説明

切り貼り紙葉類の検出方法及び紙葉類検査装置

【課題】従来よりも精度よく切り貼り紙葉類を検出する。
【解決手段】互いに貼り合せられた2枚以上の紙葉類からなり、貼り合せ部位Lに厚み方向の段差Tが形成された切り貼り紙葉類Pを検出する紙葉類検査装置10であって、切り貼り紙葉類の表面の法線Hに対して傾斜した光線Ltを切り貼り紙葉類の表面に照射する光源18と、切り貼り紙葉類の表面から反射する光を受光する受光部20と、受光部が受光した光から、切り貼り紙葉類の画像を作成する画像作成部と、段差による光線の乱反射が画像中に含まれるか否かにより、切り貼り紙葉類を検出する検出部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2枚以上の紙葉類が貼り合せられた切り貼り紙葉類を検出するための、切り貼り紙葉類の検出方法及び紙葉類検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切断された2枚以上の紙葉類を、その平行な対向する2辺間に渡る切断面同士を突き合わせるようにして貼り合わせる場合がある。以下、このようにして貼り合わされた紙葉類を「切り貼り紙葉類」と称する。
【0003】
切り貼り紙葉類を、貼り合わされていない通常の紙葉類と区別するためには、従来、光透過型又は光反射型のイメージセンサや、金属ローラ等を用いた機械的な厚み検出装置等が用いられてきた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−303679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、厚み検出装置は、金属ローラ表面の寸法精度によっては、切り貼り紙葉類を検出できない場合があった。
【0006】
また、イメージセンサは、切り貼り紙葉類の接合部に隙間が存在している場合には、その隙間を画像として検出することが可能である。しかし、精度良く貼り合わされたために貼り合せの接合部に隙間が存在しない場合には、切り貼り紙葉類を検出することが難しかった。
【0007】
また、イメージセンサの場合には、貼り合せの接合部と、使用により生じた折れ皺とを区別することができなかった。
【0008】
発明者は鋭意検討の結果、表面に対して傾いた方向から切り貼り紙葉類に光を照射することで、上述した課題を解決できることに想到した。
【0009】
従って、この発明の課題は、従来よりも精度よく切り貼り紙葉類を検出することが可能な切り貼り紙葉類の検出方法及び紙葉類検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的の達成を図るために、この発明の切り貼り紙葉類の検出方法は、互いに貼り合せられた2枚以上の紙葉類からなり、貼り合せ部位に厚み方向の段差が形成された切り貼り紙葉類を検出する方法であって、切り貼り紙葉類の表面の法線に対して傾斜した光線を切り貼り紙葉類の表面に照射する第1工程と、切り貼り紙葉類の表面から反射する光を受光して、切り貼り紙葉類の画像を作成する第2工程と、段差による光線の乱反射が画像中に含まれるか否かにより、切り貼り紙葉類を検出する第3工程とを備える。
【0011】
この発明の切り貼り紙葉類の検出方法によれば、切り貼り紙葉類の表面に斜めに光線を照射し、切り貼り紙葉類の貼り合わせ部位に形成される段差からの乱反射を検出することで切り貼り紙葉類の切り貼りの有無を検出するので、従来よりもより正確に切り貼り紙葉類の切り貼りの有無を判定できる。
【0012】
上述した切り貼り紙葉類の検出方法において、光線は、法線から測った角度が、30°〜60°の角度から照射されることが好ましい。
【0013】
このように構成することにより、切り貼り紙葉類に光線を照射した際に、より効果的に乱反射を生じさせることができる。
【0014】
上述した切り貼り紙葉類の検出方法において、段差Tによる光線の乱反射が画像中に含まれるか否かを判定するに当たり、画像内において、画像を構成する画素の輝度を第1方向に沿って累積した輝度累積値の、第1方向に直交する第2方向に沿った分布である輝度累積値分布を、予め定められた閾値と比較することが好ましい。
【0015】
このように構成することにより、貼り合せ部位の段差が延在する方向によらず、段差を検出することができる。
【0016】
