説明

分離開繊が可能なナノフィラメントまたはマイクロファイバーの製造方法

【課題】分離開繊が可能なナノフィラメントまたはマイクロファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】電気紡糸原料物質を有機溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造するにおいて、電気紡糸原料物質を溶融させて溶融液を製造する工程(工程1)と、前記工程1で製造された紡糸溶液または溶融液を臨界電圧で電気紡糸してナノ繊維を製造した後、乾式または湿式1次捕集して、巻取ローラーで2次捕集する工程(工程2)と、前記工程2で製造されたナノ繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件で一定時間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で一定時間熱処理する工程(工程3)とを有する、分離開繊が可能なナノフィラメントまたはマイクロファイバーの製造方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離開繊が可能なナノフィラメントまたはマイクロファイバーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にナノ繊維は、繊維直径が1〜1,000nm水準の超極細繊維を意味し、ナノ繊維は既存のミクロンサイズの繊維では得ることができない多様な物理的、化学的性質を提供することができ、ナノ繊維で構成されたウェブは多孔性を有する分離膜型素材として各種フィルター類、傷治療用ドレッシング(wound dressings)、人工支持体(scaffolds)、生化学兵器防御用衣服(biomedical clothes)、2次電池用隔離膜、ナノ複合体(nanocomposites)などの多様な分野で非常に有用に用いることができる。現在までの電気紡糸に対する技術動向を詳しくみると、大部分がナノウェブ(nanofiber webs)やマット(nanofiber mats)製造に関する内容である。
【0003】
前記技術に対する核心的な技術内容は、高圧空気や真空装置を用いてナノウェブやナノマット、またはナノフィラメントを製造して、これらに対する多様な異方性や機能性を付与する発明に大きな意義を有していることが分かる。また、ウオーターバスを用いたり分極された荷電を用いてナノウェブやナノマットを製造する場合には、連続した細くて長いナノ繊維が首尾よく製造されることも報告されている。しかし、既存のナノ繊維は、非常に細く、紡糸後に別途の後工程を行ないにくい問題があり、現在の多様な産業用に適用するには、物理的にも化学的にもその利用に多くの限界点を有するようになった。したがって、電気紡糸された繊維の物性を改善して、商業的な用途に適用させるためには、延伸、熱処理、酸化、炭化などの多様な後工程処理を通じて繊維軸方向への延伸性を改善したり分子配向性を向上させて、繊維内部の構造をより安定化させる必要がある。しかし、一般的にナノウェブやナノマット状の電気紡糸製品では、現在、緊張状態下で十分な時間熱処理することが技術的に非常に難しいという現実的な制約条件がある。
【0004】
ナノ繊維を製造する公知の方法としては、先に説明したように紡糸原液を荷電状態で紡糸して微細な直径を有するナノ繊維を製造する電気紡糸法が代表的である。電気紡糸法を用いてナノ繊維を製造した例は、多様な特許と文献で提示されており、代表的なものとして、特許文献1〜5など多数が公知されている。しかし、前述した電気紡糸法によって製造されたナノ繊維は大部分、ウェブやマット状の形態に限定される場合が大部分である。これに対して、ドシュらは、その理由を、一般的に従来の電気紡糸中、高電圧の印加時に紡糸ノズルの端部分(tip)に生成された高分子溶液の液滴が破裂してコレクタに捕集されてナノ繊維が生成される過程で、コレクタ上に生成されたナノ繊維は等方性配向ではなく異方性配向で集積されることにより、ナノウェブ形態すなわち不織布形態に生成されるからであると、説明している。
【0005】
また、このような不織布形態のナノ繊維は、単一繊維からなるので電気紡糸時に紡糸ノズルの端で生成された液滴が臨界電圧下でコレクタに向かって紡糸される過程で、コレクタに到達する前に単一繊維同士が衝突して互いに干渉または結合してかたまりになるという問題点がある。そこで、特許文献6では紡糸溶液として、単一成分ではなく、ポリエチレンテレフタレートと共重合ポリエステルとを使用して従来の電気紡糸法を用いてナノ繊維を製造することを開示しているが、このような方法で製造されたナノ繊維もやはり、ウェブ形態から脱することができないでいる。前記特許文献で提示されたウェブ形態のナノ繊維は、機械的な強度が非常に脆弱で、特に不織布形態のナノ繊維を撚って糸に製作する場合には、製作時に単一繊維間を連結するための別途の連結繊維が必要であり、最終製造された糸が段落しやすいという問題が誘発されるので、求められる多様な分野に適用するためには工程上の改善が切実に求められる。
