説明

切り花延命剤

【課題】従来の切り花延命剤よりも延命効果の高い、新規な切り花延命剤を提供すること。
【解決手段】銀ゼオライトと、粒状活性炭と、フルクトースと、硫酸アルミニウムと、塩化カリウムとを含有する切り花延命剤であって、
銀ゼオライトの含有量は0.025重量%以上0.2重量%以下であり、
粒状活性炭の含有量は0.5重量%以上4.0重量%以下であり、
フルクトースの含有量は0.1重量%以上1.5重量%以下であり、
硫酸アルミニウムの含有量は0.01重量%以上0.05重量%以下であり、
塩化カリウムの含有量は0.01重量%以上0.08重量%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り花を鮮度よく保存することができる切り花延命剤に関する。
【背景技術】
【0002】
切り花は、生産者により作付け地で切り取られて市場に出荷された後、消費者が購入するまでの時間をできるだけ短縮することが好ましいが、最低1〜2日はかかってしまう。この間に花の鮮度が落ち、消費者が購入した後の寿命は短くなる。このため、種々の切り花の延命方法が開発されてきた。
【0003】
切り花の延命方法には、前処理法と後処理法とがある。前処理法は、収穫後、水に生ける前に切り口を焼く等して切り花を処理する方法であり、後処理法は、小売店や消費者が花瓶の水に延命剤を加えて、日持ちの延長を図るものである。
【0004】
後処理法で使用される切り花延命剤としては、界面活性剤の添加による水上げの促進、糖等の栄養剤の添加、殺菌剤添加による水の腐敗防止等の方法が知られている。これ以外にも、過酢酸(特許文献1)、有機酸アルミニウム(特許文献2)、窒素含有複素環式化合物を構成単位に有する水溶性重合体(特許文献3)を有効成分とする切り花延命剤が開発されている。
【0005】
また、上記以外にも、銀ゼオライトと、水揚げ促進効果を有する無機塩基とからなる切り花用鮮度保持剤(延命剤)が特許文献4に開示されている。
【0006】
また、老化ホルモンとして知られているエチレンを吸着することにより切り花の延命を図る技術として、繊維状活性炭を主成分とする切り花の鮮度保持剤が特許文献5に開示されている。
【0007】
また、特許文献6には、6-ベンジルアミノプリン、ミョウバン、フルクトース等を含む切り花延命剤が開示されており、特許文献7には、β−オリゴ糖、グルコース等を含む切り花延命剤が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献8には、糖、1−アミノシクロプロパン−1−カルボン酸合成阻害剤、抗菌剤、硫酸アルミニウム、ジカルボン酸を含む水性液体切り花保存用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−286802号公報
【特許文献2】特開平7−53301号公報
【特許文献3】特開平8−198703号公報
【特許文献4】特開平8−81301号公報
【特許文献5】特開平10−1401号公報
【特許文献6】特開2005−104961号公報
【特許文献7】特開2004−168695号公報
【特許文献8】特開平10−501553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の切り花延命剤よりも延命効果の高い、新規な切り花延命剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、切り花延命剤の延命効果を向上させるべく鋭意検討した結果、銀ゼオライトと粉末活性炭とを特定濃度で配合することにより、優れた効果が得られることを見出した。しかし、粉末活性炭を使用すると切り花がまれに黒ずむ場合があることが判明した。また、延命効果をより増強させる検討を行ったところ、銀ゼオライト、粒状活性炭、フルクトース、硫酸アルミニウム及び塩化カリウムを特定濃度で配合することにより、さらに優れた延命効果が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
具体的に、本発明は、
銀ゼオライトと、粒状活性炭と、フルクトースと、硫酸アルミニウムと、塩化カリウムとを含有する切り花延命剤であって、