この発明の紙葉類検査装置は、互いに貼り合せられた2枚以上の紙葉類からなり、貼り合せ部位に厚み方向の段差が形成された切り貼り紙葉類を検出する紙葉類検査装置であって、切り貼り紙葉類の表面の法線に対して傾斜した光線を切り貼り紙葉類の表面に照射する光源と、切り貼り紙葉類の表面から反射する光を受光する受光部と、受光部が受光した光から、切り貼り紙葉類の画像を作成する画像作成部と、段差による光線の乱反射が画像中に含まれるか否かにより、切り貼り紙葉類を検出する検出部とを備える。
【0017】
上述の紙葉類検査装置において、光源は、光線を、法線から測った角度が、30°〜60°の角度から照射するのが好ましい。
【0018】
上述の紙葉類検査装置において、検出部が、画像内において、画像を構成する画素の輝度を第1方向に沿って累積した輝度累積値の、第1方向に直交する第2方向に沿った分布である輝度累積値分布を算出する輝度累積値分布算出部と、輝度累積値分布及び予め定められた閾値を比較する判定部とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、上述のように構成しているので、従来に比較してより正確に切り貼り紙葉類を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)は、切り貼り紙葉類の模式的な平面図である。(B)は、(A)のA−A線に沿った切断端面図である。
【図2】(A)は、切り貼り紙葉類の接合線付近を拡大して示す断面図である。(B)は、(A)の切り貼り紙葉類の平面図である。
【図3】(A)は、紙葉類検査装置の構成を概略的に示す平面図である。(B)は、紙葉類検査装置の構成を概略的に示す側面図である。
【図4】紙葉類検査装置のデータ処理部の構成を示す機能ブロック図である。
【図5】(A)は、切り貼り紙葉類の画像データGを示す模式図である。(B)は、輝度累積値分布の説明に供する模式図である。
【図6】(A)は、透明な粘着テープで貼り付けられた切り貼り紙葉類の接合線付近における拡大断面図である。(B)は、当該切り貼り紙葉類の画像データである。(C)は、当該切り貼り紙葉類の輝度累積値分布を示す模式図である。
【図7】(A)は、切り貼り紙葉類の接合線付近における拡大断面図である。(B)は、当該切り貼り紙葉類の画像データである。(C)は、当該切り貼り紙葉類の輝度累積値分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。なお、各図は、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係について、この発明が理解できる程度に概略的に示してある。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。また、各図において、共通する構成要素には同符号を付し、その説明を省略することもある。
【0022】
(切り貼り紙葉類について)
まず始めに、以下に説明する実施の形態の紙葉類検査装置の検査対象である切り貼り紙葉類について、図面を参照して説明する。
【0023】
図1(A)は、切り貼り紙葉類の模式的な平面図である。図1(B)は、図1(A)のA−A線に沿った切断端面図である。
【0024】
図1(A)及び(B)を参照すると、切り貼り紙葉類Pは、同一券種の2枚の紙葉部分としての第1部分P1及び第2部分P2が、互いの断面同士を当接させるように貼り合わされた矩形状の紙葉(例えば、紙幣)である。
【0025】
より詳細には、切り貼り紙葉類Pは、第1部分P1の断面P1aと、第2部分P2の断面P2aとを突き合せるように当接させ、この当接部で第1及び第2部分P1及びP2を貼り合わせることにより形成されている。ここで、互いに当接し合う断面P1a及びP2aにより形成される直線を接合線Lと称する。
【0026】
第1及び第2部分P1及びP2の貼り合わせ部位すなわち接合線Lには、厚み方向の段差Tが形成されている。つまり、第1部分P1の厚みが第2部分P2の厚みよりも僅かに大きい。これは、第1及び第2部分P1及びP2の使用状況の違いにより生じる厚みの局所的な変化のためである。この実施の形態では、接合線Lの位置で生じる厚み方向の段差Tは20μm以上の高さとする。
【0027】