【0006】
以上のことに鑑みて、本発明者等は、より多様な分野で充足することができるナノ繊維を得ようと努力中、電気紡糸法を用いて乾式または湿式で紡糸されたナノ繊維を1次捕集して、巻取ローラーで2次捕集して均一なサイズのナノ繊維を製造し、延伸及び熱処理工程を行うことにより、ナノ繊維間で分離開繊が可能で、ナノサイズの直径を有しながら機械的物性が向上したナノフィラメントまたは同一器機及び方法によるマイクロファイバーの製造方法を開発して本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第10−0881953号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10−0744483号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10−0630578号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10−0702868号公報
【特許文献5】米国登録特許第6,183,670号明細書
【特許文献6】韓国公開特許公報第10−2004−0018639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、分離開繊が可能なナノフィラメントまたはマイクロファイバーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、電気紡糸原料物質を有機溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造する、または、電気紡糸原料物質を溶融させて溶融液を製造する工程(工程1);前記工程1で製造された紡糸溶液または溶融液を臨界電圧で電気紡糸してナノ繊維を製造した後、乾式または湿式1次捕集して、巻取ローラーで2次捕集する工程(工程2);前記工程2で製造されたナノ繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件で一定時間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で一定時間熱処理する工程(工程3)を有する、分離開繊が可能なナノフィラメントまたはマイクロファイバーの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明による分離開繊が可能なナノフィラメントまたはマイクロファイバーの製造方法では、紡糸溶液または溶融液が添加剤を含んだり、電気紡糸後、添加剤を含んだ水槽に湿式捕集して延伸及び多段昇温熱処理工程で個別の繊維に完全に分離して、直径1000nm以下のナノ繊維及び直径1〜5μmのマイクロファイバーを連続的に製造することができるので、各種フィルター類、傷治療用ドレッシング、人工支持体、生化学兵器防御用衣服、2次電池用隔離膜及びナノ複合体などのナノ繊維製造分野及び既存製品の改良のための機能性マイクロファイバー製造に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造方法で乾式の電気紡糸時に使用される装置の模式図。
【図2】本発明の製造方法で湿式の電気紡糸時に使用される装置の模式図。
【図3】本発明で使用される電気紡糸原料物質であるポリアミドイミド紡糸溶液の粘度を示した写真。
【図4】添加剤を使用しない延伸及び熱処理工程によるナノ繊維の走査電子顕微鏡写真。
【図5】本発明による製造方法で製造されたナノフィラメントと延伸及び熱処理工程を行わないで製造されたナノ繊維の走査電子顕微鏡写真。
【図6】本発明による製造方法で製造されたナノフィラメントの引張強度を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、電気紡糸原料物質を有機溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造する、または、電気紡糸原料物質を溶融させて溶融液を製造する工程(工程1)と、
前記工程1で製造された紡糸溶液または溶融液を10〜30kVの臨界電圧で電気紡糸してナノ繊維を製造した後、乾式または湿式1次捕集して、巻取ローラーで2次捕集する工程(工程2)と、
前記工程2で製造されたナノ繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件で一定時間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で一定時間熱処理する工程(工程3)とを有する分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法を提供する。
