前記廃液管とに分岐させる分岐部と、供給管および廃液管内の液体の流れをそれぞれ一方向に規制する逆止弁とを備えていてもよい。
【0011】
このようにすることで、ポンプを一方向に駆動して共通配管内の液体を一方向に送ると、廃液管を介して遠心容器内の上清が吸引され、分岐部および共通配管を介して廃液容器へと導かれる。一方、ポンプを逆方向に駆動して共通配管内の液体を逆方向に送ると、洗浄液容器内の洗浄液が、共通配管、分岐部および供給管を介して遠心容器内に供給され、遠心容器内に遠心分離された沈殿物を洗浄することができる。供給管および廃液管にはそれぞれ逆止弁が設けられているので、吸引された上清が遠心容器内に戻ったり、供給管により供給される洗浄液が廃液容器側に送られたりすることがない。
【0012】
そして、廃液管に空気が吸引された場合においては、圧力室内の液面上昇がセンサによって検出されることにより、空気が分岐部を超えて共通配管まで達することが防止される。その結果、廃液管から吸い込まれた空気が、洗浄液の供給時に供給管から遠心容器内に供給される不都合の発生を防止し、気泡によって断続する洗浄液の衝撃によって沈殿物がダメージを受ける不都合の発生を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、配管系に圧力センサを組み込むことなく、安価なディスポーザブルの配管系を提供しつつ、迅速に空吸いを検出して、無駄なく懸濁液を分離することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る分離装置について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る分離装置は、細胞懸濁液内から細胞群を分離する細胞分離装置1であって、図1に示されるように、生体組織、例えば、脂肪組織を消化酵素とともに収容して攪拌する分解処理部2と、該分解処理部2による分解処理の結果、脂肪組織から脂肪由来細胞を分離して得られた細胞懸濁液を濃縮する細胞濃縮部3と、該細胞濃縮部3において濃縮された脂肪由来細胞を洗浄するための洗浄液を貯留する洗浄液収容部4と、細胞濃縮部3における濃縮処理(洗浄処理を含む)において排出された廃液を収容する廃液回収部5と、これらを接続する搬送路(細胞搬送路)6と、制御部7とを備えている。
【0015】
分解処理部2には、ヒトから採取した脂肪組織を分解処理部2内に導入する導入部8と、脂肪組織から分離された脂肪由来細胞を透過させ、脂肪組織の通過を禁止するフィルタ9とが備えられている。
細胞濃縮部3は、図に示される例では、2つの遠心容器10と、該遠心容器10をその底面を半径方向外方に向けて回転させる遠心分離機11(図においては回転継手部分のみを表示している)を備えている。
【0016】
符号12はベアリング、符号13はシール部材、符号14は上清を吸引する上清吸引管(廃液管)、符号15は洗浄液を吐出する洗浄液吐出管(供給管)を示している。
上清吸引管14と洗浄液吐出部15とは、分岐継手16によって、単一の共通配管17に接続されている。共通配管17は、遠心分離機11の回転継手18に設けられた流路を介して細胞搬送路6に設けられた継手19までの間に設けられている。回転継手18の部分に共通配管17を設けることで、回転継手18によって接続する流路数を減らして、回転継手18の構造を簡略化している。
【0017】
上清吸引管14には先端から共通配管17に向かう方向への上清の流れを許容し、逆方向の流れを禁止する逆止弁20が設けられている。洗浄液吐出管15には共通配管17から先端に向かう方向への洗浄液の流れを許容し、逆方向の流れを禁止する逆止弁21が設けられている。
【0018】
共通配管17には、該共通配管17内の圧力変動を検出する圧力センサ22が設けられている。
この圧力センサ22は、図2に示されるように、共通配管17、回転継手18および分岐継手16を介して上清吸引管14に接続され、密閉された空間内部に液面23を形成する圧力室24と、該圧力室24を径方向に挟んで配置された発光部25および受光部26とを備えている。圧力室21の外壁は透明な材質により構成され、発光部25からの光を透過して受光部26によって受光できるようになっている。
【0019】
圧力室24内の液位が高くなって、発光部25と受光部26との間に液体が配置されているときには、液位が低くなって発光部25と受光部26との間に空気が配置されているときよりも受光部26により受光される光の強度が低下するようになっている。圧力室24内の液位が高くなるときには、上清吸引管14内の圧力が上昇し、圧力室24内の液位が低くなるときには、上清吸引管14内の圧力が低下したことがわかるようになっている。