接合線Lは、この例では、直線状であり、第1及び第2部分P1及びP2の短辺に平行に延在している。しかし、接合線Lは、直線状であれば、その延在方向に特に限定はない。例えば、接合線Lは、第1及び第2部分P1及びP2の短辺に対して傾いていてもよい。
【0028】
以上をまとめると、以下で説明する実施の形態の紙葉類検査装置は、(1)直線状の接合線Lを有し、及び(2)接合線Lに段差Tが形成されているような切り貼り紙葉を検査対象とする。
【0029】
続いて、図2(A)及び(B)を参照して、実施の形態の紙葉類検査装置が切り貼り紙葉類を検出する原理について簡単に説明する。
【0030】
図2(A)は、切り貼り紙葉類Pの接合線L付近を拡大して示す断面図である。図2(B)は、図2(A)の切り貼り紙葉類Pの平面図である。
【0031】
図2(A)には、後述する紙葉類検査装置10が紙葉類の切り貼りの有無を判定するために、切り貼り紙葉類Pに照射する光線Ltが描かれている。この光線Ltは、切り貼り紙葉類Pの表面PSの法線Hに対して傾斜している。つまり、光線Ltは、切り貼り紙葉類Pの表面PSに対して斜め方向から照射される。
【0032】
このような光線Ltが切り貼り紙葉類Pの表面に照射されると、接合線Lに形成された段差Tでは、光線Ltが乱反射される。その結果、接合線Lからの反射光の強度が、他の平坦な表面PSからの反射光の強度よりも弱くなる。従って、図2(A)及び(B)に示すような段差Tのある接合線Lは暗く見えることになる。
【0033】
この実施の形態の紙葉類検査装置は、この原理に基づいて、切り貼り紙葉類Pに形成されている接合線Lを検出して、紙葉類(以下の説明において、切り貼りされていない紙葉類も含むものとして、単に紙葉類Pともいう。)が切り貼りされているか否かの判定を行う。
【0034】
(紙葉類検査装置)
続いて、図3〜図5を参照して、この実施の形態の紙葉類検査装置について説明する。
図3(A)は、紙葉類検査装置の構成を概略的に示す平面図である。図3(B)は、紙葉類検査装置の構成を概略的に示す側面図である。図4は、紙葉類検査装置のデータ処理部の構成を示す機能ブロック図である。
【0035】
紙葉類検査装置10は、測定部12とデータ処理部14と入力部28と出力部30とから構成されている。
【0036】
測定部12は、いわゆる機械部品で主に構成されており、搬送部16と、光源18と、受光部20とを備える。
【0037】
搬送部16は、不図示の搬送機構と、平面状の搬送面を有する搬送台16aとを備えている。搬送部16は、搬送機構を動作させることにより、搬送台16aに載置された紙葉類Pを矢印Ar方向に、一定速度で搬送する。
【0038】
光源18は、可視光線を発光するランプであり、搬送部16により搬送される紙葉類Pの表面に、タイミングを合わせて測定用の光線Ltを照射する機能を有する。光源18から紙葉類Pの表面に照射される光線Ltは、紙葉類Pの表面の法線Hに対して傾斜している。つまり、光源18は、紙葉類Pから見たときに斜め上方の位置に配置されている。この実施の形態の場合では、光源18は、搬送台16aの右側面の上空に配置されている。
【0039】
光源18は、光源18から照射される光線Ltの、紙葉類Pの法線Hから測った照射角度θが、30°〜60°となるような位置に配置されることが好ましい。つまり、紙葉類Pに照射される光線Ltと、紙葉類Pの法線Hとのなす角度θを30°〜60°とすることが好ましい。光源18をこのような位置に配置することにより、切り貼り紙葉類Pの接合線Lに形成された段差Tにより光線Ltが効果的に乱反射され、結果として接合線Lを精度良く検出することができる。
【0040】
受光部20は、光源18から紙葉類Pに照射された光線Ltの反射光を受光して電子データへと変換し、データ処理部14に出力する機能を有する。受光部20は、好ましくは、例えばCCD(Charge Coupled Device)等の公知の受光素子が直線状に配列されている。この実施の形態では、受光部20の受光素子は、紙葉類Pの搬送方向Arに直交する方向に配置されていて、得られた画像の画素をそれぞれ構成している。この受光素子の配列長さは、紙葉類Pの、搬送方向Arに直交する方向の最大の長さ全体にわたる領域からの反射光を受光するのに十分な長さに設計してある。また、光源18から紙葉類Pに向けて照射される光線Ltを遮らないように、受光部20は、光源18と紙葉類Pとを結ぶ直線から外れた位置に配置されている。より具体的には、受光部20は、光源18よりも高い位置に配置されている。