【0013】
以下、本発明による分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法を工程別に詳しく説明する。
【0014】
本発明によるナノフィラメントの製造方法において、工程1は電気紡糸に使用される紡糸溶液または溶融液を製造する工程である。
【0015】
前記工程1の紡糸溶液製造は、電気紡糸原料物質を有機溶媒に溶解させて製造することができ、溶融液は電気紡糸原料物質を溶融させて製造することができる。
【0016】
ここで、前記工程1の電気紡糸原料物質は、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル及びポリカプロラクタムなどを使用することができ、前記工程1の有機溶媒は、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などからなる群から選択される1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0017】
また、前記工程1で紡糸溶液または溶融液は、表面張力や分子量の調整が可能なように適切な水準の濃度を有することが好ましいので、電気紡糸原料物質は、有機溶媒に対して2〜65重量%であることが好ましい。万一、前記電気紡糸原料物質が有機溶媒に対して2重量%未満の場合には、紡糸溶液の分子量が低くなってナノ繊維として製造されなかったり繊維上にビード(bead)等が形成される場合があり、65重量%を超過する場合には、高分子鎖の絡まりによって電気紡糸を行うことができなくてナノサイズ太さの繊維を製造することができないという場合がある。
【0018】
さらに、前記工程1の紡糸溶液または溶融液は、添加剤を0.01〜30重量%、さらに含むことができる。前記添加剤には、グリセロール、ポリエチレングリコール、ミネラルオイル、酢酸及びクエン酸などを使用することができる。前記添加剤によって電気紡糸工程で紡糸溶液または溶融液の紡糸が大きく改善され、ナノ繊維の太さが均一になり、後で延伸及び多段昇温熱処理を通じてそれぞれのナノ繊維に分離することができる。万一、前記添加剤が0.01重量%未満の場合には、ナノフィラメントの分離が円滑ではなくて分離開繊されない場合があり、30重量%を超過する場合には、紡糸溶液粘度の上昇によって製造されたナノ繊維の巻取が円滑に行なわれず巻取されたナノ繊維の物性が低下して割れ易くなる場合がある。
【0019】
また、本発明によるナノフィラメントの製造方法において、前記工程1を行った後、追加的に紡糸溶液を60〜350℃の温度範囲で熱処理する工程をさらに含むことができる。前記熱処理により加水分解反応が起きなくなり、電気紡糸工程で紡糸溶液または溶融液の紡糸が円滑に行なわれて均一なサイズのナノ繊維を製造することができる。特に、下記の化学式1のポリアミドイミドの場合には、硬化(imidization)反応が約10〜50%反応したものを用いることが好ましく、前記硬化反応が10%未満の場合には、空気中に存在する水分との反応による加水分解反応が発生するようになってナノ繊維の加工性が低下する場合があり、50%を超過する場合には、有機溶媒に対する溶解度が低下して電気紡糸工程を行うことができない場合がある。
【0020】
【化1】

【0021】
ここで、m+n=1500〜10000
【0022】
次に、本発明によるナノフィラメントの製造方法において、工程2は、電気紡糸を行いナノ繊維を製造する工程である。
【0023】
前記工程2では、前記工程1で製造された紡糸溶液または溶融液を10〜30kVの臨界電圧で電気紡糸してナノ繊維を製造した後、乾式または湿式1次捕集し、巻取ローラーで2次捕集することによりナノ繊維を製造することができる。ここで、臨界電圧が10kV未満で紡糸溶液の濃度が高い場合には、繊維の太さが増加してナノ繊維ではなくマイクロファイバーが製造され、30kVを超過する場合には生地(matrix)の安定性が低下して作業者の安全性確保が難しい上に、エネルギー効率の側面で過剰のエネルギーの消耗する場合がある。
【0024】
ここで、前記工程2において、乾式で1次捕集する場合には、板型、ローラー型またはこれらの混合形態からなる多重捕集体によって行うことができ、湿式で1次捕集する場合には、水槽などを用いて行うことができる。
【0025】
また、前記工程2の水槽には、グリセロール、ポリエチレングリコール、ミネラルオイル、酢酸及びクエン酸などの添加剤をさらに含ませることができる。前記添加剤を含むことで、ナノ繊維の表面がコーティングされ、後で延伸及び多段昇温熱処理工程で分離開繊が可能になる。
【0026】