【0020】
洗浄液収容部4および廃液回収部5はそれぞれ、洗浄液または廃液を収容する洗浄液容器4aまたは廃液容器5aを備えている。符号30は逆止弁である。
細胞搬送路6は、分解処理部2、細胞濃縮部3、洗浄液収容部4および廃液回収部5を接続する複数のチューブ27と、チューブ27を外側から押して内部の液体に送りをかけるポンプ28と、チューブ27を分岐させる継手19と、チューブ27を各位置で開閉する複数のバルブV〜V12と、チューブ27の途中位置に配置され細胞懸濁液の一部を取り出し可能なサンプルポート29とを備えている。
【0021】
サンプルポート29は、バルブVとポンプ28との間のチューブ27の一部を分岐して設けられ、シリンジ(図示略)を着脱可能に設けられている。これにより、分解処理部2から細胞濃縮部3へ向かう細胞懸濁液の一部をサンプルポート29へ導入した後、サンプルポート29に取り付けられたシリンジによって吸引した後、シリンジを取り外して検査装置へ搬送することができるようになっている。
【0022】
制御部7は、ポンプ28を駆動させて上清吸引管14から遠心容器10内の上清を吸引している際に、圧力センサ22からの信号に基づいて、上清吸引管14内の圧力が上昇したことが検出された場合には、ポンプ28による吸引動作を停止するようになっている。
【0023】
このように構成された本実施形態に係る細胞分離装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1を用いて生体組織、例えば、脂肪組織を分解して細胞由来細胞を採取するには、導入部8を介して分解処理部2内に脂肪組織および消化酵素液を導入し、加温しながら攪拌することにより、消化酵素によって脂肪組織を分解し、脂肪組織から脂肪由来細胞を分離させた細胞懸濁液を得る。
【0024】
所定量の細胞懸濁液が得られた状態で、図3に黒塗りの円により示されるように、細胞搬送部6のバルブV,V,V〜V,V10〜V12を閉じ、バルブV,V,V,Vを開放し、ポンプ28を正転させることにより、ポンプ28によって分解処理部2内の細胞懸濁液を吸引し、細胞濃縮部3に供給する。
【0025】
ここで、全ての細胞懸濁液が細胞濃縮部3に送られる前に、バルブVを閉止してポンプ28を逆転させることにより、チューブ27内の細胞懸濁液を逆流させて、サンプルポート29に送ることができる。そして、サンプルポート29にシリンジを取り付けて吸引することにより、サンプルポート29内の細胞懸濁液をシリンジ内に採取することができる。
【0026】
この後に、再度、図3に示されるように、バルブVを開いてポンプ28を正転させ、十分な量の細胞懸濁液を細胞濃縮部3に送る。細胞濃縮部3においては、細胞懸濁液を遠心容器10内に収容し、遠心分離機11を作動させて遠心処理を施すことにより、細胞懸濁液内の比重の大きな脂肪由来細胞が遠心容器10の底部に集められる。
【0027】
この状態で、図4に示されるように、細胞搬送部6のバルブV〜V,V〜V12を閉じ、バルブV,Vを開放し、ポンプ28を正転させることにより、遠心容器10内に生成された上清を吸引して廃液回収部5の廃液容器5aまで送る。上清が十分に廃液容器5aまで送られることにより、遠心容器10内には脂肪由来細胞のペレットおよびわずかな上清が残る。
【0028】
そして、上清吸引管14の先端開口が遠心容器10内の上清の液面から離れると、上清吸引管14内が大気圧に開放されるので、上清吸引管14内の圧力が上昇する。このため、その瞬間に圧力室24の液位が上昇し、受光部26により検出される光の強度が低下するので、制御部7がポンプ28の駆動を停止する。これにより、上清吸引管14の先端開口から空気が吸引(空吸い)されてしまう不都合が防止される。
【0029】
この後に、図5に示されるように、バルブV〜V,V,V,V10を閉じ、バルブV,V,V,V11,V12を開放し、ポンプ28を正転させることにより、洗浄液収容部4の洗浄液容器4a内に貯留されている洗浄液を遠心容器10内に供給し、遠心容器10内に収容されている脂肪由来細胞および上清に混合して再懸濁する。
【0030】
そして、洗浄液を供給して再懸濁する工程、遠心分離機11の作動により脂肪由来細胞を遠心容器10の底部に集める工程および上清を吸引して廃液回収部5の廃液容器5aに廃棄する工程を繰り返すことにより、細胞懸濁液内の消化酵素の濃度を脂肪由来細胞にダメージを与えない程度に希釈する。
【0031】