【0041】
続いて、図4を参照して、データ処理部14の構成について説明する。
【0042】
データ処理部14は、入力部28から入力された券種の紙葉類Pに関して、受光部20から出力される電子データから、紙葉類Pの画像データGを作成するとともに、この画像データGを用いて、紙葉類Pが貼り合わされたものであるか否かを判定する機能を有する。そして、この判定結果は出力部30に出力される。
【0043】
データ処理部14は、ハードディスクドライブ等の外部記憶装置(不図示)から読み出されたプログラムを中央演算装置(CPU:不図示)が実行することにより実現される機能手段である。ここでCPUは、演算部36と一時記憶部34と制御部32とを備えていて、制御部32の制御の下、演算部36がプログラムを実行し、一時記憶部34にプログラムの実行に伴い発生する一時的な変数やその他のプログラムの実行に必要な情報を読み出し自在に記憶する。
【0044】
より詳細には、データ処理部14は、機能手段の画像作成部22と検出部24とを備え、さらに記憶部として後述する閾値を記憶する閾値記憶部26を備えている。
【0045】
画像作成部22には、受光部20から出力された輝度信号としての電子データが入力され、この電子データは、2次元直交座標系に基づく行列配列の画素データとして一時記憶部34に格納される。
【0046】
この電子データに基づいて、紙葉類Pの画像データGが作成される。この画像は、紙葉類Pに段差Tが存在しなければ、通常は明るさの濃淡で表され、搬送方向Arではほぼ一様であり、これに直交する方向では反射光の反射角に応じて明るさの濃度がほぼ一定の割合で減少しているが、その差は僅かであるため、全体にわたりほぼ均一とみなせる。しかしながら、段差Tが存在する場合には、段差Tに対応する箇所で搬送方向Arに直交する方向の濃度変化が目立つ、すなわち周囲と比べて明るさが低下した筋状の模様が生じる。なお、電子データから画像データGを作成する方法は、従来公知であるので、これ以上の説明を省略する。
【0047】
閾値記憶部26は、紙葉類Pが切り貼りされたものか否かを判定する際に用いる閾値を記憶しており、好ましくは、例えば、ROM(Read Only Memory)等として構成されている。
【0048】
検出部24は、更に、輝度累積値分布算出部24aと、判定部24bとを備えている。
【0049】
輝度累積値分布算出部24aは、搬送方向Arに直交する方向の輝度変化をより確実に取得するために、搬送方向Arに沿った、各配列での輝度の累積値を求める。従って、この輝度累積値分布算出部24aは、紙葉類Pの画像データG内において、画像データGを構成する画素の輝度を搬送方向Arである第1方向に沿って累積した輝度累積値の、第1方向に直交する第2方向に沿った分布である輝度累積値分布を算出する。
【0050】
以下、輝度累積値分布算出部24aの機能について、図5を参照して説明する。
【0051】
図5(A)は、切り貼り紙葉類の画像データGを示す模式図である。図5(B)は、輝度累積値分布の説明に供する模式図である。
【0052】
図5(A)には、画像作成部22により作成された切り貼り紙葉類Pの画像データGが示されている。この図5(A)に示す例の場合には、長方形の紙葉の一方の短辺を2次元直交座標系のY軸とし、かつ、一方の長辺をX軸として、画素配列の輝度データが一時記憶部34に格納されている。従って、Y軸は画素配列の行番号に対応し、X軸は列番号に対応する。上述のように、切り貼り紙葉類Pの接合線Lに形成される段差Tにより、光源18からの光線Ltが乱反射されるために、画像データG上では、接合線Lは暗く(低輝度に)見えている。
【0053】
この接合線Lによる輝度低下は、経験によれば、画素単位で見れば紙葉類Pの皺、破れ等による輝度低下と識別できない場合がある。これら他の要因と接合線Lによる輝度低下とを明確に区別するできるようにするために、輝度累積値分布算出部24aは、画像データG中に設定された第1方向Yに沿って並ぶ画素の輝度を、画像データGの1列の画素全部に渡って累積、すなわち加算して輝度累積値を作成する。他の要因による輝度低下は、この1列の一部の画像において生じており、これに対して接合線Lによる輝度低下は一列の全部の画素で生じているので、輝度累積値では両者の輝度低下の差は明確となる。そこで、この操作を第1方向Yに直交する第2方向Xに関して全ての列について行い、輝度累積値の第2方向Xに関する分布である輝度累積値分布Dを算出する。なお、この実施の形態では、長方形の紙葉の短辺を搬送方向Arの方向と平行にし、この搬送方向Arを第1方向と設定してある。