さらに、前記工程2で製造されたナノ繊維は、10〜30nmの厚さで添加剤がコーティングされることが好ましい。万一、前記厚さが10nm未満の場合には、ナノ繊維表面に添加剤のコーティングが十分ではなく、効果的に開繊分離がされない場合があり、30nmを超過する場合には、延伸及び熱処理工程でナノ繊維間の融着が発生する場合がある。
【0027】
次に、本発明によるナノフィラメントの製造方法において、工程3は、前記工程2で製造されたナノ繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件で一定時間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で一定時間熱処理する工程である。
【0028】
ここで、前記熱処理は、使用された溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件の下で5〜360分間滞留させた後、使用した電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で10〜360分間熱処理することが好ましく、個別繊維への分離開繊をさらに効果的に達成するために、前記沸点以下の滞留温度と熱処理温度の間で、1〜10段階にわたって最終熱処理温度まで多段昇温させることがさらに好ましい。
【0029】
例えば、本発明による有機溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)と電気紡糸原料物質としてポリアミドイミドを用いる場合、前記工程3の熱処理は、NMPの沸点以下の温度である202℃で5〜180分間大気圧または減圧条件下で滞留させた後、再び330℃まで昇温させて10〜180分間行なうことができる。前記二つの温度間で追加的に1〜10段階の多段昇温熱処理を行なうことができる。
【0030】
前記工程2で製造されたナノ繊維を延伸及び熱処理することでナノ繊維内の有機溶媒と添加剤などがフリーボリューム(free volume)を通じて除去され、延伸時に外部コーティング物質とともに除去される。また、前記工程3の延伸及び熱処理を通じて束に形成されたナノ繊維が分離開繊されて、繊維内の分子が繊維軸方向に高い配向性を有するようになり、結晶化度を増加させて繊維の物性を向上させることができる。しかし、電気紡糸で製造されたナノ繊維を急激な温度範囲で熱処理する場合には、ナノ繊維間の融着が起きる場合がある。
【0031】
また、本発明は、前記製造方法で直径が1〜5μm範囲のマイクロファイバーの製造方法を提供する。
具体的には、本発明のマイクロファイバーの製造方法は、電気紡糸原料物質を有機溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造する、または電気紡糸原料物質を溶融させて溶融液を製造する工程(工程1)と、
前記工程1で製造された紡糸溶液または溶融液を臨界電圧で電気紡糸して繊維を製造した後、乾式または湿式1次捕集して、巻取ローラーで2次捕集する工程(工程2)と、
前記工程2で製造された繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件で一定時間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で一定時間熱処理する工程(工程3)とを有する。
【0032】
本発明によるナノフィラメント製造方法により、1〜5μm範囲のマイクロファイバーを製造するには、電気紡糸工程時に紡糸溶液または溶融液濃度をナノフィラメント製造時の濃度より1.2〜3.5倍に高めるか、電気紡糸時に相対湿度100%またはアミン蒸気雰囲気下で電圧の強さをナノフィラメントの場合より低い水準である1〜10kVで印加することにより、製造することができる。
【0033】
したがって、本発明による分離開繊が可能なナノフィラメントまたはマイクロファイバーの製造方法は、紡糸溶液または溶融液に添加剤を含んだり、電気紡糸後、添加剤を含んだ水槽に湿式捕集して延伸及び多段昇温熱処理工程で個別の繊維に完全に分離して、直径1000nm以下のナノ繊維及び直径1〜5μmのマイクロファイバーを連続して製造することができるので、各種フィルター類、傷治療用ドレッシング、人工支持体、生化学兵器防御用衣服、2次電池用隔離膜及びナノ複合体などのナノ繊維製造分野及び既存製品の改良のための機能性マイクロファイバー製造に有用に用いることができる。
【0034】
以下、本発明を下記の実施例によってさらに詳しく説明する。但し、下記の実施例は発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記の実施例によって制限されるのではない。
【実施例】
【0035】
<実施例1>