銀ゼオライトの含有量は0.025重量%以上0.2重量%以下であり、
粒状活性炭の含有量は0.5重量%以上4.0重量%以下であり、
フルクトースの含有量は0.1重量%以上1.5重量%以下であり、
硫酸アルミニウムの含有量は0.01重量%以上0.05重量%以下であり、
塩化カリウムの含有量は0.01重量%以上0.08重量%以下であることを特徴とする切り花延命剤に関する。
【0013】
銀ゼオライトと粒状活性炭とを特定濃度で配合することにより、切り花の黒ずみを防止しつつ、水揚げを向上させ、雑菌の繁殖を抑制することが可能となる。ここで、銀ゼオライトの含有量を0.025重量%以上0.2重量%以下とした場合、粒状活性炭が0.5重量%未満では相乗効果が得られにくく、4.0重量%を超えても延命効果は頭打ちとなる。
【0014】
フルクトースは、切り花延命剤の有効成分として知られているが、フルクトースだけでは水が腐敗しやすくなるという問題が発生する。しかし、銀ゼオライト等の成分と組み合わせることにより、水の腐敗を防止しつつ、従来にはない優れた延命効果が発揮される。
【0015】
また、塩化カリウムについては、切り花延命剤の有効成分としては認識されていなかったが、銀ゼオライト等の成分と特定濃度で組み合わせることにより、優れた延命効果が発揮されることが確認された。本発明の切り花延命剤では、塩化カリウム濃度の含有量は0.01重量%以上0.08重量%以上であるが、夏場のように気温が30℃以上となるような場合には、0.01重量%以上0.06重量%以下とすることがより好ましい。
【0016】
なお、硫酸アルミニウムはミョウバンの成分であり、ミョウバンには菌の発生による代謝物等のコロイド粒子を凝集させる静菌剤としての効果があることが知られているが、ミョウバンを使用した場合には、葉に害が生じたり、花弁が黒ずむという悪影響が現れる。しかし、硫酸アルミニウムを使用した場合には、同程度の濃度としてもそのような悪影響は現れないことを、本発明者等は初めて見出した。
【発明の効果】
【0017】
本発明の切り花延命剤は、銀ゼオライト、繊維状活性炭、ミョウバン等を有効成分とする従来の切り花延命剤よりも、水揚げ改善効果及び雑菌抑制効果が高く、切り花をより長時間延命することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下の記載に限定されない。
【0019】
<1.予備的検討>
銀ゼオライトとして、株式会社シナネンゼオミック製AB10NCを使用した。また、粒状活性炭として、ヤシガラ活性炭(産栄サービス株式会社、SMX)を使用した。また、硫酸アルミニウム(16水和物)は試薬特級品を使用し、ミョウバンは和光純薬工業株式会社製の食品添加物を使用した。銀ゼオライト濃度0.01重量%、粒状活性炭濃度1重量%となるように精製水で調整した液体延命剤1と、銀ゼオライト濃度0.01重量%、粒状活性炭濃度1重量%、硫酸アルミニウム濃度200ppm(0.02重量%)となるように精製水で調整した液体延命剤2と、銀ゼオライト濃度0.01重量%、粒状活性炭濃度1重量%、ミョウバン濃度200ppm(0.02重量%)となるように精製水で調整した液体延命剤3とを準備した。
【0020】
切り花として、バラの切り花(ローテローゼ種、赤色)を使用し、500mL三角フラスコに2本ずつ差した。そして、上記3種類の液体延命剤500mLを注ぎ、室温で保存した。そして、保存開始時の花弁重量を100とし、試験終了時の花弁重量の相対値を算出した。
【0021】
液体延命剤1には、花茎重量の増減は認められなかった。一方、液体延命剤2は花茎重量が7%増加し、液体延命剤3は20%も減少した。花茎重量は、切り花の水分量に比例するため、液体延命剤2は液体延命剤1よりも延命効果が高く、液体延命剤3は液体延命剤1よりも延命効果が低いことが確認された。
【0022】
また、液体延命剤3について、ミョウバン濃度を400ppm以上に増やしたところ、600ppm以上で保存中に花弁の端が黒ずむという害が認められた。液体延命剤2についても硫酸アルミニウム濃度を400ppm以上に増やしたが、そのような現象は認められなかった。このため、ミョウバンは、銀ゼオライト及び粒状活性炭と組み合わせても、切り花延命効果が発揮されないことが確認された。
【0023】