【0054】
このようにして得られた輝度累積値分布Dを図5(B)に示す。図5(B)において、横軸は、画像データGの第2方向Xに沿った距離を示し、及び、縦軸は、第1方向Yに沿った各画素列の輝度累積値を示す。
【0055】
図5(B)において、画像データGから得られた輝度累積値は、ほぼ一定の値を示す。ただし、接合線Lに対応する位置Aにおいては、接合線Lが低輝度であることから、輝度累積値が突出して小さい値を有するボトムBを取る。詳しくは後述するが、判定部24bにおいては、接合線Lを含む画素列の輝度累積値が突出して小さくなる性質を利用して、輝度累積値を、予め測定して読み出し自在に格納されている閾値Sと比較することにより、紙葉類Pが切り貼り紙葉類か否かを判定する。なお、この閾値Sは、検査対象とする紙葉類Pの券種ごとに、この紙葉類Pの搬送方向Ar及びこれに対する傾き(傾斜角αは0°〜90°)が定められれば、ルックアップテーブル形式で読み出しできる構成となっている。
【0056】
例えば、図5(A)に示した例の場合、XY軸の交点である座標原点Oを中心として、Y軸に対して傾斜角αだけ傾いた傾斜直線及びこれと平行な各傾斜直線が、このXY座標系に配列されたどの画素と交差しているかは予め求めることができるので、この傾斜直線の傾斜角αとこれら傾斜直線と交差するがその座標位置との関係をαの値ごとに予めROM格納しておく。このようにすれば、傾斜角αが決まれば、この傾斜角αに対応する傾斜直線上の画素の座標位置をROMから読み出し、これら座標位置に対応する画素の輝度データを一時記憶部34から読み出すことができる。
【0057】
従って、図5(A)にLで示すような、第1方向Yに平行な段差Lが存在する場合には、この輝度累積値分布算出部24aの出力データは図5(B)に示すような分布となる。この分布によれば、第2方向のAの位置で輝度累積値が落ち込んで値Bを有するが、その他はそれよりも高い一定の値を実質的に有している。次にこの結果が判定部24bに送られて、そこで閾値記憶部26からこの紙葉と同一券種であって、この紙葉の短辺と第1方向Yが平行な場合の閾値Sを読み出してきて、輝度累積値との比較を行い、その結果、S>Bであると判定されるとBが接合線に起因する値であると判定し、よって、A点が接合線Lの存在する位置であると判明する。
【0058】
ところで、紙葉類Pは、必ずしもその一辺が第1方向Yと平行に搬送部16に設置されるものではないし、或いは、短辺と第1方向Yとが平衡であっても、接合線Lが紙葉Pの一辺と平行に形成されている訳ではない。そのように、紙葉Pの一辺に対し接合線Lが傾斜している場合について説明する。この場合、輝度累積値分布算出部24aは、輝度累積値分布Dを、第1方向Yを段階的に180°まで回転させながら算出する。
【0059】
より詳細には、図5(A)に示すように、第1方向Yを、画像データGの原点Oの周りに微小角度φ(0°<φ≦90°)ずつ段階的に回転させて、新たな第1方向Y’(以下、「新第1方向Y’」と称する。)をそれぞれ設定する。すなわち、n段階で傾斜角αが90°になるとすると、傾斜角は、α=φ、2φ、・・・nφとなる。この傾斜角αについて、新第1方向に沿って並ぶ画素列について、輝度累積値を算出する。そして、この輝度累積値を、新第1方向Y’に直交する新たな第2方向X’(以下、「新第2方向X’」と称する。)に関して全ての列について行い、輝度累積値の新第2方向X’に関する分布である輝度累積値分布D’(不図示)を算出する。この場合、新第1方向Y’に沿って並ぶ画素列とは、例えば、傾斜角α=2φの場合には、原点Oを通り角度2φの直線及びこの直線に平行な他の直線の各々について、その直線が通過する全ての画素の集合を言う。この場合、隣接する直線間の間隔は1画素分、1/2画素分、1/3画素分等、任意好適な間隔を設定できる。
【0060】
この作業を、新第1方向Y’と元の第1方向Yとのなす角度が180°以上となるまで繰り返す。これにより、後述のように切り貼り紙葉類Pの接合線Lの延在する方向によらず、接合線Lを検出することができる。
【0061】