電気紡糸原料物質としてポリアミドイミドを使用し、ポリアミドイミドを有機溶媒であるジメチルホルムアルデヒドとN−メチル−2−ピロリドンに添加して25重量%の紡糸溶液を製造した後、製造した紡糸溶液にグリセロールを0.01〜30重量%添加して撹拌器で充分に撹拌した。本発明に用いた電気紡糸装置としては、溶液の定量供給装置(KD Scientific社、モデル100)と高圧の電力発生装置(KSH社、KSHP−1001CD)、そしてステンレススチール材質の紡糸ノズル(内径0.16mm、長さ13mm、日本イワシタ工業)とを使用した。図1に示した電気紡糸装置に10〜30kVの電圧を印加し、紡糸ノズルの端部分に生成された紡糸溶液の液滴を破裂させ、噴射製造されたナノ繊維を回転する捕集体に1次捕集した後、巻取ローラーで2次捕集して連続的に集積させた。前記製造されたナノ繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度である120℃で10〜180分間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上の温度である320℃で10〜180分間熱処理して分離開繊したナノフィラメントを製造した。
【0036】
<実施例2>
電気紡糸原料物質としてポリアミドイミドを使用し、ポリアミドイミドを有機溶媒であるジメチルホルムアルデヒドとN−メチル−2−ピロリドンとに添加して25重量%の紡糸溶液を製造した後、撹拌器で充分に撹拌した。本発明に使用した電気紡糸装置としては、溶液の定量供給装置(KD Scientific社、モデル100)と高圧の電力発生装置(KSH社、KSHP−1001CD)と、そしてステンレススチール材質の紡糸ノズル(内径0.16mm、長さ13mm、日本イワシタ工業)とを使用した。図2で示した電気紡糸装置に10〜30kVの電圧を印加し、紡糸ノズルの端部分に生成された紡糸溶液の液滴を破裂させ、噴射製造されたナノ繊維をグリセロールを0.01〜30重量%含む水槽において1次補集して、紡糸されたナノ繊維を巻取ローラーで2次捕集した。前記製造されたナノ繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度である120℃で0.1〜100mmHgの減圧条件で30〜360分間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上の温度である310℃で30〜120分間熱処理して分離開繊したナノサイズのフィラメントを製造した。
【0037】
<実施例3>
電気紡糸原料物質として湿気硬化型ポリウレタンを12〜35重量%で使用して、電気紡糸時の相対湿度100%で1〜10kVの電圧を印加したこと以外は、前記実施例1と同様の方法で分離開繊したマイクロファイバーを製造した。
【0038】
<実施例4>
電気紡糸原料物質としてアミン硬化型ポリウレタンを12〜35重量%で使用して、電気紡糸時にアミン蒸気が供給される状態で1〜10kV電圧を印加したこと以外は、前記実施例1と同様の方法で分離開繊したマイクロファイバーを製造した。
【0039】
<実施例5>
電気紡糸原料物質としてポリイミドの前駆体であるアミド酸(amic acid)を使用したこと以外は、前記実施例2と同様の方法で分離開繊したナノサイズのフィラメントを製造した。
【0040】
<実施例6>
電気紡糸原料物質としてポリビニルアルコールを使用したこと以外は、前記実施例2と同様の方法で分離開繊したナノサイズのフィラメントを製造した。
【0041】
<実施例7>
電気紡糸原料物質としてポリアクリロニトリルを使用し、有機溶剤として有機ジメチルアセトアミドとジメチルスルホキシドを使用したこと以外は、前記実施例2と同様の方法で分離開繊したナノサイズのフィラメントを製造した。
【0042】
<実施例8>
電気紡糸原料物質としてポリカプロラクタムを使用したこと以外は、前記実施例2と同様の方法で分離開繊したナノサイズのフィラメントを製造した。
【0043】
<比較例1>
電気紡糸原料物質としてポリアミドイミドを使用し、添加剤であるグリセロールを使用しないこと以外は、前記実施例1と同様の方法でナノサイズのフィラメントを製造した。
【0044】
<比較例2>
電気紡糸原料物質としてポリアミドイミドを使用し、添加剤であるグリセロールを使用しないこと以外は、前記実施例2と同様の方法でナノサイズのフィラメントを製造した。
【0045】
<比較例3>
電気紡糸原料物質としてポリアミドイミドを使用し、延伸及び多段昇温熱処理を行なわないこと以外は、前記実施例1と同様の方法でナノサイズのフィラメントを製造した。
【0046】
<比較例4>
電気紡糸原料物質としてポリアミドイミドを使用し、延伸及び多段昇温熱処理を行なわないこと以外は、前記実施例2と同様の方法でナノサイズのフィラメントを製造した。
【0047】
<比較例5>