この場合において、本実施形態に係る細胞分離装置1によれば、圧力センサ22が上清吸引管14の先端開口の大気開放を瞬時に検出して、制御部7がポンプ28を停止するので、上清吸引管14から空気が吸引される、いわゆる空吸いを防止して、処理時間の無駄を省くことができる。また、空気が共通配管17側まで吸引されて、気泡として混入してしまう不都合の発生を未然に防止することができる。その結果、その後の洗浄液供給時に、洗浄液内に気泡が混じることが防止され、気泡により洗浄液が断続供給されることによる衝撃によって、細胞にダメージが与えられる不都合を防止することができる。
【0032】
また、圧力センサ22として、透明な圧力室24と、その外部に配置した発光部25および受光部26とを備えるものを採用したので、発光部25および受光部26は再利用して、圧力室24を含む配管系をディスポーザブルなものにすることができる。ディスポーザブル部分に発光部24および受光部26を含めないので、ディスポーザブル部分のコストを低減することができる。
また、本実施形態においては、圧力室内の液面を検出する手段として、透過式のセンサを用いたが、これに代えて、反射型センサや静電容量式のセンサ等を用いてもよい。また、圧力室を鉛直方向に配置したが、特に制限はなく、例えば、配管17との接続部の形状を細径で長くして水平方向(鉛直方向以外)に配置してもよい。
【0033】
また、本実施形態においては、遠心容器10に設けられた洗浄液吐出管15を利用して、濃縮処理された脂肪由来細胞を吸引することにしてもよい。吸引された脂肪由来細胞は、ポンプ28の駆動によって、図示しない細胞回収容器に送られることとすればよい。
また、細胞を分離する生体組織として、脂肪組織を例示したが、これに限定されるものではなく、他の生体組織から該生体組織由来細胞を分離する場合に使用することとしてもよい。
【0034】
また、本実施形態においては、脂肪由来細胞には、血管内皮細胞、線維芽細胞、造血幹細胞、血球系の細胞、脂肪由来の幹細胞などが含まれる。ここで、幹細胞は、細胞治療などの目的で、脂肪組織から採取される細胞であり、多分化能、自己再生能を有する細胞を指す。
また、脂肪組織として、ヒト由来の皮下脂肪組織、内臓脂肪組織、白色脂肪組織、褐色脂肪組織等でよく、ヒト等の脂肪部位をハサミ等の鋭利な器具で採取されたもの、脂肪吸引等の方法によって採取されたものなどであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の細胞分離装置の圧力センサ部分を説明する拡大縦断面図である。
【図3】図1の細胞分離装置において、分解処理部から細胞濃縮部への細胞懸濁液の流れを示す全体構成図である。
【図4】図1の細胞分離装置において、細胞濃縮部において分離された上清の廃液容器への回収を説明する全体構成図である。
【図5】図1の細胞分離装置において、細胞濃縮部において濃縮された脂肪由来細胞への洗浄液の供給を説明する全体構成図である。
【符号の説明】
【0036】
1 細胞分離装置(分離装置)
4a 洗浄液容器
5a 廃液容器
7 制御部
10 遠心容器
14 上清吸引管(廃液管)
15 洗浄液吐出管(供給管)
16 分岐部
17 共通配管
20,21 逆止弁
23 液面
24 圧力室
25 発光部(センサ)
26 受光部(センサ)
28 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸線回りに回転させられて内部に収容された懸濁液を遠心分離する遠心容器と、
該遠心容器において遠心分離された上清を排出する廃液管と、
該廃液管の他端に接続され、排出されてきた上清を収容する廃液容器と、
前記遠心容器内の上清を廃液容器へ送るポンプと、
前記廃液管に連絡し内部に液面を形成する圧力室と、
該圧力室の外部に配置され圧力室内の液面を検出するセンサと、
該センサにより液面の上昇が検出された場合に前記ポンプを停止するように制御する制御部とを備える分離装置。
【請求項2】
洗浄液を貯留する洗浄液容器と、
該洗浄液容器内の洗浄液を前記遠心容器に供給する供給管と、
前記圧力室が設けられた共通配管と、
該共通配管を前記供給管と前記廃液管とに分岐させる分岐部と、
供給管および廃液管内の液体の流れをそれぞれ一方向に規制する逆止弁とを備える請求項1に記載の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−104918(P2010−104918A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280001(P2008−280001)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】