なお、第1方向Yを回転させる角度φは、2°〜5°程度の角度であることが好ましい。第1方向Yを2°〜5°ずつ段階的に回転させることにより、接合線Lの延在角度(傾斜角α)によらず、接合線Lを精度よく検出することができる。
【0062】
判定部24bは、上述のようにして作成された輝度累積値分布Dを、予め定められた閾値Sと比較して、接合線Lの有無を判定し、接合線Lの有無から、当該紙葉類Pが切り貼りされているか否かを判定する。
【0063】
より詳細には、判定部24bは、閾値記憶部26から、事前に設定されて記憶されている閾値Sを読み出す。そして、第1方向Yを段階的に回転させることで得られた複数の輝度累積値分布D及びD’と、閾値Sとを順々に比較していく。すなわち、判定部24bは、閾値記憶部26から読み出された閾値Sと輝度累積値分布D及びD’との比較を、順番に行って閾値Sより小さい最小値を判別し、内部に含まれる比較手段によって判別されたそれぞれの最小値の大小の比較を行って、最小値のうち最も小さい最小値を有する傾斜角αを決定する。
【0064】
比較の結果、図5(B)に示すように、輝度累積値が閾値Sよりも小さい領域(ボトムB)が見つかった場合、当該紙葉類Pが接合線Lを有する切り貼り紙葉類であると判定して出力部30へ出力する。逆に、全ての輝度累積値分布D及びD’において、輝度累積値が閾値Sよりも大きい場合には、当該紙葉類Pは、切り貼り紙葉類ではないと判定して出力部30へと出力する。なお、出力部30は、通常の画像表示装置、プリンタ、音声表示、その他任意好適な装置とすることができる。
【0065】
(切り貼り紙葉類の検出方法)
次に、図3〜図5を参照して、切り貼り紙葉類の検出方法について説明する。
【0066】
切り貼り紙葉類の検出方法は大きく第1〜第3工程に分かれている。以下、それぞれの工程について、より詳細に説明する。
【0067】
第1工程では、切り貼り紙葉類Pの表面の法線に対して傾斜した光線Ltを切り貼り紙葉類Pの表面に照射する。
【0068】
より詳細には、図3及び図4に示すように、紙葉類検査装置20の搬送台16aに測定すべき切り貼り紙葉類Pが位置決めされて載置されると、この載置を自動検出して、搬送機構が作動して、搬送台16a上の切り貼り紙葉類Pを矢印Ar方向に一定速度で搬送する。この搬送機構の作動開始及び停止は、従来と同様である。
【0069】
切り貼り紙葉類Pが光源18の位置に至ると、不図示の紙葉類センサが切り貼り紙葉類Pを検知して、光源18を点灯する。すなわち、切り貼り紙葉類Pの表面に対して傾いた位置に設けられた光源18から、光線Ltが切り貼り紙葉類Pに向けて照射される。
【0070】
第2工程では、切り貼り紙葉類の表面から反射する光を受光して、切り貼り紙葉類の画像を作成する。
【0071】
より詳細には、光源18から照射された光線Ltは、光源18の下を搬送される切り貼り紙葉類Pの表面で反射される。この反射光は、受光部20により受光される。上述のように受光部20は受光素子を備えている。よって、受光部20により受光された光は、電子データへと変換される。
【0072】
このように、切り貼り紙葉類Pの表面からの反射光は、受光部により電子データへと変換された後に、データ処理部14の画像作成部22へと出力される。画像作成部22は、入力された電子データに基づいて、図5(A)に示すような画像データGを作成する。
【0073】
第3工程では、切り貼り紙葉類Pの接合線Lに形成される段差Tによる光線Ltの乱反射が画像中に含まれるか否かにより、切り貼り紙葉類Pを検出する。
【0074】
より詳細には、上述のように、切り貼り紙葉類Pの接合線Lには、高さ数十μm程度の段差Tが形成される(図2(A)参照)。この段差Tに光源18からの光線Ltが照射されると、光線Ltの乱反射が生じ、段差Tからの反射光の強度が減少する。つまり、接合線Lに沿って反射光の強度が低くなる。その結果、得られた画像データG上では、接合線Lに対応する画素は、周囲の画素に比べて輝度が低く(暗く)なる。
【0075】
第3工程では、切り貼り紙葉類Pの画像データGでは、接合線Lに沿って画素の輝度が低い領域が形成されることに着目して切り貼り紙葉類Pを検出する。
【0076】