<2.pH、電気伝導度及びATPの測定>
表1に示す分量で各試薬を500mLの精製水に添加し、切り花延命剤A〜Kをフラスコ内で調製した。比較対照として、日本国内で切り花延命剤として最も効果があると言われている市販品(組成不明)と水道水を使用した。
【0024】
Jの防腐剤としては、安息香酸ナトリウム0.025g及びデヒドロ酢酸ナトリウム0.01gを併用し、合計0.035gを精製水500mLに添加した。なお、フルクトース、塩化カリウム、安息香酸ナトリウム及びデヒドロ酢酸ナトリウムは試薬特級品を使用し、それ以外は上述した予備的検討と同じ試薬を使用した。
【0025】
切り花として、バラの切り花(ローテローゼ種、赤色)を使用し、500mL三角フラスコに2本ずつ差した。切り花延命剤A〜L及びM500mLを注ぎ、室温で保存した。そして、経時的にフラスコ内の切り花延命剤について、pH、電気伝導度(mS/cm)及び細菌数(個/mL)を経時的に測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
なお、pHはpHメーター、電気伝導度は伝導度計を用いて測定し、細菌数はATPテスタ(東亜ディーケーケー株式会社AF-70)を用いて測定した。それらの測定結果を、表2に示す。なお、同じ延命剤については、それぞれ2個の三角フラスコを準備し、二重に実験を行った。
【0028】
【表2】

【0029】
pHについては、ミョウバンを使用した切り花保存剤Kと、市販切り花延命剤である切り花保存剤LとがpH4台の酸性であった。それ以外はほぼ中性であり、pHの差異は認められなかった。
【0030】
電気伝導度については、切り花保存剤A〜Hの測定値を比較すると、無機イオン濃度が高い場合ほど測定値が高いことが確認された。
【0031】
一方、ATPについては、水道水500mLを用いた水道水Mが最も測定値が高く、その次に塩化カリウム1000ppm添加の切り花保存剤Gの測定値が高かった。逆にミョウバンを使用した切り花保存剤K、防腐剤を使用した切り花保存剤Jは測定値が低かった。塩化カリウムは100ppm以上800ppm以下の濃度で添加した場合には測定値が低かったが、1000ppm添加した切り花保存剤Gは、意外にも無添加の切り花保存剤Hよりも測定値が高かった。また、塩化カリウム50ppm添加した切り花保存剤Aでさえ、市販品である切り花保存剤Lよりも測定値が低かった。
【0032】
ATPは、細菌数を示す指標であり、細菌数が増加すれば切り花の導管がつまり吸水性が低下して早く萎れることになる。銀ゼオライト、粒状活性炭、フルクトース、硫酸アルミニウム及び塩化カリウムを組み合わせる場合、塩化カリウム濃度は100ppm以上800ppm以下に調整する必要があることが確認された。また、そのような組み合わせにより、市販品よりも細菌の繁殖が抑制されることも確認された。
【0033】
なお、表2に示した実験結果は、温度20℃、湿度50%のインキュベータ内で保存試験を行った場合であったが、夏場を想定して気温30℃、湿度50%のインキュベータ内で保存試験を行ったところ、塩化カリウム濃度800ppm以上では葉に小さな茶色の斑点が現れた。このため、本発明の切り花延命剤では、保存中の最高温度が30℃以上となる場合には、後述するように、塩化カリウム濃度を100ppm以上600ppm以下に調整することがより好ましいと判断された。
【0034】
切り花保存剤Lについてもインキュベータ内で保存試験を行ったところ、葉が20℃保存時よりも黒ずむという結果となった。濃度を1/2倍及び2倍したが、同様の結果となった。
【0035】
<3.切り花保存試験(1)>
上記1及び2と同じ条件で切り花を保存し、切り花の外観について、(1)花弁の萎れ、(2)花首の萎れ、(3)開花状態、(4)ブルーイング、(5)花弁の乾燥又は変色、(6)がく片又は葉の黄変という6項目について「A」〜「E」の5段階で評価した。評価は「A」→「E」の順に低くなる。また、(7)葉の障害については、葉に何らかの異常が発生するか否かを確認し、発生するが鑑賞に影響しない程度であれば「△」、鑑賞に影響する程度に至れば「×」と評価した。その結果を、表3に示す。
【0036】