電気紡糸原料物質として湿気硬化型ポリウレタンを使用し、添加剤であるグリセロールを使用せず、さらに延伸及び多段昇温熱処理を行なわないこと以外は、前記実施例2と同様の方法でナノサイズのフィラメントを製造した。
【0048】
前記実施例1〜8及び比較例1〜5の製造方法及び繊維形態を下記の表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
(開繊評価の基準 ◎:ナノフィラメント束中、個別繊維が90%以上分離、○:80%以上分離、×:分離80%以下)
【0051】
分析
1.ポリアミドイミド紡糸溶液の粘度分析
本発明で使用する電気紡糸原料物質であるポリアミドイミド紡糸溶液の粘度を分析して、その結果を図3に示した。
【0052】
ポリアミドイミド電気紡糸原料物質の濃度による粘度変化の結果を詳しく見ると、濃度が低い10重量%の場合には、剪断速度が増加するにつれて粘度が急激に減少するずり減粘(shear thinning)挙動が示されて、15重量%を超過後からは降伏応力の挙動が示されることからして高分子鎖間の絡み合い(entanglement)が発生しながらナノ繊維形成が可能になるものと判断することができる。したがって、首尾よくナノ繊維を製造するためには、最小限15重量%以上のポリアミドイミド溶液の製造が必要であることが分かる。
【0053】
2.添加剤を使用しない、延伸及び熱処理工程によるナノ繊維の形状分析
添加剤を使用しない、延伸及び熱処理工程によるナノ繊維の形状を調べるために走査電子顕微鏡(SEM,BRUKER,TESCAN VEGA−II)で分析して、その結果を図4に示した。
【0054】
図4の(a)は、添加剤を使用せず、かつ延伸及び熱処理を行なわないで製造したナノ繊維を示し、図4の(b)は、添加剤を使用せずに延伸及び熱処理を行って製造したナノ繊維を示す。
【0055】
図4に示されたように、添加剤を使用せず、かつ延伸及び熱処理を行なわずに製造されたナノ繊維(比較例5)は、束で存在して、互いにもつれ合っていることが分かり、添加剤を使用せず、延伸及び熱処理して製造されたナノ繊維(比較例4)もまた、互いにもつれ合っていることが分かる。
【0056】
<実験例1>延伸及び熱処理工程によるナノサイズフィラメントの形状分析
本発明による製造方法で製造されたナノフィラメントと延伸及び熱処理工程を行なわないで製造したナノ繊維の形状を調べるために、走査電子顕微鏡(SEM)で分析して、その結果を図5に示した。
【0057】
図5に示されたように、前記実施例1(図5の(a))は、均一な円筒状に分離開繊がなされたことが分かり、前記比較例3(図5の(b))は、ナノ繊維が束で存在して、分離開繊がなされなかったことが分かる。
【0058】
<実験例2>ナノサイズフィラメントの引張強度分析
本発明による製造方法で製造されたナノフィラメントの引張強度を分析するために、下記の実験を行なって、その結果を図6に示した。
【0059】
図6に示されたように、本発明の製造方法で製造されたナノサイズのフィラメントの場合(実施例1)には、5GPa以上の引張強度値を示し、添加剤を添加しなかった、および/または延伸及び熱処理を行なわなかった前記比較例1、3及び5の場合には、引張強度値が低いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気紡糸原料物質を有機溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造する、または電気紡糸原料物質を溶融させて溶融液を製造する工程(工程1)と、
前記工程1で製造された紡糸溶液または溶融液を10〜30kVの臨界電圧で電気紡糸してナノ繊維を製造した後、乾式または湿式1次捕集して、巻取ローラーで2次捕集する工程(工程2)と、
前記工程2で製造されたナノ繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件で一定時間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で一定時間熱処理する工程(工程3)とを有する分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項2】
工程1の電気紡糸原料物質が、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリルまたはポリカプロラクタムであることを特徴とする請求項1に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項3】
工程1の有機溶媒が、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択される1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