より具体的には、図4に示すように、検出部24の輝度累積値分布算出部24aが、図5(B)に示すような輝度累積値分布Dを作成して、CPUの一時記憶部34に記憶する。つまり、図5(A)に示すように、輝度累積値分布算出部24aは、一時記憶部34に記憶された画像データGを読み出して、第1方向Yに沿って並ぶ画素の輝度を1列に渡って累積した輝度累積値を、第1方向Yと直交する第2方向Xに関して求める。
【0077】
さらに、輝度累積値分布算出部24aは、図5(A)に示すように、第1方向Y及び第2方向Xを微小角度φずつ段階的に180°まで回転させた傾斜角αにおける新第1方向Y’及び新第2方向X’についても、これら新第1方向Y’に平行な直線状にある各画素につき、それぞれ輝度累積値分布D’を算出して記憶する。
【0078】
そして、検出部24の判定部24bが、このようにして得られた輝度累積値分布D及びD’について、輝度累積値と、閾値記憶部26から読み出された閾値Sとを比較する。そして、輝度累積値が閾値Sよりも小さい場合に、当該紙葉類Pを切り貼り紙葉類と判定する。逆に、全ての輝度累積値分布D及びD’において、輝度累積値が閾値Sよりも大きいときには、当該紙葉類Pは、切り貼り紙葉類ではないと判定する。
【0079】
このような検出法において、例えば、輝度累積値が閾値Sよりも小さい輝度累積値分布D及びD’が複数あった場合には、接合線Lが複数個所あることとなる。この点について以下に説明する。
【0080】
(具体例1)
次に、図6(A)〜(C)を参照して、切り貼り紙葉類の検出方法の具体例について説明する。具体例1は、透明な粘着テープにより貼り合せられた切り貼り紙葉類を検出するものである。
【0081】
図6(A)は、透明な粘着テープで貼り付けられた切り貼り紙葉類の接合線付近における拡大断面図である。図6(B)は、当該切り貼り紙葉類の画像データである。図6(C)は、当該切り貼り紙葉類の輝度累積値分布を示す模式図である。
【0082】
図6(A)を参照すると、切り貼り紙葉類Pは、表面に貼着された透明な粘着テープtpにより、第1部分P1と第2部分P2とが貼り合わされている。そのため、第1部分P1と第2部分P2との間の接合線Lに段差は形成されない。しかし、粘着テープtpの幅方向の両端に存在するエッジ部E及びEに、粘着テープtpの厚みに相当する段差が形成される。
【0083】
よって、この切り貼り紙葉類Pを上述の紙葉類検査装置10で測定すると、画像作成部22により、図6(B)で示すような画像データGが作成される。すなわち、切り貼り紙葉類Pでは、接合線Lに由来するライン状の低輝度領域は検出されないが、表面に貼着された粘着テープtpのエッジ部E及びEの段差に由来する2本のライン状の低輝度領域(黒線で示す。)L1及びL1が検出される。
【0084】
その結果、輝度累積値分布算出部24aは、図6(B)に示した第1方向Y及び第2方向Xに関して、図6(C)に示すような輝度累積値分布Dを作成する。図6(C)を参照すると、輝度累積値分布Dは、粘着テープtpのエッジ部E及びEに対応する位置にボトムB及びBを有している。このボトムB及びBの輝度累積値は、閾値Sよりも小さい値である。その結果、判定部24bは、切り貼り紙葉類Pが切り貼りされていると判定する。
【0085】
ボトムB及びBを検出する例は、テープtpで貼り付けた場合以外でも、現実に2箇所で接合した場合にも同様に適用できる。
【0086】
(具体例2)
次に、図7(A)〜(C)を参照して、切り貼り紙葉類の検出方法の具体例について説明する。具体例2は、使用により生じた折皺と切り貼り紙葉類の接合線とを分離して検出するものである。
【0087】
図7(A)は、切り貼り紙葉類の接合線付近における拡大断面図である。図7(B)は、当該切り貼り紙葉類の画像データである。図7(C)は、当該切り貼り紙葉類の輝度累積値分布を示す模式図である。
【0088】
図7(A)を参照すると、切り貼り紙葉類Pは、第1部分P1と第2部分P2とが接合線Lの位置で互いに貼り合わされている。接合線Lの位置には段差Tが形成されている。さらに、第1部分P1には、紙葉類の長期間の使用により生じた折皺Mが形成されているものとする。ただし、折皺Mの位置においては紙葉類の厚みの不連続な変化(段差)は生じないので、この折皺Mを矢印で示す。
【0089】
よって、この切り貼り紙葉類Pを上述の紙葉類検査装置10で測定すると、画像作成部22により、図7(B)で示すような画像データGが作成される。すなわち、切り貼り紙葉類Pでは、接合線Lに由来するライン状の低輝度領域L2が検出される。それに対して折皺Mにおいては、段差が存在しないので、光源18から照射された光線Ltの乱反射が発生しない。よって、画像データGにおいては、折皺Mの位置の輝度は、他の表面と同等の明るさとなる。