なお、表4では、保存開始後7日目の観察において、「D」以下の判定が1つでもあるか、「C」判定が4個以上ある場合か、葉の障害で「×」判定が1つでもあれば、「観賞不可」と判断した(「●」を付記している)。
【0037】
【表3】

【0038】
保存開始2日目においては、切り花保存剤Jと水道水Mが鑑賞不可となったが、それ以外の試験サンプル間に有意な差は認められなかった。しかし、5日目では切り花保存剤G〜L及び水道水Mが「鑑賞不可」となり、7日目にはさらに切り花保存剤Aも鑑賞不可となった。一方、切り花保存剤B〜Fは、すべての項目で「B」以上の評価であり、葉の障害も認められなかった。
【0039】
このように、本発明の実施例である切り花延命剤B〜Fは、日本国内で最も切り花延命効果が高いと言われている切り花延命剤Kよりも、バラに対する延命効果が非常に高いことが確認された。
【0040】
<4.切り花の保存試験(2)>
表4に示すような切り花延命剤を調製し、切り花延命剤E、切り花延命剤F及び水道水Mと共に、上記3と同様の保存試験及び評価を行った。なお、バラは温度30℃、湿度50%のインキュベータ内で保存し、経時的に外観を評価した。その結果を、表5に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
30℃の恒温保存の場合、切り花保存剤E及びFでも保存5日目に鑑賞不可となった。しかし、切り花保存剤N〜Pは保存7日目でも鑑賞に支障がなく、非常に優れた保存効果を有することが確認された。30℃以上の保存条件では、細菌が非常に増殖しやすくなるが、本発明の切り花保存剤では、銀ゼオライト濃度を0.1重量%以上0.3重量%以下に調製することにより、1週間の保存後においても鑑賞に支障がないという非常に優れた保存効果を発揮した。なお、最高気温が30℃未満で保存する場合には、銀ゼオライトの含有量は0.025重量%以上0.2重量%以下で充分な保存効果を発揮する。
【0044】
<5.切り花の保存試験(3)>
切り花延命剤N〜Pは、30℃の保存条件で7日目にも鑑賞可能であったが、フルクトース濃度を高めることによってさらに延命効果を延長すべく、表6に示すような切り花延命剤を調製し、上記3と同様の保存試験及び評価を行った。なお、バラは温度20℃、湿度50%のインキュベータ内で保存し、経時的に外観を評価した。その結果を、表7に示す。
【0045】
【表6】

【0046】
【表7】

【0047】
切り花延命剤Q〜Vは、保存7日目でも鑑賞に全く支障がなかった。また、切り花延命剤S〜Uは、保存9日目であっても鑑賞に支障がなく、切り花に対する長期間の保存効果が確認された。
【0048】
延命剤において、フルクトース等の糖濃度を高めれば切り花の水持ちが良くなることが知られているが、細菌が繁殖しやすくなるため、単に延命剤の糖濃度を高めるだけでは、切り花延命効果を増強することは困難である。しかし、本発明の切り花保存剤では、銀ゼオライトによる殺菌効果のために、フルクトース濃度0.1重量%以上2.0重量%の範囲で20℃、7日間の保存効果が発揮された(フルクトース濃度0.1重量%でも0.3重量%と同様の効果が得られた)。
【0049】
さらにフルクトース濃度0.9重量%以上1.5重量%以下の範囲では、20℃、9日間という長期保存効果も発揮された。なお、切り花延命剤S〜Uは、ATP測定の結果、保存9日目でも細菌数は200個/mL未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の切り花延命剤は、安定性や保存性にも優れており、園芸分野において有用である。特に、夏場等、高い温度で切り花を保存する場合において、非常に優れた保存効果を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ゼオライトと、粒状活性炭と、フルクトースと、硫酸アルミニウムと、塩化カリウムとを含有する切り花延命剤であって、
銀ゼオライトの含有量は0.025重量%以上0.2重量%以下であり、
粒状活性炭の含有量は0.5重量%以上4.0重量%以下であり、
フルクトースの含有量は0.1重量%以上1.5重量%以下であり、
硫酸アルミニウムの含有量は0.01重量%以上0.05重量%以下であり、
塩化カリウムの含有量は0.01重量%以上0.08重量%以上であることを特徴とする切り花延命剤。