工程1の電気紡糸原料物質が、有機溶媒に対して2〜65重量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項5】
工程1の紡糸溶液または溶融液が、添加剤を0.01〜30重量%でさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項6】
添加剤が、グリセロール、ポリエチレングリコール、ミネラルオイル、酢酸またはクエン酸であることを特徴とする、請求項5に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項7】
工程1を行った後、追加的に紡糸溶液を60〜350℃の温度範囲で熱処理する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項8】
工程2の乾式の一次捕集が、板型、ローラー型またはこれらの混合形態である多重捕集体で行なわれることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項9】
工程2の湿式の一次捕集が、グリセロール、ポリエチレングリコール、ミネラルオイル、酢酸またはクエン酸が含まれている水槽を用いて行われることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項10】
工程2で製造されたナノ繊維は、10〜30nmの厚さで添加剤がコーティングされていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項11】
工程3の熱処理では、使用された溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件で5〜360分間滞留させた後、使用した電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で10〜360分間熱処理することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項12】
工程3の熱処理が、有機溶媒の沸点以下の滞留温度と電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上の温度範囲で1〜10段階にわたって多段昇温させることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の分離開繊が可能なナノフィラメントの製造方法。
【請求項13】
電気紡糸原料物質を有機溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造する、または電気紡糸原料物質を溶融させて溶融液を製造する工程(工程1)と、
前記工程1で製造された紡糸溶液または溶融液を臨界電圧で電気紡糸して繊維を製造した後、乾式または湿式1次捕集して、巻取ローラーで2次捕集する工程(工程2)と、
前記工程2で製造された繊維を延伸して前記有機溶媒の沸点以下の温度で大気圧または減圧条件で一定時間滞留させた後、前記電気紡糸原料物質のガラス転移温度以上で一定時間熱処理する工程(工程3)とを有する分離開繊が可能な、直径が1〜5μmであるマイクロファイバーの製造方法。
【請求項14】
マイクロファイバーが、ナノフィラメント製造で使用される紡糸溶液または溶融液濃度を1.2〜3.5倍に高める、または、電気紡糸時の相対湿度100%またはアミン蒸気雰囲気下で1〜10kVの電圧を印加することにより製造されることを特徴とする、請求項13に記載のマイクロファイバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−153397(P2011−153397A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105561(P2010−105561)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ポリマー インターナショナル、59巻、(Polymer International,Volume 59)212−217頁 電子ジャーナル発行日 :2009年11月5日(www.interscience.wiley.com) 発行所:ウィリー インターサイエンス
【出願人】(510122175)コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー (2)
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】19 Sinseongro,Yuseong−gu,Daejeon,305−600,The Republic of Korea
【Fターム(参考)】