【0090】
その結果、輝度累積値分布算出部24aは、図7(B)に示した第1方向Y及び第2方向Xに関して、図7(C)に示すような輝度累積値分布Dを作成する。図7(C)を参照すると、輝度累積値分布Dは、接合線Lに存在する段差Tに由来するボトムBを有するが、折皺Mに対応する位置における輝度累積値にはボトムが存在しない。これは、折皺Mにおいて、切り貼り紙葉類Pに段差が存在しないためである。
【0091】
このように、紙葉類検査装置10は、切り貼り紙葉類Pの接合線Lと折皺Mとを分離して検出することができる。
【0092】
以上説明したように、この実施の形態の紙葉類検査装置及び切り貼り紙葉類の検出方法によれば、従来よりも精度よく切り貼り紙葉類を検出することができる。
【0093】
なお、上述した説明は、搬送部16に、長方形の紙葉類Pをその一辺を特に短辺を搬送方向と平行として載置した例につき説明したが、長辺を搬送方向と平行に載置しても、或いは、搬送方向に対して短辺或いは長辺を傾斜させて載置した場合にも、上述した実施の形態で説明したと同様な処理を行うことが可能であることは、当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0094】
10 紙葉類検査装置
12 測定部
14 データ処理部
16 搬送部
16a 搬送台
18 光源
20 受光部
22 画像作成部
24 検出部
24a 輝度累積値分布算出部
24b 判定部
26 閾値記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに貼り合せられた2枚以上の紙葉類からなり、貼り合せ部位に厚み方向の段差が形成された切り貼り紙葉類を検出する方法であって、
前記切り貼り紙葉類の表面の法線に対して傾斜した光線を当該切り貼り紙葉類の前記表面に照射する第1工程と、
前記切り貼り紙葉類の前記表面から反射する光を受光して、前記切り貼り紙葉類の画像を作成する第2工程と、
前記段差による前記光線の乱反射が前記画像中に含まれるか否かにより、切り貼り紙葉類を検出する第3工程とを備える
切り貼り紙葉類の検出方法。
【請求項2】
前記光線は、前記法線から測った角度が、30°〜60°の角度から照射されることを特徴とする請求項1に記載の切り貼り紙葉類の検出方法。
【請求項3】
前記段差による前記光線の乱反射が前記画像中に含まれるか否かを判定するに当たり、前記画像内において、画像を構成する画素の輝度を第1方向に沿って累積した輝度累積値の、前記第1方向に直交する第2方向に沿った分布である輝度累積値分布を、予め定められた閾値と比較することを特徴とする請求項1又は2に記載の切り貼り紙葉類の検出方法。
【請求項4】
互いに貼り合せられた2枚以上の紙葉類からなり、貼り合せ部位に厚み方向の段差が形成された切り貼り紙葉類を検出する紙葉類検査装置であって、
前記切り貼り紙葉類の表面の法線に対して傾斜した光線を当該切り貼り紙葉類の前記表面に照射する光源と、
前記切り貼り紙葉類の前記表面から反射する光を受光する受光部と、
該受光部が受光した光から、前記切り貼り紙葉類の画像を作成する画像作成部と、
前記段差による前記光線の乱反射が前記画像中に含まれるか否かにより、切り貼り紙葉類を検出する検出部とを備える紙葉類検査装置。
【請求項5】
前記光源は、前記光線を、前記法線から測った角度が、30°〜60°の角度から照射することを特徴とする請求項4に記載の紙葉類検査装置。
【請求項6】
前記検出部が、前記画像内において、前記画像を構成する画素の輝度を第1方向に沿って累積した輝度累積値の、前記第1方向に直交する第2方向に沿った分布である輝度累積値分布を算出する輝度累積値分布算出部と、前記輝度累積値分布及び予め定められた閾値を比較する判定部とを備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の紙葉類検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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